ここまで言ってしまった以上、もう何も説明しないのは無理がある。
ちょっと前までは、胡散臭い笑顔を浮かべていた誠一が、今は胡散臭い奴を見る目で健太を見ている。
一度は叶馬のすっとこどっこい発言で貫かれた『
感情を交えず、希望的観測を取り除き、状況を鑑みれば、このまま何も言わずにいる方が状況は悪化すると結論が出る。
叶馬にあの発言をさせてしまった以上、誠一、麻衣の二人にも――恐らく静香はすでに知っている――ファーストダイブで叶馬と健太の身に何があったか、教えるしかない。
その際、もう一度きつく、叶馬には自分が誰に何を知られたくないのか、細かく伝えておいた方がよさそうだ。
叶馬のトンチキは、大概周囲の人間をパニックか虚脱状態に陥らせ、その上でなぜか結果として状況を改善させるのだが、いざ自分がその周囲の人間になると、本当に頭が痛い。
逆を言えば、叶馬のトンチキが発動した以上、この流れに乗ったほうが恐らく良い方向に話は進む。
「叶馬」
「うむ?」
「お前の『
『
それを背中に感じながら、健太は叶馬の言葉を待つ。
「名称、……健太。クラス
「……それだけか?」
「それだけだ」
叶馬の返答に、健太は少し拍子抜けした。
これは健太の勘違いである。原作で、叶馬が微に入り細に入り、相手の情報を抜き取ることができるようになるのは、『
この時点での叶馬は、自分のパーティーメンバー以外は、名前とクラスとSP量しか読み取れない。
だが、何重にも重なっている第一段階
これならば、話はかなり楽になる。
「誠一」
「おう、なんだ?」
心の中で決断を下した健太に名前を呼ばれ、誠一は警戒を隠さずにそう答える。無意識のうちに、麻衣をかばうように立っているのは、誠一の性根の表れだろう。
「俺と叶馬は、ちょっと特殊な知り合いだ。それについて、俺が叶馬に口止めをしていた。叶馬と知り合いだったことというより、そこであった出来事について、出来るだけ人に知られたくなかったからな。叶馬がこれだけトンマをやらかしてくれた以上、お前と麻衣さんには事実を話す。
密談には、ダンジョンの中より向いた場所はないだろう。ただし、結構長い話になる。『
健太の提案に、誠一は少し考えて首肯する。
「良いだろう。ところで、俺と麻衣にって言うことは、静香は」
「はい。私はすでに叶馬さんから、事情を伺っています」
落ち着いた声でそう言う静香に、麻衣が驚きの声を上げる。
「えー、嘘? なんで、私教えてくれなかったの?」
「そういう約束でしたから」
静香は小さく笑うと、
「ですから、お話は健太さんと誠一さんにお任せします。私はいつも通り、叶馬さんのお相手を」
やおら叶馬に近づくと、叶馬の足元に膝をつき、ズボンのジッパーを引き下ろす。慣れた手つきで、引き出した叶馬のペニスは、すでにギンギンにいきり立っていた。
「静香。真面目な話があるときは、こういうのは後回しにした方がよいのではないか。それくらいは我慢できるぞ」
「私が我慢できないのです」
一応言葉では諫める(行動はまったく伴っていない)叶馬に、静香はそう言って、叶馬のペニスを片手でしごき、舌を這わせ始める。
誠一は頭を抱え、麻衣は「あはー」と楽し気な笑い声をあげる。だが、『
『
戦うことで『荒御霊』が強く出て来た後の叶馬は、セックスすることで『和御霊』を強化して、バランスを取る必要があるのだ。
ちなみに静香の「私が我慢できない」というのも、嘘ではない。自分の『
そもそも、ダンジョンセックスがあることも、その間は自分は見張りに回ることも、最初から約束のうちなのだから、今更どうこう言う話ではない。
「俺は玄室の入り口で見張りに立つ。後ろ向きでも、声は届くだろう」
逆を言えば、叶馬達がいたしている『声』も、健太の届くということである。
「……で、チャイムの音が聞こえてきた。最後に『商いの精霊』であるダンジョンショップの店長は名乗ったが、俺には名前は聞き取れなかった。おそらくは、叶馬だけが認められたのだろうな」
