※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第三十二話 未来への希望、今そこにいる恐怖

羅城門(らじょうもん)』の閉門時間である午後五時。

 その時間帯は、その日ダイブした生徒の大半が、同じ時間帯にダンジョンからログアウトしてくるため、非常に混雑する。『常世門』は三つしかないのに、ダイブしている生徒は余裕で千人を超えるのだから、当然と言えば当然だ。

 そんな大人数の中に、今日初めて組んだ二人の一年生男子、健太(けんた)来斗(らいと)の姿もあった。

 今日まで何度かダンジョンダイブを経験している来斗だが、生還を果たしたのはこれが初めでである。死亡した場合には、ダンジョン内の記憶を失われる。つまり、来斗の主観では、今日こそが初めてのダンジョンダイブということになる。

 初めてダンジョンから生還を果たした来斗(らいと)は、真っ青な顔でその場にしゃがみ込んだ。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「…………」

 

 健太(けんた)がそう声をかけてやるが、反応らしきものがない。ここにいては、邪魔になる。健太は、腰を抜かしたままの来斗を引きずり、周囲の邪魔にならないところへと場所を移す。

 結局この日、来斗は一匹のコボルトも倒すことは出来なかった。上級生に襲われては気絶し、ゴブリンに吠えられては気絶し、上級生に囲まれては気絶し、コボルトに出会っては悲鳴を上げるだけの時間だった。

 健太からすると、本日倒したモンスターはコボルトが四匹、ゴブリンが三匹、二年生が八匹、三年生が五匹。経験値的には全く美味しくないのだが、今日の目的はそれではないので、問題はない。

 問題は、今蒼い顔でしゃがみ込んでいる小太りな彼を、いかにして配下に引き入れるかだ。

 

「よし、《落ち着け》」

 

 健太は、肩をゆするように来斗の体に触れたところで、そっと『癒し手(ヒーラー)』のスキルである『平静(サニティ)』を使用する。

 途端に、心が落ち着いた来斗だったが、恐怖の記憶はまだまだ新鮮で鮮明だ。すぐに顔色が悪くなる。とはいえ、流石に先ほどまでと比べると雲泥の違いだ。

 どうにか体に力が入るようになった来斗は、健太の手を借りて立ち上がると、震える声で礼を言う。

 

「あ、ああ、あ……ありがとう、健太さん」

 

 いきなり同じ一年生男子に、さん付けされた健太だが、まだ『戦士の心得(マインドスイッチ)』がオンになっている今の健太は冷静に「これは都合がよい」と判断し、あえて訂正しない。

 

「いいさ、臨時とはいえ、パーティー仲間だからな。来斗はこの後、予定はあるか? ないなら、学食で打ち上げをやろう。来斗の初生還祝いだ。俺が奢る」

 

 普段の自分の経験則から、この手のタイプ(本来の健太と同タイプだ)は、多少強引に話を持っていった方が良いと判断した健太はそう、決めつけるように畳み掛ける。

 

「え、よ、予定は、ない、けど……」

 

「なら、決まりだな。まずは、清算だ。購買によってから学食だな」

 

 そう言って、健太は先導するように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初にかけた『平静(サニティ)』が効いたのか、食堂で席に着いた来斗はしっかりと食事を取っていた。

 この打ち上げは、夕食を兼ねている。来斗は、トンカツがメインで、ご飯とみそ汁とサラダが付いてくる、A定食を美味そうに口に運ぶ。その太めの体つきを裏切らず、来斗は食欲が旺盛な質らしい。

 一方、健太は今日はちょっと魚な気分だったので、焼き魚定食だ。健太も基本は魚より肉が好きなのだが、肉が続くとたまに無性に魚が食べたくなる。

 

「そうか。(かのと)組では、第二階層に降りた者が出始めたのか」

 

「そうなんだよ。もう、生徒手帳見せびらかして、鬱陶しくて。そんな奴らに女子は、あからさまに媚び始めるし。しかも、どうも女子だけの授業で、そういう身の振り方を担任の朱里(あかり)先生から、むしろ推奨されてるみたいなんだよね。だから、本当いい気になっててさ。

