※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第九十一話 休息の空間、狩猟の時間

 

 

 

 歩行による疲労は単純に距離だけでは測れない。

 舗装された平地の道ならば何十キロも歩ける人間でも、アップダウンの激しい山道ならば十キロも歩けないことも珍しくない。

 ましてや、それが舗装されていない雑に草木を切り開いただけの密林の中を進むとなると、体力の消耗は想像以上だ。そこに、「いつモンスターに襲われるか分からない」という精神的なストレスも加われば、さらに消耗は激しくなる。

 

 結果として、後ろからその声が上がったのは健太(けんた)が想定していたよりもはるかに早いタイミングだった。

 

「リーダー、ストップ。この子そろそろヤバいわ」

 

 そう大きな声を上げたのは、眼鏡三つ編み一年女子に寄り添って歩いていた、『遊び人(ニート)』の二年女子だ。

 くせ毛ショートヘア褐色爆乳な二年女子の言葉に、眼鏡三つ編み一年女子はびっくりして声を上げる。

 

「だ、大丈夫です! まだ平気です!」

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太(けんた)は、眼鏡三つ編み一年女子がなぜそこまで必死になっているのかすぐに察し、脚を止めて彼女と向き合う。

 

「大丈夫だよ。ついてこれないから置いてくとか、見捨てるとかは絶対しないから。ちゃんとレイドが終わるまでずっと一緒だから。落ち着いて」

 

 健太(けんた)の言葉を肯定するように、『職人(クラフター)』の巨乳くっきりメイク二年女子がそっと眼鏡三つ編み一年女子を抱きしめる。

 

 

「うん、大丈夫だから、ね?」

 

遊び人(ニート)』のくせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子は、白鶴荘での日々を通して健太の人間性を理解している。レイド内では想定外の冷静さと、想定をはるかに超える戦闘力を見せつけられたが、その人間性、判断基準は白鶴荘の風呂場で裸の女子達に玩具にされても反撃しない健太のそれと変わっていない。

 

「は、はい」

 

 健太(けんた)の言葉以上に、その柔らかな身体接触が効いたのだろう。眼鏡三つ編み一年女子は多少落ち着きを取り戻す。

 実際、彼女の自己申告は間違っていない。多少息は上がっているが、足取りも乱れていないし、歩こうと思えばまだまだ歩けるだろう。

 では、ストップをかけた『遊び人(ニート)』のくせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子の判断が間違ってたかというと、それも違う。

 これは競歩やマラソン大会ではなく、何日にも及ぶレイドクエストなのだ。

 競歩やマラソン大会ならば、限界まで歩き通してでもゴールしてしまえば後はゆっくり休めるが、この補習レイドクエストは一日で終わるものではない。

「今日はここまでにしよう」としても、その後に寝る場所を確保する必要があるし、こっちが勝手に本日閉店のつもりでいてもモンスターは当然考慮してくれない。モンスターに襲われれば、戦うか最悪逃げ出す必要がある。

 そして、出来るだけ疲れを残さずに翌日を迎える必要がある。

 

 だから、十分に余力を残した状態で終わるほうが良いのだ。という健太(けんた)の説明に、眼鏡三つ編み一年女子はどうにか納得してくれた。

 

「それなら、この子は私が運びましょうか? 私は『職人(クラフター)』だからそれくらいは出来るわよ」

 

 と『職人(クラフター)』の巨乳くっきりメイク二年女子が提案してくる。

職人(クラフター)』には『強化外装骨格(アームドゴーレム)』というスキルがある。これはその名の通り大きなゴーレムを召喚するスキルであり、素の状態ではお世辞にも戦力としては頼りになるとは言えないが、パワーは折り紙付きだ。

強化外装骨格(アームドゴーレム)』を自動モードで召喚して、眼鏡三つ編み一年女子を運ばせれば確かにもう少し先に進むこともできるだろう。

 

 しかし、健太(けんた)は考えるまでもなく首を横に振る。

 

「いえ。そこまですることもないでしょう。今日はここまでにします」

 

 そう言って健太(けんた)は、右手で持っていた大剣の剣先を地面に突き刺した。

 

