※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第四話 偶然の遭遇、当然の逃走

 

 敵を倒すことで健太(けんた)はレベルアップしていく。一方、この辺りにいる敵は、レベル20のゴブリンばかり(ごく一部、凶悪な例外がいるはずだが、幸い今のところ、健太の前には姿を見せていない)。

 結果、健太は探索が進めば進むほど、戦闘が楽になっていった。こっちはみるみる強くなるのに、敵の強さは変わらないのだから、当たり前の話だ。おそらく、今の健太ならば、『蜻蛉(シャドウ)』を使った奇襲でなく、正面からでもゴブリンの五匹程度なら無傷で勝利できるだろう。『戦士の不動心(マインドスイッチ)』がオンになっている健太は、そんな慢心した行動はとらないが。

 そうして、順調にゴブリン達と相対し続けてきた健太は、少々予想外の出来事に、掃討の終わった玄室で足を止めていた。

 

「なんでこのタイミングで、もう転職(クラスチェンジ)可能になる?」

 

 脳裏に浮かぶ、『転職(クラスチェンジ)』可能な職一覧。健太のチート能力である『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』は、『転職(クラスチェンジ)』可能な時しか働かない。つまり、今健太は『転職(クラスチェンジ)』可能な状態だということだ。

 

「なぜだ? あれからまだゴブリンを何十匹か倒しただけだぞ?」

 

 健太の記憶が正しければ、原作の主人公達は、最初の転職(クラスチェンジ)の後、急激にレベルの上昇が減速していた。ノービスの頃は一日のダンジョンダイブで10以上上がっていたレベルが、転職(クラスチェンジ)後は、2か3程度しか上がっていなかったはずだ。倒していたのは、同じレベル20のゴブリンだったと、健太は記憶している。

 そのレベル20のゴブリンを、健太は『遊び人(ニート)』になってから、何十匹かは倒しただろう。だが、原作で叶馬(とうま)達四人が、一日で倒す数の倍も三倍も倒してはない。甘めに見積もって、精々同じくらいだろう。

 

 首を傾げる健太だったが、これに関しては単なる健太の勘違いである。

 原作主人公たちは、皆才能の塊だ。だから、誠一(せいいち)静香(しずか)麻衣(まい)の三人は、第一段階の職を飛ばしていきなり第二段階の職になっていた。主人公である叶馬(とうま)にいたっては、第一第二の話でなく、『規格外(イリーガル)』職の『雷神見習い(ライジングサン)』だ。

 20レベルのゴブリン如きでは、いくら倒してもなかなかレベルアップしないのも当然である。

 健太が見落としていることは、もう一つある。その時の叶馬達は、四人でダンジョンダイブを行っていたということだ。この世界のダンジョンは、何人で倒しても全員に同じだけ経験値が入るほど親切な設定になっていない。基本、とどめを刺した者に経験値の大半が行く。

 だから、叶馬達は仕留める役を一人に偏らせず、経験値を四人で分けている。一方、健太は一人だ。

 第一段階職と第二段階職のレベルアップに必要とされる経験値の違い。一人と四人の人数の違い。二つの要素を鑑みれば、健太がこの時点で転職(クラスチェンジ)可能な状態――『遊び人(ニート)』レベル20になっていてもおかしくはない。

 

 だが、もう一つの疑問は、確かにこの世界の常識に照らし合わせれば、不可解だった。

 

「しかも、表示されるのは、『戦士(ファイター)』『盗賊(シーフ)』『術士(マギ)』『職人(クラフター)』『文官(フィクサー)』のアーキタイプ第一段階職の残り五つ? なぜ、『遊び人(ニート)』の第二段階職が表示されない?」

 

 普通ならば、第一段階職のレベルが20に達すれば、レベル20になった第一段階職と同系統の第二段階職が解放されるはずなのだ。健太の場合『遊び人(ニート)』系の第二段階職である『引き籠り(パラサイト)』や『男娼(エルフ)』が出ないとおかしい。

