最初のダンジョンダイブから一週間が経過した。この一週間の間に、二十四クラスある新一年生全員が、『
その間、ファーストダイブをするクラス以外は『
一般科目の座学だけを受けていると、全寮制なだけの普通の学生生活に見えるが、日によっては座学は座学でも『迷宮概論』『サバイバル基本』『側図学』といった迷宮探索のための専門科目も加わるため、やはり普通の学校ではないのだと、認識できる。
ちなみに、専門科目に関しては、格闘術、各種武器術、身体強化訓練など、座学がほぼなく、体育館、武道館、グラウンドで実際に体を動かす科目も多数存在する。
専門科目の数は膨大で、生徒はその中から自分にあった科目を一定数選択する。途中で、他の科目に切り替えるのもありだ。毎年、何種類もの各種武器術に顔を出し、どれを選ぶか悩み続ける生徒が何人かいるらしい。
そんな、少し一般的ではない部分も見え隠れするものの、大部分は普通の学校に見える貴重な一週間を終えた健太は、一人学食で頭を抱えていた。
「やばい。クラスの交友関係が固まりつつある」
朝と夜はともかく、昼はパン派な
(盲点だったなあ。そうだよな。ダンジョンダイブのパーティーってそのまま、学校における仲間グループなんだよ)
現在、生徒でごった返している正午過ぎの学食で、一人さみしくボッチ飯をしていることで分かる通り、現在健太は一年
根本的な理由は、健太の陰キャでオタクな性格なのだろうが、直接的な原因はやはり、ダンジョンダイブ用のパーティー結成を拒否していることだろう。
豊葦原学園は、全てダンジョンダイブを中心に回っている。そのため、一緒にダンジョンダイブを行うパーティーメンバーが、そのままそれ以外の学校生活の友人グループとなるのが一般的だ。特に、一年の初期は、教室の枠を超えたパーティーや学年の枠を超えたパーティー結成が皆無のため、休み時間や昼食時間は、パーティー単位で固まることが多い。
そこに、ファーストダイブをソロで敢行し、今後もしばらくはソロでやっていくつもりの健太がいると、必然的に休み時間も、昼食時間もソロ――ボッチとなってしまう。
チート能力を所有し、その能力を人に教えるつもりがない健太が、ダンジョンダイブでソロを選ぶのは正しい選択だが、その結果が今のボッチ状態と言える。
これで健太にもう少し社交性や人懐っこさ、もしくは図々しさがあれば、教室の適当な奴に声をかけて、「ダンジョンはソロ」「教室ではこいつらと一緒」という立場を確保できたのだろうが、それを健太に望むのは、かなりの無理筋だ。
健太自身、そんな難易度の高いトークに挑戦するくらいなら、ボッチを選ぶ。
ともあれ、本日から豊葦原学園の座学は午前で終了、午後は丸ごと特別実習――ダンジョンダイブの時間となる。
その気になれば、休日である日曜日も含めて、休みなく毎日ダインジョンダイブを決行することも可能だが、学校の規定では最低週に一回ダンジョンに入っていれば、OKとなっている。残りの日の午後は、遊び惚けていようが本人の自由だ。ただし、それで特別実習の定期試験の合格ラインに到達できていなければ、地獄の補修――『強制レイドクエスト』が待っているのだが。
毎日ダンジョンダイブをしているのは、死に戻りを繰り返す一年のお上りさんと、一部の上澄みだけ。一般的には二日に一回でも、相当多い部類らしい。
ボッチ飯を済ませた健太は、その足で真っすぐ購買へ向かう。
豊葦原学園の購買は、二階建ての大きな建物だ。
二階部分には、文房具から生活必需品、衣類、食料品などがそろっており、購買というよりちょっとしたスーパーぐらいの規模がある。まあ、豊葦原学園は一学年で千人からいる五年制のマンモス校で、しかも全寮制なのだと考えたら、購買がこれくらいの規模になるのは、必然なのかもしれない。
もっと特徴的なのは、一階だ。そこに並ぶのは、武器、防具、各種サバイバル用品等々。ダンジョンダイブのための品ぞろえが、目立つところに陳列されている。
さらに、ディルド、ローション、ア〇ルビーズ、柔らかい手錠等も購入できるのだが、流石にその辺りは目立つところには陳列されていない。
今日からダンジョンダイブ解禁ということで、購買一階は、装備を求める新入生でごった返していた。
