※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第百二十話 竹海VS乙葉、霊王VS誠一、尚典VS麻衣

 

 

 水無月杯本戦二回戦。倶楽部『安息所(メイトガード)』対倶楽部『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』。

 その次鋒戦はある意味、因縁の対決と言えた。

安息所(メイトガード)』の次鋒は竹海(たけみ)。倶楽部代表の中で唯一の女子部員にして唯一の二年生。

 対する『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の次鋒は乙葉(おとは)。こちらも倶楽部代表で唯一の二年生だ。

 そして両名とも元所属倶楽部は『青色兎(ブルーラビット)』。

 同じ倶楽部に籍をおいていた友人同士の対決である。

 

 

竹海(たけみ)あんたねえ、なにいきなり退部してるのよ」

 

 闘技場に上がった『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』次鋒、乙葉(おとは)はそう言って対面に立つ友人を睨み見上げる。

 女子としてはかなり長身な乙葉(おとは)より目線が高い女子というのは非常に数が少ない。竹海(たけみ)はその数少ない一人だ。

 

「退部は本人の一存で出来ることだろう」

 

「その前に相談くらいしろって言ってるのよ!」

 

「そこはごめん。まあ、乙葉(おとは)もよいご主人様に巡り合えたわけだし水に流してくれよ」

 

「な、な、なに言ってるのよ! 叶馬(とうま)くんは仕方なく……!」

 

 一見すると口喧嘩のようだが、実態としては気心の知れた者同士のじゃれ合いだ。

 まあ乙葉(おとは)は結構本気で怒っているのだが、根が善良に出来ている乙葉(おとは)竹海(たけみ)の立場を慮ってくれるため、怒りが拗れて人間関係を破綻させることはない

 そして、女子としては珍しく竹海(たけみ)乙葉(おとは)も好戦的で戦闘を楽しむ質なので、ここで斬り合っても遺恨を残すような人間でもない。

 

「ったく、手加減はしないからね。覚悟しなさい」

 

「望むところだとも」

 

 そんな言葉で会話をしめて二人は戦闘態勢を取る。

 全身甲冑姿の乙葉(おとは)は右手で魔剣『偽重の鎧刺し(オーバーレイエストック)』を構える。左手には小型円形盾(バックラー)

 対する竹海(たけみ)は軽装だ。身に纏っているのはブレザーの制服のみ。一応、スカートの下に履いているひざ丈のトレーニングパンツや制服の下に着こんだ黒いシャツは旧『匠工房(アデプトオーダーズ)』の(あんず)に造ってもらったものだが、防御力はさほど期待できない。

 どちらかというと体の動きを助けるサポーター的な役割の方が大きい。

 竹海(たけみ)は左右の腰から二本の曲刀抜いて構える。

 右手に『炭鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』。左手に『静謐なる主日の基礎(ピュアテンパラスギア)』。

 どちらも黒い大曲刀で女子としては十分大柄な竹海(たけみ)でも少し大きすぎるくらいに見える。

 だが、竹海(たけみ)は全く不安を感じさせない仕草でその二刀を構える。

 

 

 白い覆面姿の審判の「始め」の合図とともに、動き出したのは乙葉(おとは)だった。

 

「《せいっ》!」

 

 右手で『偽重の鎧刺し(オーバーレイエストック)』を地面と水平に構え、『騎士(ナイト)』系の定番ともいうべきスキル『突撃(チャージ)』を仕掛ける。

 

「《おっと危ない》」

 

 だが、竹海(たけみ)は理不尽なくらいな紙一重でその高速突撃を回避する。

第六感(シックスセンス)』。勇者系の理不尽さを象徴するようなスキルで、その名の通り「なんとなく」の感覚で敵の攻撃を回避したり、察知できないはずのターゲットに攻撃を当てたりできる。

 紙一重で乙葉(おとは)の『突撃(チャージ)』を回避した竹海(たけみ)は右手で持つ黒刀『炭鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』ですれ違いざまに一撃をくれる。

 

「くっ!?」

 

 どうにかその一撃を左手に持つ小型円形盾(バックラー)で受け止めた乙葉(おとは)だったが、予想外の威力に左腕を持っていかれそうになる。

 思い切り体勢が乱れた竹海(たけみ)だったが『突撃(チャージ)』の余勢で駆け抜けることが出来たので、自然と距離を取ることに成功した。

 

竹海(たけみ)、あんた」

 

乙葉(おとは)は強くなったみたいだけど、私は『変わった』んだよ」

 

 つり上がった目に警戒の色を強くにじませる乙葉(おとは)に、竹海(たけみ)は誇らしげに言い放つ。

 

「そうみたいね。でも、これくらいじゃ負けてやらないわよ」

 

