※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第百二十六話 お疲れ様会の続き、初顔合わせの交流

 

 

 

 両倶楽部の顔合わせの意味合いも大きなお疲れ様会。そのため最初の席はある程度、両倶楽部の部員が入り混じるように配置されている。しかし、『安息所(メイトガード)』も『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』も部員の多くは陰キャ、コミュ力不足の者が多数を占めている。

 必然的に、交友の口火を切るのは一部のコミュ強の部員達だった。

 

「ねね、優梨愛(ゆりあ)先輩。先輩のコスメって全部自作ってマジですか?」

 

 と座布団の上から身を乗り出す様にして目を輝かせるのは、麻衣(まい)だ。普段、乙葉(おとは)蜜柑(みかん)相手には先輩は付けてもほぼため口な麻衣が、優梨愛(ゆりあ)には一応敬語を使おうという努力の跡が見えるのは、やはりまだそこまで気安くない先輩だからか。

 麻衣(まい)の対面に座るくっきりメイクの美女――優梨愛(ゆりあ)は、薄く口紅の移ったグラスを膳に戻して首肯する。

 

「ええ、本当よ。これでも『化粧士(メイキャッパー)』ですからね。その手の物を造るのはお手の物よ」

 

「それなら、私にも譲ってくれませんか? 銭は払いますから」

 

 麻衣(まい)はそう人懐っこい笑顔で交渉する。

 学園の女子にとってメイクは自分の価値を上げるための武装の一つであるが、購買や学生街の専門店でも流石に外のデパコスを完全網羅しているほどの品ぞろえはない。

神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の女子は武人肌でノーメイクでも全く問題ない美人顔の沙姫(さき)に代表されるように、あまりメイクに拘らない女子が多い。旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』の面々も常時ノーメイクの蜜柑(みかん)を筆頭に、メイク適当女子が多数派だ。

 海春(みはる)夏海(なつみ)の双子はある意味『化粧』にも一言(いちげん)あるようだが、それは一般的なメイクとはちょっと違う。

 そんな倶楽部内では少数派のメイクもオシャレも大好きな女子である麻衣(まい)としては、メイクの専門家ともいうべき優梨愛(ゆりあ)とは是非友好を深めたいのだろう。

 

 優梨愛(ゆりあ)としてもメイクに力を入れる後輩女子が可愛くないはずもない。

 

「構わないわよ。銭はいらないから、使用感を後で聞かせてもらえないかしら? あと、良ければ私が直接メイクしてあげたいのだけれど」

 

「良いんですか? 是非、お願いします。優梨愛(ゆりあ)先輩、話せるー」

 

 

 

 そんなウキウキにテンションを上げる麻衣(まい)のパートナーである誠一(せいいち)はというと、少し離れた席でとてつもなく熱心にある人物を口説いていた。

 

「な、だから一緒に行こうぜ。斥候とか鍵開けとか担当してくれよ」

 

 熱烈に口説かれている金髪の男子――霊王(れお)誠一(せいいち)の勢いに押されながらも、あまり乗り気ではないという意志表示をする。

 誠一(せいいち)霊王(れお)を欲しているのは自分の代わりに偵察や罠、宝箱を担当して欲しいからだ。

 だから、強くなりたいという霊王(れお)の価値観からはあまり魅力的な誘いではない。

 強くなることに貪欲という霊王(れお)の価値観を知った誠一(せいいち)は、

 

「そ、それなら、探索中にお前が使えるマジックアイテムが出たらお前優先ッて条件でどうだ? いや、使えないやつでも打ち直せばいけそうなやつなら蜜柑(みかん)ちゃん先輩に頼んで打ち直してもらってもいい。もちろん、蜜柑(みかん)ちゃん先輩への謝礼は俺が払うから」

 

 それはもう思いつく限りの好条件を並べて口説き続ける。よほど自分の代わりに罠解除をしてくれる人材を欲していたと見える。

 さらに言えば、霊王(れお)が自分のパートナーを大切にする(学園男子基準で)身ぎれいな男子であることも大きい。誠一(せいいち)麻衣(まい)以外は叶馬(とうま)のパートナーという『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』に混ざっても問題を起こさなさそうな、非戦闘系盗賊という人材なのだ。

