『聖堂』見学からの帰り道、健太は『戦士の不動心』をオンにして歩いていた。
ダンジョン外では頼り過ぎないように心掛けているのだが、流石に今はそんなことを言っていられない。
『戦士の不動心』に頼らなければ、動揺のあまり何を口走るか分かったものではない。そんな精神状態だ。
(ひとまず、『聖堂』の奇岩が色々光ったのは良い。現状俺は、『職業選択の自由』が使用可能なのに保留にしている状態だ。多数の職につける可能性がある状態を示したと思えば、矛盾はない)
叶馬達にちょっとおかしなところを見せてしまったが、不幸中の幸い、見たのは叶馬達だけだった。叶馬達にならば見られても大きな問題はない。
問題はその時脳裏に映った文字列である。
健太は、『脳外記憶領域』に落しておいた文字情報を読み返す。
【現在当システムは、自動選択モードに固定されています。
任意で職を選択するには、管理者権限2以上が必要です。
自動選択モードを終了するには、管理者権限6以上が必要です】
『戦士の不動心』をオンにしている今、改めて読み返しても、最初に読んだ時と違う意味は読み取れない。
今現在、健太に2以上6未満の『管理者権限』があると考えて大きな間違いはないだろう。健太はこれまでに、蘭や来斗を転職させる時、この『聖堂』を通して、任意に職を選んだ経験がある。
問題は、任意で職を選択できる能力があれば管理者権限2となるのか? という点だ。
もしそうだとしたら、『職業選択の自由』のスキルを持つ健太だけでなく、『情報閲覧』のスキルを有する叶馬も、「管理者権限2以上」を持っていることになる。
叶馬の様子からは、健太と同じような文字列が見えていたとは思えなかった。原作でも、そのような描写はなかった。
だから、違うと言い切れるのであれば、苦労はしない。
「確かに変な文字が見えていたが、恐らくはスキルの誤作動だろう。修正パッチの配布を待っているところだ」
ぐらいのことを無表情で言ってきてもおかしくはない。実際原作では、『情報閲覧』に映る情報を普通に「見間違い」や「バグ」として無視することが何度もある。
(まあ、叶馬について予想、予測するのは無駄だな)
『戦士の不動心』がオンになっている健太は、そう冷静に思考を切り替えた。
(しかし、管理者権限は上げることが可能なのか?)
少し考えて健太はこちらも考えてもあまり意味がない、と結論付ける。
そもそも、もし健太が管理者権限を6まで上げることが出来たとして、『聖堂』の自動選択モードをオフするかと聞かれれば、「しない」と答える。
どう考えても、今の学園上層部と学園の価値基準では、自動選択モードをオフにした方が「本人の意思に反する職決定」をさせられる人間は増えるからだ。
自由に選ぶことができるというのは、「自由に選ばせることができる」と言うことでもある。
『身削ぎの儀式』を『禊の儀式』などと言い換えて、自分達の延命のため『仙丹』や『変若水』と引き換えに『三十三人分の命』を捧げさせているのが、今の学園上層部――『長老』だ。
ダンジョン内で気に入ったノービスの一年女子を捕まえて、犯し、墜とし、逆らえなくしてパワーレベリングと再転職を何度も繰り返し、無理矢理『娼婦』に仕立て上げようとする。そんなろくでなし倶楽部が複数存在しているのが、今の学園だ。
自動選択モードより、任意選択モードの方が、学園の倫理観では悲劇を多く生む。健太はそう結論を出した。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『伍』階層、『既知外』領域――
その日の午後。健太は今日もソロでのダンジョンダイブを敢行していた。
そこは第六階層へつながる『界門』のある玄室。
その広い玄室の中央には、毎度の如く『界門守護者』がいた。
それは、この第五階層では、ポピュラーなモンスターである『鎧犀』のユニーク個体だ。
通常の『鎧犀』の鎧は鋼を連想させる鈍色のしているのに対し、この『界門守護者』の鎧部分は金色である。
大きさは通常の『鎧犀』を一回り大きくしたくらいだが、迫力は一回りどころの話ではない。
「ブッ!」
その突撃はもはや野太い金色の閃光だ。早々に、『モンスターカード』や『強化外装骨格』、そして慣れない大剣の使用を諦めた健太は、その大質量の閃光の如き突撃を、左腕に装着した方形盾で受け流す。
