「勝負あり! 次鋒戦勝者、『安息所』」
白い覆面を被った審判の宣言に、竹海は戦闘態勢をとく。
竹海の前では、右腕を肩から、右足を膝から失った倶楽部『天下地上』の次鋒が土気色の顔つきで、床にしゃがみ込んでいた。
腕も足も傷口はカチカチに凍り付いているので出血はしていない。
「ふう」
竹海は、対戦相手の右腕と右足を切り落とした白銀色の洋刀――『雪吐洋刀』を左腰を鞘に戻した。
闘技場から降りて来る竹海を、健太を始めとした『安息所』の面々が拍手と笑顔で迎える。
「ナイス、竹海!」
「流石です、竹海先輩」
「お疲れさまでした、竹海先輩」
それらの声に片手を上げて答えた竹海は、そのまま真っすぐ健太の元へと歩み寄ると躊躇いなく健太に抱擁を交わす。
「ふふん、勝ったよご主人様」
自分より一回り大きい長身グラマラス美女の抱擁を健太は正面から受け止めて、両腕を竹海の背中に回す。
「はい、素晴らしい活躍でした、竹海先輩」
竹海にとって健太は愛すべきご主人様だが、ちょっと過保護すぎるの玉に瑕だ。そのため、定期的に自分の戦意を明確する必要を感じていた。
抱擁する竹海の体は先ほどの戦闘で全体的に熱を帯びているが、汗は全く書いていない。ショートカットの黒髪もさらりと乾いている。
戦闘は完勝だったと言っても良いだろう。
竹海の抱擁を受けたまま健太が視線を闘技場の反対側に向けると、対戦相手である『天下地上』の選手たちが見える。
先鋒、次鋒が破れて形の上では後がなくなった『天下地上』だが、この時点では全く動じていなかった。
完敗した一年二人を苦笑交じりに「あれはしょうがない」と慰めるくらいの余裕を見せている。
当然と言えば当然だろう。
先鋒、次鋒の一年はただの育成枠。ここから先は三人とも第三段階職なのだ。三勝二敗は彼らにとって想定の範囲内である。想定内の最悪ではあるが。
事実、次の中堅戦は健太から見ても勝ちの芽が見つからない。
「っし、俺も続くっす! 俺で決めて来るっすよ!」
「その意気だ。気張ってきな」
中堅の霊王が気勢をあげ、霊王のパートナーである珠貴が激励する。
霊王は第二段階職の『怪盗』。対する相手は第三段階職の『重装騎士』。
格は向こうが上。相性も相手に軍配が上がる。そもそもこちらは戦闘を専門としない職で相手はバリバリの戦闘職。
勝ち目が薄いことは霊王も分かっている。だが、やるからには勝つ。その心意気を忘れない。
残念ながらヒョロヒョロに細くて顔の迫力がゼロの霊王がどれだけ戦意を露わにしても、「ピヨピヨ威嚇するヒヨコ」にしか見えないのだが。
そして、戦況は大筋において予想通りに展開していた。
「はっ! ちっ! くそ! この、この!」
素早いフットワークで立ち位置を変えながら、右手の黒い石の短剣『黒瑪瑙の牙』と左手のスタンダードな短剣『停止の短剣』を何度も振るう。
真面目に短剣の実技講義を履修して、ダンジョンの実戦で磨いてきた霊王の短剣さばきは十分立派なものだ。
「…………」
だがその二本の刃は五角形の盾と片刃の直剣に阻まれ、一度も相手の体には当たっていなかった。
『天下地上』の中堅は『騎士』系の第三段階職『重装騎士』の二年生だ。
六月の時点で第三段階職になっている二年というのは、学年のトップ層と言っても過言ではない。
まだまだなり立てで『重装騎士』のレベルは推定5以下と副将、大将の三年と水をあけられているが、将来性という意味では『天下地上』の中でも頭一つ抜けていると言えるだろう。
その装備は兜付全身板金鎧、五角形の『騎士盾』、そして片刃の直刀『騎士剣』の三つ揃え。
いずれも同色の深緑色の金属で作られており、装飾も統一性がある。間違いなく剣、盾、鎧のひとセットのマジックアイテムだ。もしかすると、三つ揃えることで発動する強力な力を有しているかもしれない。
「はっ! せい! は! は! やあ!」
霊王の攻撃は全て騎士盾と騎士剣で受け止められる。
