「流石本職」
『要塞建築士』の梅香の助けをかりて作り上げた地下居住施設の中で、健太は短く正しい賞賛の言葉を漏らしていた。
同じ『地天』と『地蔵菩薩』の梵字を刻んだ短刀で作り上げたので、根本的には昨日健太が一人で構築したものと同じなのだが、一見しただけ「違う」と分かるくらいに洗練されている。
一番わかりやすい違いは、健太が作った地下住居は下に降りる階段が踊り場に出て、その踊り場から九十度ズレたところからまた下に降りる階段が続くといった具合に下り一辺倒だったのが途中で一度上り階段が入ったことだ。
そしてその上り階段と踊り場の左右には深くて広い地下空洞が掘られた上で、梅香が作った木製の網で蓋がされている。
梅香曰く。
「地下施設の大敵は水害と有毒ガスです。多少出入りに手間がかかる様になってもそちらの対策が重要です。通常でしたら地下施設というのは出入り口は一つだけですとその一つを抑えられたら袋のネズミですので、複数の出入り口を築くのがセオリーなのですが、あの短刀があれば緊急脱出口を作るのは一瞬ですからね。
複数の出入り口は複数の侵入口になりかねません。ひとまずはこのままでいいでしょう」
あくまで防衛施設としての観点から自分の仕事を誇らしげに語った梅香は、ふんすと鼻息を鳴らした。
「ありがとうございました。こちらがお礼です」
健太はそう言って数枚の金属片を渡す。具体的に言えば、『月天』『水天』『火天』そして『日天』の梵字だ。
旧『匠工房』にとって特に大きい意味を持つのは、『水天』だろう。
智絵理が井戸を掘っているので、現状でも料理や飲料水の水には不自由していないが、流石に入浴施設はまだ存在していない。
原作で旧「匠工房」制作砦――通称『魔王城』――に入浴施設が完備されるのは、『水』の『元素結晶』を麻鷺荘で量産化できるようになってからの話だ。
それにはまず麻鷺荘の瘴気濃度がダンジョン一階層並みになる必要があるので、梅香による麻鷺荘迷宮化が待たれる。
「こちらこそ。住んでみて要望が出て来たら遠慮なく言ってください。みんな少しでもお礼をしたいと思ってるし、こういう仕事は楽しみでもありますから」
梅香の言葉は事実だろう。自動的に『職人』に割り振られるような人間は、物作りを趣味、生きがいにしている人間が多い。
「分かりました。その時はお願いします」
「はい、それでは。あ、食事は一緒だから時間になったら上がって来てください」
食事は基本的に『調理士』である久留美の世話になることが決まっているのだが、この地下居住区まで料理を持ち込むのも手間だ。
双方の交流の意味も込めて、食事は野外で健太、叶馬、旧『匠工房』の十二人、そして健太が保護した女子五人を合わせた十九人で一緒に取ることに決まった。
もちろん、健太たちも配膳や簡単な下ごしらえ、そして後片付けは手伝う約束になっている。
「はい、よろしくお願いします」
去っていく梅香に重ねてそう言った健太は、木製の扉を開けて中に入る。
梅香はここ外に繋がる階段の前以外にも、女子部屋、健太の個室、浴室、トイレを木製の扉付き壁で仕切ってくれていた。
通路の壁を少しだけ削り、持ち込んだ木製の扉付壁を置いて、『適合』のスキルで隙間なくはめ込むのは流石の手際だった。健太でもやろうと思えば同じことが出来るが、『適合』一発で合わせることは絶対不可能だと断言できる。
少しずつ縦に伸ばして、横に伸ばしてと『適合』を複数回使う必要があるだろう。
開閉しても周囲の木壁はびくともせず、それでいて開閉はとてもスムーズな扉を潜った健太は、大広間に寛ぐ女子五人の視線を受ける。
「特に問題が無ければ、今回の補習レイドが終了まで俺たちはここで生活することになります。
この地下空間は、この場にいる六人だけの生活空間になります。他の人間は俺たちの許可なく立ち入ることはないので安心してください。
逆に、地上の建物はあの人たちのプライベートスペースです。勝手に入らないように注意してください。
城壁の内側でも建物の外は、共有スペースです。建物の中に入らないのなら、地上に出るのは自由です。何でしたら、城壁の外に出るのも自由ですけどそっちはモンスターがいるので、どうしても城壁の外に出たい用事があるときは俺に言ってください。俺が護衛につきます」
