――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『
休日である日曜日は、『
午前九時に開門し、正午の閉門。午後一時に開門して、午後五時に閉門の二回だ。
日曜は休日ということもあり、わざわざダンジョンまでくる生徒は少ない。ましてや、二回開閉するからと言って、午前午後と二回ダイブする者は本当に少ない。
本日の健太は、その数少ない休日二回ダイバーだった。
玄室の中で、大量のゴブリンが悲鳴を上げ、次々と屠られていく。屠っているのは、小剣と小型盾を持った男と、両手持ちの槍を持ち、左腕に小型盾を嵌めた立派な体格のゴブリン。健太とその召喚モンスターのジュゲムである。
「イギ……!」
最後の一匹が、逃げようとしたところを背後から、ジュゲムの槍に後頭部を突かれ絶命する。
「よし。順調だな」
『
もはや、この辺りのゴブリンならば、何匹同時でも敵ではない。そもそも、ゴブリンの攻撃を素肌に食らっても、油断していなければダメージにならないのだ。
前回までは、コボルトキングとの対戦を求めて、『
これが出来るのは、『
ソロなのに、毎回好きな場所をダイブポイントに選べる健太の利点は、非常に大きい。
その後もジュゲムと二人で、健太は黙々とゴブリンを屠っていく。玄室を一つクリアする度に『
たまに、単独で行動している光点も見つけると即座に移動する。
この辺りで単独行動をしているモンスターは、ゴブリンの『
正直、今の自分ならばゴブリンの『超越個体』にも勝てるだろうとは思うのだが、ソロの健太に大きな危険は冒せない。
以前の実験で、ジュゲムではないゴブリンの『モンスターカード』を使用し、そのゴブリンに戦闘を命じたまま、自分は『
そのため、最悪の場合、『モンスターカード』のモンスターに
そして、健太が逃げるしかないような強敵相手に、時間稼ぎが出来そうな『モンスターカード』は現状、ジュゲムしかいない。ジュゲムの信頼を損なうような手段は、出来るだけ取りたくない。
だから、健太はゴブリンの『
「《時間軸逆走、四十分》」
『
最初の何周かは、ジュゲムと一緒に戦っていたのだが、途中から明らかにジュゲムの強さが変わらなくなってきたのだ。恐らくジュゲムは『ゴブリン
もっと頑張れば突破できる可能性も無きにしも非ずだが、健太としては何か別の条件があるのではないか、と睨んでいる。
考えられる条件は二つ。一つは、
『
そして騎士系の第三段階職業には、特定の騎獣を得ていることが条件となっている職業が存在する。中には、騎獣ではなく、同性質の
ゴブリン
もう一つの可能性は、単純にダンジョンのレベルキャップに引っかかっている、という可能性だ。
あくまで人間の話だが、『羅城門』ダンジョンでは、地下二十階層を突破できないと、第四段階
知らない人間が多いのは、第三段階職業に至る頃には、大概地下十階より下を探索しているので、「気が付いたらクリアしていた」レベルキャップになっているからだ。
ジュゲムの場合、ゴブリンをノービス――第零段階職業として数えれば、現在のゴブリン
もちろん、どちらでもなく、前回同様粘ればクラスチェンジできるのかもしれないが、駄目だった場合経験値が半分無駄になる。召喚モンスターが倒した経験値は、『モンスターカード』と召喚者で二等分なのだ。
今はジュゲムよりも健太自身の強化が急務という問題もある。
(叶馬と一騎打ち。実現の可能性は低いが、確率で叶馬の行動を語ることは、無意味を通り越して有害だ。ここは、絶対実現されると思って用意すべき)
『
六月の部活対抗戦。またの名を『水無月杯』。原作では、叶馬の倶楽部である『
玄室から玄室へ。一人で黙々とゴブリンを屠りながら、健太は考える。
(考えられるのは、原作で『神匠騎士団』が倒した決勝トーナメントの一回戦か二回戦の相手に俺の倶楽部が入れ替わる展開か。流石に三回戦の相手にとって代わる展開はないと思うが)
その場合、『神匠騎士団』か健太の倶楽部か、どちらかがBランクになってしまう。『神匠騎士団』がBになれば原作が大幅にずれるし、健太の倶楽部がBになれば、間違いなく健太の周りがうるさくなる。どちらも避けたい。
もちろん、健太の倶楽部が弱くて、予選を突破できずに終わる可能性も十分にあるのだが(一年主体の倶楽部の場合そちらの方が一般的だ)、その場合は流石に叶馬も許してくれるだろう。許してくれるはずだ。
そうして、ダンジョン内で同じ時間を何十周もつづけた健太の脳裏に、最近あまり見ていなかった情報が映る。
「『
いかに『
健太は脳裏に浮かぶ転職可能な職業を確認する。
『
『
『
以上が今回
『剣士』、『盾士』は前からあったので問題はない。だが、『槍士』と『拳士』が疑問だ。『騎士』に転職してから今まで、槍や素手でモンスターを攻撃したことは一度もない。
「しいて言えば、ジュゲムが槍、ビッグジャイアントが素手で戦っていたな。それが反映されるのか?」
