※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第四十六話 日曜午後の罰当番、寮長に報告

 

 

 日曜午前のデートは、(らん)白鶴(はくつる)荘まで送り届けたところで、無事終了となった。

 昼食時のちょっとしたハプニングについて、蘭から珍しく「出来れば、ああいうことは止めて。心臓が止まるかと思った」と苦言を呈されたので、帰り道の間健太(けんた)は、ひたすら謝り続けていた。

 

 いくら『黒蜜(ブラックハニー)』が上位倶楽部の中では評判が良いとはいえ、Aランク倶楽部の部長というのはこの学園では雲の上の存在だ。しかも、彩日羅(あすら)は悪名高き『逸脱規格(イリーガル)(クラス)、『暴食(グラトニー)』でもある。

 蘭のような、普通の女子生徒が距離を取りたがるのも無理はない。

 叶馬(とうま)達主人公パーティーとかかわるのならば、彩日羅たち『黒蜜(ブラックハニー)』とも必然的に距離が近くなるのだが(原作では、主人公の倶楽部『神匠騎士団(アデプトオーダーズ)』と『黒蜜(ブラックハニー)』は『同盟(アライアンス)』を結ぶ)、本人が希望しない限り健太は、自分のパートナーや倶楽部員を巻き込まないつもりだ。

 

 ともあれ、蘭を白鶴荘に送り届けた健太は、後ろ髪を引かれる思いで白鶴荘を後にする。

 向かう先は、健太本来の居場所である男子寮、碧鷺(へきさぎ)荘。蘭の部屋に入り浸っていたことで溜まっていた、共同生活の義務を果たすため休日の午後を捧げに行くのである。

 

 

 

 

 

 健太がやってきた(本来は、戻ってきたと言うべきなのだろうが)碧鷺(へきさぎ)荘では、予想外の人間が待っていた。

 

「遅いよ、健太。始めよう、時間がないんだから」

 

 非難するような言葉を、優しい笑顔で発するのは、健太のルームメイト――尚典(なおふみ)だ。

 

尚典(なおふみ)? 何でお前が? お前は、別段サボってないだろう?」

 

 健太はそう、驚きの声を上げる。

 健太が貴重な日曜の午後を、寮の共同空間(トイレ、風呂、廊下、食堂等)の清掃に当てざるを得なくなったのは、これが『罰当番』だからである。

 碧鷺荘のようなエントリークラスの寮では、共同空間の清掃は寮生が分担してやることになっている。一年は特にその割り当てが多い。それなのに、ここしばらく健太は、蘭のいる白鶴荘に入り浸り、すっかりサボってしまっていた。

 その罰当番として、誰もが一番嫌がる貴重な日曜の清掃を割り当てられたのである。健太としても、「これはどう考えても自分が悪い」と納得した。

 当然、その罰当番にルームメイトの尚典は無関係だ。尚典はずっと、この碧鷺荘で生活をしていて、寮生のノルマはきっちりと果たしている。

 

「まあ、そうなんだけどね。せっかくだから手伝うよ。だから、さ。後でちょっと相談に乗ってくれないかな?」

 

 そう言う尚典は、珍しくばつが悪そうに視線を泳がせる。

 

「相談くらいなら、別段いつでも乗るけど?」

 

 減るものでもないし。と安請け合いする健太は、尚典がいつもと少し違うことに気が付かない。元々、対人関係のスキルはあまり高くない健太だ。なまじ、尚典はルームメイトとして上手く、仲良くやってきたという自負もある。

 心底面倒に思っていた日曜の雑用が半分になるという安堵も手伝い、健太は注意を怠った。

 

 

 

 

 

 寮の共同空間の掃除というのは、纏めてやると結構な大仕事だ。だが、なんだかんだ言ってもダンジョンダイブでレベルが上がった学園生にとっては、面倒ではあっても大変ではない。尚典という予想外の助っ人がいたこともあり、健太の罰当番は覚悟していたよりも早く終わった。

 

「あー、これで終わりか。尚典、マジでありがとうな。他はともかく、ここの掃除は一人でやってたら精神ダメージ高すぎるわ」

 

