週が変わると、ついに倶楽部対抗戦の始まりである。
三学期制のこの学園で学期ごとに一度ずつ、年三回行われる倶楽部対抗戦は学園の倶楽部のランクを決定する一大イベントだ。一学期に行われる水無月杯は、健太達一年生にとっては始めての倶楽部対抗戦になる。
水無月杯は予選と本戦に分かれる。今週一週間は予選期間である。
予選開催中も授業は普通にあるので、倶楽部対抗戦が行われるのは午前の授業が終わった後の放課後である。
正確に言えば午後の授業が終わって一時間は昼食時間として戦闘そのものは行われないが、その間に戦闘を申し込むことはできるので事実上午前の授業が終わった瞬間から始まると言っても良いだろう。
倶楽部対抗戦の運営陣は予選、本戦共によく実験的にルールを微調整してくるので、すでに倶楽部対抗戦を経験している上級生でもその度ルールの確認は必須だ。
変わらないのはレギュラーが五人、補欠が二人という人数。決勝はトーナメント形式であるということ。そして、各ランクごとの枠数だ。
すなわち、Sランクが四、Aランクが12、Bランクが48、CとFは数制限なしとなっている。
予選落ちがFランク。予選突破でCランク。ベスト64でBランク。ベスト16でAランク。そして、ベスト4――準決勝進出でSランクである。
一年オンリー、もしくは一年が主力の倶楽部がこの一学期の水無月杯で予選突破出来れば「快挙」らしいので、健太達倶楽部『安息所』も予選を突破してCランクになることを目指している。
健太個人としては「目指せCランク」の目標は、よほどの不運に見舞われない限り達成できると睨んでいる。
今回の予選の方式では、理論上健太一人で予選突破可能なポイントを集めることが出来るルールになっているからだ。同学年の出場者を選んで戦えばまず負けることはない、という健太の自負を過信と呼ぶものはいないだろう。
そんな倶楽部対抗戦初日である月曜日の放課後。
健太は早速見知らぬ一年男子に対戦を申し込まれていた。『釣り』のため、あえて『戦士の不動心』をオフにして放課後の一年教室のある廊下をウロウロしていたかいがあったというものだ。
今回の予選のルールは、基本的に学生決闘に準ずる。すなわち、格下もしくは同格からの挑戦に拒否権はない。
学生決闘と少し違うのは格下、格上、同格の評価基準は個人のレベルや職ではなく、純粋に所属する倶楽部のランクで測られるということだ。
かくして、早速倶楽部対抗戦実行委員会がすぐさま飛んできて、その男子と健太の勝負成立が告げれらた。
場所は一年棟の屋上。明確な時間制限はないので、申し込まれた時武装していない者は一時離脱して武器、防具を取って来ることは許されるらしい。
最初から方形盾と小剣『金狼木霊剣』を腰に下げていた健太はそのまま屋上に向かう。白黒虎革製の胸部鎧と大剣はないが、どちらも対モンスター戦ならばともかく対人戦ならばあっても勝率に影響はないだろう。
「っ!?」
階段を上がり、無事屋上にやってきた健太は屋上で『ある者』を発見し、隠しようがないくらいに動揺して後悔と恐怖で顔を引きつられた。
先に来ていた対戦相手は、健太のその様子を誤解してあざ笑う。
「おやー、ビビってんの? 今更? ビビり君がレギュラーやんなきゃ駄目って雑魚の寄り集まり倶楽部かよ」
健太より頭半分背が高く、パーマのかかった真ん中分けの一年男子はいかにも挑発的にそう言ってくる。
「…………」
匿名掲示板ならばともかく、リアルで顔を合わせてのレスバでは最弱の自覚がある健太は沈黙を保つ。
同時に対戦相手である男子を観察する。
背は明確に健太より高い。百八十近くはあるだろう。筋肉質というわけではないが手足が長く、いかにも運動が出来そうな体つきをしている。それは自信のある表情からも伺える。
胸には、倶楽部名と倶楽部の紋章が描かれた青色の缶バッジが付いている。この缶バッジが倶楽部対抗戦出場者の証だ。
色は現所属倶楽部のランクを表しており、青色はFランクだ。健太の胸にも同色の缶バッジが付いている。
Fが青色。Cが黄色。Bが銀色。Aが金色。Sが虹色。
倶楽部対抗戦予選期間中、参加者は必ずこのバッジを目立つところに付けていることが義務付けられている。意図的に隠していると判断された場合、キツイ罰則がある。
