※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第五十一話 危険を避ける転職(クラスチェンジ)、女子の相談

 

 

 本日のダンジョンダイブを無事終えた健太(けんた)は、(らん)とその二人の友人――風音(かざね)竹海(たけみ)と共に、『聖堂(カテドラル)』を訪れていた。

 これまでの一年間で、それなりに経験を積んでいる風音(かざね)竹海(たけみ)は、今日稼いだ経験値が膨大であることを理解している。そのため、「ひょっとしたら転職(クラスチェンジ)できるかも」と、期待を抱いたのだ。

 

 自然な形でそれに同行を申し出ることが出来たのは、健太としては幸いだったと言える。

 

 『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』の効果で健太は、竹海(たけみ)転職(クラスチェンジ)可能になっていることは把握している。第二段階、第三段階合わせて、五つの『踊り子(ダンサー)』系のいずれかになってくれれば良いのだが、問題はGRクラスである『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』である。健太の予想通り、『踊る勇者』が『勇者(ブレイバー)』の派生だとすれば、出来れば竹海(たけみ)にはなって欲しくない。

 幸い、健太の『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』は、近くにいれば『聖堂(カテドラル)』の転職(クラスチェンジ)に介入できることが分かっている。

 

聖堂(カテドラル)』に向かう道中、健太の左腕を風音(かざね)がしっかりと抱きしめ、健太の背中にべったりと竹海(たけみ)が引っ付いている。

 最初は、健太も「なにごと?」と驚いたが、考えてみればさほど不思議な話ではない。急激なレベルアップが性欲と精力を高めるというのは、なにも男限定の話ではない。ダンジョンダイブの成果の副作用で、二人とも滾っているのだろう。

 

 竹海(たけみ)は好みのタイプの美女だし、風音(かざね)は残念ながら健太の好みからは大きく外れるが学園の平均――つまりは美少女だ。その二人に、密着されて健太も嫌な気はしない。

 ただ、蘭には誤解されたくないので、空いている右腕を蘭の肩に回して、蘭をしっかりを抱き寄せる。

 自意識過剰かもしれないが、すでに『堕ち』ている蘭からすると、友人二人だけ侍らせて、自分は離れて歩くというのは、不安に駆られる可能性が高い。

 幸い、恐る恐る蘭の肩に手を回して抱き寄せたところ、蘭は花が咲いたような笑顔で、健太の胸に飛び込んで来てくれたので(これが演技だとしたら、健太は女性不審になるだろう)、自分の対応は間違っていなかったと、健太は内心安堵の息を漏らす。

 

 一人の男を囲むように、三人の女子がベッタリとへばりついている。健太の「らしくなさ」が少々目立つが、この学園ではさほど珍しい光景でもないため、夕暮れの道中他の生徒とすれ違うことがあっても、特別注目を集めることもない。

 

聖堂(カテドラル)』までの道中、健太の左腕にぶら下がる様にして、抱き着いている風音(かざね)がウキウキとした口調で、口を開く。

 

「くふー、一日でこんなに経験値稼げたの、初めてだよー。もう、健太君さまさまだね。あー、転職(クラスチェンジ)出来てたら、どうしよ?」

 

 たまに足を浮かせて、完全に健太の左腕にぶら下がる風音(かざね)だが、今の健太にとって女子の中でも小柄で華奢な風音(かざね)ならば、どうということもない。

 

風音(かざね)先輩は『戦士(ファイター)』ですよね。転職(クラスチェンジ)の希望はあるんですか?」

 

 片腕に人を一人ぶら下げても、体幹がブレることすらない自分に軽く感動しながら問いかける健太に、風音(かざね)はポンと地面につま先を下ろしながら答える。

 

「んー、幸い『戦士(ファイター)』系の第二段階職って、ほぼハズレがないからね。そこまでは拘り無いかな。しいて言えば『槍騎士(ランスナイト)』か『槍闘士(スピアウォーリア)』かな? 使い慣れてるのは槍だからね」

 

 その名が示す通り、『槍騎士(ランスナイト)』は『騎士(ナイト)』の、『槍闘士(スピアウォーリア)』は『闘士(ウォーリア)』の槍に特化した(クラス)だ。槍以外の武器では発動不能なスキルが大半を占める代わりに、槍を用いれば、通常の『騎士』、『闘士』よりも強い。

 ノービスの頃から武器は槍しか使ってこなかった風音(かざね)が望むのは、当たり前と言える。ただし、そこまで珍しくはないが一応どちらもレア職のため、通常は望んだからと言ってなれるとは限らないだが。

 

風音(かざね)先輩は『槍騎士』か『槍闘士』、ようは槍を主武器にする職が良いのか。覚えておこう)

 

 残念ながら今日は転職出来ない風音(かざね)の転職に、健太が関与できる未来があるのかはわからないが、覚えておいて損はない情報だろう。

 

「なるほど、確かにどうせ装備する武器の種類を限定しているのなら、それに特化した職の方が強いですからね。竹海(たけみ)先輩はなにか希望はありますか?」

 