「あはは、この学園の特殊さの象徴だよね」

 

 最後の難関であるトイレ掃除を終えた健太と尚典は、そんな言葉を交わしながら碧鷺荘の古い廊下を歩く。ただでさえトイレ掃除というのは、気が滅入る汚れを相手にしなければならないのに、この学園の寮では性的な汚れとも戦わなければならない。

 百歩譲って、学園内ならば、他に適当な場所がないのだから、トイレが「性行為専用便所」となっていたとしてもまあ分からないではないが、なぜ自室のある寮に女を連れ込んでまで、わざわざトイレで致す奴らが一定数存在するのか? 健太にはそれが分からない。

 

「こういう雑用をやってると、ミドルクラスの寮に移りたがる奴の気持ちが少しわかる気がする」

 

「確かに。贅沢には興味なくても、面倒な仕事が減るのはちょっと魅力的だね」

 

 健太の愚痴に、尚典も同意する。

 豊葦原学園の寮は、エントリー、ミドル、ハイエンドの三つのクラスに分かれるが、大半はエントリークラスに分類される。ミドルクラスは、『朱雀荘』『青龍荘』『玄武荘』『白虎荘』の四つだけ。ハイエンドに至っては、『麒麟荘』一つのみだ。

 ミドル、ハイエンドの寮は寮というより高級ホテルに近く、食事はもちろんのこと、掃除や洗濯といった日常の家事は全て専用のスタッフがやってくれる。さらに、『銭』を払えば『専属の付き人』もつけることができる。もちろん、その付き人は学園の流儀に染まった卒業生たちだ。中には、SSR(クラス)の者もいるらしい。

 

 ともあれ、面倒な罰当番を終えた健太は、自室のドアを開く。すると、

 

「ふわあ……あれ? おはよ」

 

 尚典のベッドの上に仰向けで寝そべり、今目を覚ましたとばかりに大きく伸びをする全裸の女が、寝ぼけ眼でこちらに挨拶をしてくる。

 

「…………」

 

 健太は無言で、ドアを閉める。

 

「ち、ちょっと、銀子(ぎんこ)さん、なんでまだいるんですか!? しかも裸で!」

 

 健太の後ろで、尚典が聞いたことのないような、焦りに焦った大声を上げている。

 昨晩ここで何があったのか、まあ大体想像はつくが、一応ルームメイトに問いただすべきだろうか? 健太がそんなことを考えている間に、扉の向こうから女の大きな声が届く。

 

「あはは、ごめんごめん。あの後、二度寝しちゃってさ。昨晩は(なお)くんが眠らせてくれなかったら。あ、もう、開けて良いよ」

 

 その言葉に、健太は再びドアを開ける。先ほどとは違い、今度は恐る恐る。

 僅かに開けた隙間から、健太と尚典が中を覗き込むと、そこには先ほどまではおろしていた長い真っすぐな黒髪を、綺麗なポニーテールに縛り、簡単な化粧を済ませた女が、笑顔でベッドの上で胡坐をかいてた。全裸のまま。

 

「全然よくないじゃないですか!? なんで裸のままなんですか!」

 

 と尚典が悲鳴を上げ、健太は深いため息をつく。なんとなく、予想はしていた健太である。彼女――銀子には、健太をからかって楽しむ白鶴(はくつる)荘のお姉さんたちと同じものを感じていた。

 

「私はいっこうにかまわん」

 

「僕が構うんです! お願いですから、服着てください!」

 

「えー。昨晩は見るだけじゃなくて、触って、舐めて、噛んで、縛って、叩いて、突っ込んで、出した身体じゃん。今更だって」

 

「そういう問題じゃありません! ていうか、半分くらい濡れ衣混ざってます!」

 

 その会話だけで、大体の経緯が分かる。ともあれ、しばらく尚典をからかって満足したのか、銀子が服を着てくれたところで、健太と尚典は自分の部屋に入ることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 現在、健太と尚典の部屋には、三人の人間がいる。罰当番を終えて帰ってきた健太と、それに付き合ってくれたルームメイトの尚典。そして、なぜか尚典のベッドで裸で待っていた三年女子――銀子(ぎんこ)だ。

