※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第四十二話 連日の『界門守護者(ゲートキーパー)』戦、副武器(サブウェポン)の入手

 

 

 

――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――

 

 ――第『(さん)』階層、『既知外(きちがい)』領域――

 

 

 

 叶馬(とうま)パーティーと共に『既知外(きちがい)』領域の第三階層から第四階層に繋がる『界門(ゲート)』を守る『界門守護者(ゲートキーパー)』、ゴブリンロードを倒した翌日。

 健太(けんた)は一人、ダンジョンダイブを敢行していた。

 健太が訪れたのは、『既知外(きちがい)』領域、第三層の『界門(ゲート)』玄室。といっても、前日、叶馬パーティーと共に攻略した『界門(ゲート)』玄室とは別な玄室だ。

 階層を繋げる『界門(ゲート)』は一つだけではない。上層階ならば、学園が把握している『既知(きち)』領域だけでも、複数の『界門(ゲート)』が存在している。ましてや、健太や叶馬達が探索している既知外領域ならば、探せばいくらでもあると言えるほどだ。

 叶馬は、海春(みはる)夏海(なつみ)の双子が加入するまで『文官(オフィサー)』無しの探索が続いていたが、健太は自分自身が『文官(オフィサー)』でもある。主にレベル上げや、『魔法文字』の研究に使っているが、『周回レベル上げ(タイムターナー)』で何度もダンジョン内の時間を繰り返しているため、探索している範囲は、叶馬パーティーと比べてもはるかに広い。

 

 結果、ここ既知外(きちがい)領域、第三層から第四層に繋がる『界門』を、複数把握していた。

 そのうちの一つに、今健太は単身挑む。昨日の戦いで、今の自分が能力をすべて使いこなせば勝てると確信が持てたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「グオオ!」

 

 巨大なゴブリンが、その巨体と比べてもなお、『大剣』と呼ぶべき巨大な剣を両手で振り回す。

 刃幅が広く、肉厚な両刃の大剣だ。刀身は黒に近い灰色で、金属ではなく石造りに見える。間違っても鋭利な刃ではないが、その重量だけで必殺の威力があるだろう。

 

「しっ!」

 

 斜め上から振り下ろされるその斬撃を、健太は左腕に装着した方形盾で受け流す。角度、タイミングといった受け流しの基本は外していないはずなのに、かなりの衝撃がくる。しかし健太は、踏ん張る足や受け流した左腕の衝撃を冷静に把握し、「この程度ならば、何度受けても戦闘に支障はない」と判断する。

 

 健太に、渾身の袈裟斬りを受け流されたことで、巨大なゴブリン――ゴブリンチャンピオンは体勢を崩した。

 その隙に、健太は命令を発する。

 

「ビッグジャイアント」

 

 健太の命令を受け、健太の『強化外装骨格(アームドゴーレム)』――ビッグジャイアントは巨大な右拳を突き出す。かつては、まともな攻撃は拳の振り下ろししか出来なかったビッグジャイアントも、健太が『拳士(パンチャー)』の(クラス)を獲得してから、目覚ましい進化を遂げていた。

 

 ビッグジャイアントの右ストレートを、ゴブリンチャンピオンは驚異的な反応で引き戻した大剣で受け止める。

 

 「ギッ!」

 

 しかし、二メートルの半ばを超えるゴブリンチャンピオンも、三メートルを超えるビッグジャイアントと比べれば小柄であり、体重に至っては数倍の開きがある。

 必然的に、ゴブリンチャンピオンの巨体は、大きく後ろに押し戻された。

 その死角から、槍を構えたゴブリン槍騎士(ランスナイト)――ジュゲムが襲い掛かる。

 

「ギィッ!」

 

「グガア!?」

 

 槍を構えて高速で突進するスキル――『突撃(チャージ)』が斜め後ろから脇腹に決まり、ゴブリンチャンピオンが悲鳴を上げる。

突撃(チャージ)』は、戦士系第二段階職の中では高威力に分類されるスキルだし、今のタイミングはベストに近かった。しかし、それをもってしても、ジュゲムとゴブリンチャンピオンのレベル差は大きい。レベル差はSP総量の差であり、身に纏うSPは攻撃力にも防御力にも大きく影響する。