 でも、今日のことで俺も、あいつらに対する見る目変わったよ。ダンジョンダイブってこんなに怖いんだな。それを何度も生き延びて、その記憶を覚えていて、『界門守護者(ゲートキーパー)』がいない隙をついたにせよ、第二階層に降りて生き延びたんなら、そりゃ自慢もしたくなるわ。自慢するだけの苦労してるんだ、あいつら」

 

 腹に食べ物が入って精神的に落ち着いてきたのか、意外と饒舌に来斗はしゃべり続ける。今も『戦士の不動心(マインドスイッチ)』はオンにしたままの健太だが、素は陰キャオタクのため、来斗の言うことにちゃんと共感の言葉を返せるからかもしれない。

 

(ひのえ)組でも、第二階層に到達した奴はいるみたいだな。そいつらが全員モテているわけじゃないみたいだが」

 

 具体的に言えば、一年一丙組でも、通称『勇者組』の和人(かずと)剛史(たけし)虎太郎(こたろう)の三人には女子が群がっているのに対し、通称『三馬鹿』こと栄治(えいじ)(しょう)白夜(びゃくや)の三人は、女の影が見えない。

 ちなみに、健太と叶馬(とうま)誠一(せいいち)の三人は、第二階層に足を踏み入れたことはまだない。なにせ、第三階層から始まっているのだから。原作を知っている健太はそれを自覚しているが、叶馬と誠一は、未だに自分たちがいる第三階層『既知外(きちがい)』領域を、第一階層の『既知外(きちがい)』領域だと思っている。叶馬ともかく、誠一にしては珍しい失態だ。

 

「ともあれ、来斗もまずは目指せ転職(クラスチェンジ)、第一段階職だな。来斗は何になりたい?」

 

 そんな健太の問いに、食事を終えて無料のお茶で喉を潤していた来斗は少し考えながら、答える。

 

「あー、先生が言うには『戦士(ファイター)』が一番良いらしいから、『戦士(ファイター)』かな。個人的には『術士(マギ)』にあこがれはあるけど、このシステムだと難しそうだな」

 

 オタクの魔術師系好きは、オタクあるあるだ。健太も正直気持ちは分かる。このダンジョンを何の制限も、マイナス要素も気にせず、ゲームのように楽しんで良いのだとしたら、健太も術士系を選んでいたと思う。さもなくば、生産職である『職人(クラフター)』系か。

 

 しかし、現実としては学園の教師が言う「『戦士(ファイター)』が無難」というのは、動かしがたい事実だ。『戦士』には、初期から使えるスキルに、『昂揚(エンハンス)』や『戦血(アドレナリンブースト)』といった、強制的に戦意を高めて一時的に恐怖を忘れさせてくれるスキルがあるため、殺し合いに対する恐怖心を自力以外で克服できるからだ。さらに、筋力(パワー)が向上しやすい『戦士』は、スキルを使わずに戦っても安定して強いため、レベルが上がりやすいというメリットもある。

 

 もっとも現状の『聖堂(カテドラル)』のシステム上、『戦士(ファイター)』になるような奴は最初から好戦的で、戦闘意欲を高めるスキルを必要とせず、そうしたスキルが必要な者に限って、『職人(クラフター)』や『文官(オフィサー)』になってしまうという構造的な問題があるのだが。

 

「そもそも俺の場合、本当に転職(クラスチェンジ)までたどり着けるのかが疑問だけど」

 

 来斗は、初めて生還したダンジョンダイブを思い出したのか、ブルブル震えながら、そう付け加える。

 今の来斗は、ダンジョンダイブ前よりさらに自信を喪失している。今までは、漠然と「一度もダンジョンから生還していない」という事実に不安を覚えていただけだったのに対し、今回ダンジョンダイブから生還したことで、ダンジョンの瘴気圧だけで硬直し、殺気立ったコボルトやゴブリンに立ち向かう意思を挫かれ、先輩をなで斬りにする健太の怖さに色々漏らしてしまった、自分の立ち位置を理解してしまったからだ。

 この学園は本当に怖いところで、自分はそれに適応できる人種ではない、と。

 