「《はああ》! 《せい》!」
同時に、右手に持つ光沢のある木目模様の小剣を振るう。小剣は見事『界門守護者』の体を捉えたが、その金色の鎧には傷一つ付けられない。
もう何度目になるだろう。
この『界門守護者』の攻撃は、とてつもなく速く馬鹿げた威力の突撃オンリーだ。だから、今のところ向こうの攻撃は完封できているのだが、こちらの攻撃もほとんど意味をなしていない。
運よく黄金の鎧以外の場所を攻撃出来れば多少はダメージは入るのだが、大部分の攻撃は黄金の鎧に止められていた。黄金の鎧には未だ毛ほどの傷もつけられていない。
「少し、己惚れていたか。これは今日中に『硬盾士』をコンプリートして、何か火力が上がる職をとるべきだな」
健太はそう反省の言葉を漏らす。
『増強術士』をコンプリートした後、健太が選択したのは『硬盾士』だった。
『界門守護者』の閃光じみた突撃を一歩も引かずに受け流せているのも『硬盾士』のスキル『不動の盾』の効果だ。
そうでなければ、今の健太の技量程度では、受け流しに成功しても質量差から健太が吹き飛ばされている。中型トラックの超高速アタックを食らってもダメージを受けないことと、その場に踏みとどまることができることは、イコールではない。
『増強術士』のスキルを獲得したことで、攻撃力は十分だと思い、次の職として守備力を上げる『硬盾士』を選択したのだが、現状攻撃力不足に陥っていた。
これは『界門守護者』戦なのだから、当然『界門』玄室に入る前に掛けられるだけの『増強術士
』のスキルは使用している。これらのスキルが切れる前に倒せなければ、一次退却するほかない。
粘り続ければ勝てるかもしれないが、『界門守護者』戦だからといって、『天敵者』が見逃してくれる保証はないのだ。
「試してみるか。《水よ在れ》」
そう呟くと健太は右手に持つ小剣の刀身を起点に、『水術士』のスキルである『水生産』を使用する。
次の瞬間、健太の小剣――『金狼木霊剣』はその刀身に大量の水を貯えた。
『金狼木霊剣』は『陰陽五行』の『金』と『木』の二重属性の武器だ。
『水術士』は『四元素』由来の職なので、そのスキルで生じる水は当然『四元素』の『水』だが、『陰陽五行』と『四元素』の間でも干渉は起こる。
『陰陽五行』の五属性『火』『水』『土』『金』『木』と、『四元素』の四属性『火』『水』『風』『土』。
特に、二系統で共通する『火』『水』『土』の三元素は、多くの場合は代替えが利く。
『陰陽五行』の五属性には『相生』という関係性がある。主に、相手を強化する関係性だ。
『金』の生む『相生』は『金生水』。金属の表面が結露して水を産む現象を指しており、『陰陽五行』では、『金』が『水』を産む。
今、健太が行った現象がそれだ。
小剣『金狼木霊剣』の二重属性のうちの一つ、『金』を起点とし、『金生水』の五行相生を起こすことにより『水生産』の効果を大きく高めたのだ。
健太がそうしている間に、金色の『鎧犀』は、再度健太に向って突撃を敢行する。
「ゴウ!」
「《はあ》!《せい》!」
閃光の如き『界門守護者』の突撃を、健太は今度は『不動の盾』で受け流した後、『盾撃』で叩きのめす。
中型トラックほどもある巨大な犀を盾で殴って押し戻すというのは見た目のインパクトは絶大だが、残念ながら与えたダメージは雀の涙だろう。
だが、それでよい。健太が右手の『金狼木霊剣』を使わずに、攻防共に左腕の方形盾を用いたのは、ダメージを与えるためではない。『金狼木霊剣』を今しばらく振らないためだ
その成果はすぐに出た。
『金狼木霊剣』の金属光沢のある木目の刀身にゼリーのように張り付いていた多量の水が、その刀身に吸い込まれていく。
『陰陽五行』『五行相生』『水生木』。水は木を育む。
『金狼木霊剣』が有するもう一つ属性、『木』が爆発的に増加した。
すかさず健太は、次のスキルを使う。
「《火よ在れ》」
『金狼木霊剣』の刀身を起点に、今度は『火術士』のスキル『発火』を発動させる。
『陰陽五行』『五行相生』『木生火』。木は燃えて火を生む。
『金狼木霊剣』の短い刀身から、数メートルにも及ぶ長大な火柱が立ち上る。
「はあ!」
すかさず、健太はその火炎『金狼木霊剣』を『界門守護者』に振り下ろす。
その結果はすぐに出た。
火炎が収まった向こうに、健在な『界門守護者』の姿が見える。