予選突破条件は、予選終了時点でこの【バッジを十個所有】していること。
自分のバッジも一個に数えて良いので、誰も敗北しなければ五勝すれば予選突破となる。
逆に五勝していようが、十勝していようが敗北した時に失われるバッジは自分が最初から持っていた一個だけなので、十勝した後ならば五人全員が敗北しても予選突破になる。
また、Bより上の倶楽部のバッジは二個として換算するので、彼らはゼロ戦ゼロ勝でも予選突破が可能だ。
ただし、予選突破時点での所有バッジ数が決勝トーナメントのシード権に関わって来るので、上を目指すイケイケのB、Aの倶楽部は積極的に予選から勝負を挑んでくるという。
倶楽部対抗戦の決勝トーナメントは、将棋の竜王戦に近い歪なトーナメント表になっているので、シード権の有無は馬鹿にならない。
「あれ? 返事がない? マジのガチでビビり入ってる? 声震えるから喋れないってか?」
「…………」
健太は無言のまま歩みを進めながら、対戦相手の観察を続ける。
武装は腰に差している長剣。明らかに学園の購買で販売している品ではない。この時期の一年が購買の武器を『卒業』しているというのは上澄みの部類に入るだろう。ひょっとするとマジックアイテムという可能性もある。
一方防具と呼べるものは制服だけだ。一応、ワイシャツだけの夏服ではなくブレザーを着る冬服にしているのが防具と言えば防具か。
スペクトラ繊維で出来ている豊葦原学園の制服はそれなりの防御力がある。
武器を重視する装備の揃え方は、学園では極々一般的な思考だ。
ダンジョンダイブでは先手必勝で攻撃される前に倒しきることが一番コスパのよりレベルアップ方法である。
『聖堂』で転職される職に回復手段を有するものは非常に少ない。そして、ダンジョンダイブで入手可能な回復アイテム――ポーションの類は、ダンジョンの外に持ち出した瞬間から急速に劣化が始まる。
結果、学園生たちの大半は回復手段を持たないまま、ダンジョンダイブをせざるを得ない。
ダンジョンダイブはゲームのようだがゲームではない。ヒットポイントが満タンだろうが残り1だろうが同じパフォーマンスを出せるわけではないし、多少の怪我でも治療せずに出血が続けば死に至る。
そんな状況でモンスターを倒しレベルアップを続けるには、一撃も食らわずに一方的に敵を倒し続けることこそが重要になる。
結果、狙う敵は経験値は多くても強いモンスターではなく経験値は少なくとも弱いモンスターとなり、装備の重要性は圧倒的に防具より武器になるのだ。
無言のまま健太が、屋上に設置された簡易ダンジョン結界施設の一つに足を踏み入れると、白い覆面をした人物が声を上げる。
「ではこれより、倶楽部対抗戦『水無月杯』予選試合を行う。初めの合図とともに開始。止めの合図で終了だ。勝敗は我々『倶楽部対抗戦実行委員会』がジャッジする。ジャッジに対する抗議は認められない」
その白い覆面は健太がすでに四回ほどお世話になっている『学生決闘委員会』を彷彿させるが、実際覆面の中身は九割がたダブっている。
彼らは元、もしくは現役のSランク倶楽部の人間だ。Sランク倶楽部の上級生は卒業後を見通して、運営側に回るケースが多い。
「結界内で中央の線を超えなければ、開始時点の立ち位置は自由だ」
ジャッジである白い覆面の『実行委員』はそう説明する。一対一で開始距離を固定してしまうと、『術士』系が極端に不利、もしくは有利になってしまうので、そうしたルールになっているようだ。
「武器を構えて」
表向きは『騎士』系として振る舞うつもりの健太は、極端に後ろに下がることはなく、その場で腰の『金狼木霊剣』を抜いてかまえる。
健太は考える。
(油断は禁物だけど、装備からしても足運びを見ても負ける相手じゃないよな。どの程度手加減すれば良いか分からないから、最初は防御的に行くべきか)
幸い、ディフェンシブな戦い方は健太が一番得意とするところだ。
健太がそんなことを考えていると、対戦相手である一年男子も腰の長剣を抜き、構えながらなお挑発的に言葉を紡ぐ。
「なあ、お前の倶楽部女いる? お、その反応、いそうじゃん。どうせお前の倶楽部ここで解散だろうから、その女俺が貰ってやるよ。お前ら雑魚に可愛がられるより、女もよっぽど幸せだろ。お前も分不相応な立場から解放されるし、ウィンウィンだな」