「うん? ここで?」

 

「居心地はあまりよさそうじゃないけど」

 

職人(クラフター)』と『遊び人(ニート)』、色白巨乳と褐色爆乳の二年女子二人が周囲を見渡して言う通り、ここは密林の真っただ中だ。間違っても良いキャンプ地ではない。

 一応事前に健太(けんた)から「学園のベースキャンプは使いません。キャンプ用に使えそうなマジックアイテムを持ってきていますから」と言われているが詳細は聞かされていない。

 この寝るどころか全員が立つ場所にすら困るような密林でキャンプを張ると言われれば、戸惑うのも当然と言える。

 だが、健太(けんた)にとってはそれは大きな問題とはならなかった。しいて言えば、多少小高くなった丘の上が良かったのだが、一日限定ならばほぼ問題はないはずだ。

 

「はい、問題ありません。ちょっと木を倒して場所を作るので、倒木を動かす手伝いをお願いできますか?」

 

「分かったわ、任せて。おいで『ガラテア』」

 

 健太(けんた)の指名を受けた『職人(クラフター)』の巨乳くっきりメイク二年女子はその赤い塗られた唇で笑みの形を作ると、自分の『強化外装骨格(アームドゴーレム)』を召喚する。

 

 巨乳くっきりメイク二年女子の『強化外装骨格(アームドゴーレム)』――『ガラテア』は女子的なフォルムをしている。

 

強化外装骨格(アームドゴーレム)』としては、小柄で細身のタイプに分類されるだろう。ロボットアニメに出て来る女性型ロボットを彷彿させるフォルムだ。

 

 無論、小柄と言ってもそれは『強化外装骨格(アームドゴーレム)』としては、であって実際には二メートル半以上はある。細身であっても力は十分だ。

 健太(けんた)が大剣で切り倒した倒木を、軽々と担いで邪魔にならないところに運んで行ってくれる。

 

 その隙に健太(けんた)は、残った木の切り株の周辺に『鋭刃(シャープネス)』を強く発動させた大剣をザクザクと突き出し、切り株の根を切り分ける。

 

「ふっ」

 

 ある程度根を切ったところで、健太(けんた)は切り株を片手で掴むとそれを無造作に引っこ抜いた。

 

「え、えええ?」

 

 驚きを通り越して呆れたような声を上げているのは、『遊び人(ニート)』なくせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子だけだが、三年女子の二人も表情は同じようなものだ。

 眼鏡三つ編み一年女子は単純な驚きだけを表情に浮かべているが、これは彼女がまだ学園の基準が身についていないからだろう。

 

 ダンジョンダイブによるレベルアップは確かに超人的な身体能力へと成長させる。だが、流石に大木の切り株を片手で引っこ抜くというのは、ダンジョン勢の戦闘職でも中々できるものはいない。

 

 ともあれ、そうして数本の木を切り倒し、切り株を引っこ抜き、健太(けんた)は密林の中に10メートル四方ほどの空き地を作り上げる。

 

 そこにキャンプを張るのだろうか? だがそこは確かに切り開かれてはいるが、地面はデコボコで少し見渡せば小石どころかちょっとした岩や木の根の残りが地面から顔を覗かせている。気持ちよく横たわることが出来るとは思えない。

 そんな女子の疑問をしり目に、健太(けんた)は腰の剣帯から一本の短刀を引き抜くと、その場でしゃがみこみ、その短剣を切り開いた空き地に突き立てる。

 

 次の瞬間、低い音が響き渡り、空き地に穴が穿たれた。

 

 地表から斜め下に掘り進む、深い穴だ。高さは二メートル弱、幅は一メートル半ほどだろうか。すれ違うのならばともかく、一方通行に人間が通るならば問題はないだろう。下り坂の傾斜も人間の脚で上り下りするのにそこまで苦ではない程度だ。

 だだし、深さはかなりのものだ。少なくとも、こうして地表からのぞき込んでいるだけでは、全く底が見えない。

 その穴を開けた健太(けんた)は地面に突き刺した短刀を引き抜き剣帯に戻すと、バックパックのサイドポケットから頭部装着型ライトを取り出し、頭にかぶる。

 健太(けんた)は少し考えた後、五人の女子に向って告げる。

 

