和花が選んだ玄室は確かにこの辺りでは小さな部類だ。
「オークロードが一匹、それ以外はオークナイトですね。数は五十匹ほどだと思われます」
「ブボオ!!」「ブギィ!」「ブヒイ!」「ヒイイ!」「ヒケエ!!」
一匹のオークロードが率いるオークナイトの群れ。特殊な個体はボスであるオークロードだけ。
「手ごろだな。良月、やれ」
「おうよ、《飛べ》」
健太の許可を得た良月は好戦的な笑みを浮かべると、『魔女の箒』のスキルを使用して生み出した箒に跨り、天井高く舞い上がる。
オークナイトは二メートル、オークロードはそれを超える巨体だがこの玄室の天井は十分に高い。
術士系がいないこのオークの群れでは、天井近くまで舞い上がった良月に攻撃手段がほぼない。
その安全圏から良月はオークナイトの群れを見下ろし、牙をむくように口を大きく開ける。
「《くううううう》!」
ガラスを擦り合わせる音を彷彿させる良月の甲高い雄たけびが響き渡る。
「《はあああああ!》」
続く気合の声を良月が発するとオークナイトの群れに黄色い光の雨が降り注ぐ。
「ヒギィ!?」「ブゲエ!」「ブバア!」「ヒキョウ!」「ニゲッ!?」
「《おらああああああ》!」
降り注ぐ。
「《くはははははあああ》!」
降り注ぎ続ける。箒に乗った良月は短い金髪を振り乱し、狂ったように笑い続ける。
『月光降射』。魔女系の攻撃スキルである。
光属性の広域持続攻撃スキル。雨粒のように細くて細かな光弾が、無数に上から下に降り注ぎ続ける。
正確に言えば魔女系でなくとも『術士』系の第三段階職ならば使える者はいるのだが、攻撃が必ず『自分より下に降り注ぐ』形で固定されているため、使用者はターゲットより上を取る必要がある。
そのため、基本スキルに『魔女の箒』という飛行スキルが存在する魔女系の十八番として認知されていた。
良月は『術士』系第三段階レア職『狂月の魔女』だ。
『狂月の魔女』という職の説明としてメジャーな物が二つ存在する。
一つは『狂月の魔女』は『術士』系第三段階職『魔女』の攻撃力強化型だという説明。
もう一つが『狂月の魔女』は『戦士』系第三段階レア職『狂鬼』の術士版であるという説明だ。
「《きぃいいひっひっひ》!」
現在良月という『狂月の魔女』の戦闘シーンを目の当たりにした健太としては、後者の説明を支持したいところだ。
「被弾した者はいるか?」
「大丈夫です、旦那様」
健太が『集団防護』のスキルで全て左腕の小型丸盾で受け止めているが、良月の打ち下ろす光の雨は、バンバンこちらにも流れ弾が来ている。
上から見下ろす良月にそれが見ていないはずはないのに、良月は攻撃をやめる気配が全くない。
気持ちよく笑いながら、『月光降射』を継続し続けている。
その様子は確かに「味方殺し」の異名を持つ『凶鬼』を彷彿させる。
第三段階職でも指折りの攻撃力を誇る『狂月の魔女』の攻撃を浴び続ければ、オークナイトはもちろんオークロードすら絶命にいたる。
オークロードはさすがび生命力を見せて、オークナイト達が全滅した後もかなりの間生き延びていたが、それでも結局は時間の問題でしかない。
オークロードが瘴気に返ったところで良月の『月光降射』も停止した。
「はあ、はあ、はあ、はああああ……」
味方を平気で巻き込む狂気に飲まれかけていた良月だが、流石に敵を全滅させれば攻撃を停止するくらいの理性は残っているようだ。良月は箒に跨って宙に浮いたまま、ゾクゾクとこみ上げる歓喜を抑え込むように両腕で自分自身を抱く。
見事オークナイトの群れを全滅させた良月は上空から愛しのご主人様を見つけ、先ほどとは異なる笑みを浮かべる。
「あはっ」
先ほどまでのは戦闘意欲と破壊衝動に狂った笑み。今浮かべているのは性欲と情愛に狂った笑みだ。