 思い切り吹き飛ばされてもなお、乙葉(おとは)は気丈にそう言い放つ。

 乙葉(おとは)の言葉に竹海(たけみ)は嬉しそうに笑う。同じ倶楽部にいた頃、内心では鬱屈した思いと憧憬の念を抱いていた友人が、自分を対等かもしくはそれ以上の存在として戦意を剥き出しにしている。

 今の状況が、竹海(たけみ)には嬉しくて仕方がない。

 

「では、勝てるようにしよう。《ここは踊り場》」

 

 竹海(たけみ)はそう言ってスキル『舞踏場(ダンスホール)』を発動させる。

舞踏場(ダンスホール)』は『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』のスキルで一定の空間内で踊る者にバフ、踊らない者にデバフが付与される。

 バフもデバフもそこまで強いものではないのだが、厄介なのはあくまで空間に付与されるスキルであるため、抵抗は出来ないことだ。出来ることは空間に付与されたスキル自体を解除する事くらいなのだが、『騎士(ナイト)』である乙葉(おとは)にそのようなスキルはあるはずもなく。

 

「さあ、いくよ!」

 

「あ、嘘? 身体が!?」

 

 デバフ状態の乙葉(おとは)竹海(たけみ)は踊ることでバフ状態を維持たまま二本の黒い曲刀を振り回し、追い詰めていく。

 

「あ!? ぐっ、こ、このお!!」

 

「ふっ、はっ、《光よ》」

 

 最後は竹海(たけみ)が左手に持つ黒い曲刀『静謐なる主日の基礎(ピュアテンパランスギア)』を眩く輝かせる攻撃スキル――『聖光斬(ディヴァインライト)』の一撃を持って、決着を見たのであった。

 

 

 

 

 

 二戦を終えて一勝一敗。

 しかもどちらも時間切れ判定ではなく、きっちりと戦闘不能にしての決着というのは、Fランク倶楽部同士の対決としては異例なくらいに白熱していると言えよう。

 続く中堅戦。

 両倶楽部の代表は中心線付近で向かい合っていた。

 倶楽部『安息所(メイトガード)』の中堅は霊王(れお)

 対する倶楽部『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の中堅は誠一(せいいち)

 盗賊系第二段階職『怪盗(ファントム)』である霊王(れお)と、同じく盗賊系第二段階職『忍者(ニンジャ)』の誠一(せいいち)

 装備はどちらも二本の短刀(ダガー)もしくは小剣(ショートソード)。防具はほぼどちらも学園の制服だけという軽装。誠一(せいいち)は首から口元にかけてを守る黒い布――『影の覆面(シャドウシュマグ)』をつけているが。

 そして、両者とも細身の体つきもいかにも『盗賊(シーフ)』系といった様相だ。

 ただし、霊王(れお)は背も平均かやや小さいくらいで見ていて不安になるくらいに細い。

 それに対して誠一(せいいち)は身長は平均より多少は高く、体つきも細いは細いが筋骨格はしっかりしている。その体つきは中軽量級のボクサーやダンサーを彷彿させる。

 

 試合開始前。戦意満々に睨みつける霊王(れお)に、誠一(せいいち)が話しかける。

 

「なあ、お前『盗賊(シーフ)』系なんだよな? 健太(けんた)から俺達についてなんか話聞いてねえか?」

 

 誠一の唐突な問いに、霊王は戸惑いながらも思い出して答える。

 

「あ? ああ、予選の時写真配布されて言われたっすよ。この人たちとは話ついてるからやり合うなって。でも本戦は無関係っすからね」

 

「…………それ以外には聞いてねえか? 何ていうか、ほら、そっちとこっちで合同でダンジョンダイブとか、人材の貸し借りとか」

 

「? 聞いてねえっすよ?」

 

 首を傾げる霊王(れお)誠一(せいいち)は「健太(けんた)のやろう」と悪態をつく。

 誠一(せいいち)は以前ダンジョンダイブ中健太(けんた)に懇願している。

「お前の倶楽部に『盗賊(シーフ)』系がいたら紹介してくれ」と頼んだことを。

 その時健太(けんた)は「分かった」と答えた。答えたのだ。

 それなのになぜ、何も言ってこないのか?

 

「またなに企んでやかがる?」

 

 健太(けんた)の胡散臭い言動の数々を知っている誠一(せいいち)がそんな誤解をするのも無理はないが、完全な誤解だ。

 健太(けんた)はシンプルに忘れていただけである。

忍者(ニンジャ)』という若干戦闘よりの職でありながら、罠解除を一手に引き受けている誠一(せいいち)としては結構切実な願いなのだが、この点に関しては健太(けんた)と少々温度差がある。

 

「まあ、いい。終わったらそっちとこっちで合同のお疲れさま会があるのは聞いてるか? そこでちょっと話し合おうぜ」

 

 誠一(せいいち)はそう言うと首まで下げていた『影の覆面(シャドウシュマグ)』を上げて顔の下半分を覆う。

 

