※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第二十三話 休日午前のダンジョンダイブ、成果は転職と概念器物

 

 

 

 

――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――

 

 ――第『(さん)』階層、『既知外(きちがい)』領域――

 

 

 

 

  休日である日曜日は、『羅城門(らじょうもん)』は一日に二回開閉する。

 午前九時に開門し、正午の閉門。午後一時に開門して、午後五時に閉門の二回だ。

 日曜は休日ということもあり、わざわざダンジョンまでくる生徒は少ない。ましてや、二回開閉するからと言って、午前午後と二回ダイブする者は本当に少ない。

 本日の健太は、その数少ない休日二回ダイバーだった。

 

 玄室の中で、大量のゴブリンが悲鳴を上げ、次々と屠られていく。屠っているのは、小剣と小型盾を持った男と、両手持ちの槍を持ち、左腕に小型盾を嵌めた立派な体格のゴブリン。健太とその召喚モンスターのジュゲムである。

 

「イギ……!」

 

 最後の一匹が、逃げようとしたところを背後から、ジュゲムの槍に後頭部を突かれ絶命する。

 

「よし。順調だな」

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太は、淡々の今の自分を顧みる。

 もはや、この辺りのゴブリンならば、何匹同時でも敵ではない。そもそも、ゴブリンの攻撃を素肌に食らっても、油断していなければダメージにならないのだ。

 前回までは、コボルトキングとの対戦を求めて、『既知外(きちがい)』領域でもかなり『既知(きち)』領域に近い場所を探索していたが、今回は最初から既知領域からはるかに離れた地点をダイブポイントに選んでいる。

 これが出来るのは、『文官(オフィサー)』だけだ。『文官』ならば、自分が座標を把握しているポイントを好きにダイブポイントとして選ぶことができる。文官がいなければ、前回ログアウトした場所が自動的に、次回のダイブポイントだ。

 

 ソロなのに、毎回好きな場所をダイブポイントに選べる健太の利点は、非常に大きい。

 

 その後もジュゲムと二人で、健太は黙々とゴブリンを屠っていく。玄室を一つクリアする度に『索敵(サーチエネミー)』を使用して、周囲の状況を確認することも忘れない。

 たまに、単独で行動している光点も見つけると即座に移動する。

 この辺りで単独行動をしているモンスターは、ゴブリンの『超越個体(オーバーボーダー)』以外存在しない。

 正直、今の自分ならばゴブリンの『超越個体』にも勝てるだろうとは思うのだが、ソロの健太に大きな危険は冒せない。

 

 以前の実験で、ジュゲムではないゴブリンの『モンスターカード』を使用し、そのゴブリンに戦闘を命じたまま、自分は『遊び人(ニート)』のスキルである『脱出(エクソダス)』を使用したことがある。その結果、健太は無事ダンジョンから脱出できた。『脱出』のスキルを使ったときは白紙になっていたゴブリンの『モンスターカード』も、ダンジョンの外で見てみるとちゃんとゴブリンの絵が描かれていた。

 そのため、最悪の場合、『モンスターカード』のモンスターに殿(しんがり)を任せ、『脱出』のスキルで逃げるという手段はあるのだが、マスクデータとして存在すると言われている、モンスターからの好感度、信頼度は確実に落ちるだろう。

 そして、健太が逃げるしかないような強敵相手に、時間稼ぎが出来そうな『モンスターカード』は現状、ジュゲムしかいない。ジュゲムの信頼を損なうような手段は、出来るだけ取りたくない。

 

 だから、健太はゴブリンの『超越個体(オーバーボーダー)』相手でも、確実に勝てると確信が持てるまでレベルを上げてから挑むことにした。

 

「《時間軸逆走、四十分》」

 

 

 

 

 

周回レベル上げ(タイムターナー)』を何度も繰り返し、レベル上げに勤しむ健太は、現状一人で戦っていた。

 最初の何周かは、ジュゲムと一緒に戦っていたのだが、途中から明らかにジュゲムの強さが変わらなくなってきたのだ。恐らくジュゲムは『ゴブリン槍騎士(ランスナイト)』として、レベルが限界に達している。前回、『ゴブリン槍兵(ランサー)』から『ゴブリン槍騎士(ランスナイト)』にクラスチェンジした時には、しばらく強さが変わらなくなっても粘って戦わせ続けた結果、壁を突破出来たのだが、今回はしばらく頑張っても駄目だった。

 もっと頑張れば突破できる可能性も無きにしも非ずだが、健太としては何か別の条件があるのではないか、と睨んでいる。

 