『狂月の魔女』は反則的な火力を誇る代償として、SP消費が激しいという弱点も抱えている。スキルを使うと自動的に理性が蒸発するという特性も相まって、一部では『自爆型』と呼ばれているほどだ。
強力な持続型範囲攻撃スキルを長時間発動させ、SPが総量が一時的に二割を切るところまで低下している良月は、一応『魔女の箒』に跨ったままほとんど自由落下と変わらない速度で健太めがけて降りて来る。
「ひひっ、ご主人様よう!」
「なんだ」
多少肉付きが良くても女子の標準を超えない良月を受け止めるくらい今の健太にとってはどうということもない。
上空からの高速ダイブを健太に優しく両腕で受け止められ、自分も健太の首に両腕を絡ませた良月は何のためらいもなく、健太にストレートに強請る。
「もう我慢できねえ。セックス、セックスしてくれよ、ご主人様」
「帰ってからだ」
『戦士の不動心』がオンになっている健太は、乳房も尻も五人の中では一番豊かな良月の体の感触にもピクリとも反応せず、そう切って捨てるのだった。
この学園の普通科ではダンジョンダイブこそが最重要であり、午前に予定されている授業は極めて軽視されている。
それは生徒の勝手な認識や不文律的な価値観に限った話ではなく、公然とした学園の方針だ。
その証拠の一つとして普通科の生徒が「レイドクエストの申請」をすれば、いつでも好きな時間にレイドクエスト用の第伍門――極界門の使用許可が下りる点が上げられる。
午前の授業を受けずにダンジョンダイブを行う行為はこの学園ではむしろ推奨される優等生の行為であり、なんら咎められる行為ではない。
だから、「学生の本分は勉強」などと宣ってレイドクエストのダイブ開始時間を午後からに設定する叶馬は今更言うまでもないが色々とズレた意見だと言える。
月曜に新装備の慣らしのダンジョンダイブ。火曜の午前に『護衛依頼』のダンジョンダイブ。火曜の午後に『O嬢極』の護衛ダンジョンダイブと、ちょっとダンジョンダイブを詰め込み過ぎていた自覚のある健太は午前の座学で骨休めをするため、叶馬の午後からのレイドクエスト開始に賛成していたが。
そんな水曜日の午後。
レイドクエスト専門の第伍門――極界門の前には、健太にとって見知った顔が大勢集まっていた。
その大半は大きなバックパックを背負い、制服の上から武器防具を装備した「長期ダイブ用」の出で立ちだ。
今日これから、『レイドクエスト』に挑むのである。
もちろんこれまでにちゃんと話し合い、全体としての意思の疎通は取れているはずだが念のため、この場で最後の確認がされる。
「それでは、最終確認をさせていただきます。本日これより倶楽部『神匠騎士団』と倶楽部『安息所』の合同レイドクエストを行います。
『神匠騎士団』からは部員二十名全員が参加いたします」
倶楽部『神匠騎士団』副部長である静香はそう言ってその場で点呼を取り、名前を呼ばれた者は一歩前に出て簡単な自己紹介をしていく。
叶馬、誠一、静香、麻衣、沙姫、海春、夏海の一年生が七人。
蜜柑、凛子、杏、久留美、桃花、市湖、梅香、智絵理、柿音、朱陽、芽龍、鬼灯の旧『匠工房』のメンバーが十二人。
そこに『神匠騎士団』の拠点となっている女子寮、麻鷺荘の寮長である乙葉を加えて二十人だ。
対する倶楽部『安息所』からの参加は僅か四名。
レイドクエストを持ち込んだのが健太だということを考えるとちょっと不自然なのだが、健太は「『安息所』の部員は自由参加」としたためこのような結果になった。
まあ、健太の主観ではこのレイドクエスト『白鯨』は原作では叶馬達がクリアしたクエストなのだ。自分は叶馬達の前に『白鯨』レイドが現れなかった流れを修正するために加わっているだけで、メインは叶馬達という感覚がある。自分自身は仕方がないが、それ以外のイレギュラーは少ない方が良いと考えている。
そんな健太が『安息所』の先陣を切る形で口を開く。
「一応今回のレイドクエストの発起人になっている、健太だ。ただし、人数の関係もあって全体の代表は叶馬に任せている。
