※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

101 / 142
第九十二話 浴室での会話、夕食の会話

 

 

 

 健太(けんた)が外でモンスターを駆逐し、今夜の食材を確保している頃。

 即席地下拠点に残った五人の女子は、浴室で汚れと疲れを落としていた。

 眼鏡三つ編み一年女子が「無防備なところを襲われたら」と心配したが、先輩四人は異口同音に「私たち程度じゃ裸でも武装してても一緒」と答え、半ば強引に連れ込む。

 

 湯を掬う道具は折り畳み式バケツ一つ。浴用ソープは健太(けんた)から支給された万能石鹸のみだが、補習レイドクエスト中という状況を考えるとこれでも望外の好待遇だ。

 

 万能石鹸とは、その名の通り何にでも使える石鹸である。

 これ一つで、髪も、顔も、身体も、汚れた衣類さえ洗うことが出来る。当たり前だが、それはシャンプー(とコンディショナー)、洗顔フォーム、ボディソープ、洗濯洗剤(と柔軟剤、漂白剤)に匹敵するということはではない。

 使用しても髪も肌も衣類も傷めず、それなりに汚れが落ちる、というだけだ。香りもハーブ系一種類しかないので個性もない。

 だが、そんな万能石鹸でも、レイドクエスト中は憧れの的だ。なにせ、石鹸などレイドクエストにおける必要性で言えば相当順位が低い。

 それを持ち込むことが出来るのはそれだけ余裕があるという証拠であり、ましてそれを男子から提供される女子などどれほど大切にされているかという話になる。

 

 そんな余裕のある男子と大切にされている女子がレイドクエスト内にいるとすれば、普通はAやSランク倶楽部が自習的に行う上級レイドクエストだろう。

 だが、ハイランク倶楽部男子のお気に入り女子とは対極に位置する、落ちこぼれ女子である自分たちが補習レイド中に万能石鹸で全身を磨いている。

 

「くう、気持ちいい!」

 

 お湯と万能石鹸で全身を丁寧に洗った『遊び人(ニート)』のくせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子は、頭を浴槽の縁に載せ、湯を張った浴槽に裸の体を投げ出すようにして寝そべりながら、歓喜の声を上げた。褐色の爆乳がプカリと水面から顔を出している。

 温かい湯の中で両手両足を伸ばして、全身を弛緩させると体を縛っていた緊張や疲労が湯に溶け出すようだ。

 

 健太(けんた)が作った入浴用の浴槽は複数の人間が同時に入浴できる前提で作られてるため、一人ならば体を大の字にして寝そべることも余裕で出来る。

 

「ちょっと、私達も入るんだからいつまでもそうしてるんじゃないわよ」

 

「うぃ、分かってるー。あんたたちが入ってくるまでだって」

 もう一人の二年である『職人(クラフター)』の巨乳くっきりメイク二年女子が洗い場から抗議の声を上げるが、くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子は左手を上げてヒラヒラさせてそう答えるだけで、行儀よくしようとはしない。

 

 体を洗うにも、湯をくむことが出来る道具は、くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子が持ち込んだ折り畳み式洗面器だけだ。

 所有者特権でくせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子が最初に体を流し、今は他の女子四人が順番で使っている。

 

 洗面器は一つだけを使いまわし。身嗜み用品(トイレタリー)は万能石鹸のみ。それでも、全員髪、顔、身体を洗い終え、湯船につかる。

 

「ふう……」「はあ……」「んん……」「あ……ん……」

 

 広い湯船に一緒に入った女子達は、緊張を弛緩させた声を漏らす。

 こうしていると今日が補習レイド一日目であることを忘れそうになる。

 補習レイドという地獄の中なのに、下手な男子がいる学園内よりもリラックスできているという現実。

 それは、入浴によるリラックス効果ももちろん大きいのだが、これほど安らいでいられるのは、地蔵菩薩(じぞうぼさつ)の守護効果による部分も大きい。

 地蔵菩薩(じぞうぼさつ)は釈迦入滅後、弥勒菩薩(みろくぼさつ)の成仏までの空白期、六道の衆民を救う菩薩だ。

 日本では特に、地獄に堕ちた者を救済するという方向で逸話が広まっている。そのため地蔵菩薩(じぞうぼさつ)地天(じてん)を融合した力で形成されているこの空間は、苦界に身を置く弱者に対する守護、救済の力が働いている。

