※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

109 / 142
第百話 無事保護完了、夜の訪問者

 

 

結論から言えば、(あんず)桃花(とうか)は問題なく保護できた。

 

「うわあ、結構高いね」

 

「うん。でも全然揺れない。ありがとうね、ジュゲムさん」

 

「グウ」

 

 ゴブリン『槍獣騎士(ランスビーストナイト)』であるジュゲムが騎獣である『蜻蛉河馬(ダムザルフライヒポポタマス)』の上で手綱を取り、後ろに二人の女子――(あんず)桃花(とうか)を乗せて、密林の中を悠々と歩み進んでいる。

蜻蛉河馬(ダムザルフライヒポポタマス)』は、その名の通りトンボの羽が生えたカバだ。大きさも通常のカバより一回り大きく、カバというよりインド象のサイズだ。

 当然、完全武装のジュゲムに女子生徒二人を追加で乗せる程度は、何の問題もない。重さはもちろん、その広い背中は三人(もしくは一匹と二人)が跨ってもまだまだ余裕がある。

 

 健太(けんた)はその後ろを警戒しながら歩いていた。

盗賊(シーフ)』系の能力で気配を探りながら、『文官(オフィサー)』系のスキル『地図帳(アトラス)』を脳内に表示させて周囲の情報収集。最後に基本中の基本である目視も忘れない。

 

 いずれにも危険な存在は感知されなかった。

 まあ、そうだろう。原作では、(あんず)桃花(とうか)はここで八人の男子生徒に捕まって連れ去られるのだが、それらしい男子の群れは先ほどコボルト『無法者(アウトロー)』のボンドが二人に気が付かれる前に全員「死に戻り」させた。

 

 補習レイドに参加している男子など、上級生でも大半は戦闘系の場合良くて第二段階職だ。『遊び人(ニート)』系の場合、第三段階職である『女衒(インキュバス)』も中には混ざっている程度。

 もっとも『女衒(インキュバス)』は意外と侮れない。『女衒(インキュバス)』は『遊び人(ニート)』系第二段階職『男娼(エルフ)』の正当進化版ともいうべき職だ。

 女子でいう『娼婦(ニンフ)』から『花魁(サキュバス)』に相当するルートだが、男子と女子では決定的な違いが一つある。

 それは、セックスによる経験値の譲渡は男から女への一方通行だということだ。

 つまり、女子の『娼婦(ニンフ)』や『花魁(サキュバス)』には、経験値の大半を高レベル男子とのセックスで稼いだという者も普通に存在するのに対し、男子の『男娼(エルフ)』、『女衒(インキュバス)』はダンジョンダイブで経験値を稼ぐしかないのだ。

女衒(インキュバス)』ならば第三段階職に至るまでの経験値をダンジョン内の戦闘で稼いでいるということになる。戦闘経験は戦闘職の第三段階職と大差ない者もいる。

 まあ、補習レイドに参加している『女衒(インキュバス)』の場合は、『男娼(エルフ)』系のスキルが効く女型のモンスターを乱獲して経験値を稼いでいる可能性が高いし、そもそも今の健太(けんた)叶馬(とうま)ならば、どちらにせよ全く問題にはならないのだが。

 

「ねえ、健太(けんた)君。ミカンちゃんたちは大丈夫なのかな?」

 

「うん、砦が男子に襲われたんだよね?」

 

 (あんず)桃花(とうか)は『蜻蛉河馬(ダムザルフライヒポポタマス)』の背中の上で、深刻そうな顔をしている。旧『匠工房(アデプトワーカーズ)

』の十二人は『職人(クラフター)』の特殊スキル『組合(ギルド)』で繋がっている。

 レベルアップに必要な経験値だけでなく、一般的な意味での経験や感情、身体の好調、不調すら共有してしまうそのスキルの影響で、砦の外にいた(あんず)桃花(とうか)も「ひどく緊張するような何かがあった」ことは察知している。

 だが、詳細は分からずいたところに『地図帳(アトラス)』で居場所を探り当てた健太(けんた)が合流してきて状況を説明したのである。

 

「砦に他の男子がやってきて、軽く攻撃を仕掛けて来たらしい」と。

 

 だから、二人が砦の皆を心配しているのは当然と言えば当然なのだが、呑気と言えば呑気な話だ。

 どう考えても砦の外で活動している(あんず)桃花(とうか)が一番危険なのに、その実感はない。これも、誰が悪いと言えば健太(けんた)が悪い。

 原作では(あんず)桃花(とうか)を捕まえるはずの男子八人は、(あんず)桃花(とうか)がその存在を察知できない遠方で全員ボンドが始末してしまったのだから、緊張感などあるはずもない。

