翌日。
午前の授業を終えた
一人で授業を受け、一人で休み時間を過ごし、一人で昼食を取り、一人でダンジョンにダイブする。
豊葦原学園が生徒に求めるダンジョンダイブ回数やレベル上げという部分だけ抜き出せば、健太は優等生と言えるのだが、それをもって健太の学園生活を「順調」というのは、流石にちょっと違う気がする。
「だんだん、正体が露わになってきたな……」
『
健太の言う通り、これまではあまり目にしなかった、豊葦原学園特有の、緩い性風紀が徐々に視界の隅に入るようになってきている。
男子寮の朝食に、なぜか女子が数人参加していることを皮切りに、学園のあちこちで明らかに性行為に勤しんでる男女の存在が見え隠れしている。
主人公パーティーの四人は、すでに
豊葦原学園で、パートナー届が受理されていれば、その男女の性行為は公認されたものとなる。男がしたくなった時、いつでもやってよい。基本、女に拒否権はない。それでも、特定の男のパートナーとなりたがる女が多いのだが、それは正式なパートナーがいる女にそれ以外の男が性行為を強制することは、咎められるからだ。
パートナーとなる男が十分に強く、ある程度(豊葦原学園基準の)良識を持っていれば、女子にとっては最善に近い学園生活とさえ言える。
ファーストダイブの日の夜から、毎晩セックスに明け暮れている主人公パーティーは流石に、「一年にしては早い」部類だが、早いだけでこの学園の生徒としては、当たり前のルートでしかない。むしろ、叶馬は静香、誠一は麻衣だけを抱き、パーティー内でのスワッピングがないというのは、この学園では良識的な部類に入る(誠一はこの時点ですでに、他のクラスメイト女子を『つまみ食い』しているはずだが、それを踏まえても、良識的な部類だ)。
実際原作では、一年
まだ、四月の半分もいっていない現状、そこまで明言していないようだが、そうした条件はこの学園では、全く珍しいことではない。
(休み時間や放課後に、
レベルは一年でトップクラスのはずなのに、なんだかものすごく敗北感を感じる健太である。実際、「学園生活を楽しむ」という面では、今のところ圧倒的敗者であることは事実だろう。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『
ダンジョン内のあまり広くない玄室で、戦闘が行われていた。
一方は、三匹のゴブリン。それぞれ槍、こん棒、ショートソードで武装している。
相対するのは、一匹のゴブリン。こちらも槍で武装している。
三匹のゴブリン達と比べ、敵対している一匹だけのゴブリンは、一回り体が大きい。
一般的なゴブリンの身長が1メートル前後なので、このゴブリンは恐らく1メートル30センチ前後といったところだろうか。
違うのは身長だけではない。通常のゴブリンは、奇形と言えるくらいに手足が細く、異常なほどのガニ股になっているのだが、このゴブリンは手足も均整の取れた肉付きをしており、体型も人間をそのまま縮小したような、均整の取れたスタイルをしている。
さらに、服装も違う。
一般的なゴブリンが、腰にボロ布か毛皮を巻いているだけなのに対して、このゴブリンはしっかりとズボンを履き、シャツを着こんでいる。
ズボンもシャツも素材の色そのままで、ズボンを止めているのはベルトではなく、荒縄で腰を縛っているだけだが、それでも一般的なゴブリンと比べれば、文明レベルが雲泥の差だ。
そして、雲泥の差なのは、文明レベルだけでなく、その戦闘力もだった。
三対一という数の差をものともせず、その体格からくる膂力差と、明確に違う洗練された槍さばきで、一匹のゴブリンは、三匹のゴブリンを圧倒していく。
それでも、最初のうちは三匹が手数の多さで辛うじて均衡を持っていたが、こん棒を持っていたゴブリンが首を突かれて絶命したことで、戦況は一気に加速する。
「ヒギィッ……!」
仲間の一匹が倒れたことで、動揺を隠せない残り二匹のゴブリンに対し、大きなゴブリンは容赦なく攻撃を継続する。
元からモンスターの中では最弱に近いゴブリンであるが、一度怯んだ時は特に脆い。
「ガッ……!」
「ギィイ……」
一匹目のゴブリンが仕留められてから、三匹全滅までの時間は、驚くほど短かった。
三匹のゴブリンが仕留められ、その証拠としてゴブリンのクリスタルが三個、玄室の床に転がる。
そのクリスタルを拾い集め終えた健太は、自分の『使役モンスター』であるゴブリンの肩を軽く叩き、労いの声をかける。
「ご苦労様、ジュゲム。良い戦いぶりだったぞ」
「ギッ!」
主のお褒めの言葉に、使役モンスターのゴブリン――ジュゲムは、顔に皺を寄せる。恐らく笑っているのだと思われるが、邪悪な印象は否めない。これでも、ゴブリンからゴブリン
「多少は怪我を負ってるな。《癒えろ》。これでどうだ」
「ギイ」
健太の『
「しかし、これでゴブリン三匹までなら、ジュゲムに任せられるな。ジュゲムに任せられる戦闘は出来るだけ任せて、カードのレベルも上げるか」
