※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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幕間9 幸子(さちこ)のデート

 

 

 土曜日に新年度最初の倶楽部対抗戦を終えた翌々日の月曜の朝。

 二年坤(ひつじさる)組の教室にその男子生徒が入ってきたとき、教室内の者達は皆知らんぷりをしながら緊張感をもって見守っていた。

 大柄な体格と厳つい顔つき、そして角刈り頭が相まって「素人(チンピラ)」と通り越して「本職(ヤクザ)」にしか見えないその男子生徒は「ちっ」と面白くなさそうに舌打ちをして、乱暴に自分の席に腰を下ろす。

 

 誰も彼の方に顔は向けない、視線も向けない。だが注目は集めているその男子生徒のワイシャツの胸ポケットに縫い付けられているのは、狼が描かれた紋章(クレスト)。

 先週の倶楽部対抗戦――水無月(みなづき)杯で無事、Bランクを維持した倶楽部『餓狼戦団(ヴォルフリッター)』の紋章である。

 この角刈り男子は、『餓狼戦団(ヴォルフリッター)』のレギュラー選手なのだ。

 Aランク倶楽部の『天上天下(ワールドマイン)』と『黒蜜(ブラックハニー)』にそれぞれレギュラーを務める二年男子が一人ずつ存在するがその二人は正真正銘のハイエンド。半ば外れ値に近い存在だ。

 そう考えると今の時点で二年の教室でBランク倶楽部のレギュラーというのは教室内のカーストでは最上位に位置することが多い。

 事実、その角刈り男子はこの二年坤(ひつじさる)組におけるトップの一人として扱われている。もっともその扱いは「特大の腫れもの」扱いであるが。

 

「けっ」

 

 角刈り男子はいつも通り、不快感を隠さず偉そうにしている、ように見える。

 だが、曲りなりにも二か月同じ教室で過ごしてきた二年坤(ひつじさる)組の者達には彼が、努めて自分の斜め前の席に座る黒髪ロングの女子を無視していることが分かった。

 

 黒髪ロングで細身(だが巨乳)の女子。彼女の名前を幸子(さちこ)という。

 

 今年のゴールデンウィーク前まで角刈り男子の公式パートナーだった女子だ。

 札付きチンピラ倶楽部のパートナー女子と聞けば、ろくな扱いを受けていないのが相場であり彼女――幸子(さちこ)もその例にもれなかった。

 角刈り男子にとって幸子(さちこ)は「いつでもすぐに使える便利な穴」以上の意味はなく、機嫌が良い時は同じ教室の男子に貸し出すこともしょっちゅうで、たまに連れていくダンジョンダイブでは主に生餌役。

 気にくわない言動を取った時には『公衆便所』の札を下げて男子トイレに拘束しておいて、自分はそのことを忘れて帰ってしまうこともあった。

 二年坤(ひつじさる)組の男子には、角刈り男子の機嫌が良い時に貸し出される幸子(さちこ)をひそかな楽しみにしている者も少なくなかった。

 顔立ちは地味だが学園の平均――つまり美少女だし、細身なのに胸は大きい。臆病で男子に逆らうようなこともないので面白味はないが、そういう従順な女子の需要もそれなりに高い。

 

 そんな角刈り男子と幸子(さちこ)の関係が激変したのは、ゴールデンウィーク明けのこと。

 幸子(さちこ)の制服の襟についていたバッジが変わっていたのだ。角刈り男子の公式パートナーであることを示すいかにもヤンキーが好きそうなトゲトゲの狼のような紋章のバッジから、牡牝(オスメス)二匹のクワガタムシの紋章のバッジに。

 それは、幸子(さちこ)の公式パートナーが角刈り男子から別の誰かに変わったことを意味していた。

 その時点で二年坤(ひつじさる)組の者達には相当な驚きが生まれたのだが、本当の激震が走ったのはずっと遅れて角刈り男子が教室に入ってきたときだ。

 

 角刈り男子は、自分の公式パートナーではなくなった幸子(さちこ)を『無視』したのである。

 

「てめえ、覚えとけよ」と脅すのでもなく、ニヤニヤ笑いながら「短い自由楽しんどけ」とあざけるでもなく、憎々しげに睨みつけるのですらなく、まったくそんな女子は最初から存在しない、自分とは一切関わり合いはない、と言わんばかりの徹底的な無視。

 

