健太が貰った三つのチートスキルの一つ『周回レベル上げ』はその名の通りレベルアップをするためには有効だが、ダンジョンの攻略を進める上ではそこまで有益な存在ではない。
なにせ、時間を戻ることは出来ても進めることはできないし、一度戻した時間も始点となる時間まで戻れば、本来の時間軸に場所も含めて戻ってしまうため、過去に戻っても距離を稼ぐことは出来ないのだ。
だが、『周回レベル上げ』がダンジョン攻略を進めるうえで役立つケースもある。
それは界門を探すときだ。
これが『既知』であればどの階層でも界門の座標ぐらいは購買で購入できる地図に記されているのだが、健太や叶馬達が潜っている『既知外』にはそんなものはない。
界門は複数存在するので、一定方向に直進し続けて定期的に『文官』系のスキルを使っていればいずれは見つかるのだろうが、このやり方では実はもっと近くにあった界門を見逃す可能性もある。
そこで役に立つのが『周回レベル上げ』だ。
『羅城門』閉門までの残り時間が一時間未満。
閉門直前まで北に行って『周回レベル上げ』、北東に行って『周回レベル上げ』、東に行って『周回レベル上げ』と繰り返し、どこかで界門を発見できれば次回はそちらに真っすぐ向かえばよい。
次回スタート時点でのタイムロスを大幅に軽減できる。
『周回レベル上げ』は厳密に言えば過去に戻っているのではなく、極めて近い別の世界線に過去に移動しているので、モンスターの配置などは結構ズレたりするものの、界門の位置のような大きな部分が異なっていることはまずない。
ここ第十二階層『永久氷河』は広さの割にモンスターの生息数が少ない。
ちょっと進めばモンスターの大群と遭遇する第十一階層『砂漠草原』や、多くは単独行動だが連続戦闘になりやすい第十階層『密林竜園』と比べると、戦闘になる頻度は遥かに低い。
とはいえ、『周回レベル上げ』を使ってダンジョンダイブを(主観的には)伸ばしていれば、必然的にモンスターと遭遇する確率は高まる。
複数回の『周回レベル上げ』であらゆる方向に探索の手を伸ばし、『巨大長毛象』『雪狼』『赤鼻トナカイ』といういずれも巨体を誇るモンスターの大群を余さず撃破したことで、『赤梟頭熊』のエロールに念願の変化が訪れた。
名称:『エロール』
種族:梟頭熊(ユニーク個体)
属性:魔
階位:30+40+1
能力:『狂乱』 『不眠』 『妨害』『全耐性』
存在強度:☆☆☆☆
【梟頭熊のユニーク個体。穴持たず、不眠不休で徘徊し続ける】
『赤梟頭熊』から『赤梟頭熊・全耐性』にクラスチェンジを果たしたエロールは、十メートル前後だった体がもう一回り大きくなっている。さらに元は梟状態の頭部だけが目の覚めるような赤だったのだが、肩から胸、背中まで赤く染まっている。
体つきも全体的に肉厚になっており、見た目からもタフさが伝わってくる。
事実、今回のクラスチェンジで一番上昇したのは、耐久力だ。
元々分厚い毛皮で打たれ強く壁役としての適性が高かったエロールだが、『全耐性』を会得したことでその壁役の適性はさらに増している。
『全耐性』はその名の通り、全ての事象に対する耐性が上昇する能力だ。
暑さ、寒さのような環境ダメージから炎、電撃、酸のような属性攻撃、さらには毒、誘眠、石化のようなバッドステータス付与まですべてに対する抵抗力が大幅に上昇する。
もっともエロールの場合、睡眠と狂気は元々一切効かないのだが。
今のエロールならば、『既知外』領域の自然領域でも安定して壁役を務めてくれそうだ。
「しかし、トナカイが空を駆けるのは納得がいくようないかないような。ああ、エロールはよくやったぞ」
「ホホウ」
自由に空を駆けることはできるが、遠距離攻撃手段はなかった『赤鼻トナカイ』の攻撃を受け止めて反撃で倒したエロールは、クラスチェンジを果たしたばかりの姿で誇らしげに鳴く。
健太は『赤鼻トナカイ』からドロップしたクリスタル、枝角、毛皮等に混ざって二枚ドロップした『モンスターカード』を拾い上げる。
「惜しいな。今が『周回レベル上げ』の最中でなければな」