「……グウウ!」
健太が見たところ、今の一撃は全くダメージを与えていない。
「これはちょっと予想外だな」
『戦士の不動心』がオンになっている健太は、冷静にそう呟く。
『陰陽五行』には、『相生』とは別に『相剋』という関係がある。
『相生』が生む、高める関係だとすれば、『相剋』は断つ、弱める関係だ。
『陰陽五行』『五行相剋』『火剋金』。火は金属を溶かす。
『金』属性の弱点が『火』というのは、少し意外に思う者もいるかもしれない。しかし、『陰陽五行』ではそれが事実だ。
健太が今放った火炎撃は、起点こそ『発火』という『四元素』の『火』だったが、それを爆発に高めたのは『木生火』という『陰陽五行』の法則だ。
だから、今の火炎撃の大半は『陰陽五行』属性の『火』だったはず。
それなのに『火剋金』が一切起こらず、『界門守護者』の金色の鎧は溶解する気配もない。
「まさか『金侮火』? この火力で?」
『陰陽五行』五属性の関係は、『相生』と『相剋』が有名だが、他にも『比和』『相侮』『相乗』といった関係もある。
今健太が呟いた『金侮火』は、その『五行相侮』の一つだ。
簡単に言えば『相侮』とは『相剋』の逆転現象である。
本来、弱点となるはずの属性を、強すぎる属性の力で受け付けない、弱点属性を『侮る』現象である。
今回で言えば、『界門守護者』の鎧は『金』のため、健太のはなった火炎撃――『火』は弱点、特効攻撃のはずなのだが、あまりに鎧の『金』属性が強すぎて受け付けないということになる。
今の一撃を、健太はかなりの強火力だったととらえている。今の火力でだめならば、鎧部分ごとブチ破るのは非現実的と考えた方が良い。見た目は金色の金属だが、『金』属性ではない可能性もある。
となれば狙いはやはり、関節等からわずかに見える鎧を纏っていない部分か。
そう考えたところで、『戦士の不動心』がオンになっている健太は、すぐに異常に気が付いた。
「シャッ!」
「《はあ》!《せい》!」
愚直に『突撃』を繰り返す『界門守護者』を『不動の盾』で受け流し、『斬撃』で攻撃を加えた健太は、その攻撃跡を観察して確信した。
「やはり、怪我が回復している。自動回復能力があるのか? いや、違うな」
頑丈な鎧と高い自動回復能力と言えば、以前叶馬パーティーと一緒に倒した『界門守護者』のゴブリンロードを連想するが、すぐにそれとは違うことに気づく。
あのゴブリンロードは、見落とすことがないくらいあからさまに怪我が回復していた。
だが、この黄金の『鎧犀』は今の今まで、怪我の回復に気が付かなかった。黄金の鎧部分はともかく、そこ以外には多少の傷はつけていたのだ。それが戦闘中に回復していた様子はなかった。
「怪我が回復したのは、炎の一撃の後か? そういうことか?」
「フグウ!」
健太は、次の突撃を敢行する黄金『鎧犀』の巨体を盾と身のこなしで受け流しながら、再び『金狼木霊剣』刀身を起点に『水生産』のスキルを使う。
金属光沢を帯びた木目調の刀身が再び、水に包まれる。しばらくすると、その水が全て刀身に吸い込まれる。ここまでは先ほどと同じ。異なるのはこの先。
先ほどはここに『発火』のスキルで火をつけて、高まった『木』属性を『火』属性を高める燃料とした。今度は、増幅した木属性をそのまま具現化する。
『《はああ》!』
『金狼木霊剣』は一瞬にしてその刀身が伸びた。本来は五十センチに満たない『金狼木霊剣』の刀身が今だけは五メートルを超えるところまで伸びている。
だが、よく見れば元の刀身と伸びた刀身では質感が違うことが分かる。
元の刀身は金属光沢のある木目模様だが、伸びた部分はただの木目模様だ。純粋な『木』属性だ。
伸びるのは刀身だけで柄は伸びないので、長大な片手剣という非常にバランスの悪い形になる。武器としては欠陥武器の部類に入るだろう。
だが、そのそのバランスの悪さを健太は職をいくつも重ねたことで伸びた高い身体能力と、事前かけておいた『増強術士』のスキルの恩恵で問題なく操る。
「《しっ》!《せい》!《はっ》!」
健太は連続して三つのスキルを使用する。
『盗賊』の『俊足』で瞬間的な移動速度を底上げして速く高く跳躍、はるか上空で『盗賊』の『空歩』で空中を蹴り急速落下、落ちながら『騎士』の『突撃』で黄金『鎧犀』の首と胴体の継ぎ目にある僅かな鎧の隙間に、長く伸びた『金狼木霊剣』を突き通す。
