日曜午前のデートは、
昼食時のちょっとしたハプニングについて、蘭から珍しく「出来れば、ああいうことは止めて。心臓が止まるかと思った」と苦言を呈されたので、帰り道の間
いくら『
蘭のような、普通の女子生徒が距離を取りたがるのも無理はない。
ともあれ、蘭を白鶴荘に送り届けた健太は、後ろ髪を引かれる思いで白鶴荘を後にする。
向かう先は、健太本来の居場所である男子寮、
健太がやってきた(本来は、戻ってきたと言うべきなのだろうが)
「遅いよ、健太。始めよう、時間がないんだから」
非難するような言葉を、優しい笑顔で発するのは、健太のルームメイト――
「
健太はそう、驚きの声を上げる。
健太が貴重な日曜の午後を、寮の共同空間(トイレ、風呂、廊下、食堂等)の清掃に当てざるを得なくなったのは、これが『罰当番』だからである。
碧鷺荘のようなエントリークラスの寮では、共同空間の清掃は寮生が分担してやることになっている。一年は特にその割り当てが多い。それなのに、ここしばらく健太は、蘭のいる白鶴荘に入り浸り、すっかりサボってしまっていた。
その罰当番として、誰もが一番嫌がる貴重な日曜の清掃を割り当てられたのである。健太としても、「これはどう考えても自分が悪い」と納得した。
当然、その罰当番にルームメイトの尚典は無関係だ。尚典はずっと、この碧鷺荘で生活をしていて、寮生のノルマはきっちりと果たしている。
「まあ、そうなんだけどね。せっかくだから手伝うよ。だから、さ。後でちょっと相談に乗ってくれないかな?」
そう言う尚典は、珍しくばつが悪そうに視線を泳がせる。
「相談くらいなら、別段いつでも乗るけど?」
減るものでもないし。と安請け合いする健太は、尚典がいつもと少し違うことに気が付かない。元々、対人関係のスキルはあまり高くない健太だ。なまじ、尚典はルームメイトとして上手く、仲良くやってきたという自負もある。
心底面倒に思っていた日曜の雑用が半分になるという安堵も手伝い、健太は注意を怠った。
寮の共同空間の掃除というのは、纏めてやると結構な大仕事だ。だが、なんだかんだ言ってもダンジョンダイブでレベルが上がった学園生にとっては、面倒ではあっても大変ではない。尚典という予想外の助っ人がいたこともあり、健太の罰当番は覚悟していたよりも早く終わった。
「あー、これで終わりか。尚典、マジでありがとうな。他はともかく、ここの掃除は一人でやってたら精神ダメージ高すぎるわ」
「あはは、この学園の特殊さの象徴だよね」
最後の難関であるトイレ掃除を終えた健太と尚典は、そんな言葉を交わしながら碧鷺荘の古い廊下を歩く。ただでさえトイレ掃除というのは、気が滅入る汚れを相手にしなければならないのに、この学園の寮では性的な汚れとも戦わなければならない。
百歩譲って、学園内ならば、他に適当な場所がないのだから、トイレが「性行為専用便所」となっていたとしてもまあ分からないではないが、なぜ自室のある寮に女を連れ込んでまで、わざわざトイレで致す奴らが一定数存在するのか? 健太にはそれが分からない。
「こういう雑用をやってると、ミドルクラスの寮に移りたがる奴の気持ちが少しわかる気がする」
「確かに。贅沢には興味なくても、面倒な仕事が減るのはちょっと魅力的だね」
健太の愚痴に、尚典も同意する。
豊葦原学園の寮は、エントリー、ミドル、ハイエンドの三つのクラスに分かれるが、大半はエントリークラスに分類される。ミドルクラスは、『朱雀荘』『青龍荘』『玄武荘』『白虎荘』の四つだけ。ハイエンドに至っては、『麒麟荘』一つのみだ。
ミドル、ハイエンドの寮は寮というより高級ホテルに近く、食事はもちろんのこと、掃除や洗濯といった日常の家事は全て専用のスタッフがやってくれる。さらに、『銭』を払えば『専属の付き人』もつけることができる。もちろん、その付き人は学園の流儀に染まった卒業生たちだ。中には、SSR
ともあれ、面倒な罰当番を終えた健太は、自室のドアを開く。すると、
「ふわあ……あれ? おはよ」