 

「む、むう。確かに次の対抗戦までに強い武器は欲しいっすけど……」

 

 ちらりと視線を向けられた霊王(れお)のパートナー――珠貴(たまき)は座布団の上で綺麗な片膝座りを見せて、白磁の杯で購買裏メニューにあるお米のジュースを飲み干しながら、霊王(れお)に笑いかける。

 

「お受けしたらどうだ、霊王(れお)? 強くなりたいお前のとっても悪くない話だろう」

 

 珠貴(たまき)の言葉に霊王(れお)の心は大きく揺れ動く。実際、レベル上げと同じくらいに強い装備が強さに直結することを今回の倶楽部対抗戦でよくわかった。

 健太(けんた)の部員に対するバックアップは一年基準では破格のものだが、そこに更なる上乗せを望むのならば自分でも独自のダンジョンダイブを重ねるのが堅実だ。

 健太(けんた)尚典(なおふみ)来斗(らいと)が聞けば同意するだろう。「レア泥狙いで一番大事なのは回す回数。出るまで回せばどんなレア泥でも絶対出る」と。

 

「でも、そうなるとお嬢の護衛が」

 

 強くなりたいというのは霊王(れお)の願いだが、その根底にあるのは「大切な珠貴(たまき)を守るため」だ。

 力を付けることに終始して、珠貴(たまき)の護衛をおろそかにしたくないという霊王(れお)の思いを慮り、珠貴(たまき)が言う。

 

「それなら、誠一(せいいち)さん。霊王(れお)を貸し出すときは私も同行させてもらえないでしょうか。これでも『侠客(キョウカク)』。そこまで足は引っ張らないと自負しております」

 

 三白眼で凄みのある美女の珠貴(たまき)の言葉に、誠一(せいいち)は計算を働かせて考える。

神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』のダンジョンダイブは、基本サーチアンドデストロイ、入る経験値が膨大過ぎるせいで戦闘事のセックスタイムがマストになっている。

 しかし、学園の常識に反して、『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の女子は「貸出」厳禁だ。

 なぞの精神制御が出来ている健太(けんた)ならばともかく、霊王(れお)の場合は「女連れ」の方が問題が起こらなさそうだ。

 

「ああ、もちろん歓迎するぜ」

 

 誠一(せいいち)は笑顔でそう請け負った。

 

 

 

 誠一(せいいち)霊王(れお)のように『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』側から『安息所(メイトガード)』側に依頼する組み合わせがあればその逆も存在する。

 

「てな感じで私のゴブ君、やっぱ剣だけじゃなくて盾もちゃんとしたの持たせたいんですよ。鎧は『具象化(リアライズ)』する度に着替えさせるのだるいかなあって思うんですけど」

 

 と蜜柑(みかん)に依頼しているのは、来斗(らいと)のパートナーである実咲(みさ)だ。

 銀褐色(シルバーブラウン)のポニーテールが印象的ないかにもギャルといった風貌の実咲(みさ)は『文官(オフィサー)』系第二段階職『書記(レコーダー)』のなり立てである。

 ゴブ君とは実咲(みさ)の主力モンスターカードであり、ゴブリン系『逸脱個体(オーバーボーダー)』の『ゴブリン・エリートソルジャー』だ。

『ゴブリン・エリートソルジャー』は『逸脱個体(オーバーボーダー)』としては最下層に近いがそれでも通常のゴブリンとは一線を画する実力がある。

 一般的なゴブリンは身長一メートル前後で武器は粗末な木槍か棍棒で身に纏うのは腰布だけというありさまだが、『ゴブリン・エリートソルジャー』は身長一メートル八十センチ前後でしっかりとした作りの革鎧を纏い、飾り気はないが作りは悪くない長剣と丸盾で武装している。

