「ワンワン!」「ガウ!」「ヒュウウ!」「グウウ!」「ウオオオン!」
広い玄室に陣取る大量の『雪狼』。素早い身のこなしと、冷気のブレスを武器とする『雪狼』は、狼らしい統率された動きで縄張りに入ってきた侵入者を迎え撃つ。
対する侵入者――健太は、素早く退路を断ち、周囲を取り囲もうとする『雪狼』に対し、その場を一歩も動かずにスキルを発動させる。
「《炎よ、囲め》」
その言霊に従い、健太を取り囲むように炎が円柱状に立ち上る。
「キャン!?」「クウン!?」「チィ!」「バウ!」「グルル!」
襲い掛かろうとした何匹かの『雪狼』がその炎に触れしまい悲鳴を上げる。それ以外の『雪狼』も足を止める。中には火炎柱に向ってアイスブレスを放つ『雪狼』もいるが、火力が違いすぎるらしく、火炎柱には何の変化もない。
『雪狼』が攻めあぐねていると、火炎柱の中から健太の声が聞こえてくる。
「《広がれ》」
次の瞬間、部屋全体に広がった火炎柱に撒かれた『雪狼』の群れは、まとめて瘴気へと返った。
「これは、フレンドリーファイヤーに気を付ける必要があるな。慣れるまで、完全ソロの時専門だ」
『雪狼』のクリスタル多数と『モンスターカード』を一枚を拾い終えた健太は、そう今の自分を結論付けた。
今健太が就いている『精霊使い』という職は、その名の通り『四元素』すなわち『火』『水』『風』『土』の精霊を召喚・使役することと、その『四元素』由来の現象の活動・流動・揮発・固定等々を操作することに長けた職である。
そのため、攻撃魔法がほぼ地水火風のいずれかに限られる代わりに、攻撃力は『術士』系の中でもひと際高い。
純粋な攻撃力だけでなく、その操作にも補助があるため、四属性に限れば自在に操ることができるようになる。
ちなみに麻衣は複数の火弾を誘導させて複数の目標を撃破したり、極限まで収束させて火をレーザービームのようにしたりしているが、麻衣のついている職『魔術士』にはそのような補正はない。
あれらは全て、純粋に麻衣本人のセンスによる。
「経験値稼ぎと、新職のスキルの慣熟には丁度良いか」
健太はそう呟いた。
問題があるとすれば『周回レベル上げ』を使い続けると、『精霊使い』もレベル30に達して、次の職に転職することになって鼬ごっこになる可能性だが、その場合はどこか適当なところで見切りをつけるだけだ。
「今日は久しぶりに、色々やってみるか。《時間軸逆走五十分》」
健太は『周回レベル上げ』を使用した。
「大体馴染んできたか」
健太は、刀身部分が陽炎のように揺らいでいる大剣を引き戻すと、そう自己評価を下した。
あれから幾度も「周回レベル上げ』をくり返した健太は、『精霊使い』の主だった三つのスキル――『属性攻撃魔法』、『精霊召喚』、そして『属性付与』を大枠において使いこなせるようになった。
属性攻撃魔法は、今更説明するまでもなるまい。『四元素』たる『火』『風』『水」『土』による攻撃だ。
こちらは、『術士』で使えた四属性の攻撃魔法の威力と柔軟性が増したと思えばほぼ間違いない。
対して精霊召喚は、その四属性の精霊を召喚し使役するスキルだ。健太のSPを分けて召喚する形になるのは、『魔術士』の『砲台』と同じようなイメージだ。
ダンジョンでは精霊型のモンスターも出没するが、それらの『モンスターカード』を使って使役するのはあくまで『文官』の領分である。
『精霊使い』の『精霊召喚は、召喚する際にごっそりSPが消費され、その消費されたSPがそのまま召喚した『精霊』の総SPとなる。
初期のうちは、一体の精霊につぎ込めるSP量の上限が低く、必然的に精霊も弱い。姿も不定形の火の玉やら地面を這いずる小さな土山だ。