 

「まさか、才能がなさ過ぎて、第二段階職になれないのか?」

 

 その可能性に思い至った健太は、淡々とした口調で自分の可能性をそう評価する。

 原作で、そのような描写があったことを思い出したからだ。ちゃんとダンジョンで戦っているのに、なぜかノービスのまま『転職(クラスチェンジ)』出来ない落ちこぼれが稀にいる、という話を。

 健太には辛うじてアーキタイプの第一段階職になる才能はあったが、第二段階職になる才能はなかった。この可能性を否定する材料は、現状ではない。

 健太が、素の精神状態でこの考えに至っていたら、この瞬間恐慌状態に陥ってもおかしくはない、お先真っ暗な可能性である。

戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオンにしていて良かった。他人事のようにそう考えながら、健太は思考を切り替える。

 

「今これ以上考えても益はないな。とりあえず、『転職(クラスチェンジ)』するか」

 

 そう言って、健太は(推定)20レベルまで育てた『遊び人(ニート)』をあっさり捨て、『盗賊(シーフ)』に転職(クラスチェンジ)した。

 当初の予定では『盗賊(シーフ)』になるつもりだったのだ。『遊び人(ニート)』になったのは、負った手傷を『自慰(リジェネレート)』で回復したかったからに過ぎない。

 傷は完全に癒えているのだから、今は『遊び人(ニート)』にこだわる必要はない。

 流石に『遊び人(ニート)』レベル20から『盗賊(シーフ)』レベル1に転職(クラスチェンジ)すれば、一時的に弱体化するだろうが、健太は大丈夫だと判断する。

遊び人(ニート)』レベル1でも、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』と『初心者救済装置(ビギナーズグローブ)』があれば、大きな問題はなかったのだ。

 第一段階アーキタイプ六職のうち、『戦士(ファイター)』に次ぐ戦闘職とされる『盗賊(シーフ)』ならばレベル1でも問題はないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、数度の戦闘を経て、健太の予想は良い方向に外れた。

 

「本当に俺は弱くなってるのか? 正直強くなっているようにしか思えんのだが」

 

 たった今、大きめの玄室で、ゴブリンリーダーが率いる総勢七匹のゴブリンを短時間で殲滅した健太は、息も切らず首を傾げていた。

遊び人(ニート)』レベル1と『盗賊(シーフ)』レベル1ならば『盗賊』レベル1の方が強いが、『遊び人』レベル20と『盗賊』レベル1ならば、流石に『遊び人』レベル20のほうが強いはずだ。現在健太は、レベル20まで育てた『遊び人』を放棄して、『盗賊』をレベル1から始めたのだから、一時的に弱体化しているはず。それなのに、健太の体感はむしろ『遊び人』レベル20の時より今の方が強く感じられる。今は、レベルアップしているので正確に言えば、さっきまで、と言うべきか。

 叶馬の『情報閲覧(インターフェイス)』ならば今のレベルや能力値も数値化して把握できるのだが、健太の『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』は、あくまで転職(クラスチェンジ)に特化している。今、自分がどのような状態なのか、把握する機能は持たない。

 だから、健太は前世の知識と、現世の知識と、現在の体感を組み合わせて、正解を導き出すしかないのだが、現状は情報が足りな過ぎて、推測すら立てられない。

 

「今は、気にしないに限るか」

 

 健太はそう自分に言い聞かせると、探索を再開した。

 

 

 

 

 

 

 その後も、健太の戦闘はいっそ肩透かしと言っても良いくらいにひたすら順調だった。

 ゴブリン達がいる玄室に、通路から一気に『俊足(ファスト)』で跳び込み、槍の射程を生かして攻撃。『初心者救済装置(ビギナーズグローブ)』の効果で、当たればほぼ一撃必殺。時には、振り回すことで複数を同時に仕留めることすら可能。囲まれた場合でも、『空歩(ステップ)』を使えば、空中の足場を使って脱出は容易だ。

