翌日の授業と授業の間の短い休み時間。
理由は、脳内に表示される文字列である。
『
『
『
『
『
『
『
『
に転職可能。
※お客様のご契約、ご利用状況では、以下の
『
昨日、『
その第五階層で出会う、新たなモンスター――『
つまり『
それは良い。『
しかし、いつもは「に転職可能」で終わる文字表記より下に表示された、※より下二行は、予想外で想定外だった。
(いや、お客様のご契約、ご利用状況では、以下の職は選択できません。ってなんだ? 選択できないなら、何で表示される? 契約内容って、俺とあの上位存在の契約ってことだよな?)
あまりに予想外だったため、もっとじっくり考えたいと思い、昨晩はあえてどの職も選ばずに、『
幸い、一日ぶりに
(『
一応、なぜその可能性が生まれたのか、心当たりはあるにはある。
前者は多少は自信をもって、後者はいくら何でも安直すぎる気がするが。
健太は、半ば趣味として『
日常は忙しいので、実験時間はダンジョンダイブ中に『
以前のように、拾ったゴブリン装備に魔法文字を刻むのは、少々効率が悪いため、最近は適当にドロップしたゴブリン装備から、『
そのようにして続けた実験の成果のいくつかが、インド神話でいう『
もう一つの『
石猿。それは石から生まれた猿、すなわち西遊記の主人公、孫悟空のことだろう。道教、仏教における武神なのだから、それに関する
健太の心当たりとは、言うまでもない。あの伸縮自在な大剣である。
(まさかあの伸縮自在な大剣が、『如意棒』? いや、『如意棒』は棒で、俺の大剣は剣だぞ?)
そもそも、GR職に導くような特殊装備は、『
そのようにして自席に腰を下ろしたまま、思考の海に沈んでいた健太だったが、近くの席から聞こえて来る女子の声に、思考を一時中断する。
「ねえ、健くん。駄目かな?」
それは、叶馬パーティーの後衛火力担当、
「ええと、ゴメン。何の話?」
首を傾げる健太に、麻衣の後ろの席に座っている静香が苦笑しながら、麻衣を注意する。
「それでは、分かりませんよ。健太さんには、まだ何も言っていないのですから」
思考に没頭して、声をかけられたことを聞き逃したのかと思ったが、そうではなかったらしい。
「えー、でも私と静香の話聞いてたら、分かるでしょ? 聞いてなかったの?」
だが、麻衣は可愛らしく口をとがらせて、かなりズレた持論をぶちまける。
「いくら知り合いでも、近くで聞こえる声で話してても、あえて聞こうとはしないよ」
健太も苦笑しながら、そう返した。
つまり、麻衣は今静香と二人でしていた会話を、近くの席に座っていた健太が盗み聞きしていたという前提で、「駄目かな?」と聞いてきたのだ。中々失礼な話である。
麻衣自身は、「聞こえる音量で話していたのだから、誰に聞かれても構わない話」だと認識しているのかもしれないが、自分が加わっていない会話、それも異性の会話に耳をそばだてるというのは、間違っても行儀のよいことではない。
とはいえそんな行儀や礼儀など、この学園で一々守る程の事かと言われれば、返事に窮するところでもある。
「それで、何の話? 俺になにか、やって欲しいことがあるの?」
事実、考え事をしていて全く聞いていなかった健太は、改めてそう問う。
教室内で話していたのだから、そう大した話ではないだろう、と安易に考えた健太だったが、それはまだこの学園に染まっていない証拠だった。
すっかりこの学園に染まっている麻衣は声こそ小さいが、いつも通りのあっけらかんとした口調で、
「うん。
「だ、駄目に決まってるでしょ!?」
辛うじて、最後の理性で大声を張り上げることは控えた健太だが、その表情も声色も、「動揺」という言葉のお手本のような挙動である。
そんな健太の反応に静香は苦笑し、麻衣はケラケラ笑う。
「えー、でも健くんだって
「人聞きが悪い。
正式パートナーは麻衣一人の誠一と違い、つい先日
だが、その反論を聞いた麻衣は、全く変わらぬ明るい口調のまま、
「じゃあやっぱし、おチ〇ポ奴隷じゃん」
と言い切った。
健太は思わず真顔になる。健太は、キョロキョロとして誠一が戻ってきていないことを確認した後、小声で忠告する。
「ねえ、麻衣さん。そういうこと、誠一にはあまり言うなよ。麻衣さんにそんなこと言われたら、あいつ陰で落ち込むから」
