※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第百二十一話 健太VS叶馬、それを目の当たりにする者達

 

 

 

「勝ったよ、健太(けんた)

 

「ああ。良くやってくれた、尚典(なおふみ)

 

 華のように可憐な笑みを浮かべる尚典(なおふみ)健太(けんた)は短い称賛の声を返して、顔より高いところでお互いの右手と右手を鳴り合わせる。

 

 遅れて他のメンバー達も口々に勝者を褒めたたえる。

 

「凄い死闘だったな、尚典(なおふみ)

 

「流石はうちのナンバーツー」

 

「あざっす、尚典(なおふみ)君! 俺の負けを取り返してくれて、マジあざっす!」

 

「くふー、尚典(なおふみ)くんつっよーい! さいこー」

 

「大した(おとこ)ぶりです、尚典(なおふみ)さん」

 

 皆がひとしきり副将の勝利を祝ったところで、大将である健太(けんた)は動き出す。

 

「そろそろ行く」

 

「うん、頑張って」

 

 闘技場に向って歩き出す健太(けんた)尚典(なおふみ)が真剣な表情で激励の言葉をかける。

 遅れて他のレギュラー及び補欠メンバーも健太(けんた)に声をかける。

 

健太(けんた)さん、健闘を祈ります」

 

「ご主人様、ファイトだよ」

 

「化け物退治、健太(けんた)さんなら出来るって信じてるっす」

 

「勝ち負けはどうでもいいから、生きて帰って来てね」

 

(かしら)、御武運を」

 

安息所(メイトガード)』のメンバーは、主にダンジョンダイブを通して健太(けんた)の非常識な強さを目の当たりにしている。

 だがそんな彼、彼女達でもこれからの相手は「健太(けんた)なら勝てる」と言い切れない。

 こうして闘技場越しに見ているだけでも相手が非常識な化け物であることが分かる。

 むしろ「勝てるとは言い切れない」つまり「負けると断言できない」時点で健太(けんた)をとてつもなく高く評価していると言える。なにせ相手は雷神様、叶馬(とうま)なのだから。

 

「ご主人様、大剣は?」

 

 愛用の大剣を置いて闘技場に向かう健太(けんた)竹海(たけみ)がそう声をかける。

 

叶馬(とうま)相手には使えない。……いや、むしろ叶馬(とうま)相手だと行けるか?」

 

 竹海(たけみ)にそう答えた健太(けんた)だったが、途中でとあることを思いつく。

 元々健太(けんた)は、対叶馬(とうま)戦は最初から小剣『金狼木霊剣』で挑むつもりだった。

 小剣術と盾術は真面目に受講して実戦も反復練習も重ねている健太(けんた)だが、大剣に関しては刃筋を立てて雑に振り回す以上のことはできない。

 十把ひとからげの雑魚ならばそれだけで一掃できるので重宝はしているのだが、人間サイズの強敵を相手にはあまり実用的とは言えない。

 ずっとそう考えていた健太(けんた)であったが、この直前でちょっとした使い道を思いついた健太(けんた)は、結局いつも通り大剣をもって闘技場へ上がっていった。

 

 

 

 

 

「やっとだ。やっとこの時が来た。さあ、健太(けんた)。存分に仕合おう」

 

 装備だけでなく精神の意味でも完全武装状態な叶馬(とうま)の言葉に、審判が白い覆面の下でビクっと体を震わせる。

 自分に向けられているわけでもない闘気に最低でも第四段階の戦闘職であるはずの審判が反射的な反応を抑え切れなかたったのだ。尋常ではない。

 

 その尋常ではない闘気を正面から浴びせられる健太(けんた)は当然『戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオンにしており、だから当然表情一つ動かさない。戦闘態勢も取らずに、リラックスした立ち姿のままだ。

 

「こうなった以上やるしかないだろうな。時間制限のある初日に当たることが出来たのが、不幸中の幸いと思っておくか」

 

 健太(けんた)は自分に言い聞かせるようにそう言葉を返した。

 日頃は群衆に埋もれる健太(けんた)の凡庸さが、この場では異様としてまざまざと浮かび上がる。

 当然だろう。平和な繁華街をちょっとオタクくさい中肉中背な男子が普通の表情でスタスタ歩いていても誰の目にも止まらないだろうが、ゴ〇ラが襲撃する街中で皆が逃げ惑う中、明らかにゴ〇ラに狙われている本人が同じように普通の表情で歩いていたら誰が見てもおかしいと分かる。