健太は、そんな独り言を漏らしながら、玄室から通路へと移動する。
これまでのダンジョンダイブで、健太は『
今の健太は推定、『ノービス』10+『
同じ第一段階職でも、重ねれば能力値が伸びることは間違いないらしい。流石に、単純な足し算ではなさそうだが。もちろん、各
ゴブリンのジュゲムを使役しているのは、言うまでもなく『
『
しかし、この『モンスターカード』、モンスターを倒したときにドロップするのだが、そのドロップ率が恐ろしく低い。武器の類は五回に一回(20%)くらい、骨や内臓などは十回に一回(10%)ドロップすると言われているのに対し、『モンスターカード』のドロップ率は、実に0.02%と言われている。
そのくせ、『モンスターカード』は、『文官』が『具象化』に使うだけでなく、『
一応、学園で販売もされているのだが、一番安いコボルトの『モンスターカード』でも、一学期の一年が買える値段ではない。
そんな貴重なカードをなぜ健太が持っているかというと、単純にドロップしたからだ。特別運が良いというわけではない。
元々、カードのドロップ率が0.02%というのは、そのモンスターの最低レベル(ゴブリンならレベル1)での話だ。モンスターのレベルが上がれば、ドロップ率は上がっていく。
正確に計算したわけでないが、健太の体感では、ここ『
おかげで健太はすでに『ジュゲム』も含めて三枚のゴブリンの『モンスターカード』を所有している。
今のところ、健太が『
カードにはそれぞれ、一つ以上の能力が付随しているのだが、ゴブリンの場合この能力が使えないどころか、有害であることが多い。一枚は『
それに対し、ジュゲムの能力は『
カード化するとモンスターは、おおよそその種族の最低レベルから始まる。ゴブリンの場合はレベル1だ。
当然、『
カード化したゴブリンは、最初武器すら持っていないため、他のゴブリンからドロップしたゴブリンスピアを使わせていた。
そうして、ジュゲムのレベルがゴブリンの種族限界値である20に達し、それでもなおしつこく、ジュゲムにとどめを刺させ続けることしばし。
ついにジュゲムは、『ゴブリン』から『ゴブリン
興味深いことに、その際、ずっと持たせていたゴブリンスピアもそのままジュゲムのモノになってしまった。それまでは、ジュゲムにゴブリンスピアを持たせたまま、『具現化』を切ってカードに戻すと、カランとそこにゴブリンスピアが残されていた。
それが、ジュゲムが『ゴブリン
カードを見てみると、そこにはクラスチェンジをして体格も服装も上等になったジュゲムが、しっかりと両手でゴブリンスピアを構えている絵が描かれていた。
(興味深いな。恐らく、モンスターのクラスチェンジは一回だけではないはずだ。ということは今後、もっと上等なゴブリン用の槍を用意して、『具象化』中ジュゲムにそっちを使わせれば、次のクラスチェンジではそっちの槍がカード化するか?)
槍を持ってゆっくりと歩くジュゲムの後ろに続きながら、健太はそんなことを考える。
「ジュゲム止まれ。《現在地確認》……よし、問題ないな。ジュゲム、移動再開だ」
途中で健太は一度足を止め、『
正確な座標の数字は帰ってから確認するが、大枠で思った方向に進んでいることは間違いないことを確認した健太は、すぐに移動を再開する。
現在健太は、レベル上げと転職を繰り返しながら、少しずつ『
狙いは、コボルトである。コボルトは、ゴブリンにすら負ける最弱のモンスターだ。そのため、ここ『既知外領域』にはゴブリンしかない。しかし、瘴気濃度の薄い『既知領域』に近づけば、コボルトも生息しているのではないか、と考えた。
原作で、ゴブリンの『
一方、ゴブリンロードは、頑丈な鎧を身に着けていたとはいえ、叶馬、誠一、静香、麻衣に新メンバーの沙姫を加えた五人でも、仕留めるまでそれなりに時間がかかっていた描写をされていた。
そのため、この辺りにいるゴブリンの『
それに対して、コボルトの『超越個体』であるコボルトキングは、『既知領域』の一階層から二階層に通じる
こちらならば、現在の健太なら単独でも勝てると、確信が持てる。もし、コボルトの『超越個体』にコボルトキングだけでなく、コボルトロードやコボルトヒーローがいたとしても、よほどのことがない限り勝てるだろう。
だから、可能ならば、まずコボルト系で『超越個体』相手の戦闘経験を積んでみたい。健太にはそんな思惑がある。
(とはいえ、『既知領域』はかなり離れてるからな。あまり時間がかかるようなら、すでに見つけている『
積極的にゴブリンを狩って、ジュゲムのレベル上げと、自分の
(現状のこってる第一段階基礎職は、『
幸い、健太が下の階に続く『界門』を見つけた時は、すでに『文官』になっていたので、『文官』のスキルである『
下に行こうと思えば、いつでも可能なのだ。
その前提で、健太はもうしばらく、この階で粘るつもりだった。