「どういたしまして、それじゃ後ろ向いて」
そう言って手を背中に当ててくる医者。直後に何やら暖かさと上手く言えない感覚がほんの少しだけくる。コレが先程2人を襲っていた感覚なのだろうと思うのだが何と言うか…
(別に悶える程じゃないだろ)
これに尽きる。まぁくすぐったくないなら別に変に動いてしまう心配も無いため良い事だと思うのでそのままの姿勢でい続ける。
「………あー…」
2人ならもう終わっただろう時間が経過したあたりで医者が微妙な顔をする。何かあったのだろうか。
「どうかしました?」
「…一応確認なんだけど、測定器に手をかざしてみて」
言われた通り手をかざしてみる。しかし黒い箱のようなものは何の反応もない。
「だよね…参ったな」
何やら困り顔を浮かべる医者。何かあったとみて良さそうだ。
「何かあったんですか?」
「多分だけど…君、僕より聖力が多いと思う。それも…圧倒的に」
「あぁ…」
なんだその事か、それは別に今知った事ではないので個人的に驚きはない。ただどうして測定もしてないのに多いという目処をつけたのか気になる。
「どうして多いと思ったんですか?」
「そうだね…説明が少し長くて難しいんだけど…」
「魔力及び聖力を生産し扱う器官っていうのは早くて3歳頃、遅くても5歳になるとできるんだ。ただ5歳になったとして器官は出来てるんだけど魔力は生産されない。それには魔力は過度に使用しすぎると最悪死んでしまうから若く身体のコントロールが未熟なうちはセーブしてるという理由があるんだ。そのセーブは大体12歳あたりまで続いてるよ。ここまで大丈夫?」
「はい」
医者は返答に満足げに頷くと続けて言う。
「だけど12歳まで魔力、魔道具が一切使えないっていうのは現代において余りに不便だ。それに魔力を使用し過ぎて死ぬケースもあるが日常での使用は5歳でも余裕なんだ。だからそこでこの器官を勘違いさせる」
「勘違い?」
「そう、勘違い。方法としては今やったようにその器官に魔力を流して刺激するんだ。そうすることで器官は自力で魔力を生産したと勘違いしてセーブをやめて機能しだす。ただここで問題があってね、それは当たり前だけど器官には個人差があるという事。これの何が問題かっていうと刺激に足る魔力量が人によって異なるんだ。大きい物を動かすには大きい力がいるでしょ?あれと一緒で器官の扱える魔力量が大きくなる程刺激に必要な魔力は大きくなるんだ」
「つまり器官を機能させるには魔力を流す人の方が魔力が多くないと無理という事ですか?」
「いや、必ずしもそうとは限らないよ。あくまで"刺激"すればいいわけだかね。さっきの物で例えると"動かす"必要はあるけど"持ち上げる"必要はない。引きずっても押しても何でもいいのさ。ただ現状はその引きずるすらも出来てないんだけどね」
「流す側の人が魔力が少なかったとしてどれくらいの差までなら刺激出来るんですか?」
「そうだね…大体1.2倍くらいなら刺激出来ると思うよ」
「因みに先生はどれくらいの聖力なんですか?」
「僕は31だよ。これでも大分多い方なんだけどね…」
今の情報でいくと先生は37まで刺激出来るという事だから俺はそれより多いという事になる。
「とまぁ大体1.2倍までなら刺激できるにも関わらずそれすらも出来てないのが君の聖力が多いんじゃないかと判断した理由だよ」
「なるほど」
そこまで説明し終えた医者はまた微妙な顔に戻り提案してきた。
「僕がルカ君の聖力を測定させる事が出来ない以上、測定をするには僕より聖力が多い医者を後日呼んでやってもらうか、今ここで女性の先生にやってもらうかだけど…男性の方がいい―」
「―今ここでお願いします」
俺は遮ってお願いした。今の説明を聞いたのと俺の状況を鑑みるに男では俺を測定させるのは無理だろう。それに俺は別に女性に対して何とも思わないし結果も今ここでやる方が早いし男性を呼ぶメリットなどない。
「大丈夫?」
「はい」
「そう、なら先生にお願いしてくるから待っててね」
医者が仕切りを出て行ってしまう。程なくしてあのメディクという人を連れてきた。
「あなたがルカ君ですね、聖力が先生より多いと聞きました」
「そうみたいです、お願いします」