「……それは良いすけど、やる前から終わった後の話っすか。負けねえっすよ」

 

 侮られていると感じた霊王(れお)が威嚇するように歯を剥く。残念ながらそれはヒヨコが一生懸命威嚇しているくらいの迫力しかない。ついでに言えば誠一(せいいち)は別段霊王(れお)のことを侮っていない。

 むしろ、ほぼ自分と同レベルの同系統職ということで、かなり霊王(れお)を警戒してくらいだ。

 だが、元々「目立たないように適当なところで負ける」を最善としている誠一(せいいち)としては今回の勝敗にはあまりこだわりがない。

 誠一(せいいち)の恋人である麻衣(まい)が副将で「私に回さないでよね」と言っているので二連勝ならば勝利を、二連敗ならば何とかうまくやって敗北を狙ったかもしれないが、現状は残念ながら一勝一敗。

 誠一(せいいち)が勝とうが負けようが、麻衣(まい)の副将戦が行われるのはすでに決定事項である。

 

「おう。ガチでやり合おうぜ」

 

 真っすぐな闘志を向けてる霊王(れお)に、誠一(せいいち)はつられる様に黒い覆面の下でニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 霊王(れお)誠一(せいいち)の戦いは、非常にかみ合った見ごたえのあるものになっていた。

 

 どちらも防具はないに等しい状態で武器は二丁の短剣。

 違いは、霊王(れお)が両方とも順手で持っているのに対し、誠一(せいいち)は右手は順手、左手は逆手に構えている。

 

「かっ! せいっ! くそ!」

 

「はっ、ほっ、おっと」

 

 左半身の体勢を取る誠一(せいいち)はその逆手に持った短剣で、霊王(れお)の二本の短剣による連撃を捌く。

 逆手に持った短剣は順手に持った短剣よりも撃ち合ったときに力が込めやすい。元々、体格も腕力も誠一(せいいち)が上であることも相まって、霊王(れお)の連撃は誠一(せいいち)に強くはじかれ、連撃にずれが生じてしまう。

 

「くそっ!」

 

 不利を悟った霊王(れお)が足を使って側面に回り込もうとするが、あいにく移動速度において誠一(せいいち)霊王(れお)に負けていない。

 

「っと、こっちか」

 

「あっ、ぐっ!?」

 

 回り込んだつもりの霊王(れお)に対し、誠一(せいいち)は余裕を持って正対できる体勢を取って待ち構えている。

 

 戦闘スタイルは広義の意味で同タイプ。

 移動速度、攻撃速度はほぼ互角。リーチは僅かに誠一(せいいち)が上。パワーは明確に誠一(せいいち)が上。そして、最大の違いはスキルに頼らない純粋な戦闘技術だ。

 霊王(れお)もこの学園に入学してからは短剣術の講義を熱心に受講しているのだが、物心ついた頃から『家の駒』となるように戦闘術を含めた訓練を受けて来た誠一(せいいち)とは流石に比べるべくもない。

 

「はっ、せっ、うららららあ!」

 

 誠一(せいいち)の防御に焦れたのか、霊王(れお)は途中から足を止めて両手を振り回す様にとにかく素早い連撃を繰り返す。

 まったく腰の入っていない撫でるような軽い攻撃だが、短剣術としては決して間違いではない。

 素手や打撃武器と違い、短剣には鋭い刃があるのだ。相手が低装甲(ソフトスキン)のモンスターや鎧を纏っていない人間ならば、刃筋を立てて触れさせればダメージにはなる。

 

「っと!」

 

 事実、誠一(せいいち)も左手だけで捌ききれないと見たのか、右手に持つ短剣も防御に回す。

 その瞬間を霊王(れお)は待っていた。

 

「《止れ》」

 

 霊王(れお)の左手の短剣『停止の短剣(ストップダガー)』を覚醒(アギト)させたことにより、その一撃を受け止めてしまった誠一(せいいち)の右手の短剣は空中に固定されてしまう。

 

「ぐっ!?」

 

停止の短剣(ストップダガー)』の効果はあくまで「対象をその場に固定」だ。誠一(せいいち)の短剣はその空間に固定しているのであり、『停止の短剣(ストップダガー)』が止めているわけではない。

 だから、霊王の動きは全く阻害されない。

 

「せい! はっ!」

 

 誠一(せいいち)が動かない短剣に固執している僅かな隙に、霊王(れお)は二本の短刀で襲い掛かる。

 

 

「くっ、ぎっ、《空蝉》!」

 

 右手をその空間に固定された短剣から離さずにいたせいで体勢の苦しい誠一(せいいち)は、今度は霊王(れお)の連撃を受けきるのが苦しく、とっさに忍者のスキル『空蝉(ウツセミ)』で離脱を計る。

 

