※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第百三十五話 誠一(せいいち)と香瑠(かおる)、健太(けんた)と尚典(なおふみ)

 

 

 

 吊るす糸が見える星型の星と不気味な笑顔を浮かべた三日月が夜空を彩る夜の時間。

 健太(けんた)と尚典(なおふみ)が潮吹き亭の一つのベッドで眠る頃、残されたメンバーは灯台跡に築いた拠点にした。

 

「どうぞ、鬼灯(ほおずき)先輩からの差し入れっす」

 

 灯台の外で見張りについていた香瑠(かおる)に、湯気の立つ金属製のカップを二つ持ってきた誠一(せいいち)はそう言って、左手に持っているカップを香瑠(かおる)に差し出す。

 

「あら、ありがとう。いただくわ」

 

 梅香(うめか)が造ってくれた木製の椅子に座って見張りを続けていた香瑠(かおる)は、受け取ったカップから立ち上るハーブティの匂いに表情を緩めながら、それを口にする。

 長身長髪の整った顔立ちのため、そうした仕草一つ一つが非常に絵になる香瑠(かおる)である。

 

「見張りは俺が引き継ぐんで、先輩は中で休んでいてください」

 

 誠一(せいいち)の言葉に香瑠(かおる)は少し遠慮するように答える。

 

「そこまで信用してもらえるのは嬉しいのだけれど、本当に良いの? 今、中には女の子しかないのでしょう?」

 

 香瑠(かおる)の言う通り、元々ここ灯台跡拠点には男子が健太(けんた)、誠一(せいいち)、尚典(なおふみ)、そして(体だけならば)香瑠(かおる)の四人しかいなかった。

 その中から健太(けんた)と尚典(なおふみ)が二人で偵察に向い、誠一(せいいち)が夜の見張りを交代するとなれば、中にいる男は香瑠(かおる)だけになる。

 だが、そんな香瑠(かおる)の言葉に誠一(せいいち)は一瞬虚を突かれた顔をすると、ポリポリと人差し指で頬を掻く。

 

「ああ、正直先輩に関してはそちらの心配は全くしてなかったっす。

 先輩、多分俺の『お仲間』ですよね? 叶馬(とうま)と彩日羅(あすら)先輩が『お仲間』なのと同じ感じで」

 

 あえて香瑠(かおる)の方を視ず、夜の海に視線を向けたままそう漏らす誠一(せいいち)の言葉に、香瑠(かおる)は一瞬その均整の取れた体を震わせたが、それ以上の反応は見せなかった。

 

「っ……そう、叶馬(とうま)君もあれだけの子だものね。誰かがついているのは必然か」

 

 特級科に子息を通わせるような名門の家は、普通科にも自分たちの息のかかった人材――草を忍ばせている。

 それらの草の役割の一つとして、暴走しやすく暴走した時に学園が無視できないような被害をおこしうる人間――すなわち一部のGR職(クラス)の見張りと、いざという時殺してでも止める役目を仰せつかっている者がいる。

 

 危険視されているGR職(クラス)が叶馬(とうま)と彩日羅(あすら)、その傍に忍ばされている草が誠一(せいいち)と香瑠(かおる)である。

 もっとも誠一(せいいち)は内心ではとっくに実家ではなく叶馬(とうま)を選ぶことを決めているし、香瑠(かおる)もかなり彩日羅(あすら)にほだされているのだが。そう言う意味でも誠一(せいいち)と香瑠(かおる)は「お仲間」と言えるのかもしれない。

 

「そうなると、健太(けんた)くんも「お仲間」なのかしら?」

 

 香瑠(かおる)の問いに誠一(せいいち)は返答を詰まらせる。

 

「あー、あいつは正味な話マジで全く正体不明っす。こっちの「お仲間」な感じもするしあっちの「お仲間」だと言われても納得いくっつうか」

 

 誠一(せいいち)のいうこっちのお仲間というのは名門の家が放った草、あっちの「お仲間」というのは野生のGR職(クラス)のことを刺す。

 誠一(せいいち)から見る健太(けんた)は今なお「どこまでも謎の存在」だ。

 その言動は明らかに、一般的な普通科生徒のそれではない。

 普通科生徒ならば知らないはずのことを知りすぎているし、それ以外の行動に関しても「普通は知られていないはずの情報をもとに下した判断」が明らかに見受けられる。

 だがそれだけでどこぞの草と見なすには迂闊な言動も多い。いくら探っても背後が見えない。なにより、やることなすこと全てが「叶馬(とうま)のため」であることが見え透いている。