効果は劇的だった。長大な『金狼木霊剣』がほとんど手ごたえもなく、黄金『鎧犀』の首元を真っすぐ貫いた。
「ピギイ!?」
悲鳴を上げて暴れようとする黄金『鎧犀』の背中に跨り、健太はしっかりと『金狼木霊剣』の柄を掴みなおす。
五メートルを超える『金狼木霊剣』の刀身は黄金『鎧犀』の首元を上から下まで貫き、しっかりと床にも突き刺さり、縫い留めている。
あとは我慢比べだ。それも、こちらはただ、背中の上で剣を手放さないように耐えればよいだけ。向こうはこの状態が続くだけで命がすり減っていくという、時間制限がある。一方的に有利な我慢比べ。
ほどなくして、健太は無事、黄金『鎧犀』――正式名称『複製黄金鎧犀』に勝利した。
「本体は『土』属性だったんだな。道理で『火』属性攻撃で回復してしまったわけだ」
戦闘を終えた健太は、残された大きなクリスタルと、ドロップ品である金色の鎧の一部を拾い上げながら、そんな感想を漏らす。
『陰陽五行』『五行相生』『火剋土』。火が燃えた後には灰が残り、土を富ませる。
基本、『土』属性は『火』属性で強化されるのだ。
火炎攻撃で逆に回復されてしまったことで、健太は黄金『鎧犀』の本体は『土』属性なのではないか、と思い至った。
だから『木』属性を強化した『金狼木霊剣』で攻撃したところ、ドンピシャリで当たっていたのである。
『陰陽五行』『五行相剋』『木剋土』。木は地中に根を張り、土を締め付け、養分を吸い上げ瘦せ衰えさせる。
かなり手ごわい敵だったが、相手の性質に思い至ることができ、たまたまその弱点を突くことが可能な装備があったおかげで、事なきを得た。
「相性は怖いな。地力を上げるのも重要だが、手札を増やすのも怠るべきではないな」
複数の職を重ねられる健太は、手札を増やすという方向では学園の誰よりも恵まれていると言える。問題は、多種多様な手札があったところで、それを状況に応じて的確に切る戦闘センスが健太にはない、という点だ。
「センスのなさは、経験を積むことで補うしかないか」
経験を積むというのは、本来この世界で最も平等で最も貴重なリソース――時間を費やす行為なのだが、幸い健太には『周回レベル上げ』がある。
そうと決まれば、後は実行するのみだ。
「いくか」
クリスタルと黄金の鎧片をバックパックに収納し終えた健太は、第六階層に続く『界門』を潜った。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『陸』階層、『既知外』領域――
第六階層は、第五階層と大きな違いはない。
石造りの玄室と通路からなる迷宮型のダンジョンで、出没するモンスターも第五階層とかなりダブっている。
すっかりおなじみになった『鎧犀』はここでもよく出没するし、『雪狼』の群れも頻度は少なかったが第五層でも見た。
新たに出没するようになったモンスターとしては、『南瓜頭』が少し厄介だ。こちらは最近では日本でも比較的なじみになったハロウィンの南瓜の姿をしたモンスターで、フワフワと空中を浮遊しているのだ。
この辺りの階層では玄室も通路も天井が高いので、近接攻撃武器しかないとかなり苦労する。
特筆すべき点としては、この第六階層からオークが出没するということだろう。
オークは身長二メートル前後、体重二百キロ前後の豚頭の人型モンスターだ。ノーマル種は一様に出っ張った太鼓腹が目立つ、肥満体型をしている。
オークは牡しかない種族で人間の女を性欲の対象とする。そのため学園女子にとってはゴブリンと並ぶトラウマモンスターだが、狩る対象としては「おいしい」モンスターだとされている。
それは、武装している人型のモンスターであるため、流用な可能な装備をドロップするからだ。
ノーマルのオークでも剣や斧、レア個体のオークナイトならば鎧も落とす。ユニーク個体のオークキング、オークロード等ならば落す装備はほぼ確実にマジックアイテム。もっとも、『既知』領域ではキング、ロード等ユニーク個体は『界門守護者』以外では目撃証言がないらしいが。
もちろんここ『既知外』領域では、そんなことはない。
ただ、オークはここ第六階層から第八下層までに跨って生息している。第六階層でのオークの出没率はかなり低い。出て来るのほとんどがノーマルオークばかりだ。