これが地下第十六層――通称『妖精都市』に出没する、動物や人の姿形を持つ高位精霊を召喚しようと思えば『精霊使い』ではなく、その上位派生の第三段階職や第四段階職でなければならないだろう。
特に高位とされる人型ならば、まず確実に第四段階職だ。
そして、属性付与は健太の場合、少々問題があった。
「使い勝手が良いとも悪いとも言えるな。切り札にはなるが、普段使いには向かない、か」
健太がそう評したのは、主武器である小剣――『金狼木霊剣』への属性付与である。
『精霊使い』の属性付与は、装備に一時的に四属性のいずれかの属性を付与するスキルである。もちろん、『職人』が『モンスターカード』を消費して行う『合成』と違い、その効果は永続ではない。通常では効果時間は一戦闘中持つかどうかといったところ。長期戦ならば、途中でかけ直す必要がある程度だ。
敵対するモンスターを見てから、弱点となる属性をその場で付与できるのだから、永続化してしまう『職人』の『合成』よりも、使い勝手がよい部分もある。
そんな「使えるスキル」である属性付与だが、健太の『金狼木霊剣』に付与すると剣が持つ『陰陽五行』の二属性、『金』『木』と干渉を起こしてしまうのである。
本日、黄金『鎧犀』を相手に健太がやったやつだ。
『火』を付与すれば、『木』属性と『五行相生』『木生火』を起こし、『火』の属性は爆発的に増加するが、『金狼木霊剣』の『木』属性を消費してしまう。
『土』属性を付与したはずなのに、『金狼木霊剣』の『金』属性が干渉してしまい、『五行相生』『土生金』が発生して『土』属性が全部吸収されて『金』属性を高めるだけの結果に終わってしまう等々。
黄金『鎧犀』戦のように、考えて狙えば極めて有効に働くが、「水属性の敵だ。じゃあ火を付与しよう」という安直な付与はできないというもどかしさもある。
「それと比べれば、大剣は相性がいいな」
健太の言う通り、それに比べると大剣はマジックアイテムではあっても、武器そのものに属性はない。
そのため、火を付与すれば火、水を付与すれば水とそのまま、属性が宿ってくれる。今のところ使った印象では、これまで通り雑魚ちらしは大剣の出番になりそうだ。
ひとまずこれで、『精霊使い』のスキルは一通り使えるようになったと思ってよいだろう。
第一段階の『術士』系の攻撃スキルでは足りなかった攻撃力が追加されたのは大きい。
モンスターには、物理攻撃に強いタイプ、魔法攻撃に強いタイプ、近距離戦に強いタイプ、遠距離に強いタイプ、と多様性がある。
今の健太ならば、大概のモンスターを相手に「打つ手なし」になることはあるまい。
随分長くなったが、ひとまず転職、レベル上げ、職スキル習熟という目的は果たせた。
「《時間軸逆走五十分》」
その結論の元、健太はさらに『周回レベル上げ』を発動させるのだった。
「さて、やるか。ジュゲム、ボンド。見張りは頼んだぞ」
「オウ」
「ガウ!」
時間を巻き戻した健太は、ゴブリン『槍騎士』のジュゲムと、コボルト『強盗』のボンドに見張りを頼み、バックパックから工具一式と多量の金属片を取り出す。
工具一式は購買で購入した『職人』用の装備で、金属片はゴブリン装備の金属部分を健太が『職人』のスキル『加工』で切り出して作った代物だ。
久しぶりの『落書き』による『文字魔術』の研究である。
金属片のうち半数ほどには梵字が彫り込まれ、その溝はハンダで埋められた状態だ。ハンダは溶かす前に『文官』のスキル『落書き』で生み出されるペンのインクを塗装してある。
だから、この金属片に魔力を通せば、それだけで梵字は『文字魔術』としての効果を発揮する。
烏枢沙摩明王の『ウーン』。帝釈天の『イー』。孔雀明王の『マ』。弥勒菩薩の『ユ』。
以前から出来ていたこの四つに加え、今回は新たにもう四つの梵字を完成させている。
