※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第四十三話 第四階層の探索、新たなる『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)

 

 

 

――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――

 

 

 

 ――第『(よん)』階層、『既知外(きちがい)』領域――

 

 

 その日健太(けんた)は、一昨日に続いてソロダンジョンダイブを行っていた。最近の健太にしては珍しいことだが、必然の流れと言える。

 一昨日のソロダイブでは、『界門守護者(ゲートキーパー)』であるゴブリンチャンピオンを撃破して第四層に降りたが、探索自体はせずに終わっているのだ。新階層の探索を早めに済ませたいというのは、願望だけでなく必要性に迫られた問題でもある。

 

 装備は、これまで通りだ。学園の制服姿で、左腕に方形盾を装着し、主武装はゴブリン小剣を『匠工房(アデプトワーカーズ)』で改良してもらった小剣。昨日『匠工房(アデプトワーカーズ)』に預けた『大剣』は、残念ながらまだ仕上がっていない。『工作室(ファクトリー)』が『事故』で吹き飛んでいるため、修復されない限り『匠工房(アデプトワーカーズ)』の皆も作業に入れないのだという。

 しばらくは、お預けと思った方が良いだろう。

 それで問題はない。今日から新階層に挑み、今までとは異なるモンスターを相手どることになるのだ。しばらくは慣れない大剣を試す余裕はない。慣れた、装着型盾と小剣の戦闘スタイルでいくのが無難だ。

 

「《来い》ジュゲム、《来い》ボンド」

 

「グウ」

 

「ガウ!」

 

 健太は『具象化(リアライズ)』のスキルを使い、『モンスターカード』から、二体のモンスターを召喚する。

 ゴブリン槍騎士(ランスナイト)のジュゲムと、コボルト強盗(ローグ)のボンドだ。

 

「ボンド、先頭を歩いてくれ。十分に警戒して。ジュゲムはその後ろだ。戦闘になったらすぐにボンドを守れるように」

 

「ガウウ!」

 

 

 健太の指示を聞き、小柄なボンドは慣れた忍び足で歩き出す。

 

「ギッ」

 

 その後ろを槍を担いだジュゲムが続く。ゴブリン槍騎士(ランスナイト)であるジュゲムは身長こそ百六十強と人間の男基準では小柄だが、肉付きの良い筋肉質の体に革鎧を纏っており、いかにも「頼りになる歴戦の戦士」の雰囲気を醸し出している。

 実際、ゴブリン槍騎士(ランスナイト)というのは、人間でいえば第二段階職であり、しかもジュゲムの場合その『槍騎士(ランスナイト)』のレベルがカンスト状態だ。学園の基準でも決して弱い存在ではない。

 

「よし、行くか」

 

 健太も静かな足取りでそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ここ、『既知外(きちがい)』領域第四層は、『既知外(きちがい)』領域第三層と、作り自体に大きな違いはない。石造りの大小さまざまな玄室と、それを複雑につなぐ通路で形成されている。しいて違いを上げるとすれば、その玄室の大きさだろうか。第三層でもここ四層でも、玄室の大きさが大小さまざまであることは変わらないが、平均すると明らかに第四層の玄室の方が大きい。

 それは、第四層に巣くうモンスターたちが、第三層のゴブリン達よりも大きいこと、もしくは一度に数多く登場することを意味していた。

 

 

 

 広い玄室で、方形盾と小剣を構えた健太は、落ち着いた声で『挑発(プロヴォーク)』のスキルを使用する。

 

「《こっちだ》」

 

「ガウ!」「ガルル!」「ギャン!」「ギャル!」「グオン!」

 

 玄室に屯していた、不気味に赤く光る瞳を持つ黒い犬型のモンスター――ブラックドックの群れは、一匹残らず全て健太に殺到する。

 いかにも俊敏そうな犬型の体型を裏切らず、ブラックドッグの移動速度はゴブリンとは比べ物にならない。さらに、その大きな犬歯による噛みつき、鋭く固い爪によるひっかきは、ゴブリンの振るうこん棒、小剣などよりよほど殺傷力のある凶器だ。体格も、大型犬の域を超え、仔牛ほどのサイズがある。重量ではゴブリンどころか大概の人間よりもあるだろう。