「…………」
健太は無言のまま『戦士の不動心』をオンにした。そして、
「始め!」
開始直後、一瞬で距離を詰めた健太の小剣『金狼木霊剣』が一年男子の下腹部に深々と突き刺さった。
「それまで! 勝負あり!」
「な? ふざけんな! こんな雑魚に、誰が! 俺はまだやれる!」
傷が鋭すぎたのか、腹部が熱いとは感じても痛いとは感じない一年男子は開始一秒で決着を宣言した決闘委員に罵声を浴びせる。
実際、腹部の傷だけではダンジョンダイブでレベルを上げている人間は戦闘不能にはならない。
健太が刺した場所は内臓で言えば消化器官が詰まっている場所だ。呼吸器官系と違い消化器官系の損傷は、ダンジョンダイブでレベルを上げている人間にとって、即座の戦闘不能を意味しない。
だが、その一年男子の言葉は、自分の状況を全く理解していないことを意味していた。
「どうやってだね? 手も足もないのに」
「はっ?」
言われて視点を自分の体に向けた一年男子は、やっと今の自分の状態に気づく。
両手両足全てが根元から斬り落とされていて、健太が右手で持つ『金狼木霊剣』に縫い留められた形で宙に浮いているという状況に。
「は? あ! ギャアアアア!!」
遅れて噴き出す両手足の断面からの出血と同時に激痛に襲われた一年男子は『金狼木霊剣』に突き刺さったまま狂ったように泣き喚く。
「…………」
泣き叫ぶ一年男子に『戦士の不動心』がオンになっている健太は表情一つ変えず、ずっと無言のまま至近距離から一年男子の眼を見続ける。
「出血が多い。両手足に同時に行くぞ。すまないがもうちょっとそのままの体勢で支えていてくれ」
審判をしていた『実行委員』の言葉に、数人の同じような白い覆面をしている『実行委員』が寄ってきて慣れた手つきで落ちている一年男子の手足を拾うと、ずれないように傷口にくっ付けてポーションを振りかけていく。
「よしくっ付いた。抜いて良いぞ」
あっという間に四肢を取り戻した一年男子の腹部から健太が『金狼木霊剣』を引く抜くと、最後に審判をしていた『実行委員』はその腹部の貫通痕にもポーションを振りかけると、一年男子の体は元通り傷一つない健康体を取り戻した。
「ヒッ、ヒッ、ヒッ…………!」
「…………」
激痛と恐怖に一年男子が意識を手放すまで、健太はずっと無言のまま一年男子の眼を覗き込み続けていた。
無事、倶楽部対抗戦予選の初戦を勝利で飾った健太は、足早にその場を後にしようとする。何事もなくこのままこの場を立ち去ることが出来ることを、祈りながら。
しかし『戦士の不動心』がオンになっている健太は、その祈りが届かないことも冷静に理解していた。
「健太さん! 今の剣戟凄かったですね!」
だから、その少女――沙姫が極めて友好的な声と表情で突進してきたときも、気勢を制して先に声を上げることに成功する。
「沙姫さん。俺達『安息所』と叶馬の『神匠騎士団』は、決勝トーナメントで会う約束してるからね。こんな予選の早い段階でつぶし合ったら、どっちかの倶楽部が予選落ちするからね」
「…………むう」
学園でもトップクラスの美少女顔を「不満」という文字で彩っているように口を尖らせる沙姫の様子に、健太は『戦士の不動心』がオンになっているにもかかわらず、動悸が止まらない。
危なかった。もう少し遅ければ、沙姫の口から「私とやりましょう!」という言葉が出ていた。
この場には、倶楽部対抗戦実行委員が複数いるのだ。彼らの前でその言葉を言われたら、その瞬間無条件で健太VS沙姫が成立していた。
なにせお互い所属倶楽部がFランク。断る権利はないのだから。
屋上に足を踏み入れた瞬間、健太が顔を引きつらせたのは沙姫の姿が見えたからである。
丁度腕を斬り落とされて蹲る対戦相手を、沙姫が一年寅組の教室内で『冷血』と呼ばれているに相応しい冷たい凍てついた表情で見下ろしているところだったのだ。
その表情が、屋上に上がってきた健太を発見した瞬間、人懐っこい大型犬のような笑顔に変わったのを見たからこそ、健太は恐怖と危機感で顔を引きつられていた。
原作主人公勢で、主人公の叶馬に次ぐ戦闘力を誇り、叶馬に次ぐ戦闘狂であり、叶馬に次ぐお馬鹿さんである沙姫だ。こうなることは予想できていた。