 結果、低レベルの渾身の一撃でも、高レベルにとっては致命的な一撃とはなりえない。

 

「グゴオア!」

 

 脇腹を槍で抉られたまま、ゴブリンチャンピオンは大剣を振り回し、ジュゲムに反撃しようとする。

 

「《こっちだ》、ッ! ビッグジャイアント!」

 

 健太は『挑発(プロヴォーク)』のスキルでゴブリンチャンピオンの敵意(ヘイト)を自分に向けようとしたが、抵抗(レジスト)されたことを理解した瞬間、ビッグジャイアントに命じて、ジュゲムを守る様に鋼鉄の腕を差し込ませる。

 

 ギン! という鼓膜に優しくない轟音を立て、ゴブリンチャンピオンの大剣は、ビッグジャイアントに腕に深い裂傷を刻み込んだ。

 その隙にジュゲムはゴブリンチャンピオンのわき腹から槍を抜き、距離を取る。

 

「ビッグジャイアントがここまでやられるか」

 

 健太は、思わずそう呟いた。『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっているため淡々としているが、普段の健太なら顔をしかめて舌打ちの一つぐらいはしていただろう。

 ビッグジャイアントは、この辺りにいるレベル20のゴブリン相手ならば、無防備に攻撃を受けても完全なノーダメージだ。ゴブリンヒーローやゴブリンキングといった『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』相手でも、防御態勢を取れば、気に留める必要もない程度のダメージしか受けなかった。

 その頑健でタフなビッグジャイアントが、このゴブリンチャンピオンの攻撃では、「まともに何度も食らえば危うい」くらいのダメージを受けている。

 

「流石は、『界門守護者(ゲートキーパー)』。タイプは違うが昨日の奴と互角と見るべきか」

 

 健太は己に言い聞かせるように、そう呟く。

 

文官(オフィサー)』のスキルである『具象化(リアライズ)』でモンスターカードから召喚されるジュゲムやボンドは、倒されてもカードに返るだけだが、『職人(クラフター)』のスキルである『強化外装骨格(アームドゴーレム)』で召喚されるビッグジャイアントは、倒れると召喚主である健太に大きな精神衝撃(マインドショック)が来る。

 しかし、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている状態の健太ならば、それも問題はないはずだ。

 

 そう結論付けた健太は、ビッグジャイアント、ジュゲム、ボンドを全てを出したまま戦闘を継続する。

 

「ボンド、お前は絶対に敵の射程に入るな。敵の視界の隅でいるだけで良い」

 

「バウ」

 

 短剣(ダガー)を構えてやる気満々だったコボルト強盗(ローグ)ボンドは、あからさまに不服そうに、だが了承を意を伝えるように一声吠えた。

 いくら不満でも、ボンドに積極的な攻撃許可は出せない。ボンドは、コボルト強盗(ローグ)にクラスチェンジしても、打たれ強いとは言い難い。このゴブリンチャンピオンの大剣ならば、直撃でなくとも消し飛ぶ恐れがある。

 

「ジュゲムは隙を見て『突撃(チャージ)』だ」

 

「ギィ!」

 

 健太は、ゴブリン槍騎士(ランスナイト)のジュゲムにそう命令する。さらに、『強化外装骨格(アームドゴーレム)』のビッグジャイアントを、ジュゲムの護りにつける。『突撃(チャージ)』のスキルは出は早く、威力は十分だが、後の硬直が長いという欠点がある。そこを突かれた場合が怖いので、いざという時の守りは必要だ。

 

 必然的に、ここからはゴブリンチャンピオンの前に立つのは健太一人となる。

 

「グアア!」

 

「しっ、《こっちだ》」

 

「ギイ?」

 