 それは幸子(さちこ)を奪った今の公式パートナーに、角刈り男子が一切の反撃を諦めていることを意味していた。

 同時にそれは、幸子(さちこ)の新たなパートナーが、幸子(さちこ)に手出しをすればキッチリ反撃してくるくらいには幸子(さちこ)を大事にしていることも。

 

 Bランク倶楽部のレギュラーであり、戦士系第三段階職『戦闘士(グラディエーター)』である角刈り男子に、「勝てる」と断言できる者はこの二年坤(ひつじさる)組には一人もいない。

 だから、角刈り男子が暗に「絶対勝てない」と認めた幸子(さちこ)の新しいパートナーの影を見た二年坤(ひつじさる)組の男子は、誰も幸子(さちこ)にちょっかいをかけてこなくなった。

 そんな幸子(さちこ)にとって理想的ともいうべき状態が、変化する可能性があったのが一昨日まで行われていた倶楽部対抗戦だ。

 倶楽部のランクが変われば個人の力関係が変わることもある。

 角刈り男子の『餓狼戦団(ヴォルフリッター)』はBランクを維持。幸子(さちこ)と幸子(さちこ)のパートナーが所属する倶楽部『安息所(メイトガード)』はCランクどまり。

 

 結論として、角刈り男子の態度は変わらなかった。幸子(さちこ)の存在を無視し続けるまま。

 だから、二年坤(ひつじさる)組の男子の認識も変わらない。

「幸子(さちこ)の新パートナーやばい。幸子(さちこ)は手出し厳禁」と。

 

 変化があったのは、様子見が終わった二年坤(ひつじさる)組の『女子』である。

 

 

 

 

「幸子(さちこ)、お昼は学食?」

 

「一緒に行こう、ね? いいでしょ」

 

「あ、うん」

 

 午前の座学を終えてすぐ、そんな会話を交わした幸子(さちこ)は同じ教室の女子二人と一緒に学食で昼食を取っていた。

 一人は小柄でたぬき顔に茶髪の女子。もう一人は中肉中背で猫っぽい女子。どちらもFランク倶楽部に籍を置いている。

 幸子(さちこ)が頼んだのは一番安いサンドイッチセット。

 今の幸子(さちこ)ならば食事代を節約する必要などないのだが、クラスメイトの目があるのであれば自重する必要がある。羽振りの良いところを見せればおこぼれ目当てが寄ってきたり、反感を買ったりしてしまう。

 

 もっともそんな幸子(さちこ)の努力はあまり実を結んでいない。

 目敏い女子が見れば、今の幸子(さちこ)の状況など簡単に推測が可能だ。

 ワンレングスのセミロングな髪型は以前と変わっていないが、毛先の整い方が『千銭』美容室ではありえない丁寧さだし、髪の艶や漂わせている香りも購買で販売されている最低価格のシャンプー、トリートメントのものではない。

 そもそも幸子(さちこ)は自覚がないようだが幸子(さちこ)の表情、漂わせている雰囲気が依然と段違いだ。

 角刈り男子のパートナーだった頃にはいつも俯(うつむ)いて、痛みに耐える様な表情がデフォルトだったのに、パートナー変更の日から少しずつ、幸子(さちこ)の表情は和らいでいった。

 最初はどこか不安げに、それから少しずつ穏やかな安堵感を覗かせる表情に。そして、今は所々で幸せそうな笑みをこぼしている。

 一年間、チンピラ倶楽部に飼われていた幸子(さちこ)は、性感や性欲もそれなりに高まっている。

 だが、今の幸子(さちこ)は欲求不満が溜まっているような雰囲気もないし、逆に寝不足になっている様子もない。性的にも満足させてもらっているし、逆に眠る時間もないような乱暴な扱いも受けていないということだ。

 

 総じて幸子(さちこ)は相当『当たりのご主人様』をゲットしたと推測できるのだ。

 

「幸子(さちこ)の倶楽部、Cランクになったんだね」

 

「凄いよね。幸子(さちこ)のご主人様が部長さんなんでしょ?」

 

「う、うん」

 