まあ俺に関してはどっちの倶楽部の人間もある程度顔見知りだから上手いことやっていけると思う。問題があったらまず俺に報告してくれ。よろしく」
まだ『戦士の不動心』をオンにしていない割には上手いこと言えたと健太が胸をなでおろしていると、隣に立つ男子が続いて口を開く。
「ええと、倶楽部『安息所』の副部長、尚典です。うちは参加は自由だったんだけど強くなるために参加を希望しました。よろしくお願いします」
可愛らしい顔を緊張と興奮で赤く染めて小さく頭を下げたのは尚典だ。緊張から瞬きをするたびに長いまつ毛がパタパタと動いている。
健太の予想通り「かなり難易度の高いレイドクエストがある。参加は自由」と健太が告げると、尚典は全く迷うことなく「僕は参加する」と表明したのである。それは風音の「私は参加しない」の表明に匹敵するくらいの迷いのなさだった。
準備時間は非常に短かったのに『豊象神の牙筆』での式神を複数枚こしらえていたほどの力の入れようだ。特別な防具は身に着けず、普通科の制服姿で片手で細身の槍を持っている。
「倶楽部『安息所』所属、竹海だ。ご主人様にもめごとは絶対起こすなってきつく言われてるから、大人しくしてるつもりだよ。戦闘以外わね」
続いてそう言ったのは竹海である。百七十の半ばを超える竹海はこの場にいる中では叶馬に次ぐ体格を誇る。
腰の左右に二本の黒い曲刀――『炭鉱者の栄光』と『静謐なる主日の基礎』を吊るし、特大の乳房を見せつける様に堂々と胸を張って立っている。尻も大きく、太ももも太い。しかし、それ以上に足が長いので太ももに関してはあまり太いという印象にはならない。ただひたすら「大きい」という印象だ。
そんな竹海の参加も全く意外ではない。もともと『安息所』は健太が「自分にとって居心地の良い隠れ蓑」くらいのつもりで作った倶楽部のため、女子部員は「完全養殖希望」も問題なしとしているのだが竹海は完全な例外だ。
高レベルレイドクエストなどという「強くなれる機会」を竹海が見逃すはずがない。
だから、竹海だけは最初から参加する前提で「参加するならもめ事をおこさないように努力する事」と言い聞かせていた。
絶対起こすな、とは言わない。そんなことは不可能だからだ。
今回の『安息所』側の参加者の内健太にとって意外だったのは、四人目の参加者だけである。
「あー、空亜っす。なおきゅんのパートナーやってまーす。よろ」
眠そうなとろんとした表情をしてもなお、人目をひきつけてやまない美貌と抜群スタイルを見せつけているのは、空亜だった。普通科の女子の制服をやけにだらしなく着ているのだが、それが「洗練された着崩し」に見えてしまうのはただひたすら素材の暴力である。
空亜が背負っているバックパックはひときわ大きく、その中には空亜お気に入りの特性『寝袋』も入っている。武器と呼べるものは一切見当たらない。
健太としては他の誰が参加しても彼女だけは参加しないと思っていた人物だ。
空亜といえば「『引き籠り』の鏡」とまで呼ばれるほどの出不精なのだ。普段、健太が主導している『安息所』の通常ダンジョンダイブでも出席率はダントツで一番低い。
一応今回の参加理由は「高レベルのレイドクエストは何日にも及ぶよ。なおきゅんのエッチはどうするの? 竹海が受け持ってくれるならそれでもいいけど」ということらしい。
それに対する竹海は「ご主人様の許可さえもらえれば、私は構わないけど」というものであり健太の答えは当然「駄目」の一言であった。
ついでに言えば竹海は「乙葉もいるんでしょ? 乙葉なら尚典くんが涙目で「もう我慢できないんです」って押せば「し、しょうがないわねえ」って相手してくれるよ」というアドバイスもくれたが、そちらもまずいだろう。
なんだかんだで乙葉も叶馬のパートナーの一人なのだ。そんなことで原作主人公と揉めるのはご免である。