 しかし、その装備は今の『安息所(メイトガード)』のレベルには少々おいていかれぎみになっている。

 武器は蜜柑(みかん)が造ってくれた無銘(ノーネーム)のマジックアイテムの長剣を実咲(みさ)が持ち込んで使わせているので問題ないが、鎧と丸盾という防御装備が正直不安なのだ。

 今回実咲(みさ)蜜柑(みかん)にお願いしたのは、丸盾だ。

 もちろん、蜜柑(みかん)に否はない。

 

「まっかせて。ゴブ君の寸法は前に測ってるからすぐにでも作れるよ。でもゴブ君用だけでいいの? 実咲(みさ)ちゃん他のカードもあるんでしょ?」

 

 えっへんという擬音が聞こえてきそうなくらいに胸を張って請け負う蜜柑(みかん)の後半の言葉に、実咲(みさ)は少し考える。

 一般的に『モンスターカード』はそのドロップ率の低さと需要の高さから、この時期の一年ならば最弱のコボルドでも高嶺の花なのだが、『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』同様『既知外(きちがい)』領域を主戦場とする『安息所(メイトガード)』では結構な数のモンスターカードがドロップしている。

 特に、倶楽部対抗戦直前のダイブではオークハイロードが率いるオークの大群(百匹以上)を殲滅した際、オークナイト複数枚とオークマギ、オークアサシン、オークロードといったレア個体のモンスターカードを入手している。

 

安息所(メイトガード)』の文官は現状(らん)実咲(みさ)の二人のため、実咲(みさ)にはモンスターカードの優先権がある。

 実際念のため実咲(みさ)がキープしているモンスターカードは、複数枚に及ぶ。

 

「んー、私動物系はあんま相性良くないみたいなんですよね。かといってオークロードはまだ私の手に余る感じだし。オークナイトを今から育てるくらいならゴブ君で良いかなって。ゴブ君のほうが格好いいし」

 

 と実咲(みさ)はひとまずの結論を出す。

 確かに、顔はともかく全体のシルエットは引き締まった筋肉質なゴブリン・エリートソルジャーに比べ、オークナイトは二メートル二百キロの縦以上に横幅がある巨漢だ。

 女子受けの悪さでは双璧なゴブリンとオークだが、見た目に関してはオークの悪評が一段上回る。

 攻撃力と防御力が高い代わりに鈍足(非戦闘系女子でも運が良ければ逃げ切れるレベル)なオークナイトより、バランスの良いゴブリン・エリートソルジャーの方が安定して使えるという点も見過ごせない。

 

「そっか。分かったよ。頑張って格好いいの作ってあげるね」

 

「はい。んで、物は相談なんですけど」

 

 装備に関する相談が終わったところで実咲(みさ)は声を潜めて、今度は蜜柑(みかん)の隣に座る(あんず)に声をかける。

 

「その……ダンジョンダイブと関係ない『コスプレ衣装』って依頼できますか?」

 

 そう小声で問う実咲(みさ)の視線は、少し離れた席に座っている最愛のパートナー、来斗(らいと)に向けられていた。

 

 

 

 

 

 その来斗(らいと)はというと案の定というべきか、開始早々沙姫(さき)に捕まっていた。

 

来斗(らいと)さん! 私の初太刀を受け止めたあれは何だったんですか!?」

 

「あ、あれはSPバリアを偏らせて守るやり方で、一応概念は一年の三学期で習うらしいんだけど」

 

 来斗(らいと)沙姫(さき)の勢いに押され、胡坐をかいたまま後ろに倒れそうになっている。

 元々太り気味な来斗(らいと)は胡坐や正座が苦手だ。ついでに言えば、沙姫(さき)のような正統派美少女も苦手である。もっといえば女子全般が苦手。無条件で気後れしてしまう。

 例外は理解ある彼女さんかオタトークで盛り上がることのが出来る同類の女子くらい。

 そういう意味では、今の沙姫(さき)はある種共通の話題があるのでまだ、来斗(らいと)にとって対処がしやすい女子と言える。

 

「なるほど、そんな技が。でもそれが出来たったことは私の初太刀を見切っていたということですよね!」

 

