※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第二十八話 公式パートナー、パワレベの準備

半ば逃げるようにしては止めに食堂を出た健太(けんた)は、一度(らん)の部屋に戻り、蘭が制服に着替えるのを部屋の前で待ち、その後二人で登校した。

 

「別に見ても今更だと思うんだけど」

 

「一応礼儀ですから」

 

 登校中も蘭は、健太の腕に自分の腕を絡めるのをやめない。油断すると、二の腕に感じるやらかな膨らみに意識を全部持っていかれそうだ。

 

「昨晩は話をできなかったですけど、今後の予定について、先輩はなにか考えてますか?」

 

「今後の予定って、健太君の倶楽部のこと?」

 

 問い返す蘭に、健太は首を横に振ると、

 

「いえ、それはもうちょっと余裕があるんで、まずは先輩のダンジョンダイブについてです。失礼ですけど先輩はコボルトの『モンスターカード』を必要としてるくらいですから、あんまり戦闘は得意じゃないタイプの『文官(オフィサー)』ですよね? 一学期の中間試験の合格ラインはクリアしていますか? クリアしてるならレベル上げ優先、クリアしてないならまずは、試験クリアが優先ですよね。申し訳ないですけど、俺も自分の予定があるから、先輩のダンジョンダイブにお付き合いするのは、週二くらいで考えてるんですけど」

 

 健太の説明に、蘭は目をぱちくりと瞬かせる。

 

「えっと、付いてきてくれる、の?」

 

「当り前じゃないですか。パートナーなんですから」

 

 予想外のことを言われたという顔をする蘭に、健太はもっと予想外のことを言われた、という顔で答える。

 

 これはあながち健太が一方的に間違っているわけではない。

 パートナーとなる以上、男が女のレベリングを助けたり、ダンジョン攻略を手伝ったりすることは、学園でもよくあることだ。ただし、パートナー契約は結ぶのには両者の合意が必要なのに(それも、脅しその他の強制でも、男が処罰されることは少ない)対し、契約の解除は男の意思一つに委ねられているため、パートナー契約を結んだ女子ほどないがしろにする男子は、多いのだ。

 蘭の所属していたBランク倶楽部は、考えなしに枠限界までオナホ女を入れて、新入部員候補の為に無理矢理追い出すという真似をやっていたことからもわかる通り、攻略倶楽部の中ではどちらかと言うと、ろくでなしの部類に入る。

 だから、蘭の中では、パートナーとなる男子にそこまで手厚いケアを受けるという、発想がなかった。制服のスカーフにパートナーがいることを示す『ピンバッチ』を付けるだけで、パートナーがいる恩恵は十分になる。

 公式パートナーのいる女子を、パートナー男子の許可なく襲えば、『学園治安維持部隊』が出張って来る。学園生活における危険がかなり減るのだ。

 

 感激した蘭は、さらに強く健太の腕を抱え込む。

 

「うん、ありがとう。中間試験は大丈夫。私、一応地下十階層まで行った実績はあるから」

 

 ダンジョン実習試験は、基本的に最初の一年生中間試験で第二階層到達で、そこから試験ごとに一つずつ深くなっていく。一年は三学期制で、全ての学期に中間試験と期末試験が存在するため、一年三学期期末試験で、第七階層到達というわけだ。

 蘭を次に待ち受けているのは二年生の一学期中間試験だから第八階層に到達していればよい、ということになる。すでに地下十階層まで行っている蘭の場合、二年の二学期中間試験の分までクリアしていることになる。

 

 思っていたより進んでいるな、という感想が恐らく表情に出ていたのだろう。蘭は苦笑しながら、説明してくれる。

 

「一応私は『文官』だったからね。倶楽部の第二部隊が単独でダイブするときの移動役として、ある程度深い階層にも連れていかれていたの」

 

 基本的にダンジョンの好きな場所にダイブできるのは、『文官』だけだ。そのため、蘭は倶楽部の第二部隊――端的言えば二軍――用の運び手として使われることもあった。その結果、生徒手帳の「到達最高深度」だけは上がっているが、そこでレベリングをさせてもらったわけではないので、レベルそのものは低いままなのである。