 今の叶馬(とうま)と相対して「全くいつも通り」の表情でいつも通りに佇んでいることで、健太(けんた)の凡庸さがはぎ取られる。まあ、実態は『戦士の不動心(マインドスイッチ)』という後付けチート能力に偽装されている健太(けんた)の本性はその通りではあるのだが。

 

「双方所定の位置について。特別ルールで制限時間は三分だ……どうにか三十秒にまけてほしいところだが」

 

 審判の最後の小さな呟きを耳にした健太(けんた)が横目で審判の様子を見る。

 白い覆面をしているので断言はできないが、その声と背格好からその人物はこれまで『学生決闘(メンズ―ア)』で何度もお世話になっている決闘委員の方の気がした。

 

「見ての通り本日行われる本戦二回戦までは闘技場を四分割して、四試合を同時に行っている。

 結界を超えて他の試合会場に影響を与える様な攻撃は可能な限り慎むように」

 

 叶馬(とうま)健太(けんた)を順番に見た審判は、そんなこれまで一度も聞いたことのない念を押すのだった。

 

 

 

「はじめ」

 

「《限界まで尖れ》《伸びろ》」

 

 審判の始めの合図と共に、健太(けんた)は両手で持つ大剣の二つの能力『鋭刃(シャープネス)』『伸縮自在(テレスコープ)』を発動させる。

 特に『鋭刃(シャープネス)』は最大限だ。

 そうすることで1メートル50センチほどもある灰色の自然石のような刀身は完全に消え去り、50センチほどだった柄は一気に4メールほどまで伸びる。同時に重量が激増する。

鋭刃(シャープネス)』を最大限まで発動させると刀身がなくなり鈍器になるというのは何か間違っている気がするのだが、実際どんな鋭い刃の状態よりも刃が完全に消失する(こん)状態が一番攻撃力が高いので大きな問題はない。

 

「《ふん》」

 

 長さ一丈二尺(約4メートル)、重さ一万三千五百斤(約8トン)の棍を構える健太(けんた)に対し、その意図を察した叶馬(とうま)もその身纏う未来的なデザインの重甲冑――『重圧の甲冑(ストレッサーアーマー)』の能力を発動させる。

重圧の甲冑(ストレッサーアーマー)』の能力、それすなわち重量操作。叶馬(とうま)の重量は10トンまで嵩上げされる。

 

「すう……はあ……」

 

「《防御強化》《敏捷強化》《視力強化》《時間感覚強化》《筋力強化》」

 

 叶馬(とうま)がゆっくり息吹を繰り返し、『重圧の甲冑(ストレッサーアーマー)』を纏う体はもちろんのこと、逆立った頭髪から両手で持つ六角六尺棒――『餓鬼王棍棒(オーバーグリードギア)』までバチバチと金色の雷光を放つそのその隙に、健太(けんた)はこっそり自分に『増強術士(エンハンサー)』のスキルで自己強化に努める。

 衆目に晒されるこの戦い、健太(けんた)としては自分の異質さをさらけ出すような手札は切れない。『増強術士(エンハンサー)』系のスキルがギリギリだ。

 これ以上は流石に「実は騎士ではない」と見ている者達にばれてしまう。

 

「《はあ》」

 

 準備の整った健太(けんた)は両手で持つ棍棒の先端を雷纏う友人に向けて、『重装騎士(ヘヴィアームドナイト)』の攻撃スキル『重装突撃(ヘヴィアームドチャージ)』を敢行する。

 

「むんっ!」

 

 対する叶馬(とうま)は全身から金色の雷を放電しながらそれを迎え撃つ。

 かくして、超高速の8トンと雷速の10トンが真正面から激突した。

 

 人間同士の戦いでは聞こえてはいけない轟音と、ありえない規模の衝撃波が闘技場『全体』に響きわたる。

 

「……ちっ《ふうう》」

 

 衝突地点から十数メートル下がったところで、健太(けんた)は闘技場の床に棍をぶっ刺して無理矢理動きを止めた体勢で叶馬(とうま)を睨む。

 その叶馬(とうま)は衝突地点から数十センチ下がっただけ。完全な健太(けんた)の当たり負けである。

 健太(けんた)はぶつかり合った衝撃で靱帯の損傷や骨のヒビ(こっそり『自慰(リジェネレート)』を使用したのでもう治った)といった軽傷を負ったのだが、見たところ叶馬(とうま)は無傷のようだ。