「気を付けた方が良いだろうな。来斗も教室や寮で噂は聞いていないか? 二年で第一段階職に転職(クラスチェンジ)していない奴は一人もいないらしいぞ」

 

「うっ……」

 

 健太の言葉に、来斗も心当たりがあったのだろう。ビクリと体を震わせる。

 

 豊葦原学園に留年する生徒は一人もいない。全員が年度末までにはちゃんと進級条件を満たして、上の学年に上がる。なぜなら、満たせない奴は『カウンセラー』に送られて別人のように変わってしまうか、いつの間にか『失踪生徒(ロストマン)』となり、最初からいなかったものとして扱われるからだ。

 結果、豊葦原(とよあしはら)学園の進級率は、常に百パーセントを誇っている。

 

 ダンジョンではいくら死んでも、失われるのは記憶だけ。そんな学園のうたい文句が嘘八百であることは、入学から半月が経った今、一年でもほぼ全員が理解している。

 死に戻りを経験すると徐々に魂魄が擦り切れていく。魂魄が擦り切れると、次第に自我が薄れていく。そのため、上の学年に行くほど『廃人』『人形』と呼ばれる、自主性を喪失した人間の割合が増えていく。四年になると自我を保っている方が少数派、五年の場合自我を保っている者は、珍しいと言われる。ちなみに、二年でもすでに自我の喪失している者はいる。

 付け加えれば、学園では毎年ほぼ同じくらいの新入生が入学しているはずなのに、上の学年ほど在校生の数は少ない。下の学年の総数から上の学年の総数を引いた数が、おおよそ一年に発生する『失踪生徒(ロストマン)』の数だ。それは、多くはないが目を逸らせるほど少なくもない。

 それを知ったところで、学園から逃げ出すことも出来ない。学園の立地が陸の孤島であるという物理的な問題もあるが、それ以上に「そもそもこの学園に入学した者は、外に自分の居場所がない者」が大半だからだ。

 そんな自分の将来に目を向けたくないがために、生徒の大半は、あえてセックスという学園黙認の手短な娯楽に嵌るのかもしれない。

 

 自分が『カウンセラー』送りの有力候補である自覚はあるのだろう。来斗はガタガタと震える。

 丁度良いところだと判断した健太は、強引に話を変えるふりをして、ある意味最大の『テスト』とも言える話題を口にする。

 

「ところで、来斗は学園に来てから、何人とヤった?」

 

「……え?」

 

 世間ではともかく、この学園では特に珍しくもない性事情の話題だったが、そんな話が健太の口から出たのが意外だったのか、来斗はとっさに言葉に詰まる。

 

「ちなみに俺は、一人だ。ついでに言えば、この学園に来るまで童貞だった」

 

 来斗の口を軽くするため、健太は先にそう白状する。それに釣られたのか、来斗も素直に答える。

 

「そ、そうなんだ。俺も、ひ、一人だけ」

 

 そう答える来斗の様子は、さっきと比べると明らかに顔色が良くなっている。性行為に関する方向に意識を持っていくと、将来への不安や恐怖から目を逸らしやすい。その事実を鑑みると、学園内をフリーセックス状態にしている学園運営陣の方針は、間違っていないのだろう。大事なことは、ダンジョンダイブが円滑に行われることなのだから。生徒の倫理や、一部生徒の犠牲に目を瞑る。

 

「一人か。誰だ?」

 

「そ、その……担任の朱里(あかり)先生」

 

 それは、消極的な学園男子の典型例と言える、初体験の流れだ。

 各クラスの担任教師は全て女であり、そうした女教師はほぼ全員、性行為特化のSSR職についている人材だ。彼女たちは、基本誰からのセックスも断ることが出来ない。SSR職にはそういうデメリットが存在している。またSSR職には、一定期間、異性とセックスをしないと命にかかわるクラスも少なくない。

 その代わりと言えるかは分からないが、セックスをし続ける限り、SSR職の人間は若さと、異性に好かれる、異性を喜ばせる肢体(からだ)と美貌を半永久的に維持できる。

 