 話の流れに沿うように、健太は背後から抱き着く竹海(たけみ)に水を向ける。

 竹海(たけみ)はその蘭に匹敵する豊かな双乳を健太の背中にべったりと押し付け、顎を健太の肩に載せたまま、健太の耳元で囁くように言う。

 

「特にないね。戦闘職になれれば嬉しいけど、『遊び人(ニート)』からでは望み薄だからね。『遊び人(ニート)』系第二段階職なら、どれになっても私のやることは変わらないよ。

 『引き籠り(パラサイト)』なら戦闘に使えるスキルが多し、『踊り子(ダンサー)』はスキルが他人へのバフばっかりだけど、意外と身体能力の補正は高い。『娼婦(ニンフ)』は学園生活の面倒が増えるから出来れば避けたいところだけど、第三段階になるとき『くノ一(クノイチ)』になれる可能性がある。そう考えれば、悪くはない」

 

盗賊(シーフ)』系第二段階職の『忍者(ニンジャ)』と、『遊び人(ニート)』系第二段階職の『娼婦(ニンフ)』の両方から派生する特殊第三段階職の『くノ一(くのいち)』は、一般的に「セックスでの経験値譲渡ばかりで経験値を稼いだ女『忍者(ニンジャ)』」か「戦闘ばかりやっていた『娼婦(ニンフ)』」がなるケースが多いとされている。

 

 後者の『娼婦(ニンフ)』からの『くノ一(クノイチ)』になるのはなかなかのいばらの道だが、道があるのならば竹海(たけみ)にとって諦める理由はない。

 背中に胸、肩に顔を擦り付けながら、言うことは実に雄々しい竹海(たけみ)に、健太はかなり戸惑いながらも、どうにか言葉を返す。

 

「なるほど、よくわかりました。凄いですね、竹海(たけみ)先輩は。ブレない」

 

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。健太君のような有望な男子からだと特に、ね」

 

 そう言いながら、背中に抱き着く力が強まったのは、健太の気のせいではないだろう。

 

「実際健太君はどう思う? 私のような非戦闘系の(クラス)の女子が、自分で戦おうとすることについて」

 

 それが竹海(たけみ)にとって「最後の問題」だった。

 向上心のある倶楽部ほど、非戦闘系職の女子には戦闘をやらせない。『文官(オフィサー)』にせよ『職人(クラフター)』にせよ、レベルを上げて第二段階職を取らせなければ「使い勝手」が悪いのでレベリングの手伝いはしてくれるのだが、非戦闘系職の女子本人にガチ戦闘をやらせることは、非効率的という考えが主流だ。事実、『聖堂(カテドラル)』の転職(クラスチェンジ)で非戦闘系に割り振られる女子は、戦闘に忌避感、恐怖心を抱いている者が多く、そうした扱いを望む者が多いこともまぎれもない事実である。

 

 だが、流石に今日のダンジョンダイブを見れば、竹海(たけみ)の気質が例外であることを理解している健太は、誤らずに竹海(たけみ)が望む答えを返す。

 

「あくまで本人が望むのなら、の話ですけど、どちらかと言えばそれは良いことでしょう。どんな(クラス)でも自力で戦うことができるに越したことはありません。もちろん、あくまで理想の話であり、気質の問題がありますから、全員に強制はできませんけれど」

 

 その健太の言葉は、基本的には本心からの言葉ではあったが、一部竹海(たけみ)に好かれるよう、修正している部分もある。

 長身巨乳の美女である竹海(たけみ)にべったりとくっつかれて、「これはワンチャンある?」と考えるくらいには、健太にも下心はある。学園の基準で言えば「下心?」と首を傾げられるようなささやかなものだが。

 

「うん、そうか。そうなのか。いや、ありがとう、参考になったよ」

 

 クツクツと笑いながら、健太の首筋に唇を寄せる竹海(たけみ)の目には、「決断」の色が鮮明に映っていた。

 

 

 

 

 

 

聖堂(カテドラル)』での転職(クラスチェンジ)は、一人ずつ『聖堂(カテドラル)』に入る必要がある。

 付き添いでついてきた健太と蘭は『聖堂(カテドラル)』の入り口前で、たった今出て来た風音(かざね)を慰めつつ、竹海(たけみ)の結果を待つ。

 

「駄目だったー! 流石にそこまで上手い話はないかー」

 

「残念だったわね、風音(かざね)。『この調子なら』、次で転職(クラスチェンジ)出来るわよ」

 

 転職(クラスチェンジ)に至らず、オーバーアクションで残念がる風音(かざね)を、蘭がそう言って慰める。

 

「うん、そうだね、蘭。切り替えてくか」

 

 コロッと明るい声を出す風音(かざね)(らん)の会話は、よく聞けば非常に意味深だ。『この調子』なら次で転職(クラスチェンジ)可能という『この調子』とは、今日と同じペースということだ。それはイコール健太が、レベリングを手伝ってあげることが前提なのだが、健太はその話の流れに気づかない。

 現在健太の意識は、『聖堂(カテドラル)』で転職(クラスチェンジ)に挑んでいる竹海(たけみ)に向けられている。

 

 

 

 

竹海(たけみ)は『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』に転職(クラスチェンジ)しようとしています。よろしいですか?

