――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『
ダンジョンの広い玄室で、戦闘が行われていた。
十匹を超えるゴブリンの前に立ちふさがるのは、全長三メートル強の鉄の巨人。
分厚く丸みを帯びた胴体に、太い手足。頭頂部より大きく盛り上がった両肩。その全てが武骨な鉄色で、いかにも鈍重そうで、いかにも頑丈そうだ。
そして、その戦闘方法は、そんな見た目を全く裏切らないものだった。
「ギィ!」
「シギャア!」
「ゴゲエ!」
ゴブリン達の、槍、剣、こん棒、素手、いかなる攻撃も一切防御行動はとらずにその身で受け、固く握った拳を上から下に振り下ろす。
「ゴベッ!?」
空手で『鉄槌』と呼ばれる、拳を縦に振り下ろすその一撃を、頭上から食らったゴブリンは、水袋が破裂するようなベチャリという異音を残し、爆砕した。
「ヒギッ」
怯んだゴブリン達は、なんとか鉄の巨人を迂回して玄室の出口を目指すが、そこに巨人の陰から赤い光弾が襲い掛かる。
「ギャ!?」
光弾を頭部に食らったゴブリンは即座に炎上し、絶命した。
「ヒギ」
足を止めるゴブリン達に襲い掛かる、見事な槍を持った大柄なゴブリン。
「フン!」
「ヒギャア!」
「モゲェ……」
「アベェ!」
大柄なゴブリンが槍を一振り、一突き、一薙ぎする度、ゴブリン達は一匹ずつ仕留められていく。
十匹を超えるゴブリンの群れが全滅するまで、さほどの時間はかからなかった。
「もう、この辺りのゴブリンならジュゲムの敵じゃないな。ジュゲム、凄いぞ」
戦闘に勝利した健太は、使役モンスターであるジュゲムを褒める。
「イギ」
ゴブリン
「しかし、『
『
『
現在の健太は、『ノービス』10+『
あれから、『文官』を20レベルに上げ、『職人』に転職し、その『職人』も20レベルにして、現在は『術士』のレベルを上げている。
先ほど最前線で猛威を振るっていたのは、その『職人』の基本スキルである『
『強化外装骨格』は、自分の
ロボットの操縦方法は三つ。自分が乗り込んで内部から操縦、乗り込まずに外部から操縦、そして音声で命令する半自動操縦だ。前ほど思い通りに操縦が可能で、後ろほどアバウトになる。
先ほどまで戦っていた健太の『強化外装骨格』――『ビッグジャイアント』は、三番目の半自動操縦だった。
「その場から動くな。近づく敵を殴れ」。その二つの命令を忠実に守った『ビッグジャイアント』は、見た目通りの分厚い装甲でゴブリンの攻撃を歯牙にもかけず、頭上から振り下ろす巨大な拳で、ゴブリン達を潰していった。
ちなみに『ビッグジャイアント』という名前は、健太が自分の『強化外装骨格』を見た時に連想した、二つのロボットアニメのロボット名から来ている。なんか意味がダブっている気がするが、もう一つの候補である『オーロボ』よりは良いだろう。
好感触だった『職人』のスキルに比べ、思ったより使いづらかったのが『
一匹のゴブリンを丸焼けにしたのは、健太が使った『
SPを
思っていたよりもずっと難しい。その上、一発でSPも随分と減った感触がある。
『文官』の『具象化』や『職人』の『強化外装骨格』のような長時間具現化するタイプのスキルと比べれば流石に少ないが、『
「これを
思わず、健太の口からそんな言葉が漏れる。
実際、魔法という未知の技能はそれくらい難しかった。『術士』の
健太が言っているように、原作で、いきなり自由自在に魔力を炎に変質させ、思うがままに動かして見せた麻衣は、確かに尋常な才能ではない。第一段階の『術士』を飛ばして、いきなり第二段階の『
無論それは、術士して天才、感覚が天才的という意味であり、頭脳が天才なわけではない。
いずれにせよ、天才ではない健太が『術士』のスキルを使いこなせるようになるには、反復練習を繰り返すに限る。問題は『術士』のスキルは、消費SPが大きいという点だ。