盗賊系と戦士系という特色の違いから、脚運びの速さは霊王が上だが、武器で撃ち合う速度――反応速度は明確に相手が上だ。武器戦闘の技術と経験も圧倒的に上。
霊王は唯一勝っている足の速さを生かして、何とか相手の横、あわよくば後ろに回り込もうとするがそれを許すほど甘い相手ではない。
そんな一時的な膠着状態に、先に焦れてしまったのはやはり経験の浅い霊王の方だった。
「はあ! あ!?」
霊王に自覚はないが、焦れた霊王の大降りになった攻撃を相手は的確に騎士剣で上へと受け流す。
「……」
片腕で万歳をするように霊王の体勢が崩れたところに相手は、無造作に左手に持つ騎士盾で霊王を攻撃。
「《うおっ》!」
避けられる体勢ではなかった霊王はとっさに『逃走』のスキルで大きく後退してしまう。
結論から言えば、これが霊王の僅かな勝算をゼロにする一手だった。
「《召喚》エポナ」
霊王が距離を取ってしまった次の瞬間、相手は騎獣を召喚してしまった。
「しまっ!?」
こうならないように、霊王も開始直後から距離を詰めていたのだが残念ながらもう遅い。
『重装騎士』は、二本の角をはやした灰色の馬に騎乗していた。
『険峻馬』
特殊な攻撃手段はないがとにかく悪路に強く、山どころか崖すらほとんど速度を変えずに上り下りできる。
速度は馬系の騎獣としては平均か平均よりやや遅い程度だが、それでも『怪盗』である霊王よりも速い。
そして霊王にとっては最悪なことに、『険峻馬』は非常に小回りが利く。
最高速度はもちろんのこと、加速力、急停止力、そして方向転換の速さまで全て、霊王よりも上だ。
「《武装》」
霊王が攻めあぐねている間に、相手は『騎獣武装』のスキルを使い騎獣の『険峻馬』が本人と同じ緑色の鎧を纏う。
「くそっ! 《止れ》!」
「《フン》!」
それでも戦意を衰えさせず戦い抜く霊王であったが、『険峻馬』にのった緑の騎士の『重装突撃』――騎士剣をコークスクリューパンチのように回転させた突き突撃――を前に無念の敗北を喫するのだった。
『重装突撃』で脇腹に半円状の大穴を開けられた霊王だったが、闘技場内では不死化システムが働き、致命傷を受けても魂魄が肉体から離脱することはない。魂魄さえはがれていなければ、ポーションで大概の傷は完治する。
だが羅城門の『死に戻り』と違い、こちらは記憶の消去は起きない。
戦った記憶、傷を負った痛み、敗北の苦渋はそのまま心に残る。
「っくしょう! 良いとこなしだったす」
それでいて、終わった直後にこうして心底悔しがることが出来る霊王は、戦闘者としてのタフなメンタルを持ち合わせていると言えた。
「いや、よくやった霊王。良い気合だったよ」
「勿体ない言葉っす、お嬢」
労うようにグッと汗でぐしょ濡れになった霊王の柔らかな金髪を手で強く撫でる珠貴に、霊王は主に頭を撫でられた犬のように目を細める。
実際よくやったという珠貴の言葉には、健太も全面的に賛成である。
「これだけ不利が重なってこの結果は大健闘だ、霊王。次までには、装備も整えて出直そう」
「うっす、健太さん」
健太の言葉に、珠貴に可愛がられてふにゃふにゃになっていた霊王がシャンと背筋を伸ばす。
今回霊王の為に用意した二本の短剣、『黒瑪瑙の牙』と『停止の短剣』は十分強力な武器だが、ダンジョンダイブから対人戦まで広く睨んだうえでの汎用装備だ。
そうではなく「装甲の固い敵」「素早い敵」「遠距離攻撃が強い敵」等々、特定の敵に刺さる装備を用意することが、倶楽部対抗戦本戦のような事前にある程度相手の情報が入手できる場合、より有効に働く。
もっとも今回の霊王の場合、『鎧の防御力を抜けなかった』のではなく『盾と剣の守りに阻まれた』のだから、霊王自身の戦闘スキルを上げない限り勝敗は覆らなかった可能性が大なのだが。
そうしているうちに次の用意が整い、白い覆面を被った審判が次の選手――副将に上がってくよう指示する。
「それじゃ行ってくる、健太」
「ああ、頑張れよ、尚典」
副将である尚典は健太とそんな短い言葉を交わすと、細く小柄な体と可愛らしい顔に高い戦意を漲らせ、闘技場へと上がる。