 

 まあ、予想していたことではある。むしろ、「雷神無敵モード」の叶馬(とうま)と正面からぶつかり合ってこの程度で済んだのは予想よりかなり良い結果とすら言える。

 

「クウウウウ、カアア!」

 

 全力を出し、その全力を正面から受け止められたという状況に叶馬(とうま)は悪魔のような笑い顔を浮かべ、気勢もしくは奇声を上げる。

 叶馬(とうま)のテンションはまさに最高潮だ。それを見た健太(けんた)は「今しかない」と確信する。

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太(けんた)は、意図的に興奮しているような表情を作り、両手で持っていた棍の能力をオフにして、元の灰色の自然石のような大剣に戻す。

 そして、その大剣を躊躇いなく闘技場の外へと放り投げ、

 

「来いよ、叶馬(とうま)! 武器なんか捨ててかかって来い!」

 

 と、大声で叶馬(とうま)を挑発した。

 

「おう!」

 

 当然のように叶馬(とうま)はその言葉に応え、持っていた六角六尺棒――『餓鬼王棍棒(オーバーグリードギア)』を投げ捨てる。

 

「よし」

 

 それを見た健太(けんた)はすかさず腰から主武器(メインウェポン)である小剣『金狼木霊剣』を抜く。

 

 珍しく、本当に珍しく、叶馬(とうま)が「え?」という顔をした。

 

 

 

 

 

「ひきょー、健くんすっごくひきょー!」

 

「いえ、戦いの場において卑怯卑劣はただの戯言(ざれごと)。流石は健太(けんた)さん、見事な詭道(きどう)です」

 

 闘技場の下、『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』側では麻衣(まい)と可愛らしく怒り、沙姫(さき)が視線は闘技場に向けまま真剣な表情でそう賞賛していた。

 その隣で誠一(せいいち)は、あらゆる苦痛を一手に引き受けているような顔で吐き捨てる。

 

「……たんに叶馬(とうま)がトンマなだけだろう。別段健太(けんた)は、腰の小剣隠してもいなかったぞ」

 

 だが、あの場面であの言葉。「叶馬(とうま)なら引っかかる」と健太(けんた)が踏んでいたことは誠一(せいいち)にも分かる。そう言う意味では確かに健太(けんた)は見事に叶馬(とうま)を嵌めたのだろう。叶馬(とうま)しか引っかからないようなトンマな罠で。

 

 闘技場では武器を失った叶馬(とうま)と、主武器(メインウェポン)を抜いた健太(けんた)が戦っているが、流石に現状は健太(けんた)が攻勢、叶馬(とうま)が守勢だ。

 とはいえ健太(けんた)の剣戟(まれに方形盾の殴打)の大半を叶馬(とうま)はその両腕の篭手部分で防御することに成功している。

 叶馬(とうま)が装備している『重圧の甲冑(ストレッサーアーマー)』の元の持ち主だったゴブリンロードは、武器を持たないモンスターだった。主な攻撃手段は拳撃。そのため『重圧の甲冑(ストレッサーアーマー)』は両籠手部分がとりわけ分厚く頑丈にできているのだ。

 重さもあるので、叶馬(とうま)ならば武器攻撃をその篭手で打ち払うのも難しくはない。

 だから、健太(けんた)叶馬(とうま)の戦いはしばらくすれば互角の攻防へと移行する。

 

 バチバチ帯電する叶馬(とうま)と、たまに姿が消えたり、腕が見えなくなったりする健太(けんた)が凶悪な火花を散らしながら、金属製の轟音を絶え間なく鳴り響かせている。

 

「互角……なんだろうな」

 

 詳細は視認できない誠一(せいいち)は無意識に左掌で胃のあたりをさすりながら、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 実際に戦っている健太(けんた)の感想としては、状況は互角とは言い難かった。

 

「はっ」

 

「っ」

 

 健太(けんた)の『金狼木霊剣』による剣戟を分厚い篭手ではじき返した叶馬(とうま)は、逆の手で雷神無敵モードからの無拍子拳撃を放ってくる。

 

「《しっ》」

 

