※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第十八話 健太の打ち上げ、打ち上げのその後

 夕方の学食で、健太(けんた)叶馬(とうま)誠一(せいいち)静香(しずか)麻衣(まい)の四人と共に、本日の打ち上げを行っていた。

 

「それじゃ、本日の健くんを加えたパーティでのダンジョンアタック成功を祝って、カンパーイ!」

 

「「「「乾杯」」」」

 

 明るく元気に音頭を取る麻衣の後に、健太を含めた残り四人が乾杯を唱和する。

 グラスに入っているのは、お茶やジュースの類だ。学食でも裏メニューにアルコールはあるらしいが、一応違法行為のため、アルコール摂取は治外法権な寮に戻ってからというのが一般的になっている。

 

 ダンジョンダイブを済ませて真っすぐということもあり、この打ち上げは夕食も兼ねている。健太の前にある取り皿にも、鶏のから揚げだの餃子だのフライドポテトだの、いかにもな料理が盛られている。

 取ってくれたのは麻衣だ。

 

「はい、健くん」

 

「あ、ありがとう」

 

 今の健太は、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオフにしている。至近距離で麻衣のような美少女に笑いかけられると、それだけで挙動不審になる。

 ダンジョンダイブを終えた健太が、別人のようになったことにいち早く気付いたのも麻衣だ。ダンジョンダイブ中は、驚くほど頼もしく、人間味が感じられないほどストイックだった健太が、自分が少し距離をつめるだけで視線を泳がせ、話しかければキョドった声を発するのが面白いのか、『ゲストをもてなす』という名目で、先ほどからしきりに健太を弄ってくる。

 ひょっとしたら、ダンジョン内で『ウメボシ』をされた仕返しの部分もあるのかもしれない。

 

 度が過ぎれば注意しようと考えている誠一だが、今のところ麻衣もちょっとサービスの良い合コンの女子程度のことしかやっていないため、黙認している。

 

「しかし、後半は思った以上に上手くいったな。正直、タンクの重要性舐めてたわ」

 

 誠一はそう言って、健太に笑いかける。

 

「ああ、確かに、後半は結構良い感じだったね」

 

「うむ、タンクは集団対集団の要だ」

 

 健太の返答に、叶馬もローストビーフを頬張りながら、同意を示す。

 

「そうですね。とどめ役ではなく、私が槍でゴブリンを倒せたのは始めてでした」

 

 静香の言葉通り、最後の戦闘では、静香も槍でゴブリンを一匹仕留めていた。

 健太がゴブリンの注意を自分にひきつけ、ついでに静香が狙いやすいように適度な攻撃を加えてゴブリンの足を止めたお膳立ての上での話だが、静香にとっては快挙だ。

 

 前半は色々探りながらの戦闘だったため、トータルで見れば叶馬パーティーとしては人数が一人増えたのに、平均を下回る討伐数だったが、後半の手ごたえは「これはいける」と思えるくらいに際立っていた。

 今までは、誰かが攻撃している間、誰かは休んでいるという形になることが多かった叶馬パーティーだが、健太が前線で敵の注意を一手にひきつけてくれるため、叶馬が暴れ、誠一が動き、麻衣が後ろから攻撃魔法を飛ばす、という行為が同時進行で可能になったのである。

 今までは、万が一の為に最低でも叶馬か誠一のどちらかは、静香と麻衣の護衛に残らざるを得なかったのだ。

 

「ねえ、健くん。本当に正式にうちのパーティーに加わる気はない? 今日、いい感じだったじゃん」

 

 健太を呼び込んだのは叶馬が、現在一番健太の勧誘に熱心なのは麻衣だ。

 純後衛な「魔術士(ウィザード)』である麻衣にとって、前線の壁になってくれるタンク役の存在は、病みつきになるような気持ちの良さがあった。

 その上、ダンジョンセックスも見張りがついているおかげで、いつもより集中できた。気のせいか、誠一もいつもより燃えていた。

 戦闘中は頼りになり、ダンジョン内で女として身の危険を感じることもなく、ダンジョンの外では弄って遊べる。まさに逸材である。

 

