翌朝、
もちろん、この年頃の男なら誰でもそうだし、豊葦原学園の男子生徒ならなおさらだが、寝起きのモノは固く勃起している。性欲も感じる。だが、今までのような「これはヤバい」という衝動ではない。
なにより、その性欲を受け入れてくれた人が今もすぐそばにいるのだと思うと、むしろ『
「
まだ寝息を立てているその顔を見ながら、健太は彼女の名前を呼ぶ。前世も通して初めての女性が、こんな素晴らしい女性であったことが、信じられない。この世界に転生させられた時は、しばらく立ち上がれないくらいに落ち込んだが、今は上位存在に感謝してもしきれない。幸せはここにあったのだ。
昨晩は、蘭が力尽きて意識を失うまで頑張ってしまった。その後、恥を忍んで寮の洗面所に行き、お湯を貰ってきて自分と蘭の体をタオルで拭き、出来るだけ綺麗にした。
流石に、意識を失っている女性に服を着せるようなスキルが、脱童貞したばかりの健太にあるはずもない。だから、蘭も健太も裸のまま、昨晩は就寝についた。もちろん、自分だけ服を着ようと思えば着ることは出来たが、せっかく裸の蘭と一緒に寝ることができるのに、服を着る気には慣れなかった。
腕枕や抱き合っての就寝にも魅力を感じたが、意識を失い、そのまま眠りに入った蘭にあまり刺激を与えたくなかったため、そのまま寝た。
布団をめくると、蘭の裸体が目に飛び込む。
「本当、滅茶苦茶綺麗だよな」
思わず、健太の口からそんな言葉が漏れる。
実際、蘭の裸体は見ほれるほどに美しい。肌はあくまで健康的な範囲で白く、胸の大きさ、ウエストの細さ、尻の豊かさはこうして寝ていても分かるほどだ。昨晩はあれだけ夢中で貪った体なのに、こうして見ていると、昨晩の出来事が都合の良い夢だったのではないか、と思えてしまう。
夢ではないことを確認するために、『
健太がそんなことを考えていると、瞑られていた蘭の双眸がゆっくりと開かれた。
「……ご主人様? おはようございます」
目を覚ました蘭は、裸のままゆっくりと起き上がる。布団がめくれて、健太の下半身も露わになる。当然のように健太の肉棒は、固く勃起したままだ。それを見た蘭は、嬉しそうに笑う。
「朝のご奉仕をしてもよろしいでしょうか、ご主人様?」
蘭の提案を反射的に受け入れかけた健太は、どうにか踏みとどまって首を横に振る。
「いえ、やめときます。始めたら絶対今日ズル休みしちゃいますから」
こうして裸の蘭を見ているだけでも、「ダンジョン実習さえこなしていれば、学校は卒業できる」「一般科目はどれだけ悪くても進学、卒業に影響はない」「そもそもまだ一度もサボっていないのだから、今日一日ぐらいは誤差なのでは」などという言葉が、頭の中を駆け巡っているのだ。
健太としては、これ以上誘惑しないで欲しいところである。
「ずる休みしてはいけないのですか?」と言われたら、八割くらいの確率でグラッと来る。「しちゃいましょうよ、ずる休み」と言われたら、次の瞬間ずる休み決定だ。
だから、健太は返答を待たずに、こちらの質問をぶつける。
「ところでその先輩の口調と、俺の呼び方は、その……先輩が俺のパートナーになる条件を満たせたってことですよね?」
健太の昨晩の記憶はかなりあいまいなのだ。後半、蘭の呼び方と口調は今のようになっていた気がするが、はっきりとは断言できない。それくらい、昨晩は感情と勢いだけで突っ走った。
そんな健太の問いに、蘭は頬を紅潮させ、嬉しそうに笑うと裸のままベッドの上で正座をする。
「はい、ご主人様。蘭をパートナーにしてくださるのなら、これに勝る幸せはございません。謹んで御受けいたします」
そう言って、ベッドに額をつけるようにして、深々と頭を下げる。真っ白な背中が綺麗だ。
「あ、うん。それなら、良かったです。今日は早めに出て、朝一で届け出を済ませてしまいましょう。ところで、その呼び方と口調は?」
朧げな記憶では、昨夜グチャグチャに睦あっていた時は、「ご主人様」呼ばわりもその丁寧な口調もすごく興奮したのだが、朝になってみると違和感が凄い。正直、人前でやられるとかなり恥ずかしい。
