――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『
その日
一昨日のソロダイブでは、『
装備は、これまで通りだ。学園の制服姿で、左腕に方形盾を装着し、主武装はゴブリン小剣を『
しばらくは、お預けと思った方が良いだろう。
それで問題はない。今日から新階層に挑み、今までとは異なるモンスターを相手どることになるのだ。しばらくは慣れない大剣を試す余裕はない。慣れた、装着型盾と小剣の戦闘スタイルでいくのが無難だ。
「《来い》ジュゲム、《来い》ボンド」
「グウ」
「ガウ!」
健太は『
ゴブリン
「ボンド、先頭を歩いてくれ。十分に警戒して。ジュゲムはその後ろだ。戦闘になったらすぐにボンドを守れるように」
「ガウウ!」
健太の指示を聞き、小柄なボンドは慣れた忍び足で歩き出す。
「ギッ」
その後ろを槍を担いだジュゲムが続く。ゴブリン
実際、ゴブリン
「よし、行くか」
健太も静かな足取りでそれに続いた。
ここ、『
それは、第四層に巣くうモンスターたちが、第三層のゴブリン達よりも大きいこと、もしくは一度に数多く登場することを意味していた。
広い玄室で、方形盾と小剣を構えた健太は、落ち着いた声で『
「《こっちだ》」
「ガウ!」「ガルル!」「ギャン!」「ギャル!」「グオン!」
玄室に屯していた、不気味に赤く光る瞳を持つ黒い犬型のモンスター――ブラックドックの群れは、一匹残らず全て健太に殺到する。
いかにも俊敏そうな犬型の体型を裏切らず、ブラックドッグの移動速度はゴブリンとは比べ物にならない。さらに、その大きな犬歯による噛みつき、鋭く固い爪によるひっかきは、ゴブリンの振るうこん棒、小剣などよりよほど殺傷力のある凶器だ。体格も、大型犬の域を超え、仔牛ほどのサイズがある。重量ではゴブリンどころか大概の人間よりもあるだろう。
だが、それらの事実をもってしても、健太の脅威とはなりえなかった。
「はっ、しっ、ふっ!」
全方位から襲い掛かるようなブラックドッグの群れの波状攻撃も、健太の守りは崩せず、健太が右手の小剣を一度振るたびに、一匹ずつ仕留められていく。これならば、むしろもっと小柄な方が、同時に攻撃できる数が増えて厄介だったくらいだ。
「グッ!」
「バウ!」
健太の後ろから、ジュゲムが槍で、ブラックドッグの背後に回り込むボンドが
結局、十匹を超えるブラックドッグは、健太に一矢報いることもなく、短い時間で全て瘴気へと返っていった。
「こいつらは、カモだな」
ボンドと手分けをして、ブラックドックの残した魔石と、ドロップ――牙、爪、毛皮を拾い集めた健太は、そうぼそりと呟く。
今の健太は、『
それくらい、健太にとってブラックドックは相性の良い相手だ。動きが早く、攻撃力はそれなり。知能ではなく本能で集団戦法を取るのは本来脅威なのだろうが、まとめて『
本能による連携攻撃は脅威だが、落ち着いて対処すれば、今の健太ならば封殺は難しくない。その上、防御力、生命力が貧弱で、小剣の一振りで倒せる。
総じて結論は、「この敵はカモ」であった。
「数も多いし、ドロップ率もゴブリン並み。『
健太は、そう独り言を漏らし、考える。これからさらに下層へと挑んでいくことを考えれば、装備の更新は必須だ。
幸い、ゴブリンヒーローからドロップした方形盾はかなり優秀なマジックアイテムのため、こちらはしばらくは使い続けられるだろう。
だが、小剣はゴブリンからドロップしたモノを『
さらに言えば、体の守りが制服の上から初期装備のボディーアーマーだけというのもどうにかしたい。学園ではSやAの戦闘職でも動きやすさを優先して制服だけでダイブを続けている者もいるが、健太の戦闘スタイルは足を止めての防御優先型だ。多少重くとも鎧の類は戦力アップにつながる。
「爪や牙で小剣、毛皮で鎧が出来れば最高だな。そっちが駄目だとしても、経験値がゴブリンより高いなら、ある程度狙う価値はあるか」
どのみちブラックドックは健太にとってはすこぶる組みやすい相手だ。ひとまず健太は、ブラックドックを見つけ次第狩っていく方針を固めた。
『
次の玄室で健太を待っていたのは赤い瞳の黒狼の群れではなく、
オウルベア。健太は『
「ホホウ!」
直立するオウルベアは、威嚇するように鋭い爪の生えた両手を広げ、そう吠える。