 学園に来るまで童貞だった男の大半は、担任教師で脱童貞を果たすのだ。そして、大部分の男子はそれからさほど時間を置かずに、誰でもヤれる担任教師から、自分のオナホ女を求めて教室の女子へと興味を移していく。受けもった男子生徒に体を張って、学園の常識を覚えこませることが、学園が期待する担任教師の最大の役割だと言っても過言ではない。

 担任から男子生徒へ。男子生徒から女子生徒へ。そうして、全ての新入生が学園の常識に染まっていく。

 

「では、今は担任の『準備室』に通ってる感じか」

 

 暗に生徒のセックス相手を仰せつかっている女教師たちは、全員例外なく特別教室棟に『準備室』が与えられている。それらは非常に狭い部屋だが、どの『準備室』にも絶対に人が寝そべることができるソファーが設置されている。この時期、担任を持っている女教師たちの『準備室』は、放課後担当教室の男子でごった返している。

 健太が所属する一年丙組の担任である(みどり)の『迷宮資料室』も、連日大賑わいらしい。現時点で一度もお世話になっていないのは、叶馬、誠一、健太の三人だけかもしれない。

 

「あ、いや、その、最初のうちは良かったんだけど、今はみんなで押し寄せるから、その……行けなくなった」

 

 ばつが悪そうにそう言う来斗に、健太は内心「これは、行けるか?」と期待を高まらせる。

 

「ああ、順番が回ってこないのか」

 

「いや、その辺は先生がちゃんと注意してくれるから、待てば誰でも順番は回って来るみたい。ただ、その……あの狭い部屋に他の男子が下半身裸でいて、先生もみんなに出された状態だったりだから、気持ち悪くなっちゃって」

 

 ビンゴだ。来斗にはまだ、入学前の感性が残っている。

 この辺りは、入学前の性癖もある程度影響するのかもしれない。下世話な話だが、中学時代に好んで見ていた(もしくは使った)アダルト動画が、女優一人に男優複数や、女優複数に男優複数の乱交ものを好んでいた人間は、学園への適応が早そうだ。と、健太は埒もないことを考えた。

 

「やっぱり、やるなら一対一か。それとも、女は複数いても良い?」

 

「あー、うん、そうだね。女の子が複数いるのは嬉しい、かな」

 

 世間一般では、「学食でなんて会話してやがる」と言われる内容だが、この学園なら「えらいウブい会話してるな、一年男子」と微笑ましい目で見られそうな会話である。

 ともあれ、健太としてはやっと見つけた部員候補である。健太は内心で身を乗り出す。

 

「なあ、俺と取引しないか? 実は俺、自分の倶楽部を作るつもりなんだ。その倶楽部に入るというなら、来斗のレベル上げを手伝ってやる。クラスの女子が男子をどう見てるかは気づいてるんだろう。早めに転職(クラスチェンジ)までこぎつけたら、お前だってパートナーは出来るぞ。この学園はモテの常識も世間とは違うんだ。入学前までモテてなくても全く関係ない。強くなればモテる。どうだ? 頑張ってみないか?」

 

 (らん)に声をかけて貰うまで、第二段階職になっても童貞のままだった自分を完全に棚に上げた健太の言葉だが、そんな裏事情を知らない来斗には、一定の説得力を持って響く。

 

「お、俺が、俺にパートナー? 健太さんが、自分の倶楽部?」

 

「ああ。俺もお前と一緒で、この学園の自由過ぎる性にちょっとついて行けなくてな。一般的な倶楽部には入りたくないんだ」

 

「あー」

 

 健太の説明を聞いた来斗の表情に納得の色が浮かぶ。担任教師とセックスをしていながら、「今はみんながいるから行っていない」という来斗は、基本健太と同じ感性をしている。既存の倶楽部が、女子部員を同時に複数の男子部員で犯すことが当たり前の状態であることは、噂に聞いているのだろう。その噂に興奮を覚えるのではなく、「それはちょっと遠慮したい」と思える感性だ。

 この学園で、倶楽部の存在は大きい。上級生たちは大半がどこかの倶楽部に籍を置いているほどだ。ゆえに現在、劣等生コースを全力疾走している来斗としては、たとえ同じ一年生が創立するFランク倶楽部でも、誘われるのは十分有難い話だったりする。Fランクでしかなかったとしても、倶楽部のバッジをつけているのは、何もつけていないよりは過ごしやすい、と寮の先輩から忠告を受けている。