 だが、それらの事実をもってしても、健太の脅威とはなりえなかった。

 

「はっ、しっ、ふっ!」

 

 全方位から襲い掛かるようなブラックドッグの群れの波状攻撃も、健太の守りは崩せず、健太が右手の小剣を一度振るたびに、一匹ずつ仕留められていく。これならば、むしろもっと小柄な方が、同時に攻撃できる数が増えて厄介だったくらいだ。

 

「グッ!」

 

「バウ!」

 

 健太の後ろから、ジュゲムが槍で、ブラックドッグの背後に回り込むボンドが短剣(ダガー)で攻撃するが、こちらもほぼ一撃で仕留めている。全ての敵意(ヘイト)が健太に集中しているため、ジュゲムとボンドはやりたい放題だ。

 

 結局、十匹を超えるブラックドッグは、健太に一矢報いることもなく、短い時間で全て瘴気へと返っていった。

 

 

 

 

 

「こいつらは、カモだな」

 

 ボンドと手分けをして、ブラックドックの残した魔石と、ドロップ――牙、爪、毛皮を拾い集めた健太は、そうぼそりと呟く。

 今の健太は、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている。だから、それは過信、自惚れの類ではなく、純粋な彼我戦力差をから導き出した結論だ。

 それくらい、健太にとってブラックドックは相性の良い相手だ。動きが早く、攻撃力はそれなり。知能ではなく本能で集団戦法を取るのは本来脅威なのだろうが、まとめて『挑発(プロヴォーク)』に引っかかってくれるのは実にありがたい。

 本能による連携攻撃は脅威だが、落ち着いて対処すれば、今の健太ならば封殺は難しくない。その上、防御力、生命力が貧弱で、小剣の一振りで倒せる。

 総じて結論は、「この敵はカモ」であった。

 

「数も多いし、ドロップ率もゴブリン並み。『匠工房(アデプトワーカーズ)』で装備にしてもらえるなら、しばらく狩ってもよさそうか」

 

 健太は、そう独り言を漏らし、考える。これからさらに下層へと挑んでいくことを考えれば、装備の更新は必須だ。

 幸い、ゴブリンヒーローからドロップした方形盾はかなり優秀なマジックアイテムのため、こちらはしばらくは使い続けられるだろう。

 だが、小剣はゴブリンからドロップしたモノを『匠工房(アデプトワーカーズ)』で手直しててもらっただけの代物だ。『匠工房(アデプトワーカーズ)』は良心的を通り越して、商売というモノに喧嘩を売っているような価格の設定をしているため(何度か『値上げ交渉』をしたのだが成果はなかった)、費用対効果という意味では最高に近いが、そろそろ次の武器が欲しいところだ。

 

 さらに言えば、体の守りが制服の上から初期装備のボディーアーマーだけというのもどうにかしたい。学園ではSやAの戦闘職でも動きやすさを優先して制服だけでダイブを続けている者もいるが、健太の戦闘スタイルは足を止めての防御優先型だ。多少重くとも鎧の類は戦力アップにつながる。

 

「爪や牙で小剣、毛皮で鎧が出来れば最高だな。そっちが駄目だとしても、経験値がゴブリンより高いなら、ある程度狙う価値はあるか」

 

 どのみちブラックドックは健太にとってはすこぶる組みやすい相手だ。ひとまず健太は、ブラックドックを見つけ次第狩っていく方針を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

既知外(きちがい)』領域第三階層は原則ゴブリンしか存在しなかったが、ここ第四層は勝手が異なる。

 

 次の玄室で健太を待っていたのは赤い瞳の黒狼の群れではなく、(ふくろう)の頭部を持つ大熊だった。

 オウルベア。健太は『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』に落した図書館の書籍の記述から、そのモンスターの名前を引っ張り出す。