 一瞬ではるか後方に退避した誠一(せいいち)が一丁の短剣を構えると、ガチャリと音を立てて停止状態の終わった右手の短剣が闘技場の床に落ちた。

 

空蝉(ウツセミ)』は忍者の緊急回避用スキルで、効果は「装備している何か一つを代償にその場から離脱できる」である。

 今回誠一(せいいち)は、空間に固定されていた右手側の短刀を代償に『空蝉(ウツセミ)』を発動させたのだ。

 

「ちっ……」

 

 見事一本取られた誠一(せいいち)は『影の覆面(シャドウシュマグ)』の下で渋面を作る。

 左手で逆手に持つ一丁の短剣を前に構え、右手はボクシングのように拳を握る。だが、先ほどまでと比べると体の角度が横向きになっている。

 霊王(れお)から見ると右腕はほとんど見えないくらいだ。

 

「はっ!」

 

 二丁の短剣使いから一本を奪った。だから今が好機と捉えた霊王(れお)の判断は間違っていない。

 一気に距離を詰めた霊王(れお)は右手に持つ短剣を大きく横に振り抜く。当然、その斬撃は誠一(せいいち)が左手で逆手に持つ短剣で受け止められる。

 

「《ふっ》《止れ》」

 

 その瞬間、霊王(れお)は「右手で持つ」『停止の短剣(ストップダガー)』の能力を発動させ、今度は誠一(せいいち)の左手で持つ短剣を空中に繋ぎとめた。

 つい先ほどまでは右手に『黒瑪瑙の牙(オニキスファング)』、左手に『停止の短剣(ストップダガー)』を持っていたのに逆になっているのは、『怪盗(ファントム)』のスキル『入れ替え(スウィッチング・プレイシズ)』の効果だ。

 効果は物体の入れ替え。大きさ、重さ、形状が一定以上の近似値にある二つの物体を問答無用で入れ替えることが出来る。

 条件さえ合えば、ダンジョン内で宝箱を解錠せずにいらないアイテムと中身を入れ替えることすら可能だ。

 二丁とも短剣を失った誠一(せいいち)に、霊王(れお)は勝機と見て襲い掛かる。しかし、

 

「はあっ!」

 

「《切り裂け》」

 

 誠一(せいいち)は制服のブレザーで隠れるように後ろ腰に差していた三本目の武器――『切り裂きのククリ(スラッシング・ククリ)』を抜き打ちざまに覚醒(アギト)し、霊王の腹を深々と切り裂いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ここまで倶楽部『安息所(メイトガード)』の一勝二敗で迎える副将戦。

 負けると終わりの『安息所(メイトガード)』の副将は尚典(なおふみ)

 副部長の一人であり、『安息所(メイトガード)』では健太(けんた)に次ぐ高レベルを誇る。

 さらに尚典(なおふみ)は真面目で戦闘意欲も高く、『術士(マギ)』系の素質にも恵まれている。その上、近接戦闘用に槍の講義も受講しており、ちょっとしたモンスターくらいならば槍だけでも討伐は可能だ。

 体格は男子としては小柄で華奢。顔は童顔で可愛らしく、目が大きくまつ毛が長い。日頃は性格の良さがそのまま出ているような笑い顔を浮かべていることが多いのだが、今は流石に真剣な面持ちだ。赤く艶やかな唇もきつく閉じられている。

 装備は両手持ちの細槍と、左手の中指に嵌めている白金金剛石指輪(プラチナダイヤモンドリング)

 防具は学園の制服だけだが、制服の袖や取り出しやすい胸の内ポケットに『陰陽師(オンミョウジ)』のスキル発動を助ける呪符を仕込んでいる。

 

 

 対する倶楽部『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の副将は麻衣(まい)

 男子二人に女子十八人という歪な男女比の『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の中で唯一、叶馬(とうま)のパートナーではなく誠一(せいいち)のパートナーである。

 叶馬(とうま)誠一(せいいち)静香(しずか)、そしてこの麻衣(まい)が倶楽部『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の前身である叶馬(とうま)パーティーの中核、そして始まりのメンバーだ。

 (クラス)は『術士(マギ)』系第二段階職『魔術士(ウィザード)』。

 麻衣(まい)の『術士(マギ)』適正は天才と表現しても大げさではない。

 基本的に体や五感の使い方の延長に過ぎない『戦士(ファイター)』系『盗賊(シーフ)』系のスキルと違い、魔法という未知のスキルは最初から使えない者も多い。

 使えたとしても最初は基本の基本である『魔弾(マジックボルト)』を教科書通りに発射するのが精々だ。

 だが、麻衣(まい)は最初から『火球(ファイヤーボール)』をぶっ放した。

 その後すぐに、「小さいが高速で飛翔する火球」「速度は遅いが誘導性のある火球」「散弾のような極小の複数の火球」の打ち分けも当たり前のように(こな)したのだから天才と言うしかないだろう。