(しまったな。決勝トーナメントで叶馬の相手をする危険性ばっかり考えて、予選のことをすっかり忘れていた。放課後、麻鷺荘に行って話を付けておかないと)
『戦士の不動心』がオンになったままの健太は冷静にそう、この失態の被害を最小限に抑えるための次善策について考えていた。
倶楽部対抗戦予選初日が終わってすぐ。健太は真っすぐ女子寮麻鷺荘に向っていた。
叶馬達の友人、蜜柑達の恩人、そして麻鷺荘の寮生である空亜が所属する倶楽部の部長ということで半ば顔パスの立場になっている健太だが、あくまで不文律に拘り勝手に寮の敷地内に足を踏み入れたりはせず、帰ってきた寮生の一人に伝言を頼み、許可を貰ってから玄関を潜る。
健太が通された元麻鷺荘の元ミーティングルーム、現『神匠騎士団』の部室(仮)では、一人の男子と四人の女子が待っていた。
「来たか」
「健太さん。今日は沙姫が迷惑をかけたようで、申し訳ありません」
「わーい、いらっしゃい。健太君」
「健太君、予選初日お疲れ様」
「今日は申し訳ありませんでした。健太さん」
叶馬、静香、蜜柑、凜子、沙姫の四人である。
部長の叶馬、副部長の静香と蜜柑。そして、事実上の副部長である凜子と、『神匠騎士団』の幹部メンバーに今日の当事者である沙姫だ。
すでに沙姫から今日屋上で起きた出来事については聞かされていた静香たちだったが健太側の意見も聞き、大きなため息をついたのは静香、頭痛をこらえるように頭を押さえたのは凜子だった。
「はあ。そもそも、予選初日は様子見。こちらからは仕掛けない。と決めていたはずだったのですが」
「叶馬君がどうにか『待て』出来てたのに、沙姫ちゃんが暴走しかけたのか。これは沙姫ちゃんもう一回お説教かな」
『神匠騎士団』と『安息所』は事実上の同盟関係にある。予選でいきなりつぶし合うのは、いくら何でも非合理すぎる。
だが、そんな沙姫を弁護するのは、沙姫に一番近い価値観を有している者、叶馬である。
「うむ。沙姫もそれは重々承知している。だが、不満が残る一戦の直後、健太と死合えると思ってつい衝動的に動いてしまったのだろう。その気持ちは俺もよくわかる」
「ですよね! 流石、御屋形様!」
「駄目! それは駄目だからね、叶馬君! もちろん、沙姫ちゃんも!」
そんな叶馬と沙姫を正面から叱り飛ばすことが出来るのはやはり、蜜柑だった。
小さな両拳を頭の上に掲げて、可愛い顔に精一杯の厳めしさで叱る蜜柑に、叶馬は無表情ながらシュンとする。沙姫も飼い主に叱られた大型犬のように項垂れる。
「はっ、無論です。蜜柑先輩」
「はい、すみません」
戦闘狂である叶馬だが、幸い今は倶楽部対抗戦予選が始まったばかり。健太という極上の相手との対戦が禁じられたとしても、戦闘の機会は転がっている。だからまだ我慢は可能だ。
不穏ではあるがひとまず叶馬が理解してくれたところで、今回の倶楽部対抗戦における『安息所』と『神匠騎士団』のお互いに対する対応を決定する。
『安息所』の代表は当然部長の健太だが、『神匠騎士団』の代表は部長の叶馬ではない。
条件交渉や情報のすり合わせなどの場面では、部長の叶馬と副部長の蜜柑はお飾りとマスコットになる。
交渉の矢面に立つのは、もう一人の副部長である静香と事実上の副部長である凛子である。
とはいえ、今回は交渉でも何でもない。お互い「流石にやらないだろう」と思って特に話し合っていなかった「常識」をあえて言語化して約束するだけである。
「というわけで、今回の倶楽部対抗戦予選では『神匠騎士団』と『安息所』はお互いに勝負を申し込むのは全面的に禁止かな」
いつもの眠そうな半眼を精神的疲労でさらに細く瞑りかけている凜子が合意に至った結論を言葉にする。
「はい。異論はありません。最初からそのつもりでしたし。でも考えてみれば、ちょっと不用意でしたね。俺は『神匠騎士団』の紋章も全部員の顔と名前も知ってるけど、顔見知りじゃない組み合わせもありますよね」
『安息所』のレギュラーは健太、尚典、来斗、霊王、竹海の五人。
一方『神匠騎士団』のレギュラーは叶馬、誠一、沙姫、麻衣、乙葉の五人。全員が全員の顔を知っているわけではない。
顔見知りでなければ、その気がなくとも偶然つぶし合いをしてしまう可能性はあった。まあ、出場倶楽部がとても多いので可能性としては相当低いが、ゼロではない。