 

「ホホウ!」

 

 直立するオウルベアは、威嚇するように鋭い爪の生えた両手を広げ、そう吠える。

 

「……まあ、頭部の形状からして吠え声はそっちになるか。ビッグジャイアント」

 

 これは『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになってなかったら、脱力していたなと思いつつ、健太は『職人(クラフター)』のスキルである『強化外装骨格(アームドゴーレム)』――ビッグジャイアントを呼び出す。

 

 ビッグジャイアントは強力な手札だが、一つ弱点がある。それは、身長三メートル越えの巨体で、現状「攻撃手段がパンチしかない」、という点だ。

 つまり、ゴブリンのような小柄な敵や、ブラックドックのような体高の低い敵に対する攻撃手段が乏しい。一度キックも試みたことがあったが、ビッグジャイアントの足は短いし、万が一バランスを崩して倒れられたら大惨事になりかねない。

 また、健太が乗り込むのならばともかく、外から命令するだけでは、細かく素早い動きを取らせることが難しい。

 必然的に、ビッグジャイアント向けの敵は、ある程度体高があり、足を止めて戦うタイプの敵に限定される。

 オウルベアは、その条件にピッタリ当てはまっていた。

 

「ホ?」

 

 巨体の自分が見上げなければならない鉄の巨人の出現に、オウルベアは間抜けな声を発する。

 

「打て」

 

 健太の指示を受け、ビッグジャイアントは、体重の乗った綺麗な右ストレートを放つ。

 

「ボッ!?」

 

 グジャリという水音を残し、オウルベアはただの首なしベアとなり、崩れ落ちた。

 

「これをくらっても吹っ飛ぶだけだったゴブリンチャンピオンは、やはり強かったんだな」

 

 オウルベアの魔石を拾いながら、健太はそう感想を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に出会った新たなるモンスターは、歩行する巨大キノコ――マタンゴだ。

 直接的な攻撃は一切してこず、玄室の中を、ひたすら踊る様に跳ね回り続けるだけ。ただし、飛び回るたびに胞子をまき散らす。この胞子には、麻痺の効果がある。さらに、玄室内が胞子で満たされると増える。いくらでも増えるらしい。そのくせ、倒しても経験値は一匹分にしかならない。

 健太にとっては、若干気を付けなければならない敵だ。

 健太はあくまでソロなのだ。パーティーならば笑いごとですむ麻痺や眠りがそのまま、死に直結しやすい。

 

「《炎よ》」

 

 リスクを負う必要性を感じない健太は、玄室の入り口から『火弾(ファイヤーブリッド)』のスキルで、マタンゴを焼き尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、これは確かにギャグにしか見えんな」

 

 次の玄室で、『擬態木(エント)』を発見した健太は、そんなつぶやきを漏らした。

 『擬態木(エント)』はその漢字表記の通り、木に擬態するモンスターである。その擬態能力は極めて高く、『擬態木(エント)』自らが正体を明かそうとしない限り、普通の樹木と見分けることは不可能に近い。

 擬態している間、『擬態木(エント)』はどこからどう見ても自然の木にしか見えない。

 問題は、『擬態木(エント)』が生息しているここ、第四階層は、『全て石造りの玄室と通路』からなっているということだ。

 石造りの玄室に、根っこを放り出す形でポツンと佇む木。もしくは、根っこを使って石造りの通路をゆっくりゆっくり移動していて、見つかった瞬間その場で木の擬態を始める『擬態木(エント)』。

 これを見て、「なんだ、ただの木か」と本気で言う奴がいたら、判断力か警戒心に致命的な損傷(エラー)があると言われても反論は出来まい。

 

 倒すだけならば、擬態している間に、離れたところから『火弾(ファイヤーブリット)』を連打すれば、全く苦労せずに倒せるだろう。しかし、今健太は少し悩んでいた。

 

「本当に無駄に多芸だな。まあ、原作ではメロンを()らせていたぐらいだから、これはまだましな方か」

 