 まあ、健太(けんた)が介入しなければ原作通りの展開になることが、ボンドの『眼』にも映っていたので事前に危険を摘んでおいたのは間違いではないはずだ。

 

 ともあれ、健太(けんた)が合流した以上道中の危険は存在しない。

 (あんず)桃花(とうか)は『蜻蛉河馬(ダムザルフライヒポポタマス)』の広い背中の上に座ったまま、安全に砦へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 無事、砦に戻った健太(けんた)が見たところ、砦にこれといった異変は見当たらなかった。

 恐らくは原作通り、外壁に魔法スキルを打ち込んだ程度なのだろう。攻撃というより「乱暴な挨拶をして様子見」が目的だったと思われる。

 砦の外壁は健太(けんた)という『素材製造士(マテリアルメーカー)』が加わったことで原作のこの時点よりずいぶんと強固になっているが、見張りに立つ旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』のメンタルはこの時点ではまだ、即座に反撃に移れるようにはなっていない。

 

 メンタルに変化が訪れるきっかけが、この補習レイド内での襲撃と、そこで叶馬(とうま)が解く説得なのだ。

 

 つい先ほど、そのイベントが終わったのだろう。(あんず)桃花(とうか)を保護して戻ってきた健太(けんた)は、明らかに空気が変わったことが感じられる。

 

(あんず)ちゃん、モモちゃん!」

 

「うん、無事なことは感覚で分かってたけど、こうして合流できると安心したかな」

 

蜜柑(みかん)ちゃん、リンゴちゃん!」

 

「心配かけてごめんなさい」

 

 (あんず)桃花(とうか)蜜柑(みかん)に抱き着かれ、それを安堵の表情で凛子(りんこ)が見守っているのを横目に、健太(けんた)はいつも通りの無表情でこちらに近づいてくる叶馬(とうま)に声をかける。

 

「大体の事情は把握しているつもりだけど、念のため聞かせてくれ。何があった?」

 

「襲撃だ。問答無用で砦の外壁に攻撃をされたらしい。つまり、こちらも問答無用で向こうを殲滅して良いということだ」

 

 いかにも叶馬(とうま)らしい過激かつ公平な意見だが、その言葉ほどには叶馬(とうま)の雰囲気は攻撃的にはなっていない。

 

「なるほど。それならこっちから行くか? 俺とお前で攻守に分かれれば、先輩達の危険はほぼないと思うが」

 

 まだ『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太(けんた)は、確認のためそう聞いてみるが、予想通り叶馬(とうま)は首を横に振る。

 

「いや。蜜柑(みかん)先輩達がやる気を出しておいでだ。奴らには噛ませ犬になってもらう。無論、噛ませ犬の部を弁えない行為に出た場合には、俺が躾けることになるが」

 

 噛ませ犬の部、つまり補習レイドに参加している男子に「やられ役」を割り振るということである。蜜柑(みかん)達に襲い掛かる悪意に立ち向かう心構えと、それを撃退する自信をつけさせようというのだ。

 いかにも叶馬(とうま)らしい。蜜柑(みかん)達を守りつつも、彼女たちの意思を尊重し、信頼して成長を見守る度量がある。変なところで合理主義で、だが根底は感情と本能と衝動で行動する。

 健太(けんた)にはできない判断だ。

 

 実際、地下施設から恐々顔を出した、健太(けんた)が保護している女子五人に健太(けんた)言った言葉は、

 

「大丈夫です。このレイドに参加してる男子程度なら何人来ても敵じゃないですから。先輩達の安全は保障します」

 

 だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜(と時計上定めた時間帯)。

 全員が揃っての夕食は、やはりいつもとは違う空気が流れていた。

 叶馬(とうま)の発破を受けてやる気に満ちている旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』の十二人とは対照的に、健太(けんた)の保護宣言を聞いた五人の女子はより一層健太(けんた)への依存を高めている。

 ただし、二年、三年の四人は白鶴荘での健太(けんた)を見て知っている。健太(けんた)にはただ従順に身体を投げ出すよりも、ある程度お姉さんぶった振る舞いの方が刺さることを理解しているのだろう。意図的に余裕のある笑みを浮かべたりはしているが。

 