 ならば叶馬(とうま)に目をつけている名門の家があるのかと調べれば、こちらも背後はゼロ。

 

 さらに追加でこのレイドにダイブする直前、華組の女子が公衆の面前で健太(けんた)に滅茶苦茶丁寧な対応をしていてた。

 だから逆に草とは思えない。

 誠一(せいいち)も未だ異母兄である徹朗(てつろう)会長には定期的に連絡を入れさせられているが、その動きは絶対に他者にばれないように注意している。

 一方健太(けんた)は午前の授業中の時間帯とはいえ、羅城門前の普通科生の耳目が複数ある中で、華組の一年女子と堂々と会話を交わしていた。

 しかも、あの華組一年女子の態度は明らかに普通科男子に対する態度ではなかった。同格の特級科の男子か、下手をすると自分よりも目上の男子を敬う時のような口調と態度だった。

 誠一(せいいち)からすると健太(けんた)は、何もかもが謎の存在である。直接相対すると決して分かりづらい人間性でもないし、腹芸が上手い質にも思えないのに、能力の出所もバックもなんだったら目的もいくら調べてもなにも判明しない。

 今回の華組の一年女子との関係からひょっとすると健太のバックが判明するかもしれない、と多少期待してしまった誠一だ。

 もっとも誠一(せいいち)は特級科に関してはあまり探ることが出来ない。

 特級科で一番権力があるのは異母兄である徹朗(てつろう)会長だ。内心で徹朗(てつろう)会長及び実家と縁を切り、面従腹背(めんじゅうふくはい)を決めている誠一(せいいち)が特級科周辺で下手な動きは出来ない。

 誠一(せいいち)は綾小路(あやのこうじ)家が学園に忍ばせている草を自分以外に知らないが、綾小路家が放っている誠一(せいいち)以外の草が全員誠一(せいいち)の素性を知らされていないと考えるのは楽観が過ぎるというものだ。

 そんな誠一(せいいち)が徹朗(てつろう)会長の命令でもないのに、むやみに特級科生徒の周囲を探っていて万が一にもそうした実家の草に見咎められれば、相当厄介なことになる。

 それを理解している誠一(せいいち)は、特級科周辺の情報収集は基本やっていなかった。

 

「そう。彩日羅(あすら)ちゃんは叶馬(とうま)くんは「お仲間」、健太(けんた)くんは「お仲間じゃない」と言っていたわね」

 

 香瑠(かおる)は思い出しながらそう言う。

 それは彩日羅(あすら)が叶馬(とうま)、健太(けんた)に会ったときの第一印象であり、倶楽部対抗戦で叶馬(とうま)と健太(けんた)の直接対決を見た時にもその意見は変わらなかった。

 それなのに健太(けんた)が叶馬(とうま)と正面から殴り合っていたことには流石に首をかしげていたが。

 

「結局健太(けんた)は、誰から見ても謎のままか」

 

 誠一(せいいち)はため息をつく。叶馬(とうま)は「訳が分からない」と最初から匙を投げるしかないが、健太(けんた)はなまじ「こいつなにかある」と思わせる言動ばかり取るので裏を探りたくなる。一件本人もそこまで底が深い人間にも見えないから猶更だ。だが、いくら調べても見つからない。

 隠されているのか、本当にないのかすら分からない。

 

「彼の存在はあなたにとってマイナスになっている?」

 

 唐突にも思える香瑠(かおる)のその言葉に誠一(せいいち)は少し時間をかけて思い返した後、首を横に振る。

 

「いえ、それはないっすね」

 

 どれだけ思い返しても健太(けんた)の言動が誠一(せいいち)の、正確には叶馬(とうま)パーティーの不利益となったことはない。トータルで大きくプラスという意味ではない。健太(けんた)が叶馬(とうま)達に対してとった一つ一つの言動を個別に上げてもマイナスになったことは思いつかないのだ。

 まあ、ハゲヅラバディの活躍とか胡散臭い補習レイド行とか、瞬間的なメンタルダメージを寄越すことはまれにあるが。

 

 誠一(せいいち)の回答に香瑠(かおる)は綺麗な笑みを浮かべる。

 

「それなら気にしないことね。この学園で生活していると訳が分からないことが起こるのが日常よ。自分の不利益になる、放っておくと破滅に繋がる謎や理不尽に対処するだけでも大変なのだから、プラスに働く謎まで気にしてたら心があふれちゃうわ」