少し遅れて、倶楽部『天下地上』の副将も闘技場へと上がってきた。
『天下地上』の副将は三年生で公式記録では『盗賊系』系第三段階職『無法者』となっている。
武器は腰に差している『小剣』と『砂鉄棍棒』。さらに複数本のナイフも腰に差している。そして、体に纏っているのは地味な茶色の革鎧。全てマジックアイテムだ。
さらに、よく見ると首に銀色の護符をぶら下げているのが見える。
護符の効果は大概抵抗上昇だ。相手が『術士』ということで、魔法攻撃に対する対策だろう。
尚典は公式では『術士』になっている。
第一段階職と第三段階職。『術士』系と『盗賊』系では『盗賊』系が有利。
それでもなお油断せず、『術士』対策をしているあたり、かなり戦闘慣れしていると思われる。
『術士』系第二段階職『陰陽師』をカンスト近くまで上げている尚典だが、勝算は霊王と大差ないレベルだろう。
「はじめ!」
「《召喚、猿鬼》!」
それでも尚典は臆せず、開始の合図と同時に取り出した和紙を媒体に『式神』を召喚する。
「キキイ!」
『豊象神の牙筆』で描かれた『式神・猿鬼』は、二メートルを超える筋骨隆々たる偉丈夫だ。
「ちっ、『陰陽師』かよ」
だが、対する『無法者』の三年は悪態をつきながらも油断なく腰の小剣を抜き、すぐさま『猿鬼』に攻撃を放つ。
引き抜かれた小剣は不定形の刀身を有していた。
『液体金属剣』と呼ばれる武器の一種だ。
水銀のように輝きながら、蛇のように細長く伸びる刀身が、尚典を守るように立つ『猿鬼』を回避して、直接尚典に襲い掛かる。
「くっ!?」
尚典はとっさに両手で持つ細身の槍でその液体金属の剣戟を受け止めた。
しかし、相手は器用に液体金属の刀身を操作し、尚典の細身の槍を絡め取る。
『盗賊』系も力に優れた職ではないが、『術士』系よりは力がある。まして第三段階職と第二段階職では力比べで勝てるはずもない。
『《えい》」
すぐさま細身の槍を諦めた尚典は槍から手を離すと同時に、こっそり闘技場の地面に遅延性の攻撃スキルを布陣する。
『遅延』とは『術士』系の汎用スキルで、発動をあえて極端に遅くすることで、発動に必要な言霊を大幅に省略することや、発動時の攻撃力を増幅することが出来るスキルだ。
「《へっ》」
「くっ《壁》」
次の瞬間、『俊足』のスキルで一気に距離を詰めながら、左手で砂鉄棍棒でこちらの頭を狙う『無法者』の攻撃を、尚典は『陰陽師』のスキル『九字・十字』の省略型、一字だけの発声で発動させる。
砂鉄棍棒の一撃を直径五十センチほどの光の障壁で受け止めた尚典は、真っすぐ後ろに下がる。
反射的にそれを追おうとした『無法者』だったがすぐさま尚典の意図を見抜き、尚典を見据えたまま右手に持つ液体金属剣を後ろに向って振るう。
「キッ!?」
尚典が手放した細い槍を拾っていた『猿鬼』は背後から『無法者』に槍を突き立てようとした体勢で間一髪、全身を鞭状に伸ばした液体金属剣で何重にも拘束される。
「キキイ!」
オークナイトと正面からやり合える尚典の『猿鬼』が糸のように細くなった液体金属剣の拘束を前に全く振りほどくことが出来ない。
「ったく、油断も隙もねえな。どうなってんだ、今年の一年は?」
主戦力の一つである『猿鬼』を無力化された尚典が厳しい顔をするするが、対する『無法者』の三年生はそうぼやく。
所詮は一年、という侮りをこの『無法者』の三年男子は試合開始前から持っていない。
向こうの先鋒、次鋒の圧勝、中堅の善戦を目の当たりにしているのだ。相手倶楽部の副将であり副部長でもある自分の相手が「ただの『術士』のはずがない」と確信していた。
だが、実際に相対してみると尚典の手ごわさは想定以上だ。
「っち、しょうがねえな。諦めるか」
『無法者』の三年はそう不本意そうに呟くと、『砂鉄棍棒』の栓を抜き、中に詰まっていた砂鉄をばら撒く。
「《散れ》」
その言葉を受けて砂鉄は不自然に闘技場全体に広がっていく。