 そうして、全体の雰囲気はがらりと変わったものの、物理的な変化は特になく夕食を終えた健太(けんた)は、いつも通り地下施設に戻り入浴と歯磨きを済ませる。そうして身綺麗にした健太(けんた)は、自分用の個室のベッドに座り、今夜の相手が来るのを待つ。

 服装は上がTシャツ、下がトランクス一枚だ。どうせ、すぐに脱ぐことになるし、この地下施設内は裸でも問題ない気温を保っているのだが、最初から裸で女子を待ち構えているというのは、いかにも過ぎて健太(けんた)にはちょっと取りづらい。

 

 そんな健太(けんた)の奥手でヘタレな習性を理解したのか、二、三年女子達は最初入浴を済ませた後素っ裸で飛び込んでくることもあったのだが、いつの間にか最低でもバスタオルくらいは巻いてくるようになっていた。

 

 ダブルサイズのベッドの上に腰を下ろして女子の来訪を待っていた健太(けんた)は、だんだんと落ち着きを失い貧乏ゆすりをし始める。

 

「…………遅いな」

 

 枕元に置いてある時計を手に取り、いつもならとっくに誰かが来ている時間であることを確認する。様子を見に女子部屋に行くか、と考えた健太(けんた)だが結局尻をベッドから上げることはなかった。

 毎晩健太(けんた)の部屋に女子が交代でやってくるというのは、いつの間にか定まった不文律だ。ちゃんとした約束ではないし、健太(けんた)の主観で言えば「女子が気をきかせて来てくれているだけ」とも言える。

 こちらから女子の部屋に「今晩は来ないのか?」と確認に向かうのは、なにか「図々しい」「空気が読めてない」と思われそうで怖い。

 学園の男女の力関係は、頭で分かっていても中々その通りには振る舞えない。この辺りは強さ、立場よりも性根の問題だろう。

 

「地下施設内にいる限り、危険はないはずだけど……もうちょっと待つか」

 

 健太(けんた)がその気になれば『地図帳(アトラス)』のスキルで女子の居場所を確認したり、『盗賊(シーフ)』系の気配察知能力である程度動きを把握したりも出来る。

 だが、女子のプライベートに考慮する健太(けんた)は、地下施設内では女子の居場所を探る行為は緊急時以外やらないようにしている。

 

 今日はこのまま寝てしまおうか。健太(けんた)がそんなことを考えて、月天(がってん)の梵字の照明を消そうとしたその時だった。

 コンコンと聞き覚えのない弱いノックの音が聞こえる。

 

「どうぞ」

 

 という健太(けんた)の言葉を受け、少し時間が空いた後、入り口の扉は静かに開かれた。

 柿音(かきね)を始めとした旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』が付けてくれた木製の扉は、重くて頑丈なのに素晴らしい立て付けのおかげで一般人(ノービス1)の腕力でも簡単に押し開くことが出来る。もちろん、開閉の音は最小限だ。

 

 そうして入ってきた一人の女子の正体に、健太(けんた)は結構な時間気づかなかった。

 別段、変装しているわけではない。日頃はキッチリ二本の三つ編みに編んでいる髪をほどいて、野暮ったい黒縁フレームの眼鏡をはずし、日頃は出来るだけ体型の出ない服装で隠している肢体の凹凸を、体にフィットするニット生地の部屋着で露わにしているだけだ。

 

 それだけで、女を見る目がまだまだ育っていない健太(けんた)には、それが三つ編み眼鏡の一年女子であることが分からなかった。

 この一年女子は、本来は学園でも上位層に入る容姿を意図的に眼鏡、髪型、化粧で抑えていたため、それらの擬態を解けば健太(けんた)程度の見る目のない男には、中々同一人物であると見抜くのは難しい。

 

 とはいえ、なんだかんだでもう十日近く一緒に過ごしている仲だ。

 

「あ、あの。先輩達にお願いして、今夜は変わってもらって……!」

 

 という緊張と恐怖で震える声を聞けば、彼女が誰であるかは流石に分かる。

 

「あ、そう、そうなんだ。入って。座る? あ、いや、変な意味じゃなくて、いや、違わないけど」

 

 一年女子の緊張がうつったように、もしくは童貞に返り咲いたように、健太(けんた)は挙動不審な声と態度で、要領の得ない言葉を羅列する。

 

「は、はい、失礼します」

 

「ど、どうぞ」

 

 これが二年女子ならピッタリ隣に座るところだが(三年女子なら膝の上に座る)、その一年女子は健太(けんた)からずっと離れたベッドの端にちょこんと腰を下ろした。

 

「…………」

 

「…………」

 

