「おいしいですよ~」
大通りに俺の声が響く。相変わらず俺に気づいている人は固まっていて、俺の声で気づいた人はというとこちらを向き驚いている。
このままでは埒が明かないと思ったので笑顔で1番近くにいた女性に声をかける。
「あの、お腹すいてませんか?」
「え、あ、うん。空いてるけど…」
「エリス食堂どうですか?おいしいですよ!」
「じゃ、じゃあそこで頂こうかな」
「ありがとうございます!」
しかしいきなり男の子に話しかけられてより驚いているのだろうか女性は動かない。
(仕方ない)
「こちらです」
「あ、手やわらか…」
手を取って店に案内する。女性はもはや考えるのをやめ男の子に手を握って貰っているというのを手をにぎにぎして堪能していた。
「1名様ご案内です」
「いらっしゃいませー」
ドアを開け女性を中に入れた後は先程の位置に戻る。すると通りにいた人が何人も集まってきた。
「さっきの見間違いじゃなかった!」
「え、男の子だよね?!」
「黒だ…ホントに黒色っていたんだ…」
「私も店で食べるぞ!だから私も手を握って案内してくれ!」
「結婚しよ」
どうやら案内している間に事態を飲み込むことに成功したらしい。そんな女性達は俺の近くに来るなりそれぞれ思い思いのことを喋っていた。
「正真正銘黒髪黒目の男ですよー、はいご案内ですね。こちらへどうぞ」
「よっしゃー!」
投げかけられた質問にできる限り応えつつ、案内してと頼んできた女性の手を取り案内する。「私も…」と言っていたあたり先程のやり取りといい店の位置といい把握していたと思うのだが別に手を繋ぐのはこちらとしてもやぶさかではない。
「あ、ずる!」
「次私ね!」
「は?私でしょ?」
2人目のやり取りまで見て手を繋いで貰えると察した女性達は我先にと案内を望む。案内出来るのは嬉しいのだが別に喧嘩して欲しい訳ではない。そんな中ふと思いつく。
「喧嘩する人は案内しませんよ?案内して欲しかったら並んで待ってて下さいね」
「「「はい!」」」
きちんと整列し出した女性達を横目で見つつ今度こそ2人目を案内していく。戻って来ると列はさっきより増えている気がする。これもはやご飯と言うより俺の握手兼案内目当てじゃなかろうか…まぁ店に貢献するのなら関係ないと開き直ることにし、次々と案内していく。
「はい」
「あっ…」
「はい」
「ふひ、ふひひっ」
「はい」
「手ぇちっさ、ぷにぷにだー」
....
ご飯時を過ぎ店に案内する女性達を一通り案内して一息ついた時、とある2人組の女性が目に入る。2人とも裾が太ももあたりまであるゆったりとした白シャツに緑のケープを上から重ね、これまたゆったりとした白スボンにダックビルシューズという変わった格好だ。行商人か何かなのだろうか。だが女性達に興味を抱いたのはそこではない。その2人組みは他の女性と違い一方はグレーオオカミのような耳とフサフサとしたしっぽを生やし、もう一方は薄緑の猫っぽい耳に細いしっぽを生やしていたのだ。
(お、おぉぉ!獣人だあれ!初めて見た!尻尾とか耳とかさわってみてー!)
案内の事とかが頭から抜け、目の前にいるThe異世界な存在をまじまじと見てしまう。すると、流石に露骨な視線に気づいたのか分からないが向こうもこちらを向き、そしてほんの少し驚いた表情を見せる。
まじまじと見ていたため、目が合って気まずく感じる。そこでご飯時を過ぎていたのは承知ではあるが気まずさを誤魔化すため近づいて声をかける。
「あの、お腹すいてませんか?良ければエリス食堂でいかがですか?」
「まさか本当にいるとは…」
「これは確かにチャンスだわ…」
「?何か言いました?」
「なんでもない、こっちの話だ。えっと…ご飯だったね。そうだね昼ご飯も食べてないし頂こうかな」
グレーの女性が応える。
「ありがとうございます!では」
さっきまでと同じように手を出す。2人がそれを握ったのを確認した後歩き出す。余談だが2人ともしっぽが握る前と比べて明らかに揺れていた。カワイイ。
それ以降は普通に何事もなく案内して終わり、昼は一旦休憩の流れとなった。しばらくして夕食の時間帯になりまた営業を再開し昼と同じ様な流れで案内していく。昼みたいに獣人とかまだ見ぬ龍人などの異種族の姿を見ることは叶わなかった。
家に帰り一息つく。案内だけとは言え結構疲れた。
「ふぅ」
「お疲れ様。今日はルカのおかげでたくさんのお客さんに来て貰えたわ」
「今日僕はミカとシノン見てたから手伝えてないけど2階まで騒がしかったよ」
「流石ですねルカ様」
「私は客の中の誰かが何かしでかすのではと気が気出なかったです」
「手握って貰えるの羨ましかった」
護衛の1人がそんな事を言って笑いが起きる。客で握ったのに護衛では握るのがイヤということも無いので握ってやる。するともう1人の護衛も握ってと言い出し更に笑いが起きる。
その後もしばらく適当な雑談をし遅めの夕食と風呂を済ませ、今までの味気ない日々では得られない達成感とともに眠りについた。