その日の夜。
現状、健太と蘭では、体力も精力も差がありすぎる。隷属している蘭は「健太君がしたいようにして」と言うが、イキすぎて意識を飛ばした女にセックスを続行できるような健太ではない。だから、蘭の体力が尽きた時点でセックスは終了になる。それが、健太にとって「したいようにしている」なのだと言われれば、蘭もそれ以上の反論は難しい。
それでも、蘭とのセックスを少しでも多く味わうために、途中でインターバルを入れるのが、いつの間にか定番となった。九回連続は持たなくとも、三回やって一休みを三度繰り返すのなら、持つ。
今はそんな小休止の時間は、だいたい裸で抱き合ったまま、お喋りに費やされる。重要な相談事のこともあるし、他愛ない無駄話のこともある。
今夜の話は、やはり
「それにしても、本当に一日で来斗くんを
仰向けに寝そべる健太の首から肩にかけてのラインに顔を埋めながら、蘭は感嘆の感情の籠った言葉を漏らす。
「はい。思ったよりうまくいきました。来斗も予想外の根性見せてくれましたから」
前半は来斗が根性を見せたのではなく、健太がこっそり『
「『
来斗が取得した(健太が選んだ)『
元々『
一方、逃げる敵を追いかけるのは、激烈に苦手だ。相性が最悪な敵は、魔法等の飛び道具の攻撃手段を持つ敵に「引き撃ち」をされることだろうか。術士系は一般的に戦士系より鈍足なのだが、『
また『
剣を鞘に入れたままならば、打撃武器として認識されるらしく、「『
『
総じて評すれば、『
「それは、『
「一応両方だけど、一対九くらいで時期の問題が大きいね。この時期に
健太の問いに、蘭はそう即答する。ちなみに、『殴打士』が上位倶楽部にも需要がある理由は、力に特化している分重装備が可能でタンクになりやすいからだ。タンクは、『
「そう考えたら
「どうしたしまして」
と言いつつ、蘭は健太の左腕を掴んで自分の頭に導く。蘭の意図を理解した健太は、蘭の頭を丁寧に撫でる。まるで、ペットを褒めるがごときな対応だが、隷属した女子の場合、むしろこうした対応を喜ぶ者が多い。学園の男女が歪んでいく原因は、一概に男子側だけにあるわけではない。
蘭が満足するまで頭を撫でるつもりだった健太だが、いつまでたっても蘭が目を細めて気持ち良さげに喉を見せたままのため、諦めて途中でその手を止める。
「
まだまだ先は長い。そんな分かりやすい感情の籠った健太の言葉に、蘭は忠告する。
「来斗くんは上手くいきそうだけど、今後はあまり急ぎ過ぎないようにね」
「何でですか? そりゃ、人は選ぶつもりですけど、後になればなるほど、俺が望む人材は減るわけですし、ある程度急ぐべきなんじゃないかと思うんですけど」
健太が欲しているのは、ある程度価値観を共有できる男子である。乱交、スワッピングが当たり前な学園の常識に染まっていない男子。元々、
「うん。でも、どうせなら来斗君みたいにちゃんと健太君に心から従う部員の方が良いでしょ? 今から危機感持ってる来斗君みたいな子、意外と珍しいんだよ。どうせなら、倶楽部勧誘が解禁されて、一年生同士も仲良しで固まって新しい倶楽部作って、それでもどこからも声がかからなくて焦りを覚えてから拾い上げた方が、『良い子』になってくれるよ」
蘭は囁くような声で、毒のある言葉を告げる。
この学園で倶楽部の存在感は大きい。学園から支給される援助の大部分は倶楽部単位だ。『
倶楽部に籍を置いていないというのは、ダンジョンダイブを共にする仲間がいないというだけでは済まない不自由を強いられるのだ。
だが、それでも倶楽部に所属していない人間はどの学年にも一定数は存在する。彼らは、大きく二種類に分類できる。
一つはそうした不利を理解した上で、それでもなお「そういうのは苦手だ」と拒絶する、生粋のソロ気質の者たち。世間の常識から外れた、異常者をかき集めたような学園の中でもさらに外れる、純度の高い異常者たち。
そして、もう一つは本人には倶楽部に所属したいという意思はあるのに、どこからも声がかからない、純粋な最底辺。
「こう言っては悪いけど、来斗くんって本来その後者――最底辺の子だよね。でも、健太君ならそんな子でも引き上げることもできる。だったら、焦らないで彼らが実際に溢れるまで待ってからでも遅くはないんじゃないかな」
蘭はそう思うようになったのは、今日寮の玄関で偶然、来斗とバッタリ顔を合わせたからだ。