尚典のベッドの上に仰向けで寝そべり、今目を覚ましたとばかりに大きく伸びをする全裸の女が、寝ぼけ眼でこちらに挨拶をしてくる。
「…………」
健太は無言で、ドアを閉める。
「ち、ちょっと、
健太の後ろで、尚典が聞いたことのないような、焦りに焦った大声を上げている。
昨晩ここで何があったのか、まあ大体想像はつくが、一応ルームメイトに問いただすべきだろうか? 健太がそんなことを考えている間に、扉の向こうから女の大きな声が届く。
「あはは、ごめんごめん。あの後、二度寝しちゃってさ。昨晩は
その言葉に、健太は再びドアを開ける。先ほどとは違い、今度は恐る恐る。
僅かに開けた隙間から、健太と尚典が中を覗き込むと、そこには先ほどまではおろしていた長い真っすぐな黒髪を、綺麗なポニーテールに縛り、簡単な化粧を済ませた女が、笑顔でベッドの上で胡坐をかいてた。全裸のまま。
「全然よくないじゃないですか!? なんで裸のままなんですか!」
と尚典が悲鳴を上げ、健太は深いため息をつく。なんとなく、予想はしていた健太である。彼女――銀子には、健太をからかって楽しむ
「私はいっこうにかまわん」
「僕が構うんです! お願いですから、服着てください!」
「えー。昨晩は見るだけじゃなくて、触って、舐めて、噛んで、縛って、叩いて、突っ込んで、出した身体じゃん。今更だって」
「そういう問題じゃありません! ていうか、半分くらい濡れ衣混ざってます!」
その会話だけで、大体の経緯が分かる。ともあれ、しばらく尚典をからかって満足したのか、銀子が服を着てくれたところで、健太と尚典は自分の部屋に入ることが出来たのだった。
現在、健太と尚典の部屋には、三人の人間がいる。罰当番を終えて帰ってきた健太と、それに付き合ってくれたルームメイトの尚典。そして、なぜか尚典のベッドで裸で待っていた三年女子――
銀子は流石に今は服を着ているが、その服は、下はダメージ加工を施したスリムジーンズで、上はノースリーブのタイトシャツ。体のラインは全く隠しておらず、ジーンズのダメージ加工も、尻と太腿の付け根にもバッサリ切れ目を入れているので、下手をすれば裸よりも煽情的だったりする。
しかし、彼女にこれ以上を求めても無駄なことは、理解できる。
健太は、ひとまず話を進めることにした。
健太は健太のベッドに座り、対面に位置する尚典のベッドに尚典と銀子が並んで座っている。ピッタリと体を押し付けて楽しんでいるのが銀子で、どうにか距離を取ろうと無駄にあがいているのが尚典だ。だが、力が違い過ぎて抵抗が全く抵抗になっていない。むしろ、銀子を喜ばせているだけだ。
「ええと、尚典。今更聞くのもなんだけど、一応念のためな。その、おめでとう、で良いんだよな?」
健太の言葉に、尚典は銀子に絡みつかれたまま、頷き返す。
「うん。昨日のダンジョンダイブで、ね。どうにか」
「うんうん、
「ち、そっちじゃないです!」
横から茶々を入れる銀子に、尚典は平静を保てない。
「いや、結構本気で言ってるんだよ。まさか
銀子の言葉が示す通り、尚典の経緯はおおよそ健太が想像した通りのものだった。
昨日のダンジョンダイブの後、『
学園のダンジョンでレベルアップや
今日までどうにか我慢を続けてきた尚典だったが、流石に
それでもどうにか、碧鷺荘に戻ってきた尚典を見とがめたのが、碧鷺荘の寮長である
尚典の様子から、すぐに事情を察したのだろう。元々、面倒見の良さでは定評のある寮長は、今晩自分のベッドに連れ込むつもりだったパートナーを快く、一年に貸し出した。
これは、別段珍しい話ではない。寮長の
その代わりに、一年が寮に女子を連れ込むときには、必ず寮長が一度は「味見」をするらしい。学園では特に珍しくもない風習である。
「それにしても、尚典って今日まで童貞だったんだ」
健太が尚典に向けるのは、完璧に尊敬の念だ。最初の時点で童貞だったのは聞いていたが、その後はそこまで突っ込んだ話をしていない。健太自身、蘭という最愛のパートナーを得てからは、碧鷺寮の自室に戻る頻度も減り、必然的に尚典と過ごす時間も減っていた。