 床と水平に振りまわされる大剣の一撃を、健太は左腕の方形盾で上にカチ上げるようにして、防御する。連続して『挑発(プロヴォーク)』のスキルを行使すると、今度は手ごたえがあった。しかし、ゴブリンチャンピオンは、健太に敵意を向けつつも、苛立つように声を上げたところを見ると、どうやら自分が敵のスキルにかかって、不本意な状態になっている自覚があるようだ。

 

 とはいえ、健太の『挑発』に捕らわれている以上、他への意識は薄くなる。

 

「グオオ!」

 

 その隙を逃さず、ジュゲムが再び背後から『突撃(チャージ)』を仕掛ける。

 

「《はあっ!》」

 

 さらに健太が距離を詰めて、右手の小剣で『斬撃(スラッシュ)』のスキルを放つ。『斬撃(スラッシュ)』は『剣士(ブレイダー)』のスキルだ。『剣士(ブレイダー)』の(クラス)も重ねている健太も当然使える。もちろん、沙姫(さき)のように、意識せずとも攻撃時は常に発動させるような真似は出来ない。自分の中で強く、「『斬撃(スラッシュ)』を使う」、と意識しなければ発動しない。その代わり、一撃の威力は健太が勝る。

 

「ガ、ギイィ!」

 

 背後からジュゲムの槍の刺突、前から健太の小剣の斬撃を食らったゴブリンチャンピオンは、それでも闘志を燃やし戦闘を継続する。

 

 懐に飛び込んだ健太を引きがそうと、その丸太というより大木めいた足でゴブリンチャンピオンは健太に前蹴りを放つ。

 これまでの手合わせで、彼我の能力差を理解した健太は、避けることで距離を取られることを嫌い、あえて方形盾で受け止めた。

 

「しっ!」

 

 身長二メートル五十を超える筋骨隆々たるゴブリンチャンピオンと、身長一メートル七十程度で最近泥縄的に筋トレを始めたばかりの健太。だが、十五以上の(クラス)を重ねている健太はすでに、ゴブリンチャンピオンよりも力が強い。もちろん、正面から受け止めようと思えば、力以前に体重差がいかんともしがたく、健太は吹き飛ばされたことだろう。

 しかし、愚直な反復練習と多くの実戦でそれなりのレベルで『受け流し』を習得した健太は、その蹴りを真正面から受けるのではなく、方形盾で綺麗に上へと受け流す。

 推定二百キロは余裕で越えていそうなゴブリンチャンピオンの巨体が、中高く舞う。

 

「ヒギッ!?」

 

 ゴブリンチャンピオンは両手で大剣を持ったっまま、空中でバタバタを足を泳がせる。無様、と言っても言い過ぎではない有様。だが、次の瞬間、健太は鋭い声で命令する。

 

「ボンド、回避!」

 

「ギッ?」

 

 主の『命令』にコボルト強盗(ローグ)のボンドは状況を理解しないまま、真横に跳ぶ。

 次の瞬間、先ほどまでボンドが立っていた場所に爆撃が起きた。

 

「《ガアア》!」

 

 健太に跳ばされたゴブリンチャンピオンが、空中で体勢を立て直し、思い切り大剣を振り下ろしたのだ。その一撃は、まさに爆撃という表現が相応しい。石造りの玄室の床が砕け、大小無数の石の破片が玄室内に飛び散る。

 

 飛び散る石はどれほどの速度があってもただの物理現象だ。レベルが10を超えたモノには一切ダメージとならない。それを理解している健太は、高速で跳んでくる石の破片を完全に無視して、視線はゴブリンチャンピオンに見据える。

 

 

「そんなこともできるのか」

 

 呟く健太の視線の先では、『数メートルの長さに柄』が伸びた大剣を構えて着地に成功するゴブリンチャンピオンの姿があった。

 健太に跳ばされた空中で、後方に控えているはずのボンドに攻撃を届かせた秘密が、それである。ゴブリンチャンピオンの大剣は、柄の部分が伸び、今は大槍のようになっている。

 刀身と柄を合わせた長さは、十メートル近い。

 現実でも十メートルに迫る長槍は存在したが、それは同じ長槍を持った歩兵が集まって槍衾(やりぶすま)を形成する戦術のためだ。そうした長槍の穂先はもっと小さく軽い。刀身だけで一メートル五十以上あるような化け物槍ではない。