 

「俺は良いけど、それって健太さんのメリットあるの? 名義貸しってこと?」

 

 今日一日で、来斗も健太の強さは理解している。ダンジョンダイブからの生還が今日初めてのため、他の一年と比べることは出来ないが、教室でイキっている男子のトップグループでも、複数の上級生をなで斬りにすることが出来ないことは、流石にわかる。

 同時に、健太の怖さとヤバさも理解している。出来ればこの上級生殺しのヤバい奴と距離を取りたい気持ちも嘘ではないのだが、一番強いのは「刺激したくない、逆らいたくない」という恐怖心だ。

 

 倶楽部を作りたいが、人数が足りないというのは、一年生が倶楽部を作るときは良くある話だ。俱楽部設立に求められる最低人数は、自分を入れて十人。学園の一クラスはおおよそ四十人。教室の四分の一の数と考えたら、結構な難易度であることは実感できるだろう。実際、健太もまだ全然人は集まっていない。

 だから、自分が戦力になるわけがないと思っている来斗が名義貸しという発想に行きつくのは、至極当然だったが、健太はきっぱりと首を横に振る。

 

「名義だけじゃない。人数次第だが、俺の倶楽部は倶楽部対抗戦の出場は、男子優先だ。だから、来斗以外の男子が俺を含めて五人に満たなかったら、お前も倶楽部対抗戦に出てもらう」

 

 正確に言えば、『戦士』系、『盗賊』系、『術士』系のいずれかで、健太基準で見て十分に強く、本人も戦意満々な女子が入ってくれた場合には、例外のつもりだが、そんな美味しい人材がそうそう転がっているとは思えない。沙姫(さき)のような女子は本当に貴重なのだ。

 

「え? う、うわ、うわあ……」

 

 名義だけではなく、実際に戦ってもらう。そう言われたことを理解した来斗は、途端に顔色を悪くする。

 顔色を悪くする来斗の気持ちは、正直健太にも共感できる。基本陰キャオタクは、「代表」とか「リーダー」とか呼ばれる、表に立つ立場を嫌う者が多い。ましてや、豊葦原学園の倶楽部対抗戦は、武器を持って戦うガチ戦闘だ。出ずに済ませられるなら、出たくないというのが、来斗の本音だろう。健太自身、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がなければ、絶対こんなことはやっていない。

 

 ダンジョン内にいた時と変わらないくらい、顔色を悪くする来斗に、健太は引き時だと理解する。

 

「まあ、今すぐ結論を出す必要はない。試しに、今度もう一度ダンジョンダイブしよう。今日は散々だったから、やっていける自信がないのもわかる。だから、次は俺がもっとちゃんと主導する形で、お前のレベルアップを手伝ってやる。返事はその後だ」

 

「う、うん」

 

「それでは、次の予定を決めておくか。お前は今、どれくらいの頻度でダイブしている?」

 

「ええと、週一か二くらい……」

 

 その消え去りそうな語尾と、泳ぐ視線から、まず間違いなく週一だと察した健太が、それは追求せず、本人の言をそのまま信じた形で提案する。

 

「分かった。ということは、今週はもう一度ダイブするな。明日はこっちもちょっと用事があるから明後日だな。武器もこっちで用意する。何か希望はあるか?」

 

「え、ええと。出来るだけ、使いやすいやつが」

 

「使いやすいやつか。考えておこう。では、明後日の正午、学食で待ち合わせだ。昼食を済ませて、ダイブだ」

 

「う、うん」

 

 強引に押し切られるように、来斗は健太と約束を交わした。

 来斗が健太の提案を受け入れた理由は、健太の強さを知ったため、自分も本当にレベルアップさせてもらえるのではないか、という希望的観測もある。健太が提案する倶楽部に興味を覚えたのもある。

 だが最大の理由は、躊躇いなく容易く上級生男子の群れを屠った、健太の提案を拒否する勇気がない、という消極的なものであることは言うまでもなかった。

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