「オークでおいしい思いがしたければ、もう一つ二つ階層を下げるべきだな」
たった今、五匹のノーマルオークの群れを葬り去った健太は、一本だけドロップした長柄斧を手で弄びながら、そう呟いた。
「よくやったぞ、エロール」
「ホホウ」
健太の誉め言葉に、召喚モンスターである『赤梟頭熊』のエロールが鳴き声で答える。
今回はエロールに戦闘を任せてみたのだが、少なくとも見掛け倒しではなかった。
ノーマルオークは身長二メートル、体重二百キロの巨体だが、エロールは全長十メートル、推定体重十数トンの巨獣である。
エロールと相対したオーク五匹の絶望顔に、健太はオークの知能と情緒が意外と高いことを知り、少し感心した。
オークたちは一応武器を構えたのだが、エロールが突進しただけで五匹まとめて蹴散らからされた。
後に残ったのは、五つのクリスタルと今健太が手に持っている長柄斧だけである。
その長柄斧は悪い物ではないが、マジックアイテムはない。ならば、無理をして持っていくほどのものでもないだろう。
「いい加減、マジックバッグの類が欲しくなるな。叶馬の『空間収納』とまで贅沢は言わんが」
職を重ねられる健太にとって大概の問題はソロで解決できるが、ドロップ品の持ち帰りだけは厳選する必要がある。
『モンスターカード』のような小さなものならば良いのだが、武器防具の類は大きくてかさばるし、一度に大量に持ち帰ると目立つ。自重が必要だ。
幸い、今日は『モンスターカード』が複数枚ドロップした。蘭の戦力を強化してやれそうだ。
「ご苦労だった、エロール。《戻れ》』
「ホウ!」
主の言葉を受けて、エロールはカードへと戻る。
「さて、ここからは俺のレベル上げだな。《時間軸逆走、五十分》」
その後健太は予定通り『硬盾士』がカンストするまで、『周回レベル上げ』を使用するのだった。
流石に『既知外』領域第六層だけあり、第三層で『騎士』をレベル30にしたときより遥かに少ない周回で、その時はきた。
ついでに一つ「寄り道」もしたのだが、健太の体感では『騎士』の時の半分以下で済んだ気がする。
「さて、どうするか」
健太は脳裏に映る文字を睨み、考える。
『義賊R』
『闘士』『大剣士R』『槍騎士R』『侍』『大身槍士SR』『盾騎士R』『術騎士SR』
『強盗』『山賊頭R』
『魔術士』『文字魔術士SR』『呪詛師R』『方士R』『浄魔士SR』『精霊使い』『火精霊使いR』『土精霊使いR』『風精霊使いR』『水精霊使いR』
『司祭SR』『神官戦士SR』
『鍛冶士』『彫金士』『素材製造士SR』
『書記』『案内人』『使役者SR』
『引き籠り』『一人上手SR』『独りよがりSR』
に転職可能。
※お客様のご契約、ご利用状況では、以下の職は選択できません。
『聖賢見習いGR』『石猿見習いGR』
『硬盾士』をレベル30にし、ついでに唯一獲得していなかった第一段階職の『山賊』もレベル20にした結果、少々予想外の職が表示されるようになったのである。
『硬盾士』をレベル30にした時点で追加されたのは、『方士』だけだった。
これは、さほど驚くことではない。『方士』は中国系の『術士』第二段階職。主に『陰陽五行』にもとづくスキルを使うので、先ほどの黄金『鎧犀』戦で『五行相生』『五行相克』を利用した戦法を多用したことが原因だとすぐ気が付く。
日本由来の『陰陽師』も『陰陽五行』を用いるので、出るとすればこちらではないかと思っていたので、そういう意味では多少は予想外だったかもしれない。
ちなみに『羅生門』ダンジョンと同様の施設は世界各地にあるのだが、中国では『方士』はレアでも何でもないノーマル職だ。
日本ではノーマル職の『侍』が、海外ではレア職になるのと同じ現象だろう。
完全に予想外だったのは、物のついでのように『山賊』をレベル20にした結果生じた職である。
もちろん『山賊頭』のことではない。第一段階職の『山賊』をマックスにすればその正当進化系第二段階職である『山賊頭』が出るのは、流石に予想できる。
予想外だったのは、『盗賊』系の第一段階職が一つ生えてきたことだ。
第一段階職を全て獲得しようとしたのだが、予想外の形で失敗に終わったとも言える。
とはいえ今はこれ以上寄り道するよりも、「火力を上げる」という目的に進むべきだろう。
「ふむ」
健太は予定通り、『精霊使い』を選択した。