 考えられる条件は二つ。一つは、騎獣(パトリオット)の有無だ。騎士系の職業(クラス)は、特定のモンスターを倒して従えることで、騎獣として操ることができるようになっている。

戦士(ファイター)』系の第二段階職業(クラス)である『騎士(ナイト)』を得ている健太も、騎獣となりうるモンスターを倒せば、ゲット可能なはずだ。

 そして騎士系の第三段階職業には、特定の騎獣を得ていることが条件となっている職業が存在する。中には、騎獣ではなく、同性質の概念器物(マジックアイテム)を所有していれば代用できることもあるので、少々ややこしいのだが。

 ゴブリン槍騎士(ランスナイト)のクラスチェンジ先は、その手の特定の騎獣、もしくは概念器物が無ければなれない職業しかない、という可能性がある。

 

 もう一つの可能性は、単純にダンジョンのレベルキャップに引っかかっている、という可能性だ。

 あくまで人間の話だが、『羅城門』ダンジョンでは、地下二十階層を突破できないと、第四段階職業(クラス)にはなれない、というレベルキャップが有名だ。だが、意外と知らない人間もいるが、実はレベルキャップは地下十階にも存在している。こちらは、突破ではなく到達だが(つまり条件は地下九階層を突破)、地下十階に到達しない限り、第三段階職業には転職(クラスチェンジ)出来ないのである。

 知らない人間が多いのは、第三段階職業に至る頃には、大概地下十階より下を探索しているので、「気が付いたらクリアしていた」レベルキャップになっているからだ。

 ジュゲムの場合、ゴブリンをノービス――第零段階職業として数えれば、現在のゴブリン槍騎士(ランスナイト)は、第二段階職業に相当する。次は第三段階職業だ。モンスターカードの成長にもレベルキャップが適応されるのだとすれば、ジュゲムがクラスチェンジ出来ない理由としては納得がいく。

 

 もちろん、どちらでもなく、前回同様粘ればクラスチェンジできるのかもしれないが、駄目だった場合経験値が半分無駄になる。召喚モンスターが倒した経験値は、『モンスターカード』と召喚者で二等分なのだ。

 今はジュゲムよりも健太自身の強化が急務という問題もある。

 

(叶馬と一騎打ち。実現の可能性は低いが、確率で叶馬の行動を語ることは、無意味を通り越して有害だ。ここは、絶対実現されると思って用意すべき)

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太は、冷静にそう自分を律した。

 六月の部活対抗戦。またの名を『水無月杯』。原作では、叶馬の倶楽部である『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』は余裕で予選を突破し、決勝トーナメントを二つ勝ち抜け、三つ目で叶馬がブチギレ反則負けをする。結果、『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』はCランクとなる。決勝トーナメントの三つ目を勝っておけばBランクだったらしいが、これで一年が目立ちすぎないギリギリのところという描写だった。

 

 玄室から玄室へ。一人で黙々とゴブリンを屠りながら、健太は考える。

 

(考えられるのは、原作で『神匠騎士団』が倒した決勝トーナメントの一回戦か二回戦の相手に俺の倶楽部が入れ替わる展開か。流石に三回戦の相手にとって代わる展開はないと思うが)

 

 その場合、『神匠騎士団』か健太の倶楽部か、どちらかがBランクになってしまう。『神匠騎士団』がBになれば原作が大幅にずれるし、健太の倶楽部がBになれば、間違いなく健太の周りがうるさくなる。どちらも避けたい。

 もちろん、健太の倶楽部が弱くて、予選を突破できずに終わる可能性も十分にあるのだが(一年主体の倶楽部の場合そちらの方が一般的だ)、その場合は流石に叶馬も許してくれるだろう。許してくれるはずだ。

 

 そうして、ダンジョン内で同じ時間を何十周もつづけた健太の脳裏に、最近あまり見ていなかった情報が映る。

 

「『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』が発動したか。騎士(ナイト)がレベル30に達したということだな」

 

 いかに『既知外(きちがい)』領域とはいえ、ゴブリンしかいない地下三階層で、第二段階職業をレベル30まで持っていくのは中々に骨が折れた。『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がなければ、確実に途中でだらけて致命的な失敗をしていただろう。

 

 健太は脳裏に浮かぶ転職可能な職業を確認する。

 

剣士(ブレイダー)』『盾士(シールダー)』『槍士(ランサー)』『拳士(パンチャー)

山賊(バンデッド)

土術士(ソイルマギ)』『火術士(フレイムマギ)』『風術士(ウィンドマギ)』『水術士(ウォーターマギ)』『祓魔士(エクソシスト)