てっきり、担任教師か、それこそ寮長のパートナーの誰かと経験を済ませているものだと思っていた。
『
「ああ、うん。健太に言われて、僕も自分で調べたんだけど、確かに
健太も我慢のしどきであることは否定しないが、だからといって出来るとは思えない。少なくとも、尚典と同じ条件ならば、健太自身は絶対に無理、と言い切れる。
「お前、すげえな」
「あはは、照れるね」
思わず漏れた感嘆の言葉に、尚典は照れたように笑う。
健太は考える。この状況からすると、尚典の「相談したいこと」というのは、
「これ以上は流石にお邪魔様かな。んじゃ、私は
そう言って、銀子はベッドから立ち上がる。
「そう言えば、俺も罰当番終えたこと、寮長に伝える必要があるのか?」
健太の言葉に、尚典は少し考えて答える。
「うーん、
「だよな。はあ……」
尚典の答えに、健太は思わずため息を漏らす。
碧鷺荘寮長、
間違いなく、誰か女子(高確率で、残り二人のパートナーのどちらか)を引き込んでいるはずだ。ヤっていない時を見計らう、というのは無意味だ。
「すみません、銀子先輩。俺も同行させてください」
だったら、覚悟を決めていくしかない。
決意した健太に、銀子は楽しげに笑うと、
「お、良いよ。何だったら、君も混ざってく? 私、複数相手好きなんだよね」
「結構です!」
健太も、尚典と同じような声を上げた。
碧鷺荘は、エントリークラスの寮の中でも最下層に位置する、年季の入った木造の男子寮だ。そのため、寮長室でもただの個室に過ぎず、特別豪華な作りになっているわけではない。
その寮長室のドアを、銀子はノックもせずに押し開けた。
「よー、
「失礼します、寮長」
「失礼します」
堂々の入室を果たす銀子の後ろから、健太と尚典が小声でそう言いながら、こそこそと続く。
寮長室に入ると、そこには予想通り、いつも通りの風景が繰り広げられていた。
備え付けのものから買い直したのであろう、ダブルサイズのベッドの上に裸の男女が寝っ転がっている。
その男女の男側が、この碧鷺荘の現寮長、
身長は百八十を優に超え、体つきは筋肉質で均整がとれている。
髪型はいわゆるソフトモヒカンで、長くしている上の髪だけ明るい茶色に染めている。厳つい険のある顔立ちも相まって、「ザ・ヤンキー」といった印象だ。
だが、その髪型を見れば、それだけで彼が結構な上位層であることが分かる。
この学園では生活に必要な最低限の物は安く、贅沢品は高い。それはヘアカットにも当てはまる。購買の一角を占める美容室、理容室は千『銭』なのに対し、学生街に店舗を構える美容室、理容室は最低でも一万『銭』を超える。パーマやヘアカラーなどやろうと思えば、余裕で五万、十万『銭』を要求されるのだ。
その証拠に、
「あー、銀子……? おう、尚典に健太か。その様子だと、尚典は落ち着いたみてえだな」
もう昼をとっくに過ぎているというのに、やっと目を覚ましたらしい
もちろん、全裸のままだ。股間では、その体格に相応しいモノが隆々と勃起している。
「はい、その、ありがとうございました」
まだその価値観に染まっていない尚典は、寮長の下半身に視線を向けないように気を付けながら答える。
「おう、おめっとうさん。銀子もありがとうよ。っていうか、お前にとっては役得か?」
コキコキと首を鳴らしながら
「まあね。尚くん、必死で可愛かったあ。でも、一晩で十四回も頑張ってくれたんだよ。私も三回ぐらいイかされちゃった」
「ぎ、銀子さんっ!?」
赤裸々な銀子の告白に、尚典は焦った声を上げる。尚典は、まだまだ学園の価値観に染まっていない。提案したのは
「ほー、そいつは大したもんだ。
「あ、はい。違います」
拍子抜けする尚典の前で、
実際、
それだけ賑やかに話し続ければ、それまでずっと眠っていた少女も目を覚ます。
「……ん、ん? あ? あっ!?」
昨晩、
「おう、目、覚めたか」
「やっほー、君一年よね?
