『羅城門』ダンジョンでモンスターを倒した場合の経験値の配分は、とどめを刺した者に最大量が流れ込むが、途中ダメージを与えた者にも一定量は流れ込む。
「よし、竹海先輩良いですよ」
健太は頭を六つ斬り落とし、角も九本へし折って頭と角一つずつだけが残った赤い巨竜をベアハッグの要領で拘束したまま、後ろに控える二本の洋刀を構えたショートヘアグラマラス美女――竹海にそう声をかける。
「うん、『弱点看破』……見えた、そこ!」
竹海の視界には赤い巨竜に金色の線と点が重なって見える。竹海が右で一本で突き出す黒い曲刀『炭鉱者の栄光』がその金色の点を刺し貫くと、赤い巨竜は唯一残った頭部の双眼をカッと目を見開いたまま息絶える。
だから、その後も『踊る勇者』となった竹海のレベリングと新職の慣らしのためここ『密林竜園』で竜種を乱獲していた健太の視界に見慣れた文字列が映ったのは必然というべきだ。
『義賊R』
『大剣士R』『槍騎士R』『侍』
『詠唱術士』『方士R』『火精霊使いR』『風精霊使いR』『水精霊使いR』
『神官戦士SR』
『鍛冶士』『金細工士R』『合成士SR』
『書記』『使役者SR』『統計士』『融合調整士SR』
『独りよがりSR』
『戦闘士』『襲闘士』『剛拳士R』『重装騎士』『堅牢盾士R』『鏡盾騎士R』『魔法騎士SR』『竜騎兵R』『馬上槍武者SR』『浪漫闘士SR』『小妖精騎士SR』
『略奪者』『山賊団長R』
『魔女男』『咒法師』『退神師SR』『精霊契約者』『土精霊契約者R』『拡大術士R』『紋章魔術士SR』
『司教SR』
『牢名主』『一人達者SR』
に転職可能。
※お客様のご契約、ご利用状況では、以下の職クラスは選択できません。
『聖賢見習いGR』『石猿見習いGR』『伝承の英雄GR』『称号獲得者GR』
『轟天の石榴山』をクリアした経験値でとある第二段階職を職をカンストしてこっそり転職していたので、今日一日だけでまた一つ第二段階職をカンストしたことになる。
やはり、『密林竜園』は経験値の効率が非常に良い。
「さて、どうするか……」
健太は考える。
ここ最近は補習レイド内での対策や日頃のダンジョンダイブの効率のため『職人』系や『文官』系を多く選択していたが、来週には倶楽部対抗戦の予選が始まる。
ここからは戦闘力上昇をメインに考えるべきだろう。最悪、本戦で叶馬と対決する可能性を考えれば。
しかし、その思考で残っている転職先を見返すと意外と悩ましい。
健太は倶楽部対抗戦の提出書類には第一段階職の『戦士』と記しているし、表向きは第二段階職の『騎士』を名乗ってきた。
倶楽部対抗戦でも極力目立たないように、『戦士』系の戦い方をするつもりだ。そうなると地力を上げるには『戦士』系の職を取るべきなのだが、残っている『戦士』系第二段階職は特定の武器に特化した職ばかりなのだ。
大剣特化の『大剣士R』、槍特化の『槍騎士R』、そして刀特化の『侍』だ。
対人戦では小剣と小型盾が主である健太には、倶楽部対抗戦に向けて獲得する恩恵が少ない職である。
無論、学園対抗戦ではなく普段のダンジョンダイブではそれらは十分有効に働く。
元々大剣は「雑魚散らし」用だったのだが竜種のような巨大モンスター相手にはスキルを使わなければどうしてもリーチが短い小剣よりも大剣の方が有効なことも多い。
健太が愛用している大剣は『伸縮自在』の能力があるので柄を伸ばして槍として扱うことも出来る。
(倶楽部対抗戦が始まる前に何か一つは第三段階職を身に着けるべきだろうな。となるとダンジョンダイブの効率も考えればこれか)
健太は『大剣士』に転職を果たしていると、瘴気に返った赤竜の残したドロップアイテムを竹海が見つけて興奮した声を上げる。
「ご主人様、これ! これがドロップしたよ! 私貰って良いかい!?」
そう言って竹海が掲げるのは一本の曲刀だ。一瞬竹海の『炭鉱者の栄光』と見間違えたが、そちらはちゃんと竹海の腰に収まっている。