『無法者』のスキル『縄張り』。効果は、用意しておいた目印を設置することで、周囲を一時的に自分の『罠張り』とする。
『縄張り』の中では『無法者』の能力が上昇する。特に感知力に関しては跳ね上がる。
『無法者』の三年は『縄張り』を張り巡らした闘技場を見渡し、また舌打ちをする。
「やろう、『陰陽師』相手だからやるだろうと思ったけど、すで布陣してやがったか。まじでおっかねえ一年だな」
そう言って『無法者』の三年は、尚典が密かに布陣しておいた遅延攻撃スキルを、靴のかかとで踏み消す。
『無法者』は『盗賊』系第三段階職の中ではバランス型の職だ。偵察や罠解除も十分にこなす。
遅延をかけた布陣魔法は純粋な意味での罠ではないので通常ならば解除は難しいのだが、『縄張り』内であれば可能だ。
「わりいが、じっくりいかせてもらうぜ」
『無法者』の三年は右手で『猿鬼』を拘束した液体金属剣の柄を握ったまま、左手で予備武器のナイフを抜いた。
「それまで、時間切れ! 判定により副将戦は『天下地上』の勝利とする」
審判の宣言を受けて、敗者となった尚典は闘技場から降りて来る。
本来本戦は半端なギブアップすら許されない正真正銘のデスマッチなのだが、この年度初めの倶楽部対抗戦である水無月祭の一日目だけは例外だ。
一年同士の対決が大半を占める新設Fランク倶楽部(この時点でCになることは決まっているが)同士がつぶし合う本日火曜日の対戦は特別ルールとして、三分という『時間制限』が設けられていた。
そうでなければ、武器を持っての殺し合いに慣れていない一年同士がへっぴり腰で剣先をチンチン鳴らし合うだけで平気で一時間以上費やす試合が普通に起きてしまうのだ。
降りて来た尚典を健太たちは拍手で迎える。
「ナイスファイト、尚典!」
「凄いっすよ、尚典。三年相手に時間切れまで粘るなんて」
そんな言葉に尚典は汗でぬれた軟らかい頭髪を振り、悔しそうに言う。
「いや、あの人は倒す気になればもっと早く僕を倒せたよ。万が一のリスクを嫌っただけで」
尚典の自己評価は正しい。
対戦相手である『無法者』は最後まで尚典の式神『猿鬼』を右手に持つ液体金属剣で拘束し続けることを優先していた。
移動速度、反射速度、そして近接戦闘力の三つに関して尚典よりずっと上を行っているのだから、一瞬『猿鬼』を縛っている液体金属剣を手放して、尚典を瞬殺しようと思えばできた可能性が大だ。
だが、万が一尚典が数秒でも粘ることが出来れば『猿鬼』が自由を得て、そこから逆転される可能性もゼロではない。
そのリスクを嫌って「倒すのは諦める。判定勝ち上等」という判断を下したのだろう。
「だとしても、万が一のリスクがあると思わせただけでも大したもんだぞ、尚典。その悔しさは二回戦まで取っておけ」
「うん、そうだね。健太」
健太の言葉に、尚典はやっと笑顔を取り戻す。
二回戦まで取っておけ。現状二勝二敗でそう言う健太の言葉は、事実上の必勝宣言なのだが、『安息所』のメンバーでそれを大言壮語と取る者は誰もいない。
健太の相手は、当然向こうの部長。単純に考えればあちらの最強格なのだろうが第三段階職の『戦闘士』にすぎない。
霊王や尚典が負けたとはいえ曲がりなりにも勝負になった中堅、副将と同じ第三段階職だ。
ダンジョンでの健太を見ている彼らからすれば、健太が負ける展開が全く想像できない。
やがて白い覆面を被った審判の「両倶楽部の大将、闘技場へ」という言葉を受けて、健太が動き出す。
「それじゃ、行って来る」
健太の装備はダンジョンダイブの時と同じ。
白黒虎革の胸部鎧を纏い、左腰には小剣『金狼木霊剣』。そして、灰色の石のような鈍い刃の大剣を右手で無造作につかみ、壇上へと上がる。
「頑張れ、健太」
「ファイトっす、健太さん」
「二回戦の相手の偵察行きたいから、瞬殺で頼むよ、ご主人様」
仲間達の言葉に、健太は空いている左手を上げて答えた。
Fランク倶楽部同士の対決しかない火曜日の闘技場には、観戦者は少ない。