 そんな麻衣(まい)は今、短いマジックロッドを右手に持ち、機嫌の悪そうな表情で闘技場に立っていた。

 麻衣(まい)誠一(せいいち)が「麻衣(まい)静香(しずか)が一年丙組女子ではツートップ」と評した通り、学園基準でもトップクラスの美少女だ。

 背の高さも胸の豊かさもおおよそ同世代女子の平均と言ったところだが、小顔でウエストが細く、スタイルは抜群の良い。

 普段は下ろしていることも多い明るいセミロングの茶髪を、流石に今は一つにまとめてお団子にしているが、その髪型もただ単に運動しやすさ最優先ではなく、「邪魔にならない範囲で可愛いヘアメイク」をしていることが分かる。

 美少女の自覚がある美少女。それは今のような不機嫌そのものの表情を浮かべていても変わらない。

 

「もう最悪。なんで私の出番が回ってくるのよ。乙葉(おとは)ちゃんが勝ってくれたらよかったのに」

 

 その発言からも分かる通り麻衣(まい)は、『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』のレギュラー五人の中では断トツ、もしくは唯一戦闘に積極的ではない人間だ。

 元々誠一(せいいち)に「レベルを上げて一緒に戦ってくれ」と言われた時に「え? あ、あたしも?」と驚きと恐怖の表情を浮かべていた。

 その後すぐに説得され、今では叶馬(とうま)パーティーの最大火力(叶馬(とうま)を除く)となっているが性根は学園女子の多数派である「強者男子に依存して、性的奉仕に従事する」側の女子である。

 

「んじゃ、よろしくね、なおくん」

 

 そんな麻衣(まい)が一対一で学園の男子と戦うのに全く緊張していないのは、相手が尚典(なおふみ)だからだろう。

 尚典(なおふみ)はパートナーである空亜(あくあ)が麻鷺荘を寝床としている関係上、麻鷺荘に泊まり込むことが多い。

 そのため、麻衣(まい)にとってもある程度顔見知りだ。

 元々尚典(なおふみ)の体つき、顔つきは小柄の童顔であまり警戒されない見た目となっている。そして、実際の人となりもそれに準ずる優しく危険性の少ない人物であることが知れる。

 麻鷺荘ではパートナーである空亜(あくあ)だけでなく、上級生の女子が頻繁に彼を部屋に引っ張り込んでいることも知っている。

 見た目は可愛らしく、中身は優しく、実は強く、セックスには積極的で、それでいてあくまで受け身体質で増長して女子を乱雑に扱うことはない。

 学園の壊れた倫理観に染まってしまった上級生女子からしてみれば、尚典(なおふみ)は非常に都合の良い存在だろう。

娼婦(ニンフ)』コンビの朱音(あかね)紫苑(しおん)などは「叶馬(とうま)くんか誠一(せいいち)くんに隷属した状態でなおくんを襲う」のが今一番はまっているプレイらしい。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 そんな尚典(なおふみ)は今、麻衣(まい)よりも長いまつ毛の下で大きな瞳に真剣な色を乗せて細槍を構えている。

 尚典(なおふみ)の可愛らしい童顔と小柄で華奢な体格は、尚典(なおふみ)の強い戦意と高い戦闘能力を見抜きづらくする効果があった。

 

 

 

 

 

 

術者(マギ)』系同士の対決は、基本的に距離を取った状態で始まる。

 

「《招来、猿鬼(さるおに)》」

 

「《ビッグオレンジボールフォール》」

 

 開始の合図と同時に、尚典(なおふみ)が自身の最強戦力である式神『猿鬼』を召喚した次の瞬間、麻衣(まい)がマジックロッドを手首だけで小さく振ると、猿鬼の頭上から巨大な火の玉が降り注ぐ。

 直径三メートルほどもある明るいオレンジ色の火の玉が猿鬼を飲み込み、消え去るとそこには何もなかった。

 

「うっそでしょ!?」

 

 最強戦力を一瞬で焼き滅ぼされた尚典(なおふみ)が絶句している間に、麻衣(まい)は次の攻撃に移る。

 

「《チェリーショット、ラビットシュート》」

 

それはさながら火球による連射式散弾銃だ。

ビー玉ほどの火球はまとめて数十発、それが何度も何度も放射状に放たれる。 

 

 

「っ! 《(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ぜん)(ぎょう)》、【(すい)】!」

 

 その攻撃を尚典(なおふみ)は間一髪で、水の壁を築くことで受け止める。

 透明な水の壁は一見すると防御力など無さそうだが、今の尚典(なおふみ)の力量をもってすれば鎧犀(アーマーライノセラス)の突撃とて一度くらいは止められるだけの強度がある。

 特に火炎攻撃に対しては絶大な防御力を誇る、はずだった。

 

