歩行による疲労は単純に距離だけでは測れない。
舗装された平地の道ならば何十キロも歩ける人間でも、アップダウンの激しい山道ならば十キロも歩けないことも珍しくない。
ましてや、それが舗装されていない雑に草木を切り開いただけの密林の中を進むとなると、体力の消耗は想像以上だ。そこに、「いつモンスターに襲われるか分からない」という精神的なストレスも加われば、さらに消耗は激しくなる。
結果として、後ろからその声が上がったのは
「リーダー、ストップ。この子そろそろヤバいわ」
そう大きな声を上げたのは、眼鏡三つ編み一年女子に寄り添って歩いていた、『
くせ毛ショートヘア褐色爆乳な二年女子の言葉に、眼鏡三つ編み一年女子はびっくりして声を上げる。
「だ、大丈夫です! まだ平気です!」
『
「大丈夫だよ。ついてこれないから置いてくとか、見捨てるとかは絶対しないから。ちゃんとレイドが終わるまでずっと一緒だから。落ち着いて」
「うん、大丈夫だから、ね?」
『
「は、はい」
実際、彼女の自己申告は間違っていない。多少息は上がっているが、足取りも乱れていないし、歩こうと思えばまだまだ歩けるだろう。
では、ストップをかけた『
これは競歩やマラソン大会ではなく、何日にも及ぶレイドクエストなのだ。
競歩やマラソン大会ならば、限界まで歩き通してでもゴールしてしまえば後はゆっくり休めるが、この補習レイドクエストは一日で終わるものではない。
「今日はここまでにしよう」としても、その後に寝る場所を確保する必要があるし、こっちが勝手に本日閉店のつもりでいてもモンスターは当然考慮してくれない。モンスターに襲われれば、戦うか最悪逃げ出す必要がある。
そして、出来るだけ疲れを残さずに翌日を迎える必要がある。
だから、十分に余力を残した状態で終わるほうが良いのだ。という
「それなら、この子は私が運びましょうか? 私は『
と『
『
『
しかし、
「いえ。そこまですることもないでしょう。今日はここまでにします」
そう言って
「うん? ここで?」
「居心地はあまりよさそうじゃないけど」
『
一応事前に
この寝るどころか全員が立つ場所にすら困るような密林でキャンプを張ると言われれば、戸惑うのも当然と言える。
だが、
「はい、問題ありません。ちょっと木を倒して場所を作るので、倒木を動かす手伝いをお願いできますか?」
「分かったわ、任せて。おいで『ガラテア』」
巨乳くっきりメイク二年女子の『
『
無論、小柄と言ってもそれは『
その隙に
「ふっ」
ある程度根を切ったところで、
「え、えええ?」
驚きを通り越して呆れたような声を上げているのは、『
眼鏡三つ編み一年女子は単純な驚きだけを表情に浮かべているが、これは彼女がまだ学園の基準が身についていないからだろう。
ダンジョンダイブによるレベルアップは確かに超人的な身体能力へと成長させる。だが、流石に大木の切り株を片手で引っこ抜くというのは、ダンジョン勢の戦闘職でも中々できるものはいない。
ともあれ、そうして数本の木を切り倒し、切り株を引っこ抜き、
そこにキャンプを張るのだろうか? だがそこは確かに切り開かれてはいるが、地面はデコボコで少し見渡せば小石どころかちょっとした岩や木の根の残りが地面から顔を覗かせている。気持ちよく横たわることが出来るとは思えない。
そんな女子の疑問をしり目に、
次の瞬間、低い音が響き渡り、空き地に穴が穿たれた。
地表から斜め下に掘り進む、深い穴だ。高さは二メートル弱、幅は一メートル半ほどだろうか。すれ違うのならばともかく、一方通行に人間が通るならば問題はないだろう。下り坂の傾斜も人間の脚で上り下りするのにそこまで苦ではない程度だ。
だだし、深さはかなりのものだ。少なくとも、こうして地表からのぞき込んでいるだけでは、全く底が見えない。
その穴を開けた
「問題はないはずですが、念のため俺が先行します。足元が暗いので自前の灯を持っている人は使ってください」
眼鏡三つ編み一年女子以外の四人がバックパックから手持ちの小さなライトを取り出して用意を終えたのを確認し、
その穴は言うまでもなく、