 その一撃を健太(けんた)は『堅牢盾士(ロバストシールダー)』の防御スキル『瞬間強化盾(ジャストワン・リィンフォース・シールド)』を乗せた左腕の方形盾で受け止めた。

 スキルの効果で微動させずに受け止めることが出来た健太(けんた)は、攻撃スキルを使おうとするが、

 

「むん!」

 

「《っち》」

 

 その隙に再び雷神無拍子が撃ち込まれ、やむを得ず健太(けんた)はもう一度『瞬間強化盾(ジャストワン・リィンフォース・シールド)』を使用して受け止める。

 

(まずいな、攻撃スキルを使う間がなくなってきた)

 

 超高速の攻防を繰り広げながら、健太(けんた)は冷静に現状を把握する。

増強術士(エンハンサー)』のスキルで自己強化している今の健太(けんた)は、通常状態の叶馬(とうま)を圧倒する身体能力がある。

 しかし、GPを込めた超加速状態に入ると、今度は逆に健太(けんた)には叶馬(とうま)の動きは「辛うじて反応できる」程度に置いて行かれる。

 問題は、その超加速状態「雷神無敵モード」はとんでもなくGPを消費してしまうことだ。

 叶馬(とうま)がまだ『雷神見習い(ライジングサン)』だった頃は叶馬(とうま)の体感で5秒も発動し続けるとGPが完全枯渇していた。

雷神(ライジン)』になっている今の叶馬(とうま)でも、発動時間は10秒程度と推測できる。

 しかし叶馬(とうま)がそれを自覚しており「無敵雷神モード」を極めて短時間だけオンにして、きっちりGPを節約しながら戦っている。

 

 そして健太(けんた)が狙っているメインの勝算が、そのGPの枯渇であった。

 攻撃力、防御力共にSPの上位互換なGPだが、数少ない欠点の一つが回復の遅さだ。

 黙っていればそれなりに回復するSPと違い、GPの自然回復量はないに等しい。戦闘中に使い果たせばそれまでだ。

 一方、SP回復量が多いとされる『術士(マギ)』系の(クラス)を複数重ねている健太(けんた)のSP回復量はとてつもない。SP消費量の少ない『戦士(ファイター)』系、『盗賊(シーフ)』系スキルならば連打しても回復量が勝る程だ。

 

 だから、健太(けんた)が繰り出している攻撃も叶馬(とうま)の体にダメージを与えることよりも、その身に纏うGPバリアを殴ることで少しでもGPを消費させることを目的としている。

 叶馬(とうま)もそれが分かっているから、『重圧の甲冑(ストレッサーアーマー)』の篭手で防げる攻撃はあえてGPバリアを切って篭手で弾いている。

 

 ここは我慢比べ、と健太(けんた)が判断したのを超常の感覚で察知したのだろうか。

 

「はっ、ふっ、せい、ふん! ふん!」

 

「《しっ》《ふっ》《はっ》、がっ!? 《はっ》」

 

 突然「雷神無敵モード」を一気に使用して放ってきた叶馬(とうま)の連続拳撃の一つを、健太(けんた)は防御スキルで防ぐことに失敗するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 叶馬(とうま)健太(けんた)が一年同士の時間限定戦とは思えない超常の激闘を繰り広げている頃。

 観客席の後ろの端でそれを見ていた女子数人のグループがあった。

 

「とまあ、これが今の白鶴荘を支配してる健太(けんた)。だから私達は今のうちに白鶴荘を出てあいつらから距離を置こうと思うんだけど、誰か異論ある?」

 

 絶句する仲間達にそう告げたのは、柔らかそうなウェーブのかかったセミロングの茶髪と一年女子としては大きめの胸が特徴的な女子――聖菜(せな)だ。

 聖菜(せな)叶馬(とうま)健太(けんた)と同じ一年(ひのえ)組であり、同じ一年(ひのえ)組の男子『勇者(ブレイバー)』の和人(かずと)が中心となって作り上げた倶楽部『勇者団(ブレイバーズ)』の部員である。

盗賊(シーフ)』系のレア職『海賊(パイレーツ)』であり、『勇者団(ブレイバーズ)』の初期メンバーであり、女子のリーダー格でもある。

 性格も見た目通りに明るく気が強く、短い。倶楽部の男子に対してもズケズケとモノを言う。それでも『勇者団(ブレイバーズ)』の男子三人――和人(かずと)剛史(たけし)虎太郎(こたろう)には毎晩のようにセックスされており、「エロゴリラ」だの「デリカシー皆無」などと罵りながらも、その学園女子の立場を急速に受け入れた側でもある。