 その水の壁が瞬く間に沸騰し、蒸発し、瞬間的に小さな穴が開く。

 

「《(へき)》!」

 

 尚典(なおふみ)はとっさに小型盾ほどの小さな光の障壁を築き、突き抜けて来た小さな火球をすべて捌いたが、『術士(マギ)』系の出力において麻衣(まい)が大きく上回っていることを認めざるを得なかった。

 

「っぷ! 魔術士が陰陽師より火力よりな職だとしても、ここまで差があるのか」

 

 尚典(なおふみ)は思わずボヤくようにそんな言葉を漏らす。

魔術士(ウィザード)』と『陰陽師(オンミョウジ)』は同じ『術士(マギ)』系の第二段階職であるが、『魔術士(ウィザード)』は純粋な火力職なのにたいし、『陰陽師(オンミョウジ)』は火力、バフ、デバフ、近接戦闘までこなすマルチ職という区分になる。

 当然、火力自体は『魔術士(ウィザード)』に分がある。だとしても、ほぼ同レベルの麻衣(まい)尚典(なおふみ)にここまでの差があるのは少々異常だ。

 

「あちゃ、防がれちゃうか。オレンジスライサー」

 

 麻衣(まい)が放ったフライングディスクのような薄い円形の炎が複数、大きな弧を描く軌道で尚典(なおふみ)の襲い掛かる。

 前後左右さらに上からも遅いかかる炎の円盤は、前面に壁を張るだけでは防ぎようがない。

 

「っ《(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ぜん)(ぎょう)》、【(ぼう)】!』

 

 尚典(なおふみ)は自分を中心とする半球型の光の防壁で対抗する。ただの魔力による防壁だ。当然先ほどの水璧と比べると火炎に対する防御力は落ちる。

 

「《『()(ひょう)』『(しょう)』》! 《『(いん)』『(えい)』》」

 

 当然のように防壁を突き破って来る炎の円盤を、尚典(なおふみ)は防壁内部に豪雨を降らせ、それでもなお飛んでくる炎の円盤に氷の礫をぶつけ、弱まったところを消し去る。そして、光の防壁と中の豪雨で麻衣(まい)からの視認性が落ちている間に自分の姿を晦ませ、代わりに幻影の自分を映し出す。

 そして、その状態の維持したまま破壊された結界の外に這い出てる。

 『九字(くじ)十字(じゅうじ)』ならばともかくそれの詠唱破棄版の『一字(いちじ)』では、隠形も幻影も効果は弱い。

 

「あれ、どこ? あ、いた」

 

 ほんの数秒程度で麻衣(まい)に見つかってしまうが、遠距離戦とはいえ戦闘中の数秒は決して短くない。

 

(はあ、ヤバい。遠距離の撃ち合いだと分が悪すぎる。でも麻衣(まい)さんも同レベルってことは……)

 

 

 その数秒の間に尚典(なおふみ)は呼吸を整え、作戦を決める。

 

「《招来・猿鬼》」

 

 尚典(なおふみ)は呼び出した式神の猿鬼は真っすぐ麻衣(まい)に突撃させる。

 

「きゃっ!? この《オレンジボール》!」

 

 身長二メートル越えの大猿の突撃に悲鳴を上げた麻衣(まい)だが、すぐさまファイヤーボールで焼き払われる。

 尚典(なおふみ)相手には向けられない特大ファイヤーボールも式神相手ならば問題ない。

 ルール上『肉体の大部分を消失させる攻撃』と『頭部を大きく損なう攻撃』は反則となっているため、麻衣(まい)の最大火力は直接相手には叩き込みづらいのだ。

 だが、式神相手ならば雑にファイヤーボールをぶつけるだけすむ。

 

「《招来・猿鬼》」

 

「キモ! なおくん趣味悪い。《オレンジボール》」

 

「《招来・猿鬼》」

 

「またあ? 《オレンジボール》」

 

陰陽師(オンミョウジ)』のスキルである『式神』には、「思念(しねん)」「形代(かたしろ)」「調伏(ちょうぶく)」の三種類が存在する。

 術者のイメージとSPだけで具現化する「思念(しねん)」型。

 媒体となる物(多くは呪符)を核に呼び出す「形代(かたしろ)」型。

 そして、実在の存在を懲らしめたり説得したりして己の従者とする「調伏(ちょうぶく)」型。

 強力な式神はほぼ「調伏(ちょうぶく)」型だと考えて差し支えない。

 役小角(えんのおずぬ)前鬼(ぜんき)後鬼(ごき)。安倍晴明の十二天将(てんしょう)。いずれも「調伏(ちょうぶく)」型の式神だ。

 

 学園の『陰陽師(オンミョウジ)』系も式神としての適性があるモンスター限定で調伏(ちょうぶく)して己の式神とすることが出来るらしい。もっとも騎士系の騎獣と比べると式神適性のあるモンスターは非常にレアなため、「調伏(ちょうぶく)」型の式神を従えている『陰陽師(オンミョウジ)』は稀らしいが。