 銀子は流石に今は服を着ているが、その服は、下はダメージ加工を施したスリムジーンズで、上はノースリーブのタイトシャツ。体のラインは全く隠しておらず、ジーンズのダメージ加工も、尻と太腿の付け根にもバッサリ切れ目を入れているので、下手をすれば裸よりも煽情的だったりする。

 しかし、彼女にこれ以上を求めても無駄なことは、理解できる。

 健太は、ひとまず話を進めることにした。

 

 健太は健太のベッドに座り、対面に位置する尚典のベッドに尚典と銀子が並んで座っている。ピッタリと体を押し付けて楽しんでいるのが銀子で、どうにか距離を取ろうと無駄にあがいているのが尚典だ。だが、力が違い過ぎて抵抗が全く抵抗になっていない。むしろ、銀子を喜ばせているだけだ。

 

「ええと、尚典。今更聞くのもなんだけど、一応念のためな。その、おめでとう、で良いんだよな?」

 

 健太の言葉に、尚典は銀子に絡みつかれたまま、頷き返す。

 

「うん。昨日のダンジョンダイブで、ね。どうにか」

 

「うんうん、(なお)くん。童貞卒業、おめでとう!」

 

「ち、そっちじゃないです!」

 

 横から茶々を入れる銀子に、尚典は平静を保てない。

 

「いや、結構本気で言ってるんだよ。まさか転職(クラスチェンジ)まで、童貞守り切ってる男子がいるなんて思いもしなかった。いやー、ラッキーラッキー。初物、おいしゅうございました」

 

 銀子の言葉が示す通り、尚典の経緯はおおよそ健太が想像した通りのものだった。

 昨日のダンジョンダイブの後、『聖堂(カテドラル)』へ行った尚典は、見事転職(クラスチェンジ)にこぎつけた。

 学園のダンジョンでレベルアップや転職(クラスチェンジ)を行うと、性欲、精力の増大という問題が出て来る。

 今日までどうにか我慢を続けてきた尚典だったが、流石に転職(クラスチェンジ)した直後のそれは、気力でどうにかなるレベルを超えていたらしい。

 それでもどうにか、碧鷺荘に戻ってきた尚典を見とがめたのが、碧鷺荘の寮長である波留(はる)とそのパートナーである銀子だ。

 尚典の様子から、すぐに事情を察したのだろう。元々、面倒見の良さでは定評のある寮長は、今晩自分のベッドに連れ込むつもりだったパートナーを快く、一年に貸し出した。

 

 これは、別段珍しい話ではない。寮長の波留(はる)には、三人のパートナーがいるが、この碧鷺荘に入寮するまで童貞だった一年の半数以上が、この三人の誰かに童貞を切ってもらっている。

 その代わりに、一年が寮に女子を連れ込むときには、必ず寮長が一度は「味見」をするらしい。学園では特に珍しくもない風習である。

 

「それにしても、尚典って今日まで童貞だったんだ」

 

 健太が尚典に向けるのは、完璧に尊敬の念だ。最初の時点で童貞だったのは聞いていたが、その後はそこまで突っ込んだ話をしていない。健太自身、蘭という最愛のパートナーを得てからは、碧鷺寮の自室に戻る頻度も減り、必然的に尚典と過ごす時間も減っていた。

 てっきり、担任教師か、それこそ寮長のパートナーの誰かと経験を済ませているものだと思っていた。

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』という反則(チート)スキルを持つ健太ならばともかく、尚典が転職(クラスチェンジ)まで我慢しきっているとは、驚異的な精神力である。

 

「ああ、うん。健太に言われて、僕も自分で調べたんだけど、確かに転職(クラスチェンジ)までにそっちに嵌った人間が、変な(クラス)になる可能性は高いみたいだからさ。ここは我慢のしどきだと思って」

 

 健太も我慢のしどきであることは否定しないが、だからといって出来るとは思えない。少なくとも、尚典と同じ条件ならば、健太自身は絶対に無理、と言い切れる。

 

「お前、すげえな」

 

「あはは、照れるね」

 