 一軍には男子の『文官』がいたため、手に入るカードもほぼそちらの手に渡っていた。一応、蘭の自衛用カードもあったが「貸し出していただけ」と言われ、倶楽部を出される時に取り上げられてしまった。

 

「俺が蘭先輩に貸すときはちゃんとそう言いますよ。先輩に渡すものは、基本あげるものです」

 

「うん、ありがとう」

 

 不快そうに顔をしかめてそう言う健太に、蘭は嬉しそうにほほ笑む。

 

「とにかく、それならまずはレベリングを優先しましょう。特に『モンスターカード』のレベリングですね。レベル1のコボルトではきついでしょうから、最初は俺がひきつけて、パワレベ気味にコボルトと先輩のレベルを上げちゃいましょうか」

 

「無理はしないでね」

 

 健太が自分より圧倒的に強いことは、昨晩身にしみてわかっている蘭だが、実際どれくらい強いかは分からない。

 

「はい、大丈夫です。コボルトでレベル上げとなると、あまり深い階層ではかえって効率悪いから、最初は俺が今メインで活動してる地下三階で良いですか? そこなら、先輩もカードも絶対に傷一つ付けない、自信あるんですけど」

 

 原作とこの世界の図書館で、一年にしてはトップクラスの知識量を誇る健太が、蘭に連れて行ってもらえる、『既知(きち)領域』の十階までと、自分で行ける『既知外(きちがい)領域』の三階では、どちらがレベリングに適しているか、流石にわからない。

 となれば、確実に蘭のことを守ってやれる確信がある、『既知外(きちがい)領域』三階を最初の目的地としたいところだ。

 

「うん、妥当となところじゃないかな。地下三階ならゴブリンとコボルトだよね。それなら一匹なら、私もどうにか対応できるし」

 

「あー、そうですね。でも、最初は俺に任せてください。先輩は召喚モンスターの操作に集中するようにした方が良いと思います」

 

 当たり前だが、蘭は『既知領域』の地下三階を想定している。ここで、健太が「俺がダイブしているのは既知外(きちがい)領域です」と言っても心配をかけるだけで、良いことはないだろう。大半の生徒は、授業で「既知外領域は危ない」、入らないことを推奨と知っているだけで、実際どんなところか知らない。実際、雑魚でもレベルは上限いっぱいだし、規定レベルを守らない『逸脱個体(オーバーボーダー)』も出没するので、危険なのは間違いないが、その『逸脱個体』も問題としないだけ強くなった健太にとっては、人間同士の殺し合いに会う確率が低い、ある意味『既知領域』より安全な狩場なのだ。

 

「確かに、『モンスターカード』を使うのは久しぶりだね。うん、そう言ってくれるなら、健太君に甘えようかな」

 

「はい、まかせてください。それとダンジョンダイブ前に寄りたいところがあるんですけど、良いですか?」

 

「うん、良いよ。放課後だよね? せっかくだから、食堂で待ち合わせて、お昼から一緒にしようか。場所を決めて待ち合わせしましょう」

 

「はい、お願いします」

 

 豊葦原学園の学食は広い。その上に、無線が一切使用不能なため、スマホのような道具を誰も持っていない。そのため、ある程度詳細に席を決めておかなければ、単に「学食で待ち合わせ」では、会えない可能性が十分にある。「新宿駅で待ち合わせ」ほどではないが、「品川駅で待ち合わせ」ぐらいには無謀だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の午後。

 無事、学食で蘭と合流を果たし、二人での心弾む昼食を済ませた健太は、一度羅城門前のロッカールームに立ち寄り、紐で縛った『方形盾』を持ち、プレハブ長屋とも言われる、倶楽部棟へと足を運んでいた。

 健太と蘭。現在どちらも制服姿で、どちらも同じピンバッチを付けている。バッチの意匠は、『丸い金地に黒いクワガタのオスとメス』が描かれたもの。クワガタは大きく簡略化されたものだが、それでも一目でどちらもオス、メスのクワガタだと分かる。健太がその意匠を告げて、十分もしないで出来たのだから、ピンバッチの意匠作成は、コンピュータ制御されているのだろう。