 

 ともあれ、今尚典(なおふみ)が何度も呼び出しては麻衣(まい)にけしかけている猿鬼は、「思念(しねん)」型の式神である。

 開幕と同時に呼び出した猿鬼だけは『豊象神の牙筆(ガネーシャ・ペン)』を用いて作り上げた呪符による「形代(かたしろ)」型の式神だったのだが、一瞬で焼き払われた。

思念(しねん)」型の式神は基本的に弱い。今尚典(なおふみ)が呼び出している猿鬼は特に注ぎ込むSPを最小に絞っているので、完全な見た目詐欺だ。

 既知外領域のゴブリンにだって負けるだろう。今の麻衣(まい)がマジックロッドでぶん殴っても倒せそうなくらいだ。

 

「《招来・猿鬼》」

 

「もう、いい加減して、なおクン!《オレンジビーム》!」

 

 苛立つ麻衣(まい)はファイヤーブリッドを持続照射しながら振り回すことで、猿鬼と後ろの尚典(なおふみ)も薙ぎ払おうとする。

 

「おっと《(へき)》」

 

 猿鬼は無防備に焼き払われたが、尚典(なおふみ)は光の障壁を盾にして難を逃れた。

 

 火力で圧倒しているため勘違いしがちだが、現状尚典(なおふみ)麻衣(まい)の総合レベル差はないに等しい。

 火力の差はあくまで(クラス)の違いと本人の資質の高さから来ている。

 同じ『術士(マギ)』系で総合レベルが同程度ならば、基本的に総SP量も同等。

 そして、見掛け倒しの「思念(しねん)」型『式神・猿鬼』のSP量は、麻衣(まい)が放つ攻撃スキル一発より圧倒的に少なく。

 

「へ? あ、あれ?」

 

 景気よく攻撃スキルを連発していた麻衣(まい)が先にSP切れを起こすは必然と言えた。

 SPはスキルを放つ燃料であるが、同時に身体を守るバリアであり、纏うことで身体能力を向上させるブースターでもある。

 そのため、SPの残量が一定を下回ると体が重く感じられる。

 慣れていない者なら、脚をもつれさせて転んでしまうこともあるくらいだ。

 

 麻衣(まい)は一応、SPの過剰放出状態も経験はあるのだが、それに対する危機感はなかった。

 これまで麻衣(まい)はダンジョンダイブで最低でも叶馬(とうま)誠一(せいいち)に守られる状態でしか戦ったことがない。

 日頃のダンジョンダイブでは、後方から攻撃スキルを放つ立場に終始しており、万が一SPを枯渇させてもパートナーである誠一(せいいち)が護ってくれて、その後SPを補充してくれる至れり尽くせりのダンジョンダイブしか知らない。

 

 だから、SP残量を気にしながら戦うという感覚が育っていなかった。

 

「今! 《(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ぜん)(ぎょう)》!」

 

 麻衣(まい)の膝が落ちかけたのを見た尚典(なおふみ)は、全速力で麻衣(まい)に向かい駆けだす。

 

「あ、このっ、《ストロベリーカーテン》!」

 

「【(びょう)】!」

 

 麻衣(まい)はとっさにファイヤーウォールを張って尚典(なおふみ)の突進を妨げようとするが、走りながらスキル『九字(くじ)』を唱え終えていた尚典(なおふみ)は一切足を止めることなく、『十字(じゅうじ)』目の『(びょう)』を唱え、水の防壁をファイヤーウォールにぶつける。

 威力に関しては麻衣(まい)が上という事実は変わらない。五行では水が火に優位なのだが、麻衣(まい)の能力はそれを覆す。

 

 だが、大量の水をぶつけられたことで火力の下がったファイヤーウォールを尚典(なおふみ)は正面から体当たりで突き抜ける。

 

「はあ!」

 

「嘘っ!? ガッ!」

 

 完全に想定していなかった正面突破に麻衣(まい)が対応できるはずもなく。

 尚典(なおふみ)の突き出す細槍を、麻衣(まい)はその細い喉で受け止めることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、まだ喉がおかしい。声が出しづらい。なおくんめ。可愛い顔してやる事えげつないんだから」

 

 副将戦を残念ながら敗北で終えた麻衣(まい)は倶楽部対抗戦実行委員に傷を癒してもらい、そんな愚痴をこぼしていた。

 

「いや、見た目通り滅茶苦茶優しいぞ、あれは。本戦じゃあれが一番温厚な倒し方だ」

 

 傷は完全に癒えたがまだ違和感が残るのか、何度も咳払いをする麻衣(まい)の背中を軽く叩きながら誠一(せいいち)は複雑な表情でそう告げる。

 