だが、見間違えるのも無理はないくらいにそれはよく似ていた。鞘も柄も黒い曲刀で長さもおおよそ同じくらい。違いは柄の部分が二本の細い棒がクロスするような縦長なエックス型をしている点だろうか。ちょっと持ちづらそうな形状だが、強力なマジックアイテムには癖が強いものも多い。
「もちろんです、竹海先輩」
一目でわかる竹海の強い執着に気づいた健太はそう答えた。『ギア』の銘が付く正真正銘の『固有武装』である『炭鉱者の栄光』と同型のその曲刀が『固有武装』であることはほぼ間違いあるまい。
無銘、銘器と違い、『固有武装』はほぼ例外ないく意思を持って人を選ぶ。
二刀流の竹海のもとに、今ある一刀と同タイプの『固有武装』が現れたのならばそれは竹海の二刀目だと考えるのが自然だ。
「ありがとう! ヒュー!」
喜びを爆発させる竹海の分も周囲に気を配りながら、健太は話しかける。
「しかし、竜種から剣は珍しいですね。もしかして、この竜は八岐大蛇の関係だったんでしょうか?」
健太が言う通り、武器、防具、装飾品といったそのまま装備として使えるアイテムをドロップするのは通常、ゴブリン、オーク、オーガ、トロールのような人型モンスターだ。
竜種や獣型のモンスターがドロップするのは、肉、皮、骨、爪、牙、鱗、尾、内臓といった生体パーツが大半である。
今回のように竜種が剣をドロップするというのはかなり珍しい。
「うーんどうだろうね? 確かに頭はいっぱいあったけど見た目は東洋の龍じゃなくて西洋のドラゴンだったよね? あんまり八岐大蛇って感じはしなかったけど」
「そう言われれば確かにそうですね。竹海先輩、ひとまずそれは凜子先輩達に鑑定と適合をお願いしましょう」
「優梨愛じゃなくて良いのかい?」
竹海がそう念を押したのは、優梨愛は健太のパートナーとなると同時に健太の倶楽部『安息所』のメンバーとなることが決定しているからだ。
優梨愛以外にも、二年女子の詩織と一年女子の藤子も加わり、現時点で『安息所』は十四名となっている。
男子が四人に女子が十人。女子十人のうち七人が健太のパートナー。二十人中十七人が叶馬のパートナーである『神匠騎士団』ほどではないがかなりバランスの悪い倶楽部になっている。
Fランク倶楽部の上限は二十人。『安息所』の残り枠は六。これ以上なし崩しで自分のパートナーばかり増やしては部員の反感が怖い。そのため健太は残りの六枠は、二枠ずつ三人の男子尚典、来斗、霊王のパートナー枠と考えている。
当初の予定では男子最低五人まで増やしたかったのだが、竹海が倶楽部対抗戦出場を熱望しているのでひとまず五人目の男子は募集していない。
「優梨愛先輩をないがしろにするつもりはありませんが、流石に装備は妥協できないので」
『戦士の不動心』がオンになっている健太は、そうハッキリと告げる。
優梨愛は『職人』ではあっても第二段階職は『化粧士』。『職人』である以上武器、防具のメンテナンスくらいならば出来るが、蜜柑達と比べるとその力量は明確に劣る。
『固有武装』となると調整できるか怪しいところだ。さらに言えば蜜柑のようにそれ用のアイテムを所有していないのならば、鑑定は『職人』でも『鑑定士』しか出来ない。
「それはそうだね。優梨愛には今後に期待しようか。っと、そろそろ良い時間だね。『脱出』で……ってもう使えないのか。これだけはちょっと不便だね。『帰還珠』を使うのは流石にもったいないし、『閉門』を待つしかないか。『閉門』は混むから好きじゃないんだけどね」
と竹海はそう愚痴をこぼす。
『遊び人』には『脱出』という自分一人限定だが、ダンジョンから任意にログアウトできるスキルが存在する。竹海が一年の時、何度も転職を繰り返すことが出来たのも、ギリギリまで経験値を稼いで危なくなったら『脱出』でログアウトという効率的な経験値稼ぎが出来たからだ。