 

 

 

 はい

 

 

 

 いいえ】

 

 

 

 

 脳裏にこのような情報が表示されたのだから、無理もあるまい。

 

(あ……あ、危なかった。ついてきてよかった)

 

 内心冷や汗が止まらない健太である。

 原作で『勇者(ブレイバー)』のヤバさは理解している。『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』が『勇者(ブレイバー)』と全く同じかどうかは分からないが、楽観視はしない方が良いだろう。

勇者(ブレイバー)』の味方であるパーティーメンバーを害するスキルがあるのだ。しかも、『勇者(ブレイバー)』となった者はそれを『当然』と捉える、独善的なメンタルをしている。

 そして、それ以上に問題なのは『勇者(ブレイバー)』の「暴走から自滅にいたる早さ」だ。

 原作で、『七つの大罪(セブンスシン)』の一つ『傲慢(プライド)』のクラスホルダーである恋瑚愛(ここあ)が言っていた。

 

「『七つの大罪(セブンスシン)』と『七つの救済(セブンスレクス)』も全員大概な人格破綻者だが、『勇者(ブレイバー)』と比べれば全然マシ」そして、そんな『勇者(ブレイバー)』を恋瑚愛は「何人も見てきた」という。

 同時に一人しか獲得できない『勇者(ブレイバー)』を、三年生の恋瑚愛(ここあ)が、「何人も見た」という事実が意味することは一つしかない。

 歴代の『勇者(ブレイバー)』の寿命は一年に満たない、ということだ。

 そんな危険な(クラス)に、何の保険もなく竹海(たけみ)を付けるわけにはいかない。

 

 健太は心の中で、【いいえ】をクリックした。

 

(『勇者(ブレイバー)』は戦闘職としてはトップクラスに強いし、竹海(たけみ)先輩の希望にもかなってるから、制御さえできれば選ばせてあげたいんだけどな)

 

 一応、健太には制御の当てはある。

 当代の『勇者(ブレイバー)』は一年(ひのえ)組の和人(かずと)だが、彼は原作では例外的に暴走せず、安定したまま、GR2の『聖者(セイント)』に達していた。

 和人が歴代の『勇者(ブレイバー)』と違い、暴走せずにすんでいるのは(ひとえ)叶馬(とうま)の存在による。

 

勇者(ブレイバー)』の素質、そして力の源は、強烈な自己肯定感と独善的な正義感である。

「俺は強い、俺は正しい」そんな思いこみが『勇者(ブレイバー)』という(クラス)の力を引き出し、引き出された力を根拠にさらに自己肯定感を強め、その力に裏付けされた行動が自我(エゴ)を周囲に押し通すことに成功し、独善に磨きがかかる。

 単純に強くなるという意味では、いい意味での無限ループだが、そうして増大した自意識と限界まで引き出された(クラス)の力に耐えきれず、『勇者(ブレイバー)』はあっという間に自滅する。

 

 だが、和人の場合、すぐそばに叶馬がいる。

 

「俺は強い……あ、すみません。ナマ言いました」

 

 そんな感じで『勇者(ブレイバー)』でありながら、全く自己肯定感が育たず、結果として世にも珍しい安定した『勇者(ブレイバー)』になるのだ。

 つまり、頭を押させる者さえいれば、『勇者(ブレイバー)』系でもどうにかなる。

 

 健太は、冷静な判断を下すため、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオンにして思考する。

 

(俺なら、抑えられるか? いや、むしろ、叶馬について行こうと思えば、それくらい出来なければ、話にならないとさえ言える。幸い、竹海(たけみ)先輩が女だし、『隷属』させれば、おそらく安定する)

 

 世の中の倫理観に従えば、言語道断なことを、今の健太は冷静に「有効な手段」として考える。

 

『隷属』現象は男から女への一方的な干渉、浸食だ。男が強く、女が弱いほど簡単に隷属してしまうが、実は男女の力が同等でも、長期間回数を重ねれば隷属はおこる。隷属してしまえば、原則女を男に逆らえない。そういう体と心に作り替えられるのだ。

 

(まあ、どのみち、今は駄目だな。今の竹海(たけみ)先輩は、蘭先輩の友人に過ぎない。俺が干渉できる立場にない)

 

 そう結論付けた健太は、脳内で『良い踊り子(ナイスダンサー)』を選び、クリックする。

 

 

 

 

竹海(たけみ)は『良い踊り子(ナイスダンサー)』に転職(クラスチェンジ)しようとしています。よろしいですか?

