※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第二十九話 順調なパワレベ、謎の転職可能状態

――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――

 

 ――第『(さん)』階層、『既知外(きちがい)』領域――

 

 

 

 

「ご主人様、ここはまさか?」

 

 二重円の中で、ガッチリ抱き合って無事健太(けんた)と一緒にダイブを果たした(らん)は、その場の瘴気圧に思わず、演技を忘れてそう言う。

 

「ああ、流石に分かるか。ここは『既知外(きちがい)』領域だ。俺の今の主戦場でもある」

 

 ダイブ直前に、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオンにしていた健太は、抑揚のない声でそう告げる。

 

「ご主人様?」

 

 健太の変貌ぶりにも、蘭は驚きを隠せない。一応、ダイブ前に健太は「俺、本来戦闘とか苦手な質で、だから戦闘前は自己暗示かけて、ダンジョン内では別人っぽくやってるんです。あんまり笑わない下さいね」と言っておいたのだが、どうやら蘭の予想を超える変貌だったようだ。

 

 実際、性格的にダンジョンダイブに馴染めない生徒の対処方法として「ダンジョンダイブ中は別人を演じる」というのは、学園からも提案される解決方法の一つのため、健太の言い訳自体には特に違和感は抱いていなかった。

 そうやって寮の先輩の真似をして、先輩のような言動をとり、だんだんそちらの価値観に染まっていくというのも、学園生のお決まりパターンの一つだ。それすら出来ない生徒が、やがてカウンセラー送りにされ、催眠術や薬物を用いた『説得』で、晴れて普通の学園生になる。

 

「だまし討ちの形になり、悪かった。先に説明をしても、受け入れてもらえると思えないのでこうした。大丈夫だ。ここのモンスターに、俺が負けることはない。俺を信じろ」

 

「はい、ご主人様」

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太と、衝撃で演技を忘れている蘭。結果、両者が別人のような口調になっている。もちろん、健太は蘭の口調がおかしいことは気づいていたが、この場では蘭が指示に従ってくれた方が良いと判断したため、そのままにしてある。気になったら、寮に戻ってから聞けばよい。

 

「よし、行くぞ。『モンスターカード』を『具象化(リアライズ)』して、これを渡せ」

 

「はい。《具象化(リアライズ)》」

 

 蘭が制服のポケットから大事そうに取り出したコボルトのモンスターカードから、一体のコボルトが召喚される。

 コボルトは一メートルにも満たない、犬頭の直立したモンスターだ。健太が手渡した『匠工房(アデプトワーカーズ)』印のナイフが、小剣に見える。

 

「よし、付いてこい」

 

「はい」

 

 健太一行は、先頭に健太、その真後ろに蘭、健太の斜め後ろで蘭の斜め前にナイフを持ったコボルトという陣形で進む。通路をしばらく進むと、すぐに広めの玄室が見える。『盗賊(シーフ)』としての感覚が告げる玄室の中身は、十匹前後のゴブリン。手ごろなところだ。

 

「行くぞ」

 

 健太は一言残し、玄室の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 日頃は、『盾術』『片手剣術』の鍛錬もかねて、盾での防御の機会をあえて作ったり、剣の正しい振り方にこだわったりしているのだが、今日の目的は蘭とその召喚モンスターであるコボルトの安全なレベリングである。

 

「《こっちだ》」

 

 飛び込みざま、『挑発(プロヴォーク)』のスキルで玄室内の全ゴブリンが自分だけに敵意を集中させたのを確認すると、健太は向こうから襲い掛かってくることを待ったりはせず、こちらから手短なゴブリンに襲いかかる。

 日頃は、『盾術』と『片手剣術』で習っている足を止める戦い方に専念しているが、曲がりなりにも第二段階職である『騎士(ナイト)』であり、『盗賊(シーフ)』のクラスも取っている健太は、その気になれば、ゴブリンが武器を構えるより早く接近して、攻撃を加えることも難しくない。

 

「ヒギッ!」

 

「メギャッ!」

 

「アベッ!?」

 

 僅かな時間で全てのゴブリンを無力化した健太は、十一匹中、三匹が息絶え、クリスタルに返ってしまったのを見て反省の弁をこぼす。

 

「三匹も手加減に失敗したか。まだまだ、自分の力に振り回されているな」

 

 そう言って健太は、玄室の入り口の方へと振り返り、

 