『周回レベル上げ』で戻っている時間軸で得た物は本来の時間軸に持ち帰ることが出来ない。持ち帰ることが出来るのは経験と記憶だけ。だから、レアなアイテムがドロップしてもあきらめるしかない。
『赤鼻トナカイ』には『馴鹿蹄』『牽引』『好戦的』という三つのスキルが、もう一枚のユニーク個体らしき鼻が青い『赤鼻トナカイ』には『馴鹿蹄』『医療』『泣き虫』の三つのスキルが表示されていた。
馬系モンスターが必ず習得しているスキル『馬蹄』が移動力向上のスキルであることから推測するに、『馴鹿蹄』は『赤鼻トナカイ』のように空中を駆けまわることが出来るスキルである可能性が高い。
さらに、レア個体が所有する『医療』はものすごく重宝されるスキルだ。
『医療』は、あらゆる状態異常を治し、怪我を治療できるスキルである。
回復手段が基本的にダンジョン外では日持ちしないポーションしかない学園では、垂涎の的になることは容易に想像が出来るだろう。
スキル使用には長時間対象を安静な状態にしておかなければならないので戦闘中には使えないが、戦闘終了後に状態異常やダメージを癒すのには非常に有効だ。
あいにく状態異常回復の確率も低いしダメージ回復量も微量だが、SPが続く限り何度でもかけ直すことが可能なので『医療』持ちがいれば、連戦の合間に戦力を立て直すことが出来るようになる。
健太自身は『医療』の上位互換ともいうべき『癒し手』系職を習得してるのでそこまで必要ではないが、『安息所』のメンバーが健太抜きでダイブするときのことを考えれば、是非とも確保しておきたいところだった。
現状『安息所』の『文官』は二人。『案内人』の蘭と『書記』の実咲だ。
蘭は基本健太抜きでダイブすることはないので、渡すとすれば実咲だろうか? 次点で『O嬢極』の和花もありかもしれない。
と考えたところで『戦士の不動心』がオンになっている健太はどのみちこの『モンスターカード』を持ち帰ることはできないという事実を思い出す。
ここは健太が生きる本来の時間軸からズレた過去の並行時間軸。異なる世界線、よく似た別世界なのだ。
と、そこまで考えたところで健太はふと、ある可能性に思いいたる。
「まてよ? 異なる世界線? 異なる世界。異世界とも言える、か? それならばもしかして……」
おもむろに健太は『白いしめ縄』を手首に巻いた手で柏手を鳴らし、限定空間収納を開く。
「ふむ。『周回レベル上げ』使用の時間軸でも問題なく限定空間収納は開くか。これなら少しは期待しても良いか」
そう呟いた健太は二枚の『モンスターカード』を限定空間収納に収納する。
一瞬視線を雪原に転がる他のドロップアイテム――クリスタルや枝角、毛皮に向けた健太だが、それらを限定空間収納に入れるのは止めておいた。
現状、どうなるか分からない実験的な行為なのだ。最初から欲張ると大事故に繋がりかねない。
その後、無事に第十三階層に繋がる界門を発見した健太は、『羅城門』の閉門前に『遊び人』のスキル『脱出』でダンジョンをログアウトするのだった。
無事、ダンジョンをログアウトした健太を待っていたのは見覚えのあるよく似た容姿の女子二人だった。
叶馬のパートナー、海春と夏海である。同時にこの二人は、雪の巫女のような立場でもある。
まだ『戦士の不動心』がオンになっている健太はすぐに二人が誰の指示でここに来たのか悟る。
「あ、あの童神様がお怒りです」
「時空間が滅茶苦茶なところから手を突っ込んで来るな。調整が大変、だそうです」
健太の予想は当たっていた。童神とは海春と夏海の雪に対する尊称である。
どうやら、健太がやった『周回レベル上げ』使用時間軸での限定空間収納の使用は、一応の成功はみたものの『空間収納』の監理者である雪に多大な負担を強いる行為だったらしい。
「……雪ちゃんに謝罪したいから、セッティングお願いできるかな」
「了解です」
「任されましたです」
以前調べた記憶で座敷童の好物は小豆と覚えていた健太は、購買で有名な小豆アイスを箱で購入して手土産とする。
その後、麻鷺荘の海春と夏海の部屋で雪(プリプリに怒っていた)と対面を果たした健太は、平身低頭の謝罪と手土産のおかげでどうにか許されるだけでなく、今後も月に一回という制限付きで『周回レベル上げ』時間軸での限定空間収納の使用も許可されたのだった。