 そんな聖菜(せな)だが、これまで男子寮に連れ込まれたり、他の女子の女子寮に男子と一緒に泊まりこんだりはしていたのだが、自分の住む白鶴荘には色々誤魔化して倶楽部の男子が来ないようにしていた。

 

 最初は話が簡単だった。

 当初、白鶴荘には静香(しずか)麻衣(まい)がいたのだ。当然のように白鶴荘には叶馬(とうま)誠一(せいいち)が泊まり込むようになった。

 その事実を知れば、和人(かずと)たちも「白鶴荘に行く」とは間違っても言い出さない。

 だが、その後静香(しずか)麻衣(まい)は麻鷺荘へ転寮する。必然的に叶馬(とうま)(と誠一(せいいち))は白鶴荘に寄り付かなくなる。

 もちろん、本人たちから直接聞くわけではないのですぐにはバレないが、曲がりなりにも同じ教室で生活をしているのだ。叶馬(とうま)達の拠点が白鶴荘から麻鷺荘に移転したことは、やがて和人(かずと)たち『勇者団(ブレイバース)』男子の耳にも届く。

「じゃあ、たまには聖菜(せな)達の部屋でやるか」という話が出てくるのは、時間の問題だった。

 それがどんな問題を引き起こすのか、白鶴荘で今日まで生活してきた聖菜(せな)には容易に想像が付く。

 今の白鶴荘は健太(けんた)をトップとした倶楽部『安息所(メイトガード)』の根城だ。

 正直、聖菜(せな)の眼には当初健太(けんた)を始めとした『安息所(メイトガード)』男子など「番犬にもならない」としか映っていなかった。

 健太(けんた)の存在をありがたがる白鶴荘の先輩達も、健太(けんた)の後ろに叶馬(とうま)を見ているのだろう、と考えていたくらいだ。

 だが、白鶴荘の寮長である四葉(よつば)が正式に健太(けんた)を白鶴荘の客人(ゲスト)として迎え、浴室の使用許可まで出たあたりで「思っていたのと違う」ことに気づく。

 そして、決定的な出来事を見たのは、ある晩のこと。

 白鶴荘の女子と揉めた上級生男子が夜に数人押しかけて来た時、四葉(よつば)の要請を受けた健太(けんた)が極々当たり前の顔で、複数の上級生男子を畳んで追い返してしまったのである。

 

 エントリークラスの寮に籍を置いている女子に執着する男子など上級生の中でも下の部類だろうが、それでも上級生は上級生だ。

勇者団(ブレイバーズ)』では完全に別格扱いの和人(かずと)でも一人では、同じことをするのは難しいだろう。

 

 この時点で、『勇者団(ブレイバーズ)』男子が白鶴荘に一度も足を運んでいなかったのは、幸運な偶然だった。

 叶馬(とうま)ならば良い。まあ、あれが同じ教室にいるという事実は間違ってもよくはないのだが、あれだけ見た目で「わたしアンタッチャブルです」とアピールしてくれていれば、評価に食い違いは生じない。

 だが、健太(けんた)は違う。

 断言しても良い。「こいつもヤバいから喧嘩売らないでね」と聖菜(せな)和人(かずと)たちに伝えても、絶対に通じない。

 むしろ、笑いながら興味本位で健太(けんた)に突っかかっていきそうだ(剛史(たけし)辺りは確実にそうする、と聖菜(せな)は睨んでいる)。

 

 だから、この倶楽部対抗戦が健太(けんた)の化けの皮をはいだところを見せる良い機会だと考え、聖菜(せな)は倶楽部『勇者団(ブレイバーズ)』の仲間達を見学に誘ったのだが、あいにくと男子三人には断られてしまった。

 公式の仕合の見学という形でも、あえて叶馬(とうま)に近づくのは「絶対嫌」ということらしい。気持ちは分かるので、聖菜(せな)もそれ以上強要は出来なかった。

 女子部員も何人かは男子に付き合わされてこの場にはいない。

安息所(メイトガード)』の一回戦と『勇者団(ブレイバーズ)』の一回戦が近くて、見学に向えなかったのが悔やまれる。

 