地下空間は健太と五人の女子。地上の建物の中は叶馬と、旧『匠工房』の十二人のプライベート空間。そして、城壁に囲まれた地上部分は全員が自由に行き来できる空間だということだ。
「食事はその地上の野外で取ることになります。時間に遅れないようにしてください。手が空いている人は、早めに外に出て配膳を手伝ってくれると助かります」
原作では、補習レイド期間中は、叶馬が旧『匠工房』の十二人を本能のまま襲いまくる昼は青姦、夜は特大ベッドで乱交の爛れた日々を過ごす(常時ノーパンスカート姿で過ごす蜜柑達に責任がないとは言えない)。
そんな叶馬達でも流石に食事中は、大人しくしている。食事を同席する分には問題はないだろう。
「承知いたしました、旦那様に恥はかかせません」「食事手伝い、よし」「オッケー、後片付けくらいは手伝うよ」「分かったわ。せっかくだから食器を差し入れしようかしら」「わ、分かりました」
女子達は各々、広間の椅子や床の上で寛ぎながら、そう答えた。
この地下居住空間という箱モノを作ったのは梅香だが、椅子、長椅子、机、ベッド、衣装ケースといった家具の類を作ったのは、今椅子の上で寛いでいる『職人』の巨乳くっきりメイク二年女子だ。
いずれも素材は木材だけ、飾り彫りのような余計な装飾は一切ないのに素人目にもスタイリッシュで洗練されたデザインに感じられる。
デザイン的な特徴としては緩やかな曲線を多用するシンプルな作りを好むことだろうか。
椅子や長椅子の上に載っているクッションや、ベッドの上にある布団やシーツは、『裁縫士』である杏の差し入れだ。
いずれも染色していないので色合いは薄黄色や薄茶色の余り見栄えの良いものではないが、肌触りは悪くない。普通に市販品として通用しそうな出来である。
それらはつい先ほど造られたものだ。レイド内にいくらでも生えている草花を適当に刈って集めた物に健太が『製材』のスキルで繊維を摘出し、その繊維を杏が『紡糸』のスキルで糸状にし、その糸を『機織』のスキルで布状にして、その布から作り上げたのである。
繊維の一部は繊維のままさらに叩いて柔らかく解して、布団やクッションの中身になっている。
『製材』は採集した素材を使いやすい形に加工するスキルだ。丸太を木材に、岩石を石材に、草や木の皮を繊維にするスキルとして知られている。
その効果範囲の広さからも推測できる通り、『職人』系の第二段階職であれば、大多数の職で習得可能なかなり一般的なスキルである。
蜜柑達もほぼ全員が使用可能なほどだ。
だが、『素材製造士』である健太の『製材』はそれとは一線を画する。
まず第一に作業効率がけた違いだ。今回の刈った草を繊維にするのにしても、恐らくは蜜柑達十一人が手分けをしてやるよりも、健太が一人でやる方が早い。
そして使用者の力量が同程度ならば、製造される製材の質も『素材製造士』が手掛けた物が一段上になる。
「それでは、夕食の時間までは自由に過ごしてください。風呂は、マジックアイテムでお湯が沸いているのでいつでも使えます。食事の前に入るのも、寝る前に入るのも自由です。もちろん、一日に何度も入っても構いません。
俺が風呂に入る時間は固定しておきますし、念のため入浴中は看板を出しておきますので、それで判断してください」
健太はその注意は、事実上眼鏡三つ編み一年女子に向けて放たれたものだ。
五人の女子のうち、健太と浴室で鉢合わせることを拒絶するのは、彼女しかいない。もっとも「健太入浴中」の看板は他四人の女子のとっても有益だろうが。
食事の会場は、大きな東屋だった。
四本の太い柱が平たい四角錐型の天井を支えるだけで、壁やどこにもない。その中央には大きな丸テーブル設置されており、テーブルの周囲には椅子が人数分――十九脚用意されている。
大きなテーブルは旧『匠工房』の面々が作成したが、椅子は『職人』の巨乳くっきりメイク二年女子が手伝ったらしい。
席順は数少ない男子同士、健太と叶馬が隣、と最初は思ったのだが、叶馬の周りには蜜柑を始めとした『旧匠工房』の面々が席を取っている。
逆に、健太が連れて来た女子五人は可能な限り叶馬から距離を取りたいようだ。
必然的に、健太の座り位置は、大きな丸テーブルを挟んた叶馬の対面となった。健太の左側には三年女子二人が、右側には二年女子二人が座る。一年女子は二年女子のさらに右隣だ。
複数の女子を従える二人のハーレム主同士の食事会。ものすごく聞こえが悪いが、そう言われても否定はちょっと難しい現状である。