 その後、しばし沈黙と不動の時間が流れる。

 このレイド内でも毎晩四人の女子を二人ずつ交代交代で抱いているし、白鶴荘では四人のパートナーといつもベタベタになるまで濃厚なセックスに明け暮れているというのに、健太(けんた)はこの時どうすればよいのか分からなかった。パニックで頭は真っ白な状態だ。

 

 考えてみれば、おかしな話ではない。

 この学園に入ってから女子とのセックスの人数、回数共にうなぎ上りな健太(けんた)だが、その全員が学園の上級生、二年生以上なのだ。

 しかもその大半が健太(けんた)の強さを知り、積極的に媚を売ってきた女子。言葉は悪いが、世間一般で言う普通の女子ではない。どちらかというと、「そちらの道のプロ」に近いだろう。

 言うならば、今の健太(けんた)は限りなく「素人童貞」に近い状態と言えた。

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』に頼りたくなる誘惑を振り切り、健太(けんた)は恐る恐る声をかける。

 

「ええと、先輩の代わりにここに来たってことは、そういうことだよね? その、なんでか聞いても良い?」

 

 できるだけ、怖がられないように友好的に話しかけているつもりの健太(けんた)だが、その自信のなさとそのくせ下心の隠せてない具合は絶妙に気持ちが悪い。

 実際、一年女子はビクリと体を震わせて逃げそうになるが、どうにかその場にとどまって小さな声で答える。

 

「その、ずっとこうしようと思ってはいたんです。これが一番まし、いや、一番良い選択だってことは分かってましたから。でも、勇気が出なくて。何もしなくてもここは居心地がいいし。つい、もうちょっともうちょっとって考えてしまって。

 でも、今日のことでやっと実感できたというか。ここの先輩だけじゃなくて上の先輩達からもお話を聞かせてもらって、躊躇ってる場合じゃないって分かって」

 

 健太(けんた)(あんず)桃花(とうか)を保護して連れ帰るまでに、砦内では色々話し合いがもたれていた。

 主だった話は、叶馬(とうま)が旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』の面々に「やれ、俺が許す」と発破をかけた原作と同じ流れだが、原作と違うのはそこに健太(けんた)が保護した五人の女子がいた事である。

 日頃は地下施設で過ごしている五人の女子だが、男子の襲撃とその後のドタバタによる空気の変化は感じ取れた。恐る恐る地下施設から外に出て旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』の面々に何があったのか、聞いたのだ。

 

 そこで「補習レイドに参加している他の男子が襲撃してきた」と聞かされた時、二年、三年の女子四人は「ああ、ついに来たか」くらいの渋い顔だったが、一年女子にとってはそれは青天の霹靂だった。

 無論、知識としてはある程度補習レイドの地獄っぷりは聞いていたが、なにせ彼女はこの補習レイドでまだ一度もモンスターにも出会っていないのである。

 

 補習レイドがどれほど過酷なところであるかは話には聞いていても、現実には健太(けんた)の庇護下でただぬくぬくと美味しい食事と安全な寝床で、「退屈な時間を持て余す」ような日々を過ごしていたのだ。

 

 そこに今回の襲撃だ。それまでの和気あいあいとした雰囲気は一変した。

 一人状況が理解できずにオロオロする一年女子に上級生の女子達は状況を説明してくれた。「本来の補習レイドでは、男子に捕まるとどんな目に合うか」。

 丁度襲撃があったことで記憶とその時の感情を思い出していたのだろう。誰の話も非常に具体的だった。

 

 

 レイド期間中、男子に捕まった女子はずっと男子のオモチャ。

 反抗すれば面白がって屈服するまで暴力的なセックス漬け。

 屈服してもオナホ扱いのセックス漬け。

 水、食料が与えられるかは男子の気まぐれ次第。

 偉そうにしてても男子も所詮は補習組なので、レイドのモンスターには全く歯が立たない。だから、モンスターに襲われると囮にされる。

 そうしてレイド内に死に戻り。通常のダンジョンと違ってその時の記憶は忘れられない。また、男子に捕まる。

 捕まらない場合は、一人で彷徨ってモンスターに殺されてまた死に戻り。

 モンスターに殺される死に戻りを複数回経験した女子は、プライドも外聞も捨てて自主的に男子の性奴隷になりに行く。

 次回の補習レイドでは、諦めて最初から無抵抗で男子についていくようになる。

 

 

 実体験をもとにした上級生たちの説明は、毒々しいまでに生々しく一年女子の心に響いた。セックスに対する恐怖心、嫌悪感を抱いていたはずなのに、それを超えてこうして健太(けんた)の下にその身を投げ出しに来るほどに。