「……まあ、頭部の形状からして吠え声はそっちになるか。ビッグジャイアント」
これは『
ビッグジャイアントは強力な手札だが、一つ弱点がある。それは、身長三メートル越えの巨体で、現状「攻撃手段がパンチしかない」、という点だ。
つまり、ゴブリンのような小柄な敵や、ブラックドックのような体高の低い敵に対する攻撃手段が乏しい。一度キックも試みたことがあったが、ビッグジャイアントの足は短いし、万が一バランスを崩して倒れられたら大惨事になりかねない。
また、健太が乗り込むのならばともかく、外から命令するだけでは、細かく素早い動きを取らせることが難しい。
必然的に、ビッグジャイアント向けの敵は、ある程度体高があり、足を止めて戦うタイプの敵に限定される。
オウルベアは、その条件にピッタリ当てはまっていた。
「ホ?」
巨体の自分が見上げなければならない鉄の巨人の出現に、オウルベアは間抜けな声を発する。
「打て」
健太の指示を受け、ビッグジャイアントは、体重の乗った綺麗な右ストレートを放つ。
「ボッ!?」
グジャリという水音を残し、オウルベアはただの首なしベアとなり、崩れ落ちた。
「これをくらっても吹っ飛ぶだけだったゴブリンチャンピオンは、やはり強かったんだな」
オウルベアの魔石を拾いながら、健太はそう感想を漏らした。
次に出会った新たなるモンスターは、歩行する巨大キノコ――マタンゴだ。
直接的な攻撃は一切してこず、玄室の中を、ひたすら踊る様に跳ね回り続けるだけ。ただし、飛び回るたびに胞子をまき散らす。この胞子には、麻痺の効果がある。さらに、玄室内が胞子で満たされると増える。いくらでも増えるらしい。そのくせ、倒しても経験値は一匹分にしかならない。
健太にとっては、若干気を付けなければならない敵だ。
健太はあくまでソロなのだ。パーティーならば笑いごとですむ麻痺や眠りがそのまま、死に直結しやすい。
「《炎よ》」
リスクを負う必要性を感じない健太は、玄室の入り口から『
「なるほど、これは確かにギャグにしか見えんな」
次の玄室で、『
『
擬態している間、『
問題は、『
石造りの玄室に、根っこを放り出す形でポツンと佇む木。もしくは、根っこを使って石造りの通路をゆっくりゆっくり移動していて、見つかった瞬間その場で木の擬態を始める『
これを見て、「なんだ、ただの木か」と本気で言う奴がいたら、判断力か警戒心に致命的な
倒すだけならば、擬態している間に、離れたところから『
「本当に無駄に多芸だな。まあ、原作ではメロンを
その『
原作の描写でも、『
「ボンド。自分の身の安全を第一に考えた上で、余裕があればあの木の実を『
「バウ!」
健太の命令に、コボルト
『
ゴブリンやオークのような人型モンスターの、武器や防具も無理だ。こちらは、『
本来、モンスターは倒した時点で瘴気に返ってしまい、残るのは魔石と稀にドロップアイテムだけなのだから、『
ちなみに原作主人公である
ともあれ、健太はいつも通り、方形盾と小剣を構えて油断なく距離を詰めて、戦闘に移行する。
「ギャアア!」
という雄たけびと共に、桃の木の幹に裂け目が入り、二つ目の目と大きな口が開く。『
『
「ふっ、《こっちだ》」
健太は、方形盾で全ての攻撃を受け流しながら、ジリジリと距離を詰める。『
「シュッ!」
「ゴア!」
健太に『
ただし、今回はコボルト
それは戦闘時間が長引くことを意味するのだが、この場合それはむしろプラスに働く。
戦闘が長引くということは、それだけ『
事実、その桃の木型『
その後も探索を続けた健太は、ここ『
犬型、熊型、キノコ型、樹木型と形も違えば戦闘スタイルも違う四種類のモンスターだが、その戦闘力はいずれも「健太の敵ではない」と言い切ってよいだろう。原作で、
原作の叶馬パーティーは獲得経験値効率を重視して、すぐに下の階層を目指した。その判断は、間違っていない。しかし、それがイコール、この『
ここが『
「キィイイイイ!」
「はっ、流石にこれは手ごわい」
敵モンスターが振るう、縦横無尽の乱打を的確に方形盾と小剣で受け流しながら、健太は小さくそう呟く。
現在、健太は『
それは、『
高さは五メートルは優に超えているだろう。梢が天井にくっ付いている。幹も太く、そこに描かれる顔は実に狂暴そうだ。
ここは比較的広い通路の一角であり、この『
