「ごちそうさまでした」
暖かい朝食を食べ終え、食器を台所に持っていき洗っていく。あれから時は少したち季節は暦上では冬真っ只中になっている。ただ冬真っ只中といってもヒューマノイド王国は1年を通してあまり気温の変化はなく過ごしやすい気候なのであまり変化は感じない。そんな一応は変化があったかもしれない季節に対し日常ではやはり変化がなく退屈だ。強いて変化を挙げるなら妹達が時折図書館に着いてくるくらいだろうか。まぁ本を読むことで妹達が知識をつけるのはいい事だと思うのでそこはプラスに考えよう。そこまで考えた辺りで食器が洗い終わったのでこの考えもやめにして、今日の予定について考える。
(今日は…宣伝か…次は何時になるか分からんし頑張ろ)
実は前から行っている宣伝について少し疑問に思っている事がある。それは客に異種族が、なかでも獣人が増えた気がするのだ。人間の多いヒューマノイド王国にも住人として或いは商人の出稼ぎとして訪れる異種族はいるが店に案内している最中に聞こえる話だとどうもその両方に当てはまらなそうで観光に来たというか何かを見に来た感じがするのだ。まぁ別に俺のやる事は変わらないから別に異種族でも構わないのだが。
そして次が分からないということ、少し大袈裟に言っているがこれは俺の学校がもうすぐ始まるということだ。学校が始まれば当然今よりも自由な時間が減る。俺としては別に宣伝をやってもいいのだがもしかしたら勉強が難しく家に帰った後や、休日は勉強しなければついていけないなんてことになったら宣伝なんかしてる場合じゃない。それに俺だって人間だから休みたい時は休みたいし図書館に行ったり妹達と遊んだりしたい。宣伝はこれ以降しないということはないと思うが確実に機会は減るだろう。
そんな事を考えつつ、宣伝に向けてテーブルを片付けて身だしなみを整えていく。考え事をしていたせいかいつもより少し早い時間に準備を終えてしまってやや暇を持て余しまう。手持ち無沙汰で開店を待っているとリヒトが話しかけてきた。
「何か考え事?」
「えぇ、学校の事とかを少し…」
「大丈夫、ルカなら上手くやれるよ」
「だといいんですけど」
「ちなみに将来の夢とかある?」
「今のところは騎士か冒険者にでもなれたらなと思ってます」
「それは…男の子には難しいんじゃない?お花屋さんとかはどう?」
どうやらリヒトとしては男の子には危ない事はして欲しくないという考えだろう。それにこの世界では男の聖力は少なく肉体的にも貧弱だ。戦うことなんて無理と思っているのだろう。リヒトの考えは何も間違っていない。だが俺はあの本が本当なら聖力は多いだろうしせっかくの異世界だから魔力(俺の場合は聖力だが)を使ってなんぼだと思っているし、ネットやゲームは全くなく漫画とかもないこの世界には正直退屈していたので花屋とかはあまりやりたくないのが本音だ。
「花屋も悪くないのですが、刺激が足りません」
「ふふっルカらしいね。ルカは聞き分けが良さそうに見えて頑固だから聞かないとは思っていたけど、まさか冒険者や騎士になりたいなんてね。今回に限ったことじゃないけどたまにルカが本当に男の子か疑う時があるよ」
この世界本来の男の子どもというのはもっと大人しく愛でられる存在である。それと照らし合わせると俺の今までの行動は常識外れだし、行動面だけでなく内面でも前世を含めた精神年齢では男の子なんて呼べないため、少しドキッとしてしまう。
「僕はれっきとした男の子ですよ」
自分で男の子と言うのは気が引けるが外見は子どもなので仕方ないしここで実は外見は男の子だけど内面は違うんです!なんていえないのでそう取り繕っておく。
「そうだね、可愛い可愛い僕の息子だ」
そう言ってリヒトは俺の頭に手を乗せ撫でてきた。リヒトに限った話じゃないが我が家は常識外れな俺でも否定せず伸び伸びやらせてくれており感謝しかない。声に出すのは恥ずかしいので心の中で礼を言う。一通り撫でた後、開店時間になったのでお互いに場所について俺は宣伝を始めた。
ーーー
宣伝を始めてしばらく時間は昼食時をやや過ぎたあたりか。ピークを過ぎ息をついているとコチラに近づく5人の獣人の姿が見えた。パーティだろうか。5人のうち4人は髪色や瞳の色、耳や尻尾の形は違うが全員同じ格好をしている。内容としては脇などの関節は守れてないがその分動きやすそうな銀色の軽装鎧に身を包み剣を携えているといった具合だ。身にまとっている用具はどれも真新しさはなく使い込まれており、戦い慣れしてそうな雰囲気をだしている。
そして先頭を歩いている唯一違う格好をした獣人は鎧の類は着用しておらず、上の方は黒のコートを羽織り首元からへその下あたりまでボタンを留めており白い肌がチラリと見える。下の方はこれまた黒色のショートパンツを履き黒とは対象的な真っ白な細い生足を惜しみもなく晒していて目に悪い、足にはやはり黒色のくるぶしのやや上まで覆うブーツを履いていた。