 

 たどたどしい口調で一年女子がそんな事情を説明すると、健太(けんた)は納得しつつもつい余計なことを言ってしまう。

 

「そうか。でも、この補習中だけなら別段、こういうことしなくても俺は君を見捨てないよ。もちろん、俺だってまだ一年で絶対無敵ってわけじゃないから、何があっても守るとまでは言えないけど、このレイドに出没するモンスターや他の男子程度ならほぼ問題ないし。

 だから嫌なら、無理することはないけど」

 

「それは……………いえ、駄目です。お願いします」

 

 健太(けんた)の無自覚な甘い破滅に導く言葉に、かなり長い間誘惑と戦い続けた一年女子だが、最後はその豊かな黒髪を振り乱す様に頭を振り、どうにかその誘惑に打ち勝った。

 

 この補習レイドだけ安全を保障されても、補習は定期試験ごとに毎回あるのだ。今だけ逃れても将来には繋がらない。そのくらいはこの一年女子にも分かっている。

 

「…………」

 

 覚悟の言葉を告げた一年女子はベッドに腰を掛けたまま目を瞑り、身体を固くしてその時を待つ。

 抵抗はしない。その身を捧げる。一年女子としては最大限の勇気を振り絞った行動だが、この学園の女子としては正直「まだ勘違いしている」と言われても仕方がないだろう。

 

 自分の性的な価値を買いかぶっている女子は、毎年一定数存在する。

 当然と言えば当然だ。豊葦原学園は、美女、美少女が平均値と言われる世界。そのため、中学時代は仲間内で一番、学年で一番、学校で一番の人気だった者が多数存在する。

 そのため、「自分が身体を許す」ことがとてつもない高い価値であると無意識のうちに想定している者も少なくない。

 だが、この学園では女子の容姿、スタイルに関しても上には上がいる。そして、女子の貞操などほぼ無価値、学園男子からすればトップ層に保護されている一部の女子を除けば、「()れて当然」の存在だ。

 

 この一年女子の身体を許す価値など、学園基準ではないに等しい。ただの前提条件、最低基準でしかない。

 

 だが、重ねて幸運だったのは、今体を開こうとしている相手――健太(けんた)は、学園では極めて稀な彼女の身体を自由にできることに、十分な価値を見出す、学園外の価値観を色濃く残した男子だったことだ。

 

 お願いしますと言ってから、目を瞑って俯いたまま微動だにしない一年女子にしばし首を傾げていた健太(けんた)だが、やがて「あ、これは俺から行かなきゃ駄目なやつだ」と理解する。

 これまで、向こうから積極的に来てくれる学園のお姉さま達としかセックスをしてきていない健太(けんた)にとって、これは中々の試練である。

 一年女子が覚悟を決めているだけで、喜んでこの場に来たわけではないことは、流石の健太(けんた)でも分かる。

 

「い、いい、行くよ」

 

 だから、健太(けんた)はどもりまくりながらそう断ると、ベッドから一度立ち上がり、一年女子が座っているベッド下方へとゆっくりを歩み寄る。

 

「…………」

 

 目を瞑っている一年女子は、にじり寄る健太(けんた)に気づいているのかいないのか、いずれにせよ全く動きを見せない。目を開けることもなく、ただ身を固くして座っている。

 

 やがて、健太(けんた)は一年女子の隣に座り直した。

 布団に尻を下ろす軽い音と、腰を下ろしている布団が傾く感触は確実に目を瞑っている一年女子にも伝わっただろう。

 

「ッ」

 

 一年女子はビクリと身体を震わせた。

 ここまで怯えられると、健太(けんた)としては正直「これ、相手しないと駄目?」という弱音も湧き上がってくる。

 学園の上級生男子には、こういう初々しいさやスレてなさが「大好物」な者も多いが、巨乳好き以外にはこれといった性癖のない健太(けんた)には、ただ厄介なだけである。

 

 女子に怒られる、嫌われる、怖がられることに臆病な、典型的な陰キャオタク男子な健太(けんた)である。

 

「さ、触るよ」

 

 それでも健太(けんた)が勇気を出して接触を試みるのは、これまでの学園生活で多少は女子に対して免疫が付いてきたことと、なんだかんだで毎晩セックスするのが当たり前になりすぎて、性欲が我慢できなくなっているからだ。

 

