しかし、本日は『
理由は言うまでもあるまい。狂暴なトンチキをやらかした、
二人部屋に、
とはいえ、こうしてベッドに腰を掛けて食事が出来ているのだから、贅沢は言うまい。
叶馬のように、床に正座させられて、つるし上げを食らっているわけではないのだから。
「ダンジョンダイブをやっている以上、誰にも教えない切り札、奥の手を隠し持つのは悪いとは言わねえ。むしろ正しい判断だ。けどな、叶馬。俺たちは仲間だろ? もう少し、俺達にも配慮してくれねえか。唐突に切る隠し札はよ、もうちょっと心臓に負担がすくねえやつにしてくれ。
事前情報なしで、あんまり突飛なことされると、頭がついてかねえんだよ。半裸で空を飛ばれたり、光ってカミナリ落とされたら、な? 対応できねえんだ。事前の打ち合わせなしでそれが出来るのは、健太ぐらいだ。俺たちはな、人間なんだ」
「うん、私も叶馬くんのトンデモには慣れたつもりだっただけど、甘かったわ。考えてみたら、叶馬くんに慣れるってヤバい状態よね。私はまだ人間を失ってない証拠なのかも」
そう言って隣に座る健太に、麻衣は意味ありげな視線を向ける。健太にとっては不本意極まりない評価である。
「一緒にしないでくれ。叶馬と俺では、キ〇ーマジンガとキラ〇マシン2ぐらい違う。一見似ていても、中身は大違いだ」
健太は、割りばしで生姜焼きを乗せた白米を口に運ぶ手を一度止めて、強く抗議する。後者を少し強くした程度の想定で前者に挑むと、トラウマを植え付けられるのである。
賛同の声が上がらなかったのは、オタクな例えを誰も理解できなかったのか、意見そのものに賛同者が一人もいなかったからか。
いずれにせよ、健太の意見を無視するように、叶馬が正座を崩さないまま口を開く。
「うむ、確かに俺も誠一が光って飛んだら、ちょっと驚くな。悪かった。ただ、あれは俺もあの場で初めて出来るようになったのだ」
だから、事前に教えておくことは出来なかった。そう言う叶馬の弁明は、言い分としては間違っていない。だからこそ、誠一は顔を引きつらせる。なぜなら、あれがあの場の即興、思い付きで行われたことということは、今後も同レベルの「初披露のトンチキ」を見せつけられ続ける可能性が高い、ということだからだ。
「恐らくだが、あれが俺のついている
「ああ、そう言えばお前のクラス『見習い』としか、聞いてなかったな。なに『見習い』なんだ?」
誠一の追求に、叶馬は少し間があった後、素直に答える。
「雷神見習い、だ。『
「雷神様かあ。あー、そう言われたら色々納得かな」
「そんなクラスもあったんですねぇ」
叶馬の説明に、麻衣と沙姫は納得したように、うんうんと頷いている。その間も沙姫は、鮭弁当をパクパクと口に運んでいる。ちなみにその前に幕の内弁当を一つ平らげている。叶馬に次ぐ健啖家の称号は伊達ではない。
では、その沙姫を超える健啖家の叶馬はどうしているかというと、左右に控える海春、夏海の双子が恭しく掲げる供物を口にしている。
具体的に言えば、酒、塩、
「どうぞ、です」
「お納めください、です」
変に素直な叶馬は、双子が口元に運ぶ酒を飲み、塩を舐め、生米をボリボリ食らう。SPに比べ、自然回復に時間がかかるGPバーが、その食べ物――『
色々規格外な叶馬だが、現代日本の文明化で生きてきた若者であることに変わりはない。拝み倒す程度の実害のない神様扱いならばともかく、皆が普通の弁当やホットスナックを食べている中、自分だけは塩を舐めながら、生米をかじらされるのは、叶馬もちょっと切なさそうだ。
冷静に見れば、神様扱いというより、一種のいじめである。
「叶馬さん、こちらは私が食べさせた方が良い、と言われたのですが」
そう言って静香は、双子から手渡された生野菜――人参、大根を叶馬に差し出そうとするが、流石に叶馬もそれには首を横に振った。
「せめて、スティック状に切ってマヨネーズを添えてもらえないか」
「み、御饌は、出来るだけ自然のままの方が」
「神様は喜ばれる、です」
善意100%、しかも叶馬の神と見なした場合正しい対応をしているのは双子なのだが、このままではいくらなんでもちょっと叶馬が可哀そうだ。
「あー、海春さん、夏海さん。叶馬はこう見えても、味覚や嗜好は普通だから、ちょっと手加減してあげて。捧げ物に拘るなら、お酒をもうちょっと良いのに変えたらどうかな? 裏メニューのさらにお得意さん用にいいお酒あったから、その辺用意するとか。『伊勢』『出雲』『鹿島』の『