「正式は勘弁。たまになら良いけど、今日みたいなのが、日常になったら流石にツライ」

 

 健太の素直な告白に、麻衣はオモチャを見つけた猫のような笑みを浮かべる。

 

「えー、やっぱり興奮した? そのうち我慢できなくなったりして」

 

「麻衣、そろそろレッドカードだ」

 

「痛っ、誠一!」

 

 いじりがいじめになりかけたところで、誠一は麻衣の頬をつまんで強く引っ張った。

 本人は気づいていないが、実のところ麻衣のやっていることは、かなり危ない。

 その手の女子が男子を性的に煽るという行為は、世間一般ならばせいぜい「質の悪い悪戯」ですむが、ここは豊葦原学園だ。普通に、拉致られてレイプされてもおかしくない。というか、学園内の常識で言えば、むしろそうなる様に煽っていると取られるのは普通だ。

 入学初日で誠一という当たりを引き、自分も順調に強くなっている麻衣は、少しこの学園を甘く見ているところがあるのかもしれない。

 

 彼氏の義務として麻衣を御した誠一は、少し真剣な声で、健太に言う。

 

「けど、お前に正式なメンバー入りを検討してもらいたいってのは、俺も同感だ。お前を入れても五人だし、ダンジョンダイブ最大人数は六人だ。六人目は、お前のパートナー枠ってことで手を打たないか?」

 

 健太としては、弄ってくる麻衣より、(豊葦原学園基準で)誠実な取引を持ち掛けてくる誠一の方が厄介だ。

 

「ああ、それも魅力的だけど、やっぱりちょっとな。俺は臨時メンバーが良いと思う」

 

「なんか、理由があるのか?」

 

 さらに粘る誠一に、健太はダンジョンダイブ中に考えておいた言い訳をする。

 

「ああ。パーティーというか、その先の話だけど、俺は自分の倶楽部を作りたいんだ」

 

「そう言うことか」

 

 健太の言い訳に、誠一もため息をつきながらも納得する。

 

「ふむ、自分の倶楽部か。それならば、仕方がない。倶楽部は大事だからな」

 

 ローストビーフを飲むように食べながら、うんうん頷いている叶馬は、間違いなく倶楽部が何かわかっていない。

 見渡してみると、どうも麻衣も倶楽部について無知なようだ。どうせ将来自分たちにも関係してくることなのだ、と誠一はその場で説明を始める。

 

「倶楽部って言うのは、あれだな。ダンジョン攻略のための集団だ。学校公認で、ランクと人数に合わせて『(せん)』が支給されたり、部室が割り当てられたりする」

 

「ほう、部室か……」

 

 部室というところで、叶馬の目がギラリと光る。

 

「おお、叶馬くんが燃えてる。やっぱり、私たちの二人部屋じゃ狭いもんね。女子部員一杯集めて、「さあ、尻を並べろ」とかやるなら、広い部室が欲しい?」

 

「……風評被害だ」

 

 実際、叶馬は放課後「部室で駄弁る」という青春の一コマに憧れているのだが、現実として豊葦原学園の部室は、今麻衣が言った使われ方が一般的だ。

 健太も『匠工房(アデプトワーカーズ)』を訪れる関係で、倶楽部棟には何度か足を運んでいるが、かなりの部室内から女子の悲鳴や嬌声が聞こえてきていた。半年もすれば大半が嬌声になり、悲鳴はあまり聞こえてこなくなるらしい。ダンジョンダイブを義務付けられる豊葦原学園でのセックスは、桁外れの快楽が伴う。いつまでも、拒絶することは不可能に近い。

 

 その後も、誠一は分かりやすく、豊葦原学園における倶楽部とはどのようなものであるのか、説明した。

 規定最低人数である十人を集めることが出来れば、基本誰にでも設立可能であること。そうして新規に設立された倶楽部は、全て最低ランクのFランクとされること。ランクはF、C、B、A、Sの五段階に分かれ、ランクごとに大きく待遇が違うこと。倶楽部のランクは、学期ごとに年三回行われる『倶楽部対抗戦』で決まること。