「蘭、入ってこい。ここのゴブリンは全て無力化してある。コボルトに命じて、とどめを刺せ」

 

「あ、ああ……」

 

 ゴブリンが無力化されていることは、蘭の目にも一目でわかる。どのゴブリンも、手足を全て斬り飛ばされていたり、盾でぶん殴られて目玉が飛び出ていたり、蹴られて踏まれて両手両足が交通事故にあったカエルのようにペシャンコになったりしている。

 一瞬で吹き荒れて暴力の嵐に、蘭はコボルトに命令をするという簡単な行動もとれずに、ただ棒立ちを続けている。

 冷静に、現状の解決手段を模索した健太は、小剣を腰の鞘に戻すと、ゆっくり蘭に近づき、正面から抱きしめた。

 

「あ……」

 

「大丈夫だ。怖くても良い。震えても良い。俺がいる。ずっとそばにいる」

 

 そう言って、蘭の震えが収まるまで、怒らず、せかさず、黙って抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 どうにか、蘭の震えが収まり、コボルトに命令を下せるようになったころには、追加でもう四匹のゴブリンがクリスタルになっていた。

 それでも、コボルトは残り四匹のゴブリンにとどめを刺すことに成功する。召喚モンスターが倒した経験値は、召喚モンスターと召喚主に半分ずつ入ることになっている。いくらレベル20ゴブリンとはいえ、二匹分ではコボルトがクラスチェンジするほどの経験値とはならない。

 

「終わりました、ご主人様。……申し訳ございません」

 

 転がっていたゴブリンのクリスタルと、ドロップしていたゴブリン(アクス)をまとめて袋にしまい、深々と頭を下げる。

 下手に失態を否定しても言葉が上滑りするだろうと、冷静に判断を下した健太は、もう一度蘭を抱きしめながら、言う。

 

「大丈夫だ。命にかかわらない失敗ならいくらしても良い。俺は絶対に蘭を見限らない。捨てない。俺の元から去ることを許さない。

 全部が失敗したわけでもないんだ。コボルトも強くなった。蘭も、曲がりなりにも命令で来た。少しずつ、改善していこう」

 

「はい」

 

 蘭は、今の顔を見られたくないとばかりに、健太の首筋に顔を強く顔を埋める。

 

「……」

 

 幸い、戦闘は一分もしないで終わっている。『天敵者(アグレッサー)』が出てくるまでの猶予は十分にある。

 健太は、蘭が再度落ち着くまで、好きにさせた。その間、安心させるように、蘭の背中をゆっくりとしたリズムで軽く叩き続けた。

 

 

 

 

 

 その後、やることは原則、同じことの繰り返しだ。

 玄室にたまっているゴブリンを、健太が最速で無力化し、その後蘭がコボルトの命じて止めを刺させる。曲がりなりにも、蘭も一年間ダンジョンダイブを経験している二年生だ。召喚モンスターに命令を下すこともできないという失態を犯したのは最初だけで、あとは順調に戦闘をこなしていた。

『モンスターカード』持ちの『文官(オフィサー)』の良いところは、本人が震えていても最悪、「モンスターを殺せ」くらいのファジーな命令でも、召喚モンスターはぶれなく敵を殺してくれるところだ。

 

 そのかいあり、四つ目の玄室をクリアした時、変化が訪れる。

 

「これは、クラスチェンジしたか」

 

「はい、そのようです」

 

 健太と蘭の目の前で、それまで毛皮の生えた裸の状態でナイフを持っていたコボルトが、簡素な革服を着た姿に変わっている。猫背気味だった背筋も延び、ナイフを構える仕草もどことなく様になっている気がする。

 

「……なくなっているな」

 

 裸のコボルトではナイフの鞘を収納する場所がないため、鞘は健太が自分の小剣の鞘と一緒に、ベルトに下げていたのだが、それがいつの間にか消え失せ、コボルトのズボンを止める麻縄に括りつけられている。あのナイフも、ジュゲムの装備と同じく、『モンスターカード』に統合されたのだろう。

 

 蘭は、モンスターカードを取り出し、名称の部分を確認する。

 

「この子は、コボルト『盗賊(シーフ)』になったようです」

 

「戦闘以外やっていないのに、『戦士(ファイター)』ではなく、『盗賊(シーフ)』になるのか」

 

 首を傾げる健太に、蘭が説明する。

 