 一年女子の右側に、隣り合うようにして腰を下ろした健太(けんた)は、そのままそっと左腕を一年女子の背中から回し、一年女子の左肩を抱く。

 

「ッ!」

 

 左肩を掴まれた一年女子はより一層身体を固くするが、抵抗は示さない。

 健太(けんた)はそこから、いつも上級生女子を相手にやっているように、少しだけ左腕に力を入れて、一年女子を自分の胸元へと抱き寄せようとする。

 しかし、

 

「ひっ!」

 

 一年女子は喉からかすれた悲鳴を漏らし、必死の力で抱き寄せる健太(けんた)に抵抗を示した。無論、今の健太(けんた)にとってはノービス1の抵抗など全身全霊をこめたものでも、小指一本で抑えられるようなものに過ぎない。

 だが、抵抗する女子を強引にどうこうできるメンタルを持ち合わせていない健太(けんた)は、すぐに左腕の力を抜き、抱き寄せる動きを取りやめる。

 

「ごめん。怖かった?」

 

「…………!」

 

 無言でこくこく首肯する一年女子の様子に、健太(けんた)は大弱りだ。力づくで強引に事を運ぶことは物理的には簡単だが、精神的にできるはずがない。

 

「ええと。無理はしない方が良いかな。補習レイドはまだ続くし。今夜はやめておこうか?」

 

 相変わらず、無自覚に「優しい悪魔のささやき」をする健太(けんた)だが、一年女子は目じりに涙を滲ませながら首を横に振る。

 

「だ、駄目。駄目です。ごめんなさい、もう大丈夫、抵抗しませんから、このままお願いします」

 

 一年女子はここに来る前に、二年女子、三年女子の四人からはっきりと言われている。

 

「貴女に譲るのはこれ一回きりだからね」と。

 

 それも、巨乳くっきりメイク二年女子や艶なし黒髪ミディアムショートヘア三年女子が渋ったのを、褐色爆乳二年女子が取りなしてくれたから成立したくらいである。

 猫毛茶髪ミディアムロング三年女子は、「旦那様(あのひと)は私にとっては最高の殿方だけど、貴女にとってもそうだとは限らないわ。相性というのがあるのだから、無理する必要はないのではないかしら」と優しく言ってくれたが、その言葉に甘えて逃げ出すのも不義理だろう。

 

 一年女子は、右手の親指の付け根で涙の滲んだ両目をぬぐうと、震える手で自らその身に纏っていた衣類を脱ぎだす。

 ニット生地の部屋着の上下は、震える手でも脱ぐのに支障はない。

 

 その下は、下着の上下だけだ。どうやら、しっかりとブラジャーもつけて来たらしい。学園では一般的な「男子の目を楽しませることに特化した下着」ではなく、どこでも買えるような一般的な四分の三カップのブラジャーと尻をしっかり覆うタイプのパンツだ。色は薄いピンクで、レース等の装飾はない。

 

 下着姿になれば、彼女のスタイルがとても健太(けんた)好みであることがよく分かる。

 胸が大きく、尻が豊かで太腿もある程度肉がついている。ウエストはとても細いというほどではないが、ちゃんとくびれと呼べるくらいにはなっていて、いかにも健康そうな体つきだ。

 

 下着姿になった一年女子に健太(けんた)は改めて左腕を回し、抱き寄せる。

 

「ッ」

 

 今度は一年女子も抵抗しなかった。身長で言えば健太(けんた)が日本人男子のほぼ平均であるように、この一年女子は日本人女子のほぼ平均だ。そのため、こうして健太(けんた)が抱き寄せると収まり良く、健太(けんた)の胸と腕の中に納まる。

 先ほどとは違い、下着姿の一年女子だ。健太(けんた)(てのひら)には、緊張でしっとり汗をにじませる熱い一年女子の肌の感触がダイレクトに伝わる。

 同時に、抱き寄せたことで一年女子の巨乳と呼べる乳房の感触が、ブラジャーと健太(けんた)の着ているTシャツという薄い布地越しに健太(けんた)の身体に伝わる。

 その感触に、性欲と高めた健太(けんた)は空いている右手を一年女子に左乳房へと伸ばす。

 ブラジャー越しに軽く左乳房を揉む。

 

「いやっ!?」

 

 その瞬間、一年女子の口からまた恐怖と嫌悪の悲鳴が発せられた。

 

 

 

 

 

 覚悟は決めていた。だから上級生女子四人にお願いして、今夜の相手を変わってもらったのだし、自ら服を脱いで肌を晒したのだ。

 しかし、いざ性的な接触を持たれると、一年女子は自分の覚悟があまりに軽いものであったことを思い知る。

 

