※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第一話 入学式、絶望のクラス発表

佐藤(さとう)健太(けんた)碧鷺(へきさぎ)荘に無事入寮を果たした翌日。待っているのは、豊葦原学園の入学式である。

 異世界転生初日にして入寮初日を無難にこなした健太は、意外と落ち着いて入学式を迎えていた。

 

 その理由は、「たぶん自分は、原作主人公のいる一年(ひのえ)組ではない」と結論付けたからだ。その根拠は、ルームメイトの尚典(なおふみ)にある。

 健太の知る限り、豊葦原学園では、寮のルームメイトというのは、同じクラスである確率が高い。叶馬(とうま)誠一(せいいち)静香(しずか)麻衣(まい)(すばる)京助(きょうすけ)等々。原作で同部屋と明言されている者は、同じクラスであることが多かった。無論、一年初期だけの法則である。その後は、一人部屋への移動や転寮が可能なため、当てにならなくなる。

 

 その例に倣えば、健太と尚典も同じクラスである可能性が高い。

 健太が覚えている限り、尚典というキャラクターは原作に登場していない。

 一方、原作主人公である叶馬の所属する一年(ひのえ)組の男子は、かなりの数の名前が判明している。叶馬(とうま)誠一(せいいち)和人(かずと)剛史(たけし)虎太郎(こたろう)栄治(えいじ)白夜(びゃくや)(しょう)、そして岳彦(たけひこ)。名前のあるキャラだけで九人。そして、『モブキャラの集まり』を自認している倶楽部『無貌(ネイムレス)』の男子部員が十一人と明言されている。合わせると丁度二十人。一クラスおおよそ四十人なのだから、男女が同数だとすれば、これで一年丙組の男子は全員判明していることになる。

 『無貌』の男子メンバーの容姿と性格はまさにモブに相応しいものである、と作中でも触れられている。実力は叶馬のせいで感覚が狂っているだけで、一年のトップ層なのだが。

 とにかく、そう考えると、尚典は『無貌』の一員とも考えづらい。健太と話が合う陰キャオタクな性格だけならば、『無貌』のメンバーにいてもおかしくなさそうだが、容姿はそうではない。

 小柄で華奢な体つきに相応しい童顔ではあるが、尚典の顔立ちは十分に整っている。可愛い系の美少年をモブと呼ぶのは少々無理がある。

 つまり、尚典は一年丙組ではない可能性が高い。それはイコール、ルームメイトである健太も丙組ではない、ということになる。

 

「そもそも、原作主人公と俺が同じ学年じゃない可能性だって十分あるんだよ。もしかしたら叶馬はまだ入学してなかったり、とっくに卒業してたりしててもおかしくない。同じ学年だとしても、クラスは二十四もあるんだ。同じクラスになる可能性の方が圧倒的に低いわけだ」

 

 論理的に考えて最大最悪の地雷、主人公叶馬がいる一年丙組になる可能性は限りなく低い。そう結論を出した健太は、晴れ晴れしい顔で入学式へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育館で行われる入学式を終えた健太は、今日から一年間を過ごす自分の教室、すなわち『一年(ひのえ)組の教室』で、絶望に打ちひしがれていた。

 

「……ヤバい。詰んだかもしれん」

 

 ちなみに、ルームメイトの尚典はしっかりと別クラスである。寮のルームメイトが必ずしも同じ教室になるとは限らないようだ。

 絶望に目と耳をふさがれ、半ば意識を失ったまま、一年丙組の担任である(みどり)先生が発表する今後の予定などの説明を聞き流し、古風なチャイムの音で意識を覚醒させたときには、(みどり)先生の姿はなく、入学初日は放課後を迎えていた。

 