「問題はないはずですが、念のため俺が先行します。足元が暗いので自前の灯を持っている人は使ってください」

 

 眼鏡三つ編み一年女子以外の四人がバックパックから手持ちの小さなライトを取り出して用意を終えたのを確認し、健太(けんた)は先頭を切って斜め下へと続く穴を降りて行った。

 

 

 

 

 

 その穴は言うまでもなく、健太(けんた)が地面に突き刺した短刀が起こした現象である。

 その短刀には片面に『ヒリ』、もう片面に『カ』の梵字とそれを補助するブラーフミーン文字がビッチリと刻まれている。

『ヒリ』は仏教における地天(じてん)を意味する。地天(じてん)はインド神話における大地母神プリティヴィが仏教に取り込まれた姿だとされている。

 そして、逆の面に描かれた『カ』これは地蔵菩薩(じぞうぼさつ)を意味する梵字だ。地蔵菩薩(じぞうぼさつ)も起源をたどれば大地母神プリティヴィにたどり着くとされる。

 大地を司る地天(じてん)と、慈悲、救済、守護を司る地蔵菩薩(じぞうぼさつ)。祖をたどれば同一の神格にたどり着く二柱の御仏の力を引き出し、融合し、方向づけるその短刀の力は、突き刺した大地の土を一定の形に圧縮、硬化し規則正しい穴を穿つことだ。同時にそうして穿たれた穴の内部に地蔵菩薩の守護が働くようになっている。

 

 文字魔法の力で圧縮された土は、煉瓦に良く似た触感と煉瓦をはるかに上回る硬度を誇る。実際、健太(けんた)の後ろに続く眼鏡三つ編み一年女子が好奇心にかられて、途中壁を素手で触れてみたのだが、その手には一粒の土埃さえつかない。ザラリとした摩擦の強い感触は残るものの、それは自然の洞窟ではなく人工の建築物の壁の感触だ。

 そうして地面から斜めに穿たれた穴を降りることしばし、健太(けんた)達はひとまずの終点にたどり着いた。

 健太(けんた)と先輩女子四人の合計五つのライトが照らし出すそこは、十メートル四方の正方形の部屋になっていた。天井も三メートルほどはある。

 

 その空間に降りて来た『遊び人(ニート)』のくせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子が興味深げに周囲をキョロキョロしながら言う。

 

「すごーい。ここに泊まるの?」

 

 確かにそこは野宿をするよりはずっと上等な空間だ。床も真っ平で安物の寝袋を強いてもこれならばさほど痛くないだろう。天井も十分高いので、圧迫感はない。学園が用意している背伸びをすれば一番高い天井にも手が届いてしまうかまぼこ型のベースキャンプよりも快適かもしれない。

 だが、くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子の言葉に健太(けんた)は首を横に振ると、

 

「いいえ。ちょっと手間ですがもう少しお付き合いください」

 

 と言って、腰から先ほどの短刀を取り出し、慎重に床に突き出す。

 煉瓦より硬くなっている床に、その短刀は何の抵抗もなく突き刺さり、先ほど同様また斜め下に続く穴を穿つ。

 

「ついてきてください」

 

 短刀を剣帯に戻した健太(けんた)は、そう言うと先ほど同様その穴へと入っていった。

 

 

 

 

 

 健太(けんた)が剣帯に下げている短刀は複数本あるが、その全てが本質的には同一のものだ。

 片面に地天(じてん)の『ヒリ』、もう片面に地蔵菩薩(じぞうぼさつ)の『カ』の梵字を刻み、その周囲に梵字の補助文字であるブラーフミーン文字が刻まれている。

 それなのに何本も用意しているのは、刻んだ補助文字の文面を変えることで土への干渉の形を変えているからだ。

 メインで使う、地面から斜め下に掘り進むもの。それとは逆に側面から斜め上に掘り進むもの。地面から垂直に掘り進むもの。小さな部屋を作るもの。大きな部屋を作るもの。荒い煉瓦質の表面をガラス質に変化させるもの等々。

 