烏琉羽と腕を組み、というか片腕を烏琉羽の制服の中に突っ込んで弄りながらこちらを見る来斗の瞳は、この学園では見慣れた脂ぎった性欲でギトギトに光るものだった。その様子だけで、来斗が最低でも急激なレベルアップを、場合によっては
その性欲で濁った瞳が自分を捉えた時、蘭は一瞬「これはヤバい」と思った。あの瞬間は間違いなく来斗は、蘭のことも性欲の対象として見ていた。
だが、
「紹介しますね、来斗さん。彼女が蘭。『健太さんのパートナー』です」
と、烏琉羽が来斗の耳元でささやいた瞬間、一瞬で来斗は背筋を伸ばし、その双眼から情欲の色を一切合切消し去ったのだ。次の瞬間、「では、私の部屋に行きましょう」と囁く烏琉羽が、制服の中に差し込まれた来斗の手を、制服の上から抑えるようにして自分の乳房を触らせ、すぐに濁った性欲を引き戻したが。
だが、その性欲はあくまで烏琉羽だけに向けられており、蘭には全く向かなくなっていた。
「びっくりするほど、しつけが行き届いてる」と蘭は、感心したものだ。そして、今頃は烏琉羽と楽しい一夜を過ごしているはず。恩と恐怖と快楽。三つ揃えば、学園の男子でもある程度は信頼できる。無論、純粋な戦闘力で上回っていることが土台であることは変わりないが。
そんな来斗の様子を思い出した蘭は、裸の健太の胸に頬ずりをしながら、もう一度言う。
「来斗君くらいに『聞き分けの良い部員』が欲しいなら、一度危機感を覚えさせてから、救いの手を差し伸べた方が良いです」
「うーん、理屈は分かりますけど……」
蘭の腹黒い助言に少し意外な気がした健太だったが、考えてみれば蘭だって一年この学園を生き抜いた女子なのだ。今更気にするほどのことでもない。多少予想外の顔を見せても、蘭が美人で可愛くてエッチな体をした、最愛の女性であることに変わりはない。
健太は、人慣れした大型動物のように頬ずりをする蘭の背中をポンポンと叩きながら、自分の懸念事項を伝える。
「でも、遅くなったらそれだけ候補者が減りますよね? それに、落ちこぼれでも『学園の常識』に染まるからその……俺や来斗みたいに「倶楽部内でのセックスはパートナー限定」って守られないんじゃ」
そこは力づくで守らせることもできるか? などと考えながら問いに、蘭はちょっと困ったように、だがはっきりと答える。
「ねえ、健太君。その条件あきらめない?」
「…………え? な、なんでですか?」
予想外の蘭の言葉に動揺を隠せない健太だったが、蘭が意味もなく自分の方針を否定するわけもないことは理解している。動揺しつつ問い返す健太に、蘭は慎重に言葉を選びながら、告げる。
「やっぱりね、深い隷属前提のパートナー契約は、女子はちょっと二の足踏むよ。男子全員が健太君とまでは言わなくても、せめて来斗君くらいの実績なら希望者もいるだろうけど。それに、人格の問題もあるしね」
四月前半で(表向きは)第二段階の戦闘職になった健太。四月半ばで第一段階のレア戦闘職になった来斗。この二人の実績ならば、「隷属しても良い」と考える女子もいる。しかし、倶楽部勧誘が解禁されるのがゴールデンウィーク。落ち着くのは五月の半ばくらいだろう。その後に、短期で転職までこぎつけても、全体では早い部類だが特筆するほどではなくなる。
普通の倶楽部員、普通のパートナーならばともかく、ガッツリ隷属することになる、健太が考えるマンツーマンのパートナーになるには、リスクが勝ってしまう。
「それならやっぱり、早めに確保した方いんじゃないですか。最初の倶楽部対抗戦に間に合わなくなったら本末転倒ですし」
最初の倶楽部対抗戦は、『水無月杯』。その名の通り、六月開催だ。五月半ばに本格的に部員集めをするというのは、健太の言う通りリスキーなのは間違いない。最悪倶楽部設立が間に合わなくて、参加できないことになる。叶馬との約束を破るのは、出来るだけ避けたい。
「その場合は、前にも言った通り引き抜きが怖いし、多分いい気になる子が出ると思う。健太君がいるから倶楽部では頭を押さえられるけど、教室では多分カーストのトップになるから。そうなったら、引き抜きに応じちゃうんじゃないかな」
健太の作るFランク倶楽部の部員と、上級生が部長を務めるBランク倶楽部の部員。どちらの立場が『美味しい』かは、一目瞭然だ。
ピンチを自覚する前に救われていては、さほど恩に感じていないだろうし、健太の強さに恐れを抱いていたとしても、Bランク倶楽部の部長や幹部ならば今の健太よりは強い(と、蘭は勘違いしている)。そして、提供できるうま味は、言うまでもなくBランク倶楽部の方が圧倒的に上だ。彼らは好きに使ってよいオナホ女を複数人、抱えている。Bランクならば部室それなりに豪華だ。
