ご高説を述べる芸術家気取りと、その末路。
心配は募る。
「あら、けっこう早く見つけてくれたのね」
奴はそう言った。
俺が自分を発見出来る手段に行き着き、こうして迫られている事も、全ての手を封じられた事も、何も気にしてはいない様子だった。
「やり方を変えたから気付かれにくいとおもったんだけど。それともやり方変えるために色々捨てたから、そっちが原因かしら」
眼前の芸術家気取りは、何がおかしいのかくすくすと笑い続ける。
なぜこんなことを、などと聞くまでもなく、奴は語り続けた。
「どうにもわたしは感性がにぶいらしくてね。仲間内でも上手くやっていけなかったのよ。だったらもっと別の場所でにぶい感性でも気の赴くままに、と自由になってみようと思って」
「でも、だめだったあ。どうも単純な視点でしか物を見る事が出来ないみたい。ちょっと長生きで魔法の力があるだけじゃ、そこらの五十年も生きていない人間にも勝てやしないわ」
───だってものごとは、きれいに半分こして分かる要素だけで成り立っている訳じゃないでしょう?
「もっと色んな要素でものごとは成り立っているのに、わたしにはそれが分からない。分からなくて、分けられなくって、悲しくて、どうしていいか迷っている時に、彼女に出会ったのよ」
───ほら『乳の出ない
「彼女の事情は、ちょっと探ればすぐに分かった。単純に二つに分かれているだけじゃない部分ですらも、見える気がした」
「彼女こそ、わたしの最高傑作になると思ったの。そのためなら何を捨てても、これから何が出来なくなってもかまわないと、そう感じた」
───だから、わたしのありったけを、すべてを捧げたの。
そこまで言い切ってしまってから、ふるりと芸術家気取りは頭を振った。
青く染められた右半分の長い前髪が柔らかく揺れ、地肌が見えるほどに刈り上げ人工的な鶏冠となった朱色の左半分が、奮い立つ様にわなないた。
と、ここまで滔々と御託を並べていた芸術家気取りが俺を見つめた。
わざとらしく首を捩じり見上げ、意味深長に眼を暗く輝かせて、ゆったりと笑った。
「ねえわたし、もっと早くあなたに逢いたかったわ」
「あなたは彼女よりも、ずっと色んなものを分かりやすく教えてくれる。きらめく宝石の表面よりも、豹や山猫の縞や斑点の細やかさよりも、ずっと丁寧に手ほどきしてくれる」
「どんな加工をすれば、なんて思うだけ不遜な、天然の芸術。見つめていると、色んな果てないアイディアが浮かんできそうよ」
でもわたしのことだからやっぱり手を加えたいと思うかもね。
でもどんな切り口でも、きっといいものが生み出せただろうから。
───あなたという存在は在るがまま、そのままで構築され続けている芸術なのだから。
芸術家気取りの妖精は、俺の眼をまっすぐ覗き込みながらそう囁き続けていた。
手段など潰えた上で俺に刃を向け、躱した刃が身体に突き刺さり地に伏そうとも、命の灯がかき消えるその時まで、語るのをやめなかった。
───そんなご高説なんて知らねえな。
俺は芸術など知らない。そんな物に成る気も無い。俺が成せるのは人ならざるものを討ち、その後始末をする事ぐらいだ。和睦や調停の為に動く事もあるがそれも、この芸術家気取りが語った『美』とは何の関係も無い。もっと単純で分かりやすい理と利に基づく行動だ。
───勝手に美だの芸術だの崇め奉った相手の腹を裂いて、御覧なさいあなたは価値があるのよ、素晴らしいのよ、と説いても、巻き込まれた当人にとっては単なる苦痛でしかないだろうに。
どうしたら奴の『最高傑作』が台無しに出来るのか、ついに分からず終いだった。
奴は勝手に酔いしれ勝手に納得したまま、死んでいった。
これで、榮美里に掛けられた術の詳細は分からず終いになった。
術者である妖精が斃れた今、術がどのような効果を及ぼすのかは分からない。
───彼女はわたしの人生を賭けた『最高傑作』よ。
他者の命を奪った上で損壊し自らの作品とした、芸術家気取りの笑い声が耳に残る。
『自分が死んだら術が解ける』なんて、変な美学の無い親切な仕様にしてくれていたらいいが───
近くに待機させていた部下に連絡を取り、現場の保全や証拠の収集を頼み、俺はその場を離れる事にした。
駆ける足を取り繕えもせず、街の中を進んだ。
禍根の有無を自分の目で確かめたい、これは対応した者の役目なのだからと、最悪の状況が浮かび不安がる気持ちをどうにか格好付けさせ前に進むので、精一杯だった。
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