軽薄そうな一見とは裏腹に、実は情に厚い誠一は、そんな自分を自覚している。
誠一がこの学園に入学したのは、「現代医学では延命以上の手が打てない難病にかかっている妹を救う手段を手に入れるため」だ。誠一はそのためなら、何でもするつもりである。
だから、情に流されやすい自分が、いざという時切り捨てられない人間を増やすのは拙い。
そんな考えから、誠一は極力パートナーを増やさないようにしている。そんな誠一がこの学園で唯一懐に入れてしまった女子が、麻衣だ。
麻衣自身、誠一に愛されている自覚はある程度あるだろうが、原作を知っている健太からすると、その自覚は全く足りていない。毎晩のセックスで、ついイジメっぽいプレイをする誠一に、悪い点がないとは言えない。
「ん、分かった」
真顔の健太の忠告は麻衣にとって言われて嬉しいことだったため、受け入れやすい。
「んで、話を戻すけど、その話は絶対に駄目。『
健太のその言葉は、叶馬のパートナーである静香に「十二人、叶馬のパートナーを増やせ」と告げるものだ。
しかし良くも悪くも普通の男女の関係を超越している静香は、叶馬のパートナーを増やすこと自体には、そこまで忌避感はない。現状でも、
このフリーセックスと乱交が当たり前の学園で、そこを気にしていたら身も心も持たない。
だが、それはそれとして、静香はそれならばともう一つの可能性を提示する。
「では、全員纏めて、健太さんのパートナーでは駄目なのですか?」
「俺? 俺は無理。んなの可能なの叶馬ぐらいだって」
予想外の提案に、健太は降参するように両手を上げる。
「えー、健くんならできそう。ていうか、出来ると思う」
「はい。私も、出来るかできないかなら、健太さんは出来ると思います」
麻衣と静香の言葉に、健太はもういっぱいいっぱいだ。
なぜ、自分は昼休みに友人がいない間に、その友人の恋人二人と、女十二人の押し付け合いをしているか?
そんな疑問に支配される頭の片隅をフル回転させて、健太は精一杯反論する。
「無理、無理だって。叶馬と俺じゃ『空中騎〇団』と『天空〇士団』くらい違うから」
字面は似ていても、中身は全くの別物なのである。
健太のオタク臭い例えは分からなかったようだが、健太の拒絶の意思が崩せないことは、静香にも察せられた。
「分かりました。では、やはり当初の予定通りに進めるしかないようですね。ありがとうございます、健太さん。参考になりました」
「どういたしまして」
無事、話を終えた健太は安どの表情を隠さず、大きく息を吐いたのだった。
短い休み時間が終われば、次の授業が始まる。
そこは、普通の学校と変わらない。ただし、座学の内容も半分くらいはダンジョンに関する知識に関する授業のため、内容はかなり違う。
特に今日のこの時間は、
「それでは皆さん、付いてきてください。他の教室は授業中ですから、廊下は静かにお願いします」
一年
この時間は、ダンジョンダイブには欠かせない施設である『
『
レベルアップはダンジョンでモンスターを倒すだけでも可能だが、
そして、本来
自分で好きな
一年
廊下を歩いている間に、自然と仲の良い同士が近づき合い、グループを形成している。
健太は、当然叶馬達の近くだ。しかし、よく見ると叶馬と静香、誠一と麻衣がベッタリくっつき、カップル二つを作っているのに対し、健太はもう少し離れたところを歩いている。
近くではあるが、四人同士ほど距離は近くない。その距離感が、今の健太と叶馬達の距離をそのまま表している。
「ふわああ、ねみい」
「もう、だらしないなあ、誠一は。昨日は寝てないの?」
「それは、お前が一番よく知ってるだろ」
誠一と麻衣が、叶馬の言う「バカップルの会話」を交わしている。
本人たちが気づいているかは分からないが、誠一と麻衣はこの学園ではこれより上を望むのは酷、というくらいに上手くいっているカップルだ。
一年もそろそろ入学して一カ月。この時点で、入学以降の経験人数が一人の女子というのは、ひょっとすると麻衣と静香だけかもしれない。
そう考えると初日に、叶馬と誠一に声をかけた麻衣と静香の『賭け』は大成功だったと言える。
ちなみに、叶馬と静香の場合は、単なる「カップル」と呼ぶのは違和感がある。そもそも、叶馬は静香が唯一のパートナーではないし、なによりこの二人の関係性を表すのに「カップル」という言葉は軽すぎる。