「ナイフや短剣(ダガー)を主武器にすると『盗賊』系にクラスチェンジしやすいそうです。それに、コボルト自体が『戦士』より『盗賊』に向いた種族ですから。ゴブリンと違って体躯も成長しませんし」

 

 蘭の言う通り、コボルト盗賊となったコボルトは、背筋が伸びた分少し大きく見えるが身長そのものは変わっていない。ゴブリンのジュゲムの場合、ゴブリンからゴブリン槍兵(ランサー)、ゴブリン槍兵(ランサー)からゴブリン槍騎士(ランスナイト)になるたびに、一回りずつ体が大きくなったのとは対照的だ。

 

「そうか。知らない知識をありがとう。ところで、蘭は本当にこれは使わなくてよいのか?」

 

 そう言って、健太は今の戦闘でドロップしたゴブリンの『モンスターカード』を手で弄ぶ。

 健太の言葉に蘭は迷わず、

 

「はい。無論、ご主人様に使えと命じられたら使いますが、自分で選んでよいのだとすれば、蘭はコボルトが良いです」

 

 ゴブリンに特別な嫌悪感、恐怖心を抱く女子生徒は珍しくない。ゴブリンはオークと並ぶ、女を殺さずに犯すことが多いモンスターの代表格だ。

 殺された記憶は残らないが、殺されずに犯された記憶は残る。ゴブリンに犯されて、そのまま殺されずに『羅城門(らじょうもん)』の閉門時間を迎えてしまった経験のある女子は、少なくない。

 そうした女子が、多少コボルトより強くてもゴブリンを自分の召喚モンスターにしたくないと考えるのは、自然な流れと言える。

 蘭の場合、最初から提示された『モンスターカード』がゴブリンだったら、それでも喜んで受け取っただろうが。人間簡単に贅沢になるものだ。

 

「分かった。『モンスターカード』は相性が重要らしいからな。そのままコボルトを育てろ」

 

「ありがとうございます」

 

 と、蘭が丁寧に頭を下げた時だった。健太の『盗賊(シーフ)』としての感覚が、何かを感じ取る。

 

「蘭、『索敵(サーチエネミー)』だ」

 

「はい、『索敵(サーチエネミー)』。ッ! ご主人様、敵反応一つ。こちらに向かっています!」

 

「蘭、玄室の奥に下がってろ」

 

 健太の命令を受け、蘭が玄室の一番奥まで下がった次の瞬間だった。

 

「グルウアアア!」

 

 その口から瘴気を吐き出しているのではないか、と思うほど威圧の籠った怒声をあげ、巨大なゴブリンが玄室に殴りこむ。

 全長は余裕で、二メートルを超える。横幅も化け物じみており、これほどの筋肉量の者は、人間ではボディビルの世界大会でもお目にかかることは出来ないだろう。そんな化け物ゴブリンは、両手に一丁ずつ、両刃斧(ラブリュス)を持っている。

 

「ゴブリンの『逸脱規格(オーバーボーダー)』、ゴブリンロードの可能性が高いか」

 

 健太は『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』のデータと照合し、ひとまずそう結論付ける。

 

 その怒声には、何らかの魔術的、呪術的効果があったのだろう。後ろで、蘭もコボルト盗賊(シーフ)も硬直している。

 だが、健太には何の影響もない。抵抗したという感触すらないところを見ると、心を操る、恐らくは強い恐怖を植え付けるスキルなのだろう。その手のスキルは、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』の前には、効果の判定自体が行われない。

 

「ボアッ!」

 

 怯まない健太の態度が気に入らなかったのか、ゴブリンロードは太く鋭い牙の生えた口を大きく開き、右手に持つ両刃斧を頭上から振り下ろす。

 巨大な体からは想像もつかない素早い動きと、巨大な体に相応しいパワーで振り下ろされた両刃斧は、健太の左腕に装着された丸盾であっさりと流された。その流れた右腕に、健太は右手に持つ小剣を振るう。

 

「ヒギッ!?」

 

 攻撃を流されて体の力が緩んでいたからか、健太の太ももより太いゴブリンロードの腕は、その一撃で骨まで達する深手を負う。人型のモンスターはおおよそ人体と同じ構造をしている。腕の筋肉と健を断ち切られれば、重い両刃斧を持っていられない。

 