 誠一(せいいち)の言っている内容は、基本的には正しい。

 倶楽部対抗戦本戦はギブアップすら存在しない。戦闘可能状態であれば、本人の戦意が折れていても戦闘は続行される。

 片腕片足を失っても、場合によっては戦闘続行可能と見なされるくらいだ。

 それに比べて呼吸器官の損傷は、戦闘続行不可能を認められやすい。

 基本的にスキルは発声を必要とするからだ。『戦士(ファイター)』系、『盗賊(シーフ)』系ならば多少声が出しづらくなっても気合の叫びだけで簡単なスキルは発動可能だが、『術士(マギ)』系はそうはいかない。

 尚典(なおふみ)がやった「喉を一突き」というのは、損傷や痛みを最小限に抑える決着の付け方なのだ。

 

 もっとも、今回は二回戦とは言えまだ一年同士、Fランク同士の対決だ。審判もその辺はファジーに対応してくれるので、事実上降参も認められるようなものなのだが。

 とはいえ、対戦相手にそこまでの配慮を求めるのはお門違いだろう。

 誠一(せいいち)もそれは十分に分かっている。分かっているのだが、誠一(せいいち)にとって麻衣(まい)は唯一のパートナー。大切な存在だ。傷つけてくれた尚典(なおふみ)に「配慮ありがとう」と言えるほど大人ではない。

 

 そんな学園では極めて珍しい相思相愛カップルの様子を見ていた倶楽部『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の部長はのっそり近づき、口を開く。

 

「うむ。麻衣(まい)も良くやった。誠一(せいいち)沙姫(さき)も、乙葉(おとは)先輩も。勝敗は分かれてしまったが、それは戦いの常。後は俺に任せろ」

 

 そう言って叶馬(とうま)は、その場で何度も屈伸運動を繰り返す。すでに『重圧の甲冑(ストレッサーアーマー)』は装備した状態でだ。

 相変わらずの無表情だが、この場にいる『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の部員達には今の叶馬(とうま)がとんでもなく上機嫌であることが見て取れる。

 問題は叶馬(とうま)の機嫌の良さはそのまま戦意の高さと攻撃力の増加に寄与してそうな点だ。

 不幸中の幸いは、今のご機嫌叶馬(とうま)を受け止める相手が、その叶馬(とうま)の全力のじゃれ合いでも多分壊れ無さそうことだろう。

 

 ついにはその場でピョンピョンジャンプを始める叶馬(とうま)を見て、誠一(せいいち)は頭痛をこらえる様に右手で額を抑える。

 

「はあ……結局こうなったか。加減しろよって言いたいところなんだが」

 

「無理だ。健太(けんた)は加減をして勝てる相手ではない。むしろ、全身全霊で立ち向かい、初めて勝つか負けるかの土俵に上がることが出来る」

 

 誠一(せいいち)の言葉を叶馬(とうま)はきっぱりと切って捨てる。

 

「いや、負けるには一番良いところなんだが。正直、明日の三回戦に出る方が罰ゲームに近い」

 

 トーナメント表を確認している誠一(せいいち)が正直にそう打ち明ける。

 だが、叶馬(とうま)がそんな言葉に耳を貸すはずもなく。

 

「駄目だ。どのような理由があってもここで全力を出さなければ、俺は健太(けんた)を友と呼ぶ資格を失う。あいつはそう言う奴だ」

 

 全然そんなことはないのだが、叶馬(とうま)の中ではどうやら健太(けんた)はそんな男になっているらしい。

 これはダメだ、と誠一(せいいち)が説得を諦めたところで審判から「両倶楽部の大将は闘技場へ」と声がかかる。

 

「承知。では、いってくる」

 

 気合十分、SFに出て来るパワードスーツを彷彿させる全身甲冑姿で六角棍棒――『餓鬼王棍棒(オーバーグリードギア)』が右手に持った叶馬(とうま)がそう言って闘技場へと上がっていく。

 

「御屋形様、御武運を!」 

 

「ちょっと叶馬(とうま)くん、やりすぎるんじゃないわよ」

 

「はーついに二大怪獣の激突か」

 

「おう、もうなるようになれ」

 

「が、頑張ってね、叶馬(とうま)くん」

 

「うん、ミカンちゃんが止めないで応援してるってことは、問題はなさそうかな?」

 

 そんなことを言っていた『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』のレギュラープラス補欠の六人だったが、闘技場に上がった叶馬(とうま)と対戦相手の健太(けんた)が向かい合うと、自然と皆口を閉ざして観戦に集中する。

 

「まあ、見てえか見たくねえかで言や、見たくはあったんだけどよ」

 

「だよね。実際どっちが強いんだろ、あの二人」

 

 ぽつりと無責任な本音を漏らす誠一(せいいち)に、喉も機嫌も調子を取り戻したパートナーの麻衣(まい)がそう同意を示した。

 

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