「いやいやいやいや、あれは完全なヤマカン。健太(けんた)さんから「沙姫(さき)さんは最速で首狙ってくるから」って言われてそこ一点賭けで待ってただけだから」

 

 賞賛を求める割に過大評価を極端に恐れるのは陰キャのサガと言うべきか。

 来斗(らいと)はその太くて短い首をブルブル振って沙姫(さき)の高評価を否定する。

 

「む、確かに言われて見れば。時にはあえて初手、(けん)に徹することも必要でしょうか」

 

「いや、それはどうだろう? 戦闘方法って結局性格と合わないと上手くいかないから。

 沙姫(さき)さんの場合は最速ブッパを前提に、分かってても防がれない最速ブッパを磨いて、防がれた時用、逆に利用された時用の二の太刀を用意しておいた方が良いんじゃないかな」

 

 良さげなアドバイスを思いついたら言わずにはいられない。そんなある種オタクの悪癖が、来斗(らいと)にも確実に存在していた。

 

「たしかに! そっちのほうが私の性にあってます! アドバイスありがとうございます、来斗(らいと)さん!」

 

「いや、大したことじゃ」

 

 学園基準でもトップクラスの美少女である沙姫(さき)の満面の笑みに、来斗(らいと)は照れて頭をかく。

 目の前の美少女の正体を知っているはずなのに。

 

「早速試してみたいです! 明日の放課後はどうでしょう?」

 

「え…………?」

 

 少し遅れて来斗(らいと)は目の前の美少女の笑顔は、肉食獣が牙を剥くのに等しいことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

安息所(メイトガード)』が十四人、『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』が二十人。

 これだけの人数が集まって、一組も「相性の悪い組み合わせ」がないというのは相当低い確率である。

 とはいえその組み合わせの相性が悪いことは(クラス)から明らかなのだから、原作知識と自らの行いでその二人の(クラス)を知っていた健太(けんた)が事前に対策しておくべきだったと言われても、一理くらいはある。

 同様に叶馬(とうま)も『情報閲覧(インターフェース)』のスキルで両者の(クラス)を把握していたが、叶馬(とうま)がそのような機微を効かせてくれると期待するくらいならば、『勇者』と『魔王』が出会ったその場で親友になる可能性に賭ける方がまだ勝算がある。

 

 ともあれ、『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』兼『良い踊り子(ナイスダンサー)』の竹海(たけみ)と、『魔王』兼『巫女(ミコ)』の静香(しずか)は、長い座卓を挟んで向かい合って座り、笑顔で火花を散らしていた。

 

「理解できませんね。大切な人に迷惑をかけて、なぜそこまで自分を肯定できるのでしょうか?」

 

「ははは、自分を否定しながらご主人様にすり寄る方がおかしいだろ? そんな駄目な存在なら大切なご主人様の為に一秒も早く消えて居なくなるべきなんじゃないかい?」

 

 欲望と自己否定の権化たる魔王の毒のある言葉を、独善と自己肯定の象徴の勇者は攻撃的な光の言葉ではじき返す。

 

「それを決めるのは私ではありませんね。私の自己評価など何の価値もない。大切な人の望みが最優先なのは言うまでもないでしょう? ああ、これは失礼。そちらはすべてを委ねているのではないのでしたね。それでは大切な人の本心は分からない」

 

 自分の魂魄結晶(ソルデバイス)叶馬(とうま)の右手に融合しているという事実を誇らしげに語る静香(しずか)に、竹海(たけみ)は嫌悪の表情を隠さない。

 

「全て委ねるなんて聞こえの良い言葉を使ってるけどそんなのただの丸投げ、重荷じゃないか。ご主人様だって全能じゃないんだ。ご主人様が想像もしていなかった成長を見せるという気概もないのかい」

 

「全能ですよ? そちらは違うのですか?」

 

「あ?」

 

七つの大罪(セブンスシン)』を内包する魔王と『七つの救済(セブンスレクス)』を兼ね備える勇者の頭上に、『七つのラッパ吹き(セブントランペッツ)』の姿が幻視されそうになったところで、魔王と勇者のご主人様たちが割ってはいる。