 だが、このゴブリンチャンピオンの巨体ならば、その化け物槍も振りまわすことも可能そうだ。

 そんな警戒を抱いた健太だったが、流石にそれは杞憂だった。

 

「《グッ》」

 

 ゴブリンチャンピオンが短く唸ると、長く伸びていた柄は一瞬で縮まり、元の大剣の長さに戻る。

 どうやら、長槍状態を継続するつもりはないらしい。正しい判断だろう。いくら『界門(ゲート)』のあるこの玄室が広いとはいえ、それでも十メートル近い長柄の武器を振りまわすのに十分な広さとは言い難い。

 

「《(つぶて)よ》」

 

 お互い思い切り踏み込んでも、武器が届かない距離だと見て取った健太は、『術士(マギ)』のスキルである『石弾(ストーンブリット)』を撃ち放つ。基本六職の一つである『術士(マギ)』だけでなく、そのレア職である『土術士(ソイルマギ)』、『水術士(ウォーターマギ)』、『火術士(フレイムマギ)』、『風術士(ウィンドマギ)』もコンプリートしている健太は、四属性全ての攻撃が使えるが、一番馴染んているのが土系だ。

 

「ガア!」

 

 高速で飛来する石礫(いしつぶて)を、ゴブリンチャンピオンは大剣を盾にしてガードする。 だが、それは健太にとって想定通り、目論見(もくろみ)通りの動きだった。

 

「《はっ!》」

 

 気合の声と共に、小剣の切っ先を突き出す様に構えた健太は、『石弾(ストーンブリット)』を後ろを追いかけるように、『突撃(チャージ)』を敢行する。『突撃(チャージ)』は、『騎士(ナイト)』系の攻撃スキルだ。当然、健太も使える。

 

 そして、その威力はジュゲムのそれを大きく上回る。健太の持つ小剣は、その短い刀身が見えなくなるほど、深々とゴブリンチャンピオンの下腹部に突き刺さった。

 

「ギイ!?」

 

 密着状態で小剣を付き刺す健太を振り払わんと、ゴブリンチャンピオンは苦痛に悲鳴を上げながら、片手を大剣から離し、その野球のグローブより大きな手で健太の頭を鷲掴みにしようとする。しかし、それよりも健太が次のスキルを発動させる方が早かった。

 

「《ふっ!》」

 

 短い気合の声と共に、健太は左腕に装着している方形盾で、ゴブリンチャンピオンの胸部を殴打する。

 

「ガッ!?」

 

 悲鳴というより、無理矢理肺の息を吐き出さされたような大きな呼吸音を残し、ゴブリンチャンピオンの巨体は大きく後ろに吹き飛ばされた。同時に、深く刺さっていた小剣が抜ける際に、更なるダメージを追加する。

 

 『石弾(ストーンブリット)』こそ凌げたもの、『突撃(チャージ)』、『盾撃(シールドバッシュ)』の連撃に、小剣が抜ける時の追加ダメージも加わり、流石のゴブリンチャンピオンも崩れ落ちる。

 

「グ……!」

 

 まだ絶命には至っていないが、ここからの逆転はゴブリンチャンピオンが主人公属性に目覚めるか、健太の油断しかありえない。そして、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太に、油断はない。

 

 そこから必然の結果に収束するまで、必要とされる時間は一分にも満たなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予想はしていたが、やはりこれがドロップしたか」

 

 健太は、ゴブリンチャンピオンが残した特大の魔石と、『大剣』を前にそう呟いた。

 元々、『界門守護者(ゲートキーパー)』は手ごわい代わりに、ドロップ率が高いことで知られている。『既知(きち)』領域の攻略法が確立している『界門守護者(ゲートキーパー)』など、リポップ周期を把握している一部の倶楽部の既得権益化しているほどだ。

 ましてやここ、『既知外(きちがい)』領域は、瘴気の拡散、攪拌がまったく行われていない分、ドロップ率が高い。『界門守護者(ゲートキーパー)』ならば「ドロップするのが当たり前」くらいの確率だ。