 その『擬態木(エント)』は、『桃の木』に擬態していた。もちろん、桃の実がぎっしりと生った状態である。一見したところ実は大きく、色は濃く、何とも美味そうだ。このまま、まとめて焼き捨てるのはいかにももったいない。

 原作の描写でも、『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』に落している図書館のデータでも、『擬態木(エント)』は特に手ごわい敵とは書かれていない。この階層で倒してきたモンスターと同レベルならば、そこまで慎重になる必要もないはずだ。

 

「ボンド。自分の身の安全を第一に考えた上で、余裕があればあの木の実を『窃盗(ピックポケット)』で奪え」

 

「バウ!」

 

 健太の命令に、コボルト強盗(ローグ)のボンドは自信の籠った吠え声で答えた。

窃盗(ピックポケット)』は『盗賊(シーフ)』のスキルで、モンスターから一部を掠め取るスキルだ。ただし、それは何でも取れるわけではない。今回のように樹木型モンスターの実や、動物型モンスターの毛、ゴーレム系モンスターの表面の土、石、鉱石など、直感的に「手で取れそう」と思える物だけだ。

 ゴブリンやオークのような人型モンスターの、武器や防具も無理だ。こちらは、『盗賊(シーフ)』系上級職のスキルである『奪取(スティール)』が必要らしい。ボンドのクラスである『強盗(ローグ)』でも覚える者はいるらしいが、ボンドは今のところ使えない。

 

 本来、モンスターは倒した時点で瘴気に返ってしまい、残るのは魔石と稀にドロップアイテムだけなのだから、『窃盗(ピックポケット)』は中々使えるスキルなのである。種類は限られるが、欲しい素材を狙って取ることができる。

 ちなみに原作主人公である叶馬(とうま)の場合、モンスターを殺してその死体が瘴気に帰る前に『空間収納(アイテムボックス)』に放り込めば、そのままの形で持ち帰ることができる。つくづく常識が通じない存在である。

 

 ともあれ、健太はいつも通り、方形盾と小剣を構えて油断なく距離を詰めて、戦闘に移行する。

 

「ギャアア!」

 

 という雄たけびと共に、桃の木の幹に裂け目が入り、二つ目の目と大きな口が開く。『擬態木(エント)』が正体をあらわにしたのだ。

擬態木(エント)』は枝や根を鞭のように振りまわし、同時に木の葉を飛ばして攻撃を仕掛ける。

 

「ふっ、《こっちだ》」

 

 健太は、方形盾で全ての攻撃を受け流しながら、ジリジリと距離を詰める。『挑発(プロヴォーク)』のスキルで、『擬態木(エント)』の『敵意(ヘイト)』を自分に集中させることも忘れない。

 

「シュッ!」

 

「ゴア!」

 

 健太に『擬態木(エント)』の『敵意(ヘイト)』が集中している間に、ジュゲムとボンドが攻勢に出る。健太がソロの時の必勝パターンである。攻撃力自体は、健太自身が攻勢に出る方が圧倒的に上だが、これが一番「負けづらい」戦い方だ。

 ただし、今回はコボルト強盗(ローグ)のボンドは攻撃ではなく、『窃盗(ピックポケット)』でのアイテム集めに終始しているため、攻撃力はさらに落ちている。

 それは戦闘時間が長引くことを意味するのだが、この場合それはむしろプラスに働く。

 戦闘が長引くということは、それだけ『窃盗(ピックポケット)』を仕掛ける機会が増えることを意味する。

 

 事実、その桃の木型『擬態木(エント)』を倒し終えるまでに、ボンドは六つの桃の実をスリ取ることに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も探索を続けた健太は、ここ『既知外(きちがい)』領域第四階層に生息するモンスターは、『ブラックドック』『オウルベア』『マタンゴ』『擬態木(エント)』の四種類であると結論付けた。

 犬型、熊型、キノコ型、樹木型と形も違えば戦闘スタイルも違う四種類のモンスターだが、その戦闘力はいずれも「健太の敵ではない」と言い切ってよいだろう。原作で、誠一(せいいち)がこの階層での戦闘を「ヌルい」と断言したのも当然と言える。ソロではあっても複数の(クラス)を使いこなす健太が苦戦をするような相手ではない。