 予選を突破出来ればCランク。決勝トーナメントのベスト64に残ればBランク。ベスト16でAランク。ベスト4に残った倶楽部がSランクだ。それぞれ上の数を引くから倶楽部数はBランクが48、Aランクが12、Sランクが4となる。

 

 誠一の説明を聞いた麻衣は、能天気な声を上げる。

 

「ほへー、一番近い『倶楽部対抗戦』が六月だから、まだ二か月以上あるんだ。それまでに俱楽部を作って目指せ準決勝進出、て感じ?」

 

 誠一はあきれたように首を横に振る。

 

「無茶言うな。Sはもちろん、Aだって上級生が大半を占める化け物倶楽部ばっかなんだぞ。一年が創設した倶楽部が最初の『倶楽部対抗戦』で予選突破してCになったらそれだけで快挙だ」

 

 ちなみに原作の一年(ひのえ)組は、全員が自分達中心の倶楽部を作り、その全倶楽部が一年の間に(事実上の)Cランク以上になる化け物教室である。

 

「正直まだ先の話のつもりだったが、俺も叶馬を中心に倶楽部を作ることは既定路線のつもりだった。それに対して、健太が自分の倶楽部を作りたいって言うのなら、確かに正式なメンバーは無理だな」

 

 そう言って、誠一はため息をつく。豊葦原学園の倶楽部は、兼任を認めていない。また、倶楽部の部長は不動であり、部長が抜けた時点でその倶楽部は解散になる。たとえ、部長が抜ける前はSランクの倶楽部で、部長以外は全員揃っていても、その残りメンバーの誰かが部長になって設立する倶楽部は、Fランクだ。

 だから、健太が「自分の倶楽部、自分が部長となる倶楽部を作りたい」と主張する以上、叶馬達パーティーと一緒にやっていくことは不可能になる。

 

 健太は、我ながら良い言い訳を思いついた、と自画自賛していた。 

 もちろん、健太の目的は自分の倶楽部を作ることそのものではない。叶馬が作るであろう倶楽部『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』に入ることを避けることだ。

 倶楽部にはランクごとに規定人数というのが決まっている。一番下のFランクの場合は、二十人。これが上限だ。通常、新入生たちが作る新倶楽部というのは、下限の十人を満たすことに四苦八苦するのであって上限はあまり気にする必要がないのだが、叶馬の『神匠騎士団』は、Fランクの間に規定上限の二十人が集まってしまう。

 その二十人全員が、必要な人材だ。健太が押し出すわけにはいかない。それを回避するための言い訳として、「自分の倶楽部が作りたい」は都合がよい。

 

「ふーん、健くんも自分の倶楽部を作りたいんだ。やっぱり女の子一杯のハーレム倶楽部?」

 

 まだ彼氏に怒られてもまだ懲りないのか、ニヤニヤそう言って来る麻衣に、健太は少し後ろにのけぞりながら答える。

 

「いや、まずは男子が欲しい。最低四人、理想は六人」

 

「!!」

 

 その言葉にずっと静かにしていた静香が、ガタリと椅子を鳴らして腰を浮かせる。

 

「静香、ステイ」

 

 隣に座る叶馬が、静香の肩を掴んで席に戻した。

 

「男子が欲しいってことは、ガチの攻略倶楽部を作る気か」

 

 目を細める誠一に、健太はイエスともノーとも言えないあいまいな表情で説明する。

 

「もちろん最初からエンジョイ系を目指すつもりはないけど、そこまでシリアスに考えてるわけじゃないよ。ただ『倶楽部対抗戦』のことを考えたら、最低でも正選手五人は、理想を言えば補欠二人も男子にしたいんだ」

 

「まあ、理想はそうか」

 

 と、知識のある誠一は健太の意見に理解を示した。

 

「どういうこと?」

 

 理解が及んでいない麻衣に、誠一が説明してやる。

 