健太の知識にはなかったが、この『
その字面から想像できる通り、
当然だが、現実の
その身は鉄で出来ていた。
「グオオ!」
「オン!」
ジュゲムの槍が、ボンドの
「ジュゲムやボンドとは、相性が悪いな」
『鉄擬態木』の正面に立つ健太は、右手に持つ小剣で、『鉄擬態木』の攻撃を受け流しながら、そう分析する。
振り回される『鉄擬態木』の枝は、例外なく尖っており、その大部分には多くの葉が茂っている。
その枝は鉄の鞭で、枝の先端は鉄の針で、葉は刃だ。もちろん、『鉄擬態木』の枝は、人間の腕のように二本きりということはない。何本もの枝が、時には足元から根が、健太に向って常に振るわれているのだ。
その攻撃を、健太は全て右手に持つ小剣で受け流し、うち払い、隙を見つけて、左腕に装着した方形盾で殴打する。
「《はあ》!」
健太の気合の声に呼応するように、光を放った方形盾が『鉄擬態木』の幹に叩き込まれた。
「ギキイイ!?」
攻撃スキル、『
その判断は正しかったらしく、健太の『
刺突、斬撃よりも打撃。となれば、次に取る手段は必然的に決まる。
「ジュゲム、ボンド、下がれ。ビッグジャイアント、かかれ」
健太の命令を受けて、槍を持った大型なゴブリンと、
『
身長三メートルで、横幅も十分にあるビッグジャイアントは、どうやっても巻き込まれてしまう。
刃のように鋭い葉を茂らせた、針のように鋭い枝の連撃だが、これは先ほどのジュゲム、ボンドの攻撃と攻守を入れ替えた同じ結果となった。
薄く鋭い葉も、尖った硬い枝も、ビッグジャイアントの外皮を傷つけるにはあまりに非力過ぎた。
『
ビッグジャイアントがそのパンチが届く距離まで詰めたところで、健太は命令を飛ばす。
「《打ち続けろ》」
その言葉をトリガーに、ビッグジャイアントの猛攻が始まった。ビッグジャイアントの米俵を連想させるような巨大な拳が『
最初は右、次に左、再び右、左、右、左……。オウルベアを一撃で屠る鉄の拳が、夕立のように降り注ぐ。
これが『
硬い金属の塊に、硬い金属の塊が、高速で激突する音が連続で響き渡る。一発でも鼓膜にダメージがありそうな甲高い爆音が、連続して数秒続いた後、熱せられた飴のように変形を遂げた『
「多少は手こずったが、脅威というほどではないな」
『
ジュゲムとボンドの攻撃はほぼ無効化されたが、健太の『
ビッグジャイアントがいなくとも、時間をかければまず問題なく倒せただろう。第一段階職とはいえ、十五以上重ねてる健太の地力は、第四下層に収まらないくらいに高まっていると思ってよさそうだ。
「ほかのモンスターの『
原作の叶馬達のように、とっとと次の階を目指すのも悪くないが、もう少しここで慣らしても良いかもしれない。幸い、ここ第四階層はゴブリン一辺倒だった第三階層と異なり、タイプの違うモンスターが数種類生息している。
ジュゲム、ボンド、ビッグジャイアント、そして健太自身。全員に出番がある戦場だ。ここで、レベルアップではなく、実戦経験という意味で経験を積むのも悪くない。
その途中で『モンスターカード』がドロップすることも期待できる。
「
健太はブラックドック、オウルベア辺りの『モンスターカード』が手に入れば、
健太自身は、『モンスターカード』より、自分の武器を強化したい。
今、『
なんとか、小剣をもう少し良い物に変えたい。
「そう言う意味では、これは期待したいところだな」
健太はそう言って、手に持つ『
『
『
『
「『大剣』もまだ終わっていないのに、せっつくようで悪いが、これも『
健太はそう言うと、貴重なドロップ品を背負い袋に収納する。
戦利品の取り扱いを、将来の予定も含めて決まれれば、次は自分のバージョンアップだ。
健太は脳裏に映る、文字列に意識を向ける。
『
『
『
『
『
『
『
『
に転職可能。
どうやら先ほど『
それにしても、健太は今日までまだ一度も槍を手に持って戦ったことがないのだが、それで『
今回健太が
階層も進んだことだし、そろそろ『
「さて、どれから選ぶべきか」
第二段階職は第一段階職に比べて、カンストに必要経験値が増大している。第四階層での経験値効率が、第三階層からどれくらい良くなっているか分からない。そう考えると、ある程度は慎重を期す必要がある。
健太は、もうしばらく思案を続けるのだった。