 原作の叶馬パーティーは獲得経験値効率を重視して、すぐに下の階層を目指した。その判断は、間違っていない。しかし、それがイコール、この『既知外(きちがい)』領域第四層に、見るべきもの、得るべきものが無いことを意味するかと言えば、そんなことはない。

 ここが『既知外(きちがい)』領域であるのならば、それが存在する。すなわち、『宝箱(ジャックポット)』と『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』である。

 

 

 

 

「キィイイイイ!」

 

「はっ、流石にこれは手ごわい」

 

 敵モンスターが振るう、縦横無尽の乱打を的確に方形盾と小剣で受け流しながら、健太は小さくそう呟く。

 現在、健太は『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』を相手取っていた。第四階層に降りてから初めて相対する『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』。

 

 それは、『擬態木(エント)』から進化した個体だった。

 

 高さは五メートルは優に超えているだろう。梢が天井にくっ付いている。幹も太く、そこに描かれる顔は実に狂暴そうだ。

 ここは比較的広い通路の一角であり、この『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』は健太が近づくまで、微動出せずに木の擬態をしていた。『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』に分類してい良いのか、ちょっと迷う生態である。

 健太の知識にはなかったが、この『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』が擬態しているのは、鉄刀木(たがやさん)という樹木だ。

 その字面から想像できる通り、鉄刀木(たがやさん)は極めて硬く、重い木だ。家具や建材としても使用されるが、木刀や槍の柄にも用いられる。なまくらな刃物ならば、刃物が負けることもある程だという。

 当然だが、現実の鉄刀木(たがやさん)は「鉄のように固い木」に過ぎない。だが、ここはダンジョンで、今健太の目の前にいるのは、タダのモンスターではなく、『既知外(きちがい)』領域を危険地帯としている最大の要因である『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』である。

 

 その身は鉄で出来ていた。

 

「グオオ!」

 

「オン!」

 

 ジュゲムの槍が、ボンドの短剣(ダガー)が、鉄刀木(たがやさん)擬態木(エント)』――『鉄擬態木(アイアンエント)』の外皮にぶつかり、甲高い音を立てる。それだけだ。鈍色に輝く艶やかな『鉄擬態木』の外皮には傷跡すらついていない。

 

「ジュゲムやボンドとは、相性が悪いな」

 

『鉄擬態木』の正面に立つ健太は、右手に持つ小剣で、『鉄擬態木』の攻撃を受け流しながら、そう分析する。

 振り回される『鉄擬態木』の枝は、例外なく尖っており、その大部分には多くの葉が茂っている。

 その枝は鉄の鞭で、枝の先端は鉄の針で、葉は刃だ。もちろん、『鉄擬態木』の枝は、人間の腕のように二本きりということはない。何本もの枝が、時には足元から根が、健太に向って常に振るわれているのだ。

 その攻撃を、健太は全て右手に持つ小剣で受け流し、うち払い、隙を見つけて、左腕に装着した方形盾で殴打する。

 

「《はあ》!」

 

 健太の気合の声に呼応するように、光を放った方形盾が『鉄擬態木』の幹に叩き込まれた。

 

「ギキイイ!?」

 

 攻撃スキル、『盾撃(シールドバッシュ)』である。『鉄擬態木』に、小剣による斬撃は効果が薄い。そう冷静に判断を下した健太は、いつもとは逆に、右手の小剣を防御に使い、左腕の方形盾を主だった攻撃手段としていた。

 その判断は正しかったらしく、健太の『盾撃(シールドバッシュ)』は十分なダメージを与えていた。

 刺突、斬撃よりも打撃。となれば、次に取る手段は必然的に決まる。

 

「ジュゲム、ボンド、下がれ。ビッグジャイアント、かかれ」

 

