健太と叶馬の戦いは傍から見ると激しい膠着状態に陥っていた。
「《はっ》、《ふっ》、《しっ》」
「ふん、はっ、ちぇいっ!」
健太の『金狼木霊剣』にスキル『重刃』を乗せた斬撃を叶馬が『重圧の甲冑』の篭手で弾き返し、叶馬の券打を健太が左腕の小型方形盾で受け流す。
健太の攻撃を叶馬は通常状態で受け止め、叶馬の『無敵雷神モード』の攻撃を健太は『重装騎士』と『堅牢盾士』の防御スキルで受け流す。
健太と叶馬の攻防は基本的にその連続である。
健太が叶馬に有効な攻撃を加えようと思えば攻撃スキルの発動が必須で、叶馬がそれを防御しようと思えば高確率で『無敵雷神モード』になる必要がある。
そんな叶馬の『無敵雷神モード』の攻撃を健太が無事にやり過ごすためには防御スキルの発動が絶対条件。
そして、攻撃スキルも防御スキルも発動にはこのレベルになると無視できない発動前後のラグが存在する。つまり、健太がむやみに攻撃スキルを使ってしまうと、防御スキルの発動が間に合わない、という事態が起こりうる。だから健太はむやみに攻撃スキルを使えない。防御スキルの発動に間に合わなければ、そこで負けなのだから。
一方叶馬は『無敵雷神モード』になれば、攻防ともに健太を圧倒できるが、通常状態ではかなり分が悪い。そして、『無敵雷神モード』にはGPを馬鹿食いするという弱点がある。
そのため、健太は「いかにして叶馬のGP切れを起こさせるか」、叶馬は「いかにして健太の防御スキルを抜いて『無敵雷神モード』の攻撃を叩き込むか」の勝負となっていた。
(判定まで行けば、俺の負けだな)
超高速の攻防を繰り広げながら、『戦士の不動心』がオンになっている健太は冷静にそう分析する。
現状健太がその身に纏っている白黒虎革製の胸部鎧は、半壊状態である。
叶馬がつるべ打ちに放った『雷神無敵モード』の拳打を一発、まともに食らったのだ。
幸い叶馬の自称『無拍子』は回避が異常に難しい代わりに威力はさほどではない。
もろに右胸部に食らったのだが右胸の肺、骨、筋肉に多少の損傷受けた程度ですんでいる(その傷も『自慰』のスキルで回復済みだ)。
まあ、防御力の上がる職を第一、第二で複数重ねて第三段階の『重装騎士』をカンストして『堅牢盾士』にもなっている健太が『装甲増強』をかけていて防御力を強化している胸部鎧を一撃でぶち抜き、健太に吐血させるくらいの威力はあるのだが。
ともあれ、健太にとっては大したダメージではないしすでに完全回復しているので戦闘には全く支障がないことは間違いない。だが、「クリーンヒットを貰った」という事実に変わりはない。
このままタイムアップを迎えれば、叶馬の勝利は揺るがないだろう。最初の正面衝突で押し負けているのも判定ではマイナス材料だ。
「《ふっ》《はっ》《光よ》」
「せいっ、むん、ちぇすとおお!」
健太は叶馬と互角の攻防を繰り広げながら、逆転の一手を模索し続けていた。
健太と叶馬が激闘を繰り広げる闘技場を見下ろす観客席の一角に、その二人はいた。
一人は、
「…………どう、彩日羅ちゃん? 感想は」
そう尋ねる一人は長身長髪の男子。長い脚を持て余す様に組んで座っているその体つきは、この学園でも間違いなく上位層に位置すると思われる筋肉質。顔立ちは堀の深い美形。だが、一見しただけで分かる不思議とどこか女性的な佇まい。
現Aランク倶楽部『黒蜜』の幹部、香瑠である。
「うーん、分かんないのだ。あっちは間違いなくお仲間だと思うんだけど。むこうは全然普通なのだ。でもやってることは普通じゃないのだ?」