 それは微弱なものに過ぎないが、中にいる者の精神に安らぎをもたらす程度の効果はある。

 

 そんな不自然なくらいにまったりとした入浴風景の中、眼鏡三つ編み一年女子(今は三つ編みを解いてアップに纏めているが)は、少し気になるのか定期的に入口の方へと視線を向ける。

 

「んーどしたの? 一年ちゃん」

 

 くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子が行儀悪く湯船の中でバチャバチャバタ足をしながら訪ねる。

 

「いえ、その、リ、リーダーさんが帰ってきたら入ってくるのかな、とか思って」

 

 世間の常識では女子の入浴中に堂々と入って来る男子など存在しないが、豊葦原学園の常識は異なる。一年女子でも一カ月もこの学園で過ごせば、学園の常識をおおよそ理解している。

 しかし、学園という箱庭の常識に従わない非常識な男子がいることは流石に理解していない。

 

「んー、こっちとしてはそうしてくれると嬉しいんだけど、正直期待薄だねー、けん……リーダー君の場合は」

 

 くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子の言葉に、『職人(クラフター)』の巨乳くっきりメイク(今はノーメイクだが)二年女子が湯船の中で首を傾げる。

 

「あら? 話には聞いていたけど、この状況でもこないの、リーダー君? ほんとにお行儀が良いのね」

 

 この学園の女子は男子に「先に風呂に入っておけ」と言われた時点で、覚悟を決める。むしろ、性行為の前に女子の入浴時間を設けてくれるだけでも行儀が良いとすら言える。

 

「部屋割り見た時点で分かるでしょ。きっちり女子部屋と男子部屋分けてるし、女子部屋、お風呂、トイレは男子部屋はもちろん他からは中が見えないようになってるのよ」

 

 通常は当たり前の配慮が、ここでは極めて特殊な配慮に分類される。

 濡れた短いくせ毛を片手でかき上げながらそう言うくせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子の言葉に、一年女子はまだ状況を理解しきれていないことを白状するようなことを言う。

 

「それは珍しいこと、なんですよね?」

 

「珍しいというより、ありえないことに近いわね」

 

 一年女子は健太のことをせいぜいオスの三毛猫並みの珍しさで考えているが、上級生女子達は未来から来たネコ型ロボットぐらい珍しい存在だと認識している。

 

「ちょっと認識が甘い感じね。この時期に一年にしては珍しいかしら」

 

職人(クラフター)』の二年女子が未だに健太(けんた)の価値を理解できてない一年女子の反応に、苦笑する。

 こうして髪を解いて裸になった一年女子を見ると、彼女が色々と「遅れている」ことがよく分かる。

 

 きっちりとした三つ編みを解いて、黒髪を下ろした一年女子はそれだけで一気に見栄えする容姿になる。

 肢体(からだ)も一年女子の中では平均以上だ。現時点では巨乳と呼べるほどではないが、学園女子として「普通に成長」すれば来年には立派な巨乳になっていてもおかしくない。

 浴室でも洗顔時以外は眼鏡をかけっぱなしというのは、視力が全く矯正されていないということ。本当にノービスレベル1(いっぱんじん)のままの可能性が高い。

 

 素材的にはこの学園でも十分に平均以上の容姿。本人にその気があれば、特定男子の「お気に入り」になって補習を免れるくらいは出来るポテンシャルは十分にある。本人にもその自覚はあるだろう。

 それなのにあえてその素材を、あのいかにも一般男子受けが悪い(一部マニア受けが良い)ガチガチの二本三つ編みヘアスタイルで覆い隠しているのは、男子に対する「自衛」の意識が見て取れる。