 

 

 

 はい

 

 

 

 いいえ】

 

 

 

 

 健太は、さらに【はい】をクリックする。

 竹海(たけみ)は無事『良い踊り子(ナイスダンサー)』に転職(クラスチェンジ)した。

 同じ『踊り子(ダンサー)』系でも、第三段階職ではなく第二段階職を選んだのは、竹海(たけみ)の希望と将来の可能性を考えてだ。

 第三段階職になってしまえば、次は第三段階職がレベル40になるまで、転職(クラスチェンジ)が出来ない。第三段階職となると、レベルを一つ上げるだけでも要求される経験値は膨大だ。学園生の大半が卒業まで第四段階職に至れないという事実を鑑みれば、もう転職は不可能になってもおかしくはない。

 ならば、弱くとも次の転職が近い第二段階職の方が良い。

 第二段階職の中で『良い踊り子(ナイスダンサー)』を選んだのは、ノーマルの『踊り子(ダンサー)』よりも、身体能力の補正が高いこと(その分、バフを付与する踊りの要求レベルが高い)。スーパーレアの『本場の踊り子(ブロードウェイダンサー)』は、健太が『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』に落した図書館の資料にも、記載が見つからなかったからだ。

 恐らくは、『良い踊り子(ナイスダンサー)』をさらに先鋭化させた(クラス)だと推測できるが、万が一のことを考えるといい加減なことは出来ない。

 

 

「お待たせ。無事、転職(クラスチェンジ)出来たよ。悪くない結果だ。ありがとう、健太君」

 

 

聖堂(カテドラル)』から出て来た竹海(たけみ)は笑顔で、上から覆いかぶさるように健太を抱擁した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堂(カテドラル)』での用事を済ませた健太は一人、碧鷺(へきさぎ)荘へと一旦帰る。

 (らん)と一夜を過ごすならば、どのみち夕食とシャワーを一緒に取る約束をしているため、真っすぐ白鶴(はくつる)荘でも良いのだが、今日は別の用事が入っている。

 昨晩、烏琉羽(うるは)尚典(なおふみ)の相手をしてもらったため、今夜は『報酬』を支払いに、健太は烏琉羽(うるは)の部屋に行かなければならないのだ。そのため、今日のダンジョンダイブでは、蘭のモンスター討伐は最小限にしてもらった。性欲と精力を高めた状態で、蘭を一晩放置するわけにはいかない。

 通常の学園女子ならば、そういう時は適当な男を見繕うのだが、健太は蘭を自分以外の男に抱かせるつもりはない。

 

 

 

 

 その蘭は、現在白鶴荘の食堂で、風音(かざね)竹海(たけみ)の二人と共に、夕食を取っていた。

 

「それじゃ、竹海(たけみ)転職(クラスチェンジ)成功を祝って、かんぱーい!」

 

「乾杯!」

 

「乾杯、ありがとう」

 

 音頭を取る風音(かざね)に続いて、蘭と竹海(たけみ)をグラスを掲げる。

 場所が蘭の済む白鶴荘で、乾杯の理由が竹海(たけみ)転職(クラスチェンジ)成功なのに、音頭を取っているのが風音(かざね)なのは、まあ性格によるものだろう。

 

 乾杯と言っても、学生寮での夕食を兼ねているため、ひとまず中身はただの水だ。形だけの乾杯の後、三人は各々夕食に手を付ける。

 白鶴荘の食事は洋食が主体である。今日もメニューはバケットにビーフシチュー。そして、温野菜サラダ。豊葦原学園の寮は、たとえ最下層のエントリー寮であっても食事は十分な量で、味も「美味しい」と言えるものが提供される。

 

「しかし、蘭には騙されたね。まさか、今まで言っていることが全部本当だったとは」

 

 柔らかく煮込まれた牛肉を、スプーンですくい口に運びながら、竹海(たけみ)はそんな言葉だけ聞けば理不尽極まりない文句を垂れる。

 もっともそう言う竹海(たけみ)の表情は、楽し気な笑顔のため、蘭も苦笑して軽口を返す。

 

「全部本当のこと言っているのに「騙された」、はないでしょ。まあ、言いたいことは分かるけどね」

 

 それくらい、健太の存在は学園の常識から外れているということだ。

 全部本当だったという言葉に、ふと思いついた風音(かざね)が無遠慮に蘭を問いただす。

 

「全部本当ってことは、あれも本当なわけ、蘭? 健太君がほぼ毎晩、蘭の部屋にお泊りしてるってやつ」

 

 風音(かざね)の問いの意図が分からない蘭は、キョトンとした顔で首を傾げながら肯定する。

 

「本当よ。たまに例外の日もあるけど、ご主人様は大体私の部屋で寝泊まりしているわ。あ、そろそろ優梨愛(ゆりあ)の埋め合わせも考えないと駄目ね」

 

 蘭が、約束五日間の後も延長して部屋を貸してくれているルームメイトとの交渉に意識を向けている間に、風音(かざね)は右手に食べかけのバケットを持ったまま、テーブルに身を乗り出す様にして、確認の言葉を重ねる。

 

「そう、それも聞きたかったのよ! そのごく自然な、ご主人様呼ばわり。 蘭、あんた完堕ちしているでしょ。いつからよ? よくぞ、(たばか)ってくれたわね」

 

 蘭と健太が体の関係になってからまだ半月もたっていない。いくら健太が戦闘系スキップ転職組だとしても、これは異常だ。

 

「謀ったって人聞きが悪いわね。私は、ただご主人様が望む通りの態度で接しているだけよ。ダンジョンの中では余裕がないから、素が出てるだけ。あ、ちなみに『こうなった』のは最初の夜、よ」

 

「…………は?」

 