ともあれ、そうして最後の打ち合わせを終えたところで、健太が待っていた人物が姿を現す。
白いセーラー服に一年を意味する襟章。小柄な体型で栗色のショートヘアの少女は、昨日健太が『護衛依頼』を担当した一年特級科の少女、佳乃である。
健太が依頼の報酬としても貰ったレイドクエストのログインポイント。そのポイントを登録して後から自由にログインできるように設定できるのは『文官』だけである。
これからダイブするレイドクエストのログインポイントを設定するために来てくれたのだが、健太としては多少以外ではある。護衛依頼を担当した華組女子三人のうち『文官』系は二人だった。
てっきりもう一人の『文官』桜子が来るものと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
『戦士の不動心』をオンにして待つ健太の前まで佳乃が歩いてくると、叶馬達全員だけでなく遠巻きにこちらを見ている野次馬達すら皆口を閉じていた。
だが、高貴なる者にとって衆目の視線など意に介するほどのものではないのか。
佳乃は健太だけを視界に収めて、花がほころぶように笑う。
「遅くなりました、健太様。お待たせして申し訳ございません」
「いえ、お約束の時刻より前ですのでお気になさらず。わざわざ御足労頂きありがとうございます、佳乃様」
そう堂々華組の女子と受け答えをする健太を多くの者は驚愕と興味の眼で見ている。とりわけ誠一はものすごい形相だ。空亜はちらりと見た後、馬鹿にするように一つ鼻を鳴らし、すぐに興味を失ったようにまた眠そうな表情にもどったが。
(これは後で説明しろ、言われるだろうな)と考えながら健太はてきぱきと予定通りに話を進める。
「こちらの準備は終わっております」
「分かりました。では…………」
健太の言葉を受けて佳乃は第伍門の前で両手を組み眼を瞑る。するとしばらくして、第伍門の様子に変化が訪れる。
だた、真っ暗闇を映すだけだった第伍門の中に青い光が立ち上り、その周囲の空間が歪んで見える。
「繋がりました」
眼を開いた佳乃は健太にだけ笑顔でそう伝えると、門の前から退く。
「ありがとうございます、佳乃様」
「御武運をお祈りしております、健太様」
下腹部で両手を重ねて恭しく頭を下げる佳乃から、視線を叶馬達に向けて健太は告げる。
「それじゃ、行こうか。はぐれないようにみんなちゃんと掴まっていよう」
「……………………おう」
流石に今は追求する場ではないと理性を働かせた誠一はそう同意を示す。
第伍門によるレイドクエストのダイブも、ダイブするときの注意点は普段のダンジョンダイブと同じだ。
はぐれずにダイブしたければ、転送されるときに身体接触をしておくのが一番間違いがない。
『神匠騎士団』二十名に『安息所』の四名を加えた二十四名は、全員が数珠つなぎになるようにして接触した状態で転送の開始を待つ。
その時だった。
「わーい、美味しいお菓子の匂いなのだー」
聞き覚えのある少女の声と共に、デフォルメされた可愛らしい犬の着ぐるみを着た少女がこちらに飛びついてくる。
「駄目よ、彩日羅ちゃん!?」
血相を変えた中国拳法服姿の長身長髪の男子がそれを追いかけて来る。
それはAランク倶楽部『黒蜜』の部長『暴食』の彩日羅と、そのお目付け役にして御守り役の香瑠の二人だった。
彩日羅が飛びつく先は『菓子調理士』の芽龍だ。その大きなバックパックの中に入っている手作りお菓子の甘い匂いを嗅ぎつけたのだろう。
だが、飛びつく彩日羅を叶馬がインターセプトする。
「突然のジャンピングダイブはイエローカードかと」
「わー、なにするだー」
叶馬に襟首をつかまれた彩日羅が宙に浮いたまま、抗議の声を上げている。
この瞬間、叶馬は身体接触数珠繋ぎから離れていた。まるでその瞬間を見計らっていたかのように、第伍門の青い光がひと際強くなる。
