「では、失礼します」
「はい、お気をつけて」
そう言って両親に挨拶を終えたメディクさんは立ち去っていった。
(ここからだな…)
俺はこれから起こるであろ話し合いの準備をする。
「ルカ」
俺の名を呼ぶエリスの声、普段は優しい声音なのだが今回に限っては真面目な声音だ。ただそれもこの世界の常識とこれから話すであろうテーマを照らし合わせると仕方ないのかなと感じる。
「はい」
声の方向に行くとそこにはエリス、リヒト、リサの3人が並んでテーブルに座っている。テーブルの近くまでいくとエリスが座るようゼスチャーをしてきたので3人と対面するように腰をおろすとすかさずエリスは口を開いた。
「ルカの夢ってまだ変わらない?」
「はい、僕は騎士団、冒険者、或いはその他の戦闘が出来る仕事に就きたいと思っています」
敢えて具体的な名前を出さず聞いてきたエリスに対し俺はハッキリと騎士団、冒険者と言うワードを出し自分の意見を述べる。
「そう…」
エリスは何とも言えない反応をした後、意を決した様に話し始める。
「私はね、ルカがもっと小さい頃から騎士団や冒険者が夢だって知ってたわ。ただそれ以前に男であるから、聖力が足りなくて諦めるだろうと思ってたし、正直それでいいと思ってた…だけど違った。実際は女顔負けの聖力を持っていて冒険者どころか騎士団でさえ狙える数値だった。とてもいい事だとは思うわ。けれど…けれどね、私はルカにその夢は諦めて欲しいと思うの」
子どもに夢を諦めて欲しい何て本当は言いたくなかったのだろう。エリスの表情は決して明るくはなかった。
そもそも男女比からかはたまた男の性格からか男は女に守られるものという認識であるこの世界では男は花屋でもやるのが普通であり、戦いに身を投じたいというのは異質で、この世界の男女の格差的にも前世で女性が軍や自衛隊等の組織に入りたいと言うより意味合いが深刻になるのは理解出来る。
また、男女を抜きにしても何かしらと戦う以上死ぬ可能性があるという事だ。親としては子どもに安全に過ごして欲しいのだろう。俺は親という立場になったことはないがこれも理解出来る。
勿論他にも理由はあるだろう。そしてそのどれもがこの世界においては常識的で客観的に正しいのだろう。一方俺の理由はどうだろうか。
ネット等の娯楽がなく男が大事に育てられるのが退屈でそして魔力というものが前世になくて興味があるから。簡単に言うとこんな感じだ。何と身勝手なのだろうか。
ただ身勝手だろうと何だろうと最終的には本人が決める事は変わりない。もちろん本人の努力でどうにもならない事もあるのは分かっているが今回はどうにもならないとは思えない。
「嫌です」
よっていくらエリスの言ってることが理解出来ようとも俺のスタンスは変わらず再度、ハッキリと俺の意見を言う。
「そう…」
数年間暮らしいていてある程度中身を知っているためエリスは俺の返答に驚いた様子は見せず、リヒトも同様だった。そんな中リサが口を開く。
「ダンジョンと言うのは時に理不尽です。いつも通りのメンバー、ルートであってもダンジョンがいつも通りという事は決してありません。数が多かったり、特別強い個体がいたり他にも様々な要因があります。きっとルカが想像してない事が起こるでしょう。そしてそれに対処しなければ死にます。かつての私の仲間のように…それでも行きたいのですか?」
「行きたいです。例え理不尽な目に合おうとも」
「…まぁそうですよね。私達もかつてはそうでしたから」
リサさんは笑いながら、しかしどこか悲しそうな顔で言ってきた。
「ルカは何でそこまでして戦いたいのかな」
ここまで沈黙を貫いていたリヒトがいつも通りの優しい声で聞いてきた。
ふと考える。俺が親の反対を押し切り、世間の常識から逸脱してまで戦いたい理由。正直なところこの見た目なら愛されるだけで暮らすことも可能だ。なのにそれをしない理由。出てきた答えは大層なものではなく至極単純なものだった。
「物語の主人公がカッコイイと思ったんです。1人或いは圧倒的少数で多大な敵に挑み、勝利する。憧れたんです。自分も、そうなれたらと、そう、思ったんです。ただそれだけです」
この世界は前世と違いネット等がない代わりに魔力や聖力があり魔物がいる。そんな世界に来たら前世の漫画や小説、ゲームやアニメのような活躍がしたいに決まってる。
「ふふっ、まるで若い時の私を見てるようだわ。頑固な所とか特に…だけどそうね、主人公に憧れるのは分かるわ」
「私も分かります。カッコイイですよね」
「カッコイイのは分かるかな。なりたいとは思えないけど…」
3人が一頻り思い思いの反応をするとエリスが再度口を開いた。
「ただそれとこれとは話が別な事は事実だし、かと言ってこのままだと話が平行線なのも事実。そこで勝負をしましょう」
「内容は?」
「簡単よ。第1学校卒業までに私に勝つこと。コレが出来たら私は何も言わないけど出来なかったら諦めてもらうわ。但し私はルカに何も教えないし、リサに聞くのも禁止。自力で何とかしなさい。先に言うけどこれ以上譲歩はしないから。子どもで大人には勝てないなんて言ってもダンジョンではそれ以上に理不尽な事が起こるからこの程度対処出来なかったら行かせないわ」
「セレスさんやメディクさんに聞くのはダメでしょうか」
「私達に頼ってなかったら誰でもいいわ」
ふむ、俺が店の手伝いをしたいと言った時とは話が違うため条件付きではあるがOKが出ただけ良いだろう。それに勝負の内容も実にわかりやすい。
「他には何かルールはありますか?」
「そうね…勝負をしすぎて店が回らないと困るから勝負はお互いに休日かつ挑める回数は休日1日につき1回って所ね。あとは強くなるならセレスさんや今来たメディクさんを頼っても良いけどダンジョンはダメ。例え低階層でもアリーナでも、付き添いがいても入るのは禁止。他にもあるかもしれないけどパッと思いつくのはこれくらいね。他にも思いついたら後で言うわ」
「了解です」
「もしかしたらルカは聖騎士になれるかもね」
話がまとまるとリヒトがそう言ってきた。
「聖騎士とは何です?」
「あれ、知らないのかい?図書館に行ってるからもう知ってると思ったんだけど」
「おとぎ話にルカ様の様な原初の男がいて、彼が女顔負けの強さを持って魔物の群れから国を救った話があるんです。勿論国はその騎士を称え、2つ名を与えるんですがその際男が扱う魔力とは異なる力である聖力から聖騎士と言う名を与えたんですよ」
リサが簡潔に補足してくれた。
なるほど、おとぎ話なため真偽は分からないがそんな人物がいたのか…だが目標には丁度いいかもしれないな。
決意した俺は家族に向かって宣言する。
「俺、聖騎士になります」