蘭の説明は、健太にとっても納得いくものだった。
「勧誘を後にする必要性も、そうすると今の条件のままだとパートナーになってくれる女子が集めづらいことも理解できました。ただ、やっぱり、スワッピングや乱交が当たり前の倶楽部は……」
どうしてもそこは受け入れがたい健太に、蘭は用意していた問いを投げかける。
「そこはどうしても妥協できない? 健太君自身がそういう行為が嫌で、自分のパートナーにもさせたくない。そこだけ守らせて、部員同士がやる分には自由、とかでも駄目?」
「うん? それは……まあ、その状態が維持できれば? 出来れば俺の価値観が多数派な倶楽部にしたいってのはありますけど」
言われた内容を想像してみて、健太はゆっくりそう答えた。
極論、健太は自分と自分のパートナーが乱交に巻き込まれなければ、我慢は出来る。同じ価値観の人間を集めて、倶楽部の方針にしようとしたのは、自分と自分のパートナーだけ特別扱いは、倶楽部内で不満が湧くと思ったからだ。それを力で押さえつけるより、同じ価値観の人間だけで倶楽部を作った方が良い、という安直な考えだった。
「倶楽部に所属する女子は、必ず倶楽部の男子の誰かとパートナー契約を結ぶっていうのは、やってる倶楽部多いから問題はないんだけどね」
そういう倶楽部は、公式にパートナーとなった男子が「この女は倶楽部の男子なら、何時でも誰でも好きに使って良いぞ」と明言するのだ。こうすることで、女子部員は男子部員なら誰で好きに使うことができ、同時に校則上は部員以外の男子は手出しができない、倶楽部専用オナホ女となる。倶楽部の男子以外には、むやみやたらと襲われなくなるため、女子からも好評なシステムだったりする。
また、倶楽部の女子が倶楽部外の男子とパートナー契約を結ぶという面倒ごとを事前に排除できる、というメリットもある。校則上、男子は何人の女子とでもパートナー契約を結べるが、女子は一人の男子としかパートナー契約を結べないからだ。
「Aという倶楽部に所属している女子は、Bという倶楽部の男子のパートナーである」という状態は、校則違反にはならない。だが、この状態が非常に面倒ごとを引き寄せやすいことは、簡単に想像がつくだろう。
健太の場合はその上で「俺のパートナーに手を出すなよ。それ以外の女はそれぞれのパートナーの判断に任せる」と明言すればよい。そんな蘭の説明に、健太の理性は理解を示し、感覚は混乱をきたす。
「その方が、女子にとっては良い環境……か」
依然、蘭に教えられた知識を、健太は独り言のように口にする。
パートナー固定は男子にもデメリットだが、女子にはそれ以上にデメリットとなる。確かに、『隷属』という現象の存在と、学園の壊れた性倫理ならば、そういう評価になることは理屈では分かるが、感覚が追いつかない健太である。
「うん、ひとまずはその方向で考えてみたらどうかな?」
蘭はそう提案する。
実のところ、蘭の『助言』には、多分に打算が含まれている。嘘はついていないが、いくつか意図して言っていないこともある。
例えば、「隷属されるから、一人の男子に占有されることを学園の女子は嫌う傾向にある」というのは紛れもない事実だが、「多人数の相手をするより、一人の相手の方が楽だから、隷属してもそっちの方が良い」という価値観の女子も、それなりにいることなどは、あえて伝えていない。
それは蘭が、「学園の男子という生き物を全く信頼していない」という問題から発している。この問題に関しては、残念ながら健太も例外ではない。
どうせ遠くない未来、どの男子も普通のセックスに飽きて、だんだんアブノーマルな方向にも手を出していくのだ。戦闘力が高く、学園で我が儘を押し通せる男子程、その傾向が強い。健太はその典型だ。
ならば、入学前の価値観で築く『縛り』など、ない方が良い。
下手に縛りがあった場合、将来学園の価値観に染まった後の健太が、自分の作った倶楽部の規則を「面倒くさい、鬱陶しい」と感じるようになる。
その際、倶楽部の規則を一新するのならば良い。面倒だから、倶楽部を解散するのでも問題はない。だが、最悪の場合、倶楽部に所属するパートナーも全員解放して、「一からやり直す」可能性も決して低くない、と蘭は考えている。