このために、新入生には一律『十万銭』が電子マネーで支給されている。学園の独自通貨である『銭』は電子マネーだ。
購買一階には、多種多様な武器、防具が並んでいる。西洋剣はもちろんのこと、ダガーナイフ、日本刀、ハンマー、斧、槍、薙刀、ハルバード、鎖鎌、マカナ、トンファー、三節混など、見ているとどれを買うか目移りしてしまうが、あいにくと新入生に選べる選択肢は限られている。
展示されている武器、防具は安くても数十万銭という値札が付いている。どう頑張っても手が出せない。
その横に、いかにもといった感じで『新入生おすすめ装備セット』という大きな看板と共に、並べられるセット売りの装備一式。
主武器に、簡易ボディーアーマー、サバイバルナイフ、特殊プラスチック盾、LEDランタン、水筒、応急手当用品。それらが一まとめになって、お値段は驚きの九万銭。
もうあからさまに「新入生はこれを買え」と言っている。
(応急手当用品をファーストダイブでは配ってない当たり、マジでファーストダイブは殺しに来てるよなあ)
健太は、思わず半眼になってしまう。あの時、応急手当セットの包帯と止血剤さえあれば、健太は『
生きた人間が死に戻りする時、
新入生が選べるのは、『新入生おすすめ装備セット』しかないのだが、それがAパッケージからDパッケージの四種類あるのが少々頭を悩ませる。違いは、主武器だけ。
Aは両刃のショートソード。Bは片刃の斧。Cはメイス。Dは両刃の槍。
健太は、一応ファーストダイブで、後半はゴブリンからドロップした槍を使っていた。
そういう意味では、槍が一番使い慣れていると言えるのだが、ファーストダイブでの健太は、『
下手にファーストダイブの感覚が残っている武器は危険かもしれない。
さらに言えば、今の健太は『
「まあ、一番人気だし、無難なところか」
健太が選んだのは、Aパッケージのショートソードだった。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『
その日の午後四時過ぎ。
平日の『
『
最大の死亡フラグである『
「…………」
ダンジョンダイブの前の時点で『
今日のダンジョンダイブの目標は大きく分けて二つ。一つは、『
もう一つは、ダンジョン内で少しでも遠くに移動すること、だ。
新入生が最初にダイブする
しかし、それはあくまで『始界門』を用いたファーストダイブで死に戻りをしてしまった者に限った話だ。
ダンジョンダイブの基本法則では、前回のダンジョンダイブで最後に立っていた場所が、自動的に次回の出発地点となっている。この法則は、始界門を用いたファーストダイブにも適応される。
つまり、
問題は場所そのものではない。叶馬とほぼ同じ場所、という事実である。
(早めに離れておかないと、叶馬達主人公パーティーと今度は本当に偶然ダンジョン内で遭遇することになる。それは避けたい)
そんな思惑から、健太は出来るだけその場を離れようとしていた。予想はしていたが、突き当りにあったダンジョンショップは影も形もない。また別な場所に移動したのだろう。
幸い、叶馬達は、原作通り、ダンジョン解禁初日のダイブを見送っていた。原作そのままの流れになるのなら、叶馬達は明日ダイブする。それまでに、偶然遭遇することがあり得ないくらいに距離を取りたい。幸い、ダンジョン『既知外領域』はうんざりするほど広い。
一時間弱でも、真っすぐ一定の方向に進み続ければ、以後、偶然遭遇する可能性は限りなくゼロに出来るだろう。
それでもなお、ダンジョン内で主人公パーティーと『偶然』遭遇するようなことがあるとすれば、それはまあ、そういうことなのだろう。
健太の『悲観的な予想』が当たっていたと、色々あきらめるしかない。
ともあれ、現状健太は、その場から離れる方向で進んでいた。途中、中からギャアギャア声の聞こえる玄室の前を通ることになったが、出来るだけ足音と気配を殺し、玄室と通路の出入り口付近では『
(おそらく、これが最小だな)
今までで一番声が少ない玄室の側で、健太は足を止めていた。