 この手の『勘違い』対策をとる女子は、毎年一定数存在する。

 学園の性事情の異常さを知り、女教師や寮の先輩からの忠告を聞いた上でなお、「男子の興味を引かない見た目を装って逃げ切りを図る」女子が。

 もちろん、ここはそんな甘い世界ではない。どれだけ男子の気を引かないように野暮ったい見た目を装っても、せいぜい被害にあうのを多少遅らせる効果しかない。

 そして、遅らせるという成果を上げてしまった場合、致命的な問題が発生する。

 

 この学園では実力がある男子ほど、優先的に気に入った女子を自分のモノにできるのだ。必然的に被害を遅らせた女子は、実力者の男子とはマッチング出来なくなる。

 そうした出遅れた女子に群がるのは、それまで女子を確保できていない男子――落ちこぼれ男子だ。

 もしくは、最弱クラスの庇護者男子すらつかない、気が向けばいつでも誰もヤりたい放題の公衆便所扱いとなるか。

 一学期中間試験の補習レイドで、呑気に「自衛」しているこの一年女子は、その最悪のコースに乗りかけている。いや、すでに最悪コースが確定しているといいきってもよいだろう。特殊な一発逆転の好機にでも恵まれない限りは。

 

「あの、こんなこと聞いて良いのか分からないんですけど、皆さんはお知り合い、何ですか?」

 

 そんな今の自分の立ち位置に気づいていない一年女子は、すっかりリラックスした呑気な口調でそう先輩女子達に尋ねる。

 一年女子が指摘する通り、上級生女子四人は補習レイドの不文律を守り、お互い名前を呼ばないようにしているが、一年女子以外は明らかに距離が近く、気安い。

 特に隠すことでもないため、くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子は、湯船の中で肉付きの良い肩を小さくすくめると、

 

「そうよ。私達は全員、同じ女子寮の仲間。もちろんリーダー君も、ね」

 

「わ、うわあ」

 

 男子が女子寮の仲間と聞かされた一年女子の顔に怯えの色が浮かぶ。

 いくら一年女子とはいえ、入学一か月以上が過ぎている現在、その反応は「周回遅れ」と言われても反論は難しいレベルだ。

 二年女子二人は、湯船の中で顔を見合わせる。

 

 この一年女子は、健太(けんた)が仏心を出して助けただけの存在に過ぎない。補習レイド中健太(けんた)の庇護を得られるだけでも十分すぎる幸運だ。

 しかし、健太(けんた)ほどのお人好しではなくても多少の良心が残っていれば、この未だ学園の常識から取り残されている一年女子に警告、忠告の類を向けたくなる。

 

「ねえ、一年ちゃん。リーダー君は女子が入っているお風呂に入ってくるようなことはしないし、夜寝る時嫌がる女子を無理矢理連れ込むようなこともしないよ。もしかしたら一年ちゃんに「今晩どう?」くらいのことは言ってくるかもしれないけど、一年ちゃんが「嫌です」て言えば強要はないと思う。

 もちろん、セックスを全面拒否したからって見捨てたりしない。この補習レイドが終わるまで面倒見てくれると思う。

 そもそも、私ら四人はバッチコイというか、ぶっちゃけこっちから押しかけるつもり。

 だからね、一年ちゃんにその気がなければ、この補習レイド中は一切エッチな目にも危険な目にもあわないで、無事過ごせると思う」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子の言葉に、一年女子は希望を見出したように眼鏡の奥の目を見開く。

 補習レイドについて漠然とした情報しか知らなかった一年女子だが、その漠然とした情報だけでもそこは「女子にとっては地獄そのもの」であることが察せられる。

 その情報と比べれば、今自分が置かれている状況がどれほど恵まれているかは流石に、彼女にも理解できた。

 その幸運が、今後特に何もしなくとも補習レイド中最後まで続くのだという。

 

 だが、希望を抱きかけた一年女子に、くせ毛ショートヘア褐色爆乳二年女子は、

 

「一年ちゃんにとっては残念なことに、ね。

 だから、リーダー君とエッチしたかったら一年ちゃんが自分から行かないと駄目よ。

 補習レイド中に一年ちゃんが勇気を出してリーダー君に突撃したら、その日は特別に譲ってあげる。あ、遠回しな言い方や、誘い受けとかは全く無意味だから気を付けてね」

 