健太の言葉に静香と凜子は少し考えて首肯する。
「そうですね。霊王さんに関してはこちらのレギュラー五人全員顔を知らないはずです。教室が一緒の海春でしたら知ってるでしょうけど。
来斗さんは白鶴荘で何度か顔を合わせているはずですが、ちょっと怪しいですね。少なくとも乙葉先輩は確実に知らないはずです」
「尚典君は問題ないかな。朝晩の食事は麻鷺荘の食堂で取ってることが多いし、ここのアイドルだから。竹海も問題ないね。叶馬君達も白鶴荘で顔を合わせているし、沙姫ちゃんは何度か話もしているよね。乙葉は知らないはずないし」
凜子はそう言って人の悪い笑みを浮かべる。
乙葉は今回の一件で、やっと倶楽部『安息所』に竹海という人間がいることを知るはずだ。
その時どのような反応をするか、分かり切っているのだがそれでも楽しみにしている凜子である。
「それなら、この対抗戦が終わったら両方の倶楽部が集まってお疲れ様会をやろうよ。それでみんな友達になっちゃおう」
そんな光の極みのようなことを太陽のような笑顔で言ったのは蜜柑だ。
正直、どちらの倶楽部も陰の者の比率が高いので、合同お疲れ様会の最初は微妙な空気になりそうではあるが、こうした機会に全員顔見知りになっておいた方が良いだろう。
幸子や藤子あたりは叶馬と会ったらひきつけを起こしそうではあるが、健太のパートナーである以上それは我慢してもらうしかない。
「良いですね。ご迷惑でなければ会場はこちらでお願いできますか?」
健太は少し図々しいかな、と思いつつもそう願い出る。
『安息所』が十四人で『神匠騎士団』が二十人。合わせれば三十四人だ。
白鶴荘ではちょっと手狭だ。その点大改造が始まっている麻鷺荘ならば、どうにか捌ける人数である。
それに白鶴荘でやればこちらが飲食の用意をしなければならないが、麻鷺荘でやれば向こうがやってくれる。
もちろん、礼儀として差し入れくらいは持って行くつもりだが、その手の準備に関しては『調理士』の久留美と『菓子調理士』の芽龍がいる麻鷺荘には絶対にかなわない。
「はい。是非いらしてください。大丈夫ですよね?」
健太に対しては色々と借りが溜まっている自覚を持っている静香はそう請け合った後、念のため凜子に確認を取る。
「うん、大丈夫。クルミちゃんもメロンちゃんも張り切るんじゃないかな。あ、でも健太君の倶楽部、男子四人いるよね? 健太君と尚典君は分かるけど、後二人は大丈夫かな?」
問題点に気づいた凜子がそう確認をしてくる。
すっかり感覚がマヒしているが、麻鷺荘は女子寮である。この学園で女子寮が男子を招き入れるというのは、「ガッツリ一晩セックスします」と言っているようなものなのだ(実際、尚典は麻鷺荘に泊まる度、一晩平均五人前後に食べられている)。
「どの程度を大丈夫というかによりますけど、来斗も霊王も女子に対する危険度は俺と同レベルですよ」
だから、健太はそう残り二人の男子部員について請け合う。
来斗は実咲、霊王は珠貴に大きく入れ込んでいる。もちろん、だからと言って他の女子に誘われても絶対断るというほどの潔癖性ではないが、少なくとも男子の方から性行為を強要することはないはずだ。
「うん、それなら安心かな」
過去のことから男子に恐怖症を抱いている凜子は少し、ホッとしたようにそう言う。
ともあれ、これで予選での両倶楽部のスタンスが決まった。
そろそろお暇しようか、と健太が腰を浮かせかけたその時だった。
「なあ、健太」
それまでずっと沈黙を保っていた叶馬が突然ボソリと健太の名前を呼ぶ。
このタイミングで叶馬が口を開く。それだけで嫌な予感がする健太だが、返事をしないわけにはいかない。
「なんだ、叶馬」
「共倒れにならないため、俺達が予選ではつぶし合わないというのは分かった。ということは、お互いバッジを十個以上集めて双方の決勝進出が確定した後ならば、お前に勝負を挑んでも支障はないのではないか?」
「それです、御屋形様!」
叶馬の言葉に、叱られた大型犬のように下を向いていた沙姫もランランと目を輝かせる。
(畜生、コイツ気づきやがった)
「駄目だ! 絶対やらん! 沙姫さんも駄目だからね!」
実はその可能性についてはとっくに気づいて健太は、どうにか勢いで押し通そうと普段は上げない大声を発するのだった。