そんな健太の思いを表情から読み取ったのか、頭を上げた蘭は正座は崩さず、
「以前のような口調の方がお好みでしょうか?」
と小首をかしげる。
「はい、そうですね」
肯定する健太の言葉を受けて、蘭は大きく笑う。
「分かったわ、じゃあこんな感じで話させてもらうわね。呼び方は健太君、で良い?」
「はい、蘭先輩」
簡単に元の蘭に戻ったことで、健太は安堵してつい、勘違いをしてしまう。
『隷属』したとしても、その人の本質は変わらない。現に、麻衣は誠一にいつも軽口をたたいているし、沙姫は元から真面目だから違いが分かりづらいが、先ほどの蘭のような変化はなかった。
そう考えると、先ほどまでの蘭は、わざと大げさな口調を使って自分をからかっていたのだろう。
無論、事実は違う。深く堕ちた蘭にとって、先ほどまでの口調こそが健太に対する自然な態度だ。だが、ご主人様が以前の自分を望むのならば、そう振る舞うことが、今の蘭には最優先というだけである。
「まだ時間があるから、私は朝食の前にシャワーを浴びて来るわ。あ、昨晩はありがとうね。起きたら体が綺麗になっていてびっくりした。健太君が綺麗にしてくれたのね?」
蘭の視線は、部屋の隅にある、汚れを吹いたタオルの山や、小さな洗面器に向けられている。
「はい。俺のせいで気絶させてしまったわけですから、せめてこれくらいは」
「うん、そういうところ、これからも大事にして欲しいな。それじゃ、ちょっと行ってくるね。健太君も一緒に行く?」
最後に悪戯っぽい笑顔でそう言う蘭の言葉に、健太は慌てて首を横に振る。
「いや、それはまずいですよ! 『
「私と一緒のシャワールームを使うなら、大丈夫だと思うけどね。それじゃ、少し待ってて。一緒に朝食に行きましょう」
「はいっ!」
元気な返事で蘭を送り出し、自分のバッグから持ってきた着替えの下着や、ハンガーにかけてあった制服を着こみながら、健太は何となく頭の片隅に引っかかる感覚を覚えていた。なにか、今自分は大切なことを忘れているような、そんな感覚だ。
「蘭先輩を待って一緒に朝食。なにも、嫌なことはない、はずだよな? 蘭先輩と一緒に食事なんて嬉しい限りだ。
そこまで呟いたところで、健太は何が問題なのか、悟った。
ここは、『
寮の食堂は学食と違い、そこまで広くない。そして、朝食の時間は限られているので、朝食に行けば絶対に叶馬達と遭遇することになる。蘭と一緒に仲良く女子寮で朝食を取っている様を見られるのだ。
「あー、うー、がー。……まあ、遅いか早いかの違いでしかないか」
どのみち、叶馬パーティーとは今後もある程度親密な関係を保つつもりでいる。ならば、パートナーとなる蘭を紹介しないわけにはいかないのだ。
シャワーを浴びたばかりの蘭は、いっそう綺麗だった。蘭は朝食までは私服で、登校する前にもう一度着替える主義らしく、今は黄色のパーカーと灰色のトレーナーの下らしきズボンを履いている。飾り気はないが、どちらも体のラインが比較的出やすい服のため、豊かな胸元と尻から足にかけてのラインが、健太の視線をひきつけてやまない。
そんな蘭に片腕をしっかり抱きしめられたまま、健太は『白鶴荘』の食堂に入る。
当然のように食堂の一角で朝食を取っている叶馬、誠一、静香、麻衣の四人はほぼ同時に、健太に気づいた。
「へー、健くんもうちにいたんだー。ほら、ここ開いてるよ、こっちこっち。蘭先輩もどうぞ」
そう言って、自分たちの側に座れと、いやな笑顔で圧をかけてくるのは、予想通り麻衣である。
ここで逆らっても、先送りにしかならない。それを理解した健太は、
「蘭先輩。良いですか?」
「ええ、健太君の隣ならどこでも良いわ」
念のため蘭に確認を取り、健太は叶馬達の座る一角に向かう。
朝食を乗せたトレイを持った健太は、麻衣の隣に腰を下ろし、蘭は宣言通り健太の隣に座る。
『白鶴荘』の食事は洋食がメインだ。トーストにコーンポタージュ。オニオンサラダに、生ハムなど。味は悪くない。
朝からパンは少し違和感のある健太だが、それでもいつもより食事が美味しく感じられるのは、昨晩念願の性交を行い、精力が多少落ち着いたからか。はたまた、今の隣でかいがいしく、世話を焼いてくれるパートナー(予定)の美女の存在か。