 

「っす、御忠告ありがとうございます」

 

 先輩の重みのある言葉に誠一(せいいち)は姿勢を出して一礼する。

 

 その時だった。

 吊るす糸が見える星空に大きな暗幕が一瞬にして張られ、また次の瞬間にはその暗幕が開く。

 すると、辺りは一瞬で昼間になった。

 

「先輩、これは?」

 

 とっさに腰から短剣を抜いて構える誠一(せいいち)に、香瑠(かおる)は椅子に座ったまま落ち着いた声で答える。

 

「ただ昼になっただけじゃない。多分だけど、『シナリオが進んだ』のだと思われるわ。健太(けんた)くんと尚典(なおふみ)くんがうまくやっているのね」

 

 明らかにただ昼と夜が入れ替わっただけではない。暗幕の開閉という見た目だけでなく、なんとなく体感でも世界が進んだという実感がある。

 だから、素直に香瑠(かおる)の言葉を信じた誠一(せいいち)は短剣を腰の鞘に戻しながら、香瑠(かおる)に尋ねる。

 

「あいつらが進んで俺たちは大丈夫なんすかね。健太(けんた)の残した覚書だとこの後『白鯨』の主人公は別な町に移動するらしいけど」

 

 健太(けんた)と尚典(なおふみ)という原作最有力候補『白鯨』の既読者二人がそろって偵察に出る関係上、健太(けんた)は『白鯨』のあらすじを簡潔に記して、ここ灯台跡拠点に残してきている。

 健太(けんた)と尚典(なおふみ)が港町で情報収集を終えた後、可能であれば一度こちらに戻って情報の共有をする手はずになっているが、ここはレイド内だ。何らかの都合で合流できない可能性も十分あると考え、健太(けんた)は小説『白鯨』のあらすじの紙に書いて残してきたのだ。

『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』に原文を落している健太(けんた)は、その気になれば丸ごと全て書き記すことも出来たのだが、それは流石に時間がかかるし(『書記(レコーダー)』の職(クラス)を取っていれば話は別だったのだが)、読んで理解する方も大変だ。

 それならば、重要なポイントだけを抽出したあらすじを残した方がよい。細かな情報が抜けるのはこの場合仕方がない。

 原作で静香が言っていた通り、『白鯨』は本の厚さの割に物語部分は非常に短いのだ。多くは、捕鯨に関する蘊蓄(うんちく)と当時の価値観に基づく作者メルヴィルの思想、主張である。

 

「今の体感からすると大丈夫よ。私達も一緒に進んでいる。そもそもイレギュラーで最初から他のシーンに飛ばされるのならともかく、こうして正当に最初のステージに入った者はトリガーを踏んだ本人じゃなくても次のステージに以降出来るケースが多いわ」

 

「なるほど。まあ、そうじゃないと蜜柑(みかん)ちゃん先輩達の苦労が水の泡っすからね」

 

 そう言う誠一(せいいち)の視線は自然と海岸に上陸している木造帆船に向かう。

 それは、それは昨日までは岸壁近くで座礁していた船だ。

 蜜柑(みかん)達はその廃船を引き上げて修理、改造、増強、進化させる予定を立てている。

 その座礁船はちょうど健太(けんた)が乗船予約を取ったモス号と同じ、スクーナーと呼ばれる小型の帆船だ。

 もちろん、小型の帆船とはいっても浅瀬で座礁しているそれを陸まで引き上げるのは本来容易いことではない。

 だが、蜜柑(みかん)達旧『匠工房(アデプトワーカーズ)』の『職人(クラフター)』が十二体の『強化外装骨格(アームドゴーレム)』を使えばそこまで難しい話ではない。

 

 座礁船を陸に引き上げるのにコロとして使った均一な丸太のような物やそのコロの下と上に乗せる真っすぐで頑丈な板、そして座礁船と『強化外装骨格(アームドゴーレム)』を繋ぐ太くて頑丈なロープなどは出立前に健太(けんた)が『素材製造士(マテリアルメーカー)』のスキルで用意した。

 原材料は砂浜の砂やそこらへんに生えている雑草である。

 流石に香瑠(かおる)の見ていないところでやったのだが、それ以外の視線には全く気を配っていたなかったので誠一(せいいち)もその現場を目の当たりにしている。

 普通に『強化外装骨格(アームドゴーレム)』のビッグジャイアントも召喚してバリバリ蜜柑(みかん)達と一緒に物作りに励んでいた健太(けんた)を見て、誠一(せいいち)は顎が外れそうなくらいに驚いていた。