 それらを適切に使用することにより、健太(けんた)は地下深くに即席の住居を築いたのだった。

 

 

 

 健太(けんた)は五人の女子を引き連れて、作ったばかりの仮設住居の主だった施設を順番に説明していく。

 

「ここがメインの部屋になります。食事はここで取る予定ですので、そのつもりでいてください」

 

 二十畳ほどはある広い空間の真ん中に、丸い大きなテーブルが地面から生えている。テーブルも地面と同じ材質だ。

 テーブルの上に、月天(がってん)を意味する『シャ』の梵字を刻んだ金属片を置き、広い部屋全体を月光のような冷光で照らし出しながら健太(けんた)はそう言った。

 

 

 続いて、メインの部屋の隣に造った二番目に広い部屋で健太は言う。

 

「ここが皆さんの寝室です。って言っても何もないですけど、皆さん寝袋は持ってきてますよね? 荷物もここに置いてください」

 

 女子用の部屋は万が一の場合、旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』の十二人が寝られるように造ってあるので、かなり広い。

 女子五人だけならば、十分以上の広さだろう。最初は壁面に寝台を作ることも考えたのだがやめておいた。旧匠工房の面々ならば、ベッドは自作する方が優秀だろうからだ。

 奥の壁面の胸より少し高いところに穿たれた二つの四角い小さな穴に、梵字を刻んだ金属片を二つ、設置する。とたんに部屋は冷光と爽やかな風に包まれる。

 二つの金属片に刻まれているの梵字は、片方が月天(がってん)の『シャ』、もう片方が風天(ふうてん)の『パー』だ。風天(ふうてん)はその名の通り風を司り、インド神話では風の神ヴァーユに相当する。

 風天(ふうてん)の梵字を刻んだ金属片からは常時弱い風が吹き続けて、地中での空調問題を解決してくれる。

 

 照明用の月天(がってん)の梵字と空調用の風天(ふうてん)の梵字は、基本的に全ての部屋に設置する。

 

 

 

「ここが風呂です。水とお湯は用意出来ましたけど、流石にシャワーはないんで我慢してください。あと部屋の隅にある網状の部分は排水溝です。人が乗った程度で壊れる様な作りにはなっていないですけど、念のためあの上には乗らないようにお願いします。

 一応『万能石鹸』も持ってきてるんで配布しておきます。流石に一人一個までなのでそれでどうにか最終日まで乗り切ってください」

 

 浴室には、浴槽が三つある。大きな浴槽が一つに小さな浴槽が二つ。

 三つ全ての浴槽の縁に、水天(すいてん)の『バ』、火天(かてん)の『ア』の梵字が埋め込まれている。水天(すいてん)の梵字に触れると水が出て、火天(かてん)の梵字に一度触れると水温が上昇し始める。どちらも稼働状態でもう一度触ると停止する仕組みだ。

 使い方を教えるため、健太(けんた)がすべて稼働させたので、現状三つの浴槽にはすでに湯が張られている。

 放っておけばぬるくなるので、その時はもう一度火天(かてん)の梵字に触れて追い炊きすればよい。

 

 浴槽が三つあるのは、大きな浴槽が入浴用。小さな浴槽の一つが髪や体を洗った後に体を流す用。もう一つの小さな浴槽が、洗濯用だ。

 わざわざ分ける必要があるかは分からないが、さほど手間でもないので念のため分けておいた。特に洗濯用は、洗剤が万能石鹸しかないので、しっかり汚れを落としたければ、付け洗いをするのが無難だ。

 流石に、入浴用の浴槽と汚れた衣類の付け洗い用の浴槽は別の方が気分的に良いだろう。

 

 浴室の床は他と同じ煉瓦質のザラついた肌触りだが、浴槽の中だけは磁器のようにツルリとした触り心地の良い仕上がりにしている。

 これならば、女子からも文句はでまい。と健太(けんた)は考えている。まあ、シャワーがないという点については不満があっても無理はないが。

 その辺りについては、合流してから『匠工房(アデプトワーカーズ)』の面々に相談するべきだろう。

 シャワーの設置に知恵と技術を貸してくれるのは、『機関士(エンジニア)』の柿音(かきね)か『要塞建築士(インゲニアトール)』の梅香(うめか)あたりだろうか。

 明らかに価値観のズレたことを考えながら、健太(けんた)は次の施設へと足を進める。 

 