その少ない観戦者たちの大半は、対戦している倶楽部のレギュラー以外の部員達だ。
だが、少数だがそれ以外の観戦者もいる。
その中でも、その二人の男子は明らかに異彩を放っていた。
一人は二年。
観客席に片膝を立てて座り、愛用のバスタードソードを立てて柄を右手で弄んでいる。健太や叶馬にとっては見覚えのある顔だ。
旧『匠工房』の一人である市湖の元パートナーであり、以前に健太、叶馬と連戦で『学生決闘』を行った人物である。
その隣に座るのは三年。
こちらは両手持ちの大剣を横に置き、観客席を複数占拠する形で胡坐をかいている。
この二人は、Aランク倶楽部『天上天下』の部員である。
しかもただの部員ではない。最大三十五人まで入部可能――実際に枠いっぱいの人数を抱えているAランク倶楽部は滅多にないが――な中の、五人しかいない倶楽部対抗戦レギュラーなのだ。
もっともSに近いAランク倶楽部と呼ばれる『天上天下』のレギュラー。
それはこの学園という閉じた世界における限りなく頂点に近い存在と言えた。
当然学園内では彼らの顔を知っている者も多い。二人の正体に気づいた他の観客たちは、男子は主に畏怖と尊敬、女子は憧れと媚びの籠った視線を向けている。
そんな視線に気づいているのかいないのか、気づいていたとしても日常の一部となっているのだろう。
二人は周囲のことなど全く気にも留めず、言葉を交わす。
「ふーん、珍しくお前が熱心に進めるから見に来たけど、確かに結構見ごたえのある奴らだな」
三年の大剣使いの言葉に、二年のバスタードソード使いが答える。
「だろ? まあ、俺も直接知ってたのはこれから出て来る大将だけなんだけど」
「おい、んないい加減な情報だったのかよ。まあ、結果良いもん見れたけどよ」
「流石、宗助センパイ。ふところが広いわ。あの異常者の倶楽部だからそれなりに奴はいると思ったけど、ここまでとは思わんかったな。
次鋒のデカい姉ちゃんと副将の可愛いおチビは完全にこっち側だろ」
二年と三年。一応、先輩とは呼んでいるが口調は完全なため口だ。三年もそれを気にする風もない。
先輩後輩という区分に意味はない。上下関係を決めるのは強さのみ。その価値観が身に沁みついているのだろう。
「副将のチビは良いが、次鋒は駄目だな。ありゃ多分『爆弾』だぞ」
三年の大剣使い――宗助の言葉に二年のバスタードソード使いが軽く驚きを見せる。
「あ? マジ? ああ、言われて見ればそんな感じか」
ここで言う『爆弾』とはいずれ暴発するGR職のことを指す。
学園のトップ層を走ってきた彼らは、瞬間的に自分達に肉薄し、気が付いたらロストしていたGR職を何度か確認している。
「俺がスカウトするならむしろ中堅だな」
「あ? あの金髪? 確かに、輪弥相手に最後まで折れなかったガッツは大したもんだろうけど」
二年であるバスタードソード使いにとって、中堅の『重装騎士』は同学年、それなりに知った仲だ。
最初から『天上天下』にスカウトされた彼ほどではないが二年で第三段階職に至り、サブ倶楽部のレギュラーを張っている彼――輪弥もまた有望株である。
『天上天下』に引き上げるという話もあるくらいだ。
それを相手に、相性の悪い盗賊が文字通り死ぬまで抵抗したというのは確かに大したものだが、逆を言えばそれだけとも言える。
「ちげえよ。いや、根性をかってるって意味じゃ違わねえか。アイツ多分、『怪盗』だぞ。正部員じゃなくてサポート部員として欲しい」
宗助の言葉に二年のバスタードソード使いは感心する。
「へえ、それなら納得だ。うちにいる『盗賊』は戦闘よりばっかだかんなあ。罠関係やらせたら結構失敗するし、失敗したら逆切れするし」
学園では有名な話だが、羅城門ダンジョンには第二十階層に壁が存在する。
二十階層の『試練』を超えなければどれほど経験値を積んでも第三段階職から第四段階職に至れないというレベルキャップとしての壁が有名だが、もっとシンプルな壁としての性質もある。