 健太の命令を受けて、槍を持った大型なゴブリンと、短剣(ダガー)を構える小柄のコボルトが下がり、代わりに鋼鉄の巨人が前に進み出る。

鉄擬態木(アイアンエント)』の『敵意(ヘイト)』は現状健太に向いているが、『鉄擬態木』の攻撃は、葉の茂った枝を複数振りまわすという、非常に広範囲にわたるものだ。

 身長三メートルで、横幅も十分にあるビッグジャイアントは、どうやっても巻き込まれてしまう。

 刃のように鋭い葉を茂らせた、針のように鋭い枝の連撃だが、これは先ほどのジュゲム、ボンドの攻撃と攻守を入れ替えた同じ結果となった。

 薄く鋭い葉も、尖った硬い枝も、ビッグジャイアントの外皮を傷つけるにはあまりに非力過ぎた。

鉄擬態木(アイアンエント)』の攻撃をものともせず、ビッグジャイアントは距離を詰める。全長三メートルで攻撃手段が両拳しかないビッグジャイアントは、体高の低い敵へ攻撃手段が乏しいが、『鉄擬態木(アイアンエント)』相手ならば問題ない。梢がダンジョンの天井に触れるほど高さを誇る『鉄擬態木(アイアンエント)』だ。距離を詰めれば、殴りたい放題である。

 

 ビッグジャイアントがそのパンチが届く距離まで詰めたところで、健太は命令を飛ばす。

 

「《打ち続けろ》」

 

 その言葉をトリガーに、ビッグジャイアントの猛攻が始まった。ビッグジャイアントの米俵を連想させるような巨大な拳が『鉄擬態木(アイアンエント)』の幹に叩きつけられる。

 最初は右、次に左、再び右、左、右、左……。オウルベアを一撃で屠る鉄の拳が、夕立のように降り注ぐ。

 これが『拳士(パンチャー)』の攻撃スキル、『連打(ラッシュ)』である。その効果は、一定の時間(現在の健太――ビッグジャイアントならばニ秒強)、左右交互の拳打を打ち続けるというものだ。ただし、途中空振りをした時点で、スキルは止まる。ガードはされても止まらないため、今回の『鉄擬態木(アイアンエント)』のような、頑丈だが回避力がない等しい目標(ターゲット)を攻撃するには最適だ。

 

 硬い金属の塊に、硬い金属の塊が、高速で激突する音が連続で響き渡る。一発でも鼓膜にダメージがありそうな甲高い爆音が、連続して数秒続いた後、熱せられた飴のように変形を遂げた『鉄擬態木(アイアンエント)』は、瘴気に返っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「多少は手こずったが、脅威というほどではないな」

 

鉄擬態木(アイアンエント)』を倒した健太は、その魔石とドロップ品を拾い上げながら、今の戦闘を振り返り、そう評価する。

 ジュゲムとボンドの攻撃はほぼ無効化されたが、健太の『盾撃(シールドバッシュ)』は十分に効いたし、ビッグジャイアントは天敵と言っていいくらいに相性が良かった。

 ビッグジャイアントがいなくとも、時間をかければまず問題なく倒せただろう。第一段階職とはいえ、十五以上重ねてる健太の地力は、第四下層に収まらないくらいに高まっていると思ってよさそうだ。

 

「ほかのモンスターの『徘徊する脅威(ワンダリングモンスター)』も同レベルと考えれば、まず大丈夫、か」

 

 原作の叶馬達のように、とっとと次の階を目指すのも悪くないが、もう少しここで慣らしても良いかもしれない。幸い、ここ第四階層はゴブリン一辺倒だった第三階層と異なり、タイプの違うモンスターが数種類生息している。

 

 ジュゲム、ボンド、ビッグジャイアント、そして健太自身。全員に出番がある戦場だ。ここで、レベルアップではなく、実戦経験という意味で経験を積むのも悪くない。

 その途中で『モンスターカード』がドロップすることも期待できる。

 

(らん)先輩も、いつまでもコボルト一枚だけじゃ心もとないからな。ブラックドック辺りは気に入ってくれると良いんだが」

 