中庭の草むらや木陰から、男女の手足や、荒い息遣い、嬌声が聞こえてくるのは、授業をサボって青姦に勤しんでる男女がポツポツいるからだろう。
そんな学園を象徴するようなBGMを聞きながら、一年
『
だが不思議な、もっとはっきり言えば不気味な存在感があり、決して見落とすことは無さそうだ。
「こちらが『
そう言って、翠は『
何事に対しても真面目で誠実に取り組む
その説明を聞き流しながら、誠一が仲間内だけに聞こえる声で囁く。
「こいつとダンジョンの入り口だけは、最初からあったらしいぜ。
誠一の言う「こいつ」とは、『
その奇岩群が広がる半地下の床一面には、細かな石がモザイクアートのように埋め込まれている。色とりどりの石がいくつもの円や幾何学模様を描き出している。
その中でも目立つのが、十本の石柱だ。十本の石柱にはがっちりとしめ縄が結ばれている。
床のモザイクアートと石柱のしめ縄がなんともアンバランスで、洋の東西の神秘性をごちゃ混ぜにしている不思議な不安感に襲われる。
『
一年丙組の何人かが、入り口から入って中を覗き込んでいる間、健太は叶馬達と一緒に一番後ろで、その様子を見ていた。
すると、入り口から一番手前の奇岩――通称『
それを見た
「どうやら今入っている中に、
そう告げる。
言われた者達の中には、何人か心当たりがある者がいるらしく、「俺だ」「いや、俺だ」「俺じゃねえな。俺はもう
そんな中、
なお、第一段階職から第二段階職に
ただし、九割以上の確率で、一度なった第一段階職と同じ職についてしまうらしいが。
健太の新パートナーである
「この施設を使えば、俺も
ボソリと漏らした叶馬の言葉は、いつも通り抑揚のないものだったが、本気であることは健太たちには分かる。
「やめとけ」
「無駄だろ」
「いい加減諦めたら?」
健太、誠一、麻衣が叶馬を静止していると、男子生徒の一人が手を上げて
「
「隠し
言われてみれば、確かに祭壇の最奥に古めかしい石造りの両開きの扉がある。扉というより門に近いかもしれない。
いかにも「特別」という雰囲気を漂わせており、その手のゲームや漫画で育った者ならば興味を引かれそうな雰囲気を漂わせている。
そんな生徒の質問に
「いいえ、あれは『
到達した者のいない段階の
「ふーん」
それでも、現状自分たちに関係がないものであることは理解した生徒たちは、入り口前から退散していく。
「うむ」
他の生徒たちが入り口からいなくなったところで、今まで後ろで行儀よく見ていた叶馬が、一歩『
すると、祭壇の奥の方からガタンと重い何かが動く音がした。
「……ねえ、開いてるんだけど。あの扉」
横からのぞき込んた麻衣が、チベットスナギツネ顔でそうツッコミを入れる。
「……目の錯覚だ。あれは『開かずの扉』って言われてるんだからな」
現実を拒絶するように、片手で顔を負った誠一は、何も見ずにあえてそう断言する。そうすることで、現実を書き換えられるのではないかと、儚い願いを込めて。
流石に気の毒になってきた健太は、一歩前に出て叶馬を引きずり出そうとする。
そうしたやり取りを、他の生徒たちは視ていない。叶馬達の方は出来るだけ見ない、聞かない。知らないふりをする。
一年丙組には、そんな不文律が出来ている。それが今回は、幸いした。
「もういいだろ、叶馬。帰るぞ」
「いや、しかし」
だが、
「ほら、叶馬」
仕方がないから叶馬を引き出すのではなく、押し出そう。そう思って健太が『
健太の足元から手前二列までの奇岩群に向って、モザイクアートの光の線が同時に何十と走り出したのだ。同時に、手前から二列までの奇岩群も一斉に光を放つ。
それも、先ほどの丙組の誰かが光らせた時のような淡い単色ではない。
赤、青、白、黒、緑、黄、紫、
「健くん、叶馬くん。ゲラウト」
「はい、すません」
「解せぬ」
麻衣の言葉に、健太はまだ納得していない叶馬を力づくで引っこ抜き、『
とたんに、ガタンという音がして、開かずの扉が閉まる。奇岩群のゲーミングPC状態も終わる。
【現在当システムは、自動選択モードに固定されています。
任意で
自動選択モードを終了するには、管理者権限6以上が必要です】
『