次の玄室で、四匹のゴブリンの掃討に成功した健太は、仮説を裏付ける結果を出していた。
『
「ギャワッ?」
と動揺するゴブリン達の一匹に今度は、スキルは使わず素の身体能力だけで背後に回り込み、後ろから首を掻き切る。
同様の行為をもう二度繰り返し、健太は瞬く間に、四匹のゴブリンを屠った。
「間違いないな。レベル20のゴブリンを相手に、いくら『
つまり、今の自分は、ノービズ10、遊び人20、盗賊15以上が加わった45レベル以上、ということなのか?
一瞬、そう安直に考えた健太だったが、それはすぐに否定する。
レベル45ならばレベル20のゴブリンの倍以上だ。その場合、ゴブリンのこん棒ダメージが健太に通ったのが不可解になってしまう。
「同じ第一段階の職でも重ねられる。だが、レベルや能力値は単純な足し算ではない、といったところか」
健太は、ひとまずそう結論付けて、ダンジョン探索を再開した。
その後、順当にゴブリン討伐を続けていた健太の脳裏に、
「『
『
だが、一度20レベルまで上げている『
今までの傾向から、健太のチート能力である『
ということは、もう一度『
普通に考えれば、『
しかし、最悪の想定として、「『
その場合、既に一度20レベルに達している『
「元のゲームのシステムでは前者だから、まず大丈夫だと思うんだが、少ない可能性でも詰む危険がある実験を今する必要はないな」
そう独り言を漏らして、健太は残りの転職可能になった
『
それは、『
現状、最短で強くなるのならば、選択肢は『
しかし、現状健太はそこまで早急な強化の必要性はない。学園の基準で言えばアホのような速度でレベルアップしていく主人公パーティーに置いていかれない必要はあるが、その基準で見ても、ダンジョンダイブ解放初日で第二段階になる必要はないだろう。
現在は四月第二週。原作通りだとすれば、ゴールデンウィーク前に第二段階のレベル20以上になれば、主人公パーティーに置いてけぼりを食らうことはないはずだ。
まだ猶予は、二十日近くある。焦る必要はない。
そんな考えに達したのも、第一段階レア職に、魅力的な職が出現したからだ。
『
「ショートソードと特殊プラスチック盾で戦っていたから『剣士』と『盾士』。『
健太はそう推測する。
『
健太が基本第一段階を習得している『
レア職が派生する条件は、基本職を収めているかどうかより、そのレア職に相応しい経験を積んでいるかどうか、ということなのだろうか。
『
負傷やバッドステータスを癒すという唯一無二の能力を持つ反面、戦闘力がないに等しいため、以後のレベルアップにパーティーメンバーの協力が不可欠となる。
だから、人間関係をうまくやることが出来れば美味しい立場にもなれる職だが、その辺が苦手な者が付けばあまり幸福になれない職でもある。
しかし、『
「回復手段を見過ごす手はないな」
戦闘力自体は、『
ダンジョンダイブが解禁されて、数日が過ぎた。
授業は正午で終わり、午後はダンジョンダイブが推奨される自習時間という、豊葦原学園本来のタイムスケージュールに一年生達も徐々に慣れ始めていた。
午前の授業も曜日によって特色があり、月・水・金は通常の高校と同じ一般科目。一方、火・木・土はダンジョンダイブに役立つ知識、技能を学ぶ専門科目となっている。休日は日曜だけの、週休一日制である。
一般科目はあまり選択の余地がないのに対し、専門科目は単位制となっており、膨大な数の専門科目から、一定数以上の科目を選択すればよい。
健太は、迷わず『片手剣術』と『盾術』を履修した。浅い階層での危険は、主にモンスターとの戦闘だ。宝箱もまれに出現するが、手を出さなければ害はない。しばらくは、罠もない。一日数時間の戦闘ならば、サバイバルの知識もいらない。だから今は、なにをさておいても、対モンスターの戦闘力だ。
ダンジョンダイブは、今のところ二日に一回にしている。死に戻りはもちろんのこと、生還した時も、負傷や疲労はダンジョンを出た時に全て消え失せるのだが、精神的な疲労だけは消せない、らしい。
健太の場合、ダンジョンダイブの間はずっと『
ダンジョンに行かない半分の日、健太が最初に足を運んだのは図書館だった。
健太が図書館を訪れたのは、純粋にそこにある資料が目当てである。『羅城門』ダンジョンに出没するモンスターの詳細データから、各階層ごとの特徴。さらには、これまで豊葦原学園が把握している
原作で、生徒会書記の薫が「普通科の方が、図書館にいるとは珍しい」と言っていた通り、図書館にまばらにいる生徒の大半は、セーラー服を着た女子か、詰襟学ランの男子だ。ブレザーが普通科の制服であるのに対し、セーラー服と詰襟学ランは特級科――通称『華組』の制服だ。