 

 以上が今回転職(クラスチェンジ)候補として挙がった、第一段階職だ。

『剣士』、『盾士』は前からあったので問題はない。だが、『槍士』と『拳士』が疑問だ。『騎士』に転職してから今まで、槍や素手でモンスターを攻撃したことは一度もない。

 

「しいて言えば、ジュゲムが槍、ビッグジャイアントが素手で戦っていたな。それが反映されるのか?」

 

 健太が思いつくのはそれくらいだ。職業を重ねられるのは健太だけなので、他の『文官』『職人』には無意味だが、実は召喚モンスターや強化外装骨格の戦闘も本人と経験として蓄積され、転職の可能性を開いているのかもしれない。

 

『山賊』はアーキタイプの『盗賊』をパワーよりにしたレア職だ。重ねる一つとしては悪くないが、優先順位は低い。

 

『土術士』『火術士』『風術士』『水術士』は、『石弾(ストーンブリッド)』、『火弾(ファイヤーブリッド)』、『風弾(エアブリッド)』、『水弾(ウォーターブリッド)』の術士スキルを使用した経験から生じたのだろう。ぞれぞれの属性魔法がなじむようになるのであれば、一考の価値はある。

 完全無欠に謎なのは、『祓魔士』だ。

 魔を祓う。広義ではダンジョンでのモンスター退治も魔を祓う行為かも知れないが、それだけで候補に挙がる職業ならば、もっと『祓魔士』は学園にたくさんいるはずだ。

脳外記憶領域(クラウドストレージ)』に落とした図書館の資料を確認した限りでは、『祓魔士』は術士系の中でも特異で、一般的なモンスターに対する攻撃手段に乏しい代わりに、通常の攻撃が効きにくい非実体系のモンスターを得意とするらしい。

 こういう一般的な攻撃が効きづらい敵に『刺さる』隠し札はあって損はないのだが、優先順位を考えればどうすべきか悩ましい。

 なぜならば、今回転職可能になった職業はまだまだあるのだ。

 

闘士(ウォーリア)

強盗(ローグ)

魔術士(ウィザード)』『文字魔術士(ルーンウィザード)

司祭(プリースト)

鍛冶士(ブラックスミス)』『彫金士(ホワイトスミス)

書記(レコーダー)』『案内人(パスフェンダー)

引き籠り(パラサイト)』『一人上手(オナニスト)

 

 以上が現在転職可能な、第二段階職である。

 

『闘士』『強盗』『魔術士』は、それぞれ『戦士』『盗賊』『術士』の正当進化型第二段階職だ。癖がなく、確実に強くなれることは間違いないが、ゴブリンしかいない地下三階で第二段階職を次の転職可能なレベル30まで上げようと思うと、またとんでもない回数の『周回レベル上げ(タイムターナー)』をやる羽目になる。

 現状、心身にダメージは無いように思えるが、ある程度様子を見ながらの方が良いかもしれない。

 そう言う意味では、『癒し手』の第二段階職である『司祭』、『職人』の第二段階職である『鍛冶士』と『彫金士』、『文官』の第二段階職である『書記』と『案内人』も同様だ。

 こちらは、強いというより、「使える」「出来ることが増える」という意味で強力だが、地下三階でのレベルを上げるのが厳しいのは変わらない。

 その厳しさを踏まえたうえでも、健太が少し興味を引かれているのが、『文字魔術士(ルーンウィザード)』だ。

 こちらは、恐らく術士系のSR(スーパーレア)第二段階職だろう。ただし、学園の図書館の資料には情報が一切ない。少なくとも健太が『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』に落としてある資料には書かれていない。

 

 ただし、こちらは、『祓魔士』と違ってなぜ転職可能候補に出たのか、健太には心当たりがある。その心当たりのためには、是非とも習得したいところだが、レベル上げが大変という問題は付きまとう。

 レベル上げに伴う問題の大変さは『周回レベル上げ(タイムターナー)』で、精神的な疲労以外は解決するのだが、その精神的な疲労というのが、どの程度なのか読めないのが若干怖い。『戦士の不動心(マインドスイッチ)』があれば問題なしなのか、気づかないどこかでジワジワとメンタルダメージがたまっているのか、分からない。

 

「まあ、叶馬のこともある。今は、守りを固めるのを優先するか」

 

 悩んだ末に健太が出した答えは、『盾士(シールダー)』だった。

 

 

 

 