ちなみに手土産の感想は「美味しいけど固すぎ。歯が折れるかと思った」である。
多少の想定外とそれに伴う寄り道はあったものの、無事白鶴荘に帰ってきた健太は夕食を取りながら、蘭達パートナーや尚典達倶楽部対抗戦の参加者から近況を聞き、情報の共有を図る。
幸い本日は誰にも大きな動きはなかったらしい。バッジを失った者は誰もおらず、追加のバッジも尚典が一個だけ。
「出来るだけ人目につかないように、真っすぐ寮に帰ろうとしたんだけど、捕まっちゃった」
と尚典は苦笑していた。
倶楽部『安息所』のレギュラー五人は全員見た目が強そうではないが、中でも尚典は一番弱そうに見えるのだろう。
小柄で華奢な体つきと、童顔で可愛い系の顔立ち。実際本人の性格も、その見た目を裏切らない人当たりの柔らかい質で、そんな人柄が雰囲気としてにじみ出ている。
しかしてその実力は『術士』系のスキップ転職組で、第二段階職『陰陽師』を推定20の後半まで上げている。
モンスター相手ならば戦闘経験も十分つんでいるし、対抗戦予選前に『学生決闘』で五人抜きなども達成している。
これに勝る一年は叶馬達と健太自身を除けば、皆無に等しいだろう。
外見詐欺レベルで言えば健太に勝るかもしれない。
「尚典も怪我はないようで良かった。すでに予選突破は決めているのだし、今後もこちらから勝負を申し込むのはなしでいこう。
後、俺の友人たちが作った倶楽部『神匠騎士団』と予選ではお互い潰し合わないって協定結んでいるから、注意してくれ。
顔見知りじゃない奴の為に手帳で写真撮らせてもらってきたから、共有するぞ。みんなの写真も向こうに渡すから後で撮らせてくれ」
そう言って健太は、撮影機能付きの電子生徒手帳と接続ケーブルを取り出す。無線が一切使えない学園内では、電子データを転送するのにも有線接続が一般的だ。
健太は念のため、叶馬達を知っている者にも知らない者にも関係なく、レギュラーの四人全員に叶馬達五人の写真を送る。
「ん、了解っす。けど、どのみちこっちから勝負申し込まないんっすから、そいつらだけ特別注意する必要ってないんじゃないすか?」
至極常識的なことを言う霊王だが、残念ながらその認識は間違っている。
「うん。霊王くらいにみんな常識があればそうなんだけどね」
万が一のことを考えれば、叶馬と沙姫の顔はちゃんと覚えて、出来るだけ近寄らないようにして欲しいのだ。
「ひっ!?」
あいまいな返事で健太が濁していると、最初に転送データを見た来斗が悲鳴を上げる。
「ど、どしたんすか?」
顔面を蒼白してガタガタ震える来斗に、霊王が驚きの声を上げる。
健太はため息をつきながら、
「ああ、忠告が遅れたけど、一枚目が向こうの部長の叶馬だ。何べん言っても『愛想笑い』をやめてくれなかったからそんな写真になっている。
直視しても一応物理的な損害はないはずだけど、精神ダメージは保証できないから注意してくれ」
そんな健太の言葉を裏付けるように、心構えなくそれを直視してしまった来斗は真っ青な顔で震えながら、
「は、○面……白○の者が……笑って……!」
と裏返った声を上げている。
隣に座っていた実咲が、
「だ、大丈夫、来斗?」
と心配げにのぞき込むと、その太い手で生徒手帳の画面を隠しながら、
「み、見るな、実咲! お前は見ちゃ駄目だ!」
と実咲の視界に冒涜的な写真が入らない様守っているところを見るに、大きな問題は無さそうだ。
「ははは。これ、叶馬君だよね。凄い迫力だなー」
健太以上に麻鷺荘の常連となっている尚典は、流石に叶馬の顔も見慣れているのか、叶馬の『作り笑顔』を見てもなお笑う胆力を見せる。
「これは……心構え無しで直視した来斗がああなるのも無理ないっすね」
面識のない霊王も『愛想笑い』の写真を見て、顔を引きつられている。
「なるほどね。ふーん、そっか。あの乙葉がねー」
一方、竹海は一人、明らかにカメラ慣れしていない様子でこちらを睨む二年女子――乙葉の写真を見て、面白そうに笑っていた。
その夜。
健太は当初予定を変更して、同じ白鶴荘でも初めて訪れる部屋のドアをノックしていた。