 それでも、こうして女子部員の一部だけでも「健太(けんた)の正体」を見せられたのはある程度の成功と言えるだろう。

 

「じ、冗談だろ? あの化け物と正面から殴り合ってるぞ」

 

 かすれた声でそう漏らしたのは、弥生(やよい)である。

 弥生(やよい)は一年(ひのえ)組女子で一番の長身であり、中学時代は短距離でならした陸上選手だ。

 現時点での(クラス)は『戦士(ファイター)』で、『勇者団(ブレイバーズ)』女子では一番頼りになる前衛である。実際、女子部員達からは頼りにされており、本人もその立ち位置を自然と受け入れる気質である。

 まあ、それでも男子部員からは気軽に輪姦(まわ)される存在でしかないのだが。

 そんな弥生(やよい)の日焼けしてキリリと引き締まった顔が青ざめている。

 正直、弥生(やよい)健太(けんた)を自分より格下に見ていた。精神的な意味だけでなく、実際にやり合えば「あれくらいなら勝てる」と踏んでいたのだ。

 その格下と思っていた男子が、「絶対近寄りたくない生物」と今目の前で五分にやりあっているという事実に、頭が付いていかない。

 

 叶馬(とうま)が手加減をしている、という可能性はないだろう。

 健太(けんた)叶馬(とうま)の激闘は音も衝撃もド派手に巻き起こし、闘技場を四つに分けている結界も一部衝撃が突き抜けている始末なのだから。

 本来初日の予選は四面を使って四試合同時に進行されるのだが、安全の確保が難しいという理由で現在残り三面の仕合は休止となっている。

 

「ほんとにあれ健太(けんた)くん?」

 

 小動物のように震えながらそう呟いたのは菜々実(ななみ)だ。

 菜々実(ななみ)弥生(やよい)とほぼ同時期に『勇者団(ブレイバーズ)』に入部した一年(ひのえ)組の女子であり、(クラス)は『戦士(ファイター)』。

 十分に美少女と呼ばれる容姿をしているのだが、中肉中背の体格と大きな特徴のない顔立ちで、本人の性格も目立つことを嫌う、もしくは恐れる傾向がある。

 そんな菜々実(ななみ)は内心で健太(けんた)を「自分の同類」と見なしていたため、ショックはことさら大きい。

 

「残念だけど本当に健太(けんた)よ。だから、あれとうちの男子を揉めさせたくないの。分かるでしょ?」

 

 聖菜(せな)の言葉にこの場にいる『勇者団(ブレイバーズ)』の女子部員は全員首肯した。

 どう考えてもこれは揉めて良い相手ではない。『勇者団(ブレイバーズ)』の男子など三人纏めて揉みつぶされるのがオチだ。

 問題は叶馬(とうま)と違い、健太(けんた)は実際に戦っているところを見ない限り「ヤバい奴」だと分からない点だ。

勇者団(ブレイバーズ)』の男子三人も何も言わなくとも叶馬(とうま)とは絶対にもめごとは起こさないだろうが、健太(けんた)は違う。周りが気を配っておかなければいずれ舐めて接触して、もめ事を起こす。

 

「ああ、ひとまず距離を取るべきだな」

 

 蒼白な顔でそう同意する弥生(やよい)の隣で、これまでずっと無言を保っていたもう一人の女子が口を開く。

 

「いっそ乗り換えるっていうのは?」

 

 それを言ったのは、聖菜(せな)と並ぶ『勇者団(ブレイバーズ)』初期メンバーの一人、志保(しほ)だ。(クラス)は『文官(オフィサー)』。『勇者団(ブレイバーズ)』が早い段階で「運よく」ドロップしたコボルトの『モンスターカード』を主戦力としている。

 そして、聖菜(せな)とはルームメイトでもある。つまり志保(しほ)も現在白鶴荘の寮生であり、現状の白鶴荘と健太(けんた)の関係について、多少なりとも知っていた側である。

 

 志保(しほ)は長い真っすぐな黒髪で前髪は綺麗に切りそろえており、一見した印象はいかにも優等生といった見た目をしている。実際、中身も優等生的で一年(ひのえ)組の副委員長を務めている。