「『倶楽部対抗戦』は全倶楽部強制参加なんだよ。不参加は認められねえ。その上、予選から結構ガチ目のバトルだからな。慣れてない奴には、キツイ。審判がポーション各種をそろえてるから、怪我は治るが、精神はガッツリやられる」

 

 さらに厳しいのが本戦トーナメントだ。そこには、『降参』すら存在しない。

 本人の戦意が折れていても、審判が「まだ戦える状態だ」とみなせば、試合はそのまま続行される。質の悪い倶楽部とぶつかって、嬲り者にされる選手が毎年何人かは出る、過酷な戦いなのだ。正直、健太自身も『戦士の不動心(マインドスイッチ)』が無ければ、絶対に参加したくないイベントである。

 

 対戦相手が女だと、悪い意味で『張り切る』奴らがこの学園には多いため、選手は可能の限り男で固めたい、というのが健太の理想だった。

 

「それじゃ健くんは、女子部員いらないの? 可愛い女の子」

 

「いや、それはもちろん欲しいよ。パートナーになってくれる人だって、ずっと探してるし」

 

 視線を泳がせ、どもりながらも、健太はどうにか麻衣の問いに、素直な心境を告白する。

 ここで変なことを言えば、静香を喜ばせる誤解が生じそうだ。その恐怖が、羞恥心を押しのけて、素直な発言を後押しする。

 

「健くんなら、パートナーになりたがる子、結構いると思うけど? クラスの女子とか声かけてる?」

 

「だな、正直お前なら、より取り見取りだと思うぜ。なんか、パートナーに特別なこだわりとかあるのか?」

 

 心底不思議そうにそう言う麻衣と誠一に、健太は内心「この恋愛パワーカップルが」と苛立ちを募らせる。

 原作を読む限り、麻衣も誠一も豊葦原学園に入学するまで、かなり過酷な人生を歩んできた苦労人であることは間違いない。だが、同時にその言動からは、「自分は異性に好かれる」ことを前提にした恋愛強者の風格が立ち上っている。

 

 だから、健太のような陰キャオタクの葛藤は、素で理解できないのだろう。

 健太にとって、女子に「俺のパートナーになってくれ」と申し込むのは、暴走状態の叶馬と一騎打ちをするより、勇気が必要な行為なのだ。

 

「別段こだわってるわけじゃなくて、需要と供給の問題というか、タイミングの問題というか……」

 

 グチグチと言い訳をしているが、ようは自分から声を掛けに行けないヘタレ以外に理由はないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寮でルームメイトが待ってるから」と、健太が一足先に先に離席した後も、叶馬達四人はまだ学食で飲み物を頼みながら、話を続けていた。

 叶馬がカレーライス、誠一がコーヒー、静香が抹茶、麻衣がイチゴミルクをすすりながら話す内容は、やはり今までここにいた人物――健太についてである。

 

「しかし、本人も認めてたけど、まだまだ秘密の多い奴だな。ぶっちゃけ、明かしてないことの方が多いだろ、あいつ絶対」

 

「それって健くんのことだよね。そんなにおかしい?」

 

 不思議そうに問いかける麻衣に、誠一は首肯する。

 ここは学食。聞き耳を立てている者はいなさそうだが、流石に他人の秘密について話をできる環境ではない。

 

「おかしいことだらけだ。だいたい、ダンジョン内のあいつと、打ち上げのあいつ。正直同一人物に見えねえぞ。『戦闘中はスイッチ入れてる』とか言ってたけど、もうそう言うレベルじゃねえから、あれは」

 

「陰キャでインドア派だから、ダンジョンではそのままではやっていけない。だから、意識的にキャラを作っているのだろう。俺も同じだからよくわかる」

 

 と、重々しく叶馬が頷くが、叶馬の自称インドア派を本気にしている人間はいない。

 それに対し、先ほどまで一緒に打ち上げをやっていた健太は、まさに陰キャのオタクそのものだった。

 ダンジョン内での堂々した戦いぶりとは、まるきり重ならない。

 

