※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第十三話 健太への評価、尚典の悩み

「……ふう」

 

 健太(けんた)が立ち去ったところで、凜子(りんこ)は大きく息を吐いた。

 ずっと体に巡らせていた緊張を解き、グルグルと首を回す。

 やはり、男子は苦手だ。どうしても、反射的な恐怖心と警戒心が克己されてしまう。

 

「自分のパートナーとなった男が特別ろくでなしだっただけ」

 

 そんな言葉で自分を騙せるほど、凜子がこの一年で味わった地獄は甘くないし、そもそも豊葦原学園にいる男は、実際全員ろくでなしだ。少なくとも、凜子はそうではない男子を見た事がない。

 

 それと比べると、今の一年生はとても初々しかった。

 興味津々なのに、なんとかこちらの胸元に視線を向けないように目を泳がせている様は、見ていて笑いをこらえるのに苦労したほどだ。

 豊葦原学園の平均的な男なら、目線を逸らすような真似はしないし、気に入ったのならその場で掻っ攫われてレイプされる。

 久しぶりに、普通の男子の反応を見た。それが、異常な反応に感じられるくらいに、凜子もこの学園の常識に染まってしまった。

 そして、先ほどの男子も長くても半年もこの学園で過ごせば、『学園の常識』に染まってしまうだろう。

 思い返せば、凜子の同級生にも、入学からしばらくの間は、普通の男子もいた。今はいない。全員、『学園の普通』の男子になってしまった。

 

「ましてやさっきの子は、この時期に『転職(クラスチェンジ)』済ませてるんだからね。弾けるのは、秒読みかな」

 

 凜子はそう呟く。

 豊葦原学園では、強者は露骨に優遇される。学園の運営サイドももちろん、学生同士の人間関係も強さが土台だ。

 強ければ、Aランク、Bランクの倶楽部に勧誘される。強豪倶楽部の看板を背負えば、さらに一目置かれる。女を力づくでモノにする必要すらない。強者のおこぼれにあずかろうと、割り切りの良い女たちが勝手にすり寄ってくる。

 強いということは、レベルが上がっているということ。その分、性欲と精力も上昇しているのだ。

 我慢しなくてよい環境で、あえて我慢する男は皆無に等しい。

 

「うん。そう考えるとさっきの子は、ちょっと凄いかも。すでに『転職(クラスチェンジ)』をしてるのに、童貞みたいだったかな」

 

 言ってから凜子は苦笑する。

 そんなわけはない。流石にそれは、非現実的だ。えさを与えられていないライオンを山羊小屋に三日三晩放置して、山羊を一匹も食べていないくらいの異常事態だ。

 

「なにが凄いの、リンゴちゃん?」

 

 聞きなれた声に、視線をカウンターの向こうに向けると、案の定よく知っている小柄な少女が、ブンブン元気に手を振りながらこちらに近づいていた。

 

 小柄な体躯。極端な童顔。そして、その顔と体を使ってめいっぱい表現している天真爛漫な性格。

 彼女が、この倶楽部『匠工房(アデプトワーカーズ)』の部長、蜜柑(みかん)である。

  女子では長身の部類に入る凜子と比べれば、頭一つ違う。今のように、凜子が椅子に座っていて、蜜柑が立っている方が視線の高さが合うくらいだ。

 

「お帰り、部長。さっき来たお客さん。一年なんだけど、もう職業(クラス)についてるみたいだったかな」

 

 副部長である凜子の言葉に、部長である蜜柑は元から大きな目をさらに大きく見開く。

 

「わわ、それはほんとーに凄いね。しばらくはうちの常連さんになってくれるかな?」

 

 バタバタを両手を動かす蜜柑部長の愛らしさに、思わず口元のを緩めながら、凜子は答える。

 

「どうだろうね? なんか、色々違和感の大きい子だったから、ちょっと分からないかな」

 

「違和感?」

 

 首を傾げる蜜柑に、凜子は説明する。

 

「なんて言うか、すごくチグハグな感じかな。話をしてみると弱そうなのに、雰囲気は強そうだったり。もう強くなってるはずなのに、弱い子のような言動が見られたり。リーダーシップは無さそうなのに、パーティーリーダーのような言動を取ってたりとか、かな」

 

聖堂(カテドラル)』での『転職(クラスチェンジ)』は、自分の意思で選べない分、その人間の本質に沿った『職業』に就くことが多い。無論、例外も存在するが、慣れれば何となく、「多分この人は、○○系の職業(クラス)だろうな」と分かるくらいには、分類分けが可能だ。