 

「チルチル、静香(しずか)、チラウト」

 

竹海(たけみ)、黙れ」

 

 女子としては大型で豊満な体つきの静香(しずか)、女子としては破格の長身で負けないくらい胸と尻の肉付きが良い竹海(たけみ)

 だが、どちらもご主人様にとっては子犬より簡単に抱き上げられる存在でしかない。

 

「あ……」

 

「ん……」

 

 魔王も勇者も、先ほどまでの凶相はどこへやら。ご主人様に撫でられた愛犬のようにふにゃりと表情を崩す。特に、初めて呼び捨てにされた竹海(たけみ)はさっきとは逆の意味で直視できない表情だ。

 

 

 

 

 魔王と勇者の一触即発があっても、すぐに元の空気に戻ることが出来るのはそれだけこの場にいる者達の感覚がマヒしてきている証拠なのだろう。

 現時点では魔王と勇者よりも格上の『暴食(グラトニー)』の存在を見て見ぬ振りが出来るくらいには、図太くなっている。

 静香(しずか)竹海(たけみ)が、それぞれ叶馬(とうま)健太(けんた)の手により、宴会場でお互いもっとも遠い対角線の端と端に席を移され「今日はずっとここにいなさい」と命令される。

 しばらくは、静香(しずか)の周囲も竹海(たけみ)の近くも空白地帯となったが、程なしてどちらも近づいてくる人影がある。

 

「こら、竹海(たけみ)。何やってんのよ。私の寮で乱暴は許さないからね」

 

「ごめん、乙葉(おとは)。ちょっと大人げなかったと反省しているよ」

 

 と長身モデル体型の美女――乙葉(おとは)竹海(たけみ)にくぎを刺しに来たのは二人が元から知り合いであったころからも、乙葉(おとは)がここ麻鷺荘の寮長であるという事実からも特に以外ではなかったが、意外だったのは静香(しずか)の方だ。

 

「し、失礼します。こ、ここよろしいですか?」

 

 と勇気を出して静香(しずか)の隣を主張したのは、幸子(さちこ)である。

 

 これまで何のつながりもなければ、気の弱さとコミュ力の低さはこの中でも指折りである幸子(さちこ)の行動としてはかなり意外である。

 

「ええ、どうぞ」

 

 静香(しずか)も心当たりがないのか、少し怪訝そうにしながらも特に断る理由もないので、そう答える。

 幸子(さちこ)にとってそれだけ勇気を絞り出すだけの「なにか」があるのか。

 静香(しずか)の許可を得て隣に座った幸子(さちこ)は、とても小さな声で(それでも健太(けんた)の耳には聞こえてしまうが)静香(しずか)に訴える。

 

「あ、あの。…………や、やっぱり聖市(せいいち)にや〇い穴は必要だと思うんです! そうじゃないと、せせっかくの『和解の一夜』にラブラブサンドイッチが出来ないじゃないですか!」

 

 小声で熱く、粘っこい主張をする幸子(さちこ)に、静香(しずか)は一瞬驚いて見せた後、不敵に笑う。

 そして、幸子(さちこ)の勇気を出した主張を次の言葉で一蹴する。

 

「いつから一つの穴に二本は入らないと錯覚していました?」

 

 と。

 

「そ、そんな!? ただの二本じゃないんですよ。『絶対貫通男根(オーバーグリードギア)』なんですよ。『無限如意肉棒』なんですよ! そ、それの二本同時……ほ、ほんとうに?」

 

 驚愕に震える幸子(さちこ)静香(しずか)は不敵に笑い、告げる。

 

「良いことを教えましょう。聖市(せいいち)受け力(あい)は無限です」

 

「は、はう……」

 

 興奮極まった幸子は、恍惚の表情で崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 隣の人間にしか聞こえないような小声でも、(クラス)を馬鹿のように重ねている健太(けんた)の聴力なら聞こえてしまう。

 

