視点が変わって主人公パートです。
色々思いやっているが、中のどろどろには気付いちゃいない。
───大丈夫かな。
病室を離れ、街を歩きながら俺はそう考えていた。
頭の中にあるのは勿論、榮美里の事だ。
───普段のあいつなら、あんな風に俺を引き止めたりしない。
身体に異常な変化が起こり続けているが故か、それとも掛けられた術か何かに不安を煽る効果も備わっていたのか。
いつもの榮美里はあんな感じではない。いつもなら、挨拶と簡単なねぎらいの言葉だけでもっとあっさりと見送ってくれる。それが常だ。
それが、あんな甘える様に縋りついてくるなんて。
やっぱり相当調子が良くないんだな。
もしかしたら、俺に何かを仕掛ける為の媒体にさせられ、簡単に近付ける様に、離れ難い様にとあんな有様になっているのかもしれない。
そのどれにしても榮美里への負担は大きい。だから早く解決しなければ。
『なぜああなったのか』なんて、可能性は沢山ある。そして不安な心持ちなら、幾らでも湧いてくる。
それでも原因を突き止めたいのならば。その不安を掻い潜り、時としてその中から濾し出して、たったひとつの大本を探り当てなければならない。
───本当は、俺だって榮美里の側に居たい。
ずっと側に居て、何も怖くない、大丈夫だと抱きしめ、不安な心を宥めたい。
でもそれじゃ、何も解決出来ないから。
不安の根本を断ち、全てを健やかに戻そう。
そしてまた、今回も大丈夫だったぞ、『いつも』こうして帰って来ているだろう?と笑うんだ。
不安の根本が絶対にそこにあると、確認したいから。
だからこそ、俺の手で解決させたい。
歩く足を速め、街の中を進んだ。
今ここで走ろうが解決には直接繋がらない事が、何とももどかしかった。
どんな奴が榮美里に術を施したのか、目星は付いていた。
近頃、ここいらに出没する芸術家気取りである。
人間ではない事は確かだ。奴の手法には人間では用意出来ない薬草やら刃物やら、人間では刻めぬシジルなどが用いられていた。
そして、そんなご大層な物を用いてやる事は実に単純で、また胸糞悪い。
それはそいつの、芸術家気取りの趣向に基づいているのだろう───人体の半分を損壊し、もう半分をまた別の手法で損壊する。そしてそれをこれまた実に陳腐な方法で陳列する───例えば、半身を高温で焦がされ、もう片方を凍らせた上で、飾り立てた大型の水槽の中で『水葬』に処するなどのやり方で───巻き込まれた被害者は勿論、発見してしまった者としても全く迷惑な、そんな『作品』ばかりを作り続けている。
被害者は主に花街に生業を置くものだった。
奴は別に姿を隠しちゃいない。わざわざ被害者の居る店までやって来て、目立つ姿を見せびらかし、名刺を残して去ってゆく。そしてその数日後、被害者に手を掛ける。
格好こそ奇抜だが、傍目に見ている分にはよく居る風変わりなお客というだけだったので、却って無関係な客の中で埋没していたらしい。
そう言えばこんな物が、と手渡された被害者の遺留品の中に奴の名刺があったので、ようやく繋がりが見えてきたぐらい、奴はぱっとしなかった。
羽の右側は青々と光沢がある天然の物で、左側が錆びた粉や螺子が飛び出している、錆び付いた機械仕掛けの作り物。
そんなアンバランスでアシンメトリーな、蝶々の姿。
そんな名刺の右下にあるサイン代わりであろう蝶々の絵まで、風変わりは風変わりだが、何処か陳腐だと感じた。
だが奴は、どうやらその陳腐さを突破した様だ。
榮美里に用いたであろう手法は今までとは異なる。
狙う対象としても今までの範疇から微妙に外れている。今までこいつは、人間ばかりを狙っていた。
だがそれまでの『花街で働く者に客として姿を見せ、名刺を渡した上で数日後手に掛ける』という過程は一致している。
対象や趣向を変えたのも、手を掛けるのに別の手法を取ったのも、何か切っ掛けでもあったのだろうか───そんな事を考えなくもなかったが、すぐに頭から払い落した。
そんな事は、捕まえてから明らかにすればいい。
万が一奴が下手人でなかったとしても、それはそれで捕まえなくてはならない。
確保して下手人ではないと確実な証明を得、今までの罪に対する償いをさせ、そして今現在榮美里を苛んでいるのは何者なのか、次への糸口を得る為迅速に動かなくてはいけない。
だから、早く次を。
準備が整ったその時、俺の心はもうその場には居なかった。
身体よりもその先に、何処かにあるであろう真実を得ようと、足を踏み出していた。
俺が待っていたのは、犯人の捜索に必要な物品の完成だった。
『妖精の塗り薬』だ。本来は一部の妖精専用の、眼に擦り込んで使う薬だ。
彼らはこれを眼に塗り込んで人間の世界に居る。人間の多い世界で自分達の眼が穢れない様に、自分達の力が失われない様に保護をする為に。
だから、人間である俺が使える様に掛け合うのも相応に大変だった。しかし、彼らの同族が悪さをしていて人間や他の種族に迷惑が掛かっている事や、同族の悪さに基本不干渉で手を出さない、貸さないものなのは知っているが『同族らしからぬ』悪さをしている者には何かしらをしなくてはいけないのではないかと、そこを論点としてどうにか説得した。
だから、『彼らの真実を見る事の出来る薬』を特別に分けて貰えたのだ。
俺が追いかけている芸術家気取りは、妖精だ。
だからだろうか、同族である彼らの手法を用いると、存外簡単に奴を見つけられた。
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