『遊び人』系第二段階レア職『良い踊り子』から勇者系GR職『踊る勇者』に転職したことに竹海は後悔などあるはずもない。しかし、『遊び人』には『脱出』の他にも弱いとはいえ自分の傷を癒せる『自慰』、存在感を消す『蜻蛉』といった便利なスキルが結構あった。
それを失うのはちょっと惜しい。
そんな若干の未練から発した竹海の言葉に、健太はあっさりと非常識な答えを返す。
「ああ、言ってませんでしたね。俺の転職では他職への横移動でも前職はロストしませんよ。竹海先輩は今でも『脱出』が使えるはずです」
それは色々慣れたつもりでいた竹海にとっても十分に衝撃的な情報だった。
竹海はどちらかというと自己制御が出来ている側の人間である。だから、今聞いた情報を検証するにしても最初は『蜻蛉』のような使っても大きな変化が起きないスキルで試すべき、という判断が下せる人間のはずである。
「…………《脱出》」
そんな竹海がとっさに『脱出』を使ってしまったのはそれだけ思考停止状態になっていたのだろう。
「…………ほんとに使えたよ」
一足先にログアウトを果たした竹海は、少し遅れて健太がログアウトしてくるまで『羅城門』がある地下空間で頭を抱えて蹲っていたのだった。
その翌日。
来週には倶楽部対抗戦の予選が始める。つまり、今週はその最後の追い込みの日々だ。
そのため、健太は補習レイド前に蘭、竹海、風音、幸子の四人と約束した「彼女たちの為に放課後を四日間使う」という約束を一部「倶楽部対抗戦の後」にずらすことをお願いしていた。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『拾壱』階層、『既知外』領域――
竹海を『踊る勇者』に転職させた翌日。健太は、単身第十一階層、通称『砂漠草原』にログインしていた。
『砂漠草原』。その通称通りのだだっ広い草原と砂漠の上空を、健太は『応龍』のモモノスケに跨って飛行していた。
健太が今捜しているのは、『砂着馬』や『粘土馬』といった馬系のモンスターだ。より正確に言えば、カード化した時に『馬蹄』の能力を確定で所有しているモンスターである。
来週から始まる倶楽部対抗戦の予選。健太達『安息所』のレギュラーは健太、尚典、来斗、霊王、そして竹海の五人だ。
そのうち、分かりやすい弱点があり、その弱点を補う手段が明確に存在しているのが来斗である。
来斗は戦士系第二段階レア職『重殴士』だ。『重殴士』は武装が打撃武器に限られる代わりに攻撃力がバカ高く、防御力も高く、移動速度が泣けるほど低いという特徴がある。
好戦的且つあまり頭が良くないモンスター達を相手にする分には、移動速度の低さはそこまで問題とならないのだが、対人戦の一対一では致命的な弱点となりうる。
それこそ、第一段階職の『術士』相手でも引き撃ちに徹されれば負ける可能性すらある。まあ、実際には倶楽部対抗戦には「時間切れ判定」というものはないので、防御力の高い来斗が『術士』のSP切れまで粘って勝利する可能性の方が高いだろうが。
ともあれ、鈍足という弱点は『馬蹄』を付与した装備があれば補える。『馬蹄』の能力がついたモンスターカードさえ持ち込めば、蜜柑達が作成してくれることは確約が取れている。
「問題は、『砂着馬』も『粘土馬』も中々見つからないことだな」
健太はモモノスケの背中の上でそう呟く。
『砂着馬』と『粘土馬』は既知領域で頻繁に見つかるモンスターである。それは『砂漠草原』では弱いモンスターであることを意味する。
以前第三階層で、既知領域ではゴブリンとコボルトがいるのに、既知外領域ではゴブリンしかいなかったのと同種の現象だ。
だから、健太は現在、あえて既知領域に近づくよう、真っすぐモモノスケを飛行させていた。
同時に『地図帳』のスキルで広域のモンスター分布を調べて、それらしい存在が進行方向近くに見つかれば確認しながら進んでいた。
そうしていると健太の脳裏の『地図帳』にモンスターと思しき黄色いピンが数十本固まって移動している様子が映し出される。進行方向からは多少ズレているが、これ位ならば許容範囲だ。