食事の風景は、十九人が一同の介しているとは思えないくらいに物静かなものだった。
元々叶馬はトンチキな言動こそ目立つが普段は物静かな性質だし、旧『匠工房』の面々も食事中にお喋りの花を咲かせるようなにぎやかな女子ではない。
日頃から物静かで気が弱く、自己主張が苦手だが、自分の得意分野になったとたんに饒舌になる。そういう女子の集まりだ。
一方健太が連れて来た五人の女子達はというと、こちらはまだあからさまに叶馬を警戒して緊張が抜けていない。
だが、そんな静かな食事風景も、五人の女子の緊張も食事を口には今時点で溶けほぐれる。
「うわっ」「すごっ」「美味しい」
身内の旧『匠工房』はもちろんのこと、五人の女子達の口からも漏れる賞賛の言葉に、『調理士』である久留美は照れた赤い顔に照れ隠しの不機嫌そうな表情を浮かべ、プイと横を向いている。
主食は石釜で焼いた焼きたてのパン。メインディッシュは牛っぽいステーキと蟹スキ。
『遊び人』な褐色爆乳二年女子が特に気に入ったらしく、しきりに箸を伸ばしているタルタルチキン南蛮っぽい料理は、昨日のあまりを叶馬が『空間収納』で保存しておいたものを、久留美が再度手を加えたものだ。
健太はここで彼女に「今貴女が美味しく食べているのが、先ほど言っていたこのレイドの二大ボスの片割れ――『百雷鳥』です」と伝えたい衝動に駆られたがやめておいた。
せっかく久留美のおいしい料理が皆の緊張と恐怖を拭い去ってくれているのだ。無駄に恐怖を克己させる必要もあるまい。
それよりも、本日の料理を見た健太は、久留美達に改めて礼を言う。
「俺たちの分のパンまで、本当にありがとうございます」
肉や蟹(もどき)はこのレイドで狩猟できる食材だが、パンは蜜柑達が持ち込んだ小麦粉で焼いたものだ。
当然その量には限りがある。持ち込んだ時の目算では、健太達六人の分は入っていなかったはずだ。
「この程度のやりくり、大したことないわよ。全員同じメニューの方が作るのは楽だし」
「そうだよ、こっちもおかげで野菜が食べられるんだから」
相変わらずツンデレ作法を外さない久留美の後、蜜柑がニッパリ笑ってそう言う。
蜜柑が言う通り、今日のメニューには原作にはなかったほうれん草とはつか大根のソテーと、レタスと茹でてほぐした鶏肉のサラダが追加されていた。
ほうれん草、はつか大根、レタスの種は健太が持ち込んだものだし、それらがこんなに早く(わずか半日)収穫できたのも健太のサポートがあったからだ。
健太が渡した梵字の短刀で、梅香は魔王城に地下を追加し、その一角を朱陽が勝手に地下菜園にしてしまったのだ。
地下菜園の照明は『月天』の梵字ではなく『日天』の梵字。
常に夕暮れ時なこのレイド内の太陽より、よほど植物の育成に向いた明かりらしい。
朱陽曰く「市販のLED植物育成ライトよりずっと優秀。ほとんど太陽と変わらない」という評価だ。
さらに叶馬が狩って来たモンスターの骨や外殻を健太が『素材製造士』のスキル『粉砕』で粉状にしたものを肥料として用いたところ、劇的な成長を見せたのだという。
「思っていたよりずっと元気に育ちました」
と朱陽はほんわか笑顔でそう言っていた。万が一、地下菜園に足を踏み入れなければならないときは、完全装備で向かおう。健太はひそかにそう決意していた。
ともあれ、その後も会話はあまり多くなかったものの美味しい料理のおかげで全体的に良い雰囲気のまま初めての食事は、終わりを迎える。
叶馬を中心に旺盛な食欲で大量の肉と蟹(もどき)を片付けた一同は、鬼灯が入れてくれたハーブティーを口にしながらまったりとした時間を過ごしている。
お茶請けは、『菓子調理士』の芽龍が作ってくれた練り菓子だ。
健太が持ち込んだ生姜粉と砂糖に少々小麦粉を加えて作り上げた練り菓子は、花や動物の形をしており、舌だけでなく眼も楽しませてくれる。
「…………」
健太の分は可愛らしくデフォルメされた小鳥型の練り菓子だ。可愛らしく小首を傾げている。芽龍が健太の皿の上に載せてくれたときは首が真っすぐになっていたと思ったのだが、まあ見間違えか気のせいか、どちらかだろう。
健太は木製のフォークで小鳥の頭部を切り取って口に運ぶ。
砂糖の甘さを生姜が抑えてくれる、爽やかな甘さが口の中に広がる。食事同様、食後のお菓子も贅沢な逸品だ。鬼灯が入れてくれるハーブティーももちろん美味しい。