 嬉しそうに自分が初日で『堕ちた』ことを宣言する蘭に、風音(かざね)はしばし絶句する。

 一夜で墜とすとなると、これはノービスレベル1の女子に第二段階職の男子とか、第一段階職の女子に第三段階職以上の男子くらいに、決定的に力の差が開いていないと起こらない現象だ。

 その時点での蘭は、曲がりなりにも『文官(オフィサー)』、第一段階職だった。単純に考えれば、健太の墜とす力は、最低でも第三段階職後半、下手をすれば第四段階職並みということになる。

 男子の墜とす力も、それに対する女子の抵抗力も個人差はあるが、それにしても健太の場合は異常というしかない。

 

 言葉を失っている風音(かざね)の後を引き継ぐようにして、口を開いたのは竹海(たけみ)だ。

 

「凄いね。私も多分一夜持つか持たないか、かな。ところで、普段の蘭の態度が『健太君の望』みというのは、『命令』ということかい?」

 

 すでに『決断』している竹海(たけみ)は、健太の人となりを知らんと、情報収集に努める。それを理解している蘭も、包み隠さず素直に教える。

 

「いいえ。ご主人様は、ダンジョンの外では命令されないわ。ダンジョンでも戦闘に関すること以外は命令されないし。これは私が勝手に、ご主人様の反応を見て自主的にやってることよ」

 

「やれやれ、健気なことで」

 

 うっとりとそう言う蘭に、竹海(たけみ)は苦笑しながらそんな言葉を返す。

 

「そろそろ、はっきりさせましょう。風音(かざね)竹海(たけみ)。貴方達二人は、ご主人様――健太君の倶楽部に入りたい、あわよくば健太君のパートナーになりたい、ってことで良い?」

 

「はーい、それでいいでーす!」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

 二人の肯定の言葉を受けて、蘭は話を進める。

 

「うん。竹海(たけみ)に関しては問題ないと思う。倶楽部入りはもちろん、パートナーとしても歓迎してもらえると思うわ。ただ、風音(かざね)はちょっと」

 

「なによ、私は駄目? なんで、オッパイ小さいから?」

 

「まあ、それもあるけど」

 

「あるの!?」

 

 冗談のつもりの言葉を肯定された風音(かざね)は、驚きの声を上げる。

 

「うん、ぶっちゃけご主人様、滅茶苦茶巨乳好きだから。まあ、それは今は置いておいて、風音(かざね)はまだ倶楽部に所属してるでしょ? ちゃんと辞めてからじゃない駄目。もめ事は持ち込まないで」

 

 風音(かざね)がここで健太の倶楽部に入ることを明言してしまうと、上級生の倶楽部から上級生女子を、一年が引き抜く形になる。良くて『決闘(メンズ―ア)』もの、悪ければ健太を潰しに上級生が暗躍する事態になる。

 蘭の言い分を理解した風音(かざね)は、天井を仰ぎ見るようにして、唸る。

 

「あー、確かに勢いだけでどうにかしていい話じゃないかー。あいつら話が通じない奴じゃないから、大丈夫だとは思うけど、覚悟は必要だね」

 

 風音(かざね)が籍を置く倶楽部『着実進行(マイペース)』はCランクの自称『まったりダンジョン勢』で、女子の扱いも悪くない。あくまで、学園基準だが。

 風音(かざね)が「退部したい」と言えば、引き留められはしても最終的には本人の意思が尊重されるだろう。部長の寮で泊まり込み「追い出しパーティー」ぐらいは覚悟しなければならないだろうが、その程度この学園では温厚な部類に入る。 

 

「でさ、さっきスルーされたんだけど、健太君がオッパイ星人ってマジ? 私、パートナーの望みなさげ?」

 

 一転して、先ほど一旦おいておかれた、(風音(かざね)にとっては)大問題について言及する。

 この学園では強者男子は、圧倒的に「選ぶ立場」だ。その上、性モラルがはじけ飛んでいるため、女子を顔やスタイルの好みで合格、不合格を付けるのはごく当たり前に行われている。それどころかパートナー希望者全員と一通りセックスをしてから、「抱きごこち」「入れ具合」で選ぶことも珍しくない。

 結果、女子もそうして「選別される」ことに慣れてしまっている。

 だから、蘭も平然と風音(かざね)の問いに答える。

 

「うーん、巨乳じゃないと絶対嫌ってわけではないと思うけど」

 

 蘭は極々標準的なバストサイズの烏琉羽(うるは)のことを思い出しながら、そう言った後に、付け加える。

 

「ただ、日頃の視線の向け具合からして、結構重要なポイントではあると思うわ」

 

 ここ白鶴(はくつる)荘には何十人という女子がいる。女子寮内ということもあり、中にはかなりラフな格好で共有空間を歩き回っている寮生もいるのだが、その寮生に健太が視線を向ける頻度が、明確に胸の大きさで違う。

 本人は出来るだけ見ないようにしているつもりのようだが、女子から見ればあからさまだ。

 

「それなら部員になっても、部長さんのパートナーにはなれない可能性大ってことか。うーん、それでも良いといえば良いんだけど」

 