四つの♀の丸を一つの♂の矢印が貫いている紋章が掲げられたその部屋は、倶楽部『O嬢極』の部長和花と、副部長芽衣の二人部屋である。
だが、
「はい。お入りください」
という聞き覚えのある優しげな声に健太がそっとドアを開けると、中には二人ではなく五人の女子が待っていた。
通常、白鶴荘の二人部屋は真ん中に共有スペースの通路を作る様に部屋の両端にベッドが二つ備え付けられているのだが、その部屋ではベット同士がピッタリとくっつけられ、その上にキングサイズの寝具が鎮座していた。
もう、最初から「多人数でやります」と言っている配置である。
二つのベットをくっつけた横に、五人の先輩女子達が立ち、健太に挨拶をしてくる。
「ようこそお越しくださいました、健太様。本日のお相手を務めさせていただきます、倶楽部『O嬢極』部長、和花にございます」
「副部長、芽衣。ぶい」
「同じく副部長の夜凪です」
「部員の雪音だよ」
「部員良月」
本日、健太が予選で倒してその肢体を自由にする権利を得た五人の女子が揃って深々と頭を下げる。
部屋の中は薄暗く、五人の女子は皆いかにもなイブニングドレスを纏っている。
和花は黒、芽衣は黄色、夜凪は紫、雪音は白、良月は緑と全員色は異なっているがベースとなっている形は一緒だ。
大きく胸元がVの字に開いており、ロングドレスの形はしてるものの生地は薄く、非常に体にフィットしてるため、肌色面積以上に煽情的だ。
イブニングドレスと言っても、晩餐会などの格式ばった場所ではなく夜の店、もっとはっきり言えば高級風俗店のキャストを彷彿させるドレスである。
実際、和花もその辺りを意識しているのだろう。珍しく、健太を旦那様ではなく健太様と呼んでいるのもその一環と思われる。
「あ、はい。け、健太です。今夜はよろしくお願いします、です」
蘭達で多対一のセックスには慣れてきた健太だが、五人という大人数でそのうち三人は初めての相手ということもあり、全く緊張を隠せない。
そんな健太の様子にも五人の女子達は笑うでもなく、あくまで友好的に振る舞う。
「はい。こちらにお座りください」
「私の隣、よし」
「脱衣のお手伝いをさせてください」
「後ろゲット」
「足元」
和花の細い手に引かれてキングサイスの寝具に健太が腰を下ろすと、五人の女子達は花に群がる蝶のように健太の前後左右を取り囲む。
そして、慣れた手つきでTシャツと制服の下という健太の身に着けていた衣類を脱がしていき、同時に自分達もイブニングドレスを足元に落す。
五人の女子はそれぞれ、イブニングドレスと同色の下着を身に着けていた。
「ふわあ」
毎晩複数の女子と性交を繰り返しているはずの健太だが、下着姿を見ただけで感嘆の声を漏らしてしまう。
それはどれだけ経験を重ねても中々成長しない健太の性格にも由来するが、それだけ彼女達五人が淫靡な魅力を醸し出しているからでもある。
胸の大きさという点では一番大きな良月でも優梨愛と同程度。蘭や竹海に匹敵する者は一人もいない。
だが、彼女たちは全員が三年以上。この学園で積み重ねる一年、二年は大きい。
彼女たちの性的な魅力は成熟を通り越して爛熟の域に達している。
「それでは、堪能してくださいませ」
「ベッド、よし」
「失礼します」
「えいっ」
「…………」
五人どころか五十人でも今の健太にとっては誤差なくらいに非力な女子達に、健太は何の抵抗もせずキングベッドへと押し倒されていくのだった。
始まるまでは雰囲気と生来の性格から完全に主導権を取られてしまった健太だが、いざセックス本番に至ればレベル差の暴力がものを言う。
和花と芽衣が倶楽部の主導権を取れていることからも分かる通り、夜凪、雪音のレベルはそれ以下、良月は少し特殊だが、健太と比べれば誤差の範囲内。
そんな彼女達が健太の射精を膣内に何度も受け入れれば、一晩で隷属が完了するのも必然である。
夜が白々と明けてくる頃。
キングサイズの寝具の中央で眠る裸の健太は、裸の女子五人にベッタリと抱き着かれていてた。
強すぎる性感に意識を失っているはずなのに、必死に健太の手足もしくは体に抱き着くその様は、見る者が見れば一目でわかるくらいに堕ちている。