「行ってみるか。モモノスケ、あっちだ」
やがてはるか上空から見下ろす健太の視界に見えてきたのは砂砂漠の上を進む、大きなサソリの群れであった。
「『炭化重硬金属蠍』か。はずれだな」
鈍く光る灰色の外骨格を持った大サソリの群れを見下ろし、健太はそう呟く。
『炭化重硬金属蠍』。大きさは精々軽自動車程度だが、重くて固い金属光沢の外骨格に覆われ、同質の鋏と猛毒の毒針を有するシンプルに手ごわいモンスターである。
それが百匹近い数が群れを成している様は、流石は既知外領域というべきか。
「《ふっ》!」
上空で健太はモモノスケの背から飛び降りると、『空歩』を天井を蹴る要領で踏み、重力加速度の数十倍の速度で落下する。
同時に両手でも持つ大剣の柄を十メートル程伸ばし、
「《ふっ……はああ》!」
『大豪撃』のスキルを百近い『炭化重硬金属蠍』が密集する真ん中に叩き込んだ。
『大豪撃』は『大剣士』のスキルである。『大剣士』のスキルらしく大剣を装備していなければ発動しない攻撃スキルであり、高威力、広範囲の攻撃スキルとして知られている。
事実、健太の『大豪撃』は砂漠の真ん中に大きなクレーターを作り、三分の一ほどの『炭化重硬金属蠍』を屠っている。
『炭化重硬金属蠍』の硬さを考えれば驚異的な威力といっても良い。
自ら築いたクレーターの真ん中で健太は、柄を伸ばした大剣を両手で構え、自分を取り囲む数十の『炭化重硬金属蠍』を睨む。
前後左右、どこ襲い掛かってきても対応できるように、肉眼だけに頼らず脳内の『地図帳』も併用して死角の敵にも警戒を怠らない。
「サソリか。『小妖精騎士』になれば騎獣として使えるか? 流石に無理か。《ふっ》《せいっ》」
明らかにタイミングを合わせて前後左右から同時に尻の毒針を伸ばしてくれる『炭化重硬金属蠍』数匹を、健太は自分を軸に大剣を一回転させるように振りまわし、まとめて屠る。
大剣のもう一つの機能『鋭刃』を発動させ、巨大な灰色の刀身を薄い黒い刀身に変えた大剣は、『斬撃』の効果も手伝い、頑強な『炭化重硬金属蠍』を纏めて切り裂いたのだ。
「《ふっ》《はっ》《しっ》」
その後も健太の大剣は襲い来る『炭化重硬金属蠍』をなで斬りにしていく。
健太は、倶楽部対抗戦までに何か一つ第三段階職を獲得するつもりだが、『小妖精騎士』は一応その候補の一つである。
『小妖精騎士』は非常に珍しい職ではあるが、一応学園図書館の資料にその名が記されている。
簡単に言えば『小妖精騎士』は虫系モンスターを騎獣とする騎士職だ。
『小妖精騎士』には『自己縮小』と『騎獣拡大』というスキルが存在するので、虫系であればサイズに関係なく騎獣に出来る。
どのモンスターが虫であるかは学術的な問題ではないので、かなりファジーに判定されるのだが、流石にサソリが虫は強弁が過ぎるだろう。
健太はそんなことを考えながら、残りの『炭化重硬金属蠍』を殲滅していった。
その後も健太は、『馬蹄』の能力を持つモンスターカードを求めて、移動し続けた。
『応龍』のモモノスケに乗って上空を移動しつつ、『地図帳』にそれらしいモンスターの群れを見つけて向かい、殲滅。
それを何度も繰り返し、『大剣士』をカンストさせて『槍騎士』に転職を果たした頃、健太はやっとそれを発見した。
「どうにか見つかったか。あれだけの数がいれば、『モンスターカード』も一枚くらいは期待できるか?」
すっかり慣れたモモノスケの背の上から、健太はそう呟いて砂漠を走る『粘土馬』の群れを見下ろす。
『粘土馬』ここ第十一階層『砂漠草原』では本来頻繁にみられるモンスターである。その名通り、外見は粘土細工の馬のようであり、これといった特別な攻撃手段は有していない。
現実の馬と違いかなり好戦的だが、攻撃手段は通常の馬同様後ろ脚での蹴りと噛みつきぐらいだ。ただし、現実の馬とは攻撃力が全く異なる。