 そんな誠一(せいいち)を見て健太(けんた)は「まだ誰も知らせていなかったのか」とちょっと驚いた。

 他にも健太(けんた)は流れ着いている流木やそこら辺の木などから船を修復するための木材、砂から窓ガラス用の珪砂や動力炉用の鉄のインゴット、雑草や木材チップから作成した紙なども蜜柑達に渡してある。

 

 原作ではこの座礁船は『機関士(エンジニア)』の柿音(かきね)と『錬金士(アルケミスト)』の智絵理(ちえり)が主導し、主動力『クリスタルスチームエンジン』の全長十メートルほどの外輪船、その名も『ネオピークォド号』となる。

 しかし、この世界では健太(けんた)という大量の素材を素早く提供できる『素材製造士(マテリアルメーカー)』がいること、そして健太(けんた)、尚典(なおふみ)、竹海(たけみ)、空亜(あくあ)と原作よりも人数が増えていることが合わさって、設計の段階から一回り大きくより高性能、多機能な船となることが定められていた。

 最大の違いは質の良い鉄(鉄インゴットを用途に応じた最適な鋼とすることは『鍛冶士(ブラックスミス)』の蜜柑(みかん)ならばお手の物)が大量にあることと、瘴気さえあれば無限に水を用意できる水天の梵字『バ』を刻んだ金属片の提供によりクリスタルスチームエンジン』が最初から予定したよりずっと大出力と安定性が保障されたことだろう。

 設計柿音(かきね)、製造健太(けんた)の金剛石(ダイヤモンド)半導体を用いたクリスタルニューロコンピュータの試作機を搭載する予定となっている。

 コンピュータ言語にも極めて精通している柿音(かきね)の助けを借りて健太(けんた)が『文字魔術士(ルーンウィザード)』の力で作成したハベッジ式機械語(パンチカード)を読み込ませることで、各種必殺技も発動可能になる予定だ。

 

 原作で後(のち)に柿音(かきね)と智絵理(ちえり)が作成する蜘蛛型人造モンスターのことを考えれば健太(けんた)としても「やりすぎかも」と思わないでもなかったが、レイドのラスボスが『白鯨(モビィディック)』(階位217、存在強度☆☆☆)から『白鯨(レヴィアタン・メルヴィ)』(階位317、存在強度☆☆★)に変更されているのだ。

 味方の強化はどれだけやってもやりすぎとということはない、と健太は判断した。

 

「ほんとビックリね。失礼だけど『職人(クラフター)』がレイドだとこんなに頼もしいだなんて思ってもみなかった。私もまだまだね」

 

 灯台跡拠点から早速元気に飛び出してくる蜜柑(みかん)達を見る、香瑠(かおる)の眼は優しく細められていた。

 

 

 

 

 

 

 潮吹き亭の一つのベッドで目を覚ました健太(けんた)と尚典(なおふみ)は、すぐに起き上がると気まずさを振り払うように半笑いを浮かべながら離れる。

 元々一人用のベッドだ。狭いことは間違いないのだが、それでも節度を持った距離で寝たはずなのに目を覚ますと、お互いの腕を枕にして、毛布の下で足と足が絡み合っていた。

 その寝姿は原作『白鯨』のメルヴィルとクイークェグの描写そのままなのがわが身に降りかかると意外と笑えない、もしくは笑うしかない距離感である。

 しかし、レイドクエスト中にそんな些事にいつまでもかまけていることも出来ない。

 素早く着替えを済ませた健太(けんた)と尚典(なおふみ)は、潮吹き亭の食堂で昼食を取り、早速レイド攻略に動き出した。

 

 

 

「昨日のうちに『捕鯨者教会』の場所は確認してある。小説通りだとすれば、今日まず最初に訪れるのはそこだな」

 

 昼食を済ませて部屋に戻った健太(けんた)は、同じベッドの隣に座る尚典(なおふみ)にそう話し始める。

 

「そうだね。ニューベッドフォードでの大きな出来事は『捕鯨者教会』で説教を聞くくらいだと思う。その後はモス号に乗ってナンタケット島行きかな」

 