 倶楽部の方針、雰囲気は半分以上部長で決まる。特に健太のような突出して強い者が部長の場合、その傾向が顕著だ。

 だから、健太の強さと人となりを知った時点で健太の倶楽部が『おいしい』のはほぼ間違いのだが、それでも部長のパートナーとなるか、ただの女子部員になるかは大きな差だ。風音(かざね)の場合、現在籍を置いている倶楽部の居心地が悪くない分、多少の迷いは生じる。

 

「そういえば、健太君の倶楽部は、現時点でどれくらい集まってるんだい?」

 

 ふと思い出したようにそう聞いてくる竹海(たけみ)に、蘭は少し考えて答える。

 

「現時点では、ご主人様と私のほかには、一年男子が二人だけね。一応二年女子で一人、入るかも? と思ってる子がいるんだけどちょっと分からないわ」

 

 烏琉羽(うるは)の健太に対する態度は、ちょっとおかしいくらいに肩入れをしているが、だからと言って倶楽部入りするかと言われると、蘭にも分からない。烏琉羽(うるは)が現状籍を置いている倶楽部もBランクだ。普通に考えれば、あり得ない移籍である。

 

「ふむ。となると、現状確定なのは、一年男子三人に私達二年女子三人の合計六人というわけか。その男子二人というのは、どんな子か分かるかい、蘭?」

 

 真面目な顔で確認する竹海(たけみ)に、蘭はスラスラと答える、

 

「二人とも会ってちょっと話をした程度だけど、大雑把に言えば普段のご主人様の同類って感じね。少なくとも現時点ではまだ全然女慣れしてなくて、粗暴さは全くなくて、積極性もあんまりない感じ」

 

 言葉を飾らずに言えば、陰キャオタク男子達ということだ。

 

「あー、それはちょっとかわいいかも。でも、そうなると健太君以外はあんまり期待しない方が良いいかな?」

 

 勝手にシビアなことを言う風音(かざね)だが、学園女子としては当たり前の評価とも言える。その手の積極性に欠ける陰キャオタク男子は、あまり強くないことが多いのだ。ただし、現実から足を踏み外しかける中二病まで突き抜けると、『術士(マギ)』系などで台頭してくる者もいる。

 

 そんな風音(かざね)に、蘭は今一度念を押す。

 

「ねえ、風音(かざね)。結局、貴女はどうなの? 今いる倶楽部をやめて、ご主人様の倶楽部に入るの? 竹海(たけみ)と違って貴方はまだ迷ってるみたいだけど」

 

 倶楽部の情報をあげなければ、倶楽部に引き込むのは難しい。どんな倶楽部か分からない、一年が部長の倶楽部に入りたい者は少数派だろう。だが、情報を与えたのに、倶楽部に入らなかったらただの情報漏洩になる。たとえ大切な友人であっても、ご主人様に優先することはない。

 蘭は、現状倶楽部入りを明言していない風音(かざね)にこれ以上の情報の開示を躊躇した。

 

 そんな友人からの圧を受けながら、風音(かざね)は少し落ち着きなさげに視線を泳がせた後、首肯する。

 

「ええい、分かった。女は度胸だ。入る。入れてください。でも、私が『着実進行(マイペース)』をやめる前に、健太君の口から入部を認めると明言してよ? 流石にそこは譲れない」

 

 蘭の言葉を信じて、今いる倶楽部をやめたのに、肝心の健太が「不合格」と言ったら流石に最悪すぎる。風音(かざね)の言い分は当然と言えた。

 

「了解、それで良いわ。で、これは仮入部を決めた二人だから教えるけど、秘密よ。一年生男子二人はね。一人が『殴打士(ビーター)』でもう一人が『陰陽師(オンミョウジ)』」

 

「…………はあ?」

 

「……ひょっとして、健太君がレベリングを手伝っているのかい?」

 

 衝撃の告白に、驚きの声を上げる風音(かざね)に対し、竹海(たけみ)は同じように驚いた後、すぐにその可能性に思い至る。

 

「半分正解。『殴打士(ビーター)』の子はその通り。でも、『陰陽師(オンミョウジ)』の子は自力。ご主人様と一緒にダイブしたのは、転職(クラスチェンジ)後だって」

 

「スキップ転職(クラスチェンジ)組がもう一人か。まいったね」

 

 蘭の言葉に、竹海(たけみ)は自分を落ち着けるように、大きく息を吐いた。風音(かざね)はまだあっけに取られている。

 

 なまじ原作知識があり、一年(ひのえ)組という異常空間に身を置いている健太は感覚が狂っているが、通常ゴールデンウィーク前の一年で『騎士(ナイト)』、『陰陽師(オンミョウジ)』、『殴打士(ビーター)』という三人組は、例年であればその世代のトップ確定と言ってもよいハイレベル組だ。

 

「健太君は、どの程度を目指しているんだい?」

 

 ペロリと唇を舐める竹海(たけみ)の問いに、蘭は今日一番困った顔で答える。

 

「それが、ちょっと分からないのよね」

 

「分からない? 君にも教えてくれないということかい?」

 

 竹海(たけみ)の言葉に、蘭は首を横に振る。

 