 思わず漏れた感嘆の言葉に、尚典は照れたように笑う。

 健太は考える。この状況からすると、尚典の「相談したいこと」というのは、転職(クラスチェンジ)に絡むことなのだろうか? まさか、銀子先輩にがらみではないと思いたい。初めてのセックスの相手にガチ惚れしてしてしまった。普通にあり得る話だが、それは最悪すぎる。

 

「これ以上は流石にお邪魔様かな。んじゃ、私は波留(はる)ちんのとこ行くわ」

 

 そう言って、銀子はベッドから立ち上がる。

 

 波留(はる)――寮長の名前を聞き、健太はふと思いつく。

 

「そう言えば、俺も罰当番終えたこと、寮長に伝える必要があるのか?」

 

 健太の言葉に、尚典は少し考えて答える。

 

「うーん、波留(はる)先輩ははっきりと「終わったら言いに来い」とは言ってなかったけど、まあ、行く方が無難かな」

 

「だよな。はあ……」

 

 尚典の答えに、健太は思わずため息を漏らす。

 碧鷺荘寮長、波留(はる)。決して悪い男ではない。だが、典型的な「学園の男子」である。日曜の午後、寮長室に寮長が一人でいる確率は、ないに等しい。

 間違いなく、誰か女子(高確率で、残り二人のパートナーのどちらか)を引き込んでいるはずだ。ヤっていない時を見計らう、というのは無意味だ。波留(はる)は、典型的な「学園の男子」なのである。自分の部屋にいて、ヤっていない時間などキリンの睡眠時間より短い。

 

「すみません、銀子先輩。俺も同行させてください」

 

 だったら、覚悟を決めていくしかない。

 決意した健太に、銀子は楽しげに笑うと、

 

「お、良いよ。何だったら、君も混ざってく? 私、複数相手好きなんだよね」

 

「結構です!」

 

 健太も、尚典と同じような声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 碧鷺荘は、エントリークラスの寮の中でも最下層に位置する、年季の入った木造の男子寮だ。そのため、寮長室でもただの個室に過ぎず、特別豪華な作りになっているわけではない。

 その寮長室のドアを、銀子はノックもせずに押し開けた。

 

「よー、波留(はる)ちん! 今日は誰を連れ込んでる? 私も混ぜろー!」

 

「失礼します、寮長」

 

「失礼します」

 

 堂々の入室を果たす銀子の後ろから、健太と尚典が小声でそう言いながら、こそこそと続く。

 寮長室に入ると、そこには予想通り、いつも通りの風景が繰り広げられていた。

 

 備え付けのものから買い直したのであろう、ダブルサイズのベッドの上に裸の男女が寝っ転がっている。

 その男女の男側が、この碧鷺荘の現寮長、波留(はる)である。

 身長は百八十を優に超え、体つきは筋肉質で均整がとれている。

 髪型はいわゆるソフトモヒカンで、長くしている上の髪だけ明るい茶色に染めている。厳つい険のある顔立ちも相まって、「ザ・ヤンキー」といった印象だ。

 だが、その髪型を見れば、それだけで彼が結構な上位層であることが分かる。

 この学園では生活に必要な最低限の物は安く、贅沢品は高い。それはヘアカットにも当てはまる。購買の一角を占める美容室、理容室は千『銭』なのに対し、学生街に店舗を構える美容室、理容室は最低でも一万『銭』を超える。パーマやヘアカラーなどやろうと思えば、余裕で五万、十万『銭』を要求されるのだ。

 波留(はる)がやっている茶髪のソフトモヒカンというヘアスタイルは、千『銭』理容室では扱っていない。イコール、そのヘアスタイルは彼が、ヘアセットに万単位の『銭』を毎月費やせる立場であることを、示している。ソフトモヒカンという長期間の維持が難しい髪型の特徴を考えれば、月二回ヘアカットに向っている可能性すらある。

 その証拠に、波留(はる)の髪は、根元まで同じ色だ。

 

「あー、銀子……? おう、尚典に健太か。その様子だと、尚典は落ち着いたみてえだな」

 