その短刀には片面に『ヒリ』、もう片面に『カ』の梵字とそれを補助するブラーフミーン文字がビッチリと刻まれている。
『ヒリ』は仏教における
そして、逆の面に描かれた『カ』これは
大地を司る
文字魔法の力で圧縮された土は、煉瓦に良く似た触感と煉瓦をはるかに上回る硬度を誇る。実際、
そうして地面から斜めに穿たれた穴を降りることしばし、
その空間に降りて来た『
「すごーい。ここに泊まるの?」
確かにそこは野宿をするよりはずっと上等な空間だ。床も真っ平で安物の寝袋を強いてもこれならばさほど痛くないだろう。天井も十分高いので、圧迫感はない。学園が用意している背伸びをすれば一番高い天井にも手が届いてしまうかまぼこ型のベースキャンプよりも快適かもしれない。
だが、くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子の言葉に
「いいえ。ちょっと手間ですがもう少しお付き合いください」
と言って、腰から先ほどの短刀を取り出し、慎重に床に突き出す。
煉瓦より硬くなっている床に、その短刀は何の抵抗もなく突き刺さり、先ほど同様また斜め下に続く穴を穿つ。
「ついてきてください」
短刀を剣帯に戻した
片面に
それなのに何本も用意しているのは、刻んだ補助文字の文面を変えることで土への干渉の形を変えているからだ。
メインで使う、地面から斜め下に掘り進むもの。それとは逆に側面から斜め上に掘り進むもの。地面から垂直に掘り進むもの。小さな部屋を作るもの。大きな部屋を作るもの。荒い煉瓦質の表面をガラス質に変化させるもの等々。
それらを適切に使用することにより、
「ここがメインの部屋になります。食事はここで取る予定ですので、そのつもりでいてください」
二十畳ほどはある広い空間の真ん中に、丸い大きなテーブルが地面から生えている。テーブルも地面と同じ材質だ。
テーブルの上に、
続いて、メインの部屋の隣に造った二番目に広い部屋で健太は言う。
「ここが皆さんの寝室です。って言っても何もないですけど、皆さん寝袋は持ってきてますよね? 荷物もここに置いてください」
女子用の部屋は万が一の場合、旧『
女子五人だけならば、十分以上の広さだろう。最初は壁面に寝台を作ることも考えたのだがやめておいた。旧匠工房の面々ならば、ベッドは自作する方が優秀だろうからだ。
奥の壁面の胸より少し高いところに穿たれた二つの四角い小さな穴に、梵字を刻んだ金属片を二つ、設置する。とたんに部屋は冷光と爽やかな風に包まれる。
二つの金属片に刻まれているの梵字は、片方が
照明用の
「ここが風呂です。水とお湯は用意出来ましたけど、流石にシャワーはないんで我慢してください。あと部屋の隅にある網状の部分は排水溝です。人が乗った程度で壊れる様な作りにはなっていないですけど、念のためあの上には乗らないようにお願いします。
一応『万能石鹸』も持ってきてるんで配布しておきます。流石に一人一個までなのでそれでどうにか最終日まで乗り切ってください」
浴室には、浴槽が三つある。大きな浴槽が一つに小さな浴槽が二つ。
三つ全ての浴槽の縁に、
使い方を教えるため、
放っておけばぬるくなるので、その時はもう一度
浴槽が三つあるのは、大きな浴槽が入浴用。小さな浴槽の一つが髪や体を洗った後に体を流す用。もう一つの小さな浴槽が、洗濯用だ。
わざわざ分ける必要があるかは分からないが、さほど手間でもないので念のため分けておいた。特に洗濯用は、洗剤が万能石鹸しかないので、しっかり汚れを落としたければ、付け洗いをするのが無難だ。
流石に、入浴用の浴槽と汚れた衣類の付け洗い用の浴槽は別の方が気分的に良いだろう。
浴室の床は他と同じ煉瓦質のザラついた肌触りだが、浴槽の中だけは磁器のようにツルリとした触り心地の良い仕上がりにしている。
これならば、女子からも文句はでまい。と
その辺りについては、合流してから『
シャワーの設置に知恵と技術を貸してくれるのは、『
明らかに価値観のズレたことを考えながら、
「ここが台所になります。水が飲みたいときもこちらが良いでしょう。浴室の水と原理は同じですが、気分が違うでしょうし」