 クラスメイト女子二人の言葉に、幸子(さちこ)は少しずつサンドイッチを食べながら、たどたどしく応対する。

 幸運をつかんだ女子がいれば、おこぼれにあずかろうとする女子がすり寄ってくるのは必然である。

 この二人はその中ではまだマシな部類だ。

 ただ幸子(さちこ)に(表面上)友好的な態度で距離を詰め、座学の間の休み時間や今のような昼食の時に幸子(さちこ)の側にいようとするだけである。

 教室の男子全員から「手出し無用」の暗黙の了解を得ている幸子(さちこ)の側にいれば、降りかかるトラブルが激減するのだ。たとえば休み時間にムラっとした男子に『公衆便所』に連れ込まれる確率がぐっと下がる。

 幸子(さちこ)としても教室で完全に孤立するよりは、見せかけだけでも「同性の友達」がいたほうが良い。

 よほどのバックがあるか本人が十分な実力と名声を有しているのでない限り、孤立女子は狙われやすいのだから。

 

「倶楽部のランクが上がったら部員枠は増えるよね?」

 

「ひょっとして幸子(さちこ)の倶楽部も、新部員を募集してたりする?」

 

 もちろん、たぬき顔女子も猫っぽい女子も「あわよくば」という下心はバリバリだ。

 無意識に身を乗り出してそう尋ねる女子二人に、幸子(さちこ)は下を向きながらしっかりと首を横に振る。

 

「分からない。私はただの女子部員で部の運営に口出しは出来ないから」

 

 その幸子(さちこ)の言葉は半分嘘だ。

 元々倶楽部『安息所(メイトガード)』は、Fランクで人員の上限は二十人のところ十四人しかいなかった。

 この時点で部長の健太(けんた)は自分のパートナーばかりが増えすぎていることを問題視し、「残りの六枠は二枠ずつ自分以外の男子、尚典(なおふみ)、来斗(らいと)、霊王(れお)のパートナー枠とする」と発表していた。

 その後倶楽部対抗戦の結果、『安息所(メイトガード)』はCランクとなったため人数の上限は五人増えて二十五人となっている。

 その増加した五人分の枠に関しては、現状明確には決まっていない。

 

 健太(けんた)の日頃の言動からすれば、幸子(さちこ)がこの二人を新部員に推薦しても健太(けんた)は別段怒ったり、不快に思ったりはしないだろう。

 だが、当たり前だが幸子(さちこ)にそのようなことをする気はない。

 これまでの学園生活で自主性や積極性を限界まで削られている幸子(さちこ)だ。健太(けんた)のパートナーとなってから一か月と少しで急速に心身の安定性を取り戻してはいるが、生来の気性もあって能動的な行動はいまだにほとんどとることが出来ない。

 それはある意味健太(けんた)のパートナーになってしまった弊害とも言える。

 なにせ健太(けんた)は、最初に烏琉羽(うるは)から受けた助言通り、幸子(さちこ)に対してだけは希望を聞くようなことも一切せず「ああして、こうして」と全て命令、もしくは指示してくれるのだ。

 

 それも幸子(さちこ)の反応を伺(うかが)って幸子(さちこ)が何も言わなくても嫌なこと、駄目なことは次から極力しないようにして、幸子(さちこ)が喜んだこと、嬉しかったことは忘れず継続してくれるのだ。

 数多くいる健太(けんた)のパートナーの中でも、一番甘やかされているのが幸子(さちこ)だと言っても一面真理かもしれない。

 

「そっか、まあそうだよね」

 

「女子部員の発言権なんてどこも一緒か」

 

「…………うん」

 

 納得する女子二人の前で幸子(さちこ)は小さく頷きながら、昨日の日曜という至福の時間を思い出していた。

 

 

 

 

 時はさかのぼり前日の日曜日。土曜まで続いた倶楽部対抗戦水無月(みなづき)杯は、大きな波乱もなく終わった。

 しいて上げるとすれば『天上天下(ワールドマイン)』がSランクになれずAランクどまりだったことぐらいだろうか。

 前回のSランク倶楽部四つの内二つは解散しており、現存しているSランク倶楽部は『悠久庭園(ヴィーンゴールヴ)』と『千年王国(ミレニアム)』だけ。

 残り二枠を前回のAランク倶楽部のどこかが取るだろうと予想されていた。

 もっともSに近いAランク倶楽部、と呼ばれていた『天上天下(ワールドマイン)』はその筆頭だったのだが、残念ながら今回もAランクどまり。

 とはいえ、新たにSランクとなった倶楽部二つも元Aランクなのだから波乱というほどのことでもない。

 