(よし、聞かなかったことにしよう)

 

 健太(けんた)は女子のプライベート空間、プライベート時間を尊重している。そのため、大切なパートナーであっても知らない側面はある。そんなあえて彼女たちが自分から隠している側面について知ってしまっても知らないふりをするのが、人間関係を円滑に回すコツというものなのだ。

 

「すでに何度か顔合わせはしてると思いますけど、改めて紹介させてください。凛子(りんこ)先輩。

 こちらが俺のパートナーで倶楽部『安息所(メイトガード)』の副部長を務めてくれている(らん)先輩です。

 部長の俺も、もう一人の副部長の尚典(なおふみ)も一年でまだ学園についても倶楽部についても知らないことが多いので、(らん)先輩にフォローしてもらってます」

 

 そう言って健太(けんた)は隣に座る(らん)の腰に腕を回して、(らん)を抱き寄せる。

 幸子(さちこ)ほどではないが、パートナーの中では奥ゆかしい部類の(らん)に対しては、健太(けんた)は最近努めてこちらから身体接触を求めるようにしている。

 健太(けんた)の気性から一般的な学園男子のようにどこでもここでも尻、乳房、股間に手を伸ばすようなことは絶対にしないが、人前でもこちらから遠慮しないで抱き寄せるようになった。

 健太(けんた)自身、(らん)に対する愛情、欲情、そして独占欲は高まることはあっても減少することは一切ない。自分は節操なくパートナーもパートナーでもない体の関係のある女子も増やしていながら勝手なこととは思うが、それでもその執着は(らん)にとっては望ましいらしい。

 

「うん、私は二年丙組の凛子(りんこ)。『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』では正式な役職はないけど、副部長の静香(しずか)ちゃんと一緒に実務レベルのまとめ役をやってる感じかな。

 健太(けんた)君が私にわざわざ紹介してくれるってことは、そっちとこっちの意思疎通や条件のすり合わせは彼女が窓口になるって感じなのかな?」

 

 制服のスカートのまま座布団の上でだらしなく胡坐をかく(健太(けんた)からばっちり中が見える)凛子(りんこ)に、行儀よくあまり得意ではない正座をしていた(らん)は少し緊張した面持ちで首肯する。

 

「ええ、そうなるわ。よろしく、凛子(りんこ)

 

「うん、よろしく。こんな場面で早速だけど、健太(けんた)君が叶馬(とうま)君を誘ってる件についても(らん)が窓口で良いのかな?」

 

 凛子が言う「健太(けんた)叶馬(とうま)を誘っている件」とは言うまでもなく、『白鯨』のレイドクエストである。

 原作では叶馬(とうま)達が自ら見つけてダイブしたはずのレイド。それがこの世界では発見できておらず、健太(けんた)の下に『護衛依頼』の報酬として紛れ込んで来た。だから、健太(けんた)叶馬(とうま)を誘った。

 

 健太(けんた)(らん)と見つめ合い小さく頷く。それを受けて(らん)が口を開く。

 

「そうね。こちら側ではまだ全体には話を通していないから、参加者は流動的だけど」

 

 叶馬(とうま)が『説得』して全員が参加する『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』とは対照的に『安息所(メイトガード)』は自由参加の予定だ。

 原作の流れに沿いたい健太(けんた)としては、本音を言えば自分以外は全員不参加でも問題ないくらいだ。流石にそれは部長として部員に不義理が過ぎるので自由参加という形で部員に伝える。