一つ目は、水天の『バ』だ。
水天はインド神話の水神ヴァルナが仏教に取り入れられた存在であり、この梵字は水を生むことができる。
健太は、この梵字を完成させるのに一番時間を割いた。他の梵字は趣味、遊びの比率が高いがこの梵字だけは実用性において必要としている。可能な限り『レイドクエスト』までに完成させたかった。
『レイドクエスト』は難易度によっても変わるが、短くても一日、長ければ一か月以上を中で過ごすことになる。だから、日帰り前提のダンジョンダイブと比べると、持っていかなければならない物が爆発的に増える。
食料、着替え、武器の手入れ道具、寝袋など泊まり込みのクエストでは必要となるものが色々あるが、絶対に忘れることが出来なくて、もっとも大量携帯に苦労するのが水であることは比較的簡単に想像がつくだろう。
レベルが上がり、職を得た人間は一種の超人だが、飢え乾きから解放されているわけではない。レイドによっては「内部に水源が一切ない」ということも普通にあり得るのだ。
その対応として学園では、『元素水晶』と呼ばれるクリスタルを販売しており、その中の『水』のクリスタルならば、爪ほどの大きさで10リットルを超える水が補給できるらしい。
上級倶楽部がレイドクエストに挑むときの必須アイテムらしいが、かなりの『銭』を要求される。現状、「念のため」という理由で購入するには少々躊躇われる。
健太は水天の梵字、『バ』に魔力を通した。
すると梵字は淡く光り、その文字から水が湧き出て来る。手に持つ五センチ四方の金属片がまるで捻った水道の蛇口であるかのような、途切れない水流だ。あふれ出る水流が金属片を持つ健太の右手を濡らし、ダンジョンの床に流れていく。
そうすることしばし、
「この程度の時間経過では止まらないか。今のところは止める方法が破損しかないのがちょっと問題か」
そう言いながら、健太は工具のノミを左手で逆手に持ち、右手のひらに持つ金属片に突き立てる。魔力の籠った梵字の一部が掛けたことで、文字魔術として成立しなくなったのだろう。水の流出は止まった。
「現状でも使えることは間違いないが、使い勝手が悪い。改良できるならしたいところだな」
現状、梵字による文字魔術は「完成したら発動、破損したら停止」しかできないのが使いづらいところだ。
『落書き』のインクを混ぜたハンダで文字を書き、後から魔力を通すという形で、発動は簡単化出来たのだが、停止が壊すしか今のところ方法がない。一応、『落書き』で×を書き込んでも停止はするが、これも後から×を消す方法がないという意味では結局「壊している」ことには変わりはない。
続いて健太は、梵天の梵字『ボラ』に魔力を通す。梵字全体が光り輝く。文字魔術として発動している、のだろう。
その効果はさっぱりわからないが。
「発動はしている。だが、相変わらず、効果が分からん。高位の仏神は司るものが壮大過ぎて、理解が難しいな」
そう呟く健太は、ちらりと床の隅の置いてある弥勒菩薩の梵字『ユ』を刻んだ金属片に視線を向ける。
弥勒菩薩の文字魔術は一番最初に発動に成功したのだが、未だに効果が何なのか分かっていない梵字である。梵天の『ボラ』が二つ目だ。
弥勒菩薩が司るのは「五十六億七千万年後の救世」。梵天が司るのは「万物の根源」。どちらも壮大過ぎて健太には「だからなに?」という感想しか出てこない。
ちなみに梵天はインド神話におけるブラフマーらしい。
ブラフマーについて調べると、もっと訳が分からなくなる。正直「なんかよくわからないけどとにかく凄い」以上の印象がもてない。
ひとまず、健太は梵天の梵字『ボラ』にも念のためノミを突き刺し、停止させる。弥勒菩薩同様、梵天もしばらくは研究から外すことに決める。