戦闘職のスキップ組である健太ならば、あっという間に台頭するだろう。学園の価値観に染まった頃には、「一からやり直す」ことも「有力倶楽部に籍を移す」ことも、至極簡単になっている。
そうなった場合、健太の隣に自分の居場所はない。
「…………」
自分の想像に怖くなった蘭は、反射的に健太にしがみつく力を強める。
「蘭先輩?」
もちろん、蘭の頭の中など知る由もない健太だが、その態度からなにか蘭が不安を感じていることは察した。
「分かりました。助言ありがとうございます。ひとまず四月中は、メンバー集めを急がないでじっくり進めますよ」
そう言って、蘭の背中に左腕を回し、蘭がしがみつく力より、もう少し強い力で蘭の体を抱きしめる。
不器用だが強い健太の抱擁に、落ち着きを取り戻した蘭は、健太の首筋に一度強く口づけをすると、健太の耳元でささやく。
「ありがとうございます、ご主人様。……ねえ、私、今の教室に仲のいい友人がいるって話、以前にしたかしら?」
蘭の言葉に、少し考えて健太は首を横に振る。
「いえ、初耳です」
とはいえ、特に驚くことではない。一皮むけばセックスアンドバイオレンスなこの学園だが、その薄皮一枚分は意外と普通の学校生活が営まれている。当然、教室内で仲の良い友人くらいはいるだろう。健太や来斗のようなボッチでもない限りは。
「そっか、言ってなかったか。私が前の倶楽部を首になって、色々不安定になっていた時期に気にかけてくれた友達がいるの。その子達に、もう大丈夫って伝えたいんだけど、健太君のこと紹介しても良いかな?」
探る様な口調で蘭はそう言った。
「ああ、そう言うことなら、構いませんよ。俺も、蘭先輩の友達なら挨拶しておきたいですし……って女子ですよね?」
と言いながら、途中最悪の可能性に思いついた健太は、念のため確認を取る。
「もちろん女子だよ、安心して。でも二人とも、パートナーこそいないけど、倶楽部には所属してるから、健太君は手を出さないでね。もめちゃうから」
「だ、出しません!」
蘭の予想外の答えに、健太は動揺を隠せない。狼狽える健太が面白いのか、蘭は
「あれ、まてよ? どうせなら私の友達もダンジョンに連れてってくれる? それなら、向こうが拒否しなかったらOKだよ。ダンジョンに一緒に行くってことは「そういうこと」だから」
男子が女子をダンジョンに誘う。もしくは女子が男子にダンジョンに連れて行ってくれと頼む。そこには、ダンジョン内でのセックスを了承したという暗黙の了解がある。
四月の一年生にはまだ広まっていない、暗黙の了解だが、蘭と同じ教室ということはその友人達は二年。ダンジョンに誘って受け入れた時点で、ダンジョンセックスを了承していると思って良い。
「いや、遠慮しときます。あ、そうじゃなくて、先輩の友達を安心させるためなら、ダンジョンダイブをご一緒するのはOKです。でも、ダンジョンセックスは俺、正直苦手で」
根本的に『
精力は化け物クラスでも、セックスは初心者そのもの健太は今のところ、寝具の上以外でのセックスは難しい。
お互い靴を履いて、服もある程度着たまま、女子の下着だけを脱がして、自分はチャックからペニスを出して、立ったまま結合に成功している原作のキャラ達に、ダンジョンセックスのコツをご教授してもらいたいくらいである。
自慢ではないが今の健太は、寝室でもまだ、後背位の経験がない。蘭が密着状態を好むのもあり、主な体位は覆いかぶさるタイプの正常位か、騎乗位だ。騎乗位もすぐに蘭が健太の胸の上に倒れ来てしまい、抱き合ってのセックスになる。
「でも、今後のことを考えたら、苦手とばかりも言っていられないのか?」
普通なら、「いや、それは出来る必要はないだろう」とツッコミが入るところだが、『羅城門』ダンジョンに限っては意外と冗談でもない。ダンジョン内の瘴気圧は精力を増強させ、レベルアップは精力と性欲を急増させる。モンスター退治が順調に進めば、セックスがしたくて我慢が出来なくなるのは、男女問わないのだ。
意外と、出来ないとまずい学園生徒必須の技能なのかもしれない。
「まあ、少しずつ覚えていけばいいんじゃないから」
苦笑しながら、蘭はそう言って健太の腕を引く。
もちろん、健太に抵抗する意思があれば、蘭が全身全霊の力を込めても、微動だにしないはずだ。しかし、ベッドの腕で裸の蘭に引き寄せられて、健太が抵抗するはずもなく、
「はい、よろしくお願いします」
「フフ、頑張って」
裸の健太は、裸の蘭の上に覆いかぶさるようにして、口づけを交わすのだった。