そう答えて可愛らしく小首を傾げるのはデフォルメされた犬の着ぐるみを着た小柄な女子。着ている本人も着ぐるみの犬に負けず劣らず可愛らしい容姿をしている。とても高校二年生には見えない。
だが、彼女こそ現Aランク倶楽部『黒蜜』の部長。そして、『七つの大罪』の一つ『暴食』のクラスホルダー。
この学園における頂点の一人である。
その『暴食』の彩日羅はバケツより大きなバレルに入ったチキンとフライドポテトを食べながら健太と叶馬の死闘を眺め、頭の上に疑問符を浮かべる。
「『天下地上』の部長を一刀両断にする一年が普通のわけはないと思うのだけれど」
『安息所』VS『天下地上』の一回戦から観戦していた香瑠はそう言う。
「うん、だからほんと分からないのだ。あっちは確実にお仲間なのだ。『憤怒』かな? 『強欲』かも?」
「だとしたら尚更わからないわ。彩日羅ちゃんのお仲間、『七つの大罪』だとしたらそれとこの時期の一年生が互角にやってる時点でおかしいんだけど」
香瑠の言葉に彩日羅は困った顔で頷き返す。
「うん、その通りなんだけど、でもやっぱりなんも感じないのだ。少なくともお仲間じゃないのだ」
今はまだ六月。この時期の一年はどれだけ有望株であっても、基本的には上級生には敵わない。
その基本から外れるのが一部のGR職――『規格外』職である。
『規格外』職はバランスが悪い、すぐ暴走して死ぬ等の欠点がある代わりに、職を得た瞬間から強い職も多々ある。
今、彩日羅が上げた『憤怒』や『強欲』はその典型だ。
特に『憤怒』は瞬間的にとんでもない強さを示してすぐさま暴走、自滅という打ち上げ花火のような人生をおくる。
彩日羅の言葉に香瑠は、困惑を隠せない。
「彩日羅ちゃんがそう言うならそうなのでしょうけれど、でも互角にやってるわよ? あっちの子も手加減してる感じは無さそうなのだけれど」
「あっちのお仲間は全力でやってるのだ。でも、暴走していない。だから向こうがお仲間じゃないことも間違いない、はずなのだ」
基本的にGR職同士が正面からぶつかり合うと、相乗効果で暴走しやすいとされている。
これほどの時間、同格のGR職がやり合えば、とっくに暴走していなければおかしい。
さらに、彩日羅はついでとばかりに、チキンを食べ終わった手で、『安息所』側の席を指さし告げる。
「それにあいつ。あの背も胸もでっかいねーちゃん、多分『勇者』なのだ」
「嘘!?」
彩日羅の指摘に香瑠は今度こそ大声を抑えきれない。
無理もあるまい。現在三年の香瑠は歴代の『勇者』をその眼で見ている。そして、『安息所』の次鋒として、一回戦、二回戦を戦った背も胸もでっかいねーちゃん――竹海を見ている。
より正確に言えば、戦闘の前後の態度をだ。
自信満々に相手を見下すような戦闘スタイルは『勇者』と言われても納得がいくものだが、問題はその前後だ。
竹海は自分の出番があるまで健太にベッタリとへばりつき、勝って闘技場を降りて来る時も自慢げに、そしてあからさまに「褒めて、褒めて」と言わんばかりの態度で健太の元へと駆け寄っていた。
そして、竹海は健太に抱き寄せられて頭を撫でられると、まるで甘えん坊の猫のように目を細めてその豊満な肢体を擦り付けていた。
「どう見ても、典型的な『幸せ学園女子』に見えたわよ?」
香瑠が言う『幸せ学園女子』というのは、(学園基準で)まともな強者男子に隷属していてその男子からも可愛がられている女子のことだ。
『黒蜜』の女子や『天上天下』の花梨のような例外を除き、学園女子は男子に阿り庇護される存在だ。