「あ、あ、あ、叶馬さん、もっと、もっと、いっぱい……」
「あ、いい、すごい、せーいち、いつもよりはげし……!」
玄室の入り口に背中を向けて立つ健太が、「ファーストダイブで自分と叶馬の身に何が起きていたのか」説明している間に、後ろから聞こえてくるのは、静香と麻衣、一年丙組のトップツー美少女の嬌声だ。
これは自分に特殊な性癖が芽生えるのでは? とそんな心配を一瞬してしまった健太だが、今は『
健太が説明を終えてから、ほどなくして、玄室の中の二組の男女も終わりを迎える。
「あ、ああ、いい。イク、イク、イ……!」
「せーいち、すご、せーいちの精子あつい……!」
「……身支度が終わったら、場所を変えるぞ。そろそろ時間が危ない」
絶頂を迎えた女子の声に、返す健太の言葉はどこまでも冷静だった。
ダンジョンセックスに慣れた叶馬達は、全員脱がずに犯るやり方に精通している。
女子はパンツだけを脱ぎ、男子はチャックを下ろしてペニスだけを出す。その状態でのセックスは、終わればすぐに身支度が整う。
「おまたせー、興奮した?」
ニヤニヤ笑顔でそう言って来る麻衣に、健太は無言のまま、両拳で麻衣のこめかみをグリグリする。
「いたいいたいいたい!」
ほんの二、三回。かなり手加減しての「ウメボシ」攻撃だったが、麻衣には十分な痛みだったらしく、目じりに涙をためている。
「うー、せーいちー。健くんにいじめられたー」
と、自分の彼氏に訴えかけるが、流石の誠一もこれで麻衣をかばうことはない。
「いや、流石に今のはお前が悪い」
いくら必要な行為だとはいえ、自分たちだけがダンジョン内でセックスをして、見張りをしていてくれたボッチ男をからかうなど、誠一も自分の彼女を擁護できない。その男が、実は自分たちの命の恩人でもあったと知らされた直後だから、なおのことだ。
「準備が出来たなら、行くぞ」
全員の身支度が整ったところで、健太は先頭を切って通路を歩きだす。叶馬達四人もそれに続く。
警戒は怠らないが、移動中の一行はかなりリラックスしている。
この辺りのゴブリンは、すでに健太にとっても、叶馬達にとっても強敵ではない。最悪『
だから、移動しながらの会話もそこまで目くじらを立てる話ではない。
「健太」
「ん?」
後方を歩く誠一から名前を呼ばれた健太は、歩みを止めず、視線も前に向けたまま返事を返す。
「ありがとうな。お前も、俺たちの命の恩人だったんだな」
ファーストダイブで、叶馬は誠一達の『
「あの場に健太がいなければ、俺は死んでいた」と、叶馬がはっきりと断言していた。静香のアンアン喚く嬌声や、静香の尻と叶馬の腰がぶつかり合うパンパンという音がうるさかったが、聞き間違いではない。
もしそのまま叶馬が死んでいたら、当然叶馬が所持していた静香、誠一、麻衣の『魂魄結晶』もダンジョンにのまれていたことだろう。だから、叶馬同様、健太も誠一達の命の恩人、というのはあながち大げさでもない。
「ああ。結果そうなっただけだ。気にするな」
健太の返答に、誠一は少し怯んだように間をおいたが、それでも次の言葉を発する。
「いや、意図した結果じゃなかったとしても、恩人は恩人だ。礼は言わせてくれ。それで、お前が秘密にしたかったのは、やっぱ死んでないことだな? ということは、その後も死んでねえのか、お前?」
「そうだ。俺もそこまで詳しいわけではないが、この学園は明らかに普通科の生徒を、ダンジョンで死なせたいとしか思えない。だが、俺はそれに抗った。今も抗っている。その事実を、学園に知られたくなかった」
ここでいう『死ぬ』というのは、ダンジョンの死に戻りのことだ。現実の死ではない。
ダンジョンで死んだ人間は、『