台所と呼んでいる空間は、
浴室の梵字は、水を加熱するだけだが、こちらはもっとシンプルに火が出るようになってる。梵字に触れることで、火力も大、中、小の三段階に変化。四回目の接触で消火となっている。
また、ここだけは
一応、換気扇の下で火を使う程度には排気されるようになっているはずだ。
台所はあっても鍋やフライパンはないので、石か何かを拾ってきて加工する必要がある。
『
最悪、火の上に平らにした石を置けば、焼くことは出来るはずだ。
「ここがトイレです。念のため長い通路で、他の施設からは離してあります。男子用が一つ、女子用が二つなんで順番に使ってください」
トイレは
なにせ、この地下空間に扉というものがない。土に穴を開けて空間を作っているだけなのだから当然だ(将来的にはどうにかしたいと考えているが)。
食事はおろか、寝室、浴室を男女が一緒に入ることが当たり前になっている学園でも、流石に(本来の目的として)トイレを使用するときは、一人でいたいと考えるものが大多数だ。
扉が無ければ、臭いや音も流れてきやすくなってしまう。
そのため、トイレだけは長い通路の先、それもわざと一度九十度折れた先に設けていた。
形としては一応洋式の便座になっており、座って用を足せるようになっている。
念のため、トイレ内には
もちろん、灯りとしての
一通り施設を説明し終えた後、最初の部屋に戻ってきたのだが、女子の反応は
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……凄い。こんなマジックアイテムもあるんですね」
眼鏡三つ編み一年女子が感心と感動と知的好奇心が混ざった陽性の声を上げる一方、二年三年のお姉さま方が無言の半眼で
驚き、喜び、感動を通り越して感情がマヒしているが故の半眼だ。
最低最悪の地獄である補習レイドで、身の安全をほぼ完ぺきに保障してくれる男子が現れたかと思えば、次は風呂、トイレ付の水使いたい放題のねぐらまで用意されたのだ。現実味を感じられない。学園の底辺女子という現実を受け入れてしまっていた女子にとって今の現実は、寒暖差が激しすぎる。
『
実際原作で旧『
想定していたほど喜んではもらえなかったが、悪い反応ではないと判断を下した
「俺は上に戻って念のため、周囲のモンスターを掃討してきます。一部、食べられるモンスターは持ってきますから、調理ができる人は後でお手伝いお願いします」
「は、はいお手伝いします。でも、私の分は別に」
率先して手伝いを申し出ると同時に、自分が食べることは遠慮する眼鏡三つ編み一年女子の言葉に
眼鏡三つ編み一年女子の言葉がただの遠慮にせよ、モンスターを食べると行為に対する拒絶反応にせよ、それは認められることではない。
「駄目。レイドクエストは長丁場だから、持ち込んだ日持ちする食料は極力手を付けないほうが良いよ」
筋力も体力も一般人並みの眼鏡三つ編み一年女子のバックパックは、
まあ、原作通りに行けば、七、八日程度で
「それじゃ行ってきます。危ないので外には出ないように。疲れてるでしょうし汗もかいてるでしょうから、良かったら先に風呂を使っててくれても構いません」
バックパックを女子達に預け、単身地上に戻った
意思の疎通が難しい召喚モンスターを
「ひとまずは、周囲のモンスターを駆逐して、食料になりそうなやつを持ち帰るか。ああ、家具や食器にするための木材や石材も必要だな」
道中倒したモンスターは、荷物になるので全て放置してきた。今晩の食事は改めて狩らなければならない。
一番ねらい目は、原作で美味しいと明言されている牛鬼だが、基本的なシルエットが大きな
狩猟に出る前に、
「《来い》モモノスケ」
長大な東洋龍――『
「近づく敵から拠点を守れ。逃げる敵は深追いする必要はない。万が一中にいる女子がでてきた場合は、絶対に傷つけるな。可能なら中に追い返せ」
そうモモノスケに命令する。どのみち外で活動している間は、
護衛役に『
ここ『轟天の石榴山』には、
伝承では蛟竜が千年生きると龍となり、龍が五百年生きると
つまり、蛟竜が多数生息するこのレイド内に『