そんな学園女子にとって、強くて良識のある男子に隷属している状態が心身ともにもっとも安定した幸福を享受できるとされている。
『安息所』の女子は二人を除き全員がその状態にある。当然、竹海も幸せ隷属状態だ。
それは香瑠の眼にも明らかだ。だからこそ、竹海が『勇者』であるという彩日羅の言葉が呑み込めない。
「『勇者』って隷属させられるものだったの?」
『七つの大罪』にとって不倶戴天の敵というべき存在『七つの救済』。その『七つの救済』の全ての能力を兼ね備えるのが『勇者』なのだ。
学園が確認している『逸脱規格』職の中ではトップクラスに強いが、独善、自己愛が強い傾向にあり、これまでの例では例外なく独善を暴走させて早めに退場している。
間違っても隷属して誰かに付き従う人種ではない。
「私に聞かれても分からないのだ。あののっぽのねーちゃんも『勇者』なのは間違いないと思うけど、なんかちょっと変だし。
それにあっちのお仲間があそこまで全力でやりたい放題しているのに、まったく暴走する気配がないのも意味が分からないのだ。お仲間同士じゃなくてもここまでやったら暴走の兆候は出ないとおかしいのに」
香瑠の問いというかツッコミに彩日羅は眉を困り眉の形にして、また首をかしげている。
GR職の死因、敗因のダントツ一位は暴走による自滅である。今の叶馬のように互角の相手に自己制御をおざなりにして全力を振り絞り続けると、クラスの起源となっている感情が高まり、その分能力も引き出され、その能力分さらに感情が高まり、と感情と能力が上がり続ける永久ループに入ってしまって、瞬間的に爆発的な力を引き出す代償としてそのまま自滅するのである。
だが、今の叶馬にそのような危険は全く見受けられない。どれほど戦意を高めて、どれほど力を振り絞っても、その在り方は本当に『お仲間』なのか疑いたくなるくらいに安定している。
彩日羅の経験と感覚からくる人を見る目はそれなりに信用がおけるものだが、決して魔眼のような特別なスキルではない。未知の存在は分からない、としか言いようがない。
「つまり、あの健太君は一年の六月の時点で、確実に彩日羅ちゃんのお仲間だという叶馬君と正面から殴り合えて、でも叶馬君を暴走させることは全くなく、さらに『勇者』の先輩を隷属させている、普通の一年男子生徒、ということかしら?」
「そう……なるのだ」
簡潔にまとめた香瑠の言葉に、彩日羅は肯定しつつもだんだんと自信を喪失していくのだった。
特別ルールとしてこの試合は三分という時間制限がある。
しかし、『増強術士』のスキル『情報処理増強』で時間感覚を引き延ばしている健太の体感では、三十分以上戦い続けてきたようなものだ。
その短くも長い闘いも終盤に近付き、膠着していた戦況に大きな変化が訪れる。
「《せいっ》」
「ぐっ!」
健太の『金狼木霊剣』による『豪撃』が叶馬の腹部を捉え、明確なダメージを叩き出したのだ。
直前に頑丈な篭手で攻撃をずらされてしまったのでクリーンヒットではないが、しっかりと叶馬の『重圧の甲冑』を大きく破損させ、叶馬の腹部と口元から結構な量の鮮血を滴らせる。
「せいっ! はっ! はっ! ふん!」
鮮血を鍔と一緒に飛ばしながら繰り出す叶馬の連続攻撃は、すべて『無敵雷神モード』ではない通常の拳打の連続だった。
その全てを健太は防御スキルを使うことなく、左腕の方形盾で受け流す。
防御にGPバリアがなく、攻撃に『無敵雷神モード』がない。
(GPが尽きたか?)