噛みつきには鋭い犬歯こそないものの、強力な咬合力は時に第二段階職になっている者の体も噛み千切り、蹴りに至っては重武装の『騎士』でさえ一撃で戦闘不能としうる。
また、『粘土馬』という名前の通り体は粘土のようになっており、多少刺したり切ったりするくらいでは出血もせず、非常に生命力が高い。
それが今回健太が発見したように五十匹を超える数が揃っていれば、決して侮れない戦力と言えよう。
もっとも、上空への攻撃手段を持たない上に、自慢の走行速度もモモノスケの飛行速度に負ける『粘土馬』が、モモノスケに跨る健太に攻撃することも逃げることも不可能ではあるのだが。
「ヒヒーン!」「ブヒイイ!」「メルメルー!」「ブルルウ!」「ヒヒヒーン!」
「《突き抜けろ》」
足場の悪い砂砂漠を狂ったように逃げ惑う『粘土馬』の群れに、柄を伸ばして長槍状態にした大剣を構える健太が上空から『空歩』『二歩』を併用して『騎槍突撃』を繰り出す。それを繰り返すこと数度。
さほど時間を置かずして、五十を超える『粘土馬』の群れはクリスタルとドロップアイテム、そして二枚の『モンスターカード』に変貌を遂げるのだった。
「よし、どっちもちゃんと『馬蹄』の能力があるな。しかし、あれだけの数で二枚もドロップしたのは幸運だった」
『粘土馬』のドロップアイテムを集めた健太は、主目的だった『粘土馬』のモンスターカード二枚を確認してそう呟く。
馬系モンスターのモンスターカードにはほぼ例外なく『馬蹄』の能力が付いている。
健太が入手したその二枚のモンスターカードも、一枚は『馬蹄』と『温かい』、もう一枚は『馬蹄』『根性』『優しい』と三つの能力がある。
しかも三つの能力があるモンスターカードは描かれている『粘土馬』は色が白く、さながら白馬といった風貌だ。
「本来なら、どちらも来斗の装備用に取っておくべきなのだろうが」
健太のその言葉は正しい。『職人』が『合成』のスキルを使えば装備品にモンスターカードの能力を永続付与させることが出来る。しかし、その時付与する能力は選べないのだ。
能力が二つあるカードなら二分の一、三つあるカードなら三分の二の確率で狙っていない能力が付与されていまう。
それを考えれば、『馬蹄』を付与した装備を作るためには、一枚でも多くのカードを擁しておくべきだろう。
しかし、白い『粘土馬』のモンスターカードは、装備に付与するために潰すのは惜しい。『根性』も『優しい』も騎獣にはとても有効な能力だ。
将来的には第三段階職で『竜騎兵』、『聖騎士』、『小妖精騎士』等を取って竜種、天馬、虫系などにも騎乗可能になる予定の健太だが、表札として目立たない『粘土馬』は是非とも所有しておきたい。
「まだ時間の猶予はある。これは俺が貰うか《騎獣、召喚》」
そう決断を下した健太は、白い『粘土馬』のモンスターカードを右手に持つと『騎士』系のスキルである『騎獣』のスキルを発動させる。
効果はすぐに表れた。
健太の右手からモンスターカードが消え、代わりに眼前に白い『粘土馬』が姿を現す。
『騎士』の『騎獣』での召喚は、『文官』の『具象化』での召喚とは異なる。
『具象化』ならば、召喚するモンスターが自分のレベル以下であれば原則最初から支配出来ているのだが、『騎獣』は最初に召喚したモンスターを召喚者である『騎士』が一人で屈服させる必要があるのだ。
「来い」
「…………」
大剣を両手で構え、腰を落とす健太に白い『粘土馬』はすぐさまその場で両前足を折り、鼻先を砂地に埋めるようにして『降参』の意を伝える。
「むう…………」
健太としてはかなり拍子抜けだが、両者の戦闘力を比較すれば当然の結果とも言える。
すぐに気を取り直した健太は、ゆっくり白い『粘土馬』に近づくと、低く下げているその頭を軽く撫でると、
「よし、今日からお前は俺の騎獣だ。頼んだぞ、シュナイダー」
と早速白い『粘土馬』に名前を付ける。
「ブヒヒヒーン!」
白い『粘土馬』――シュナイダーは立ち上がると、嬉しそうに嘶くのだった。