「ねえ、てっきり一晩お世話になったのかなー、と思ったんだけど、その距離感はあれだよね。もう、正式なやつだよね?」
明らかに早めに食事を終えて、興味津々でそう言って来る麻衣に、すでに観念している健太は、嘘をつかずに答える。
「まあね。昨晩お願いして、受け入れてもらった。今日、朝一で公式パートナーとして登録する予定だよ」
この学園のパートナーとは、純粋な恋人関係は極めて少数派で、大半は良くて「男が保護者、女が被保護者」、悪ければ「男が所有者、女はモノ」の契約に過ぎない。だが、麻衣の目には、健太と蘭の関係は、かなり真面な恋人関係に見える。
「ええと、蘭先輩。いつ、健くんと知り合ったんですか?」
蘭が視線で「話していいのか?」と尋ねて来るので、健太は小さく頷き返した。今後も、叶馬パーティーとは近い距離を維持する覚悟だ。となれば、健太のパートナーとなる蘭も、完全な無関係ではいられまい。
「知り合ったのは、一昨日よ。貴女達に健太君からの伝言を伝えたでしょ。あの時が初めて。それで昨日の夜、一緒に過ごしたの」
「ほう、意外と健太も手が早い」
本当に感心したようにそう言う叶馬に、健太は本気で反論する。
「馬鹿言うな。俺ほどそっちの意味で手が遅い奴は、多分この学園にいないぞ」
違うというなら、まだ童貞の男を連れてこい、と健太は言いたい。ただし、倶楽部『
「まあ、何にしろめでたい事じゃねえか。俺はけっこうマジで心配してたんだぜ、健太。お前が変な女に引っかからねえか」
そう言って笑う誠一の目は、今一に笑っていない。誠一にとって現状健太は、「命の恩人」「友達まではいかないが、叶馬の次に距離の近い男子」「怪しい言動は山ほどあるが、使える奴」といったところだ。その健太のパートナーを慎重派の誠一が、気にしないはずがない。
これから、誠一が蘭について情報収集することは、まず間違いあるまい。考えてみれば、健太も蘭については、蘭の口から説明されたことをすべて鵜のみにしただけで、裏付けの取れた情報はなにもなかったりする。
まあ、すでにがっつり『隷属』させているのだから、今更健太に有害な嘘をついている可能性は、ないに等しいが。
「ところで、蘭先輩? 健太のパートナーになるってことは、健太の倶楽部に編入するってことっすか?」
誠一の探るような言葉に、少し表情を硬くした蘭は、
「私は今フリーだから、退部する必要はないの。でも健太君の倶楽部?」
「ああ、蘭先輩にはまだその話はしてないんだ。俺は、既存の倶楽部に入るんじゃなくて、自分で倶楽部を作ろうと思ってるんですよ。先輩にも是非、そこに所属して欲しいです」
健太の言葉に、蘭は驚きに目を瞠る。
「一年で自分の倶楽部を? 危ないわよ。健太君ならB以上の倶楽部だって歓迎されるでしょう」
直接戦っているところを見たわけではないが、昨晩の尋常じゃない「墜とす」力から考えても健太が弱いはずがない、と蘭も気づいている。
「ああ、でも、ちょっと約束がありまして」
健太のため息交じりの言葉に、叶馬は嬉しそうな無表情で後に続ける。
「健太は俺と、倶楽部対抗戦の大将戦を戦うのです」
「ああ、そういう約束。ということは、叶馬君も倶楽部を作るつもりなのね?」
「はい」
蘭の問いに、叶馬は重々しく首肯する。
倶楽部対抗戦の大将は、部長と決まっているので、必然的にそうなる。
昨日までは、なにもされなくても怖くて仕方がなかった厳つい一年男子――叶馬と普通に話が出来る自分を、蘭は内心不思議に感じる。健太に『隷属』したことで、なにか価値観が変わったのだろうか? だとしたら、それは良い変化だ。ご主人様が自分に持たらすものに、悪いものがあるはずがない。
「一年生が作る倶楽部の半分近くは、一年も持たないらしいわよ。本気なら、頑張ってメンバーを集めないとね。私で良かったら、今夜にも相談に乗るわ」
当たり前に、今夜も共に過ごす前提で話す蘭の言葉に、健太は隠しようがないくらいに顔を紅潮させ、そんな健太を見る麻衣は、楽しそうにニヤニヤ笑っていた。