やっと勝機が見えてきた。
ひょっとすると騙しかも知れないが(叶馬は意外とそういうこともする)、あいにく残り時間は僅かだ。
健太は念のため頭の片隅に保険として次手を用意しつつ、攻勢に出る。
「《はあ》」
今までのように『金狼木霊剣』による斬撃、に見せかけて発動するのは『重装突撃』。
振り下ろす斬撃を途中で止めて、至近距離からの超高速突撃だ。
『雷神無敵モード』に入れずGPバリアもない叶馬ならばこれを回避することも、受け止めることも不可能。そのはずだったが、
「むん!」
次の瞬間全身から金色の雷光を放った叶馬は、突っ込む健太に倍する速さでこちらに突っ込んで来る。
(やはり嘘だったか)
GPが尽きかけていたので、完全に尽きる前にGPバリアも切って尽きた振りをした。そのために意図的にGPバリアを切って、健太の『豪撃』をその身で受けたのだとすれば、中々狂った作戦である。
残念ながら『重装突撃』は、途中で停止したり方向転換したりできるスキルではない。
健太と叶馬は、再び正面から全身全霊の力でぶつかり合った。ただし、健太は8トンの棍棒を持っておらず、叶馬も『重圧の甲冑』に力を注ぐ余力はない。
条件は違うが、正面からのぶつかり合いでは健太が不利なのは残念ながら変わらなかった。
「ぐっ」
それが分かっている健太は、『金狼木霊剣』を武器として使わず、『重装突撃』は肩から突っ込む体当たりとし、予定通り当たり負けた次の瞬間、逆手に持ち替えておいた『金狼木霊剣』を闘技場の床に突き刺し、ブレーキとした。
「くっ!」
今の健太をもってしても右腕がいかれるかと思うほどの衝撃が右手にかかるが、無茶をしたかいはあった。
『雷神無敵モード』の叶馬と『重装突撃』の健太がぶつかり合ったのに、彼我距離は二メートルもないところで留まることが出来た。
しかも、さしもの叶馬も今の渾身の一撃で体勢を崩している。そして、先ほどの一撃が最後のGPであった可能性が濃厚。
深く突き刺した『金狼木霊剣』を抜き直している暇はない。
「《すう》」
健太が小さく息を吸ってスキルを発動すると、左腕に装着している小型方形盾から光の刀身が伸びる。
切り札、というほど大げさなものではない。隠し技というほど隠していたつもりもない。
だが、叶馬達にはまだ一度も見せたことはなかったはずだ。
以前、ゴブリンヒーローからドロップしたこの方形盾は、盾なのに『剣』の属性を強く帯びている。そのため、盾でありながら刀剣を用いなければ発動しないスキルを発動させることが出来る。
そして『刀剣』が必要なスキルを発動する時は、こうして光の刀身が生まれるのだ。
光の刀身を生み出し、息を止めた健太は素手の叶馬では届かない遠間から、超高速で『閃撃』の一撃を振り下ろす。
「きぇえ!」
対する叶馬は崩れた体勢のまま髪を金色に逆立てて、両手で六角六尺棒――『餓鬼王棍棒』を振りかざし、今度こそ最後のGPを込めて振り下ろそうとしている。
健太が詐術で捨てさせたはずの叶馬の主武器『餓鬼王棍棒』。それがなぜ、いま唐突に叶馬の手の中にあるのか?