 

 健太は念のため、制服のポケットから取り出した手袋をはめ、『大剣』を拾い上げる。『匠工房(アデプトワーカーズ)』の(あんず)が作ったその手袋は、装備した者にバッドステータスを与える類のいわゆる『呪いの武器(カースウェポン)』を手に取るとき用の装備である。

 非常に分厚く、戦闘には不向きだが、ドロップ品を安全に持ち帰るため作って貰ったのだ。

 (あんず)はまだ第一段階職の『職人(クラフター)』でしかないが、原作通りならば将来『裁縫士(ドレスメーカー)』の(クラス)を得る人間だ。布製、革製の装備に関しては、『匠工房(アデプトワーカーズ)』の中でも跳びぬけた腕を誇っている。

 

 健太は手袋を填めた手で『大剣』の柄を掴み、持ち上げる。

 

「改めてみると、デカいな」

 

 戦闘中は、刃渡り一メートル五十以上、柄も入れて二メートル前後と見なしていたが、実際こうして手に持ってみると、刃渡りだけで健太の身長に迫っている。一メートル六十以上七十未満といったところか。柄を入れれば確実に二メートルを超えている。

 

「やはり、金属ではないな。まあ、ダンジョン産の武具に厳密な材質を考えてもあまり意味はないか」

 

 健太はその、健太の顔幅より広い刃幅を誇る大剣の刀身を見て、そう呟く。こうして手に取ってみても、その『大剣』の刀身は石造りに見える。固い大きな岩を、剣の形に削り出し、磨き上げた刃。そんな印象だ。

 対して今健太が掴んでいる柄の部分は、濃い茶色の木製に感じられる。この木の部分が伸び縮みするのだろう。

 巨大な剣のため、見た目のバランスは悪くないのだが、健太が手で持ってみると柄の部分がいかにも太い。健太では、中指と親指がギリギリつかないほどだ。持ち歩くだけならば問題ないが、これを振って戦うのはかなり怖い。いつすっぽ抜けてもおかしくない。

 

「どうするか。普段使いだけを考えれば、売却一択なんだが……」

 

 健太は思案する。健太はずっとここ『既知外(きちがい)』領域第三層で戦い続けてきたため、結構な数のドロップ武具を入手しているが、自分の装備更新にはあまり役立っていない。当初は購買で『銭』に変えていたが、今では怪しまれないように拾う数を制限しているくらいだ。全部拾ってもバレずにしまっておける『空間収納(アイテムボックス)』のスキルを持つ叶馬が羨ましい。

 

 健太が受講しているのは表向き、『盾術』と『片手剣術』だけだ。両手剣は全く相いれない装備のため、通常ならば売却一択なのだが、今の健太には少し考えることがあった。

 

「こういう武器のほうが相性の良い戦場は確実にあるだろうな」

 

 健太の主だった戦闘スタイルは、盾と小剣を持って防御主体に戦うスタイルで固まりつつあるし、このスタイルは自分の性に合っていると思う。

 しかし、いかんせん小剣ではリーチの短さはいかんとしがたい。健太の原作の記憶が正しければ、今後は「巨体のザコの群れ」が結構な頻度で登場するはずだ。

 どれほど健太の力が上がっても、小剣では全長五メートル級、十メートル級の敵を相手どれば、急所まで刃を届かせることが難しい。

 無論、攻撃スキルを使えばその限りではないが、問題はそうした巨体の敵が「ザコの群れ」であるということだ。ザコ退治はスキルを使わず、一掃できる方が望ましい。

 複数の(クラス)を重ねている健太は、異常なくらいにSPが豊富なうえ、『術士(マギ)』系の職も得てることでSP回復速度もかなり早いのだが、それでもずっと攻撃スキルを使い続けるのはリスクだろう。