 一年女子は、豊葦原学園の普通科女子としては少数派の、入学するまで性行為の経験がない女子――処女だった人間である。男子の入学前まで童貞率はかなり高いのに対し、女子の処女率は「珍しい」と呼べるくらいには少数派だ。

 まあ、学園に入学する前に「この学園でどのようなことを求められるか」をある程度説明された上で、最終的には本人の意思で入学を決めるのだから、女子の未経験者が少ないのはある意味当たり前だ。

 

 そんな珍しい未経験女子だった彼女の初体験は、『忘れもしない』ファーストダイブのことだった。

 教室の全員が順番に始界門を潜る、最初のダンジョンダイブ。

 この時点で、教室内で仲間を見つけられずにいた彼女は、ファーストダイブを一人で行っていた。

 薄暗い石造りの通路と玄室。玄室から聞こえてくる「ギャギャ」「グゲゲ」というおぞましいモンスター――ゴブリンの声。

 元々オタク気質が強く、ゲーム等でファンタジーモンスターやダンジョンというものにある程度の知識があった一年女子は、ダイブ前には緊張、恐怖と共に多少の憧れや期待感もあったのだが、そんなものはダンジョンの瘴気圧の前に雲散霧消する。

 

 ひたすら恐怖に震えながら、ダンジョンの通路を歩み進み、少しでもゴブリンの声や姿が見えない場所を求めてさまよう。

 そうして、長時間通路を彷徨い続けることが出来たのは、運の良さが八割。単独行動だったことが逆に功を奏したのが二割といったところか。

 だが、そんな幸運も最後までは続かない。

 

 逃げて、逃げて、逃げ続けた一年女子はやがて、ゴブリンの声や気配がほとんど聞こえてこない区間へと足を踏み入れた。それが「他のゴブリンが近寄らない危険な場所」であることなど、この時の一年女子に分かるはずもない。

 そして、そこでついに彼女は見つかってしまう。

 

「グゴオオ!」

 

 身の丈二メートルを優に超える、筋骨隆々とした巨大なゴブリンに。

 

 後は言うまでもないだろう。

 恐怖の余り逃げるという選択肢すら頭に浮かばなかった一年女子は、簡単に巨大ゴブリンに捕まり、その子供の腕ほどもある野太く固い陰茎で乱暴に、何度も何度も犯され続けた。

 圧倒的な性力と暴力を誇る牡に捕まった、非力で小柄な牝。性行為は、暴力であり、性暴力であり、悪夢だ。

 最初はスカートとパンツを引きちぎられ、圧し掛かられて、窒息死するような圧迫感のもと犯された。その次は、ボティアーマーと制服の上を纏めて引きちぎられ、無理矢理四つん這いにさせられて後ろから。

 その後は立ち上がった巨大ゴブリンの股間に装備されるように抱き上げられて、物のように上下に振りまわされた。

 飽きて殺される前に、羅城門閉門の鐘が鳴ったのは、果たして彼女にとって幸運だったのか、不運だったのか。

 

 かくして一年女子はファーストダイブでダンジョンとセックスという、この学園で生きていくのに絶対に避けて通れない二つに強烈なトラウマを植え付けられてしまった。

 そして、同級生や寮の先輩達から何を言われても、一切ダンジョンダイブをすることなく、男子に近寄ることもなく、全ての現実から目を背け続けて、たどり着いたのがここ、補習レイド送りだった。

 

 

 

 

 そんな一年女子の経緯など知る由もない健太(けんた)だったが、彼女の様子が明らかにおかしいことにはすぐに気づく。

 

「《落ち着いて》《気を強く持って》」

 

 健太(けんた)は暴れる一年女子を左腕で抱き寄せたまま、連続して『平静(サニティ)』と『精神増強(エンハンス・メンタル)』のスキルを使用する。

平静(サニティ)』のスキルは恐怖や怒りだけでなく、歓喜や性的な高まりも抑えてしまうので、性行為をする時には本来相応しくないのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

「あ? ああっ」

 

 スキルの効果で一気に落ち着きを取り戻した一年女子は、やっと今、自分がとてつもなく不味い状況であることを悟る。

 健太から見れば本来、百戦錬磨の上級生女子が相手をしてくれるはずの夜に、自分が無理矢理割り込んだ身なのに、先ほどからひたすら迷惑をかけ通しなのだ。

 彼女の態度は、学園基準ではなく、世間一般の男女関係でも「こいつめんどい」と匙を投げられてもおかしくないレベルだ。

 