 ガランと音を立てて、右手の持っていた両刃斧が下に落ちる。しかし、その程度でモンスターの戦闘意欲は衰えたりしない。

 

「ギッ!」

 

 残る、左手に握る両刃斧を、今度は健太の胴を薙ぐように、体勢を低くして横に振る。向かい合うゴブリンロードが左手で振るうのだから、攻撃は必然的に健太の右側、小剣を持っている側になる。ある意味、左腕に装着された丸盾ではどうあがいても防ぎようのない死角だ。

 

「ふっ!」

 

 だから、健太は小剣でゴブリンロードの両刃斧を受け流す。小剣での受け流しは、丸盾のそれと比べると技術を有するが、『周回レベル上げ(タイムターナー)』の時間を加算すれば、すでに百時間を超えるダンジョンダイブを経験している健太は、それを十分合格と言えるレベルでこなす。

 

「《はっ》!」

 

 さらに、左腕に装着した丸盾で、体制の崩れたゴブリンロードの分厚い胸板を殴打した。

 気合の声と共に放たれたのは、『盾撃(シールドバッシュ)』のスキルだ。健太は『盾士(シールダー)』として取得したが、『騎士(ナイト)』で取得する者もいるので、蘭の前で使用しても問題はない。

 

「ヒギッ!?」

 

 丸盾から白い光が漏れるその打撃は、ゴブリンロードの巨体をその一撃で玄室の壁に激突させた。

 

「ふむ?」

 

 予想外の威力に健太は首を傾げるが、悪い予想外ではない。すぐさま、健太はゴブリンロードに駆け寄る。

 

「ギ……ヒギッ……!」

 

 ゴブリンロードはまだ立ち上がる様子がない。よく見ると丸盾を叩きつけた胸板は、大きく深く陥没している。人間なら、アバラが折れて内臓に突き刺さっているであろう、重症だ。

 

「ふむ」

 

 予想外の幸運に、少し考えた健太は、床の上で藻掻くだけで、一向に立ち上がる気配を見せないゴブリンロードに慎重に近づくと、まだ無事なゴブリンロードの左腕に小剣を上から振り下ろす。

 

「ギャッ!?」

 

 続いて右足。

 

「ヒギッ!」

 

 最後に左足。

 

「ギィ……」

 

 幸いなことに、そこまでやってもまだゴブリンロードは辛うじて生きている。

 

「蘭、コボルト盗賊(シーフ)にとどめを刺させろ」

 

 そう言う健太は内心「今だけは叶馬(とうま)に似ていると言われても否定が難しいな」と、考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 すでにコボルト盗賊にクラスチェンジを果たしていたこと。主武器である『匠工房(アデプトワーカーズ)』製のナイフが、このレベル帯では高性能であったこと。二つの要因から、コボルト盗賊によるゴブリンロードへのとどめは、思いのほか早く終わった。

 ゴブリンロードの巨体が消えた後には、ゴブリンのそれとは一線を画する大きさのクリスタルと、両刃斧二丁が残される。

 

「蘭、よくやった。これはお前が持っていてくれ」

 

 健太は、まだ呆然としている蘭を言葉で労いながら、ゴブリンロードのクリスタルを手渡す。

 

「は、はい、ご主人様」

 

 蘭はまだ、茫然自失の状態だ。この状態で、どうにかコボルト盗賊に攻撃命令を出せたのは、確かに褒めるに値するだろう。もしかしたら、最初のゴブリンロードの怒声の影響が、まだ抜けきっていないのかもしれない。

 それでも蘭は、健太がゴブリンロードの両刃斧を自分でひもで縛って持ち運ぼうとしているのを見ると、

 

「ご主人様、それは蘭が」

 

 と健気に申し出る。だが、健太は首を横に振る。

 

「いや、これは今の蘭が持ち運べる重さではない。もう、閉門まで時間もないことだし、俺が持つ」

 

 最大戦力として蘭を守る義務がある健太は、出来るだけ手がふさがらないようにしておくべきなのだが、残り時間も三十分を切っているのだし、無理をせずここで閉門まで時間を潰せば、大きな問題はあるまい。運悪く、再びこの玄室にワンダリングモンスターが来てしまったら、両刃斧を捨てて戦えばよいだけのことだ。

戦士の不動心(マインドスイッチ)』の影響下にある健太は、「勿体ない」などの感情で判断を遅らせることはない。

 そんなことよりも、健太には蘭に聞いておかなければならないことがある。

 

