ダンジョンダイブを始めた初期の
足を止めて、敵をひきつけ、左腕の丸盾で相手の攻撃をいなして体勢を崩し、そこにすかさず右手の小剣で攻撃を加えるスタイル。
これは、当初は『
『盾術』はもちろんのこと、『片手剣術』の講師も『
結果、健太が現在習得している戦闘スタイルは、戦士系、それも騎士系のガチタンクのそれになっていた。
「《来い》!」
健太の力ある『言葉』に、四匹のゴブリン達は抗えず、健太に攻撃を仕掛ける。
「ギヒッ!」
「グヘッ!」
「ホギャア!」
「ノゲエ!」
身長が一メートル程度しかないゴブリンの攻撃は、人間にとって低い。縦長な長方形盾や、五角形の盾ならばともかく、健太がつけているような腕に装着するタイプの小型丸盾で、防ぐのにはコツと技術がいる。
幸いこの学園で教える盾術は、最初にゴブリン、コボルトを相手にすることを前提にしているため、基本的な対人戦の盾の使い方より優先的に、そうした武器を持った小型種を相手取る盾の使い方について、教わる。
健太は、深めに腰を下ろし、講師に教わった『下に腕を伸ばしても力が入りやすい体勢』を作り、ゴブリン達の攻撃をはじき返す。
攻撃をはじかれ、体制の崩れたゴブリンに、右手に持つ小剣を振り下ろす。
「ヒギッ!」
多対一の時は、複数を同時に相手取らないように細かく立ち位置を変える、というのが本来のセオリーらしいが、純タンク系の『盾術』の講師は、「俺はそれをやらない」と言っていた。
タンク役は、味方を守るために立ち位置を動かすことはあっても、自分の身を守るために立ち位置を変えてはいけない、というのが『盾術』講師の主張だ。自分が避けて味方が傷つくのは、タンクにとっては恥、らしい。
ちなみに『盾術』講師は現役時代、そうやって身を挺して味方を守り、攻撃は主に術士系の『オナホ女』に任せていたらしい。
「後で、『オナホ女』のSPを回復させてやるために、出来るだけスキルを使わずにタンクの役割を果たせるようになった」と言っていた。基本的にSPを消耗した女にセックスで中出しをしてやれば、男のSPが減り、代わりに女のSPがチャージされる。
裏技として、結合状態で『オナホ女』の魔法でモンスターを倒せば、経験値は半分こっちにも流れてくるそうだ。
その辺りの裏技は、あいにく健太には無縁だが、基本的な『盾術』についても、ちゃんと教えてくれるので問題はない。
その後、健太は、ゴブリン達の攻撃をすべて盾でしのぎ切り、隙を見て小剣を振るうだけで、全てのゴブリンを屠りさった。
「……まあ、こんな感じだ」
数秒の残身の後、後ろを振りむいた健太は、後ろで見ていた四人――
「おお、大したもんだな。強ええ、強ええ」
「健くん、やるじゃん。ちょっと地味だけど」
パチパチと拍手をする誠一と、大きな声で一言余計な誉め言葉をかけてくれる麻衣に、健太は苦笑を返す。
「地味って、まあ俺は『
まずはお互いの腕を見せあう。
そんな提案から、まずはゲストからということで、健太が先陣を切り、単独でのゴブリン退治を披露したのだ。
「いや、マジで強いぜ、健太。これは俺もうかうかしてられねえな」
笑いながら、そう言う誠一の目には、警戒の色が隠れている。
健太は今『
元々、『
『戦士』は『盗賊』に強く、『盗賊』は『術士』に強く、『術士』は『戦士』に強い。系列のレア職を入れれば例外はいくらでもあるが、基本的にはそうした傾向があることが確かだ。
それにのっとって考えれば、『戦士』の健太が、『盗賊』の誠一に有利なのは一見おかしくはない。
だが、それはあくまでレベルが近い者同士の話だ。実際の誠一は、『
それなのに、誠一は健太を相手どれば、「自分が不利」と感じている。第一段階職の『戦士』に第二段階職の『忍者』が負ける。絶対にないとまでは言えないが、かなりのレアケースのはずである。
(まあ、手の内を隠すのは当たりまえだからな。後で叶馬に聞いてみるか)
叶馬には『
問題があるとすれば、叶馬は明らかに健太を仲間として扱っていることだ。ひょっとすると、健太に配慮して本当のことを教えてくれないかもしれない。
ともあれ、それならば今はこちらも手の内を明かさない方が良い。
「よし、それじゃ次に行くか。次は俺で、その次は麻衣。最後は叶馬な」
そう言いながら、麻衣を捕まえてこっそり伝える。あまり、派手にやるな。攻撃は『
そっちを見るな。バレるだろう。そんな言いたい言葉を飲み込んだ誠一は、ポンと麻衣の尻を強めに叩いた。
先ほどとは比べ物にならないくらい広い玄室で、叶馬達パーティーは次の戦闘に身を投じていた。
「ほい、これでラスト、っと!」