「モス号も見つけてあるぞ。話も通っている。俺は荷持つの上げ下ろしの臨時雇いを乗船許可プラス2ドルで受けた。お客様扱いなら2ドル、荷物扱いなら1ドルで乗せてもらえる」

 

 健太(けんた)の返答に尚典(なおふみ)はその可愛らしい顔がさらに魅力的に見える笑顔を浮かべ、

 

「流石、健太(けんた)。うん、それなら僕はお客様で良いかな。ほら、見て」

 

 そう言うと制服のポケットから大きな革製の財布のような物を取り出した。

 それは煙草(タバコ)入れだった。中には刻んだ煙草(タバコ)の葉が入っているため、蓋を開いた瞬間部屋の中に煙草(タバコ)の臭いが広がる。

 その煙草(タバコ)の葉を尚典(なおふみ)が細い指で避けると煙草(タバコ)の入れの底から銀貨が姿を現す。

 一ドル銀貨だ。その数はおおよそ三十枚。つまり三十ドル。

 物の価値があまりに違うので単純換算は出来ないが、現代日本ではおおよそ二十万円弱くらいだろうか。

 

「あー、そう言えばクイークェグが煙草(タバコ)入れから一ドル銀貨をジャラジャラ取り出すシーンがあったな。俺は自分の持ち物だけで『イシュメールの装備』は何もなかったけど、そっちは『クイークェグの装備』が追加されてたのか」

 

「イシュメールの健太(けんた)は最初から動けたけど、クイークェグの僕は夜の潮吹き亭からの登場だからね。その分の埋め合わせなのかな?」

 

 健太(けんた)の言葉にそんな推測を述べながら、尚典(なおふみ)は三十枚の銀貨で二つの銀貨タワーを築き、キッチリ二等分した片方を健太(けんた)に押し付ける。

 

「はい、これ」

 

「ああ、そうだったな。一応ここはなぞっておいた方が良いか」

 

 健太(けんた)もそう言って素直に十五枚の一ドル銀貨を受け取る。

 原作『白鯨』でもイシュメールと友好を結んだクイークェグはこうして自分の持っている金の半分を会ったばかりの友人に分け与えているのだ。

 クイークェグという未開民族の酋長家出身者のどこか超越した価値観と高潔さを表す描写の一つにすぎず、尚典(なおふみ)がこの行為を行わなかったからレイド攻略が滞(とどこお)るとも思えない。

 それでもわざわざやるのは、ひょっとすると尚典(なおふみ)は健太(けんた)と自分が「イシュメールとクイークェグ」を演じることを楽しんでいるのかもしれない。

 

 健太(けんた)は十五枚の銀貨を数えながら、昨日稼いだ五十シリング銀貨他小銭を入れている革袋に一枚ずつ仕舞っていく。

 銀貨とはいっても、普段使いの通貨として使用されている銀貨はあまり銀色をしていない。多くはくすんだ灰色と黒の中間ぐらいの色をしている。

 だがそんな黒ずんだ銀貨の中、一枚だけピカピカに輝く正真正銘銀色の銀貨がある。

 まるでたった今造幣局で打ち出されたばかりのような輝きだ。

 

 その輝きに何となく、鷲掴みにする気になれなかった健太(けんた)は人差し指と親指でそっとピカピカの銀貨の縁を掴む。

 

「どうしたの、健太(けんた)? わあ、凄い綺麗だね」

 

 健太(けんた)の手元を見た尚典(なおふみ)もその元から大きな瞳をより一層大きく丸く見開いて、驚きを露わにする。その驚き方から察するにどうやら尚典(なおふみ)は『クイークェグの煙草(タバコ)入れ』にこのひと際輝く銀貨が入っていることを今まで知らなかったようだ。

 

「《凝視》」

 

 健太(けんた)はこっそり『浄魔士(ゴーストイレイザー)』のスキル『浄視(パラノーマル・ヴィジョン)』を発動させてその銀貨を見る。

 すると、その銀貨の周囲に銀貨本来の輝きがかすんで見えるほどの白色光が見える。

 なにかある。健太はそう確信した。

 ただの銀貨ではない。『浄視(パラノーマル・ヴィジョン』)』で美しく見えるということは悪いものではない。詳しいことは不明が、それは確かだ。

 

「健太(けんた)?」

 

「これはお前が持ってろ、尚典(なおふみ)」

 

 漠然とだが何かを感じた健太(けんた)は、その1804と刻印されたピカピカの1ドル銀貨を尚典(なおふみ)に返した。

 

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