パートナーである銀子の言葉に、
「ああ、お前に尚典の相手を頼んだからよ、俺は
「そうだったんだ、
自慢気に「助けた」という
「…………」
「…………」
一方、健太と尚典は無言で微妙な顔をしている。
「助けた」はずの一年女子が、こうして裸で寮長室のベッドで目を覚ましたということは、「助けたのではなく、凌辱者が変わっただけなのでは?」という世間では至極もっともな健太と尚典の感想も、この学園内では当てはまらない。
複数の男の相手をさせられるよりは、一人の方がまだマシ、というだけではない。
そのままでは「エンジョイ勢のオナホ女」という、学園内でも最悪の立場に固定されるはずだった未来から逃れられたと思えば、一晩一人の男子に抱かれたぐらい、この学園では「安い」ものだ。
「あ、あの、私……」
布団を体に巻き付けて、ビクビクしている一年女子は、潤んだ上目遣いで
「おう、もう帰っていいぞ。シャワー使いたいなら、銀子に頼め」
男子寮で女子がシャワーを使用する場合、不特定多数の男子に襲われるのが当たり前だが、銀子は寮長である
「あ、いえ。シャワーは、良いです」
「そうか。なら服はそこだ」
と
「は、はい。あの、ええと……」
現状彼女は全裸で布団にくるまっている。服を着ようとすれば、どうしても一時的に全裸を晒すことになるのだが、そこへの配慮はされていなかった。まあ、不特定多数の男女に裸を見られることへの忌避感を強く持ったままでは、この学園では生きていけないので、配慮されないのも仕方がないのかもしれない。
意を決した彼女が、ミノムシのように布団を体に巻き付けて、着替えのところまで移動している間に、
「それで、健太。お前はちゃんと罰当番、済ませたか?」
「はい。尚典が半分手伝ってくれましたけど」
正直にそう答える健太に、
「ああ、結果さえ出てりゃその辺はどうでも良い。二年以上になったら、てめえの女に代わりにやらせてる奴も多いしな。ま、ダチに手伝ってもらったんなら、礼は言っておけってくらいだ」
「はい、それはもちろんです」
面倒な罰当番を終えて、ホッとしている健太に、
「おう、そうしとけ。ダチは大切にな。んで、問題はお前が仕事をさぼりまくってる現状なわけよ。一応確認するが、お前女出来たんだろ? お前が女のところに泊まるんじゃなくて、その女をこっちに呼ぶわけにはいかねえのか?」
「それは出来ません」
寮長の言葉に、健太はきっぱりと拒絶の意思を示す。男子寮に連れ込まれた女子がどうなるか、知っている健太にとってその選択肢は存在しない。学園の『常識』には反する健太の答えだったが、ある程度
「まあ、お前はまだそんな感じだな。となると、しばらくは女子寮泊まりか。その場合、日曜の『罰当番』を続けてもらうぞ。いいか?」
「はい、分かりました」
その提案は、健太も素直に受け入れる。本来、手分けをしてやる寮の仕事を、女子寮に入り浸ることで日頃はサボりまくっているのだから、皆が一番嫌がる『休日の仕事』を罰として宛がわれるのは、筋としては理解できる。
そんな話をしている間に、一年女子はどうにか制服に着替え終えていた。
「あ、あの、私は……」
なんだかモジモジしながら、赤らめた顔で潤んだ視線を
「おう、気を付けて帰れよ」
「……はい、ありがとうございます」
一年女子は、なにか未練がある様に最後まで、
「ああ、ちょっと可哀そう。あの子、堕ちてるでしょ。パートナーにするか、倶楽部に入れるか、してあげればよかったのに」
少女がいる間は我慢していたのか、早速裸の
「パートナーはお前ら三人で手一杯だっつうの。倶楽部に関しちゃ論外だ。俺は所詮、レギュラーどころか補欠ですらねえ、その他大勢だぞ。俺の立場じゃ、お前一人が限界だ」
そう言いながら、
レギュラー、補欠というのは、倶楽部対抗戦の話だろう。倶楽部対抗戦のレギュラーは五人。補欠は二人。単純に考えれば、
ダメージジーンズを丁寧に脱がせる
「なによ、私が倶楽部に入れたのは私の実力よ。この美貌とテクのおかげ。
「チッ、わあってるって。だからだよ。お前をパートナーにした分、俺は他の奴らに遠慮しなけれりゃならねえんだろうが」
ダメージジーンズを丁寧に脱がし、身体にフィットしているシャツに手をかけながら、
実際、銀子の言う通りである。
銀子は、特殊第三段階職『
『
その特性は、ちょうどその二つの職の中間で、忍者的な戦闘力と多少の索敵、鍵開け能力、そして娼婦的なセックススキルを併せ持つ。
銀子と
倶楽部内でも銀子の人気は高い。その銀子をパートナーとしたことで、
ちなみに
「だったら、あの子は適当にキープ? たまに呼び出して、突っ込んで飽きたらポイ?」
「んなわけあるか。一年女子なんざパッコアンドリリースだ。それ以上付きまとうなら責任もって囲わなきゃ『親分』にぶん殴られるわ」
言いながら、
「あああ!」
「おら、おら、おら!」
「あっ、アッ、イイ!」
見られていることなど毛ほども気にしていない、上級生男女の性行為を目の当たりにした健太と尚典は、目を合わせると頷き合い、
「それは、俺たちはこれで」
「失礼しました」