(すごいな。叶馬は、この空気の中、ブレザー姿で堂々と長時間調べものをしていったのか。絶対真似できん)
元々、人はまばらだが、大半が普通科のブレザー姿の健太を異物として無視し、ごく一部からは明確な蔑みの視線すら感じられる。
健太はたまらず、『
そうして図書館で資料集めに勤しむことしばし。集まった、ダンジョン探索に役立ちそうな資料を、健太は片っ端から記憶していく。もちろん、素の健太に、膨大な文字情報を記憶できるほどの記憶力があるはずもない。ダンジョンショップで『
その日の夜。
(いや、これは無駄が多い。凄い使いづらい)
自室のベッドで『
意識下で、『
開いた資料を見ているページ全体の視覚情報。その際、周辺視野に映る閲覧室の視覚情報。閲覧室で常時稼働している大型空気清浄機の稼働音を主とした聴覚情報。かすかに感じられる古い紙の臭いという嗅覚情報。無意識のうちに飲み込む唾液の味覚情報。さらには、背後からこちらに向けられる華組男子が向ける見下した視線がチリチリと感じられる第六感。
これはもう、情報を閲覧しているという感覚ではない。過去の自分に戻っていると言った方が、体感的には正しい。
ただし、あくまで「過去の記憶を再生」しているだけなので、見ている今の健太に行動の自由はない。
体は自室のベッドの上に寝転んでいるはずなのに、触覚すら図書館の椅子に座っている感触や古い本を手でめくっている感触しか感じられない。ベッドに仰向けで寝ているのに、椅子に座っている感覚に不自然さを感じないとういうことは、重力の感じ方すら再生されているということか。
(これはこれで使い道はあるけど、本の文字情報を再生するには、他の感覚は邪魔なだけだわ。視覚情報だけでいい)
明確にそう意識すると次の瞬間、意識の片隅にあった『
それまでは、健太の意識では『『
一つは、『記録のためのスイッチ』。もう一つは『再生のためのスイッチ』。その『再生のためのスイッチ』の下に、もう一つスイッチが増設されている。
(これは、多分……ああ、やっぱりそうだ)
意識下で新しいスイッチをオンにしてみると、健太の脳裏に再び今日の図書館での映像が再生された。ただし、今度は映像のみで、他の感覚は伴わない。仰向けにベッドで寝ている感覚があるまま、視覚だけ椅子に座って本を読んでいる状態で再生されるので、これはこれで違和感が凄い。
(これも駄目だな。実際に椅子に座っているなら良いけど。こう、寝っ転がってスマホを見てるときみたいな感じに……)
その後、健太があーだこーだ考えるたびに、『再生のためのスイッチ』の下に次々と新しいスイッチが増えていく。
本だけが見えるようになったが、ページは時間経過での自動でしか捲れなかったバージョン。
自分でページを進めたり戻ったりできるようになったが、あくまで動画の早送り、逆再生でしかなかったバージョン。
今度はうまくいったと思ったら、一瞬意識を本から逸らしたら、その瞬間自動的に最初のページに戻ってしまったバージョン等々。
数々の失敗の末、どうにか健太は、スマホで電子書籍を読むような感覚で、『
(後は、たぶんできるはず……よし、出来た)
健太が「消えろ」と念じると、失敗スイッチが一つ意識下から消える。まとめて全部消すことも出来そうだが、間違って成功スイッチまで消してしまいそうな不安があったので、健太は一つ一つ(消えろ、消えろ)と念じて消していく。
最終的に、元の二つのスイッチと、成功した『文字情報の再生スイッチ』だけが残る。
ついでに念じると、残ったスイッチに名前のラベルを付けることにも成功する。
最初からある二つのスイッチに、『記録(全)』、『再生(全)』。新しく作ったばかりのスイッチには『再生(本)』と命名ラベルを付ける。
今は三つだけだから覚えていられるが、将来のためを思えば絶対に必要な処置だ。
(これは、単なる記憶容量というより、パソコン的な能力も付随している感じだな。ひょっとしたら、ゲームのコード一覧を一つのフォルダに纏めて全部インストールしたら、脳内でゲームが稼働したりする、これ?)
そんなことを考えてしまうくらいに、この使用感はパソコンに近い。ダンジョンショップの店主は随分コンピュータとネット文化に傾倒していたので、その可能性は十分にある。
実際には、健太が想像しているように意識下でゲームプログラムを起動させたかったら、マシン語、アセンブラ等の土台となる低レベル言語と、そのゲームに使われている高レベル言語がインストールされていて、正しく関連付けされている必要があるので、今の健太のコンピュータ知識では無理だろう。
思った以上に多様な使い方が出来るスキルに、健太はだんだん楽しくなっていく。まさにオタク全開な健太は、久しぶりに夜更かしをするのだった。