 もう昼をとっくに過ぎているというのに、やっと目を覚ましたらしい波留(はる)は、そう言うと堂々とベッドから体を起こし、縁に座る。

 もちろん、全裸のままだ。股間では、その体格に相応しいモノが隆々と勃起している。波留(はる)のような第三段階の戦闘職に達している男子は、萎えている時間の方が少ない。さらに今更、それを隠すような価値観は、学園上級生にはない。

 

「はい、その、ありがとうございました」

 

 まだその価値観に染まっていない尚典は、寮長の下半身に視線を向けないように気を付けながら答える。

 

「おう、おめっとうさん。銀子もありがとうよ。っていうか、お前にとっては役得か?」

 

 コキコキと首を鳴らしながら波留(はる)がそう言うと、銀子はにんまりを笑い、あっけらかんと答える。

 

「まあね。尚くん、必死で可愛かったあ。でも、一晩で十四回も頑張ってくれたんだよ。私も三回ぐらいイかされちゃった」

 

「ぎ、銀子さんっ!?」

 

 赤裸々な銀子の告白に、尚典は焦った声を上げる。尚典は、まだまだ学園の価値観に染まっていない。提案したのは波留(はる)だとはいえ、自分のパートナーと後輩のセックスを聞かされれば、波留(はる)も不快な思いをするのではないか、という尚典の心配はただの杞憂だった。

 

「ほー、そいつは大したもんだ。転職(クラスチェンジ)したばっかで一晩二桁は、将来有望だな。尚典、お前『遊び人(ニート)』や『絶倫王(ドンファン)』じゃねえんだろ?」

 

「あ、はい。違います」

 

 拍子抜けする尚典の前で、波留(はる)は心底感心したように、何度も頷いている。

 実際、波留(はる)の評価は間違っていない。あくまで傾向であり、例外はいくらでもあるのだが、基本的にこの学園では精力の強さと戦闘力は比例することが多い。例外は今波留(はる)が確認した、『遊び人(ニート)』から派生する第二段階職の『男娼(エルフ)』と、男版SSR職くらいだ。これらは、精力ばかりが増大して、戦闘力はあまり上がらない。

 

 それだけ賑やかに話し続ければ、それまでずっと眠っていた少女も目を覚ます。

 

「……ん、ん? あ? あっ!?」

 

 昨晩、波留(はる)と一夜を明かしたと思われる少女は、目を開いてしばらく現状把握に努めた後、驚きの声を上げて掛け布団を自分の体に巻き付けるようにして、身を縮める。

 

「おう、目、覚めたか」

 

「やっほー、君一年よね? 波留(はる)ちん、この子誰? 新しいオナペット?」

 

 パートナーである銀子の言葉に、波留(はる)は面倒くさそうに答える。

 

「ああ、お前に尚典の相手を頼んだからよ、俺は明美(あけみ)美月(みつき)を呼んでくるつもりだったんだけどな。歩いてたら、どこぞのエンジョイ勢の馬鹿共がこいつを輪姦(まわ)してキャッキャしてたからよ。流石に見過ごせねえってことで、全員ぶっ飛ばして助けてやったわけだ」

 

「そうだったんだ、波留(はる)ちんやっさしー!」

 

 自慢気に「助けた」という波留(はる)に、銀子も本気で同意の声を上げている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 一方、健太と尚典は無言で微妙な顔をしている。

 

「助けた」はずの一年女子が、こうして裸で寮長室のベッドで目を覚ましたということは、「助けたのではなく、凌辱者が変わっただけなのでは?」という世間では至極もっともな健太と尚典の感想も、この学園内では当てはまらない。

 

 波留(はる)のやった行為は、学園基準では間違いなく「人助け」である。

 

 複数の男の相手をさせられるよりは、一人の方がまだマシ、というだけではない。波留(はる)にとっては、この一年女子は「ちょうどいいから一晩相手しろ」くらいの存在だが、学内カーストの下に位置するエンジョイ勢たちにとっては、「やっと手に入ったオナホ女」だ。手放すはずがない。

 そのままでは「エンジョイ勢のオナホ女」という、学園内でも最悪の立場に固定されるはずだった未来から逃れられたと思えば、一晩一人の男子に抱かれたぐらい、この学園では「安い」ものだ。