 

 健太は制服の襟、蘭は制服のスカーフに同じ意匠のピンバッチを付けて、腕を組んで歩く。すれ違う者の何人かはそれに気づき、ある者は微笑ましいのを見る目で見つめ、ある者は忌々しいものを見る目で見つめ、ある者は羨ましいものを見る目で見つめる。

 流石にこの時期、一年男子と二年女子のパートナーという組み合わせは、かなり珍しい。最初の中間テストが終われば、台頭してくる一年生男子に、同学年男子から見捨てられた二年生女子が粉をかけてことも増えるのだが。

 

「ここです、蘭先輩」

 

 そう言って健太が視線で指し示したのは、プレハブ長屋と呼ばれるC、Fランクの倶楽部が入る倶楽部棟の一角に居を構える、『匠工房(アデプトワーカーズ)』の部室を改造した、店舗だった。

 普通のプレハブの中に、一つだけ壁全面を取っ払ってカウンターを取り付けた簡易店舗があるので、一目で区別がつく。

 健太がここを訪れるのは、これで三度目。すでに顔と名前を憶えられている。

 

「『匠工房(アデプトワーカーズ)』か。同学年に、女子の『職人(クラフター)』だけで作った倶楽部があるなんて」

 

「知りませんでしたか?」

 

「ええ、知らなかったわ」

 

 蘭が知らないのも別段おかしな話ではない。この学園でFランク倶楽部はうんざりするほどたくさん存在する。しかも、弱小倶楽部ほど、廃部、創部のサイクルが激しい。その全てを把握している生徒など、いないと言い切っても良いかもしれない。

 

「俺は、『職人(クラフター)』が作成する武具の一般的なレベルはよくわからないので断言はできませんけど、少なくとも購買で俺の『(せん)』で購入できる武具と比べれば、はるかに良い物を売ってくれるんですよ」

 

 原作で、『匠工房』製の物が学園ハイエンド近い評価を受けることを知っている健太は、自信を持ってそう、お勧めする。

 厄介なことに、『職人(クラフター)』のものづくりの腕は、『職人(クラフター)』のレベルにあまり関係しない。もちろん、レベルが上がれば作成使える便利なスキルが増えるし、優れた武具を作るには、一定以上のレベルがないと干渉できない高位素材が前提なので、レベルが無意味なわけでない。

 だが、それはあくまで、現実の職人で言えば、優れた道具や特別な施設を所有しているかどうかのようなものだ。その道具や施設を使い、いかに優れた武器、防具を作れるかどうかは、『職人』自身の知識と能力に由来する。

 そのため、極端な例を言えば、レベル1の『職人』がゴブリン小剣を元に作った小剣が、レベル20の『職人』が作ったオーガー大剣を元に作った大剣に勝ることも、起こりえるのだ。

 

「そうなのね。ちょっと、期待させてもらおうかしら」

 

 蘭はそう言って、健太と共に、『匠工房』の部室兼店舗のカウンター前までやってきた。

 

「いらっしゃい! あ、健太君。いらっしゃい、今日もなんか買ってくれるの?」

 

 カウンターの向こうから元気な声を上げるのは、その声、その言葉遣いから連想するまんまの小柄な体躯の少女、蜜柑(みかん)だった。今日は部長である蜜柑自ら店番をやっているらしい。

 

「どうも、蜜柑先輩。今日はちょっと、こちらの蘭先輩の為に欲しいものがありまして」

 

 その言葉に蜜柑は、健太が連れてきた女子生徒と、健太が同じピンバッチを付けていることに気づく。

 

「え? わあ、健太君のパートナーさんだね。私たちと同じ二年生だよね。二年丙組、『匠工房』部長、蜜柑です。いらっしゃい、良かったら見て行ってください」

 

 学年章を確認してそう言う蜜柑に、蘭は愛想よく笑いながら、言葉を返す。

 

「ええ。二年(ひつじ)組の蘭よ。倶楽部はこれから健太君の倶楽部に所属する予定なの」

 

「わ、そうなんだ、健太君。自分の倶楽部を作るなんてすごいね」

 

