――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『
「やっと見つけた」
「ゴガアア!」
狂暴な鳴き声を上げる犬頭のモンスターを前に、
ここは、ダンジョン第三層『
そこで、念願のコボルト種の『
通常のコボルトは一メートルにも満たないが、この個体は一メートル九十センチ以上はありそうだ。筋骨隆々とした体形をしており、両手で長大な
頭部は一応犬の形を保っているが、長大な牙をむき出しにて、涎をだらだら垂らしてる様は、可愛げの欠片も見つからない。健太も、『
「ビッグジャイアントはその場で停止、近づく敵を攻撃しろ。ジュゲム、いつも通り攻撃しろ」
健太の命令に、『
「ガ、ガアア!」
心の弱い者なら、その声だけですくみ上りそうな怒声と共に、コボルトキングがビッグジャイアントに襲い掛かる。
二メートル近いコボルトキングと言えども、三メートルを超えるビッグジャイアントと比べれば、はるかに小さい。それでも、長大な長柄斧のリーチを足せば、その攻撃は十分にビッグジャイアントの頭部まで届く。
「ギイ! ギイ グガア!」
狂ったように振るわれる、コボルトキングの乱撃を、ビッグジャイアントは微動出せずに、ただその身で受ける。回避は無論、ガードすらしていない。
元々、『
ビッグジャイアントは一方的に攻撃を食らいながら、ゆっくりとこぶしを握った右手を上に上げる。
拳を上げて振り下ろす。現在、ビッグジャイアントが繰り出すことのできる実用的な攻撃はこれだけである。
動きは単純、攻撃範囲は狭く、回避は難しくない。だが、威力は絶大。これだけを集中して練習してきたため、振り下ろしの速度だけは、ちょっとしたものだ。
「ギッ!?」
案の定、コボルトキングも回避は出来たものの、大きく体勢を崩す。
そこに襲い掛かるのは、ジュゲムの槍撃だ。ゴブリン
「フン!」
「ヒギッ!?」
体勢の崩れていたコボルトキングはもろにジュゲムの槍を左肘に食らった。
人型モンスターの構造は、おおよそ人間のそれに準ずる。コボルトキングもその例外ではなく、左肘を大きく穿ち抜かれたコボルトキングは、長柄斧を掴んでいられず、ダラリと左腕が垂れ下がる。
好機だ。
「《
後方から健太が放った魔法が、コボルトキングの右肩を打ち抜く。
「ヒギッ!?」
ジュゲムに左肘をやられ、右手一本で長柄斧を持っていたコボルトキングは、カランと音を立てて武器を落としてしまう。
「シャッ!」
健太が指示を出すより早く、ジュゲムが転がる長柄斧に近づき、蹴って遠くに飛ばす。
「ナイス、ジュゲム。その調子だ!」
「グウ!」
その後、武器を失ったコボルトキングの生存時間は一分に満たなかった。
「思ったよりも、あっけなかったな」
戦利品であるコボルトキングのクリスタルと、ドロップした長柄斧を手に取りながら、健太はそう素直な感想を漏らした。
実際、コボルトキングは率直に言って弱かった。これならば、ゴブリンを二桁以上まとめて相手取った時の方が手こずったくらいだ。
大柄なコボルトキングが使用していた長柄斧は、見た目はとても強そうだ。床に突いて立てると頂点部が健太の目線より高いところにある。恐らく、全長百六十センチから百七十センチの間くらいだろう。重さもそれにふさわしいくらいあるのだろうが、今の健太にとっては片手どころか、指二本でも持ち上げられる。
鈍い灰褐色の金属製の長柄斧は、今の時期の一年生にとっては主武器となりうる逸品なのだろうが、あいにく健太は今、主に片手剣と盾を履修中だ。例え『
「ジュゲム。お前使うか?」
一応、健太は忠実な召喚モンスターにそう聞いてみる。
ゴブリン
だが、ジュゲムは迷わず首を横に振った。
「ウグ」
「ん、なら良い。これは売ってしまおう。その金で可能なら、『
健太の剣と盾も、ジュゲムの武器一式も、今のところ文句はないがバージョンアップできるのならば、頼みたいところだ。
特に重要なのが、未だ初期のボディーアーマーのままの健太の鎧だ。
後衛や『盗賊』ならば、あえて重い鎧は身に着けず、制服だけという上級者も珍しくはないのだが、健太が現状唯一の第二段階職業は『
半端な攻撃は体で受け止めることができる、信頼性の高い鎧があると戦いの幅が広がる。
「それにしても、コボルトキングは弱いな。少し、試したみた方が良いか」
健太は、ビッグジャイアントを消し、ジュゲムもカードに戻す。腕時計で今の時間を確認。覚えているが万が一がないように、『
それらの確認を終え、健太は『
「《時間軸逆走、三十分》」
「ゴアア!」
「確かにこの手に持っていたはずの、クリスタルもドロップ武器も消え失せるのは、何とも不思議な気分だな」
体感的にはつい先ほど倒したコボルトキングに再度遭遇しながら、健太は思わずそんな言葉を漏らす。
三十分前の健太はまだコボルトキングを倒していないので、そのクリスタルも長柄斧も持っていないのは、当然と言えば当然なのだがなんとなく理不尽にも感じられる。まあ、『
