「その子が強くなりたいっていう子かい?」
戸が開かれそこにいたのはミルクティーベージュの髪をポニーテールに纏め金の双眸を携えた女性だった。
この人がメディクさんの師にあたるヴィジルさんという人なのだろう。
顔はもはやこの世界のお約束で偏差値が高い。目はメディクさんと同じようにどちらかと言うとつり目よりではあるのだが抱く印象はまるで違う。
メディクさんは人形のようなクールさが印象的なのに対して彼女はどこか活発的なイタズラっ子のような印象を受ける。そう思う理由は表情だろう。口を一文字に閉ざしたメディクさんとは違いニヤリと笑みを浮かべている。
スタイルの方はと言うと身長も体の起伏も大きくなく彼女が実はオロではなく地球出身と言われても違和感がないくらいのサイズ感でどこか懐かしさすら覚えた。
「ルカです。よろしくお願いします」
とりあえず名前だけ伝えるとヴィジルさんは俺をまじまじと見てきて一言。
「…最初に原初の男がくるってメディクから聞いた時にはメディクがおかしくなったのかと思ったが、本当だとはね」
「して、ルカ。いきなりで悪いんだけどどーして強くなりたいんだい?あんたは男でしかも原初だ。別に強くなる必要なんてカケラもないと思うんだがね」
金の双眸がコチラを見据えてくる。先程はただ外見を見てただけな気がするが今回は何処か違う。目を細めて奥というか底を見てくるようなとにかく何かあるのを感じ、体が少し強ばった。
「ししょ―」
「―少し静かにしてくれ、大事な事なんだ」
メディクさんもその子どもに向けるような態度では無い事を察して助け舟を出そうとするがヴィジルさんはそれを許さない。
言葉通りに受け取るならただ単に理由を聞かれているだけだ。しかし先程感じた様にただ聞いている気がしない。実は理由はどうでもよくて本当に聞きたいのは覚悟とか?それとももっと別の何か?或いは理由も何かも両方聞いているのか?
何を聞かれているのか少し考えを巡らせてみたが答えが分かるはずもない。とりあえず言葉通りに受け取り理由を答える事にするが俺の理由は単純すぎてヴィジルさんのお眼鏡にかなうのか少し不安だ。
「物語の主人公に対する憧れです。自分もあんな風になれたらなと」
「…それだけかい?」
「それだけです」
「死ぬかもしれないんだよ?」
「家族にも言われました。でも諦める気はありません」
魔法を行使し敵を殲滅する。前世はこれに対してゲームや読み物等の娯楽でしか触れられなかったが今世では直に触れられる。やってみたいと思ってしまう。
それに俺は勝負が好きだ。もっと言うと勝ちが好きだ。負けたら死ぬほど悔しいが勝てばえもいえない充足感を覚える。勝負というものに最早依存しているとも言える。
こうなったのは先天的な性格か前世の境遇故か分からないがそんな依存症の俺が今世でやっと得られる勝負できる場所。しかもそれが前世のスポーツとか一種のルールで競うのではなく、どちらが単純に強いかというもっと原始的で美しいものなのだから俺からしてみれば理想でしかない。
それに既に1度死んだ命だ。なのに俺は生きている。次死んでも転生出来るかもしれない。転生出来なかったら出来なかったで勝負して死んだのならそれでいい。何を恐れる必要があるか。
「………アンタ、狂ってるね」
それだけ言うとヴィジルさんは後ろを指さす。
「向こうへいきな、訓練所さ」
「良かったですね。合格みたいですよ」
メディクさんがこちらに向き一言。どうやら合格したらしい。合格の基準はさっぱり分からないが。まぁ合格は合格ださっさと行こう。
――――――
「ふぅ、行ったね。それでメディクや」
黒色の髪を持った子どもが消えたのを確認する。コレであの子には聞かれまい。ここいらで1つ愛弟子に1つ助言しておくとしよう。
「お前あの子が欲しいんだろ?」
「えぇ、そうですけど」
「なら、今以上に鍛錬に励むことだね。男の方が女より強い家庭なんて笑いものも良いとこだよ」
「…は?」
いつも表情の堅いコイツが何を言ってるんだと言うような顔をしている。まぁそうだろう実際私もさっき見たものは実は幻と言われても全然納得出来る。というかそうであって欲しい。
「おや?聞こえなかったかい?それとも私の眼と指導の腕が信じられないのかい?」
「…いえ、肝に銘じます」
言ってる内容は冗談みたいだが真剣な雰囲気を察したメディクがいつもの表情に戻りそう言った。
「なら良かった。それじゃ行くとするかあんまりあの子を待たせても良くないしね」
「そうですね」
歩きながらふと考える。私は今から教える子の行く末がどうなるのか恐ろしくて仕方がない。一体どんなバケモノになるのだろうか。あそこまで素養を持った子は滅多に見れない。ただそんな内心の大半を恐ろしさが占める中でどこか1部分だけ楽しみにしている自分もいる。
(…全く私は救えない女だね)
ただ、本当に救えないのはあの子の方なのかもしれない。行き過ぎた力は時に人を狂わせる事がある。あの子があの狂った物語の主人公様にならないといいが…
「…願わくばあの子の行く末に幸あらんことを」
「何か言いました?」
「なんでもないよ」