説明の時はいきなりの聖力測定というワードに気がいってしまい容姿をきにしていなかったが、淡々と喋る彼女を改めて見ると美人だなと思う。ボブ程度の長さの髪をハーフアップに纏めており髪色は全体的に白色なのだが触覚の部分に清涼感のある水色が混ざっている。瞳は混ざった水色をしていて、つり目というか切れ長な目や先程の喋り方も相まってクールな印象を受ける。それ以外はもはやこの世界の美人のデフォルトと言ってもいい色素が薄く綺麗な肌を持っていて小さめの鼻と怒っているわけでは無いだろうが固く横一文字に結ばれた口はいい意味で人形を思わせ、先程のクールな印象とマッチしている。身体の方もこの世界特有の高身長と好スタイルをパンツスタイルの全体的に白いサーコートで覆って足には白との対比が映える黒のブーツを履いておりいかにも騎士といった様だ。中でも下が素晴らしくパンツスタイル故に布地を窮屈そうに押し上げる太ももの輪郭が顕になっていてあれに挟まれてみたいと思わずにはいられない。
「始める前に少し聞きたいんですが」
「何がです?」
「噂の頭を撫でたり、手を握ったりしても良いと言うのは本当ですか?」
「本当ですよ」
「今しても良いですか」
「いいですよ」
「では…おぉ…」
しばらく撫でらたり、手をぷにぷにされる。やはり美人に撫でられるというのは気持ちが良い。表情を伺うと僅かに口角が上がり笑っている。クールな印象を受ける彼女の笑った顔はギャップも相まって凄まじい破壊力だ。
「メディクさん、そろそろ」
「これは失礼しました」
先程男性の先生が苦言を呈すと、切り替えて椅子に座り先程と同じ様に手を当ててくる。何やら息を飲むような音が聞こえたが気の所為だろう。やはり襲ってくるのは暖かさと何とも言えない感覚だが先程と違い、襲ってくる暖かさと感覚が次第に強くなってる気がする…
段々と強くなる感覚だが流される時は動かないと言われた以上、動き回りたい気持ちを我慢する。しかしやはり我慢の限界というものはある為モジモジと少し動かして気を紛らわしておく。
「…んっ…はぁ…」
「動かないで」
「…は…ぃ…すいませっ…ん」
ダメだ…動かまいと思っても身体は跳ねてしまうし声も漏れてしまう。それに声に漏れなくても暖かさからかくすぐったさからか息遣いも荒くなる。これは確かに2人がああなるのも納得だ。
「終わりです。ごちs…お疲れ様でした」
永遠は言い過ぎかもしれないがかなり長く感じた独特な感覚との戦いの終わりを告げられた俺は安堵した。
「さ、手をかざして下さい」
そう指示するメディクさんの顔は何処か紅潮しており先程のクールな印象が僅かに崩れた感じがするがそれよりも測定だ。俺は箱に手をかざす。
「ははっ…そりゃ僕じゃ無理だよ」
「魔力を流してる時から中々底が見えないと思ってましたが…コレは…」
480
それが箱に書かれた数字であり、医者は何処か諦めを、メディクさんは先程まで頬を紅潮させてたにも関わらずもう真面目な顔つきに戻っている。
「原初だと聖力が多いとかあるのかな…」
「私が読んだ物語に出てくる原初の子は1つを除いて皆容姿が違うだけで他は一緒だったと記憶してます…」
2人のリアクションから俺の聖力が多いことは確実だろうが俺はこの数値が騎士団や冒険者の上の方でやっていけるかはまだ分かっていない。丁度騎士団所属のメディクさんがいるんだ。聞くタイミングとしてはベストだろう。
「この数値は騎士隊や冒険者としてやっていけます?」
「冒険者は勿論のこと騎士団としても可能です…少なくとも魔力…あ、いや聖力の分野は心配しなくて良いでしょう。というか騎士隊志望なのですか?」
「今の所冒険者か騎士隊を考えています」
「それなら是非騎士隊に来てください。戦闘だけでなく私のように医療方面でも大丈夫です。というかお願いします。あんな女しかいない職場に原初がいるとか最高です」
「いえ、僕は戦闘職になりたくて…」
「そうですか…まぁいいです。1つ提案があるのですが」
「何です?」
「騎士団について興味があるなら今度一緒に食事でもしませんか。そこで騎士団についてある程度ではありますが話せる事があると思います」
現役騎士団員の話だ、願ってもない。
「お願いします」
「では後日場所と日時を伝えますのでそのつもりで」
そう言うとメディクさんはこの場を後にした。