  

 

 

 

「ここが台所になります。水が飲みたいときもこちらが良いでしょう。浴室の水と原理は同じですが、気分が違うでしょうし」

 

 台所と呼んでいる空間は、水天(すいてん)の梵字から水が出るシンクと、火天(かてん)の梵字で煮炊きが出来る台があるだけだ。

 火天(かてん)の梵字は、浴室に設置しているものと周囲に刻んでいるブラーフミーン文字による補助文字の文面が異なっている。

 浴室の梵字は、水を加熱するだけだが、こちらはもっとシンプルに火が出るようになってる。梵字に触れることで、火力も大、中、小の三段階に変化。四回目の接触で消火となっている。

 また、ここだけは風天(ふうてん)の梵字も二つ存在しており、一つは他の同じ微風が吹き続けるものだが、もう一つは補助文字で効果を反転させ、周囲に空気を吸い込むものになっている。

 一応、換気扇の下で火を使う程度には排気されるようになっているはずだ。

 

 台所はあっても鍋やフライパンはないので、石か何かを拾ってきて加工する必要がある。

 『職人(クラフター)』のスキルである『加工(プロセス)』を使えば、石でも木でも形を整えることはできる。

 最悪、火の上に平らにした石を置けば、焼くことは出来るはずだ。

 

 

 

 

「ここがトイレです。念のため長い通路で、他の施設からは離してあります。男子用が一つ、女子用が二つなんで順番に使ってください」

 

 トイレは健太(けんた)が一番気を使ったところだ。

 なにせ、この地下空間に扉というものがない。土に穴を開けて空間を作っているだけなのだから当然だ(将来的にはどうにかしたいと考えているが)。

 食事はおろか、寝室、浴室を男女が一緒に入ることが当たり前になっている学園でも、流石に(本来の目的として)トイレを使用するときは、一人でいたいと考えるものが大多数だ。

 扉が無ければ、臭いや音も流れてきやすくなってしまう。

 そのため、トイレだけは長い通路の先、それもわざと一度九十度折れた先に設けていた。

 

 形としては一応洋式の便座になっており、座って用を足せるようになっている。

 念のため、トイレ内には烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)の『ウーン』の梵字も設置してある。

 烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)火天(かてん)と同じインド神話のアグニを祖とする仏のため『ウーン』の梵字も火を発する力がメインなのだが、こちらにはブラーフミーン文字で火の力ではなく、不浄を払う力を引き出す様に細工を施している。

 

 もちろん、灯りとしての月天(がってん)、手洗い、水洗のための水天(すいてん)の梵字も用意してある。

 

 

 

 一通り施設を説明し終えた後、最初の部屋に戻ってきたのだが、女子の反応は健太(けんた)が予想していたものとは少々異なっていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……凄い。こんなマジックアイテムもあるんですね」

 

 眼鏡三つ編み一年女子が感心と感動と知的好奇心が混ざった陽性の声を上げる一方、二年三年のお姉さま方が無言の半眼で健太(けんた)を見ている。

 驚き、喜び、感動を通り越して感情がマヒしているが故の半眼だ。

 

 最低最悪の地獄である補習レイドで、身の安全をほぼ完ぺきに保障してくれる男子が現れたかと思えば、次は風呂、トイレ付の水使いたい放題のねぐらまで用意されたのだ。現実味を感じられない。学園の底辺女子という現実を受け入れてしまっていた女子にとって今の現実は、寒暖差が激しすぎる。

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太(けんた)は、冷静に先輩女子の反応がおかしいことは理解したが、自分のやったことがどれくらいおかしなことなのかは今一理解していない。どうしても価値観が原作に引きずられているのだろう。

 実際原作で旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』達が作り上げる根城――通称『魔王城』と比べれば貧相なものだ。

 

 想定していたほど喜んではもらえなかったが、悪い反応ではないと判断を下した健太(けんた)は、予定通りの行動に出る。

 