そんな黒1色のファッションに身を包む彼女自身はと言うと白に近いややグレーな髪を持ち髪留め等を使わずに腰あたりまで無造作に伸ばしている。頭と腰からは獣人特有の耳と尻尾があり、耳の形は三角で尻尾は長いため犬とかキツネかの獣人だろう。少なくともタヌキとかではない。スタイルはこの世界基準で言うとやや貧乳(地球で言うと美乳、或いは美巨乳)ではあるが身長はしっかり高くスラッとしており最低でも185はありそうで一言で言うとモデル体型と言った印象だ。顔は髪と同色の瞳を携えた優しそうだがそれ以外にも何かを感じる目、体型と同じくスラッとした鼻、小さく色素の薄い唇が綺麗にまとまっていた。
この世界に来てからというもの地球よりも人類の容姿は整っていると思っていたがこの人はそのなかでもかなり美人な部類だ。こんな顔で微笑まれたら地球の人間は男女問わず堕ちる人が続出だろう。そんな彼女をみて俺は
(おっぱいのついたイケメンってこーゆーのを言うんだろうな…かっこいい」
ついつい心の中で留めていたつもりの簡素が後半は口から出てしまった。余談だが俺はこういうイケメン女子がタイプなんだ、声が漏れても仕方ないだろう。声を聞いた彼女は膝を折り目を合わせて微笑みながら語りかけてくる。
「ふふっありがとう。男の子からそう言って貰えるなんて嬉しいよ」
女性にしては少し低音の声でそう言ってくる。微笑んだ顔も板についていた。
(おっといかんいかん感想なんか言ってる場合じゃない宣伝しないと)
「あの、お昼ご飯どうですか?」
「頂こうかな」
「ありがとうございます」
「あと確認なんだけど君がルカ君であってるよね?」
「あってますよ」
「撫でてもいいかい?」
「時間を取らなければ大丈夫ですよ」
初対面で名前がバレているがこれは別に今に始まった事じゃない。男の子が少ない世界で原初という特大すぎるオマケに初対面や顔見知り程度女性にも笑顔を見せたり手を握ってくれたりするということで俺の名前はここら辺では皆んなに覚えられたのだ。恐らくこの女性も何らかの理由でここに来た際にどこからか聞いたのだろう。2つ目の質問も前からされている。店への案内で手を繋いでくれるなら頭とかも撫でていいんじゃないかと考えた人がいて了承した所、それを見た周りの人が私も私もとなったのだ。こちらとしても気持ちいいのでWinWinだ。今となっては慣れた質問にいつも通り答えていく。
「絵で見たよりも何倍も可愛いし…神対応って噂も本当なのか…」
彼女な俯いて小声で何かを言っている。内容までは聞こえなかった。
「何か言いました?」
「いや何でもないよ」
顔をあげてそう言って手を伸ばしてきたので帽子をとる。頭に乗せられた手はわしゃわしゃと頭を撫でてきた。気持ちいーと思いながら彼女をみると彼女もどこか嬉しそうで尻尾もしっかり揺れている。
(イケメンなのに可愛いとか神かよ)
今度は口に出すことなく心に留める。そうして少し撫でてもらう時間が続いた。
「ありがとう、癒されたよ」
「いえいえ」(美人に撫でられてお礼言われるとか異世界サイコー!)
内心とは裏腹にすました顔で答えておく。それに対し彼女は1度笑ったあと先程とは変わって真剣な顔になった。
「それで、お店に行く前に聞きたいんだけど」
「はい、何でしょう」
「ルカ君はお腹に何か模様ある?」
「…え?」
店には何も関係ない質問をされ戸惑う。そもそも模様とはなんだ?リヒトにあるやつか?そんな事を考えていると…
「お前、5歳の子に何を聞いているんだ」
「なにかしてみろ、容赦しないぞ」
宣伝の時は見守るスタンスを貫く護衛の人が彼女にやや強い口調で言い放った。
(なんだ?答えようによってはマズイ質問なのかこれ?)
突然の状況に戸惑っている間も会話は進む。
「いや、やましい事は何もしないよ。ただ君たちも分かると思うが大切なことなんだ。邪魔しないで欲しいな」
そこで会話は終わりと言った感じで彼女は護衛の方から俺へ向き直す。護衛の人は止めようとするが間に彼女の後ろにいた人達が入ったためそれは叶わない。護衛の人同士の間に不穏な空気が流れたので慌てて止める。
「ちょ、ちょっと怖いですよやめてください。えっと…お腹の模様ですね…どんな模様を指しているか分かんないですけど多分ないと思います。」
それを聞いた途端獣人の彼女は顔を明るくした。
「そうか、良かったよ。これで万が一にでもあると言われたらどうしようかと思ったよ」
全く質問の意図が理解出来ないでいると彼女は俺の肩に手を置きグレーの瞳でこちらを捉えとんでもない事を言ってきた。
「ルカ君…いや、ルカ…君にはボクの、このセレスティアの将来のお婿さんとしてお付き合いをして欲しい」
「…は?」
急に言われた言葉に俺はそれ以外の反応を返せなかった。