元から堕ちている和花と芽衣はもちろん、夜凪、雪音、良月の三人も相当深く隷属している。無意識でも体が御主人さまを求めるのだ。
「…………」
目を覚ました健太はその事実を自覚すると共に、彼女たちにどのように報いるべきか考えていた。
一度受け入れてしまった以上、彼女達との関係は今後も続いていくことになるだろう。ここはそういう空間だ。
今健太が寝ているキングサイズの寝具も、出迎えの時彼女たちが着ていたイブニングドレスと下着の上下も、健太をもてなすためにわざわざ買いそろえてくれたものだろう。
言っては何だが、エントリークラスの寮で暮らす女子に『銭』の余裕はそうないはずだ。これで「向こうが勝手にやったことだから」と何も返さないのは健太の価値観ではありえない。
しかし、だからと言って『銭』を渡すのは少し抵抗がある。まるで彼女たちの肢体を金で買っているような気分になる。
では、今後は衣類などを直接プレゼントするのはどうか? と考えた健太だが、これもすぐに却下する。
健太と彼女たちの力関係を考えれば、どんな服でも彼女たちは喜んで着るしか選択肢はない。逆に押し付けがましいことになりかねない。
「となると、毎度ワンパターンだけどあれが一番か」
「なにがですか? 旦那様?」
健太の右腕を抱いて寝ていた和花が、何時の間にか目を覚まし囁き声でそう尋ねる。
なんとな体温と気配の変化でそれを察していた健太は、特に驚くこともなく和花の問いに答える。
「はい。和花先輩達『O嬢極』の皆さんへのお返しについてです。月に一回か二回、先輩達のダンジョンダイブをお手伝いしようと思うのですが、どうでしょうか?」
ダンジョンダイブを手伝って儲けを頭割りにすれば、結構な収入になるはずだ。ついでに、補習レイド送りにならないくらいにダンジョン実習成績も手伝ってあげれば、少しは『同盟』を結んだ甲斐があった、と思ってもらえるのではないか。
「え…………?」
そんな健太の安直な提案に、和花はしばし目を丸くする。
「あ、もちろん強制じゃないです。あくまで自由参加ですから」
和花のリアクションが遅れたことで「エントリークラスにいる様な落ちこぼれ女子には、ダンジョンダイブそのものを忌避する者も多い」という話を思い出した健太は、慌ててそう付け加える。
だが、和花が沈黙していた理由は、まったく異なっている。
「…………それはとても魅力的な、私たちのような者にとっては本当にありがたいお話です」
囁くようにそう言う和花の言葉は、間違いなく本心からのものだ。
そんな健太と和花の会話に、他の女子達も目を覚ましてきたのか、カーテン越しに差し込む朝日に照らし出されるキングサイズの寝具の上で、裸の女子達がモソモソと動き出す。
「んー?……よし」
「おはようございます」
「ふわあ、良く寝たー。あ、おはよダーリン」
「おはようご主人。おかげで『目が覚めた』ぜ」
和花と芽衣は辛うじて上体を起こすことが出来るが夜凪、雪音、良月はまだ首を擡げることも出来ない。裸で死んだようにベッドに体を横たえたまま、声だけを発している。
無理もない。健太という規格外に隷属したばかりなのだ。強い快楽と常識外に深い隷属に頭も体も大部分は多幸感に支配されたままだ。
「すみません、お湯とタオルを貰ってきますね」
これまでの日々でこうした状況を何度も経験している健太は、そう言うとあわただしくトランクス、ズボン、Tシャツだけを着こむと足早に部屋を後にする。
残されたのは、キングサイズ寝具の上に裸で横たわる女子五人。
「皆さん、旦那様の言葉は聞いていましたね?」
「もちろん」
「はい、聞いていました」
「あふん? あれ、夢じゃなかったん?」
「夢じゃねえみてえだな」
確認を取る部長和花の言葉に、芽衣たちはそんな返事を返す。
健太の言葉。それは「お礼として『O嬢極』の希望者全員をダンジョンダイブに連れていく」という先ほどの発言だ。
これは、同盟で支配される「セックス要員の女子オンリー倶楽部」の扱いとしては破格を通り越している。
通常、『O嬢極』のような倶楽部はシンプルに性的搾取対象だ。「お礼」という概念自体存在しないと言っても過言ではない。