ファーストダイブの時の経験から判断するに、中にいるゴブリンは恐らく三匹。ファーストダイブでも、二匹以下でいるゴブリンには一度も遭遇していない。つまり、これが望みうる最弱の敵。ここでひるんでいては、先はない。
ここ『既知外領域』のゴブリンのレベルは20。対する健太はあくまで推測だが、ノービス10+『
三対一でも、順当に行けば圧勝できるはずだ。
決心を固めた健太は、『
「ギャッ!?」
と驚きの声を上げるゴブリンに、健太は右手に持つショートソートを突き刺す。これが悪手だった。
胸を深く貫いたその一撃は確かに致命傷だったが、ゴブリンが絶命するまで数秒、絶命したゴブリンが瘴気に返るまで数秒の時間がある。
その時間は、残り二匹のゴブリンが驚きから解放されて、攻撃に移るのに十分な時間だった。
「ギャッ!」
「グベッ!」
左から迫るゴブリンの槍を、左腕に装備した特殊プラスチック製の盾でガードし、右から迫るゴブリンのこん棒を右手に持つショートソードで受け止めたいところだが、あいにくショートソードにはまだゴブリンの死体が刺さったままだ。
ゴブリンは人間の子供程度の大きさで、『
こん棒の一撃を受け止めるため、刺さったゴブリンごとショートソードを掲げた健太だったが、ちょうどタイミング悪く刺さっていたゴブリンが瘴気に返ってしまったため、急激な重さの変化に掲げたショートソードがズレてしまう。
「ちっ」
結果、ゴブリンのこん棒は、健太の右わき腹を殴打した。基本的にレベルが下のものの攻撃は、上のものに効果を発揮しづらい。今の健太はレベル20ゴブリンよりも高レベルだが、流石に「ゴブリンの攻撃など一切きかない」というほどの高レベルではない。
骨や内臓まではいっていないが、それなりに痛みは残っている。
結構な衝撃と痛みが体に走るが、今の健太は『
「はっ」
素早く動いた健太は、一瞬で槍を持つゴブリンの背後に回るとその首をショートソードで半ばまで断ち切り、
「ふん」
槍持ちゴブリンが崩れ落ちるより早く、こん棒持ちゴブリンの後ろに回り込み、同じようにショートソードを振るう。
「フ……」
「ギ……」
「どれだけ身体能力が高くても、素人ではゴブリン相手にも手傷を負う、か。剣術、盾術の単位取得は必須だな」
仕留めたゴブリン達が残した三つの小さなクリスタルを拾いながら、健太は自分にそう言い聞かせた。
身のこなしや攻撃力といった能力値だけで比較すれば、ゴブリン三匹など今の健太が手傷を負う相手ではない。だが、現実として健太は一撃を食らっている。それは、レベルアップで身体能力が上がり、『
健太は『新入生おすすめ装備セット』に入っていた、頑丈そうな布袋にゴブリンクリスタル三つをしまい、腰に下げる。
そうしたしゃがむ、立ち上がるの動作だけでも、打撃を受けた右わき腹にチクリと小さな痛みが走る。
まともに食らったにしては、想像していたよりもずっと小さなダメージだが、ダメージはダメージだ。たった三匹のゴブリン相手に手傷を負うようでは、不安が残る。小さなダメージも積み重なれば馬鹿にならない。
「応急手当のやり方も必須だな。『
と、健太はファーストダイブの時、『
ふわりと体から何かが抜ける感触があった後、脇腹の痛みが徐々に引いていく。
この感覚は分かる。今、健太はスキルを使ったのだ。
「『
健太は、確かめるように『
問題なく発動した。一時的に集中力が高まり、今ならば通常成功しないような精密な作業も高確率で成功するだろう、という確信が持てる。
間違いなく、今の健太は『
元々負っていた傷は大したものではない。『
「前の
その結論にたどり着いたのは、状況証拠から必然と言うべきだろう。むしろ、『
健太が貰った二つ目のチート能力『
確かにこの世界の転職システムは、第一段階から同じ第一段階に転職するときは、前の第一段階のレベルが全てロストすることになっている。
だが、元となっているゲームの転職システムは違う。基本職から基本職へ転職しても、前の基本職で得たレベル、呪文、スキルは失われなかった。
思い出してみれば、ファーストダイブで、推定『
「かなり光明が見えて来たな。推測通りなら、ソロでもかなりの無理がきくぞ」
そう呟くと、健太は次の獲物を求めて、玄室を後にした。