碧鷺荘も白鶴荘も寮の料理は基本美味しいのだが、久留美達の提供する飲食物は明らかに学園のそれより一段以上上だ。
「ところで明日からのことなんだが」
食事が終りかけたところで、健太は大きな丸テーブル挟んで対面に座る叶馬に話しかける。
「む、なんだ?」
ワニ型の練り菓子をかじったりかじられたりしていた叶馬がそう答える。
「ここでの最大戦力は俺たち二人だろう。しばらくの間は、どちらか一人はここに残るようにしないか?」
「ふむ、そうだな。それが良いか」
ワニ型練り菓子との食べ合いに勝利した叶馬は、同意を示す。このレイドに出没するモンスターの大半は、叶馬と健太にとっては食材以上の意味はないが、この場にいる女子達にとっては、抵抗どころか逃亡すら不可能な敵だ。
もっとも健太が外出交代制を申し出たのは、それだけが理由ではない。
もう一つ大きな理由。それは、レイド参加中に『彫金士』の市湖に色々教わりたいからだ。
原作では、叶馬と旧『匠工房』の面々は、この補習レイド中に昼夜関係なくセックスに明け暮れていた。
砦内で作業中の彼女たちを叶馬が衝動的に襲い、彼女たちが(一部口では怒る者もいるが)全面的に受け入れるという状態が続くのだ。
流石の叶馬も、大事な作業中の女子は襲わないのだが、あいにくと今の旧『匠工房』は『組合』というスキルで連結されている。
これは『職人』特有のスキルで、効果は「参加者の獲得するEXPの均等配分。全員の情報、実体験、感覚の共有」である。
感覚の共有。つまり、誰か一人が叶馬とセックスをすれば、全員が喘ぎだすという状態なのである。
健太としても、自分に指導している最中に、市湖が突然喘ぎだすのは避けたい。そもそもそんな状態では彫金の指導など不可能だ。
「決まりだな。それじゃ、御馳走様でした」
健太の言葉を合図に、他の女子達も食事を終えて席を立ち始める。
「ご馳走様でした。旦那様、後は私がやっておきます」「食事完了、よし」「美味しかったー、もーびっくり」「ご馳走様。後片付けはこっちにやらせて頂戴」「あ、わ、私もやります!」
そうして大きなトラブルもなく、大好評のまま食事は終わりを迎えるのだった。
食事の後、地下の居住施設に戻った健太は浴室で入浴と歯磨きを済ませた。
万能石鹸一個だけが頼りだった昨日と違い、今日はシャンプーと歯磨き粉が追加されている。
どちらも、レイド内に自生している植物から『調合士』の桃花が作ってくれた代物だ。
もちろん、健太が日頃愛用してるものとは匂いや味が違ったりはするが、どちらも髪を洗う、歯を磨くという機能に問題はない。つくづく旧『匠工房』のメンバーの有能さが思い知らされる。
ともあれ、食事、歯磨き、入浴を終えた健太は、居住施設の自分用の個室に戻る。
入浴中、そして今ベッドの上でも、健太は一人ではない。
「ふふふ。やっと、私の番」
「いっぱい、可愛がってね」
旧『匠工房』の方々が作ってくれたダブルサイズのベッドで、健太は右から褐色の爆乳を左から色白な巨乳を押し付けられる。
昨日の話し合い通り、今夜は二人の二年女子が健太の相手を務める。三人ともとっくに全裸だ。
光量を下げた『月天』の梵字が薄く照らし出す二人の裸体を、ベッドの真ん中に眠る健太は両腕でまとめて抱き寄せる。
「あん」「ふふ」
健太に求められることに、二人の二年女子は喜びを隠さない。その喜びの裏には当然打算や保身があるだろう。だが、学園の価値観に染まっている上級生女子にとって、強くて(学園基準で)まともな健太に好意を抱いていることも事実だ。
そして、多少なりとも好意を抱いている相手ならば、積極的に体の関係を結ぶのも学園の価値観ではまた当たり前のことである。
その後に待ち受けている隷属という状態も、むしろ望むところだ。忌避感を持っている男子への隷属は心身の負担が大きいが、好意をもっている男子への隷属状態は、この学園の女子にとって一番心が落ち着く状態と言っても過言ではないのだから。
「先輩、もっとこっちに……」
健太は烏琉羽から受けた薫陶を思い出しながら、二年女子二人との性行為に没頭していく。
「うん、こんな感じ?」
「はい、お好きなように」
学園の常識的な隷属と、健太への隷属は深さも強さも全く違うことをその身で思い知るのは、それからすぐのことだった。