「ともあれ、検証を続けるか。行くぞ、ジュゲム」
「グッ!」
『
今度は、『
先ほどの手ごたえからすると、これでも問題なく勝てるはず。
そんな健太の予測は外れていなかった。それから五分後。
「よくやった、ジュゲム」
「ギイ」
健太とジュゲムは、手傷と呼べるほどの傷も負わず、コボルトキングを屠ることに成功した。
「《時間軸逆走、三十分》」
「シギャア!」
三度目の挑戦は、健太一人での挑戦だ。
左腕に丸盾、右手に小剣。それだけを頼りに健太は、コボルトキングの前に立つ。
「ジャア!」
「ふんっ!」
斜め上から振り下ろされる長柄斧の一撃を、健太は左腕に装備された丸盾で受け流し、同時に一歩踏み込み右手の小剣を振るう。
「ギャッ!?」
身長百七十センチ強の健太では、推定百九十センチ以上のコボルトキングの首から上を狙うのは、少し厳しい。だから、健太の入れた一撃は、コボルトキングの胸板だ。そこは弱点でも重要か所でもないないが、最初は少しずつダメージを積み重ねていくことが重要だ。
「ヒギッ」
(体格もリーチも、明確に敵が上。ならば、あえて先に攻撃させて、捌いたうえで距離を詰める)
幸い、第一段階の
コボルトキングが両手で振り下ろす長柄斧の一撃を、左一本で受け流すことができる。この程度ならば、受け止めることも、はじき返すことも可能だろう。
しかし、盾術の講師が言うに、腕に装着するタイプの小型盾は、受け流しが基本らしい。
だから、健太は全ての攻撃を受け流す。
受け流しながら、一歩距離を詰めて、攻撃。受け流しながら、一歩距離を詰めて、攻撃。
頭の悪い下層レベルのモンスターが相手なら、愚直に同じ行動を繰り返す健太のやり方でも、またまだ通用する。
紙一重で回避できるような素晴らしい防御ではない。一撃で敵を絶命させられるような、とてつもない攻撃力ではない。針に糸を通すような精密な攻撃には程遠い。
だが、習い覚えた防御と攻撃を、揺れない心で黙々と繰り返す健太の戦闘方法は、最後までコボルトキングに一瞬の勝機も与えず、勝利したのだった。
「……苦戦する相手ではない。これなら、百回やれば百回勝てる」
ビッグジャイアントもジュゲムも使わずに勝利した健太は、自分とコボルトキングの戦力差をそう、評価する。
ゴブリンやコボルトにも個体差があるように、コボルトキングにも個体差はある。恐らく、これはまだ『
健太は、ふと一つの可能性に思い至る。
「ひょっとして、この程度ならば……《時間軸逆走、三十分》」
「グギャア!」
「グン!」
三度目の『
三度のコボルトキング戦で健太が推測した通り、戦況はジュゲムが優勢である。ただし、流石にSP総量はコボルトキングの方が上だ。僅かなミスや不運で、ひっくり返りそうな勝敗。何よりあまり時間がかかりすぎれば、『
幸い、『
「ジュゲム、加勢するぞ」
そう言って健太は、後方から『
「ギャン!」
健太の『石弾』は、コボルトキングの頭部に着弾した。
これまで健太は地、水、火、風の魔法を一通り試しているが、どうやら地が一番相性が良いようだ。『
元々、ジュゲムが優勢だったところに、強力な援護射撃が入ったのだ。
ほどなくして、コボルトキングはジュゲムの槍の前に、瘴気へと返っていった。
「よくやった、ジュゲム。お前は強いな」
「ギギ」
主である健太の誉め言葉に、ゴブリン
「考えてみれば、通常のゴブリンが人間のノービスに相当するのだとすれば、ゴブリン槍兵が第一段階職、ゴブリン槍騎士は第二段階職になるのか。強くて当たり前なのかもしれんな」
通常のゴブリンとノービスの人間は、レベルが同じならば確実に人間が強いと言えるくらい差があるが、それでも第二段階職だと思えば確かにその強さに納得もいく。無論、ゴブリンのクラスチェンジが人間と同程度に強化されるという前提が正しい保証はないが。
しかし、そう考えてみれば、ジュゲムはゴブリン槍騎士、騎士なのだ。
人間の場合は、『
通常のゴブリンは一メートル前後で、一般的な馬に乗るのは無理があるが、ゴブリン槍騎士になったジュゲムは百六十センチ前後はある。むしろ、体格の大きな人間より騎手向きの体型とすら言えそうだ。
「色々、可能性がありそうだな」
「グウ」
健太の言葉を理解しているのか、ジュゲムは低い声を発した。
翌日の昼休み。いつも通り健太は一人で昼食を取っていた。コボルトキングのクリスタルとドロップ武器に、思った以上の高値が付いたため、昼食を奮発できるのが嬉しい。ちなみに、『
一縷の望みを託して、カードも拾っておいたのだが、やはりそこまで上手い話はなかった。ダンジョンダイブ中はほぼ『
豊葦原学園の生徒の大半は、ここ学食で昼食を取る。もしかすると、
そんな安心感から、スライスバゲットの固さを口の中で楽しんでいた健太の耳に、突如とてつもない怒声が届く。
「この
「……ああ、今日だったか」
反射的に『