 健太はブラックドック、オウルベア辺りの『モンスターカード』が手に入れば、(らん)に譲るつもりでいる。無論、二枚目以降は自分でも使ってみるが、まずは専業『文官(オフィサー)』であるパートナーの戦力アップだ。

 健太自身は、『モンスターカード』より、自分の武器を強化したい。

 今、『匠工房(アデプトワーカーズ)』で調整してもらっている『大剣』には期待しているが、あれはあくまで副武装だ。健太の主武装はあくまで、小型盾と小剣。

 なんとか、小剣をもう少し良い物に変えたい。

 

「そう言う意味では、これは期待したいところだな」

 

 健太はそう言って、手に持つ『鉄擬態木(アイアンエント)』のドロップ品に視線を下ろす。

鉄擬態木(アイアンエント)』のドロップ品。それは、「細長い木片、もしくは鉄片」だ。長さは一メートル弱、幅は十五センチからニ十センチくらいだろうか。

鉄擬態木(アイアンエント)』の外皮と同じ素材だろう。見た目でも、触った感触でも、「木」とも「鉄」とも断言できない、何とも奇妙な幻想的な素材である。

鉄擬態木(アイアンエント)』は、ジュゲムの槍や、ボンドの短剣(ダガー)では、傷一つつかなかった。この素材が、同様の硬度、強度を有しているのだとすれば、ちょっと期待してしまう。

 

「『大剣』もまだ終わっていないのに、せっつくようで悪いが、これも『匠工房(アデプトワーカーズ)』送りだな」

 

 健太はそう言うと、貴重なドロップ品を背負い袋に収納する。

 戦利品の取り扱いを、将来の予定も含めて決まれれば、次は自分のバージョンアップだ。

 

 健太は脳裏に映る、文字列に意識を向ける。

 

 

 

 

 

山賊(バンデッド)

 

 

闘士(ウォーリア)』『硬盾士(ハードシールダー)』『(サムライ)』『盾騎士(シールドナイト)』『術騎士(マギナイト)

 

強盗(ローグ)

 

魔術士(ウィザード)』『文字魔術士(ルーンウィザード)』『浄魔士(ゴーストイレイザー)』『増強術士(エンハンサー)』『精霊使い(シャーマン)』『火精霊使い(フレイムシャーマン)』『土精霊使い(アースシャーマン)』『風精霊使い(ウィンドシャーマン)』『水精霊使い(アクアシャーマン)

 

司祭(プリースト)』『神官戦士(プリーストファイター)

 

鍛冶士(ブラックスミス)』『彫金士(ホワイトスミス)』『素材製造士(マテリアルメーカー)

 

書記(レコーダー)』『案内人(パスフェンダー)』『使役者(テイマー)

 

引き籠り(パラサイト)』『一人上手(オナニスト)』『独りよがり(オナルシスト)

 

 

 

 に転職可能。

 

 

 

 

 どうやら先ほど『鉄擬態木(アイアンエント)』を倒したことで、『槍士(ランサー)』のレベルが20に達し、『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』が使用可能になったらしい。

 それにしても、健太は今日までまだ一度も槍を手に持って戦ったことがないのだが、それで『槍士(ランサー)』がマックスに達したというのは若干納得がいかないものがある。まあ、それに関しては、その前についていた『拳士(パンチャー)』も同様だが。

 

 今回健太が転職(クラスチェンジ)可能となった(クラス)の中で、第一段階職は『山賊(バンデッド)』だけだ。他は全て第二段階職である。

 階層も進んだことだし、そろそろ『騎士(ナイト)』以外の第二段階職に手を出す時が来たのかもしれない。

 

「さて、どれから選ぶべきか」

 

 第二段階職は第一段階職に比べて、カンストに必要経験値が増大している。第四階層での経験値効率が、第三階層からどれくらい良くなっているか分からない。そう考えると、ある程度は慎重を期す必要がある。

 健太は、もうしばらく思案を続けるのだった。

 

 

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