「蘭。差し使えがなかったら教えてくれ。お前は、いつ『文官(オフィサー)』になった?」

 

 健太の質問の意図は分からなかったが、蘭は足をもじもじさせながら、素直に答える。

 

「それは一年の二学期中間テストの直前くらいだったと思います」

 

 二学期中間テストということは十月ごろだ。正直速い方ではない。同学年全体を優・良・可の三段階で分ければ、迷わず可に属する成績だろう。

 

「『文官(オフィサー)』になってから、モンスターと戦った経験、いやモンスターを倒したことはどれくらいある?」

 

「ほとんどありません。ダンジョンに連れていかれるのは、倶楽部の都合だったので、たまに休みの日に自主的に低い階層を女子だけで潜った時に少しゴブリンやコボルトを倒した程度です」

 

 ほおを紅潮させ、制服のスカートからのぞかせるむっちりとした太ももをすり合わせながら、蘭はそう答える。

 

「そうか」

 

 健太は、考える。蘭の過去はおおよそ健太の予想通りだ。つまり、健太と出会う前の蘭は、『文官』のレベル1から3、最大いっても5程度のはず。確かにこれまで、結構な数のゴブリンを倒したし、最後のゴブリンロードは実に美味しかった。だが、その経験値もコボルトの『モンスターカード』と折半なのだから、本人のレベルアップには『戦士(ファイター)』や『盗賊(シーフ)』の倍、経験値が必要なはず。

 

(どう考えても、計算が合わない。なぜ、こんなものが見える?)

 

 

 蘭

 

 『盗賊(シーフ)』、『職人(クラフター)』、『遊び人(ニート)

 

 『案内人(パスフェンダー)』、『測量士(サーペイヤー)』、『娼婦(ニンフ)

 

 『奉仕姫(メイドプリンセス)

 

 に転職可能。

 

 

 そんな情報が健太の脳裏に浮かぶ。

 

(蘭に対して『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』が発動している。ということは今の蘭は『文官(オフィサー)』レベル20に到達したということだ。どう計算しても取得経験値が合わない)

 

 熱い吐息を漏らして、スカート中を湿らせる蘭をしり目に、健太は一人頭を悩ませるが、その理由は健太の初体験である。

 この世界で、男が女の(なか)で精を放つと、経験値もある程度放出されてそちらに流れ込む。第一段階職、第二段階職でうろうろしている程度の女子ならば、自力で一日ダンジョンダイブをこなすより、第四段階職についているトップクラスに一度抱かれる方が、獲得経験値は多いくらいだという。

 

 健太の場合は、まだ第二段階職だが、第一段階職を複数重ねているうえに、蘭を抱くまで半月我慢を続けていた。その初回特典とも言うべき膨大な精に含まれた経験値が、蘭に流れ込んでいたのである。ちなみに、蘭がいきなりここまで隷属してしまったのも、同様の理由である。

 

 そんな事情を知らない健太だが、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている今は、答えの出ない疑問に固執したりはしない。

 

「蘭、大物を倒せたんだ。念のため、『聖堂(カテドラル)』に寄ってから帰るぞ。蘭は、どんな職業(クラス)に付けると嬉しい?」

 

「は、はい。そうですね。自分で選べるなら、『案内人(パスフェンダー)』か『書記(レコーダー)』なら、ご主人様のお役に立てるかと。高望みを許されるのなら、『使役者(テイマー)』も良いですが」

 

 健気にそう答える蘭の足元に、ポタリと粘度の高い水滴が落ちる。

 流石にこれを見て見ぬふりは出来ない。

 

「蘭」

 

「……はい」

 

 顔を真っ赤にして、俯いている蘭に健太は、冷静な声で告げる。

 

「いくら残り時間が少なくとも、二人だけでダイブで、ダンジョン内の性交は危険だ」

 

「…………はい」

 

 蘭の瞳は、情欲と情愛と切なさで、怪しく光っている。

 

「だから、あまり本格的なことはしてやれない。それでも良いなら、おいで」

 

 というか今の健太は不能だし、ダンジョン内でいきなり『戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオフにするのはリスクが大きすぎる。

 

「っはい!」

 

 ご主人様の言葉に、蘭は発情した犬そのもの勢いで抱き着いた。

 

 

 

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