「まあ、オンオフの激しい奴ってのはいるが、限度があるだろう。にしても、健太が仲間にならねえのは、ちと惜しいな。戦闘で言えば、マジでピッタリうちの足りねえ部分にはまるんだが」

 

「臨時メンバーならば引き受けると言っている。それでよいと思うべきだ」

 

 落ち着いてそう言う叶馬に、誠一は眉をしかめる。

 

「やけにあっさりしてるな。お前が一番健太に執着してたんじゃねえのか?」

 

「うむ。友と肩を並べて戦うのも良い。だが、友と戦い雌雄を決するのもまた、良い。倶楽部対抗戦の大将は部長で決まっているのだろう。ならば、そこで健太とは戦うことができる」

 

 そう言って叶馬が浮かべる獰猛な笑みを、もし健太が見ていれば「早まった」と心底後悔したことだろう。

 バトルが大好きで、青春が大好きな叶馬に、『倶楽部対抗戦』の話をして「俺も自分の倶楽部を作りたい」などと言えば、こうなるのは自明の理だった。

 

「ああ、そっちに行ったか」

 

「健くん可哀そう」

 

「叶馬さん、もし当たったらちゃんと手加減をしてあげてくださいね」

 

 健太の実力を目の当たりにした直後でも、誰も叶馬の敗北を想定していないことに、叶馬に対する絶大な信頼が見て取れる。

 

「しかし、健太が変な倶楽部に引き込まれねえか、そこがちと心配だな」

 

「健くん自分の倶楽部作りたいんでしょ? それなら、他の倶楽部に入ることはないんじゃない?」

 

 心配性の誠一に、麻衣が首を傾げながらそう言うが、誠一は渋い顔をしたまま、

 

「ダンジョンでの健太なら何の心配もねえが、打ち上げの健太見てるとな。上級生が作ってる倶楽部は、有望な一年を自分の倶楽部に引き入れるために、色々やるらしいんだ。一番多いのがハニトラだな」

 

「ハニトラって、そういうの良いの?」

 

 目を丸くする麻衣に、誠一は鼻で笑う。

 

「この学園だぜ? 黙認に決まってる。一応「興味のある一年を体験入部」という建前らしい。そこで、『娼婦(ニンフ)』のお姉さんたちが、「うちに入ってくれたら、毎日こんなことしてあげるよー、正式に入ってくれたらあんなこともしてあげるよー」ってな具合に接待づけにするそうだ」

 

 ちなみに有望な女子の場合はそんな悠長な手段は使わない。ダンジョン内で襲いかかって隷属させておしまいだ。

 

「うわあ、さっきの健くんならコロッといっちゃいそー」

 

 そう言う麻衣の頭の中で思い浮かべているのは、もちろん打ち上げの時の健太だ。

 

「下手な倶楽部に入部されちまうと、臨時メンバーとして呼ぶのも難しくなる。それこそ、向こうの部長が「健太を貸すからお前のところの女を貸せ」と言ってきてもおかしくねえ。だから、健太をこっちに倶楽部に入れられねえんなら、本人の希望通り健太が倶楽部を設立してくれるのが次善なんだがな」

 

 現状、叶馬達の倶楽部も、部員候補はここにいる四人だけなのだ。よその倶楽部に人を斡旋できるような余裕はない。

 

「となると健くん自身は、男子部員欲しがってたけど、急務は健くんのパートナーだよね」

 

「ああ。パートナーが一人いれば、あの妙に童貞臭いところも多少は落ち着くだろ」

 

 そう言いながら、誠一も流石に健太が本当にまだ童貞だとは、夢にも思っていない。最低でも担任の翠先生にはお世話になっている、と思っている。

 この豊葦原学園で、新入生で四月半ばに第二段階職まで到達するほどダンジョンダイブを順調にこなしていながら、童貞を守り通しているアホがいると想定している方がおかしい。

 

「なあ、麻衣。誰か心当たりいないか? 健太のパートナー候補」

 

 誠一の言葉に、麻衣は眉の間に皺をよせ、困ったように唸る。

 

「うーん、いるかいないかで言えばいるんだけどね。クラスの女子とか、寮の子とか。でも、健くんて多分誠一と同じくらい強いんでしょ?」

 