SPは、全身を守るバリアであり、あらゆる意味で身体能力を上げるブースターであり、枯渇すれば死ぬ生命力そのものでもある。やみくもに消費して良いものではない。
幸いなのは『術士』となったことで、SPの自然回復量が激増していることだ。原作の
瘴気濃度の濃いダンジョン内では、元々SPの回復は早まるので、途中休み休み戦闘を繰り返せば、『術士』としての経験を積んでいくことも不可能ではない。
「時間か。……今の俺なら大丈夫か?」
『
二日に一回のダンジョンダイブ。すべてソロでのダイブだったが、慎重な行動に終始したこともあり、ピンチに陥ったことは一度もない。第一段階職業だが、何重にも重なっている今の健太にとって、この辺りのゴブリンなど、居眠りをしているところを攻撃されても、SPバリアで防げるくらいの敵でしかない。
さらに、『文官』の『
なぜならば、ゴブリンは必ず三匹以上の群れを成しているのに対し、健太が警戒する『
ゴブリンヒーローはともかく、ゴブリンキングとゴブリンロードが単独行動なのは少し疑問を感じるところだが、こちらとしては助かる習性であることは確かだ。
そうした、現在の自分の置かれている状況を冷静に判断して、健太は判断を下す。
「そろそろ使うか。三つ目のチート能力」
そう自分に言い聞かせた健太は、『強化外装骨格』のビッグジャイアントを消し、ジュゲムを『モンスターカード』に戻した。と同時に床に転がるジュゲムに渡していた、『
自分ひとりになったところで、健太は左手首に嵌めている腕時計で時間を確認する。現在時刻は午後4時47分。今日は午後2時からダイブしているから、そろそろ3時間になる。それでも、傷は一つも負っていないし、『
ダンジョンダイブ開始から、ずっとオンにしていた『
確信の持てた健太は、玄室で油断なく周囲に気を配ったまま、心の中で呟く。
(《時間軸逆走、一時間》)
次の瞬間、健太はダンジョン内の全く別の場所にいた。
そこは先ほどまでいた広い玄室ではなく、モンスターの気配が感じられない静かな通路。
「よし、恐らくはうまくいった」
そう呟きながら、すぐに健太は腕時計で現在時刻を、『
現在時刻、午後3時47分。現在地は、『
「問題なく、戻ってこれたようだな」
健太は、始めてつかった第三のチート能力が、問題なく作動したことを確認した。
第三のチート能力。その名は『
効果は健太一人を過去に戻すこと。ただし、制限は非常に多い。
まず第一に、出来ることは過去に戻ることだけで、未来に進めることは出来ない。
その過去も、「健太が知るこの世界」の時間に限られるため、最大戻せて「健太が
『
つまり、今の状態を例に挙げると、これから健太が一時間かけてダンジョン内を、さっきとは全然別な方向に移動したとしても、午後4時47分になった時点で、健太は『
その一時間の間に、どれほどドロップアイテムを拾っていたとしても、それもなくなる。『
持ち帰ることができるのは、経験と記憶だけ。一時間の間に上がったレベルはそのまま。
レベルは上げられるが、資金を増やしたり、アイテムをコンプリートしたりは出来ない。最終的には、元の時間軸に戻るのだから、「過去に戻ってやり直す」という使い方も出来ない。
その名の通り『
使用回数に制限はないため、健太がその気になれば、一日で現在健太が
「さて、始めるか。《出番だ。ジュゲム》」
「ギイ!」
カードから召喚され、元気に返事をするゴブリン
ジュゲムはカード化したときに持っている自分本来の槍を床に捨て、健太に教えられた通り、『小剣』を腰に吊るし、『盾』を左腕に嵌め、『槍』を両手で持つ。
『
「よし、行くぞ」
「グゲッ!」
健太は、召喚モンスターのジュゲムだけを供に、レベル上げのダンジョンダイブを再開するのだった。何度も、何度も、同じ時間を。
この日の午後5時。『羅城門』ダンジョンから無事生還した健太の状態は、ノービス』10+『
なお、ジュゲムはゴブリン
健太の目論見通り、ゴブリン