原作では、それがダンジョンの維持に必要だと、表現されていた。学園は生徒がダンジョンからモンスタークリスタルを始めとして、色々なアイテムを持ち出すことを推奨しているが、それが一切できない劣等生でも『既に十分な役割を果たしている』と表現されていた。
ダンジョンで『死に戻り』することこそが、学園が望む普通科の生徒たちの役割。その役割を拒絶していることを、学園に知られたくない、というのは筋の通る話である。
豊葦原学園がまともではないことは、学園生誰もが認める事実である。
「俺たちに知られるのは良いのか?」
誠一の問いに、健太は用意しておいた答えを返す。
「同じ立場のお前達なら、な。ファーストダイブのダンジョン内では、誰が俺と同じ立場――魂魄結晶を失ってないのか、叶馬以外は分からなかったから、「ダンジョン内で俺に会ったことを誰にも言うな」という形で、広く口止めしたんだ。叶馬相手に回りくどいやり方だったと、今は反省している」
この一件は、健太と叶馬のどちらが悪いかと言えば、事実上約束を破った叶馬だが、どうせ叶馬は変わらないのだから、こっちが反省して変わっていくしか、改善の余地はない。
良い機会だと考えた健太は、一度後ろを振り返り、叶馬に向って言う。
「おい、叶馬。あの時の約束は、事実上守られなかったと判断するぞ」
「うむ」
潔いところもある叶馬は、素直に反省して自分が約束を破ってしまったことを認める。
「だから、代わりの約束だ。お前の『
叶馬との約束は、広くしては駄目だ。分かりづらくしても駄目だ。可能な限り、誤解の余地のない言葉を使わなければならない。
「分かった」
叶馬は無表情の中にも神妙そうな雰囲気を漂わせ、首肯する。
とりあえずこれで、叶馬は約束を守ろうとはしてくれるだろう。結果、約束を守れるかどうかは、また別な話だが。
どちらにせよ、現状、本名と今ついている
健太が懸念している一番の面倒ごとは、誠一に健太が『
原作における主人公一行の『癒し手』である
なにせ、健太はまだ死んでいないのに対し、海春、夏海の双子は、原作登場時点ですでに死んで『魂魄結晶』を失っているのだ。
『魂魄結晶』を失っている者は、ダンジョンの外ではスキルが使えない。
誠一が『癒し手』を求めているのは、現代医学では手の施しようのない妹を助けるためである。ダンジョン外でもスキルが使える健太と、(最初の時点では)ダンジョンでしかスキルの使えない海春と夏海。誠一がどちらに重きを置くかは、火を見るより明らかだ。
原作で叶馬の倶楽部に加入するキャラクターたちは、大半がところどころで「そのキャラがいなかったら詰んでいた」という活躍どころを持っている。一人もかけさせるわけにはいかない。
「なあ、健太」
叶馬との話が一区切りついたところで、再び誠一が話しかける。
「なんだ?」
「お前、すげえ叶馬の『
「ああ、そうだ」
これは、否定しても話がややこしくなるだけだから、否定しない。
「出来れば、誠一達にも協力してもらえるとありがたい」
ようは、叶馬の『情報閲覧』に限らず、あまり探ってくれるな、と言っているのだ。
叶馬には絶対に通じない会話の機微だが、相手が誠一なら問題はない。
「分かった。出来るだけ協力するぜ」
健太に命の借りがあることを知ったばかりの誠一は、そう答える。
そうしているうちに通路の向こうからギャアギャアと騒がしい叫び声が聞こえてくる。
「また、随分ゴブリンがいそうな玄室だが、このまま突っ込むで良いのか?」
先頭を歩く健太の提案に、反対する者はいない。
「ああ、構わねえぜ」
「ゴブリンなら何匹でも大丈夫でしょ」
「何匹かのゴブリンの足を潰す。それは静香の分だから、他の奴は手出ししないでくれ」
「お手数をおかけします、叶馬さん」
静香は
「了解だ。《翔る》!」
健太は、抜き放った小剣と盾を構え、『
結局この日、健太を加えた叶馬達パーティーは五度の戦闘で合わせて四十匹以上のゴブリンを屠り、五度のダンジョン内セックスを堪能して、無事ログアウトの時間を迎えるのだった。