 

「あ、あの、私……」

 

 布団を体に巻き付けて、ビクビクしている一年女子は、潤んだ上目遣いで波留(はる)を見ている。

 

「おう、もう帰っていいぞ。シャワー使いたいなら、銀子に頼め」

 

 男子寮で女子がシャワーを使用する場合、不特定多数の男子に襲われるのが当たり前だが、銀子は寮長である波留(はる)のパートナーとして周知されている。だから、銀子が付き添って「この子は駄目」と言えば、手出しをされる危険はない。視姦されるのは防げないが。

 

「あ、いえ。シャワーは、良いです」

 

「そうか。なら服はそこだ」

 

 と波留(はる)が顎で示す先には、確かに学園女子の制服が一そろいあった。いずれもちゃんと皺にならないように畳まれている。状況から考えて、彼女が自主的に畳んだはずはないから、波留(はる)がやったのだろう。

 

「は、はい。あの、ええと……」

 

 現状彼女は全裸で布団にくるまっている。服を着ようとすれば、どうしても一時的に全裸を晒すことになるのだが、そこへの配慮はされていなかった。まあ、不特定多数の男女に裸を見られることへの忌避感を強く持ったままでは、この学園では生きていけないので、配慮されないのも仕方がないのかもしれない。

 意を決した彼女が、ミノムシのように布団を体に巻き付けて、着替えのところまで移動している間に、波留(はる)は健太の方へ向き直り、話し始める。

 

「それで、健太。お前はちゃんと罰当番、済ませたか?」

 

「はい。尚典が半分手伝ってくれましたけど」

 

 正直にそう答える健太に、波留(はる)はヒラヒラと手を振って言う。

 

「ああ、結果さえ出てりゃその辺はどうでも良い。二年以上になったら、てめえの女に代わりにやらせてる奴も多いしな。ま、ダチに手伝ってもらったんなら、礼は言っておけってくらいだ」

 

「はい、それはもちろんです」

 

 面倒な罰当番を終えて、ホッとしている健太に、波留(はる)はまだ話は終わっていないとばかりに、視線を固定したまま口を開く。

 

「おう、そうしとけ。ダチは大切にな。んで、問題はお前が仕事をさぼりまくってる現状なわけよ。一応確認するが、お前女出来たんだろ? お前が女のところに泊まるんじゃなくて、その女をこっちに呼ぶわけにはいかねえのか?」

 

「それは出来ません」

 

 寮長の言葉に、健太はきっぱりと拒絶の意思を示す。男子寮に連れ込まれた女子がどうなるか、知っている健太にとってその選択肢は存在しない。学園の『常識』には反する健太の答えだったが、ある程度波留(はる)は予想していたのか、大きな反応は示さない。

 

「まあ、お前はまだそんな感じだな。となると、しばらくは女子寮泊まりか。その場合、日曜の『罰当番』を続けてもらうぞ。いいか?」

 

「はい、分かりました」

 

 その提案は、健太も素直に受け入れる。本来、手分けをしてやる寮の仕事を、女子寮に入り浸ることで日頃はサボりまくっているのだから、皆が一番嫌がる『休日の仕事』を罰として宛がわれるのは、筋としては理解できる。

 

 そんな話をしている間に、一年女子はどうにか制服に着替え終えていた。

 

「あ、あの、私は……」

 

 なんだかモジモジしながら、赤らめた顔で潤んだ視線を波留(はる)に向ける一年女子に、波留(はる)はあっさりと言う。

 

「おう、気を付けて帰れよ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 一年女子は、なにか未練がある様に最後まで、波留(はる)の方を見ていたが、やがて寮長室を後にした。

 

「ああ、ちょっと可哀そう。あの子、堕ちてるでしょ。パートナーにするか、倶楽部に入れるか、してあげればよかったのに」

 

 少女がいる間は我慢していたのか、早速裸の波留(はる)に体を寄せながら、銀子はそう笑いを含んで声で囁く。

 波留(はる)は『盗賊(シーフ)』系第三段階職の『馬賊包頭(ギャングライダー・ヘッド)』だ。ノービスの一年女子など、一晩で隷属してしまう。

 