 しかし、健太(けんた)も『安息所(メイトガード)』で自分の発言力がダントツで高いという自覚はある。

 下手に「自由参加だ。俺は参加するけど」と言えば部員達、特に自己主張の弱い女子部員の一部には嫌だと言えない者が出る懸念がある。

 だから健太(けんた)(らん)竹海(たけみ)風音(かざね)の三人にだけ事前に相談していた。

 三人のうち最低でも誰か一人は率先して「私は参加しない」と宣言して欲しい、と。

 渡りに船と言わんばかりに満面の笑みで手を上げて、「はいはーい、私パス!」と言ったのは健太の期待通り風音(かざね)だ。

 元々「戦士職になったのは何かの間違い」と言われる風音(かざね)である。レイドクエストなどという危険は避けられるのであれば、全部避けたい。

 そんな学園女子として多数派の意見を、健太を前にしても恐れずはっきり言ってくれる風音(かざね)の存在は、こういう時には非常にありがたい。

 竹海はもちろん参加。

 問題は(らん)である。

 (らん)はある意味で風音(かざね)以上に、「普通の学園女子」だ。

 男子の庇護に入る立場を受け入れ、男子に阿り、男子に縋り、男子の顔色を窺う。

 特に(らん)は健太への依存が強い分、健太の顔色を見抜く力に優れている。

 その(らん)の目には、健太が今回のレイドにあまりついてきて欲しくないと思っていることも読み取れてしまう。

 普通の女子である(らん)にとって、レイドに参加せずに済むというのはありがたい。だからこそ、(らん)は怖い。

 ひょっとして、健太がついてきて欲しくないと思っているというのは、自分の願望を勝手に重ねているだけなのではないか? と。

 

「んー、現時点で参加が決定してるメンバーだけでも教えてもらえるかな?」

 

 だから、そんな凛子の問いに(らん)は迷いなく自分の名前を加えることも省くことも出来ない。

 

「確実なのは健太さん自身を除けば竹海だけね」

 

「まだ話は通してませんが、通せば尚典(なおふみ)はほぼ確実に乗ってくると思います」

 

 そう付け加える健太の視線に誘導され、凜子は離れたところに座っているひと際小柄で可愛らしい容姿の男子に視線を向ける。

 

「ふーん。あの子はそっち系か。まあ、麻衣(まい)ちゃんとの副将戦を見た感じだとそう言われても納得かな」

 

 健太と叶馬という例外を除き、学園の強者男子に強い忌避感を抱く凛子は、離れたところに座る尚典(なおふみ)に警戒の色が滲んだ視線を向けた。

 

 

 

 

 そうして、『安息所(メイトガード)』と『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』の顔合わせは、健太が当初心配していたよりもずっと円滑に進んだ。

 陰キャ、コミュ障が多数を占めることは紛れもない事実が、そういう人間もコミュニケーション能力が低いのであって人間性はどちらかというと善性の者が大半だ。

 ならば、少数ながら紛れ込んでいるコミュ強が呼び水になって初対面の交流も作り物ではない笑顔と、愛想ではない笑い声が生まれていく。

 

「え? 出来るの? 安全拘束ベッド。欲しい、それマジ欲しいんだけど」

 

「あはは、私は拘束は抵抗あるなあ。でも、特注ベッドは欲しいかも。白鶴荘の備え付けベッドじゃ三人がやっとだもん。どうせなら健太君ハーレム全員乗るようなやつ欲しい」

 

「はい、出来ますよ。ご注文頂ければ」

 

 とあるところでは詩織(しおり)風音(かざね)(あんず)に『特注ベッド』を発注し、

 

「あの、空亜(あくあ)先輩。流石にここでは」

 

「すーすー………グヘヘなおきゅん……」

 

「おそれみかしこみももうててもうさく たかまがはらにかみとどまりましこと…………」

 

「…………たたりがみゑみがみはやりがみたちは あらひたけひたまふことなくして」

 

 尚典(なおふみ)を抱き枕にして畳の上に並べた座布団を布団に寝る空亜(あくあ)に、海春(みはる)夏海(なつみ)の双子はやけに真剣な表情で古風な子守歌のようなものを歌ってあげたありと、皆それぞれ仲良くやっている様子だ。

 

 

 だからだろうか。

 

「どうだ、一杯」

 

「お前まだ飲む気なのか」

 

 変わらぬ無表情の叶馬と、呆れたような表情を浮かべながら律儀に付き合う誠一がそろって近くに座った時、

 

「ああ、貰おうか」

 

 健太は無意識の笑顔で、叶馬と誠一を迎え入れたのだった。

 

 

 

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