「ごちそうさまでした」
昼食を食べ終える。食事で出された物を食べ切るという事はいつも通りなのだが相席している人物、料理の内容はいつも通りではない。
「味の方はどうだい?」
「とてもおいしかったです」
「ふふっ、それは良かった」
目の前で優しいような怪しいような微笑みを浮かべるグレーの獣人。そう、俺はセレスさんと何度目かのご飯を食べているのである。
彼女とご飯を食べるに至った経緯だが、まず彼女はあの冗談か本気か計りかねる発言の後は店に案内をしていった。そこでご飯を食べた後に俺の両親を呼んで俺を婿にしたいという事を伝えたそうだ。地球感覚でいけば5歳相手に何を言ってるのかと話は終いだが、ここは異世界で地球の常識は通じない。その証拠に両親は無理やりではなく2人が納得しているなら止めはしないとあっさり承諾した。
俺と両親への挨拶を済ませたら早速行動してきた。まずこのトットレー市にある屋敷を買ったのだ。買った理由を問えば物理的に俺との距離が一国を隔てているのは今後が不利だからというのとダンジョンだと言う。なぜダンジョンがここで出てくるのかと言うと彼女の商会が関わってくる。彼女の商会は主に魔道具を扱っている商会なのだそうだ。魔道具はモンスターのドロップ品から造られ、そのモンスターを効率良く狩れるのは当然ダンジョンだ。ダンジョン自体は別に獣王国もこの国にもあるのだが実はダンジョンによってゴーレムが沸きやすい、スライムが沸きやすい等偏りがある。そしてその偏りがこの国のダンジョンの方が彼女の商会にとって都合が良かったらしく、以前言っていたこの国に行く必要があるというのはこの事らしい。
以上の事から屋敷を買った彼女は商会の拠点としダンジョンに潜ってモンスターを狩っていてその日々の合間に今回のような俺との時間を作っているらしい。今回のこの昼食もモンスターのドロップ素材の肉を持ち帰って調理させたのだと言う。モンスターの素材の中でも肉は牙や毛皮、コアと違って食べ物である以上、魔道具には出来ないし保存も大変と聞くのでとても美味しいのだが頂いて申し訳なく感じる。
「あの…」
「なんだい?」
「毎回食事をごちそうしてもらってますが、僕はなにも返せてません。何か出来ることとかないですか?」
すると彼女は少し驚いて目を見開いたあと笑ってきた。
「コレはボクがしたくてしている事さ。ルカは何も気にしなくていい」
傍にあったコップから水を飲み続けて言う。
「それに君は何も返せてないと言うが、そんなことはない。こうして一緒に食事をして話すだけでもダンジョンで頑張る甲斐があるというものさ」
「そうでしょうか」
「そうさ」
まるで当たり前のように言ってくる。いや、実際にこの世界では俺に限らずまだ家族でない男と女の食事というのはこれが基本なのだろう。地球感覚だと凄い違和感があるが受け入れるしかない…しかないのだが…やはり何も返せないのは申し訳なく思う。
「どうやら納得いってないみたいだね」
「顔にでてました?」
「うん、分かりやすくね。まぁもし納得いかないなら、そうだねぇ…ハグでもさせて貰えると嬉しいな、なんてね」
先程とは違って少し意地悪な笑みを浮かべてくる。ハグなんて出来ないと思っているのだろう。
(個人的にはハグくらい別に減るもんじゃないし寧ろ役得で良いんだけどそんなものでお返しになるのだろうか…なるんだろうな、この世界だと、確実に)
割と投げやりにそう結論付けた俺はセレスの提案に乗ることにした。席をたち両手を広げセレスの元へ向かっていく。当のセレスは固まっていた。
「しないんですか?」
声をかけると我に帰ったようで
「あ、あぁするとも…だが、いいのかい?」
「何がですか?」
「いや、ルカが良いなら良いんだ。気が変わらないうちにやろう」
そう言うとセレスは俺の脇の下に手を通して持ち上げると対面するようにその白い太ももの上に乗せてきた。少しの間目が合う。やっぱりキレイな顔だなと思っていると恐る恐るといった感じで手を背中と後頭部に回して抱き寄せてきた。それにより俺の顔が彼女の谷間に埋もれる。ふにゅっと形を変えつつ顔を包むそれは服越しでも分かる柔らかさを持っていた。
(うぉ、柔らか…)
その柔らかさを享受していると背中に何かが巻き付く感覚、多分尻尾だろう。巻き付く感覚とほぼ同時に頭の上に顎が乗せられた。全身がセレスに包まれていて女性特有の柔らかさが胸以外からも伝わってくる。感触以外にも人肌特有の暖かさやふわりとお日様の匂いを感じたあたりで遅まきながら恥ずかしさが込み上げてくる。
(なんだよこれ…めちゃくちゃ気持ちいいけど思ったより全然恥ずかしいじゃないか。それに…勃ってきた…)
まだ多分バレてはないがこのペースだとバレるのは時間の問題なので別の事を考える。
(俺は石、俺は石、何をされても動じない)
俺が理性と本能で戦いをしているとセレスが口を開いてきた。
「苦しかったりしない?」
「大丈夫です、むしろ気持ちいいです」
「そうか、良かった。もう少し続けても?」
「良いですよ」
それから俺達は無言でしばらく抱き合っていた。
「そろそろ終わりにしようか」
「はい」
お互い手を離し、膝から降りる。理性との戦いに目をつぶれば実に良い時間だった。
「それじゃ、またね」
「はい、失礼します」
俺はセレスさんに見送られ屋敷を後にしていった。
ーーー
「ふぅ…」
小さい男の子の見送りを終えて一息つく。
「本当に出来るなんてね…」
冗談で提案したハグだったが、彼はあっさり受け入れた。元より他の男よりも許容範囲が広い事は知っていたのだがハグもOKだとは…
ハグの感触を思い出していく。小さな体、ルカの匂い、感触、体温全てが鮮明に思い出せてまたその全てがセレスを満たしていた。無論だがこの世界の女は夫や息子など近しい者でないとハグはおろか、触れるのも難しい。セレスも例外ではなく人生においてハグなんて事はルカが初めてであった。
(下着を変えないと…けどその前に…)
初めての男性とのハグ。この世界における女性が情欲を抱くには充分すぎる理由であり、見送りを終えたセレスは振り返り自身の屋敷へ足早に戻っていった後何をするのかは明白であった。