 ともあれ、その辺りはまだまだCランクどまりの幸子(さちこ)や健太(けんた)には関係がない。

 問題は、倶楽部対抗戦が終わった翌日の日曜日ということで、数少ない学生街の高級飲食店が軒並みAランク、Sランク(一部Bランク)の倶楽部に貸し切りにされてしまったということだ。

 

「すみません、幸子(さちこ)先輩。いつも通りの学食の食事で」

 

「いえ、とんでもありません。御主人様」

 

 そんな言葉通り、デートのはずなのに朝食をいつも通りの学食で取っていた幸子(さちこ)は健太(けんた)とそんな会話を交わす。

 実際幸子(さちこ)の言葉に嘘はない。幸子(さちこ)の立場で昼も夜も丸一日ご主人様を独占できるというのは、もうそれだけで夢のような時間なのだ。食事など別段どこでも良い。大切なことはすぐ隣にご主人様がいること、それだけだ。

 

「それじゃ、行きましょう。幸子(さちこ)先輩」

 

「はい」

 

 朝はパン派の健太(けんた)に合わせて、クロワッサン定食で朝食を得た幸子(さちこ)は健太(けんた)に手を引かれて立ち上がる。

 健太(けんた)は幸子(さちこ)の腰に手を回して、抱き寄せた。

 

 

 

 

 午前中の学生街を幸子(さちこ)は健太(けんた)に肩を抱かれて歩く。

 

「はあ」

 

 優しいご主人様の肩に体を預けて歩く幸子(さちこ)は、思わず口から安堵の息をもらす。

 既に一年以上をこの学園で過ごしている幸子だが、こうして日曜の学生街をのんびり歩くのは初めての経験だ。

 当然と言えば当然である。

 日曜日の学生街は一見平和で楽しそうに見えるが、そこを行きかう男女が全員豊葦原学園の生徒か関係者であることに違いはない。

 そんな空間を幸子(さちこ)のようないかにも体力的にも精神的にも弱そうな女子が一人で歩いていれば結構な確率で拉致、輪姦コースである。とてもではないが心穏やかに過ごせる空間ではない。

 パートナーと一緒ならばその危険はほぼなくなるが、以前のパートナーであった角刈り男子と一緒にいて幸子(さちこ)が「心穏やかにのんびり」していられるはずもない。

 そもそも、角刈り男子はせっかくの休日を幸子(さちこ)に割いてくれるようなことは一度もなかった。

 

 だから、今の時間がどれほど貴重なのか幸子(さちこ)は理解している。

 隣にいて自分を守ってくれると確信できるパートナーが、自分一人の為に休日を費やしてくれなければ生まれない時間なのだから。

 

「幸子(さちこ)先輩。あちこち見て回りましょう。ついてきてください」

 

「はい」

 

 グッと幸子(さちこ)の肩を抱いたまま歩き出す健太(けんた)に幸子(さちこ)は、恐れも不安も抱くことなく素直に従順にエスコートされる。

 

 

 

 

 朝食も昼食もそして当然夕食も、学生街の評判の良いレストランは予約で埋まっていた。

 夕暮れ時。デートを済ませた幸子(さちこ)と健太(けんた)は、白鶴荘に戻っていた。夕食はこれから白鶴荘で取ることになる。

 朝食は学食。昼食はファーストフード。そして夕食は白鶴荘に戻って寮の食事。

 そんな味気ないデートになってしまった埋め合わせとして、健太(けんた)は学生街デートで幸子(さちこ)にプレゼントを購入していた。

 過去、蘭(らん)や風音(かざね)とデートした時は服や靴を選んで贈った健太(けんた)だが、幸子(さちこ)はあまりファッションに興味がないらしい。それは別段学園に入学してから話ではなく、生来のものだという。

 もちろん「服に興味がない」とは言ってもそれは女子の基準の話であり、男子の「服に興味がない」とは全然レベルが違うのだが。

 ともあれ、そう言うことならばと健太(けんた)は幸子(さちこ)には服ではなく、別なものを贈った。

 それは「タブレットPC」である。正確に言えばタブレットPCとスタイラスペンのセットだ。

 

「す、すみません御主人様。こんな高いものを」

 

「気にしないでください、幸子(さちこ)先輩。俺が贈りたかったんですから。三食安いところで済ませた埋め合わせも含んでいますし」

 

