指を刺された方向に進んでいくとそこは家の裏手で壁に囲まれた広場があった。広場はかなり広く前世で言うとサッカーコートの半分あるくらいだろうか。
そして広場にはいくつかの柱が目につく。柱はそれぞれ色が違い赤、青、水、緑、茶、黄、白、紫で等間隔に並べられそして少し離れた黒が1つだけ置いてある。合計9色9本で太さは竹三本分、高さはこの世界の成人女性程度の大きさだ。打ち込みにでも使うのだろうか。だがそうすると色分けする理由は何かあるのだろうか。
「待たせたね」
何やかんや考えていると後ろからヴィジルさんとメディクさんが歩いてきた。
「いえ、全然。それで俺はどうすればいいですか?」
「兎にも角にもまずは魔力操作を覚えてもらう。魔力操作は魔法や身体強化をする上で必要になるから外せないね」
そう言うとヴィジルさんは懐から既視感のある黒い四角い箱のようなものを取り出し見せてくる。
「これって聖力の測定に使った魔道具じゃないですか?」
「いや、違う。確かに見た目は似てるかもしれないがこれは魔力器官の大きさを測るものじゃなくて魔力の出力を測るものさ」
「測定の様に手をかざすだけで魔力を測ってくれるものではなく実際に魔力を流さないとその道具は反応しないんですよ」
メディクさんが補足しつつヴィジルさんも続けていく。
「いくら魔力器官が優れていても、魔力操作が疎かになると一度に有効活用出来る魔力が限定されて足元をすくわれる可能性がある。例えば魔力量が200ある奴と100ある奴がいたとしよう。どっちが勝つと思う?」
「前者が勝つと思います」
「普通はそうだ。だが前者は魔力操作が苦手で一度に操れる魔力量は50しかない。一方後者は魔力操作が得意で90まで魔力を操れるとしよう。すると魔力の差は200:100でも出力差は50:90になる。ここでもう一度聞こう。どっちが勝つと思う?」
「…後者だと思います」
「そうだろ?ま、実戦だと魔力操作で負けていても魔力総量で勝ってるなら戦闘を長期化させてガス欠を狙うとか魔力だけで勝負せずとも地形を使うとか色々な回答があるが…とりあえず短期的な魔力勝負で見たら不利がつくことには変わりないんだ、魔力量が勝ってるのにだぞ?」
つまり魔力操作ができないと俺の転生時の聖力ボーナスの良さが充分に発揮できないという事になるのか。
「それにこの出力差が意味するのは単なる数字だけではありません。さっき師匠が言ったように魔力操作は魔法の発動にも必要になり、上位の魔法は効果が強力な代わりに多大な魔力を要求してきます。自分は魔力量的には余裕があるが出力的には唱えられないのに対し、相手は魔力操作が上手いから魔力量はギリギリでも上位魔法を唱えてくるなんてことになったらそれは魔力量での勝ちというアドバンテージを放棄してるのと違いはないです」
「魔力操作は戦闘における手札の質、量のその両方に強く関わってくる。いくらルカが5歳でもここまで言えば重要性が分かるんじゃないかい?」
「ええ、ハッキリと」
「なら早速取り掛かるとしよう、ほら」
ヴィジルさんが四角い箱を放り投げてくるのでキャッチする。するといつの間にかメディクさんが背後に回っていた。
「それを持ったまま動かないで下さい」
そう言うと俺の背中に手を触れてくる。丁度測定の時のような形になり、すぐに手を当てられた胸を中心から身体の末端まで暖かい何かが流れてくる感覚がした。測定の時はくすぐったくて変な感じがしたが今回はただ湯加減が良い風呂に使ってる様な独特な感覚がする。
「これが身体に魔力が流れる感覚です。この感覚を覚えて今私が流してる魔力に逆らわずルカも聖力を流して下さい」