 その分類分けで言えば、凜子の目には、健太は自分たちと同じ、『職人(クラフター)』かさもなくば『文官(オフィサー)』だろう、という雰囲気を感じた。ダンジョンダイブに適応できずに落ちこぼれ、下手をすれば『カウンセリング』送りになりそうなタイプ。

 それなのに実態は、四月半ばという今の時点で、戦闘職に転職(クラスチェンジ)を済ませている、学園のエリートコースを歩んでいる。そう言われて見直してみれば、雰囲気は確かに強者のそれだ。

 この時点で転職(クラスチェンジ)を済ませているということは、相当な速度でレベルアップを済ませたということ。ならば、急激に性欲、精力が上昇したことは間違いない。それなのに、凜子に対する言葉遣い、距離の取り方、視線の動かし方は、この学園ではツチノコより珍しい童貞のそれ。

 いかにも人付き合いが嫌いで、苦手そうな印象なのに、自分では使えない『モンスターカード』を売らずにとっておき、それどころか『モンスターカード』用の武器すら用意して、自分のパーティーに人を引き入れる準備している。

 

 全部が全部、第一印象と実際にやっていることがぶつかり合っている。

 

「まあ、全部私の勝手の見立てだから、ただの勘違いって可能性も十分高いかな。気にするほどのことでもないかな」

 

 凜子はそう自分に言い聞かせるようにつぶやき、首を振る。

 今の自分たちに人の心配をできるほどの余裕はない。凜子たちは、この学園でもっとも立場が弱い女子の『職人(クラフター)』。むしろ、誰よりも人の庇護を求めなければならない立場と言える。

 正直、蜜柑という精神的支柱が無ければ、すでに『擦り切れて』しまっている者もいたはずだ。それくらい、彼女たちは危ういところにいる。

 

「うん、その子も頑張ってるんだよ、きっと。リンゴちゃんみたいに」

 

「そうかもね」

 

 陰りのない笑顔でそう言う蜜柑の言葉に、凜子はまた小さく心を救われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 健太(けんた)は、碧鷺(へきさぎ)荘の自室で、ルームメイトの尚典(なおふみ)と、いつも通りの話し合いをしていた。

 お互い、この特殊な学園生活に悩み、お互いを羨む不思議な関係になりつつある。

 

「それじゃ、健太はもう『職人(クラフター)』の人が作った武器を買うとこまでいってるんだ。凄いね。一人なのに」

 

 誉め言葉の後に続く、急所を刺す一言に、健太は大げさに胸を抑える。

 

「おい、尚典。最後の一言余計じゃないか? 気が付いたら、教室のパーティーが固まっててさ。今更、俺も入れてくれ、とは言いづらくて」

 

 健太は、未だにボッチを続けている言い訳をする。

 

「ごめんごめん。すでに固まってる人間関係に入って行きづらいってのは、分かるよ。僕もそういうのは苦手だから。でも、それでもうそんなに進んでるのは、本当にすごいよ。

 僕なんか、ちゃんとクラスメイトと五人でパーティーを組んでても、未だに三回に一回は死に戻ってるんだから。全然進まなくて」

 

 尚典は、教室内でパーティーが組めているらしく、健太としてはちょっと置いていかれている気分だ。正直、尚典が自分と同じ、教室内ボッチになって、自分とパーティーを組んでくれる未来を、期待していなかったと言えば嘘になる。だが、仲の良いルームメイトがクラスで上手くやっていることは、喜ぶべきなのだろう。

 

「尚典もパーティーメンバーも全員まだノービスなんだよね? だったら、今は我慢してインの時間を遅くするしかないんじゃないかな。とにかく、死に戻りが一番非効率だから」

 

「やっぱりそうだよね。でも、死に戻りしなかったときって、大体「俺たちもっと戦えたよな」って感想で満場一致するんだよね。だから、つい「次は、もうちょい早めにインしようぜ」って流れになってさ」

 

「ああ、それなら確かに、時間の問題じゃないかもな」

 

 全員ノービスとは言え、尚典たちはまだ『既知(きち)領域』地下一階で戦い続けているという。それが生還したときには「余裕」と思えるくらいなのに、三回に一回は死に戻りを起こしている、となれば、生還できる三回に二回と、死に戻りする三回に一回は、異なる何かが発生していると思った方が自然だ。

『既知領域』地下一階でモンスターは、レベル1のゴブリンかコボルトしか出没しない。しかも、群れずに必ず一匹でいるというご親切設定だ。身長一メートルほどしかないゴブリンとコボルトは、弱い。単純なスペックだけで言えば、運動音痴の女子高生でもまず勝てるくらいだ。

 それでも「命の取り合い」に慣れていない新入生は、恐怖や嫌悪感から体が動かず殺されてしまうことも普通にあるのだが、生還できた時は「余裕」と言っている以上、そのラインは超えている。