 そうした「巨体のザコ」を雑に倒せる武器があれば、いざという時役に立ちそうだ。

 幸い、健太の主武装である小剣と装着型の方形盾は携帯性に優れている。副武装として、長柄の武器を一つ持つことは不可能ではないだろう。一見すれば、主武装と副武装が逆転して見えるだろうが。

 

「『匠工房(アデプトワークス)』の先輩たちに相談してみるか」

 

 そうひとまず結論付けた健太は、ゴブリンチャンピオンの『大剣』を手に持ったまま、下の階層に繋がる『界門(ゲート)』を潜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。健太は、昨日自分のロッカーにしまっておいた『大剣』を持ち、『匠工房(アデプトワークス)』の部室を訪れていた。

 プレハブ長屋の一角にある魔改造を施し、店舗に改造された『匠工房』部室のカウンターでは、ひと際小柄で童顔な少女がこちらに気づいたのか、ブンブンと手を振って迎えてくれる。

 

「あ、健太君! 久しぶりー」

 

「ご無沙汰しています、蜜柑(みかん)先輩」

 

 小柄で童顔な少女――『匠工房(アデプトワークス)』部長、蜜柑の満面の笑みに、健太もつられて笑顔でそう答える。隣には、いつも通りけだるげな表情を浮かべたグラマラスな少女――副部長の凛子(りんこ)もいる。店番に関しては、意外と入れ替わりで立つことが多いので、部長と副部長が一緒にいるのは珍しい。

 

凛子(りんこ)先輩も、お久しぶりです」

 

「んー、いらっしゃい。まー、久しぶりって言うほどじゃないかな」

 

 凛子はそう言って、大口を開けて欠伸をする。そのけだるげな表情も、だらしない座り姿勢もいつも通りなのだが、なんとなく少しリラックスした雰囲気を感じさせる。

 なにかあっただろうか? 疑問の視線を向けると、蜜柑の服装もいつもと違うことに気づく。

 学園の制服の上から、工作用の野暮ったくもごついデニム生地のエプロンを付けているという基本は変わらないのだが、その制服がやけに綺麗なのだ。

 ダンジョンダイブでの汚れや破損は、ダンジョンからログアウトした時点で全て元通りになるが、それ以外の学園生活でついた汚れは破損は、普通に洗濯、修繕するしかない。『職人(クラフター)』として、学園内で鍛冶のような行為を行う蜜柑の制服はそうした月日を過ごしたことを物語る、くたびれたものだった(無論、しっかりと洗濯、修繕はされているので一見でわかるようなものではないが)。

 それが、今蜜柑が着ている制服は、新品同様のパリッとしたものに見える。

 

蜜柑(みかん)先輩、制服を新調されたんですか?」

 

 学園の制服は、最初の一着は支給されるが、買い直す場合には、何十万『銭』という高額を請求される。言っては何だが、学園のカーストで最下層に近い蜜柑に、そのような余裕はないはず。そんな健太の疑問を知ってか知らずか、蜜柑は太陽のような笑顔で、嬉しそうに答える。

 

「うん、昨日『工作室(ファクトリー)』で、ドカーンがボカーンで、ギュイギュイーンでスババババってしたの」

 

 大きな身振り手振りで、蜜柑が説明してくれるが、あいにく健太には蜜柑語は分からない。

 

「あー、『工作室(ファクトリー)』でちょっと事故があったね。蜜柑の制服もそれでおじゃん。幸い、性獣君が弁償してくれたから、制服は新調できたのかな」

 

 凛子の説明を聞き、健太は原作知識を思い出した。

 

「なるほど、『工作室(ファクトリー)』で事故ですか。先輩たちにお怪我はありませんでしたか?」

 

工作室(ファクトリー)』とは学園の施設の一つで、そこでは魔石を使用することで、瘴気濃度を『羅城門』ダンジョン第一階層と同程度まで上げることができる。つまり、ダンジョン外でありながら、『魂魄結晶(ソルデバイス)』を失っている普通科の生徒でもスキルが使用可能になるのだ。

 『職人(クラフター)』は主にそこで、作業をする。そのための工具も一通りそろっている。例外は、A、S倶楽部に所属している『職人(クラフター)』くらいだ。A、S倶楽部の部室には、同様の施設がある。