「魔力器官は心臓の近くにあるからそこを意識してみろ」
ヴィジルさんの補足に従い目を閉じ集中してみると、メディクさんの手との接触部分とは別に暖かい感覚がある。恐らくこれが魔力器官なのだろう。とりあえずコレを意識しつつメディクさんが流してる魔力に合わせるようにやってみる。
「…力みすぎだ。聖力が器官から出て魔道具に到達する前に霧散している。もう少し力を抜け」
魔力や聖力なんてもの前世で扱ってないかどうにも制御が難しい。言われてみて力みで身体が肩が上がる程度には強ばっているのに気づく。まぁ初めはこんなものだろう。深呼吸してやり直しだ。
…………
……
…
「……やり直します」
「…ルカ、そろそろ……」
「やり直します」
聖力の流れる独特な感覚と奮闘してしばらく経った。来た時は澄み渡っていた天色の天井が今では大部分が雲に覆われまた色も黄金色へと変わっている。
今の所箱に数字は浮かんでこない。つまり箱に聖力が到達する前に霧散しているということだ。結果だけ見れば進捗なしだが俺はやる前よりは感覚はおぼろげながら感覚は掴んできていた。勿論、やる前よりはマシ程度だろうが肘位までは聖力を流すことが出来た。
メディクさんが言ったように鍛錬はまた後日に回すのも良い。集中力は最初より落ちている。ただそうすると感覚を少しとは言え忘れてしまう。あと少しで出来そうなのだ。意地になるのは良くないが、あと少しで出来そうなのだ。
目を閉じ深呼吸し、フッっと勢い良く息を吐き出す。目を開けると天井は朱色へと変わり、尚も雲に覆われ塗りつぶされそうになっていた。もうじき暗くなる。エリス達が心配するだろう。挑戦できるのはあと1回って所か…
やってやる
1日でやり切ろうとするのは愚かな事かもしれない。だが俺の夢は強くなる事なんだ。少なくとも俺の求める強さはこんな所で躓いてしまうような脆いものじゃない。
再度目を閉じ集中する。メディクさんも合わせて魔力を流してくれた。
魔力が流れて身体全体に広がる
魔力器官の位置を把握
魔力に合わせ聖力を流す
魔力器官から肩へ
肩から肘へ
肘から…
「……ッ」
聖力がブレそうになる。落ち着け焦るな。一度肘あたりで聖力を停滞させよう。
途中で気づいた事だが聖力は魔力器官から離れるにつれコントロールが難しくなる。ここから先は今までより繊細な作業が必要になるという事だ。ゆっくりでいい。ゆっくりと…
肘から前腕へ…
前腕から手首へ…
手首から手の平へ…
手の平から指先へ…
指先から箱へ…
ピピッ
手に持つ箱から音が鳴る。手の中を覗き込むと黒いそれには27という数字が点滅していた。
Q:1日で魔道具に魔力(聖力)を流すのって凄いの?
A:教えられる時期にもよるが5歳だとすごいを通り越して異質
理由:日常で指から火をだしたりしている成人済みの女性であれば魔力の流れる感覚は何となく分かるからすぐに出来るから別にすごくない。
でも子どもの場合は魔力操作は慣れれば誰でも出来る事とは言えそもそも魔力が流れる感覚を知ってから全く時間が経ってないから難しい。
ただルカは知っての通り身体は5歳でも中身はそうではないので前世の経験を活かして失敗しても理由を考えたり、ヴィジルらのアドバイスをすぐに取り入れるとまではいかなくても意識したり、魔力の流れる感覚を本当の5歳児よりは早く掴めたりと色々状況が違うというのはある。
とは言えルカはルカで前世にない聖力の感覚を1日覚えたしよく頑張ってる方です。
問題なのは周りの2人でルカのそんな状況なんて知る由もないから5歳の子どもがたった1日で聖力の流れる感覚を覚えて自分で魔道具に聖力流したセンスがヤベー奴にしか見えてないことです。