 となれば、『既知領域』地下一階で全滅しうる要因は一つしか考えられない。

 

「それって他のパーティー、多分上級生にキルされてるんじゃないか?」

 

「……やっぱり、健太もそう思う?」

 

 ため息をつきながらそう言うところから察するに、どうやら尚典もその可能性に思い至っていたようだ。

 原作でも、この時期質の悪い上級生が、面白半分に一年をダンジョン内で襲う描写が描かれていた。原作で襲われるのは男女混合のパーティーで、男は殺され、女は犯される。一年をおもちゃにするような上級生は、まず間違いなくエンジョイ組だが、それでもまだノービスの一年と比べれば、圧倒的だ。

 戦闘では全く敵わないし、犯されればいとも簡単に『隷属』状態になる。

 

 殺してもらえる男子はまだ良い。女子で、不幸にも気に入られてしまった者は、そのままダンジョン内でタイムアップまで襲撃者達に『保護』されて、ダンジョン内の記憶を持ち帰ることになる。遥か格上に犯されるという、脳髄を焼くほどの強い快楽の記憶と『隷属』した体を。

 豊葦原学園の女子が学園の色に染まる、スタンダードなルートの一つだ。

 

 それを思い出した健太は、少し口ごもりながら、尚典に尋ねる。

 

「ダンジョンは何があるか分からないから絶対とは言えないけど、一番あり得る可能性はやっぱりそれだと思うぞ。その、女子でダンジョン出てきたとき、様子のおかしかった子はいなかった?」

 

『お気に入り』にされた女子がいれば、その子だけは生還しているはずだから、ダンジョンからログアウトした時様子が違うはず。当たっていれば、重い問いかけになると覚悟していた健太だったが、尚典の反応は別な方向から予想を外してきた。

 

「ええと。女子とパーティーを組んだことはないから……」

 

「え? 確か、尚典ってまだパーティー固定してないって言ってたよね?」

 

 四月の第一週は、一年全クラスのファーストダイブがあったので、ダンジョンダイブが始まったのは第二週からだ。四月の半ばにやっと差し掛かった現状、パーティーが固定されずお試しを繰り返している一年のクラスは、そう珍しいことではない。尚典も以前にそう言っていた。

 だから、必然的に、尚典は一度や二度は女子とも一緒にダンジョンダイブを行っていると、健太は勝手に勘違いしていたのだがどうやら違うらしい。

 

「なんていうかさ。うちのクラス、ちょっと男女で割れちゃってるんだよね。だから、今のところ男子は男子だけ。女子は女子だけでパーティー組んでる」

 

「あー」

 

 確かに、最初のうちはそうなるクラスもある、と寮の先輩たちから聞かされている。

 大概の場合、教室の空気を作るのは、多数決ではない。教室内のカーストトップの価値観が、そのまま教室の空気になる。

 豊葦原学園の場合、単純に強者がスクールカーストのトップになるのだが、入学したばかりの一年だけは例外だ。豊葦原学園の特異性を知識では知っていても、価値観が書き換わっていない者が多数を占めるため、世の中と同じ感覚でそのまま教室を仕切ろうとする者が出る。

 それが、男女に対して潔癖な女子であったとき、男女が対立するクラスが生まれるという。もちろん、長くはもたない。先輩に言わせれば「そういうクラスの方が後々『美味しい』」というくらいだ。

 

「尚典って確か『(さる)』組だっけ」

 

「うん、そうだよ」

 

 肯定する尚典の前で、健太は頑張って前世で読んだ原作の知識を思い出そうとする。……だが、駄目だ。流石に細部は覚えていない。

 

 原作では、主人公の所属する一年(ひのえ)組以外にも、外伝的に他のクラスの人間も描写されていた。だが、流石に外伝の登場人物たちが、どのクラスだったかは覚えていない。

 健太が明確に覚えているのは、丙組以外は(とら)組ぐらいだ。

 寅組は、主人公パーティーの主要人物である沙姫(さき)が所属するクラスであること。竜也(たつや)信之助(しんのすけ)由香(ゆか)保奈美(ほなみ)李留(りる)という男女混合の五人パーティーが、本編で主人公達とも絡む比較的登場頻度の高いキャラだったことから覚えている。

 のちに信之助が設立する倶楽部が『剣虎団(ブレードタイガース)』というクラス名にちなんだ安直なものであったことも、理由の一つだったかもしれない。

 

 それ以外のクラスとなると、さっぱりだ。

 なんとなく、引っかかるものを感じる健太であったが、結局この時点ではそれがなんであるかは、思い出せなかった。

 

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