 だが、放課後を告げるチャイムが鳴り終わってしばらくしても、誰も席を立とうとはしない。

 その理由は、明らかだ。不用意な身動きで刺激を与えたくない危険人物――原作主人公、叶馬の動向を皆、息を殺して見守っているのである。

 単なる偶然か、はたまた健太を異世界転生させた上位存在の介入の結果か。ばっちり原作主人公と同じ一年丙組になってしまった健太は、椅子に座って机に上体を突っ伏したまま、薄目でその主人公を観察する。

 

 原作主人公、船坂(ふなさか)叶馬(とうま)。自称『平凡で極普通な男子』。一方周囲の評価は、彼が教室を見渡していると「締める相手でも探してるのか?」と言われ、女性を正面から見据えると「レ〇プするの?」と怯えられ、彼を始めて見た体術訓練教師は「コイツは今まで何人殺してきたんだ」とドン引きする。

 叶馬は厳つい体格と、凶相とすら言えそうなキツイ目つきの持ち主だ。その上、叶馬の表情筋は常時ストライキ状態なのではないか、と疑いたくなるほど無表情。

 そうした見た目のせいで、周りが誤解していることも間違いのない事実だが、それでも叶馬本人の自己評価と比べれば、周囲の誤解のほうが圧倒的に正解に近い。

 原作では、二十人を超える女性をパートナー(名義だけではない。実際全員とほぼ毎日性行為を行っている)とし、札付きのチンピラ倶楽部を二つばかり単身で壊滅させている。筋金入りの危険人物である。

 

(これは、確かに側にいるだけでSAN値チェックが必要、とか言われるわ。近づきたくない。ていうか、許されるなら、今すぐこの教室から逃げ出したい)

 

 額から冷や汗を流す健太は、内心でそんな感想を漏らす。

 

 異常に鍛えられた体格。整っていることが逆に怖さを増幅させている無表情な顔つき。そうした外見の要素だけでも、間違いなく「怖い」のだが、叶馬がここまで恐れられるのは、そうした見た目よりもその漂わせている雰囲気にある。言語化は難しいが、悪い意味での存在感が半端ないのだ。

 

 それでもどうにか心を振るい立たせて、健太は机に突っ伏したまま薄眼で観察を続ける。

 

 叶馬の後ろの席に座り、唯一(表面上は)臆することなく叶馬と会話を続けている男が、誠一(せいいち)だろう。

 原作では、叶馬のルームメイトで、ダンジョンダイブにおける相棒。そして、叶馬の親友となる男。付け加えるならば、この豊葦原学園の生徒会長の異母弟でもある。

 誠一は、名家の妾腹の子供として、将来『便利な駒』になるよう、この歳でいろいろな技術を叩き込まれている。

 だから、こうして、健太が薄目を開けてそちらの方を伺っていることにも、まず間違いなく気付いているだろうが、問題はない。

 表面上は知らんぷりをしながら、叶馬たちをこっそり観察しているのは、教室内にいるほぼ全員だ。むしろ、何もしてない方が不審がられる。

 

 そうして観察を続けていると、叶馬と誠一に、二人の少女が声をかけていた。

 茶色のミドルロングの髪をハーフアップに結い上げた明るい笑顔が印象的な少女と、真っすぐな長い黒髪が美しいオドオドとした気弱そうな印象の少女だ。

 前者が麻衣(まい)、後者が静香(しずか)、と健太はあたりをつける。原作において、麻衣は誠一の恋人、静香は叶馬のパートナー筆頭になる主要キャラクターだ。

 ほかにも重要なキャラは存在するが、基本的にこの四人が最初期の中心だと言ってよい。必然的に、健太の観察眼は、麻衣と静香の二人にも向けられる。

 

 作中で誠一が容姿について「一年丙組女子では、麻衣と静香がトップツー」と言っていたが、こうしてみるとそれがリップサービスではないことがよくわかる。

 元々豊葦原学園は、作中で何度も「女子は容姿で選んでいる」と指摘されているくらい美女、美少女ぞろいなのだが、こうして見ると麻衣と静香は、その豊葦原学園の基準でも抜けている。