「俺は上に戻って念のため、周囲のモンスターを掃討してきます。一部、食べられるモンスターは持ってきますから、調理ができる人は後でお手伝いお願いします」

 

「は、はいお手伝いします。でも、私の分は別に」

 

 率先して手伝いを申し出ると同時に、自分が食べることは遠慮する眼鏡三つ編み一年女子の言葉に健太(けんた)は首を横に振る。

 眼鏡三つ編み一年女子の言葉がただの遠慮にせよ、モンスターを食べると行為に対する拒絶反応にせよ、それは認められることではない。

 

「駄目。レイドクエストは長丁場だから、持ち込んだ日持ちする食料は極力手を付けないほうが良いよ」

 

 筋力も体力も一般人並みの眼鏡三つ編み一年女子のバックパックは、健太(けんた)はもちろん上級生女子と比べても明らかに小さい。間違いなく、持ち込んだ食料だけで予定通り二十七日は食い繋げられないだろう。

 まあ、原作通りに行けば、七、八日程度で叶馬(とうま)がレイドクエストをクリアしてくれるので大丈夫かもしれないが、それを最初から当てにするのは危険だ。

 

「それじゃ行ってきます。危ないので外には出ないように。疲れてるでしょうし汗もかいてるでしょうから、良かったら先に風呂を使っててくれても構いません」

 

 健太(けんた)はそう言い残すと、一人地下施設を後にした。

 

 

 

 

 

 バックパックを女子達に預け、単身地上に戻った健太(けんた)はすぐに、地図帳(アトラス)のスキルで必要な情報を集める。

 叶馬(とうま)達を示す遠方の青いピン十三本は、一か所に固まって留まったままだ。無事、拠点構築中か、すでに拠点を作り終えて中で(くつろ)ででいるかだろう。ひとまずは心配はないと考えられる。

 

 健太(けんた)は、もう一度『徹甲虫・多弾倉(ペネトレイトビートル・リボルバー)』のトレミーを叶馬(とうま)達を送り込むことも考えたが、結局やめておいた。

 意思の疎通が難しい召喚モンスターを叶馬(とうま)の下に送り込むのは、とんでもないことが起こりそうで怖い。

 

「ひとまずは、周囲のモンスターを駆逐して、食料になりそうなやつを持ち帰るか。ああ、家具や食器にするための木材や石材も必要だな」

 

 道中倒したモンスターは、荷物になるので全て放置してきた。今晩の食事は改めて狩らなければならない。

 一番ねらい目は、原作で美味しいと明言されている牛鬼だが、基本的なシルエットが大きな(にわとり)である婆娑婆娑(ばさばさ)も良さげだ。健太(けんた)個人の嗜好としては、牛肉より鶏肉が好みである。

 

 狩猟に出る前に、健太(けんた)は念のため仮拠点の守りを固める。

 

「《来い》モモノスケ」

 

 長大な東洋龍――『応龍(ヒィンロン)』のモモノスケを召喚し、地下拠点の出入り口前に配置する。

 

「近づく敵から拠点を守れ。逃げる敵は深追いする必要はない。万が一中にいる女子がでてきた場合は、絶対に傷つけるな。可能なら中に追い返せ」

 

 そうモモノスケに命令する。どのみち外で活動している間は、健太(けんた)も地図帳で女子の位置は見張っているつもりなので、大事には至らないとは思うが念のためだ。

 護衛役に『応龍(ヒィンロン)』のモモノスケを選んだのは誰かに見られた時、一番ごまかしがきくからだ。

 ここ『轟天の石榴山』には、蛟竜(こうりゅう)というモンスターが多数生息している。原作で叶馬(とうま)雷撃(ヘソスナッチ)でまとめてバタバタ落ちる雑魚敵だ。

 伝承では蛟竜が千年生きると龍となり、龍が五百年生きると角龍(カオロン)となり、角龍(カオロン)が千年生きると『応龍(ヒィンロン)』となる、とされている。

 

 つまり、蛟竜が多数生息するこのレイド内に『応龍(ヒィンロン)』のモモノスケならば生息していても「ギリギリセーフ」と健太(けんた)は考えた。

 

 

 

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