 強くなることで、レベルアップはさらに加速していく。リスクを考えて、最初はゴブリンの数が少ない小さめの玄室を探して通路をウロウロする時間が長かったが、強くなればもっと数の多い大きめの玄室もターゲットになる。結果、通路をうろつく時間が減り、撃墜数はうなぎ上りになっていく。

 そろそろ、盗賊も転職可能なレベルに達するのではないか。そんなことを考えながら通路を歩み進んでいると、健太の耳が足音をとらえる。

 

「…………」

 

 健太は即座にその場で足を止め、最大限に警戒を高める。

 ゴブリンの大半は玄室にいるが、まれに通路を歩いていることもある。だから、通路で足音を耳にすること自体はそこまでおかしくはない。だが、これは明らかにおかしい。

 まず第一に、足音が一つしか聞こえない。これまで健太が狩ってきたゴブリンは、最低でも三匹の群れだった。瘴気濃度が薄い空間にいるレベル1ゴブリンは単独行動が主だが、瘴気濃度の濃い空間にいる高レベルゴブリンは群れで行動するはずなのだ。

 第二に、足音しか聞こえないというのがおかしい。ゴブリンは静かにするという機能がないのか、常にギャアギャアと意味不明な喚き声をあげているものだ。

 そして第三に、足音のリズムがありえない。ゴブリンは小さい。足が短い。だから、ゴブリンの足音はもっと小刻みなのだ。これは、二足歩行の生き物だとすれば、ゴブリンよりもずっと歩幅の広い生き物の足音だ。

 

(まさか、『超越個体(オーバーボーダー)』か?)

 

 

 健太は、原作の知識から、一つの可能性を導き出し、警戒をいっそう高める。

超越個体(オーバーボーダー)』とは、モンスター本来の誕生、消滅のサイクルから外れて生き延びた個体のことである。そうした個体は、種族本来の姿、強さから激変する。

 職業ではないが、それは一種のクラスチェンジと言っても良いだろう。ゴブリンの場合は、ゴブリンキング、ゴブリンロード、ゴブリンヒーロー等が確認されているが、それらは大概二メートルを超える筋骨隆々とした体躯を誇り、その見た目通り、ノーマルのゴブリンなど比較にもならない強さを誇る。

 今の健太が一人で相手取るのは、相当分が悪い。

 

(逃げるか? いや、駄目だな)

 

 逃亡が可能ならば、即座にそうするべきなのだが、それでも健太がその場にとどまっているのは、『盗賊(シーフ)』の鋭敏な感覚が「すでに向こうはこっちに気づいている」と伝えてくるからだ。

 下手に逃亡する姿勢を見せたら、逆に相手を調子付かせる可能性がある。ゴブリンは強いものに弱く、弱いものに強い性質がある。『超越個体(オーバーボーダー)』が、ゴブリンの性質を受け継いでいるのなら、逃亡は状況を悪化させる可能性すらある。

 

「…………」

 

 だから、健太はその場でとどまり、近づく対象を待つ。

 ダンジョンの中は『光苔(ネオンモス)』のおかげで行動が可能なくらいには明るいが、長い通路の向こうから近づく影は、流石に相当近づかなければ、詳細は判別できない。

 緊張を解かず、警戒を最大にして、近づいてくる影がはっきりと見えるところまで、待つことしばし。影の正体が判明する。

 豊葦原学園の制服の上から、両腕と上半身をピッタリとした黒くて薄いゴムのような布地で覆った男。

 

 それは、原作主人公、叶馬(とうま)だった。

 

「!!」

 

 それを認識した次の瞬間、健太はゴブリンスピアを投げ捨て、『俊足(ファスト)』のスキルを使用し、最大速度で逃亡を図った。

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