続いて健太は、残り二つの梵字の金属片二つを、同時に起動させる。
一つは日天の梵字『ア』。もう一つ月天の梵字『シャ』だ。
日天の梵字は強い熱を帯びた光を、月天の梵字は一切熱を発しない冷光を放つ。
太陽と月。司るものをそのまま象徴する現象である。ただし、日天の発する熱は太陽そのものと言えるほどの高熱ではない。近くに手をかざすと温かく、梵字を刻んだ金属片に素手で触れると軽く火傷をする程度の熱だ。
照度はどちらもちょっとした懐中電灯くらいはある。大量に作って天井に張り付ければ、夜間の照明として十分使えそうだ。消灯の時に、一々破損させなければならない使い捨ての照明だが。
そして、これがGR職『聖賢』が追加された、健太の心当たりでもある。
事の起こりは以前、海春と夏海の双子に「食堂の裏メニューに『御神酒』がある」と紹介したことだ。
一応、裏の取れていた噂ではあったが自分で試していないのもどうかと思い、『伊勢』『出雲』『鹿島』の『御神酒』を一本ずつ、合わせて三本購入したのである。
三百mlの小瓶三本で五十万『銭』。今の健太の収入でもちょっと顔が引きつる価格だったが、そのオマケとして金、銀セットの『猪口』が付いてきていた。
丁度、日天月天の梵字の発動に成功したばかりだった健太は、ちょっとしたいたずら心で金の猪口の底に日天、銀の猪口の底に月天の梵字を掘ってみた。
そして、その猪口に日本酒を入れて飲んだところ、日天の金猪口はただの燗酒だったが(熱くて素手では持てず、猪口に触れた唇が火傷した)、月天の銀猪口を飲むと体調が良くなったのである。
その日は、片手剣術と盾術の実技講義が両方あった日のため、結構体に疲労がたまっていたのだが、銀猪口の酒を飲み干すと明確に体のだるさが抜けたのだ。
もちろん、効果があると言ってもそれは、ダンジョン産のポーションとは比べ物にならない。地上に持ち出して効力が十分の一以下に落ちたポーションと比べてもまだ下だろう。
だが、ただ猪口に注いだ酒が魔法的な効果を持ったというインパクトは大きい。健太はその場で両方の猪口を処分した。
日天はインド神話の太陽神スーリヤ、月天はインド神話の月神チャンドラが仏教に取り入れられた姿とされている。
問題は、インド神話における月の神はもう一柱いて、その名をソーマという。
ソーマは元々神々の飲料であるが、その飲料もしくはその飲料の原料となる植物を神格化した存在として、ソーマも神の一柱とされた。
そして、インド神話では月を「神の酒盃」と見ていたことにより、ソーマもまた月の神となった。
チャンドラとソーマは誕生からして完全に別な神だが、月の神がニ柱いるというわけではなく、月の神としての両者は同一神格として表される。
つまり、仏教の月天はインド神話のチャンドラであり、月を司るという意味においてソーマでもある。
ソーマ。『神酒』
学園に伝わるダンジョンからもたらされるポーションの最上級、通称『五大秘薬』の一つ。
一度『新酒』を飲んだ者はあらゆる毒、病が癒え、以後は一切の飲食を断っても餓死、枯死はしなくなる、と言われている。
実際にはダンジョン産の『新酒』は、服用した後も瘴気濃度の低いダンジョン外ではその効果が揮発していくため、飲食不要状態は永続しないらしい。
だが、一度癒えた毒、病は癒えたままだ。不治の病に侵されている者や、その親族ならば何に変えても欲するだろう。
それと比べると、健太が作った銀猪口に注いだ日本酒の回復効果は、あまりに微々たるものだ。本家と比べればエアーズロックと、靴に入り込んだ小石くらいスケールが違う。
だから、当初は『新酒』を連想させる情報を得てもあまり気にしていなかったのだが、とどめとなったのが『職業選択の自由』にGR職『聖賢見習い』が追加されたことだ。