 蘭から見れば、蜜柑は自分より先に健太と知り合っていて、大きく信頼を寄せられている女だ。つい、男女の意味でけん制するようなことを言ってしまうが、それに対する蜜柑の反応は、「貴女本当に一年間この学園にいた二年生?」と聞きたくなるくらい、邪気のないものだ。

 毒気を抜かれている蘭を、安心させるように健太は勇気を出して、蘭の肩に手を回し、強く抱きしめると、

 

「はい、というわけで蘭先輩は俺のパートナーであり、俺の倶楽部の部員第一号にもなってくれるんです。それで、蘭先輩のコボルト用の武器が欲しいんですけどありますか?」

 

 健太の注文に、蜜柑は不思議そうに首を傾げる。

 

「あれ? この間、健太君に小型モンスター用の槍、小剣、盾のセット売ったよね? あれじゃダメ?」

 

「すみません、あれはちょっと別なことに使ってしまったんで」

 

 前回作ってもらったジュゲム用の武器一式は、ジュゲムがゴブリン槍兵(ランサー)に進化した時、カードに飲み込まれてしまった。ジュゲムを召喚すれば、ジュゲムに「お前の小剣をコボルトに貸してやってくれ」と命令できるが、少なくとも当面は蘭の前で、戦士系以外の能力を見せるつもりはない。

 

 健太の言葉に、純粋な蜜柑は素直に、

 

「そっか。それなら、残ってる小型モンスター用の武器はナイフくらいかな。素材さえ持ってきてくれたら、すぐにでも作れるけど」

 

 そう言って、健太と蘭を等分に見る。

 この後、早々に蘭をダンジョンダイブに連れて行くつもりの健太は、

 

「それなら、そのナイフをください。もしかしたら、今度他の武器も注文するかもしれません」

 

 と、蜜柑に告げる。『モンスターカード』のコボルトは、レベル1では非力な上に武器を何も持っていない。そのため、経験値を稼がせようと、無力化したモンスターのとどめを任せようとしても、なかなか殺せず効率が悪いことが予想される。

 どのみち、レベル1のコボルトでは、まともな戦闘では誰にも勝ち目はないのだ。無力化したモンスターにとどめを刺すだけなら、武器のリーチはさほど重要ではない。切れ味、威力だけあればよい。

 それならば、ナイフでも問題はないだろう。

 

「あと、こっちは俺の用事なんですけど、こいつを俺が使えるようにサイズ調整してもらえますか? 出来れば、もう少し腕に沿って歪曲を強くしてほしいんですけど」

 

 そう言って健太がカウンターの上に載せたのは、以前のダンジョンダイブでゴブリンヒーローからドロップした縦長な方形盾だ。購買の鑑定で、一番安い料金を払い、「とりあえず『呪詛武具(カースウェポン)』ではない」というお墨付きだけ、もらってきた。

 ゴブリンヒーローは百九十センチ前後あったため、百七十強の健太が使うには少々使いづらい。それに、現状のこの方形盾は、腕に嵌めた上で手で持つ握りもついているのだが、健太の好みとしては、完全に腕にはめ込んで、左手は自由になる方が良い。

 

「ちょっと見せてね」

 

 健太が持ち込んだそれに、興味津々と表情を浮かべる蜜柑は、モノクル眼鏡を装着する。

 

「これは、凄いよ。『概念器物(マジックアイテム)』としては『無銘(ノーネーム)』だけど、防具としての能力は一級品だ。防具に関しては、瞬間性能や特殊能力より、安定性を重視する人が多いから、下手な『銘器(ネームド)』より価値あるかも。上級倶楽部のメンバーがそのまま使ってもおかしくないくらいだ。もう少し鑑定してみない分からないけど、属性がちょっと特殊っぽい? この辺はリンゴちゃんに見てもらった方が良いかな。防具なのに、属性はむしろ剣に寄ってる。どういうことなんだろ? 『無銘』なのは間違いないから、『覚醒(アギト)』で形状変化するってこともないだろうし……」

 

 蜜柑のオタク特有の独り言とも説明ともつかない早口言葉に、健太は少し共感性羞恥を刺激されながら、どのタイミングで口をはさむべきか、悩んでいた。

 

 

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