 

 原作では、叶馬と蜜柑が『工作室(ファクトリー)』を訪れると、そこでは凛子と『匠工房(アデプトワーカーズ)』の部員三名の合計四人が、凛子のパートナーである狐目の男とその所属倶楽部『餓狼戦団(ヴォルフリッター)』の面々に絡まれていたのだ。

 もちろん、この場合の「絡まれていた」というのは、学園の基準での話である。つまり、取り囲まれて強姦、拉致コース直前だったということだ。

 そこに叶馬が蜜柑を連れて乱入し、丸ごとブチのめし、吹き飛ばし、凛子たちを間一髪救い出したのだ。

 そこまでは良かったのが、問題は叶馬に助けられる前に、『餓狼戦団』の『男娼(エルフ)』の男子が、凛子たちに『誘惑の息(テンプテーション)』を仕掛けていたことだ。

誘惑の息(テンプテーション)』は、異性に『発情』の状態異常を付与するスキルだ。それも、空気中に漂い続け、抵抗に失敗するたびに徐々に発情度が高まっていくという悪辣な仕様になっている。

 叶馬に助けられた時点で、凛子たちはすでに「このまま放っておかれれば、精神に異常をきたしかねない」レベルに発情が高まっていた。

 後の流れは、言うまでもないだろう。

 

 四人とも、叶馬が美味しくいただきました。

 

「んー、大丈夫、私は犬に嚙まれた程度かな。その後、淫獣に(むさぼ)られたけど……」

 

 凛子の後ろ半分の言葉は、隣に座る蜜柑にも聞こえないような、口の中だけの言葉だった。あいにくと、『魂魄結晶(ソルデバイス)』を失っておらず、複数の(クラス)を重ねて、身体能力及び五感が上昇している健太には聞き取れてしまったが。

 

 ともあれ、凛子たちの身に起きた出来事は、原作通りと思ってよさそうだ。凛子の様子がいつもよりリラックスして見えるのも、それが原因だろう。

 凛子は元のパートナーである狐目の男に、隷属させられた上で、飽きて捨てられていた。隷属状態で男に捨てられる喪失感は、筆舌に現しがたいものらしい。それでも、隷属対象に抱かれずに長時間過ごせば、隷属は徐々に薄れていく。そんな薄まった状態で、セックスモンスターな叶馬に抱かれたのだ。

 一発で叶馬に隷属したのだろう。他の三人も同様だと思われる。 

 

「それで健太君の用事はそれ? 大きいねえ?」

 

 健太がそんなことを考えていると、カウンターから出て来た蜜柑が興味津々で、健太が持ってきた『大剣』に寄ってきて興味津々の視線を向ける。一応、目立たないように大きな布で覆っているため、外からは詳しい形状は分からないだろう。

 

「そうです。使っても大丈夫か調べてもらうのと、大丈夫そうなら俺が使えるように、調整をお願いしたのですが。カウンターの上に載せたいのですが、いいですか?」

 

「うん、見せて見せて」

 

 ピョンピョン飛び跳ねて喜びを露わにする蜜柑の許可を得て、健太は『大剣』を覆っていた布を外し、カウンターに乗せる。真っすぐ乗せるにはカウンターの長さが足りず、斜めにして柄の部分はカウンターからはみ出させるしかない。

 

「うひゃあ! 剣だったんだ、大きいねえ。 それも『銘器(ネームド)』だよ、これ!」

 

「嘘? あ、本当だ。しかもこれ、『能力』が二つあるかな。『覚醒(アギト)』出来るのは一つだけっぽいけど」

 

 『片眼鏡(モノクル)』型のマジックアイテムを装着して、興奮の声を上げる蜜柑に呼応するように、凛子もまじまじと『大剣』を視て、驚きの声を上げた。

 

 蜜柑が『職人(クラフター)』系第二段階職『鍛冶士(ブラックスミス)』であるように、凛子は『職人(クラフター)』系第二段階職『鑑定士(オーセンティケーター)』だ。物を見る、見抜くことに特化した少々特殊な『職人(クラフター)』である。