 第二段階職である『騎士(ナイト)』から、第一段階職の『盾士(シールダー)』になる、と言えば弱体化しそうなイメージだが、健太の場合は全くそのようなことはない。原則すべての職が重なるのだから、第一段階職だろうが転職すればするだけ強くなる。

 

「ギャワッ!?」

 

「とはいえ、ゴブリン相手では、ほとんど強くなった実感が得られないところまで来ているな」

 

 広い玄室内にいた十匹を超えるゴブリンを、出来るだけ左腕の丸盾を使用するようにして殲滅した健太は、そんな感想を漏らした。転職(クラスチェンジ)後、すでにいくつかの玄室のゴブリンを殲滅したのだが、全く相手にならない。

 これは、『盾士(シールダー)』を重ねた影響というより、その前の『騎士(ナイト)』を転職可能なレベル30まで上げてしまった影響だろう。複数の職を重ねられる健太でなくとも、第二段階職がレベル30までいけば、普通ゴブリンの相手はしない。

 流石にこれは、もうゴブリンの『超越個体(オーバーボーダー)』を狙っても大丈夫だろう。

 

 自分に許可を出した健太は、『索敵(サーチエネミー)』のスキルで周囲のモンスターを探る。すると、比較的近くの通路に、一つだけ離れた光点がある。

 このあたりで、単独行動しているモンスターは、ゴブリンの『超越個体(オーバーボーダー)』しかいない。

 

「……行くか。《出番だ、ジュゲム》《具現しろ、ビッグジャイアント》」

 

 健太は《モンスターカード』から、ゴブリン槍騎士(ランスナイト)のジュゲムを、『職人(オフィサー)』の『強化外装骨格(アームドゴーレム)』のスキルでビッグジャイアントを連続して具現化し、ゴブリン『超越個体(オーバーボーダー)』のいるポイントへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、健太はやはり相当な慎重派なのだろう。

 

「グガア!」

 

 初めて相対したゴブリン『超越個体(オーバーボーダー)』は、はっきり言えば雑魚だった。

 身長は百八十を優に超え、下手に人間よりバランスの取れた綺麗な体躯をしたそのゴブリンは、長剣と細長い方形盾で武装し、確かに一般的なゴブリンとは別次元の強さを誇っていたが、今の健太と比べれば次元の違う弱さだった。

 

 戦場が狭い通路ということもあり、ビッグジャイアントは早々に送還した。

 今は、健太自身が『超越個体』の前に立ち、その後ろからジュゲムが槍のリーチを生かして攻撃を加えているが、ジュゲムの支援も必要ないくらいだ。

 

「グン!」

 

「はっ!」

 

『超越個体』の剣撃を、健太は踏み込みながら丸盾で受け流し、同時に右手の小剣で攻撃する。体の強さ、動きの素早さ、武器の扱いの巧みさは、以前倒したコボルトの『超越個体』――コボルトキングより数段上だが、体格が一回り小さく、武器も剣ということでリーチが短い分、正直コボルトキングの時よりさらに楽勝だ。

 直接の戦闘時間は、三分にも満たないだろう。

 

「ギイ……!」

 

 健太が相対した初めてのゴブリン『超越個体』――推定ゴブリンヒーローは、健太に一筋の傷をつけることも出来ず、瘴気へと返っていった。

 

「倒したか。ジュゲムよくやった。戦いやすかったぞ。もう少し、周囲を警戒していてくれ」

 

「グウ」

 

 忠実なジュゲムに警戒を頼み、健太は推定ゴブリンヒーローが残した戦利品を拾い上げる。

 推定ゴブリンヒーローが残したのは、野球のボールほどの大きさのモンスタークリスタルと、細長い方形盾。『超越個体』がドロップしやすいというのは、やはり事実のようだ。

 ほとんど息も乱していない健太は、モンスタークリスタルは無造作に袋に仕舞い、方形盾は直接触らないように、慎重に紐で縛って持ち上げる。『超越個体』がドロップする武具は、ほぼすべて『概念器物(マジックアイテム)』だが、結構な割合で使い手に不具合を生じさせる『呪詛武具(カースウェポン)』が含まれているのだ。取り扱いは、慎重にするべきだ。

 

「となると、今日はここまでか」

 

 健太はそう、冷静に呟く。『呪詛武具(カースウェポン)』かも知れない物を持ち歩いて、『周回レベル上げ(タイムターナー)』の使用は流石に危険だ。

 

「後は、次の転職(クラスチェンジ)先をどうするかだな」

 

 それまでのゴブリン退治と、今回の推定ゴブリンヒーローの経験値で、健太は早くも『盾士(シールダー)』がレベル20に達していた。

 

 

 

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