健太が思いつくのはそれくらいだ。職業を重ねられるのは健太だけなので、他の『文官』『職人』には無意味だが、実は召喚モンスターや強化外装骨格の戦闘も本人と経験として蓄積され、転職の可能性を開いているのかもしれない。
『山賊』はアーキタイプの『盗賊』をパワーよりにしたレア職だ。重ねる一つとしては悪くないが、優先順位は低い。
『土術士』『火術士』『風術士』『水術士』は、『
完全無欠に謎なのは、『祓魔士』だ。
魔を祓う。広義ではダンジョンでのモンスター退治も魔を祓う行為かも知れないが、それだけで候補に挙がる職業ならば、もっと『祓魔士』は学園にたくさんいるはずだ。
『
こういう一般的な攻撃が効きづらい敵に『刺さる』隠し札はあって損はないのだが、優先順位を考えればどうすべきか悩ましい。
なぜならば、今回転職可能になった職業はまだまだあるのだ。
『
『
『
『
『
『
『
以上が現在転職可能な、第二段階職である。
『闘士』『強盗』『魔術士』は、それぞれ『戦士』『盗賊』『術士』の正当進化型第二段階職だ。癖がなく、確実に強くなれることは間違いないが、ゴブリンしかいない地下三階で第二段階職を次の転職可能なレベル30まで上げようと思うと、またとんでもない回数の『
現状、心身にダメージは無いように思えるが、ある程度様子を見ながらの方が良いかもしれない。
そう言う意味では、『癒し手』の第二段階職である『司祭』、『職人』の第二段階職である『鍛冶士』と『彫金士』、『文官』の第二段階職である『書記』と『案内人』も同様だ。
こちらは、強いというより、「使える」「出来ることが増える」という意味で強力だが、地下三階でのレベルを上げるのが厳しいのは変わらない。
その厳しさを踏まえたうえでも、健太が少し興味を引かれているのが、『
こちらは、恐らく術士系のSR(スーパーレア)第二段階職だろう。ただし、学園の図書館の資料には情報が一切ない。少なくとも健太が『
ただし、こちらは、『祓魔士』と違ってなぜ転職可能候補に出たのか、健太には心当たりがある。その心当たりのためには、是非とも習得したいところだが、レベル上げが大変という問題は付きまとう。
レベル上げに伴う問題の大変さは『
「まあ、叶馬のこともある。今は、守りを固めるのを優先するか」
悩んだ末に健太が出した答えは、『
第二段階職である『
「ギャワッ!?」
「とはいえ、ゴブリン相手では、ほとんど強くなった実感が得られないところまで来ているな」
広い玄室内にいた十匹を超えるゴブリンを、出来るだけ左腕の丸盾を使用するようにして殲滅した健太は、そんな感想を漏らした。
これは、『
流石にこれは、もうゴブリンの『
自分に許可を出した健太は、『
このあたりで、単独行動しているモンスターは、ゴブリンの『
「……行くか。《出番だ、ジュゲム》《具現しろ、ビッグジャイアント》」
健太は《モンスターカード』から、ゴブリン
結論から言うと、健太はやはり相当な慎重派なのだろう。
「グガア!」
初めて相対したゴブリン『
身長は百八十を優に超え、下手に人間よりバランスの取れた綺麗な体躯をしたそのゴブリンは、長剣と細長い方形盾で武装し、確かに一般的なゴブリンとは別次元の強さを誇っていたが、今の健太と比べれば次元の違う弱さだった。
戦場が狭い通路ということもあり、ビッグジャイアントは早々に送還した。
今は、健太自身が『超越個体』の前に立ち、その後ろからジュゲムが槍のリーチを生かして攻撃を加えているが、ジュゲムの支援も必要ないくらいだ。
「グン!」
「はっ!」
『超越個体』の剣撃を、健太は踏み込みながら丸盾で受け流し、同時に右手の小剣で攻撃する。体の強さ、動きの素早さ、武器の扱いの巧みさは、以前倒したコボルトの『超越個体』――コボルトキングより数段上だが、体格が一回り小さく、武器も剣ということでリーチが短い分、正直コボルトキングの時よりさらに楽勝だ。
直接の戦闘時間は、三分にも満たないだろう。
「ギイ……!」
健太が相対した初めてのゴブリン『超越個体』――推定ゴブリンヒーローは、健太に一筋の傷をつけることも出来ず、瘴気へと返っていった。
「倒したか。ジュゲムよくやった。戦いやすかったぞ。もう少し、周囲を警戒していてくれ」
「グウ」
忠実なジュゲムに警戒を頼み、健太は推定ゴブリンヒーローが残した戦利品を拾い上げる。
推定ゴブリンヒーローが残したのは、野球のボールほどの大きさのモンスタークリスタルと、細長い方形盾。『超越個体』がドロップしやすいというのは、やはり事実のようだ。
ほとんど息も乱していない健太は、モンスタークリスタルは無造作に袋に仕舞い、方形盾は直接触らないように、慎重に紐で縛って持ち上げる。『超越個体』がドロップする武具は、ほぼすべて『
「となると、今日はここまでか」
健太はそう、冷静に呟く。『
「後は、次の
それまでのゴブリン退治と、今回の推定ゴブリンヒーローの経験値で、健太は早くも『