 恐縮する幸子(さちこ)の言う通り、学生街で購入するタブレッPCは間違っても安いものではない。

 基本的にこの学園独自の通貨である『銭』はおおよそ一『銭』が一円と思ってよい。

 しかし、学食や購買で販売される生活必需品は明らかに日本国内で購入するより安くなっているのに対し、贅沢品の類は最低でも五倍、物によっては十倍以上というとんでもない値段が付けられている。

 健太(けんた)が幸子(さちこ)に買ってやったタブレットPCとスタイラスペンもセットで百万銭を超えるというかなり暴利な値段になっていた。

 それでも健太(けんた)にとってはそこまで痛い金額でもないし、幸子(さちこ)にとっては非常に嬉しい贈り物だったことは確かだ。

 

 幸子(さちこ)は内緒にしているがオタク的な創作活動をやっていた経験がある。

 

 静香のように漫画をかけるほどではないが、一枚イラストならばそれなりに描ける方だという自負がある。それ以上に良く書いていたのが小説だ。

 幸子は俗に言う『夢小説』や『BL小説』を書き、それに一枚イラストを添えるというスタイルで活動していた。

 良く『夢女』と『腐女子』は相いれない的なことを言われることもあるが、基本的にそれは嘘ではないがかなり誇張されている。

 確かにその手の物を好むオタク女子にどっちが好きかを聞けば、どちらかをはっきりと即答する者は多いが、だからと言って逆側を毛嫌いしている者は意外と少数派だ。どっちも美味しくいただいている者も少なくない。

 そして、幸子(さちこ)はその『どっちも好物』なタイプだった。

 

 つい最近まではとてもではないが創作活動に向けるだけの余力も精神的な余裕もなかった幸子(さちこ)だが、今は違う。

 さらにイントラネット上で正規の傑作『ローズスクールハック&スラッシュ』通称『ロズスク』を読んだことで、創作意欲が湧いてきたところだ。

 

 とはいえ、『夢小説』は正直ちょっと創作意欲がわかない。なにせ舞台を豊葦原学園に指定すれば、幸子(さちこ)の置かれている状況がそもそも『夢小説』のようなものである。正直、もっと幸せな展開を考えろと言われても思いつかない。

 

 幸子(さちこ)は、蘭(らん)が「自分の今の立場が分不相応」と悩んでいることを知っている。「自分程度の女子が健太というハイエンドの男子の筆頭パートナーなどつり合いがとれていない」と。

 だが、幸子(さちこ)には蘭(らん)が別段分不相応とは思えない。確かに健太(けんた)はあまりに出来過ぎたご主人様だが、蘭(らん)には最初にアプローチをかけた(ファーストペンギン)という大きな功績がある。

 釣れた魚が思った以上の大魚だったことは確かだろうが、蘭(らん)は自分から一年男子に声をかけたのだ。しかもその一年男子は一見すると誰がどう見ても「ハズレ」としか言いようのない頼りなさげな陰キャ男子。

 現に六月になった今でも健太(けんた)は同じ一年女子からは一度も誘いを受けたことはないという。たとえ偶然だったとしてもそれを見出してアプローチをかけたのならば、美味しい思いが出来るのは正当な報酬だと幸子は考える。

 

 分不相応ということで言うならば、それは幸子(さちこ)自身のことだと幸子(さちこ)は確信している。

 なにせ幸子(さちこ)はなにもしていない。蘭(らん)のように自らを健太(けんた)に売り込むことも、竹海(たけみ)と風音(かざね)のように友人を通して自分を紹介してもらうことも、詩織(しおり)、優梨愛(ゆりあ)、藤子(ふじこ)のように補習レイドで一緒になったという好機を生かしてアプローチをかけることも、幸子(さちこ)は一切していないのだ。

 

 ただいつものように下を向いて息だけをする時間を過ごしていたら突然白い覆面をした決闘委員がやってきて「二年坤(ひつじさる)組、幸子(さちこ)ですね。貴方のパートナーは貴方のパートナー権を賭けて『学生決闘(メンズ―ア)』を行い、敗北しました。

 結果、貴方のパートナー権は一年丙(ひのえ)組の健太(けんた)に移行しました」と告げてきたのだ。

 