神への捧げ物として、酒というのは洋の東西問わず、一般的なものだ。日本の場合、いくつかの神社は、神社自体が『酒類製造免許』を取得し、直接造っているところもある。伊勢神宮と出雲大社がそうだ。鹿島神宮は、神社自体が免許までは取っていないものの、地元の酒蔵が神社の水を使って作った酒を献上酒としている。
叶馬のような神系GR職はほぼ皆無だが、静香のような『
ただし、小瓶で十万『銭』以上するが。学園外で購入しようと思えば、二千円もしないことを考えると、やはり生活必需品以外の価格は異常に高い。
ティッシュ、トイレットペーパー、飾り気のない下着、学食の定食メニューなどを見る分には、一『銭』=一円に思えるが、贅沢品となると極端に金額が跳ね上がる。ちょっとした菓子の類でも千『銭』は軽く超えて来るし、漫画や小説などは一冊で万単位の『銭』を要求される。
ちなみに、学園では無線が通じないこともあり、電子書籍は流通していない。サブスク系ではなく、ダウンロード販売系ならばやってやれなくもなさそうだが、そちらも無しだ。原作では、極力他の娯楽を削ることで、ダンジョンダイブとセックスに生徒の意識が向くようにしているのではないか、と考察されていた。
ともあれ、健太の情報に双子は、目を見開き、コクコクと頷く。
「良いことを聞きました、です」
「情報ありがとうございます、です」
神事に関して入学前から知識があり、今は『雪』の巫女のようなことをやっている双子ならば、有効活用してくれることだろう。健太は、
「有効な情報なら良かった。というわけで、そろそろ叶馬にも、
と、叶馬の待遇改善を申し出る。確かに、御饌は叶馬のGPを回復させる効果があるが、どの道叶馬の場合、セックスでもっと劇的にGPを回復させることが出来るのだ。この後、叶馬が誰ともセックスをしないで、一夜を過ごすとは考えづらい。ここで御饌にこだわる必要はないだろう。
どうにか切ってもいない生野菜ではなく、ステーキ弁当にありつけることになった(静香が口に運ぶのは変わらなかった)叶馬が、こちらに感謝の視線を向ける。
その間、ずっと電子生徒手帳で検索していた誠一がやっと結論を出したのか、大きく長い息を吐く。
「どんだけ条件変えても出てこねえ。完全な
「……不慮の事故だ」
猛烈な勢いでステーキ弁当を食べていた叶馬は、スッと視線を逸らした。
『
それなのに、叶馬が自分の職を不本意そうにしているのは、今叶馬が言った通り、『不慮の事故』があったからである。
健太が知る原作の情報では、叶馬は『
その女子は、特級科の一年女子で生徒会書記の
今の叶馬の様子と、実際叶馬が『
普通科の生徒としては例外的と言えるほど、頻繁に図書館に足を運んでいる健太だが、幸い叶馬と薫が邂逅する場面には出くわしていない。
「SSRみたいな罠職でもねえし、レア、スーパーレアみたいな基本職の特化型とも違げえ。なんなんだ、マジで?」
真面目に考察して頭を捻る誠一に、叶馬はいつもの淡々とした口調で自説を唱える。
「恐らくは、雷系に特化した『
「いや、お前のぶっぱなした雷撃は、普通の魔法スキルと違う気がする」
叶馬の説を否定する誠一に、麻衣も同意を示す。
「そーだね。私も、多分その気になれば、ビリビリ攻撃は出来ると思うけど、叶馬くんみたいには出来ないよ。ていうか、どう見ても肉弾戦の専門家なボスモンスターと正面からガチ殴り合いやれる魔法職ってなに? 話なんだけど」
オタクではないが、ゲームなどは普通に遊んできた経験のある麻衣は、RPGゲームの常識に乗っ取ってそんな意見を述べる。
「装備が、影響しているのだろう。あの六角六尺棒がそれと見た。あれは、魔力を攻撃力に変換する武器なのだとすれば、説明がつく」
「叶馬くん、普段はパンチでゴブリンミンチにするじゃん」
「装備することに意味があるのだ。トンファーキックと同じ理論ではないかと推測する」
不毛に考察を重ねる麻衣と叶馬に、健太は何か言うべきかと考えたが、結局沈黙を保つことを選択した。ここでGR職の特別さを解いてもあまり意味はない。
「流石に前衛か後衛かで分類するなら叶馬のクラスは前衛だろ? まあ、確かにあの雷撃飛ばせるら後衛でも出来るだろうけどよ。マジで謎
「ああ、問題ない。クラスチェンジが可能になったからな」
しきりに首を傾げながら、自分を納得させるようにそう呟く誠一に、叶馬はあっさりとそう告げる。
「……はあ?」
声を上げたのは誠一だが、すでに見て知っていた静香と健太以外は、皆似たような表情を浮かべていた。
「今回の戦闘で実感した。このパーティーに必要なのは、タンクだ。そして、その役割を果たすのは俺であるべきだと、思われる」
叶馬は、静香から借りたノートとペンで、自分の