「ああ。最低でもな」

 

 叶馬が読み上げた数値――『騎士(ナイト)』4が事実だとしたら、レベル自体は誠一の方が高いが、誠一の感覚では「一対一でやり合えば負ける」と感じていた。

 

「となるとなー、クラスの子なんか多分全員まだノービスだから、今の誠一と同レベルの健くんとエッチしたら、一発で堕ちちゃうよ。それで、健くんに気に入ってもらえなかったら、可哀そうでしょ」

 

「ああ、そりゃ気軽にお試しってわけにはいかねえか」

 

 隷属してしまった女子が、隷属対象に捨てられると悲惨だ。これが二年生以上ならば、複数の男子による『隷属の上書』を経験して、隷属そのものが浅くなっているのでまだマシになるのだが、最初の隷属はとても重い。

 ちなみにこの辺りも健太と、誠一、麻衣の感覚がズレている。

 入学前から男女関係にある程度擦れていて、学園の常識にも素早く対応している誠一と麻衣は、「お試しで一度セックス。気に入らなかったらバイバイ」という感覚で話しているのだが、もし健太が最初のセックスで相手を隷属させてしまったら、間違いなくその相手を公式のパートナーにする。

 責任感とか、誠実さとか、そういう綺麗な話ではない。

 最低でも、豊葦原学園に入学するレベルに見た目の整っている女子が、隷属状態――貴方のこと好き好き大好き――になれば、そんなの拗らせ童貞の健太が手放せるはずがない、という極めて単純な話である。

 だが、健太の童貞力を見くびっている誠一と麻衣が、そんな事実を知る由もない。

 

 思案しているところで、誠一はふと、あることに気が付いた。さきほどから叶馬が何も言っていない、という恐ろしい事態に。

 

「おい、叶馬。お前何企んでやがる。言え。サプライズはいらないからな。マジでガチでいらねえからな」

 

 叶馬は日頃から口数の多い方ではないが、これはおかしい。他ならぬ、叶馬の友達である健太の話なのだ。叶馬の沈黙は不気味でしかない。

 

「叶馬さん。一人で動かれるより、ご相談してから動くべきではないでしょうか」

 

魂魄結晶(ソルデバイス)』で繋がっている静香は、ある程度叶馬の思考が流れて来る。

 日頃、叶馬全肯定の静香がそう言うくらいなのだから、よほどヤバいことを叶馬は企んでいるのだろう。

 

「おい、吐け。お前、何やろうとしてた」

 

 誠一にガチ目の迫力で詰め寄られた叶馬は、無表情のまま白状する。

 

「あいつが自分の倶楽部を作ってくれないと、戦えない。健太は俺の友達だ。良い奴であることは保証する。だから、良さげな女子を、俺が一対一でじっくり時間をかけて、健太のパートナーなってくれるよう説得すれば」

 

「やめろ」

 

 想像以上の悪夢の未来に、誠一は感情の抜けた声で、そう言う。

 

「確かに俺は口下手だ。それにパートナーになるというのは女子とっても一大事。あまり人に知られたい話でもないだろう。だから、ちゃんと誰にも見つからない場所で、じっくり時間をかけて説得するつもりだった」

 

「誰の助けも来ない密室で、叶馬くんにみっちり『説得』されたら多分どんな女の子でも「はい」って言うと思う」

 

「ほら、麻衣もこう言っている」

 

「麻衣は、そういう意味で言ってるんじゃねえ。だから、やめろって言ってるんだ! 女子が可哀そうだし、そんなレイプ目になった女子をパートナー候補に紹介される健太も可哀そうだろうが!」

 

「無論、男女には相性がある。健太が受け入れない場合もあるだろう。その場合は、ちゃんと俺が責任をもって第二、第三の女子を」

 

「可哀そうな女子を増やすんじゃねえ!」

 

 今日のダンジョンダイブ中、一度も呼吸を乱さなかった誠一が、今はツッコミ疲れで肩で息をしていた。

 

 

 

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