「ふむ?」
「ん?」
「叶馬さん!!」
呑気に首を傾げる叶馬と彩日羅。血相を変えて必死に叶馬に手を伸ばす静香。
必死に伸ばす静香の指先が叶馬の手に僅かに触れた次の瞬間、転送は始まった。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、特異分界『深淵の悪魔』――
――様式『伝承』、※時空圧差『壱:漆』――
――※Option Intercept『軍戦式』Adjustment――
――※Model『煉獄』――
――※Confine『24時間/168時間』――
健太の記憶通りであれば『白鯨』レイドは『伝承』レイドである。
『王権』、『付喪』、『根源』、『伝承』、『侵略』と五つに大別されるレイドでも『伝承』はある種特別な厄介さを含んだレイドとして知られている。
それは、他の四種類は基本的に攻略に必要なのは何はさておいても戦闘力なのに対し、『伝承』だけは強さより先の大前提に「知識」が求められるからだ。
『伝承』はその名の通り、何らかの伝承――物語、言い伝えがコアとなってレイドを形成している。
そして、物語の通りにイベントをおこしていかなければ物語は進まない、レイドは攻略できないのだ。
この『白鯨』レイドもその例外ではない。
世界十大小説の一つに数えられる『白鯨』。その物語をなぞり、ストーリーを進める必要がある。
そのために必要なのは戦闘力ではない。『白鯨』という小説の知識である。
『白鯨』を知らなければ、どれほどの戦闘力を有していてもレイド攻略は事実上不可能。
そして、原作では小説『白鯨』の知識を有しているのは静香ただ一人であった。
原作では、彩日羅(と香瑠)というハプニング参加者のせいで、叶馬と彩日羅の二人が皆とはぐれて最初から白鯨の上――物語のラストシーンの空間に飛ばされていた。
そのため、叶馬は最後の白鯨を倒す戦闘シーンまで合流することが出来ず、レイド攻略は叶馬を除いた形で進むのである。
唯一、『白鯨』の知識がある静香を中心に。
乱入者というハプニングがあったため無事とは言い難いがどうにかレイド空間にログインした健太は、すぐさま周囲を確認する。
そこは海岸沿いの高台だった。真っ先に目に入るのは高台に建っている古ぼけた灯台だ。高台の下は断崖絶壁になっており、前方には大海原が広がっている。
その断崖絶壁の下には古い帆船が座礁して半壊状態になっているのが見える。そして海岸線に沿って視線をずらしていくと、港町の姿がある。ここからでは詳しい町並みは見えないが、港の桟橋に停泊している船は大半が帆船であるように見える。
どうやら、健太自身は原作通りレイドの開始地点にログインすることが出来たようだ。それは健太だけではない。
「ええとここは?」「ひとまずレイドの中なのは間違いなさそうだな」「いきなりハプニングだね」「ちょっと予想外の始まり方かな」「なおきゅん、だっこ」
思い思いに言葉を紡ぐ多くの仲間達。ほとんどの者はこの場にいる。
元々予定していたレイド参加者は二十四人。
この場にいるのは二十三人。
「ごめんなさい。今更謝ってすむ話じゃないけれど、本当にごめんなさい」
しかし、そんな風に平身低頭に謝っている長身長髪の中国拳法胴着姿の美人男子――香瑠は予定にあった人間ではない。
つまり、本来いるべきなのにいないのは二人。
叶馬と静香。その二人の姿が見当たらない。
原作では、叶馬と乱入者である彩日羅だけが白鯨の上――物語の『ラストシーン』に隔離されていた。
だが、この世界では叶馬と彩日羅だけでなく、静香もいない。原作では唯一『白鯨』の内容を知っている静香が。
「なるほどな、こうズレたのか」
『戦士の不動心』がオンになっている健太は、本来であれば致命的であるはずのズレを理解して淡々と呟くのだった。