 その決闘委員は小さなバッジを幸子(さちこ)に差し出し「パートナーバッジを交換してください」と言ってきた。

 幸子(さちこ)は言われるがまま角刈り男子のパートナーバッジを制服の襟から取り外し、代わりに『牡クワガタと牝クワガタ』が描かれた新品のバッジを受け取った。

 この時も幸子(さちこ)は流されるがままだった。特に驚きもなかった。

 女子が勝手に景品されてやり取りされることなど、この学園では日常茶飯事だ。それなりに強いはずった前のパートナーから自分を奪い取ったのが一年というのはちょっと驚きだったが、だからどうしようという考えは何も浮かばない。

 

 ただ決闘委員に言われた通り、新しいパートナーバッジを付けて新しいご主人様(パートナー)がいるというフリーマーケットの露店に行き、運命の人と出会った。なぜかハゲヅラを被っていたが。

 その後もただ言われるがまま、流されるがままなのはそれまでの学園生活と全く同じ。

 違ったのは命令する人間が変わったことだけ。

 その結果、かけられるのは思いやりのある言葉。命令されるのは大半が実行可能なことだけ。実行した後に返ってくるのは過剰なくらいの誉め言葉と賞賛。実行できなかった時に返ってくるのは励ましの言葉と「とにかく頑張った」という肯定の言葉。

 そして性行為は夜の寝室に限定。優しく、労わりに満ちて、それでいて与えられる快楽は今まで味わったことのない最上のもの。

 学園で一年以上の時を過ごした上級生女子にセックスに対する忌避感は残っていない。男子に対する恐怖心や嫌悪感を植え付けられている女子は多いが。

 むしろ、学園という特殊空間でのセックスに否応なく順応させられてしまった肢体(からだ)はセックスを求める。

 幸子(さちこ)の元パートナーは曲がりなりにも第三段階の戦闘職だった。もちろん『餓狼戦団(ヴォルフリッター)』の他の男子達も多くは第二段階職、数は少ないが他にも第三段階職はいた。

 そうした高レベル男子に隷属を経験していると、低レベルの男子とのセックスでは体の疼(うず)きが収まらなくなる。

 だが、健太(けんた)とのセックスではそんな恐れはまったくない。むしろ、最初の一夜の最初の一回で幸子(さちこ)の隷属は書き換えられてしまった。それから今日まで隷属は深まるばかり。

 万が一、今幸子(さちこ)が元のパートナーとセックスをしたとしても十日やそこらでは隷属を書き換えられることはないだろう。

 それくらいに圧倒的な強さで、今の幸子は健太に隷属している。

 

「幸子(さちこ)先輩。そろそろ部屋に行きましょう」

 

「はい。御主人様」

 

 いつの間にか食事を終えていた健太(けんた)に手を引かれた幸子(さちこ)は、うっとりとした表情で健太(けんた)の胸の中に倒れこむようにして立ち上がった。

 

 

 

 

 

 白鶴荘の幸子(さちこ)の部屋は風音(かざね)との二人部屋だが、今日は健太(けんた)との二人きりのデートの日だ。二人きりのデートとは翌朝まで二人きりということ。

 風音(かざね)は今夜は別な部屋に泊ることになっている。

 

 幸子(さちこ)は一人、自分のベッドで愛しい御主人様の下で快楽の海に浸っていた。

 

「ああ、御主人様、い、いい、いい!」

 

 幸子(さちこ)と健太(けんた)は正常位で繋がっている。細い幸子(さちこ)の両足を健太(けんた)が身体で割って入り、幸子(さちこ)のくびれた腰を両手で掴んで、何度も何度も腰を前後させる。その度に幸子(さちこ)の女陰に差し込まれた健太(けんた)のペニスが強く出入りを繰り返し、幸子(さちこ)の脳裏に快楽の電流を流し続ける。

 それに合わせて幸子(さちこ)の細い体には不似合いに大きな両乳房がプルンプルンと揺れる。

 

「御主人様 御主人様ぁ」

 

 甘える犬のような声を上げながら、幸子(さちこ)はベットの上から愛しの御主人様に向けて両手を伸ばす。恐らく幸子(さちこ)自身は全く自覚していない行動だ。

 健太(けんた)はそれを見て、正常位のままゆっくりを状態を倒し、伸ばす幸子(さちこ)の両手に自分の両手を重ね合わせる。

 

「あ……」

 

 両手を恋人繋ぎにした状態での正常位。幸子(さちこ)の顔に幸福感があふれ出る。

 手で女子の身体を掴まない正常位は意外と難しいのだが、今の健太(けんた)ならばそれくらいは問題ない。

 

「あ、あ……ああ!」

 