 体格はスレンダーに見えるが、実はかなり着やせするタイプで実際のバストサイズは聖菜(せな)に勝るとも劣らないことを、『勇者団(ブレイバーズ)』の部員ならば男女問わず誰もが見て知っている。

 真面目で清楚な第一印象とは裏腹に、意外と腹黒い言動が多く、学園の壊れた倫理観にもいち早く順応していることを今日までの付き合いで知っている聖菜(せな)は、志保(しほ)の発言に驚きは見せなかった。

 ただ半眼で睨み、

 

「良いんじゃない? 私はやらないけど」

 

 とだけ告げる。

 

「じ、冗談よ」

 

 聖菜(せな)の言葉に、志保(しほ)は慌てて笑ってごまかした。

 大体いつものパターンである。基本的に良く腹黒いことを思いつく志保(しほ)であるが、度胸も行動力もないため、それをポロリと口から漏らすことはあっても実行に移ることはない。

 それが分かっているから、周囲も志保(しほ)の発言は基本的に聞き流す。わざわざ男子に告げ口をしても仲間内の雰囲気を悪くするだけだからだ。

 

 実際、聖菜(せな)健太(けんた)の強さを知った後では「失敗した」という気持ちが全くないわけではなかった。

 寄らば大樹の(かげ)、という考え方は学園女子ならば一部の例外を除いて皆持っている思考だ。

 その大樹が常時周囲を侵食する異形の大樹ならばともかく、いかにも無害そうな大樹であれば「あっちが良かったかも」という思いは湧いてくる。

 だが、今から乗り換えるというのは無しだ。

 そもそも、今寄っている男子――和人(かずと)剛史(たけし)虎太郎(こたろう)の三人が学年でも指折りの強者且つ「まだマシ」な部類の男子なのだ。

 セックスの強要はこの学園ではマストだし、意外と面倒見が良くてダンジョンダイブにはこまめに連れて行ってくれる。

 なにより、三人ともタイプの違う美形で学園に入学前から女に不自由しない立場だったのだろう。女を従えることに慣れている(実は虎太郎(こたろう)は違うのだが、その事実に誰も気づかないくらいに女の扱いが上手い)。

 そのせいで強引な扱いも多いが、扱いなれている分そこまで酷い目には合わないし、口答えしても笑って流すくらいの度量もある。

 男女の付き合いで男が強引というのは、その扱いが悪いものでない場合に限り、女にとっては「むしろ楽」というメリットにもなりうる。

 総じて居心地は悪くない。

 

 一方健太(けんた)は、全く女慣れしてない。間違いなく入学前は童貞だった組だ。

 それどころか、女子寮一つを丸ごと支配しているはずの今現在も、日頃の言動は一々童貞臭い。

 白鶴荘の浴室で、先輩女子達に(たか)られて良いように(いじく)り回されて、情けない表情で情けない声を上げているのを見た聖菜(せな)は「ひょっとしてこいつまだ童貞なのでは?」と思ったほどだ。

 

 女慣れしていない分「操縦」するのは簡単そうだが、逆を言えばちゃんと「操縦」してやらなければモジモジこちらの様子を伺うばかりでアクションを起こせなさそうでもある。それはそれで面倒くさい。

 そもそもすでに複数のパートナーがいて、Cランク倶楽部の部長になっている健太(けんた)が自分たちを受け入れてくれる余地があるのか? という問題もある。

 

 結論は「乗り換えるデメリット、リスクの方が大きい」ということになる。

 

「そう。なら私と志保(しほ)の二人が転寮ってことで良い?」

 

「う、うん。出来れば私達同じ寮に固まった方が良いと思うんだけど」

 

 念を押す聖菜(せな)に冷静さを取り戻した志保(しほ)がそう提案する。

 この場合の私達というのは聖菜(せな)志保(しほ)だけではない。『勇者団(ブレイバーズ)』の女子部員全員のことを指す。

 どうせ男子三人の相手をするために、どこかの寮に集まる必要があるのだ。ならば、最初から一か所に固まっている方が色々とやりやすいことは間違いない。

 

「そうだな。それなら私の寮に来るか? 寮長の話では確か空き部屋は結構あったはずだ。この間も二年の先輩が転寮していったし」

 

 弥生(やよい)のその提案に特に反対する者もなく、聖菜(せな)志保(しほ)は白鶴荘から弥生(やよい)の住む女子寮に転寮する方向で話が進むのだった。

 

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