インド神話でソーマを作り出し、それを神々に奉納する一族の開祖。その者は『聖賢』の一人である。ここまで符合すると、あの銀猪口に注いだ酒が超絶劣化『新酒』もどきになっていたのではないか、という疑いは拭えなくなる。
「…………」
健太は持ち込んだ携帯コップにその冷光を放ち続ける金属片を入れて、バックパックから取り出した水筒の水を入れて飲んでみる。
「ただの水だな」
さらに、ふと思いついた健太は、先ほど破損させたのとは別の水天の梵字に魔力を通して起動させ、その水を月天の梵字を入れたコップに注ぎ、しばらくしてから口を付ける。
「やはり、ただの水だな。酒でないと駄目なのか?」
健太がそう呟いたその時だった。
「ケン!」
と見張りに立たせていたコボルト『強盗』のボンドが甲高い警告の声を上げる。
健太はすぐさま実験を中止し、立ち上がると大剣を手に取る。小剣は腰、方形盾は左腕に装着したままのため、それだけで戦闘準備は整う。
「来たか。……速い」
戦闘態勢を取った健太は、『文官』のスキルである『位置』を発動させる。
「位置」は自分を中心とした周囲の地形と、その範囲内の宝箱やモンスターの位置を把握できるスキルである。そのスキルによって健太の脳裏に浮かんだ地図の中で、モンスターを意味する点がかなりの高速でこちらに向かってきている。
モンスターの大半は玄室に留まっているが。通路を放浪するモンスターも少数ながら存在する。だから、通路を移動しているイコール『逸脱個体』と決まるわけではないのだが。この移動速度は明らかに、普通ではない。
「初撃は俺が入れる。ジュゲムとボンドは、フォローに回れ」
「ギイ」
「オン!」
健太の言葉に槍を構えたジュゲムは落ち着いた声で、短剣を構えたボンドは張り切った声で返事を返す。
「《視覚強化》《時間感覚強化》《敏捷強化》《筋力強化》」
残る時間で、健太が『増強術士』のスキルを優先順位の高い順に使っていると、それはやってきた。
「キイイイン!」
と鼓膜にダメージが来るほどに高い鳴き声を上げながら姿を現したのは、透明な狼だった。
『雪狼』の『逸脱個体』で間違いあるまい。
通常の『雪狼』より一回り小さいが、そこ移動速度は『雪狼』の比ではない。『雪狼』のような白くて柔らかそうな毛皮がなく、全体がスリムでつるりとしている。
さながらこれは『氷狼』か。
そんなことを考える健太に、透明な狼はその速度を殺さずに襲い掛かる。
「シャアア!」
その突進速度は、『雪狼』とは比べ物にならない程に速い。そして、あの黄金『鎧犀』とは比べ物にならないほどに遅い。
「《炎よ》」
『精霊使い』のスキルで炎を纏った大剣を、駆け寄る透明な狼に向って振り下ろす。
「キャン!?」
炎を纏った大剣を思い切り叩きつけられた透明な狼は、ガラス細工が砕けるような音を残し、砕け散った。
「これが『周回レベル上げ』の最中でなければ、蘭先輩への良い土産になったのだがな」
健太はボンドが拾ってきた『氷晶狼』と書かれた『モンスターカード』を受け取り、そう呟く。
『周回レベル上げ』は実に有益なスキルだが、このレアドロップが起きた時の失望感だけはどうにもしがたい。今は『戦士の不動心』がオンになっているので何とも思わないが、今夜夢に出てきそうだ。
そんなことを考えていた健太だったが、今は他にもやるべきことがある。
戦闘に移行する際、そのまま放置しておいた『職人』の道具一式と、梵字を刻んだ金属片を視界に収めた健太は、『氷晶狼』を倒したときに、脳裏に浮かぶようになった文字列に意識を向ける。
「これ以上、意地を張るべきではないか」
今の『氷晶狼』を倒した経験値でまた『職業選択の自由』が発動していた健太は、『文字魔術士』を選択した。