「ううん。それなら、逆に行動から推測もできるんだけど、はっきりと言葉にしてるの。「倶楽部は一応ダンジョン勢のつもりですけど、部員にはそこまで多くを求めるつもりはありません」って。でも、そう言いながら、自分は週の半分くらいはダイブしてるし、さっき言った『殴打士(ビーター)』の子もかなりレベルアップさせてるし、私も『案内人(パスフェンダー)』になって『モンスターカード』だってコボルト『遊撃手(パルチザン)』に育つまで手伝ってくれたのよね、この短期間で」

 

「ありゃ、なんという言動不一致」

 

 風音(かざね)がそんな感想を漏らすのも当然と言える。この短期間で、ノービスの一年男子を第一段階職とし、第一段階職の二年女子を第二段階職に引き上げたのだ。学園の基準では、尻に火をつける勢いで追い立てていると言う。

 蘭に関しては本人が望んだ部分も大きいが、『殴打士(ビーター)』の一年男子――来斗(らいと)に関しては、来るべき倶楽部対抗戦で最低限戦力になるように頑張らせているので、多少気の毒な部分はある。

 まあ、健太の下についた今の状況が、来斗(らいと)の選べる未来の中で最善であることに間違いはないので、タダの贅沢と言えばそれまでだが。

 

「なんというか健太君個人も倶楽部も、こちらの想像をかなり超える感じだね。まかり間違えば、いきなり水無月杯でCランク昇格もありえそうだ。いや、まずは部員十人が必要なのか。現状私達を入れて確定メンバーは六人だから、倶楽部設立に必要なのはあと四人か。

 その一年生男子二人に、パートナーはいないのかい?」

 

 竹海(たけみ)はそう確認を取る。スキップ転職組の尚典(なおふみ)はもちろん、この時期に『戦士(ファイター)』系レア職になっている来斗(らいと)とて相当な有望株だ。とっくにパートナーがいてもおかしくない。

 しかし、残念ながら尚典(なおふみ)来斗(らいと)も、根の部分が健太の同類である。健太を初めて見た時の竹海(たけみ)風音(かざね)の言葉。

 

「君には健太君が『騎士(ナイト)』に見えるのか?」「目を覚ましなよ。どう考えても騙されてるって」

 

 あの時の言葉が、尚典(なおふみ)来斗(らいと)にも当てはまってしまう。将来的に自分の力を自覚した後は分からないが、現状では尚典(なおふみ)来斗(らいと)も絶対に有望株には見えない。

 

「今のところ、どっちもパートナーはいないわ。自分から声を掛けられるタイプじゃないし、黙っていて寄って来るタイプでもないから」

 

 蘭はそう説明するが、もちろんそれは今のうちだけだ。その実力が判明すれば、女に不自由することはなくなる。この学園はそういう空間である。

 

「ん? そうすると、その一年男子二人は、セックスはどうしてるの? 我慢できるわけないよね? 『準備室』通い?」

 

 ふと気づいた風音(かざね)の言葉に、蘭はちょっと微妙な顔で首を横に振る。

 

「それがさっき言った、もしかしたら入部するかもしれない二年生女子よ。この寮の治安部隊に籍を置いている『娼婦(ニンフ)』の烏琉羽(うるは)って子なんだけど、彼女が男子二人の相手をしてくれてるわ」

 

 その『報酬』として、健太も相手をしている。今夜は丁度その『報酬』の支払日だ。だから、健太は自分の部屋には来ないのだ。

 そう説明する蘭は、ついムキになって付け加える。

 

「普段は毎晩私と一緒なんだから。本当よ。今夜は特別。こんなこと滅多にないんだから」

 

「どうどう、落ち着いて蘭。分かってるから、私達疑ってないから」

 

「うん、ダンジョンダイブからその後も含めて、健太君の言動を見れば、今の彼が蘭をどれだけ溺愛してるかは分かるよ」

 

 その勢いは、思わず風音(かざね)がのけ反り、竹海(たけみ)が苦笑しながら理解の言葉を重ねるほどだ。今の蘭にとって、健太の愛情こそが全ての土台なのだから、必死になるのも当然とも言える。

 

「分かってもらえたなら、良いけど」

 

 少し落ち着いて、身体を椅子の背もたれに戻した蘭は、ふと食堂の入り口から一人の寮生が入ってくるのを見つける。

 

「ちょうどよかった。せっかくだから紹介するわ。烏琉羽(うるは)!」

 

 蘭の声に、今寮の食堂に入ってきた、腰まである長い黒髪が印象的な美女――烏琉羽(うるは)は、透き通るような笑顔を浮かべ、こちらに向かって歩いてくる。

 

「どうしました、蘭? そちらのお二人は?」

 

 烏琉羽(うるは)の言葉を受けて、蘭は二人について説明する。

 

「この二人は私の友人で、健太君の倶楽部入り希望者。風音(かざね)竹海(たけみ)風音(かざね)竹海(たけみ)。彼女が烏琉羽(うるは)。健太君の倶楽部の男子の相手をしてくれていて、今夜の健太君の相手」

 