素早い動きでゴブリン達を翻弄する誠一が、その両手に一本ずつ持つトレンチナイフで、ゴブリンの首を掻き切る。これで三匹目。一匹目と二匹目のゴブリンも、同じように素早い動きで死角に潜り込み、首を掻き切ったのだが、二匹目のゴブリンなどまだクリスタルになっておらず、死体のままだ。
驚くべき早業である。
まだ、半分以上のゴブリンが残っている中、誠一はそれまでと同じ移動速度を維持したまま、仲間たちの元へと戻る。
左手のトレンチナイフを腰の鞘に仕舞った誠一は、待っている麻衣と左手同士をパチンと合わせる。
「はい、選手交代、いっきまーす。そーれ」
そう言って麻衣は、右手に持つマジックロッドを振ると、三筋の金光が流れる。極小に圧縮された『
まるで、SFに出てくるレーザー光線で打ち抜かれたように、三匹のゴブリンは、額から後頭部まで貫く穴を穿かれ、その場で崩れ落ちた。
残るゴブリンは四匹。
今までずっと我慢させられていた叶馬が、一気に襲い掛かる。
「ガアア!」
と気合一閃、ばかげて重い六角六尺棒を一振りすると、四匹中三匹のゴブリンがグジャリと交通事故にあったように爆砕する。
「ヒ……ギ……」
「ぬん!」
残る一匹は、真上から振り下ろす重い六角六尺棒の一撃で、雑に二つに割れた。切ったのではない。プリンやゼリーを長い箸で押しつぶして、無理矢理二つに分けたような、そんなスプラッタな撲殺死体である。
「さすがに、強いな。誠一も、麻衣さんも」
健太の言葉に、隣に控える誠一と麻衣も苦笑を隠せない。
「フォローを忘れねえでくれてありがとよ」
「まあ、叶馬くんと比べて強いと名乗るつもりはないから」
素早い動きでゴブリンを捌いた誠一も、まとめて三発の『
それにしても、と健太は考える。
今、誠一は『忍術』を一切使わず、第一段階職である『盗賊』のスキルだけで戦っていた。麻衣も『術士』の『魔弾』しか使っていなかった。原作通りならば、誠一は盗賊系第二段階職の『
向こうの出方を探る意味で、健太はわざと『
相手は、主人公とその仲間である主要キャラクター達。敵対するなどもってのほかだし、最終的には仲良くしたいところだが、今から距離を詰めすぎるのは、色々不味い。
まだ、主人公チームは初期の四人だけ。ここで下手に、自分という原作にない異物が混ざってしまうと、玉突き事故を起こして、本来原作で仲間になるはずの主要キャラが仲間にならなくなる可能性が出て来る。
ある程度は親交を深めつつも、向こうのパーティーには入らない。そのぐらいのスタンスが今は良いと、健太は考えている。
だから、あえて自分を過少報告して、「胸襟を開いてない」と悟らせるようにしたのだ。今のところ、その目論見は上手くいっている。
だが、ここには、そんな目論見を、歯牙にもかけない奴がいる。
「叶馬さん、拾ってきました」
「うむ」
静香が拾ってきたゴブリンのクリスタルを、叶馬はまとめてどこかに消し去る。
まあ、まだ目の錯覚と、言い張ることができるかもしれないレベルだ。
しかし、次の瞬間、長く太い金属棒――六角六尺棒を、スルスルと世界の切れ目のようなところに仕舞ったのは、流石に見なかったことにするは難しかった。
「バッ、叶馬!」
と誠一が焦っているので、予定通りの行動ではないことは間違いない。
「あー。目の錯覚ということにしても良いが?」
一応健太はそう提案するが、誠一はとても疲れた顔で首を横に振る。
「さすがに無理があんだろ……」
どう見ても普通ではないスキルを、臨時パーティーの前で披露してしまった当の叶馬は、何が悪かったのか全く分からず、首を傾げている。
「叶馬。俺は、お試し参加臨時メンバーでしかないんだが、そのスキルは俺の前で披露して良いやつだったのか?」
と、健太が分かりやすく叶馬の落ち度を指摘してやるが、叶馬は無表情のまま、もう一度逆の方向に首を傾げる。
「良いも何も『
「…………」
流石は原作主人公、叶馬。いとも簡単に健太の予想のはるか上空を超えた返答をしてくれる。
「なんで、俺は、知っていると、思った?」
「なぜって、そもそも……」
そこまで言って叶馬は、気づく。
叶馬が『
だが、それは全てダンジョンファーストダイブの時の話。その時、健太に命を助けられた叶馬は、その礼として「今日、ダンジョン内で俺と会ったことを、誰にも言わない」ことを健太と約束したのだ。
健太とダンジョン内で会ったことを誰にも言わずに、健太が叶馬の『情報閲覧』と『空間収納』について知っている理由を説明することは不可能だ。ちょっと考えてそれに気づいた叶馬は、おもむろに右手を上げると、
「すまん、俺の勘違いだった」
堂々と、果てしなく無理のあることを言ってのける。
「今更、遅い……」
叶馬は、健太の『