 今日一番の真剣な声で、そう助言を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 健太(けんた)が周囲の掃除を済ませ、適当な食材と素材を持ち帰ってきたころには、女子達は入浴を済ませていた。

 湯上りに制服をしっかり着込んでいるのは一年女子くらいで、上級生四人は良くてスウェットの上下、大半は下着の上からTシャツだけを着た姿である。しかも、風呂上りということで髪はしっとりと濡れていて、肌は赤く火照りを映している。

 入学当初の健太(けんた)ならばそれだけで挙動不審になる煽情的な艶姿だが、流石に今は見てもそこまで動揺はしない。ある程度予想もしていた。

 

「ただいま戻りました。周囲のモンスターは駆逐しましたし、このレイドのモンスターは大型ばかりなのでここに入って来ることはないと思います。それじゃ、食事にするので皆さん手伝ってください」

 

 健太(けんた)は、真ん中に生えているテーブル以外なにもないリビングルームで寛ぐ湯上りの女子四人を見渡して、そう告げた。

 

 

 

 

 

「それじゃ、食べましょう」

 

「はい、いただきます」

 

「いただきまーす」

 

「はい、すみません、頂きます」

 

 健太(けんた)の帰還から約一時間後。

 

 リビングルームに集まった健太(けんた)達六人は、食事をとっていた。

 このレイド内は永遠に夕暮れ時で、この地下施設は月天(がってん)の梵字が照らし出す冷光を消灯しない限り、同じ明るさだ。そのため、時間感覚が掴みづらいのだが、皆が持ち込んだ時計が正しければ、これは夕食と言ってよいはずだ。

 

 食材は牛鬼(ぎゅうき)の肉と、脚。そして婆娑婆娑(ばさばさ)の肉。肉はある程度の厚さに斬り分け石板の上で焼き、蟹のような足は石鍋で茹でただけの代物だ。

 幸い、塩は大量に持ち込んでいる。牛鬼(ぎゅうき)の脚を茹でるのにも、牛鬼(ぎゅうき)婆娑婆娑(ばさばさ)の肉を焼くのにも塩は使ったがそれ以外の味付けはしてしていない。

 その代わりに、塩、胡椒、カレー粉をテーブル上に並べて、各自が好きなように味を加えるスタイルを取っている。

 

 肉を焼いた石板、脚を茹でた石鍋、そして今皆が取り皿として使っている木皿と、座っている椅子。それらは全て健太(けんた)が持ち込んだ木材、石材を『職人(クラフター)』の二年女子が『加工(プロセス)』のスキルでそれっぽく変形させたものだ。

加工(プロセス)』は『職人(クラフター)』の基本スキルであり、『職人(クラフター)』の(クラス)を得ていればほぼ全員が使える。

 

 ただし『加工(プロセス)』はただ素材を思い通りに加工できるスキルに過ぎず、どのような形に造るかは本人の器用さと美的センスに委ねられる。

 だから、今健太(けんた)たちが座っている木製の椅子が柔らかな曲線だけで形作られた洗練されたフォルムをしているのも、木製の取り皿が一切の飾りがないシンプルな円形なのに不思議と目を引く格好良さがあるのも、すべては『加工(プロセス)』を施した『職人(クラフター)』二年女子の技術と美的センスの賜物だ。

 健太(けんた)も『職人(クラフター)』の(クラス)を獲得しているので『加工(プロセス)』はもちろん使えるが、もし健太(けんた)が作ったら椅子など直立させた丸太に尻が収まるへこみを設ける程度の代物になるだろう。

 

「美味しいね、これ」

 

「はい、びっくりです」

 

 牛っぽい肉と鶏っぽい肉のステーキと、蟹っぽい脚の茹でたものという、非常にたんぱく質過剰な夕食は女子達の評判も悪くなかった。

 健太(けんた)自身も同じものを食べているので、彼女たちが気を使ってお世辞を言っているのではないことは分かる。

 原作では非常に美味として描かれていたが、主に料理をしていたのが凄腕料理人である『調理士(シェフ)』の久留美(くるみ)であったため、少々不安もあったのだがどうやらこのレイドのモンスターは食材として優秀なようだ。

 