 もちろん、ダンジョン外では『鑑定士(オーセンティケーター)』のスキルは使用できないが、その眼力は生きる。『戦士(ファイター)』がスキルを使わずとも戦えるように、『鑑定士(オーセンティケーター)』はスキルに頼らずとも、物を見抜く眼力を備えている。

 

「『覚醒(アギト)』は多分柄の伸縮だと思います。もう一つの『能力』は分からないです。それで、どうでしょうか? 俺が使っても大丈夫そうですか?」

 

 興味がある物を目の当たりにすると周りが見えないくらいに夢中になるオタクの(サガ)には、共感を覚える健太だが、このまま放っておかれても困る。

 恐る恐るそう尋ねた健太に、『匠工房(アデプトワーカーズ)』の部長と副部長は、目を合わせると自信を持って答える。

 

「うん、大丈夫だよ。少なくとも呪いの武器じゃないから」

 

「このままでも使おうと思えば使えるかな。かなり強力なマジックアイテムだけど、うちらの手に余る程じゃないから、ご要望には結構応えられるんじゃないかな」

 

 わざわざ「うちらの手に余るほどじゃない」と断ったのは、つい最近その「手に余る」品を持ち込まれたからだ。

 叶馬が愛用している六尺六角棒。あれは、れっきとした『固有武装(オリジンギア)』であり、今の蜜柑たちの手に負える代物ではない。

 

 一般的にマジックアイテムと呼ばれる代物は、『無銘(ノーネーム)』、『銘器(ネームド)』、『固有武装(オリジンギア)』の三つに大別される。

 見つかるマジックアイテムの大半は『無銘』であり、稀に『銘器』、運命に導かれるようにして極一部の者の手にやってくるのが『固有武装(オリジンギア)』だ。

『無銘』は、ただ武器、防具の性能が強化されているだけだ。健太が愛用している方形盾がこの『無銘』に分類される。おかげで健太は、小剣での『斬撃(スラッシュ)』よりも、方形盾での『盾撃(シールドバッシュ)』の方が威力が高い、というちょっと納得しずらい状態になっている。

『銘器』は、今健太が持ち込んだ『大剣』が相当する。『無銘』との違いは、SPを込めて『覚醒(アギト)』させることで、特殊能力を発揮することだ。この『大剣』の場合『柄の伸縮』がそれに値するのだろう。

 刀身に炎を纏う(所有者は焼かない)剣、纏っている者の幻影を映し出す鎧、特定の属性のスキルを強化する指輪といった有益なものから、ソースの焼ける匂いが漂う槍、攻撃を受け止めると悲鳴を上げる盾、笑い上戸な鎧など、全く使い道のない『能力』を有しているマジックアイテムも少なくない。

 

対して『固有武装(オリジンギア)』は大概の場合、恐ろしく使い手を選び、その分ハマれば強いと言われる。実際、意思を持って持ち手を選ぶ『固有武装(オリジンギア)』も多い。逆に、『銘器(ネームド)』以上に使いようがない『能力』の『固有武装(オリジンギア)』も珍しくない。総じて「癖が強い」装備と言える。

 

 上位倶楽部に所属するハイレベル戦闘職でも、癖の強さを嫌って、あえて『無銘(ノーネーム)』装備で身を固めている者も珍しくない。

 健太も価値観としては、どちらかというとそっちよりだ。自分に「癖が強い」武装を有効活用できる器用さはないと、自己評価を下している。

 

「柄の太さが俺にはちょっと太すぎるんで、そこを最優先で修正してください。可能なら、刃渡りは詰めないでもらえるとありがたいです。後は、出来るだけ使いやすいように、バランスを取ってもらえれば。抽象的な注文ですみません」

 

「うん、大丈夫。任せて。健太君の手形は、前に取らせてもらってるから、それに合わせるね」

 

 ニッパリと自信に満ちた笑顔をそう請け負う蜜柑に、

 

「はい、お願いします」

 

 と、健太は小さく頭を下げるのだった。

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