第二十階層の『試練』を超えていない者は第二十一階層より下の階層に立ち入ることが出来ないのだ。
第二十階層の『試練』とはミラーマッチ。『鏡像悪魔』という自分と全く同じ存在を相手に勝利しなければならないのだが、一般的にこの壁を越えらえるのはやはり、戦闘系が多い。
『職人』『文官』に割り振られるような人間は、元から戦闘に積極的ではない者が多く、そういう者は『試練』を突破できない確率が高い。
それは盗賊にもある程度当てはまる。
『暗殺者』系、『忍者』系のような戦闘よりの『盗賊』は『試練』を超えられても『怪盗』のような探索系の『盗賊』は『試練』を超えられないことが多いのだ。
だが、第二十一階層以下でも罠や宝箱は普通に出没する。探索、鍵開け係の必要性が上がることはあっても、下がることはない。
だから、霊王のような「戦闘意欲のある――二十階層の『試練』を越えられそうな非戦闘系『盗賊』」という存在は、上位倶楽部ほど「欲しい人材」と映る。
「自分とのガチ勝負面白かったよなあ、一回しかやれねえのケチくせえよな」
まだ経験値の問題から第三段階職の『武闘士』だが、すでに二十階層の『試練』を超えている二年のバスタードソード使いは、思い出したように獰猛な笑みを浮かべる。
「その壁を超えられねえ奴もいるけどな」
完全に馬鹿にする口調でそう言う宗助の視線の先にいるのは、丁度闘技場に上がってきた倶楽部『天下地上』大将、すなわち部長であった。
宗助の言葉に、二年のバスタードソード使いも同意する。ついでに言えば、『天下地上』の部長に向けてる視線も同じような蔑みの眼だ。
「勿体ねえよな、あの人もう『戦闘士』カンストだろ? だったら余計な事してねえで毎日ニ十階層だけやってろよ」
第三段階職のカンスト組。
それは、学園全体で見れば上澄みであるが、上澄みの上澄みであるA、S倶楽部の戦闘員達からは馬鹿にされる存在だ。
一般的に「タイパ」「コスパ」と言って自分が倒しやすいモンスター、安全に戦闘可能な狩場だけでレベルアップを続けてきた人間が陥りやすいと言われている。
この『天下地上』の部長はその典型だ。
サブ倶楽部の部長という地位がまさにその象徴と言えるだろう。
なにせ学園のルールで部員の退部、入部は自由だが、部長だけではやめられないのだ。副将の三年や中堅の二年――輪弥は将来的に『天上天下』入りもあり得るが、大将の彼だけはその可能性がない。
正確に言えば、『天下地上』というサブ倶楽部を潰せば可能だが、新設するサブ倶楽部はまたFランク倶楽部になってしまう。すでにCランク、順当にいけばBランクも見えている『天下地上』を潰して新しいサブ倶楽部を作ることは許可しないだろう。
そうしているうちに倶楽部『安息所』の大将――健太も闘技場へと上がって来る。
「さて、本命の登場か。お前に勝った一年がどんなもんか、見せてもらおうか」
「勝ったつっても特殊ルールだぞ。って、おいおい、マジか? あいつ、マジか!?」
宗助の「負けた」発言に反論しようとした二年のバスタードソード使いは、闘技場に上がってきた健太の装備を見て驚き、次の瞬間には笑いだす。
「あ? なんだよ? 何がそんなにおかしい?」
首をかしげる宗助に、二年のバスタードソード使いは笑いをこらえながら説明する。
「あ、あいつ俺とやった時、あの大剣使わなかったんだよ。賭け品にしちまって。それで俺が警告してやったらアイツなんて言ったと思う?
俺の主武器は腰の小剣で、こっちは『雑魚散らし用』だって」
「へえ、雑魚散らし用ね」
二人が見ていると、健太はその「雑魚散らし用」の大剣を両手で構え、開始の合図を待っている。
そして、白い覆面を被った審判が「はじめ」と言った次の瞬間、健太が大剣の柄を伸ばしながら横に一閃。
『天下地上』の部長は身に纏っている鎧ごと、腰から真っ二つになって宙を舞う。
「散ったー!」
「雑魚クン、散ったー!!」
その光景に、『天上天下』のレギュラー二人はお互いの肩をバンバン叩きながら、呼吸困難になる程笑い転げるのだった。