「一応デザートして石榴も取って来たけど、試しに食べてみたらかなり酸っぱかったから口に合わない人は無理に食べない方が良いよ」

 

 健太(けんた)がそう言う通り、丸テーブルの中央の大皿には赤い石榴の実が山盛りになっている。

『轟天の石榴山』のレイド名通り、このレイド内では至る所に石榴の赤い実が鈴なりになっている。毒もなく食べられるので、このレイドでは餓死する心配はあまりない。ただし、今健太(けんた)が言った通りかなり酸っぱくてこれだけでひと月近く飢えをしのぐのは勘弁してもらいという人間が大半だろう。

 

 今のように、肉ばかりの食事の口直しに一つ食べるくらいならば、悪くないかもしれないが。

 

「どれどれ、一つ貰い。……んー!? 酸っぱ! マジ酸っぱい!」

 

 手本を見せるように率先して、塩、胡椒、カレー粉などを使い分けて肉と脚を食べていた『遊び人(ニート)』の褐色爆乳二年女子は、小粒の石榴を丸ごと口に放り込み、悲鳴を上げる。それでも吐き出さないのは、流石にそこまで行儀悪くは出来ないのか、吐き出すほどではないからか。

 

「しお……先輩! だから言ったでしょ。合わないなら出してください」

 

 慌ててとっさに名前を呼び掛けた健太(けんた)がそう言うが、褐色爆乳二年女子はすぐにけろっとした顔で、

 

「いやーすっごい酸っぱくてびっくりしたけど、食べられないってことはないよ。肉肉しい食事の合間に食べる分には悪くないね。プチプチ種を潰す食感も楽しいし」

 

 そう言って、二つ目の石榴にかぶりつく。

 確かに、肉ばかりの食事には良いアクセントになるかもしれない。その酸っぱさに閉口しなければ。

 

「すみません、一つ頂きます」

 

 意外と好奇心が旺盛らしく、一年女子は恐る恐る石榴に手を伸ばす。

 

「これは……確かに酸っぱいですけど後味は爽やかな感じですし、これでフルーツソースを作ったら肉や蟹に合うかも」

 

「作れるの?」

 

 風呂と食事のおかげか、それとも地蔵菩薩(じぞうぼさつ)の守護の力か、随分と打ち解けて来た一年女子に健太(けんた)はそう問う。

 今回の料理も、この一年女子がかなり手伝ってくれた。さほど難しい工程はなかったが貸したナイフで肉を捌く手つきは少なくとも健太(けんた)よりは随分手慣れていた。

 だからひょっとしたらと期待を込めた健太(けんた)の問いに、

 

「はい。あ、いえ。昔作ったことがあるってだけで、ここでは難しいです。味を調えるのに調味料とかも使いますし」

 

 アイスクリームやヨーグルトなどデザート用のフルーツソースならばともかく、肉料理に使うフルーツソースならば味を合わせるのに一工夫する必要があると言う。

 それは、明らかに一定以上に料理をする人の意見だ。少なくとも「自炊生活でも飢え死にしない自信はある」程度の健太(けんた)よりは確実に上だろう。

 

「ここだと石榴はいくらでもあるし、せっかくだから明日から色々試してみようか。砂糖なら結構持ってきてるから」

 

 健太(けんた)はそう言いながら、頭の中で明日以降の予定について考える。

 距離からして順当にいけば、明日には叶馬(とうま)達の拠点に到着できるはず。そうなると料理に関しては、絶対信頼のおける久留美(くるみ)の力を借りることが出来る。

 正直、健太(けんた)はもちろん、この一年女子の出番もろくにない可能性が高い。

 しかし、逆に料理すらやらないとなれば、補習レイド中この一年女子がやることがなくなってしまう。

 

 集団生活で役割がないというのは、中々大変なものだ。中には、食事と安全が保障されていて、何もしなくて良い境遇を「ラッキー」と捉える者もいるが、それはごく一部の図太い人間だけ。この一年女子はそういうタイプには見えない。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 かじった石榴を右手に持ったまま、ペコリと頭を下げる一年女子を見て、「いっそ久留美(くるみ)先輩にご指導をお願いしようか」と考えていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。