「本当に大丈夫? 今夜のところは……」

 

「ッ、すみません。ご迷惑をおかけしました」

 

 目の前で最後の救いの道が閉ざされそうになっていることを自覚した一年女子は、大急ぎでブラジャーを外すと、今度は自分から健太(けんた)に抱き着き、健太(けんた)の唇に自分のそれを重ねる。

 

「この通り、どうかお願いします」

 

 うるんで目で見上げる一年女子を、健太(けんた)は恐る恐るベッドに押し倒した。

 

 

 

 

 

 健太(けんた)と一年女子のセックスは、とても大変なものであった。一応、どちらも童貞でも処女でもないのだが、その実態は素人童貞と身体は処女なレイプ経験者だ。

 これで、曲がりなりにも性行為を無事終えられたのは、健太(けんた)に「頑張った」と言ってやっても良いだろう。

精神増強(エンハンス・メンタル)』のおかげで覚悟が決まった一年女子だったが、そこは事実上の未経験者。出来ることは黙って相手のやることを受け入れることだけ。それとて巨大ゴブリンに犯された記憶がフラッシュバックするのか、所々で暴れて抵抗してしまう始末。

 健太(けんた)が必死に『烏琉羽(うるは)ゼミ』で教えられたことを思い出しながら、どうにか無事膣内射精に至った時は、快感よりも安堵感と達成感に支配していた。

 

 実のところ健太(けんた)は、この学園特有の現象である隷属について、かなり後ろめたい思いを抱いていた。

 (らん)達パートナーはもちろん、この補習レイドで保護した上級生女子達も自分にベッタリ甘い感情を抱いてくれるのも隷属現象があるから。それが無かったら自分のやっていることは、ただの安全の代償に肢体(からだ)を要求する強姦行為。

 こんなのは健太が苦手なジャンルだった薬物や催眠術で女子を自由にするおじさんと変わらないではないか。

 そんな引け目をずっと抱いていた。

 

 流石、拗らせ童貞陰キャである。

 

 だが、そんな健太(けんた)でも今回は隷属現象の存在に感謝せざるを得なかった。

 一年女子は途中途中で巨大ゴブリンに強姦された記憶がフラッシュバックするのか、反射的に暴れることが何度かあったのだ。

 健太(けんた)の腕力ならば、一般人(ノービス1)の女子を取り押さえるなど容易いが、傷つけずに取り押さえるとなると逆に難易度が跳ね上がる。

 だが、隷属してしまえば、後は簡単だ。

 

「はうう……ふにゃ……」

 

 さっきまで拷問に耐える様な顔で健太(けんた)の挿入に耐えていた一年女子が、今は仰向けに寝る健太(けんた)の裸体に横から両手足を絡めるようにして抱き着き、幸せそのものの笑顔で、健太(けんた)の胸に顔を埋めている。

 隷属という現象は、隷属させる男子と隷属する女子のレベル差があればあるほど堕ちやすい。

 曲がりなりにも第一段階職だった二年、三年の女子達で一晩で健太(けんた)に隷属してしまったのだ。ノービス1だった一年女子が一度の性交で堕ちてしまったのも当然であった。

 

「…………まずいな」

 

 健太(けんた)は裸の身体を摺り寄せる一年女子をあやす様にその背中を撫でながら、虚空に浮かぶ文字列に目をやる。

 

 

 

藤子(ふじこ)

 

 

触媒士(カタリスト)R』『遊び人(ニート)

 

娼婦(ニンフ)

 

性隷姫(スレイブレディ)SSR』『奉仕姫(メイドプリンセス)SSR』『人形姫(ハートレスクイーン)SSR』

 

 

 

転職(クラスチェンジ)可能。

 

 

 

 

「まさか、久留美(くるみ)先輩達の手伝いをあれだけやったのに『職人(クラフター)』も出ないとは。どう考えてもこれは、セックスだけでノービス10までいっちゃった弊害だよなあ」

 

「んー? なんか言った?」

 

 頭の中だけで呟いていたつもりだったのだが、どうやら口に出していたらしい。キョトンとこちらを見る一年女子――藤子(ふじこ)健太(けんた)は誤魔化すように笑う。

 

「いや、何でもない。大丈夫、これは流石に責任は取るから」

 

「はーい」

 

 よくわからないが、健太の言葉が自分にとって良いことであることは感じ取った藤子(ふじこ)は、嬉しそうに健太(けんた)の胸に頬を摺り寄せるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。