「っ幸子(さちこ)先輩」

 

 幸子(さちこ)が達した数瞬後、健太(けんた)は幸子(さちこ)の中に熱い白濁液を撃ち放った。

 

 

 

 

 健太(けんた)との一対一の夜は残念ながら長くは続かない。

 健太(けんた)の精力を受け止めるには女子一人では無理があるからだ。『娼婦(ニンフ)』となった詩織(しおり)ならばかなり頑張れるようだがそれでも一晩は持たない。歴戦の『娼婦(ニンフ)』でありその上の『花魁(サキュバス)』も見えてきている烏琉羽(うるは)でも「無理ですね」と断言していたほどだ。

 まして健太(けんた)のパートナーの中でもレベルも体力も最下位に近い幸子(さちこ)の場合、健太(けんた)が二回射精するまで意識を保っているのがやっと。

 

 深夜、目を覚ました幸子(さちこ)は自分が裸のまま、同じく裸の健太(けんた)と添い寝していることに気が付いた。

 

「……ん」

 

 意識が半覚醒の状態で幸子(さちこ)は両手で自分の体をまさぐる。どこも汚れていない。自分の汗、自分の体液、そして健太(けんた)の精液。すべて綺麗にぬぐい取られている。

 いつものことだ。健太(けんた)とのセックスは必ず女子が先に意識を飛ばす。健太(けんた)は意識がなくなった女子を無理矢理起こしたり、意識を失ったまま「生きたオナホ」扱いでセックスを続行するようなことは絶対にしない。

 女子達と自分の体を濡らしたタオルで清めて、後は寝るだけだ。

 健太(けんた)の精力はまだまだ有り余っているだろうに、そこで健太(けんた)は留まることが出来る。もう慣れたものだ。

 そもそも、今の健太(けんた)が完全に満足するまでセックスをしようと思うと『安息所(メイトガード)』のパートナー七人に『O嬢極(オウジョウギワ)』の健太(けんた)担当(いつの間にかそうなっていた)の五人を加えたレイド戦が必要ではないだろうか。

 

「御主人様…………」

 

 幸子(さちこ)は自分の方を向いて寝ている健太(けんた)にそっと顔を近づけ、口づけを交わす。

 

「ん…………」

 

 唇と唇を合わせるだけの軽いキス。それだけで幸子(さちこ)の体の奥から女の喜びが湧き出るのを実感する。

 

「御主人様」

 

 そのまま幸子(さちこ)は健太(けんた)に抱き着く。お互い裸だ。

 健太(けんた)の寝ていてもまだ全く収まること知らない股間の剛直が幸子(さちこ)の裸の太腿に触れる。熱い。大げさでなくずっと触れていれば火傷するのではないか、と思うほどの熱さだ。そして固い。まるで熱を持った鉄の棒のようだ。

 

「すごい……」

 

 幸子(さちこ)はご主人様の熱さを肌で感じ、うっとりと目を細める。

 あまり人には言えないことだが、幸子(さちこ)は実は寝ている健太(けんた)の収まらないペニスに触れるのが好きだった。

 まだ収まっていない精力。それなのに終わったセックス。それは健太(けんた)が健太(けんた)自身の精力発散よりもパートナーである女子の身体を労わることを優先してくれている証拠に感じられるからだ。

 

「ん…………」

 

「あっ」

 

 そうしていると寝ているまま、健太(けんた)が両手で幸子(さちこ)を抱き寄せる。健太(けんた)は自覚していないが、寝ている時の健太(けんた)は抱き着き癖がある。常にではないが、高確率で隣で寝ているとこうして抱き寄せられる。

 それが知ったパートナー女子達は、セックス終了時になんとか自分が健太(けんた)の隣になるようけん制し合っていたりもするのだが、恐らくそんな裏事情は永遠に健太(けんた)の耳には入らないだろう。

 

「はあ」

 

 ご主人様の両腕の中にすっぽりとおさめられた幸子(さちこ)は、安堵感と多幸感でそのまま溶けてしまいそうだ。

 深く隷属している女子にとってご主人様の愛情は麻薬にも等しい。

 優しく愛してくれて、強い力で守ってくれる。そして、その強い力を自分に向けることは決してない。

 

「愛してます、御主人様」

 

 幸子(さちこ)はそのままご主人様の体温と愛情に抱かれ、強い腕に守られている安堵感に包まれ、再び眠りにつくのだった。

 

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