「パートナーはお前ら三人で手一杯だっつうの。倶楽部に関しちゃ論外だ。俺は所詮、レギュラーどころか補欠ですらねえ、その他大勢だぞ。俺の立場じゃ、お前一人が限界だ」

 

 そう言いながら、波留(はる)はすり寄る銀子をその太い腕で抱き寄せて、銀子のベルトに手を伸ばす。

 

 レギュラー、補欠というのは、倶楽部対抗戦の話だろう。倶楽部対抗戦のレギュラーは五人。補欠は二人。単純に考えれば、波留(はる)は所属する倶楽部の八番手以下ということになる。逆を言えば、『盗賊(シーフ)』系第三段階職の波留(はる)がレギュラーになれないくらいに、層の厚い倶楽部の所属しているとも言える。

 

 ダメージジーンズを丁寧に脱がせる波留(はる)を助けるように、身体を動かしながら銀子は、少し挑発的に波留(はる)の耳元でささやく。

 

「なによ、私が倶楽部に入れたのは私の実力よ。この美貌とテクのおかげ。波留(はる)ちんのおかげじゃありませーん」

 

「チッ、わあってるって。だからだよ。お前をパートナーにした分、俺は他の奴らに遠慮しなけれりゃならねえんだろうが」

 

 ダメージジーンズを丁寧に脱がし、身体にフィットしているシャツに手をかけながら、波留(はる)は銀子の言い分を認めるように、そう言った。

 実際、銀子の言う通りである。

 銀子は、特殊第三段階職『くノ一(クノイチ)』だ。

くノ一(クノイチ)』は、女子専用職の中でも少々変わっており、『盗賊(シーフ)』系第二段階職『忍者(ニンジャ)』から派生するケースと、『遊び人(ニート)』系第二段階職『娼婦(ニンフ)』から派生するケースがある。

 その特性は、ちょうどその二つの職の中間で、忍者的な戦闘力と多少の索敵、鍵開け能力、そして娼婦的なセックススキルを併せ持つ。

 

 銀子と波留(はる)は、最初からパートナーだったわけではない。それぞれ別々ルートで今の倶楽部に入部し、そこで知り合い、パートナーとなったのだ。

 倶楽部内でも銀子の人気は高い。その銀子をパートナーとしたことで、波留(はる)は倶楽部内の他の女子部員及び女子部員枠の扱いには、遠慮しなければならない。とてもではないが、「もう一人、俺のパートナーを入部させくれ」とは言えない状況だ。

 ちなみに波留(はる)のパートナーとなったからと言って、銀子が他の倶楽部の男子とセックスをしないという話にはならない。せいぜい、優先権がある程度だ。

 

 波留(はる)の手で素っ裸に剥かれた銀子は、ベッドに座る波留(はる)と顔を合わせるようにして波留(はる)の膝の上に乗ると、挑発的に言葉を続ける。

 

「だったら、あの子は適当にキープ? たまに呼び出して、突っ込んで飽きたらポイ?」

 

「んなわけあるか。一年女子なんざパッコアンドリリースだ。それ以上付きまとうなら責任もって囲わなきゃ『親分』にぶん殴られるわ」

 

 言いながら、波留(はる)は膝の上にのる自分の女の膝の下に両腕を差し込むと、いとも簡単に持ち上げ、固く直立するペニスの上に落す。

 

「あああ!」

 

 波留(はる)の手で脱がされている間に、とっくに準備が整っていた銀子は、潤う女陰を硬く熱い肉剣で貫かれ、悲鳴じみた嬌声を上げる。そのまま銀子は、その長い手足を波留(はる)の背中に回し、しっかりと抱き着く。

 

「おら、おら、おら!」

 

「あっ、アッ、イイ!」

 

 見られていることなど毛ほども気にしていない、上級生男女の性行為を目の当たりにした健太と尚典は、目を合わせると頷き合い、

 

「それは、俺たちはこれで」

 

「失礼しました」

 

 波留(はる)と銀子から「混ざる?」と誘われる前に、寮長室から脱出するのだった。

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