(あ、『餓鬼王棍棒』の覚醒能力)
『戦士の不動心』がオンになっている健太は、特に動揺することもなく一瞬でその答えにたどり着く。
当初は「ただ消えるだけ」と思われていた『餓鬼王棍棒』の覚醒能力。
その正体は、「いついかなる場所でも所有者が消すことも取り出すことも可能」というもの。
なまじ叶馬は『空間収納』というそれをすべてのアイテムに応用するようなスキルを持っていたせいで、その特性に気づくことに遅れた。原作では。
この世界では健太のおかげで、もしくは健太のせいでちょっと早めにその能力に気づいたようだ。
超高速で振り下ろされる健太の方形盾から生えた光の太刀。
正真正銘最後の『雷神無敵モード』から振り下ろされる叶馬の『餓鬼王棍棒』。
だが、そのどちらも相手の体を捉えるには至らなかった。
「タイムアップだ。聞こえなかったか」
意識の外から割って入った白い覆面の男子――審判が右手で健太の方形盾を、左手で叶馬の『餓鬼王棍棒』を受け止めていたのである。
「む」
「あ」
少し遅れて「タイムアップ」という言葉の意味を理解した叶馬と健太は、ぞれぞれ自分の武器を引こうとするが、どれだけ力を込めても白覆面の審判は微動だにしない。
「ご迷惑をおかけしました。タイムアップは承知したので、手を放して頂きたいのですが」
いつも通りの無表情に戻った叶馬が丁寧な口調でそう言うが、
「駄目だ」
と審判は短く切って捨てる。
「いや、しかし」
戸惑う叶馬に白覆面の審判はやけに曇った声で答える。
「駄目だ、というより無理だ。一度発動すると、効果時間が過ぎるまで指一本動かせん。これはそういうスキルだ」
「あ、はい」
「お手数おかけします」
健太と叶馬はガッチリと武器を掴まれたまま、素直に迷惑をかけた審判に頭を下げた。
「大将戦。時間切れの結果、判定は『神匠騎士団』の勝利!」
最終的に審判が下した判定は、叶馬の勝利というものだった。
一連の戦いをずっと観客席て見ていたその二人は、こらえる気もなくゲラゲラ笑い声をあげていた。
「文丸、文丸さんじゃないっすか! そんなところでなにやってるんすか!?」
「いや、そうとは限らねえ。まだ、耕司副会長の可能性も残っているぞ!」
「残ってねえよ!」
そんな事を言ってひたすら笑い続けているのは、倶楽部『天上天下』のバスタードソード使いの二年男子と、大剣使いの三年男子だ。
「いやー、笑った笑った。文丸さん、ビンゴ辞めても結局は苦労人ポジのままじゃねえか」
「そういう星の下に生まれたんだろ、苦労しているの似合う顔してるだろ、文丸の旦那」
学生決闘における決闘委員、倶楽部対抗戦の審判をやっている人間は、例外なく皆元か現役のS、A倶楽部の人間である(まあ現役倶楽部員と審判を両立させる人間が出るのは大概年度末になってからなので、この時期の審判はほぼ元SかA倶楽部の人間と思ってよい)。
それはつまり、現Aランク倶楽部である天上天下の人間からすると去年まで倶楽部対抗戦でバチバチにやり合っていた「顔見知り」と言える。
今、審判はタイムアップに気づかずとんでもない攻撃を繰り出そうとしていた健太と叶馬の間に割って入って止めた。
その際に使用したスキルは『不動不滅』。
効果は一定時間の完全無敵と絶対不動。
それは騎士系の第四段階職『城塞騎士』のスキルである。
一応、今の学園に『城塞騎士』が二人しかいないわけではない。
だが、残念ながら『不動不滅』というスキルは『城塞騎士』になっただけで覚えられるスキルではない。『城塞騎士』として相当レベルを上げなければ習得できない、最上級職の最上級防御スキルなのである。
その領域に達しているのは、だた二人。
一人は特級科に籍を置く四年生。二人いる生徒会副会長の一人である耕司。
もちろん、華組のそれも生徒会副会長が覆面を被って審判をやって、学園の内申点を稼ぐ必要などどこにもない。
そうなれば答えはおのずと一人に集約される。
現Sランク倶楽部『悠久庭園』の元副部長、文丸。
普通、審判はこんな見る者が見れば個人を特定されてしまうスキルを人前で使ったりはしないのだが、それだけ審判も追い詰められていたのだろう。
自分がジャッジしている試合で、万が一にも死人を出そうものならば、学園の評価が激減することは間違いない。ましてや、一年同士の時間制限ありの仕合でそんな失態をやらかせば、冗談抜きで卒業後の未来が真っ暗だ。
「しっかし、流石は【機動要塞】。衰えてねえなあ。現役復帰してくんねえかなあ、勝ち逃げすんなよ、文丸さん」
「無茶言うな、あの人五年だぞ。『就職活動』が忙しいだろ」
子供っぽくブー垂れる二年のバスタードソード使いに、一年年上の三年の大剣使いはそう少しだけ、先に『上がった』先輩に理解を示した。