 豊葦原学園普通科の制服はブレザー(スペクトラ繊維を織り込んだ防刃性)なのだが、麻衣はスカートを短く巻き上げたり、シャツのウエストを絞って胸を強調したりと、上手に着崩している。明確に男受けを意識した着崩しだ。

 一方静香は、制服の着こなしには全く手を入れていないが、胸を強調する着崩しをしている麻衣の三倍くらい胸が自己主張している。単純に大きいのだ。原作で「同世代の中ではひと際大きい」と言及されていたが、その評価は嘘偽りない。

 

(あれは良いものだ)

 

 一瞬とはいえ、叶馬への恐怖も忘れてテンションを上げてしまった健太は、隠しようがないオッパイ星人である。

 

「……決まりね。明日からヨロシク!」

 

 麻衣がひときわ大きな声で、そう言ったのが聞こえてきた。どうやら、叶馬、誠一、麻衣、静香の四人でパーティーを組むことが決定したようだ。

 麻衣がそれを大きな声で言ったのは、わざとだろう。「この男たちは私たちが唾をつけた」と、クラスの女子たちをけん制しているのだ。

 多少軽薄でも、顔が整っていてコミュ力の高い誠一はともかく、多少顔が良くても、狂気が立ち上っていてSAN値攻撃力の高い叶馬に粉を駆ける女は、普通はいない。

 だが、あいにくここ豊葦原学園は、普通ではない。

 どれほどヤバい男でも、女を股間に装備する物扱いしかしない性欲モンスターでも、「強い」というだけですり寄ってくる女が絶えない特殊空間だ。

 入学初日の現状では、大半がまだシャバの価値観を引きずっているだろうが、女子は寮の先輩たちから、この学園の生き延び方について助言を受けているはずだ。ならば、頭の柔軟な一部の女子は、すでにこの学園基準の「良い男」獲得に動く可能性はある。現に麻衣はそうしている。

 

 ともあれ、主人公パーティーが結成されたことをきっかけに、教室内の他の皆も、パーティー結成の交渉に動き始める。

 

「ねえ、パーティーメンバー決まってる? 最大六人まで一緒に転送できるんでしょ。人数は多い方が良いと思わない?」

 

「よっし、明日はこの三人で良いな? お前ら、気合入れろよ!」

 

「あー、この期に及んでも、実感わかんわー。マジで明日ダンジョンダイブなのかよ」

 

「良かったら、明日私達と一緒に行ってくれない?」

 

「わ、私怖くで、どうすればいいのか……」

 

 あちこちから、話し声が聞こえてくる。次々とパーティーが結成されていく中、健太は椅子に座ったままだ。

 元々陰キャな健太は、対人関係を自分から積極的に広めていく性分ではない。だが、今動かないのは、それが理由ではない。単純に、明日のダンジョンダイブは、最初から一人で行くことを決めていたからだ。

 

(最初のダンジョンダイブは、完璧に殺しに来るからな。多分、下手に他の奴と一緒にいる方が危ない)

 

 健太は、三つのチート能力も、一つのアイテムも、可能な限り隠し通すつもりでいる。

 豊葦原学園では、あちこちに隠しカメラ、盗聴用マイクが仕掛けられ、変わった成長を遂げた生徒を『実験棟』に呼び、実験への『協力を要請』することがあるらしいのだ。異世界産の能力やアイテムが、豊葦原学園首脳部の興味を引かないと考えるのは、流石に楽観が過ぎるというものだ。

 もっともその監視網は学園内でも意外とガバガバで、ダンジョン内に至っては全く目も耳も行き届いていないのが現状らしい。

 だから、チート能力もアイテムも、ダンジョン内で一人で使用する分には、問題ないはずだ。

 

(何とかして生き延びないとな。多分、明日が最大の死亡フラグだ。そこを乗り越えられたら、いっきに希望が広がる)

 

 何はさておいても、「命を大事に」がモットーな健太は、ファーストダイブを死なずに済ませるつもりでいた。

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