討伐?回、『ウツツギ』サイドの話です。
人ともお仲間ともそう深い付き合いはしていなかった。
仲良くしたい気持ちはあるけど元からずぼらな性格だし、第一覚えに残らないありさまだから、元よりそんな物だと思っていた。
だから何かしらと関わる時も長くどうのということはなく、縁があったね、お互いさまといった感じだった。記憶に残らないいっかいこっきりの仲でも、関わりは関わりだもの。
時に関わった子らの縁者とお話ししたり。いい天気だねえとか、てて様が好きかいとか、これもいっかいこっきり、そのままどろんで終わるようなお話さ。
例外はヒツキ。ヒツキは何度でも思い出して話しかけてきた。旅先で出会った時も、こちらから声を掛けた時も、ぼんやりとした自分の記憶を探って思い出してくれた。何度名乗っても思い出してもらえないぼくの名に代わって『ウツツギ』という名をくれた。
「何度でも思い出すよ。きみとぼくとは縁があるのだもの」
そう言ってくれたっけ。
それでもずっと一緒に居る相手では無く、ぼく達は逢うことさえなければお互いに何をしているのかすら知らない間柄だった。ぼくに着いて来てくれようとしても、途中で分からなくなっちゃうんだっけ。いいやなんでも、同じことさ。
ヒツキと最近逢ったのは五年前と三か月前だった。
五年前のヒツキはいつもの通り。なにかちがうかも、なんて思って見てみると違ったのかもしれないけど、そんな『違い』があるとも思えない。
「きみの『遊び』は人を苦しめている」
それも、いつもの通り。これもいつ説かれても、分からない。
おどろいたのは最近、三か月前に出会った時だ。
生きている。
生きているのは元からだけれども、生気がある。
五年前に比べて、いや、ぼくらが出会った時と比べても目に光が宿り、ぴっかぴかになっている。
なんだろう、と不思議に思って少し探りを入れてみたりもしたな。ヒツキは何も話してはくれなかったけど、周りを洗ったら答えが見えてきた。
榮美里───乳の親であるその子とぼくは関わりが無かったし、ヒツキとのやり取りも知らないけれども、話している内に彼女もまた変わったらしいという話を聞いた。
榮美里という子のことはよく知らないよ。彼女の昔も、ちょっと周りで聞いて写しやらで見た限りだけれども。それでも全然違う、まるっきり変わってしまったと分かった。
───彼女もまた、目がぴっかぴかになっている。
彼女は元から生気がある子なのは分かる。だから、ぼくが思い込むほど、これはおかしな話じゃないのかもしれない。
けれどもあのヒツキが、あの路傍の石のように静かで、色めくものの無いヒツキの目を、これほどかがやかせるとは。
このふたりの目をぴっかぴかにしたのは。
───とある、人間の子だと聞いた。
どんな子なのだろうと、ぼくはそれとなく二人の周りに聞いてみた。
ヒツキは教えてくれない。隠しているんだ。けれども、ぼくがどれほど『嗅ぎ回ろう』とも、周りはそれを忘れてしまう。だから、都合がよかった。
その子は、『篝 六連』くんは、ヒツキの友達なのだと聞いた。
ヒツキはその人間の子にとっての『旧い友達』だった。何かあって離れ離れになったけど、三か月前、丁度ぼくらが逢ったあたりにまた出会えた。それが故にヒツキは彼から何かしらもらい、あんな風に目をかがやかせるようになったんだ。
今ではヒツキは、彼とその仲間と行動を共にしているそうだ。自らを「路傍の石」とし、ひとつところに留まらなかったヒツキが、そんな風に行いを変え、生き生きと動いている。
路傍の石を、忘れ去られた神を蘇らせる。活力を与え、使命と共に動かすもの。
───ぼくはそれを『奇跡』とよぶことにした。
そしてそれをヒツキにもたらしたであろう『六連くん』に、ぼくは興味を持った。
ぼくに奇跡をもたらす存在では無いのは知っている。けれども気になった。その子が、『六連くん』は何をしたのか。
興味を持ったからといって、別になにか特別なことをするわけじゃなかった。しなくてもぼくが普通に動いていたら、向こうから来てくれた。
まあ、少し例外はあったから、そこを伝って、かな?
頼まれて文に惑わしを込めるというのは苦など無かったけれども、力を貸してと乞われてみんなに引き留められるという事態は予想していなかったのだ。しかもぼくを引き止められる術などが、あるとは思わなかった。おかげで足止めを喰らい、ぼくはけむたい部屋の中で文を書き、他の何やらもおねがいされることとなった。けむいのもお願いもかまわないし、楽ではあったけれども。なんだかひとつところに居るのはおかしいなあ、などと考えていた。
そこを、六連くんは逃がしてくれたのだ。
あの場所から逃げた後、ぼくはしばらくふらふらしていた。
それは元からそうだけれども、不思議なことになにかしらやってみたいという気持ちが湧いていたんだ。
でも何をしていいか分からなかったから、いつもの様にみんなと遊ぶことにした。遊んでいたら、ヒツキと六連くんが来てくれた。
何をしようか、どんなことを聞こうか。それが思い付かないから逃げたんだ。
ヒツキは心配そうな顔をしていた。当たり前のことをあらためて聞いて。何かを確かめているようだった。ぼくもその気持ちは分かる。分からないことを知りたいんだよね。
どうやって聞けばいいんだろう。
どうすれば、ぼくにも分かる答えがもらえるんだろう。
そんなことを考えながら走っていると、ふらふらとトラックの前に歩く子を見かけたよ。まだまだ小さい子だ、あぶないね。
別に放っておいてもよかったんだけど、たまたま追い付く速度で走ってたから。
だから、ぼくはその子を突き飛ばした。
耳に聞こえぬ金属音と、ぐしゃりと響く音が聞こえたよ。
音のありかはぼくの腹から。突き飛ばされたあの子は向こうの歩道に。ちゃんと生きているよ、よかったね。
腹にまわりでざわざわ騒ぐ声がにじむ。あつまる中には制服姿の女の子たち。
あれ、珍しい子がいるね。あの子も学生なんだろうか。
騒ぐみんなを置いて引き返す。走っていてせき込む口からは血が垂れる。『垂れる』じゃないね、『流れる』だね。そのぐらいの量だった。
腹がやぶれた。多分もう助からない。けれどもそれなら、その前に気になる事を確かめたい。
今のぼくの頭の中にあるのは、たったひとつだった。
六連くん、きみはどんな奇跡を起こしたんだ。
奇跡を、ヒツキに起こした奇跡を、ぼくにも教えて。
───奇跡を、奇跡を見せて。
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