 最後の説明で蘭の表情は抜け落ち、声が平たんになった。一年ならばともかく、二年より上の学園女子としてはちょっと珍しい蘭の態度である。それだけ、蘭が健太に入れ込んでいること分かる。

 その理由が、隷属が深いせいか、健太に捨てられたら学園生活が終わるという打算か、はたまた純粋な恋心か、恐らくは蘭自身分かっていないだろう。

 

「初めまして、だよね? 私は二年(ひつじ)組の風音(かざね)。健太君の倶楽部に入部希望でーす」

 

「同じく、二年(ひつじ)組の竹海(たけみ)だ。健太君の倶楽部入り希望で、健太君のパートナー希望でもある」

 

 すでに夕食は終えていた二人は、椅子から立ち上がり、烏琉羽(うるは)にそう自己紹介する。

 

「丁寧にありがとうございます。二年(とら)組、烏琉羽(うるは)と申します。健太さんの倶楽部に籍を置くのでしたら、今後『色々な場面』でご一緒することになると思いますが、どうかよろしくお願いします」

 

 二人の自己紹介を受けて、烏琉羽(うるは)もそう自己紹介を返した。

 健太の倶楽部に入る予定だという言葉を受けて、「それなら今後も『いろいろな場面』で一緒になるだろう」という烏琉羽(うるは)の答えは、普通ではない。

 健太の倶楽部に所属するならば、今後も付き合いが生じる。そこだけ聞けば、烏琉羽(うるは)も健太の倶楽部に所属する意思がある様にしか聞こえない。

 

「いい機会だから確認させて、烏琉羽(うるは)。貴女、健太君の倶楽部に入るつもりなの?」

 

 蘭は単刀直入に聞く。元々、健太に烏琉羽(うるは)を紹介したのは蘭だが、正直今の烏琉羽(うるは)は蘭の想定から大幅にずれている。男好きでセックス好きで、男に好かれてセックスに熟達しているが、一人の男に入れ込まないし、捕まらない。そんな『娼婦(ニンフ)』という(クラス)の申し子のような烏琉羽(うるは)が、不思議なくらいに健太には献身的である。文字通り、身体を張った貢献を続けている。 

 

 そんな蘭の問いに、烏琉羽(うるは)は女子の目から見ても楚々とした印象しか抱けない仕草で小さく首を傾げると、

 

「それは、状況と健太さんのご希望次第ですね。もし、どうしても倶楽部の人数が足りないようでしたら、入部させていただく所存です。数が足りていても、健太さんが私を倶楽部に欲しいと仰るのでしたら、もちろん喜んで入部いたします。

 ですが、人数が足りていて、私が倶楽部の外で活動する方が健太さんの意に沿うのでしたら、今まで通りの立ち位置を維持するつもりです」

 

 そう言って、しっとりとした笑みを浮かべた。

 

「ねえ、蘭。この子、健太君に『堕ちて』ない? それも蘭と同レベルで」

 

「そんなことあるわけないでしょ。烏琉羽(うるは)、『娼婦(ニンフ)』よ?」

 

 ヒソヒソ声で率直な感想を伝えて来る風音(かざね)に、蘭は学園の常識に乗っ取った答えを返す。一般的に『娼婦(ニンフ)』は隷属しない、とされている。もちろん、ただの噂ではなく、これまで何千何百という『娼婦(ニンフ)』がセックスをしまくった実証結果から導き出される結論だ。

 

「うーん、それもそうか」

 

 風音(かざね)が常識外の正解を手繰り寄せかけていた頃、烏琉羽(うるは)は興味深げに竹海(たけみ)の大きく豊かな肢体(からだ)を見て、目を細める。

 

竹海(たけみ)さんは、倶楽部だけでなく健太さんのパートナー志望なのですね。頼もしいです。竹海(たけみ)さんの御身体は、羨ましいくらいに健太さんの好みですから」

 

「蘭も同じようなことを言っていたよ。健太君とヤッてる女子二人からお墨付きをもらえると、こっちも勇気づけられるね。自信が持てるよ」

 

「お世辞ではありませんから、大いに自信をもってください。一年生の倶楽部入部、倶楽部創設はゴールデンウィークが明けるまで解禁されませんが、パートナーはすでに出来るでしょう。いつ頃、話を進められる予定かお聞きしても?」

 

「本当は今夜、のつもりだったんだよ。健太君にダンジョンダイブに連れて行ってもらって、すごく高まってるからね。その勢いで一気に行きたかったんだけど」

 

 そう言って、竹海(たけみ)は恨めしそうに烏琉羽(うるは)を見下ろす。百七十後半長身でアスリート体型な上に胸、尻共に豊かな竹海(たけみ)と、百六十に満たない上に肩幅が狭く華奢な肉付きの烏琉羽(うるは)では、すっぽり隠れてしまえるくらいの体格差がある。

 だが、烏琉羽(うるは)はそんな体格差にも、全く動じない。

 

「それでしたら、好都合です。私から素敵な提案があるのですが、いかがでしょうか? 鉄は熱いうちに打て、と申しますし」

 

 今夜一晩、『報酬』として、健太を購入している女子は、楽しいオプションを付け加えるため、熱心に交渉を始めるのだった。

 

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