「別に今のままでも叶馬さんは問題なく、タンクの役割もこなしていると思いますが」
「そーそー。ガチタンクが欲しい時には、今回みたいに健くんにヘルプ頼めばいい話だし」
静香と麻衣の言葉に、変なところで真面目な叶馬はむっつり首を横に振る。
「いや、健太はあくまで準メンバー、正メンバーではない。パーティー内にしっかりとしたタンクが必要なのだ」
「若干タイプは違うけど、叶馬は今のままで十分だと思うぞ。立派に
あえて少し『タンク』意味を変えて、健太は叶馬をそう評価する。叶馬パーティーには沙姫という前衛のエースがいるので、叶馬が守備よりになってもパーティーバランスは悪くないのだが、どのみち叶馬に純タンクは無理だと健太は確信している。性格がタンクに向いてなさすぎるのだ。
「だな、叶馬は今のままでも十分強ええ。ただ、候補に良いのがあったら、考えてもいいかもしれねえ。書き終わったか? 見せてくれ」
誠一の言葉を受けて、叶馬は『
「これだ。見てくれ」
【SSR:『
GR:『
『
「……………………」
見終えた一同に、とてつもない沈黙が下りる。
「俺、叶馬のことまだ甘く見てたわ。
誠一は、天を仰ぐようにして右手で顔を覆う。
「ねえ、このSSRの三つってひょっとして、『
「だろうね。SSR職はレベルアップに絶望的なくらいに経験値要求されるから、『罠』
乾いた声で発せられる麻衣の問いに、健太は半笑いで答える。すでに知っている情報だが、こうして目の当たりにすると、『
「この米印は読めないってことですよね?」
と、首を傾げている静香の方がよっぽど冷静だ。『
「私も拝むべきなのでしょうか?」
そんなことを言う沙姫に、海春と夏海の双子は「是非」「すべきです」なとど、唆している。
「あー、言われてみたら、神と悪魔関係の職しかねえな。拝んだら御利益ありそうだ。例外は『
「いや、ない」
反射的に否定する叶馬に釣られて、つい健太も口を開く。
「いや、お前殺してるぞ。ファーストダイブで叶馬が
健太の言葉に、その意味が理解した誠一が大声を上げる。
「はあああ!? お、おま、マジか? ア、『
だからこそダンジョンダイブでは、一か所に長時間留まるのはご法度とされているのだ。いくら叶馬が非常識とはいえ、その大原則を覆していたと聞かされれば、誠一も叫ばずにはいられない。
「む? ……ああ、あれか」
しばらく考えて、やっと思い出した叶馬はポンと手を合わせる。
「……忘れるなよ、歴史的偉業だぞ。ってことは、あれか? 叶馬がいれば『
疲れた声で、だが現実的な利点を見出そうとする誠一に、叶馬は珍しく即答する。
「いや、駄目だ。あれは、遭遇するべきではない」
叶馬がはっきりと敵対を避けるというのは、珍しい。
「あー、叶馬がそう言うんならその方が良いんだろうな」
だから、誠一も簡単に引き下がる。
実際、叶馬の判断は間違っていない。『
日本神話における死者の国である『黄泉の国』から出ていこうとするモノに差し向けられる追跡者という経歴を考えれば、万が一『
「ガチのレア職は、難易度ルナティックな前提条件があるって話だが、『
「うむ。それで、相談なのだが、俺はどの
驚愕が過ぎて、虚脱状態になっている一同に、一人まったく動じていない叶馬は、淡々とした口調で助言を求める。
しかし、求められる側は、互いに顔を見合わせてしまう。
「どの、
「情報のない
「叶馬君がなったら、どうせどれもちょー強いだろうからどれでもいいんじゃない?」
半ば投げやりな仲間達の言葉に、叶馬は少しムッとしながら、
「やはり、『
「無理無理、諦めて今ある中から選べ。お前が
「段階が上のクラスを選ぶべきかと思います、叶馬さん。全て米印は流石に怖いので、『
比較的まともな意見を言っているのは静香ぐらいで、後のメンバーは困惑しているか投げやりになっているかだ。
そんな中、唯一何も言ってない健太は、自分の脳裏に移る情報をどう処理するべきか、思案していた。
船坂叶馬
『
『
『
『
『
『
に転職可能。
「…………」
叶馬の『
逆に、***で表記されている謎の職は表示されていない。
健太は考察を働かせる。
(
叶馬の『
『
だから、『
ここで、お望み通り叶馬を『
ここで『
『
ダンジョンダイブで会得できる経験値は大きく変わらないのに、その経験値を二つの職に分けるのだから当たり前だ。
特に叶馬のGR系『
『
健太がそんなことを考えている間に、叶馬は渋々『
「む?」
叶馬が首を傾げている横で、健太の脳裏に文字が表記される。
【船坂叶馬は『
はい
いいえ】
健太は脳裏で、「はい」をクリックする。
「うむ」
無事、