さらに、健太は言っていないがダンジョンダイブの際生じる儲けは「いつも通り均等な頭割り」のつもりでいる。
「和花が頑張って希望者を減らしたのに、これを知られたら残りの七枠に希望者が殺到しますよ?」
生真面目に心配する夜凪の言葉に和花は柔らかく苦笑する。
「そうですね。正直、旦那様の懐の深さを見誤っていました」
和花は『O嬢極』を結成する際、部員候補である白鶴荘の寮生に色々とマイナスに聞こえる条件を伝えて初期メンバーを絞ったのだ。
「『安息所』男子から要求には一切拒む権利はない」
「『安息所』から何らかの保証は一切ない」
「こちらに『安息所』に対する交渉権も無し」
「今入らなくても枠が空いていれば『O嬢極』は以後も部員を募集中」
まあ、上の三つは一般的な有力男子倶楽部とセックス専門女子倶楽部の同盟ならば極々当たり前の条件だが、それをあえて明文化することで「あまり美味しい倶楽部じゃないよ」という印象を持たせたのだ。
その上で最後の条件「今入らなくてもいつでも入れるよ」を加えることで「ひとまず様子見」という人間を増加させた。ちなみに初期入部組と以後入部組の待遇を同じにするとは言っていない。
だが、そんな和花の小細工も健太の今回の発言「『O嬢極』の部員は健太がダンジョンダイブに連れて行ってくれる」が周知されれば、問答無用で殺到することになるだろう。
「まあ、そこは私が部長の責任を果たしますよ。ところで、良月先輩。すっかり良くなったようですね?」
と突如和花に話を振られた、金髪ショートの女子――良月は首を擡げることも出来ないぐったりとした様相で、だが口元に不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、おかげさまでこの通りだ。まったく、とんでもないご主人様だよ。オレの空白がすっかり埋め尽くされちまった」
良月は元々、補習レイド前の和花、芽衣よりまだ自我の摩耗が進んでいた人間だ。
それが健太と一晩セックスをしただけで、元の人格を取り戻している。
いや、正確に言えば元通りではない。自我が摩耗して空いた隙間を健太の精気で埋めたのだ。
一見すると元通りに見えても、彼女の中の優先順位は以前とは全く異なっている。それまでの自分の価値観の上に、健太というご主人様の存在が追加されているのだ。
それに関しては、和花と芽衣も同様だが。
『銭』がないから脱色、染色は自分でやっているのだろう。お世辞にも綺麗とは言えない金髪のショートヘアを小さく振り、良月は感想を漏らす。
「っかし、あんなショボい見た目で中身はとんだバケモンだぜ。ビンゴにいた頃でも、ここまで圧倒された経験はねえんだがな」
良月は「途中脱落組」である。
入学からスタートダッシュには成功して、ある程度のところまでは女子ながらダンジョン勢としてひた走ったのだが、途中でこけてドロップアウトを余儀なくされた。
元々就いている職が攻撃力が高い代わりに制御に難があるタイプだったため、レベルは上がりやすい代わりに『死に戻り』もしやすく、徐々に自我が擦り切れて所属倶楽部から放り出されたのだ。
だから、かつては学園のトップ層もセックスをした経験を持つ。この学園では一部の特殊職を除き、セックスをすれば相手の格がある程度分かるようになっている。
だが、良月の過去の経験でも昨晩の健太は比較対象が見つからないレベルだった。
「それはそうよ。旦那様は強さも優しさも規格外ですから」
うっとりと目を細める和花に、良月はまだ首を擡げることも出来ないまま、呆れた様子で言葉を返す。
「はいはい。んで、その規格外のご主人様をゲットして性悪女はなに企んでやがる?」
いかにもヤンキー女らしく下からにらみつける良月に、和花は即答する。
「もちろん、全身全霊を上げて旦那様のお力になることです」
和花の笑み、声、佇まい。その全てが本性を知っている良月の眼にも「優し気」としか映らない。
だが、自分の身に起きたことが彼女の身にも起きていると考えれば、和花の言葉に嘘が無いことは理解できる。
「手段は選べよ」
「ええ。もちろんです」
念を押す良月に和花は、底抜けに優し気な笑みで答えるのだった。